(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083921
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】制振システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230609BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230609BHJP
E04H 3/14 20060101ALI20230609BHJP
E04B 7/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
E04H9/02 341A
F16F15/02 C
E04H3/14 C
E04H9/02 351
E04B7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197928
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 朋典
(72)【発明者】
【氏名】車 創太
(72)【発明者】
【氏名】陶山 春菜
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】飯野 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 純平
(72)【発明者】
【氏名】塩出 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】奥出 久人
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀人
(72)【発明者】
【氏名】田垣 欣也
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC33
2E139AC42
2E139AD03
2E139BA12
2E139BA14
2E139BA32
2E139BA48
2E139BB02
2E139BB23
2E139BB26
2E139BB40
2E139BB49
2E139BB53
2E139BC12
2E139BC13
2E139BD33
3J048AA02
3J048AC04
3J048AD07
3J048BE03
3J048BF07
3J048CB22
3J048DA03
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】TMDを合理的に構成しながら屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制する。
【解決手段】TMD1を屋根架構3に備えて屋根架構3の鉛直振動を抑制する制振システムにおいて、TMD1は、屋根架構3に支持されるキャットウォーク5を錘部11とする形態で構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMDを屋根架構に備えて当該屋根架構の鉛直振動を抑制する制振システムであって、
前記TMDは、前記屋根架構に支持されるキャットウォークを錘部とする形態で構成されている制振システム。
【請求項2】
前記TMDは、前記キャットウォークにおける少なくとも質量と剛性のいずれか一方を調整することで、前記キャットウォークの固有振動数が前記屋根架構の固有振動数と同調するように構成されている請求項1に記載の制振システム。
【請求項3】
前記キャットウォークの主フレームには、前記キャットウォークの質量を調整する質量調整手段が備えられている請求項1又は2に記載の制振システム。
【請求項4】
前記屋根架構と前記キャットウォークの前記主フレームとの間に減衰材が備えられている請求項1~3のいずれか一項に記載の制振システム。
【請求項5】
前記キャットウォークは、前記屋根架構から前記キャットウォークに向けて上下揺動自在に跳ね出した支持部材を介して前記屋根架構に上下動自在に支持されており、
前記TMDは、前記支持部材における前記キャットウォークの支持位置よりも揺動支点側の位置を支持することで、前記キャットウォークを前記錘部とする形態で構成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TMD(チューンド・マス・ダンパー)を屋根架構に備えて当該屋根架構の鉛直振動を抑制する制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術としては、屋根などのトラス構造物に、トラス構造物に備えられる照明ユニットを錘部材に利用して構成された制振装置を備えて、トラス構造物の振動を抑制するように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。
又、張弦梁に対するTMD機構として、専用の錘部である慣性質量ダンパーなどを備えて、張弦梁の鉛直振動を抑制するように構成されたものがある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平01-118501号公報
【特許文献1】特許第5316854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載の構成では、屋根などのトラス構造物の振動を抑制する制振装置の錘部に照明ユニットを利用することから、専用の錘部を備える場合に比較して制振装置を合理的に構成することができる。しかしながら、照明ユニットは屋根などのトラス構造物に対して質量が小さいことから、トラス構造物の振動抑制効果が低くなる。又、照明ユニットは、トラス構造物に点在するものであるために、制振装置の錘部に利用すると、トラス構造物に対して部分的に作用するようになることから、トラス構造物の振動を抑制するのに適しているとは言い難いものであり、トラス構造物の振動抑制を効果的に行う上において改善の余地がある。
【0005】
上記の特許文献2に記載の構成では、TMD機構に専用の錘部となる慣性質量ダンパーを備えることから、トラス構造物の振動抑制は効果的に行えるが、TMD機構を合理的に構成する上において改善の余地がある。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、TMDを合理的に構成しながら屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、TMDを屋根架構に備えて当該屋根架構の鉛直振動を抑制する制振システムであって、
前記TMDは、前記屋根架構に支持されるキャットウォークを錘部とする形態で構成されている点にある。
【0008】
本構成によると、屋根架構が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、屋根架構に設置された照明設備や音響設備などの調整や点検などを可能にするために屋根架構に連続的に備えられている質量の比較的大きいキャットウォークが、TMDの錘部として鉛直方向に振動して、屋根架構の鉛直振動を吸収するようになることから、屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
つまり、屋根架構に連続的に備えられている質量の比較的大きいキャットウォークをTMDの錘部とすることで、専用の錘部を設ける必要のない合理的な構成で、屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、前記TMDは、前記キャットウォークにおける少なくとも質量と剛性のいずれか一方を調整することで、前記キャットウォークの固有振動数が前記屋根架構の固有振動数と同調するように構成されている点にある。
【0010】
本構成によると、例えば、予め想定した屋根架構の固有振動数に応じて、キャットウォークに使用する鋼材の種類やサイズを選択して、キャットウォークの質量と剛性のいずれか一方又は双方を調整することにより、キャットウォークの固有振動数を屋根架構の固有振動数に同調させることができる。
これにより、屋根架構が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、キャットウォークがTMDの錘部として、屋根架構の鉛直振動に同調しながら鉛直方向に振動して、屋根架構の鉛直振動をより効果的に吸収するようになることから、屋根架構の鉛直振動をより効果的に抑制することができる。
その結果、屋根架構の鉛直振動をより合理的かつ効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、前記キャットウォークの主フレームには、前記キャットウォークの質量を調整する質量調整手段が備えられている点にある。
【0012】
本構成によると、質量調整手段を使用してキャットウォークの質量を調整することにより、キャットウォークの固有振動数を屋根架構の固有振動数に簡単に精度良く同調させることができる。
これにより、屋根架構が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、キャットウォークがTMDの錘部として、屋根架構の鉛直振動に精度良く同調しながら鉛直方向に振動して、屋根架構の鉛直振動をより効果的に吸収するようになることから、屋根架構の鉛直振動をより効果的に抑制することができる。
その結果、屋根架構の鉛直振動を簡単により効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、前記屋根架構と前記キャットウォークの前記主フレームとの間に減衰材が備えられている点にある。
【0014】
本構成によると、キャットウォークが、TMDの錘部として屋根架構の鉛直振動を効果的に吸収するのに加えて、減衰材が屋根架構の鉛直振動を減衰させることから、屋根架構の鉛直振動をより速やかに抑制することができる。
【0015】
本発明の第5特徴構成は、前記キャットウォークは、前記屋根架構から前記キャットウォークに向けて上下揺動自在に跳ね出した支持部材を介して前記屋根架構に上下動自在に支持されており、
前記TMDは、前記支持部材における前記キャットウォークの支持位置よりも揺動支点側の位置を支持することで、前記キャットウォークを前記錘部とする形態で構成されている点にある。
【0016】
本構成によると、屋根架構が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、キャットウォークがTMDの錘部として、支持部材の上下揺動とともに上下動して、屋根架構の鉛直振動を吸収するようになることから、屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
そして、TMDにおいては、支持部材におけるキャットウォークの支持位置よりも上下移動量が小さい揺動支点側の位置が支持されることから、支持部材における上下移動量の大きいキャットウォークの支持位置を支持する場合に比較して、TMDにおける上下方向の大きさを小さくすることができる。
その結果、屋根架構に備えられるキャットウォークを錘部とするTMDを、屋根架構の限られたスペースに合理的に配置しながら、屋根架構の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態でのTMDを備えた屋根架構などの構成を示す要部の側面図
【
図2】第1実施形態でのTMD及び屋根架構などの構成を示す要部の斜視図
【
図4】第2実施形態でのTMD及び屋根架構などの構成を示す要部の垂直断面図
【
図5】第3実施形態でのTMD及び屋根架構などの構成を示す要部の垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る制振システムの第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1~3に示すように、本発明に係る制振システムは、TMD(チューンド・マス・ダンパー)1を、スタジアムやアリーナ等に設置された大規模な屋根架構3に備えることで、当該屋根架構3の鉛直振動を抑制するように構成されている。
【0020】
図1に示すように、屋根架構3は、片持ち梁形式の鉄骨造で、フィールド(図示せず)を囲むように設置された下部構造体4の上部に備えられたスタンド41などの上方を覆うように備えられている。
尚、屋根架構3は、片持ち梁形式のものに限らず、例えばアーチ形式のものなどであってもよい。
【0021】
図1~3に示すように、屋根架構3には、複数のトラス梁31が大梁として備えられている。各トラス梁31は、左右一対の上弦材31Aと単一の下弦材31Bとを、それらにわたる複数の斜材31Cで連結して構成されている。上弦材31Aと下弦材31Bと斜材31Cのそれぞれには円形鋼管が採用されている。
尚、屋根架構3の大梁には、トラス梁31に限らず、例えばH形鋼などを採用することができる。各トラス梁31としては、単一の上弦材と単一の下弦材とをそれらにわたる複数の斜材で連結して構成されたものであってもよく、又、上弦材31Aと下弦材31Bと斜材31Cのそれぞれに、円形鋼管以外の例えば角形鋼管やH形鋼などが採用されたものであってもよい。
【0022】
図1~3に示すように、屋根架構3には、複数の上弦材31Aにわたってそれらを連結する複数の桁32(
図2~3参照)と、各トラス梁31の一端側を下部構造体4の外周部に備えられた支柱42(
図1参照)に連結する複数の繋ぎ材33(
図1参照)などが備えられている。各桁32にはH形鋼が採用され、各繋ぎ材33には円形鋼管が採用されている。
尚、各桁32には、H形鋼に限らず、例えば溝形鋼などを採用することができる。各繋ぎ材33には、円形鋼管に限らず、例えば角形鋼管やH形鋼などを採用することができる。
【0023】
図1~3に示すように、屋根架構3には、屋根架構3に設置された図外の照明設備や音響設備などの調整や点検などを行う場合に使用されるキャットウォーク5が備えられている。
図2~3に示すように、キャットウォーク5は、隣り合うトラス梁(大梁)31に架け渡される小梁形式に構成されている。詳述すると、キャットウォーク5には、隣り合うトラス梁31の下弦材31Bに架け渡される複数の主フレーム51と、キャットウォーク5の床面に配置される複数の水平ブレース52と、キャットウォーク5の床面を形成するエキスパンドメタル(図示せず)、などが備えられている。各主フレーム51は、トラス梁31の下弦材31Bに両端部がピン接合される一対の主部材51Aと、一対の主部材51Aにわたってそれらを連結する複数の連結部材51Bとから梯子状に形成されている。
【0024】
図1~3に示すように、TMD1は、屋根架構3に支持されるキャットウォーク5を錘部11とする形態で構成されている。キャットウォーク5は、前述したように、梯子状の主フレーム51における一対の主部材51Aの両端部がトラス梁31の下弦材31Bにピン接合されることで、TMD1の錘部11として、屋根架構3に対して鉛直方向に振動し易い状態で備えられている。
【0025】
TMD1は、キャットウォーク5における少なくとも質量と剛性のいずれか一方を調整することで、キャットウォーク5の固有振動数が屋根架構3の固有振動数と同調するように構成されている。本第1実施形態で例示するTMD1においては、予め想定した屋根架構3の固有振動数に応じて、キャットウォーク5に使用する鋼材の種類やサイズを選択して、キャットウォーク5の質量と剛性の双方を調整することで、キャットウォーク5の固有振動数が屋根架構3の固有振動数と同調するように構成されている。
尚、この構成に限らず、キャットウォーク5の質量と剛性のいずれか一方を調整することで、キャットウォーク5の固有振動数が屋根架構3の固有振動数と同調するように構成されていてもよい。
又、キャットウォーク5に使用する鋼材としては、主フレーム51の主部材51Aや連結部材51Bには、例えばH形鋼や溝形鋼などを採用することができ、水平ブレース43には、例えば丸棒鋼材やL形鋼などを採用することができる。キャットウォーク5の床面には、エキスパンドメタルに限らず、例えば有孔鋼板などを採用することができる。
【0026】
図2~3に示すように、キャットウォーク5の各主フレーム51には、キャットウォーク5の質量を調整する質量調整手段53が備えられている。質量調整手段53は、各主フレーム51の各主部材51Aにおける延在方向の中央部に備えられており、調整用質量の着脱による精度の高いキャットウォーク5の質量調整を可能にしている。
【0027】
図2~3に示すように、屋根架構3の各トラス梁31とキャットウォーク5における梯子状の各主フレーム51との間には、それぞれ、減衰材として4つのオイルダンパー6が備えられている。4つのオイルダンパー6は、一対の丸棒鋼材7を介して、トラス梁31の各上弦材31Aと主フレーム51の各主部材51Aにおける延在方向の中央部とにわたってV字状に架設されている。
尚、減衰材としては、オイルダンパー6に限らず、例えば粘性ダンパーなどを採用することができる。
【0028】
以上の構成により、屋根架構3が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、屋根架構3に設置された照明設備や音響設備などの調整や点検などを可能にするために屋根架構3に連続的に備えられている質量の比較的大きいキャットウォーク5が、TMD1の錘部11として、屋根架構3の鉛直振動に同調しながら鉛直方向に振動して、屋根架構3の鉛直振動を吸収するようになることから、屋根架構3の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
【0029】
つまり、屋根架構3に連続的に備えられている質量の比較的大きいキャットウォーク5をTMD1の錘部11とすることで、専用の錘部を設ける必要のない合理的な構成で、屋根架構3の鉛直振動を効果的に抑制することができる。
【0030】
又、キャットウォーク5の主フレーム51には、キャットウォーク5の質量を調整する質量調整手段53が備えられていることから、前述したように、予め想定した屋根架構3の固有振動数に応じて、キャットウォーク5に使用する鋼材の種類やサイズを選択して、キャットウォーク5の質量と剛性の双方を調整するだけでは、キャットウォーク5の固有振動数を屋根架構3の固有振動数に精度良く同調させることができなかったとしても、質量調整手段53を使用してキャットウォーク5の質量を調整することにより、キャットウォーク5の固有振動数を屋根架構3の固有振動数に簡単に精度良く同調させることができる。その結果、屋根架構3の鉛直振動を簡単により効果的に抑制することができる。
【0031】
しかも、屋根架構3とキャットウォーク5の主フレーム51との間に減衰材として4つのオイルダンパー6が備えられていることにより、キャットウォーク5が、TMD1の錘部11として屋根架構3の鉛直振動を効果的に吸収するのに加えて、各オイルダンパー6が屋根架構3の鉛直振動を減衰させることから、屋根架構3の鉛直振動をより速やかに抑制することができる。
【0032】
〔第2実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る制振システムの第2実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、この第2実施形態で例示する制振システムは、上記の第1実施形態で例示した制振システムとは、屋根架構におけるキャットウォークの支持構造やTMDの構成が異なることから、以下においては、キャットウォークの支持構造やTMDの構成についてのみ説明する。
【0033】
図4に示すように、キャットウォーク5は、各トラス梁31における一対の上弦材31Aと下弦材31Bとの間を通り、かつ、隣り合う斜材31Cの間を通るように屋根架構3に備えられている。
【0034】
キャットウォーク5は、屋根架構3からキャットウォーク5に向けて上下揺動自在に跳ね出した複数の支持部材8を介して屋根架構3に上下動自在に支持される梃子形式に構成されている。各支持部材8は、屋根架構3の下弦材31Bと桁32とにわたる支持柱34に、桁32と平行に備えられた支点ピン35を介して上下揺動自在に連結されている。各支持部材8の遊端側には、キャットウォーク5における一対の主部材51Aから上方に延びる各鉛直部材55の上端部が連結されている。これにより、各支持部材8は、それらの遊端側にてキャットウォーク5を支持するように構成されている。各支持部材8は、その跳ね出し方向が片持ち梁形式の屋根架構3の延出方向と逆方向に設定されることで、屋根架構3の延出方向と同じ方向に跳ね出す場合に比較して、各支持部材8の遊端側に支持されたキャットウォーク5が配置される各トラス梁31のキャットウォーク配置部での梁成が大きくなり、これにより、屋根架構3におけるキャットウォーク5の配置スペースが広く確保されるようにしている。
【0035】
TMD1は、屋根架構3から上下揺動自在に跳ね出した支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも揺動支点側の位置を支持することで、キャットウォーク5を錘部11とする形態で構成されている。TMD1には、支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも揺動支点側の位置を支持する弾性支持機構12が備えられている。
【0036】
弾性支持機構12には、各トラス梁31における一対の上弦材31Aに架設された上側支持部材15と、支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも揺動支点側の位置に備えられた中間支持部材16と、各トラス梁31の下弦材31Bに備えられた下側支持部材17とが含まれている。中間支持部材16は、支点ピン35と平行に備えられた支持ピン18を介して支持部材8に相対回転自在に備えられている。
【0037】
弾性支持機構12には、キャットウォーク5の上昇時に圧縮されて弾性変形するように予め圧縮された状態で弾性支持部12の上側支持部材15と中間支持部材16との間に備えられた上側弾性体13と、キャットウォーク5の下降時に圧縮されて弾性変形するように予め圧縮された状態で弾性支持部12の中間支持部材16と下側支持部材17との間に備えられた下側弾性体14とが備えられている。そして、上下の弾性体13,14は、互いの弾性でキャットウォーク5が基準位置に復帰するように、支持部材8などを介してキャットウォーク5を支持している。
【0038】
各弾性体13,14は、支持部材8の延在方向に並ぶ一対のコイルスプリング13A,14Aで構成されている。上側弾性体13の各コイルスプリング13Aは、それらの上端部にわたる鋼板を有する上側支持部材15にて、それらの上端部が受け止め支持されている。上側弾性体13の各コイルスプリング13Aは、それらの下端部にわたる鋼板を有する中間支持部材16の上端部にて、それらの下端部が受け止め支持されている。下側弾性体14の各コイルスプリング14Aは、それらの上端部にわたる鋼板を有する中間支持部材16の下端部にて、それらの上端部が受け止め支持されている。下側弾性体14の各コイルスプリング14Aは、それらの下端部にわたる鋼板を有する下側支持部材17にて、それらの下端部が受け止め支持されている。
尚、上下の弾性体13,14としては、一対のコイルスプリング13A,14Aで構成されるものに限らず、単一のコイルスプリング又はゴムブロックなどで構成されるものであってもよい。
【0039】
以上の構成により、屋根架構3が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、キャットウォーク5がTMD1の錘部11として、支持部材8の上下揺動とともに上下動して屋根架構3の鉛直振動を吸収するようになることから、屋根架構3の鉛直振動を抑制することができる。
【0040】
又、各弾性体13,14(各一対のコイルスプリング13A,14A)の弾性率を調整することで、キャットウォーク5の固有振動数を容易に屋根架構3の固有振動数に同調させることができ、これにより、屋根架構3の鉛直振動をより効果的に抑制することができる。
【0041】
そして、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が上昇する場合には、この上昇に伴う支持部材8の上昇で、支持部材8を支持する弾性支持機構12において支持部材8の上方側に配置された上側弾性体13が弾性変形するとともに、支持部材8の下方側に配置された下側弾性体14が、その弾性で支持部材8を下方から受け止め支持する状態を維持する。又、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が下降する場合には、この下降に伴う支持部材8の下降で、弾性支持機構12において支持部材8の下方側に配置された下側弾性体14が弾性変形するとともに、支持部材8の上方側に配置された上側弾性体13が、その弾性で支持部材8を上方から受け止め支持する状態を維持する。
【0042】
つまり、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が上下動する場合には、支持部材8などを介してキャットウォーク5を支持する上側弾性体13と下側弾性体14とが、キャットウォーク5の上下動に応じて、支持部材8を介して背反的に弾性変形するとともに、互いの弾性で、支持部材8などを介してキャットウォーク5を基準位置に復帰させるようになる。
【0043】
その結果、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が上下動する場合には、上側弾性体13と下側弾性体14とが、キャットウォーク5を安定性良く支持するとともに、屋根架構3の鉛直振動に応じたキャットウォーク5の上下動を効率良く減衰させながら、キャットウォーク5を基準位置に復帰させるようになり、これにより、キャットウォーク5の上下動とともに屋根架構3の鉛直振動を減衰させることができ、屋根架構3の鉛直振動を速やかに抑制することができる。
【0044】
その上、TMD1においては、支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも上下移動量が小さい揺動支点側の位置が弾性支持機構12にて支持されることから、支持部材8における上下移動量の大きいキャットウォーク5の支持位置を支持する場合に比較して、TMD1における上下方向の大きさを小さくすることができる。
【0045】
しかも、前述したように、各支持部材8の跳ね出し方向が片持ち梁形式の屋根架構3の延出方向と逆方向に設定されることで、屋根架構3におけるキャットウォーク5の配置スペースを広く確保することができ、又、キャットウォーク5の上下動は、弾性支持機構12の上下の弾性体13,14にて制限されることから、キャットウォーク5を錘部11とするTMD1を屋根架構3の限られたスペースに備えるようにしても、キャットウォーク5がその上下動でトラス梁31などに干渉するのを防止することができる。
【0046】
更に、弾性支持機構12が支持部材8の揺動支点側を支持することで、弾性支持機構12に備えた上下の弾性体13,14に作用する荷重が大きくなっても、上下の弾性体13,14は支持部材8の延在方向に並ぶ一対のコイルスプリング13A,14Aで構成されることで、各弾性体13,14に作用する荷重が一対のコイルスプリング13A,14Aに分散されて、各コイルスプリング13A,14Aが負担する荷重が軽減されることから、支持部材8の揺動支点側を好適に支持することができる。
【0047】
又、キャットウォーク5を支持する各支持部材8や当該支持部材8を支持する各弾性支持機構12などが、各トラス梁31における左右一対の上弦材31Aと単一の下弦材31Bとで形成された逆三角形の内部空間に備えられることから、各支持部材8や各弾性支持機構12などが各トラス梁31の外部に露出する場合に比較して、スタンド41などから屋根架構3を見上げたときの見栄えを良くすることができる。
【0048】
つまり、屋根架構3に備えられるキャットウォーク5を錘部11とするTMD1を、屋根架構3の限られたスペースに合理的に見栄え良く配置しながら、屋根架構3の鉛直振動を効果的かつ速やかに抑制することができる。
【0049】
尚、本第2実施形態においては、弾性支持機構12に備えられた上側の各コイルスプリング13Aの上端部が各トラス梁31の一対の上弦材31Aにわたる上側支持部材15で受け止め支持され、下側の各コイルスプリング14Aの下端部が各トラス梁31の下弦材31Bに備えられた下側支持部材17で受け止め支持されるものを例示したが、これに限らず、例えば、各トラス梁31に、一対の上弦材31Aと下弦材31Bとのそれぞれにわたる逆三角形の支持トラスを備え、この支持トラスの上部に備えた上側スプリング受け部で上側の各コイルスプリング13Aの上端部を受け止め支持し、支持トラスの下部に備えた下側スプリング受け部で下側の各コイルスプリング14Aの下端部を受け止め支持するように構成してもよい。
【0050】
〔第3実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る制振システムの第3実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、この第3実施形態で例示する制振システムは、上記の第2実施形態で例示した制振システムとは、弾性支持機構の構成が異なることから、以下においては、弾性支持機構の構成についてのみ説明する。
【0051】
図5に示すように、TMD1には、支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも揺動支点側の位置を支持する弾性支持機構22が備えられている。
【0052】
弾性支持機構22には、キャットウォーク5の基準位置からの上下動による圧縮力に応じて弾性変形する弾性体23が備えられている。弾性体23は、支持部材8の延在方向に並ぶ一対のコイルスプリング23Aで構成されている。各コイルスプリング23Aは、支持部材8におけるキャットウォーク5の支持位置よりも揺動支点側の位置に備えられたスプリング支持体24に支持されている。
【0053】
スプリング支持体24は、支点ピン35と平行に備えられた支持ピン24Aを介して支持部材8に相対回転自在に備えられた鉛直部材24Bと、鉛直部材24Bに鉛直方向に相対移動自在に備えられた上下のスプリング受け部材24C,24Dと、鉛直部材24Bの上端部に固定されて上側のスプリング受け部材24Cを上限位置で受け止める上部ストッパ24Eと、鉛直部材24Bの下部側に固定されて下側のスプリング受け部材24Dを下限位置で受け止める下部ストッパ24Fとが備えられている。そして、スプリング支持体24は、上側のスプリング受け部材24Cにて各コイルスプリング23Aの上端部を受け止め支持し、下側のスプリング受け部材24Dにて各コイルスプリング23Aの上端部を受け止め支持する。
【0054】
各コイルスプリング23Aの上下両端部は、スプリング支持体24の上下のスプリング受け部材24C,24Dを介して、各トラス梁31におけるキャットウォーク5と支持柱34との間に備えられたスプリング受け体25で受け止められるように構成されている。スプリング受け体25は、各トラス梁31の一対の上弦材31Aにわたって備えられている。スプリング受け体25には、キャットウォーク5が基準位置から上方側で上下動する場合に各コイルスプリング23Aの上端部を受け止める上側スプリング受け部25Aと、キャットウォーク5が基準位置から下方側で上下動する場合に各コイルスプリング23Aの下端部を受け止める下側スプリング受け部25Bとが備えられている。
【0055】
以上の構成により、屋根架構3が鉛直振動すると、この鉛直振動に応じて、キャットウォーク5がTMD1の錘部11として、支持部材8の上下揺動とともに上下動して屋根架構3の鉛直振動を吸収するようになることから、屋根架構3の鉛直振動を抑制することができる。
【0056】
又、弾性体23(一対のコイルスプリング23A)の弾性率を調整することで、キャットウォーク5の固有振動数を容易に屋根架構3の固有振動数に同調させることができ、これにより、屋根架構3の鉛直振動をより効果的に抑制することができる。
【0057】
そして、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が基準位置から上昇する場合には、この上昇に伴って、支持部材8とともにスプリング支持体24の鉛直部材24Bが上昇して、その下部側に固定された下部ストッパ24Fを介して下側のスプリング受け部材24Dを押し上げることで、弾性体23(一対のコイルスプリング23A)が、その上端部が上側のスプリング受け部材24Cを介してスプリング受け体25の上側スプリング受け部25Aに受け止められた状態で弾性変形する。又、屋根架構3の鉛直振動に応じてキャットウォーク5が基準位置から下降する場合には、この下降に伴って、支持部材8とともにスプリング支持体24の鉛直部材24Bが下降して、その上端部に固定された上部ストッパ24Eを介して上側のスプリング受け部材24Cを引き下げることで、弾性体23(一対のコイルスプリング23A)が、その下端部が下側のスプリング受け部材24Dを介してスプリング受け体25の下側スプリング受け部25Bに受け止められた状態で弾性変形する。そして、このように弾性体23(一対のコイルスプリング23A)が弾性変形することで、キャットウォーク5の上下動とともに屋根架構3の鉛直振動が減衰されることから、屋根架構3の鉛直振動を速やかに抑制することができる。
【0058】
つまり、第3実施形態で例示した制振システムにおいては、第2実施形態で例示した制振システムと同様の作用効果が得られる上に、弾性支持機構22に備えた単一の弾性体23が、キャットウォーク5の基準位置から上下両方側での上下動に対応することから、例えば、基準位置から上方側での上下動と下方側での上下動とに個別に対応する上下の弾性体を備える場合に比較して、弾性体23の装備数の削減による弾性支持機構22での構成の簡素化などを図ることができる。
【0059】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0060】
(1)TMD1の錘部11に利用するキャットウォーク5として、上記の第1実施形態においては、隣り合うトラス梁(大梁)31に架け渡される小梁形式に構成されたもの例示し、又、上記の第2実施形態及び第3実施形態においては、支持部材8を介して屋根架構3に上下動自在に支持される梃子形式に構成されたものを例示したが、これらに限らず、例えば、各トラス梁(大梁)31に吊り下げ支持される吊り形式に構成されたものであってもよい。
【0061】
(2)上記の各実施形態においては、制振システムとして、屋根架構3に備えられた一列のキャットウォーク5をTMD1の錘部11とするように構成されたものを例示したが、これらに限らず、例えば、屋根架構3に備えられた二列のキャットウォーク5をTMD1の錘部11とするように構成されたものなどであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 TMD
3 屋根架構
5 キャットウォーク
6 減衰材
8 支持部材
11 錘部
51 主フレーム
53 質量調整手段