(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083928
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】銅張積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230609BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230609BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230609BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230609BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B7/025
H05K1/03 610H
C08J5/18 CES
B29C55/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197939
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 高宏
(72)【発明者】
【氏名】明星 芳樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA22
4F071AA22X
4F071AA86
4F071AF36Y
4F071AF40Y
4F071AH13
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC16
4F100AB17A
4F100AB17E
4F100AK12C
4F100AL09C
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00B
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4F100EJ15A
4F100EJ15E
4F100EJ17
4F100GB43
4F100JA05C
4F100JB16C
4F100JG04A
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4F100JK06
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4F100JK14E
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4F210AH36
4F210QA02
4F210QA08
4F210QC07
4F210QW12
(57)【要約】
【課題】高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な銅張積層板を提供する。
【解決手段】基材フィルム15の片面または両面に接着剤層16を介して銅箔17が積層された銅張積層板であって、前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向されており、周波数10GHzにおいて、比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下であり、前記接着剤層は、周波数10GHzにおいて比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.005以下である、銅張積層板10、11。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面または両面に接着剤層を介して銅箔が積層された銅張積層板であって、
前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向されており、周波数10GHzにおいて、比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下であり、
前記接着剤層は、周波数10GHzにおいて、比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.005以下である、
銅張積層板。
【請求項2】
前記銅箔をパターンエッチングしてマイクロストリップラインを作製し、インピーダンスを50Ωに合わせたときのS21パラメータが40GHzにおいて-5dB/100mm以上、0未満である、
請求項1に記載の銅張積層板。
【請求項3】
前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンからなる、
請求項1または2に記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンおよびスチレン系熱可塑性エラストマーからなる、
請求項1または2に記載の銅張積層板。
【請求項5】
前記基材フィルムのガラス転移温度が180℃以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の銅張積層板。
【請求項6】
前記銅箔の前記接着剤層との界面の最大高さ粗さRzが2.0μm以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル回路基板等を製造するために、合成樹脂フィルムと、その片側または両側に銅箔を接着して積層した銅張積層板が用いられる。電気信号の伝送損失は導体損失と誘電損失からなり、信号の周波数が高いほど誘電損失の比重が大きくなる。近年、電気信号の高周波数化が急速に進展するにしたがって、銅箔の近傍材料による誘電損失の低減が課題となっている。特許文献1~5には、誘電損失の低減を目指した銅張積層板であって、合成樹脂フィルムと接着剤層と銅箔からなる3層または5層の銅張積層板が記載されている。特許文献6には、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムの表面にめっきによる金属層を形成した電子回路基板用積層体が記載されている。また、特許文献7には、高周波信号を効率よく伝送するためのフラットケーブル用基材フィルムとして、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂を含有するフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-038281号公報
【特許文献2】国際公開第2018/030026号
【特許文献3】特開2017-121807号公報
【特許文献4】特許第6539404号公報
【特許文献5】国際公開第2016/017473号
【特許文献6】特開2015-002334号公報
【特許文献7】国際公開第2019/049922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記状況を考慮してなされたものであり、高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な銅張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の銅張積層板は、基材フィルムの片面または両面に接着剤層を介して銅箔が積層された銅張積層板であって、前記基材フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンを主成分とし、二軸配向されており、周波数10GHzにおいて、比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.002以下であり、前記接着剤層は、周波数10GHzにおいて、比誘電率が2.6以下、誘電正接が0.005以下である。
【0006】
この構成により、高周波電気信号の伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造可能な銅張積層板が得られる。
【0007】
上記銅張積層板は、好ましくは、前記銅箔をパターンエッチングしてマイクロストリップラインを作製し、インピーダンスを50Ωに合わせたときのS21パラメータが40GHzにおいて-5dB/100mm以上、0未満である。
【0008】
好ましくは、前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンからなる。これにより、銅張積層板の伝送損失をより低く抑えることができる。
【0009】
あるいは、好ましくは、前記基材フィルムが、実質的にシンジオタクチックポリスチレンおよびスチレン系熱可塑性エラストマーからなる。これにより、銅張積層板のピール強度を高くすることができる。
【0010】
好ましくは、前記基材フィルムのガラス転移温度が180℃以上である。ここで、ガラス転移温度は熱機械分析(TMA)によって測定された値である。これにより、銅張積層板の強度および耐熱性を高くすることができる。
【0011】
好ましくは、前記銅箔の前記接着剤層との界面の最大高さ粗さRzが2.0μm以下である。ここで、最大高さ粗さRzは、JISB0601:2013に規定する最大高さ粗さである。これにより、銅張積層板の伝送損失をさらに低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の銅張積層板によれば、基材としてシンジオタクチックポリスチレンを主成分とする基材フィルムを用いるので、液晶ポリマーやポリイミドを用いる場合と比較して、より低コストで、高周波電気信号に対しても伝送損失の小さいフレキシブル回路基板を製造することができる。また、シンジオタクチックポリスチレンの吸水性が低いことによって、銅張積層板を多湿な環境で使用しても伝送特性が悪化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の銅張積層板の層構成を示す図である。A:5層構造、B:3層構造。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1Aを参照して、本実施形態の銅張積層板10は、基材フィルム15の両面に、接着剤層16を介して銅箔17が積層された5層構造を有する。
図1Bを参照して、本実施形態の他の銅張積層板11は、基材フィルム15の片面に、接着剤層16を介して銅箔17が積層された3層構造を有する。銅張積層板10、11の銅箔17を回路パターンにエッチングすることで、フレキシブル回路基板が製造される。また、銅張積層板10、11を他の樹脂フィルムやガラスクロスなどと複合化して、ビルドアップ基板を製造することもできる。なお、以下においては5層構造の銅張積層板10を引用して各層の特性、材料等を説明するが、その説明は3層構造の銅張積層板11についても妥当する。
【0015】
基材フィルム15は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を主成分とし、二軸配向されている。
【0016】
二軸配向とは、面方向において、高分子が互いに異なる2方向、例えばフィルムの押出方向(MD)およびそれに垂直な方向(TD)で配向していることを意味する。二軸配向は、未延伸の前躯体フィルムを二軸延伸することにより実現できる。
【0017】
SPSは、シンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマーである。シンジオタクチック構造とは、炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基または置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を意味する。SPSの立体規則性の程度(タクティシティ)は同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量することができる。13C-NMR法により測定されるSPS系樹脂のタクティシティは、数個のモノマー単位からなる連鎖、例えば、2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドのうち、構成単位の立体配置が逆のシンジオタクチックであるもの(ラセミダイアッド等)の割合によって示すことができる。本実施形態におけるSPSは、通常、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、もしくはラセミトリアッドで60%以上、好ましくは75%以上、もしくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するスチレン系ポリマーである。なお、基材フィルム15には、異なる2種類以上のSPSを混合して用いてもよい。
【0018】
SPSとしてのスチレン系ポリマーの種類としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体等及びこれらの混合物、又はこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等が挙げられる。ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等が挙げられる。ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等が挙げられる。ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。SPSとしてのスチレン系ポリマーとしては、ポリスチレンが好ましい。
【0019】
SPSの重量平均分子量は、10,000~3,000,000、好ましくは30,000~1,500,000、特に好ましくは50,000~500,000である。
【0020】
一つの好ましい態様として、基材フィルム15は実質的にSPSからなる。「実質的にSPSからなる」とは、銅張積層板10として所要の伝送損失が得られる範囲で、SPS以外の樹脂を含んでいてもよいことをいう。具体的には、基材フィルム15の全樹脂に占めるSPSの割合が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上とする。これにより、銅張積層板の伝送損失をより低く抑えることができる。
【0021】
他の好ましい態様として、基材フィルム15は実質的にSPSおよびスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)からなる。TPSは、熱可塑性エラストマー(TPE)のうち、ハードセグメントがポリスチレンからなるものである。「実質的にSPSおよびTPSからなる」とは、銅張積層板10として所要の伝送損失が得られる範囲で、SPSおよびTPS以外の樹脂を含んでいてもよいことをいう。具体的には、基材フィルム15の全樹脂に占めるSPSの割合とTPSの割合を足し合わせた値が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上とする。これにより、基材フィルム15の誘電特性の悪化を抑えながら、銅張積層板10のピール強度を高めることができる。
【0022】
TPSとしては、種々の市販のものを用いることができる。また、TPSとしては、水素添加されたものを用いることが好ましい。これによりTPSの耐熱性が向上し、また高温で行われる基材フィルム原料の溶融・押出工程において予期せぬ反応が生じることを防止することができる。
【0023】
水素添加TPSとしては、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレン(TPS-SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(TPS-SEP)などの、ソフトセグメントが異なる各種のものを用いることができる。なかでも、TPSの全部または一部に、ソフトセグメントがポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)のランダム共重合体からなるTPS-SEEPSを用いることが特に好ましい。なお、基材フィルム15に含有されるTPSは、異なる2種類以上の樹脂を混合したものであってもよい。
【0024】
TPSの配合量は、SPS(a)とTPS(b)の重量比が(a)/(b)=97/3~51/49とすることが好ましく、さらに、97/3~60/40、97/3~70/30、97/3~80/20とすることがより好ましい。この好ましい配合割合は、TPSの全部または一部として、ソフトセグメントがポリ(エチレン/プロピレン)ブロックまたはポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ランダム共重合ブロックからなるもの、例えばTPS-SEEPSを用いる場合も同じである。TPSの配合量が少なすぎると、銅張積層板10のピール強度向上の効果が小さい。一方、TPSの配合量が多すぎると、基材フィルム15の誘電特性の悪化が無視できなくなる。
【0025】
基材フィルム15は、ポリマー以外に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、無機フィラー、着色剤、結晶核剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0026】
基材フィルム15のガラス転移温度Tgは、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上である。ガラス転移温度Tgが低すぎると、銅張積層板10製造時の加熱工程で品質が低下するおそれがあるし、銅張積層板の強度および耐熱性を十分に高くすることができない。ガラス転移温度Tgが高くても特に問題はないが、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常250℃を超えることはない。なお、本明細書中で、ガラス転移温度Tgは、熱機械分析(TMA)によって測定された温度をいう。ガラス転移温度Tgはいくつかの方法で測定可能であるが、TMAによるものが、実用上の耐熱性の指標として優れている。TMAによるガラス転移温度Tgは、JISK7197:1991の試験法によって得られたTMA曲線から求めることができる。SPSの素材自体はガラス転移温度Tgが低く、耐熱性が低いが、二軸配向させることによってガラス転移温度Tgを高くして、耐熱性を向上させることができる。
【0027】
基材フィルム15の熱膨張率は、MDおよびTDのいずれの方向についても、好ましくは80ppm/℃以下、より好ましくは70ppm/℃以下である。なお、熱膨張率は小さいほど好ましいが、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常10ppm/℃を下回ることはない。また熱膨張率のMDとTDとの差の絶対値は、好ましくは50ppm/℃以下、より好ましくは20ppm/℃以下である。
【0028】
基材フィルム15の厚さは、好ましくは10~110μm、より好ましくは35~80μmである。これにより、銅張積層板の強度と柔軟性をバランスよく両立できる。
【0029】
基材フィルム15の比誘電率Dkは、周波数10GHzにおいて2.6以下、好ましくは2.5以下である。また、基材フィルム15の誘電正接Dfは、周波数10GHzにおいて0.002以下、好ましくは0.001以下である。銅張積層板10の伝送損失には、基材フィルム15、接着剤層16および銅箔17の全ての層が影響するが、基材フィルム15の比誘電率Dkおよび誘電正接Dfが低いことによって、市販の接着剤や銅箔を用いても、高周波電気信号の伝送損失を低く抑えることが可能となる。なお、SPSを主成分とする基材フィルムでは、通常、比誘電率は2.0以上、誘電正接は0.00001以上である。
【0030】
接着剤層16の比誘電率Dkは、周波数10GHzにおいて2.6以下、好ましくは2.5以下である。また、接着剤層の誘電正接Dfは、周波数10GHzにおいて、0.005以下、好ましくは0.003以下である。このような接着剤層は、東亜合成株式会社製AF-700、ニッカン工業株式会社製SAFYなどの市販の接着剤によって形成できる。
【0031】
接着剤層16の成分は、基材フィルム15および銅箔17に対して所要の接着力を有していれば特に限定されず、各種公知の接着剤、例えば、特許文献2、3または5に記載された接着剤を用いることができる。接着剤層は、液状の接着剤を基材フィルム15または銅箔17の表面に塗工して形成してもよいし、フィルム状に成形された接着剤(以下において「接着剤フィルム」という)を用いて形成してもよい。接着剤層は、好ましくは、接着剤フィルムを用いて形成する。
【0032】
接着剤層16の厚さは、好ましくは3~40μm、より好ましくは5~25μmである。接着剤層が薄すぎると、接着性能が十分に得られないことがある。一方、接着剤層が厚すぎると、溶剤が残留しやすく、フレキシブル回路基板の製造工程等で発泡することがある。
【0033】
銅箔17としては、各種市販の銅箔を用いることができる。銅張積層板10の銅箔17と接着剤層16の界面が平滑であるほど、銅張積層板10の伝送損失が低く抑えられる。このことから、銅箔の接着剤層16に合わせる面は平滑であることが好ましく、銅箔の当該表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下とする。ここで、最大高さ粗さRzは、JISB0601:2013に規定する最大高さ粗さである。一方、銅箔の接着剤層に合わせる表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは0.2μm以上である。これにより、接着剤層との十分な接着強度が得られる。銅箔の接着剤層に合わせる面の最大高さ粗さRzは、銅張積層板10において銅箔17の接着剤層16との界面の最大高さ粗さRzとなる。
【0034】
銅箔17の厚さは特に限定されないが、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~40μmである。これらの範囲内の厚さであると、十分な導電性と、フレキシブル回路基板に求められる柔軟性を高い水準で両立できる。
【0035】
次に、本実施形態の銅張積層板10の製造方法を説明する。
【0036】
基材フィルム15の原料となる樹脂組成物を溶融・混練して、前駆体フィルムに成形する。前駆体フィルムの成形は、例えば、押出成形法、カレンダー成形法、キャスティング法によって行うことができ、好ましくは、押出成形法によって行う。
【0037】
成形された未延伸の前駆体フィルムは、例えば、同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式によって、好ましくは同時二軸延伸方式によって二軸配向される。二軸延伸の延伸倍率、延伸温度、延伸速度は、樹脂の熱的特性や所望の熱膨張率、引張破壊呼びひずみに応じて適当な条件を選択することができる。本実施形態では、延伸倍率は、MDおよびTDともに2.0倍~5.0倍とすることが好ましく、2.2倍~4.0倍とすることがより好ましい。MDおよびTDの延伸倍率は近似していることが好ましい。具体的には、MDの延伸倍率とTDの延伸倍率の差が、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.3以下である。
【0038】
二軸延伸されたフィルムに対しては、さらに弛緩熱処理を行うことが好ましい。熱収縮率の絶対値を低減し、耐熱寸法安定性を向上させるためである。弛緩倍率はMDおよびTDともに、好ましくは0.80~1.00倍、より好ましくは0.85~1.00倍、最も好ましくは0.90~0.98倍とする。MDおよびTDの弛緩倍率は近似していることが好ましい。具体的には、MDの弛緩倍率とTDの弛緩倍率の差が、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、最も好ましくは0.02以下である。
【0039】
以上により製造された基材フィルム15に、次に、接着剤層16と銅箔17を積層する。5層構造の銅張積層板10では、基材フィルム15の両面に接着剤層16と銅箔17を積層する。なお、3層構造の銅張積層板11では、基材フィルム15の片面に接着剤層16と銅箔17を積層する。
【0040】
基材フィルム15を構成するSPSは接着性に乏しいため、まず基材フィルムの表面を活性化処理する。活性化処理の方法としては、コロナ放電処理、オゾン酸化処理、UV・オゾン処理、プラズマ放電処理、電子線照射などの方法を用いることができる。
【0041】
接着剤層16を形成するために液状の接着剤を用いる場合は、基材フィルム15の両面に接着剤を塗工し、塗工面に銅箔17を重ね、全体をプレス機等で挟んで、加熱により接着剤を硬化させる。接着剤層16を形成するために接着剤フィルムを用いる場合は、基材フィルム15の両面に接着剤フィルムと銅箔を重ねて、全体をプレス機等で挟んで、加熱により接着剤を硬化させる。これにより、全部の層が一体化されて、銅張積層板10が製造される。
【0042】
本実施形態の製造方法によれば、基材フィルムと銅箔を接着剤によって接着するので、導電層をめっきにより形成するのと比較して、製造が容易である。
【実施例0043】
上記実施形態の銅張積層板および比較例の銅張積層板を作製して、電気信号の伝送損失を評価した。
【0044】
(実施例1)
SPS(出光興産株式会社、ザレック、ガラス転移点95℃、融点247℃)を、T-ダイを先端に取り付けた押出機を用いて、320℃にて溶融押出し、冷却して前駆体フィルム(約500μm)を得た。この前躯体フィルムを110℃で延伸速度500%/分、延伸倍率3.3×3.4(MD×TD)で同時二軸延伸し、その後、230℃で弛緩倍率0.94×0.96(MD×TD)で弛緩熱処理を行い、厚さ50μmの基材フィルム(CN)を作製した。基材フィルム(CN)のガラス転移温度Tgは200℃であった。
基材フィルム(CN)の両面をプラズマ処理した後、片面のセパレートフィルムを剥離した接着剤フィルム(東亜合成株式会社、AF-700、厚さ15μm)を重ねて、真空プレス機を用いて120℃×0.4MPa×30秒で貼り付けた。
次に、接着剤フィルムの反対面のセパレートフィルムを剥離して、銅箔(接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRz=0.85μm、厚さ18μm)を重ねて、真空プレス機を用いて120℃×0.4MPa×30秒で貼り付けた。
さらに、熱プレス機で180℃×3MPa×30分間プレスし、プレス機を開放した後に加熱オーブン内に静置して180℃×30分間加熱して、実施例1の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同じ材料および方法で、ただし、接着剤フィルムとして厚さ5μmのものを用いて、実施例2の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0046】
(実施例3)
SPS(出光興産株式会社製、ザレック、ガラス転移点95℃、融点247℃)80質量%と、TPS-SEEPS(株式会社クラレ、セプトン4055)20質量%を予め混練したフルコンパウンドを、T-ダイを先端に取り付けた押出機を用いて280℃にて溶融押出後、冷却して前駆体フィルムを得た。この前駆体フィルムを110℃で延伸速度約500%/分、延伸倍率3.4×3.4(MD×TD)で同時二軸延伸し、その後、210℃で弛緩倍率0.95×0.95(MD×TD)で弛緩熱処理を行い、厚さ50μmの基材フィルム(CE)を作製した。基材フィルム(CE)のガラス転移温度Tgは200℃であった。
次に、実施例1と同じ材料および方法を用いて、基材フィルム(CE)の両面に接着剤フィルムおよび銅箔を積層して、実施例3の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0047】
(実施例4)
実施例3と同じ材料および方法で、ただし、接着剤フィルムとして厚さ5μmのものを用いて、実施例4の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0048】
(実施例5)
実施例3と同じ材料および方法で、ただし、接着剤フィルムとして厚さ5μmのもの、および、銅箔として接着剤フィルム側表面の最大高さ粗さRzが1.3μmのものを用いて、実施例5の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0049】
(比較例1)
実施例5と同じ材料および方法で、ただし、基材フィルムとして市販の液晶ポリマー(LCP)フィルム(厚さ50μm)を用いて、比較例1の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0050】
(比較例2)
実施例5と同じ材料および方法で、ただし、基材フィルムとして市販のポリイミド(PI)フィルム(厚さ50μm)を用いて、比較例2の銅張積層板(5層構造)を作製した。
【0051】
(比較例3)
実施例1で用いた基材フィルム(CN)を両側から銅箔(基材フィルム側表面の最大高さ粗さRz=0.3μm、厚さ18μm)で挟み、熱プレス機で280℃×2MPa×5分間プレスして、基材フィルム(CN)を軟化させることにより全体を一体化して、比較例3の銅張積層板を作製した。
【0052】
(比較例4)
比較例3と同じ材料および方法で、ただし、銅箔として、基材フィルム側表面の最大高さ粗さRzが2μmのものを用いて、比較例4の銅張積層板を作製した。
【0053】
表1に基材フィルム(CN、CE)および接着剤層の比誘電率Dkおよび誘電正接Dfを示す。基材フィルムの誘電特性は、ASTMD2520に規定された空洞共振法によって測定した。接着剤層の誘電特性はメーカーのカタログ値である。
【0054】
【0055】
表2に各実施例および比較例の層構成を、評価結果とともに示す。表2において、銅箔の最大高さ粗さRzは接着剤層または基材フィルム側の表面の値である。
【0056】
各試料の伝送損失は、銅箔をパターンエッチングして長さ100mmのマイクロストリップラインを作製し、インピーダンスを50Ωに合わせたときのS21パラメータを、ネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社、E8363B)とプローブ(フォームファクター社、ACP40-GSG250)を用いて、40GHzまでの周波数で測定して評価した。S21パラメータのマイナスは伝送損失があることを示し、その絶対値が小さいほど伝送損失が小さいことを示している。
【0057】
ピール試験はJISC5016に準拠して、銅箔を銅箔除去面に対して90°の方向に引きはがす方法で行った。ピール試験結果の記号の意味は次のとおりである。
○:基材フィルムの材料破壊
△:基材フィルムの材料破壊。ただし、「○」よりもピール強度が少し劣る
×:基材フィルム-銅箔の界面破壊
【0058】
【0059】
表2に示したS21パラメータから、実施例1~5の伝送損失は、いずれも比較例と同等またはそれ以下であることが確認できた。
【0060】
ピール試験結果に関して、SPSを主成分とする基材フィルム(以下において「SPS系フィルム」という)を軟化させて銅箔と直接接着した比較例3および4では、試料は界面破壊した。これに対して、SPS系フィルムと銅箔を接着剤層によって接着した実施例1~5では、いずれの試料もSPS系フィルムが材料破壊した。このことから、SPS系フィルムと銅箔を用いて銅張積層板を製造する場合は、SPS系フィルムの表面を活性化処理し、接着剤を用いて銅箔と接着するのが好ましいことが分かった。
【0061】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。