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特開2023-83946複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083946
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20230609BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230609BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/30 E
E04B1/58 505P
E04B1/58 505Q
E04H9/02 331D
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197965
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】舩津 昌史
(72)【発明者】
【氏名】中江 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】浜口 慶生
(72)【発明者】
【氏名】上田 遼
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB12
2E125AB13
2E125AC07
2E125AC15
2E125AC29
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA11
2E139CA21
2E139CC15
(57)【要約】
【課題】撤去される免震部材に代えて下層の柱側に設けられる支持部材と、上層の柱梁架構との間に、下層の柱と上層の柱梁架構の水平方向相対移動を許容する移動許容手段を設けた場合であっても、上層の柱梁架構に生じる捩りモーメントを抑制することが可能な複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造を提供する。
【解決手段】下層柱2上に、撤去可能な免震部材7を介して、上層の柱梁架構1の複数のCFT柱4の下部を埋設したキャピタル2を設けた建物構造であって、下層柱側とキャピタルとの間に設けられ、撤去された免震部材からキャピタル側重量が載せ替えられる支持部材8と、支持部材とキャピタルとの間に設けられ、下層柱とキャピタルの水平方向相対移動を許容する移動許容手段12と、キャピタルに埋設され、下層柱とキャピタルの水平方向相対移動で当該キャピタルに生じる水平軸周りの捩りモーメントに抵抗する捩り補強筋13とを備えた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層柱上に、撤去可能な免震部材を介して、上層の柱梁架構の互いに隣接する複数の柱の下部を埋設したキャピタルを設けた建物構造であって、
上記下層柱側と上記キャピタルとの間に設けられ、撤去された上記免震部材からキャピタル側重量が載せ替えられる支持部材と、
該支持部材と上記キャピタルとの間に設けられ、上記下層柱と該キャピタルの水平方向相対移動を許容する移動許容手段と、
上記キャピタルに埋設され、上記下層柱と該キャピタルの水平方向相対移動で当該キャピタルに生じる水平軸周りの捩りモーメントに抵抗する捩り補強筋とを備えたことを特徴とする複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【請求項2】
前記捩り補強筋は、前記柱下部周りを補強するために、該柱下部の直下及び当該柱下部の周辺領域に配筋されることを特徴とする請求項1に記載の複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【請求項3】
前記捩り補強筋は、隣接する前記柱の配列方向に並設されることを特徴とする請求項1または2に記載の複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【請求項4】
前記捩り補強筋は、前記柱下部よりも下方から柱下部に沿って上方に向けた上向きコ字状の形態であることを特徴とする請求項1~3いずれかの項に記載の複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【請求項5】
前記捩り補強筋は、前記キャピタルに埋設される構造用鉄筋の内方に配筋されることを特徴とする請求項1~4いずれかの項に記載の複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【請求項6】
前記支持部材は、前記下層柱に固定されると共に、前記移動許容手段は、該支持部材の上部と前記キャピタルの底面との水平方向相対移動を許容することを特徴とする請求項1~5いずれかの項に記載の複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撤去される免震部材に代えて下層の柱側に設けられる支持部材と、上層の柱梁架構との間に、下層の柱と上層の柱梁架構の水平方向相対移動を許容する移動許容手段を設けた場合であっても、上層の柱梁架構に生じる捩りモーメントを抑制することが可能な複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上層の柱梁架構の上下方向柱軸力を、当該柱軸力の作用点よりも少ない数の下層の柱に設けた免震部材で支持するようにした建物構造として、特許文献1~3が知られている。
【0003】
特許文献1の「複数棟連結建物」は、免震装置の数を減ずることができて経済的に優れるとともに、建物全体の安定性も保持することができる複数棟連結建物を提供することを課題とし、隣接する複数の棟が互いに連結された建物において、各々の棟における複数本の柱を、下端部において互いに一体化するとともに、一体化した柱の下端部に免震装置を介装してなり、かつ免震装置による柱下端部の支承位置を、各々の棟の重心位置よりも建物の外周側に配設している。
【0004】
特許文献2の「免震構造物及び免震構造物の施工方法」は、免震構造物は、地震時における変動軸力が大きい上側第二構面の図における左右方向の両端部の上側柱の下には免震装置を設けずに、上側柱の柱軸力を主に上側柱に集約し、免震装置が受ける構造となっている。この結果、免震装置に作用する長期荷重が地震時における変動軸力よりも大きくなるようにしている。
【0005】
特許文献3の「免震建物」は、免震建物は、免震装置を介して下部構造体と、上部構造体を有する免震建物であって、上部構造体を形成する少なくとも1つの出隅部は、壁または外装材で構成され、出隅部に近接する上部柱は下方側が外方へと拡がるように設けられた出隅部傾斜柱で支持され、下部構造体に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-295494号公報
【特許文献2】特開2017-160608号公報
【特許文献3】特開2019-082092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の建物構造では、免震部材を一時的に撤去して、当該免震部材のメンテナンスを行ったり、交換を行ったりする場合がある。
【0008】
免震部材を撤去している期間は、下層の柱側には、免震部材に代えて、上層の柱梁架構を支持する支持部材が設けられる。
【0009】
そして、免震部材を撤去している期間中であっても免震作用を確保するために、支持部材と柱梁架構との間に、振動減衰作用を奏しつつ下層の柱と柱梁架構との水平方向相対移動を許容する滑り支承や転がり支承などの移動許容手段を設ける場合がある。
【0010】
上層の柱梁架構の複数の柱よりも下層の柱の数が少ないため、下層の柱と柱梁架構との水平方向相対移動を許容すると、すなわち、下層の柱に対する上層の各柱の上下方向柱軸力の作用点が移動して下層の柱による柱梁架構の支持位置が変化すると、柱梁架構に水平軸周りの捩りモーメントが発生するという課題があり、捩りモーメントを抑制するための対策が望まれていた。
【0011】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、撤去される免震部材に代えて下層の柱側に設けられる支持部材と、上層の柱梁架構との間に、下層の柱と上層の柱梁架構の水平方向相対移動を許容する移動許容手段を設けた場合であっても、上層の柱梁架構に生じる捩りモーメントを抑制することが可能な複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造は、下層柱上に、撤去可能な免震部材を介して、上層の柱梁架構の互いに隣接する複数の柱の下部を埋設したキャピタルを設けた建物構造であって、上記下層柱側と上記キャピタルとの間に設けられ、撤去された上記免震部材からキャピタル側重量が載せ替えられる支持部材と、該支持部材と上記キャピタルとの間に設けられ、上記下層柱と該キャピタルの水平方向相対移動を許容する移動許容手段と、上記キャピタルに埋設され、上記下層柱と該キャピタルの水平方向相対移動で当該キャピタルに生じる水平軸周りの捩りモーメントに抵抗する捩り補強筋とを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記捩り補強筋は、前記柱下部周りを補強するために、該柱下部の直下及び当該柱下部の周辺領域に配筋されることを特徴とする。
【0014】
前記捩り補強筋は、隣接する前記柱の配列方向に並設されることを特徴とする。
【0015】
前記捩り補強筋は、前記柱下部よりも下方から柱下部に沿って上方に向けた上向きコ字状の形態であることを特徴とする。
【0016】
前記捩り補強筋は、前記キャピタルに埋設される構造用鉄筋の内方に配筋されることを特徴とする。
【0017】
前記支持部材は、前記下層柱に固定されると共に、前記移動許容手段は、該支持部材の上部と前記キャピタルの底面との水平方向相対移動を許容することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造にあっては、撤去される免震部材に代えて下層の柱側に設けられる支持部材と、上層の柱梁架構との間に、下層の柱と上層の柱梁架構の水平方向相対移動を許容する移動許容手段を設けた場合であっても、上層の柱梁架構に生じる捩りモーメントを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかる複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造の好適な一実施形態を示す要部拡大側面図である。
図2図1中、A-A線矢視図である。
図3図2中、B-B線矢視断面図である。
図4図1に示されたキャピタルに作用する捩りモーメントを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る建物構造の要部拡大側面図、図2は、図1中、A-A線矢視図である。
【0021】
本実施形態に係る複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造は、上層の柱梁架構1(以下、単に柱梁架構という場合がある。)を、キャピタル2を介して、下層の鉄筋コンクリート柱3(以下、単に下層柱という場合がある。)で支持して構成される。
【0022】
柱梁架構1は、柱がコンクリート充填鋼管柱4(以下、CFT柱という。)であって、梁がH型鋼の鉄骨梁5,6(後述する第1及び第2の鉄骨梁)とされた混合構造で構成される。
【0023】
柱梁架構1の柱は、CFT以外の鉄骨コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨造であってもよく、柱梁架構1の梁は、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。下層柱3は、鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。
【0024】
下層柱3の上には、免震部材7が載置される。免震部材7は、柱梁架構1と下層柱3とを水平方向に相対移動させる水平方向振動外力Hに対して免震作用を発揮する、例えば積層ゴムとされる。
【0025】
免震部材7の上には、下層柱3の上部を構成する鉄筋コンクリート造のキャピタル2が設けられ、キャピタル2は、免震部材7を介して、下層柱3によって支持される。
【0026】
免震部材7は、メンテナンスや交換のために、下層柱3とキャピタル2の間から撤去可能とされる。免震部材7を撤去したときには、キャピタル側重量は、後述する支持部材8に載せ替えられる。
【0027】
キャピタル2には、柱梁架構1の互いに隣接する複数のCFT柱4の柱下部(以下、単に柱下部という場合がある。)が埋設される。
【0028】
本実施形態では、柱梁架構1は、キャピタル2の下で下層柱3に支持されるため、当該柱梁架構1の最下部のCFT柱4の柱下部と、柱梁架構1の最下部に配置され、柱下部に接続される鉄骨梁5,6の、柱下部周辺の一部が、キャピタル2に埋設される。
【0029】
CFT柱4の柱下部と鉄骨梁5,6とは、ダイヤフラムを有する柱梁仕口部9によって接合される。従って、キャピタル2には、柱梁架構1の互いに隣接する複数のCFT柱4の柱下部が設けられ、これら柱下部からCFT柱4の上下方向柱軸力が作用する。
【0030】
本実施形態の建物構造は、CFT柱4の上下方向柱軸力を、当該柱軸力の作用点よりも少ない数の下層柱3で支持する、すなわち柱梁架構1を、当該柱梁架構1の複数のCFT柱4よりも少ない数の下層柱3で支持する。
【0031】
具体的には、1本の下層柱3上のキャピタル2には、柱梁架構1の複数本のCFT柱4が設けられる。複数本のCFT柱4は、それらの柱芯が1本の下層柱3の柱芯3C(図2及び図4参照)に対し、位置ずれさせて、それらの柱下部がキャピタル2に埋設される。
【0032】
図示例は、キャピタル2に、2本のCFT柱4の柱下部と、これら2本のCFT柱4が並ぶ方向に延設され、これら2本のCFT柱4の柱下部を接続する第1の鉄骨梁5と、2本のCFT柱4の中央位置で、第1の鉄骨梁5と直交させて接合される第2の鉄骨梁6とを埋設する場合が示されている。
【0033】
キャピタル2に設けるCFT柱4は、2本以上であればその数は問われず、CFT柱4の位置は、いずれかのCFT柱4が下層柱3の直上に設けられている場合であってもよい。
【0034】
また、図示例では、キャピタル2に一部が埋設される第1及び第2の鉄骨梁5,6については、鉄筋コンクリート造のキャピタル2に連続する構造とするために、これら鉄骨梁5,6と当該鉄骨梁5,6を包囲する鉄筋10とをコンクリート中に埋設した鉄骨鉄筋コンクリート造の梁として構成される。
【0035】
キャピタル2に設けるCFT柱4の数、第1の鉄骨梁5の数は、図示例に限られることはなく、また、第2の鉄骨梁6の設置の有無やその数も、図示例に限られることはない。
【0036】
免震部材7を介して下層柱3上に設けられる鉄筋コンクリート造のキャピタル2は、長さ方向が第1の鉄骨梁5の延設方向に沿い、幅方向が第2の鉄骨梁6の延設方向に沿うと共に、その上面2aから底面2bまでの厚みの内部に、柱下部及び当該柱下部に接続される第1及び第2の鉄骨梁5,6の梁端部位が埋設される、直方体状に形成される。
【0037】
このキャピタル2内には、図2及び図3に示すように、構造用鉄筋として、立体網目構造の鉄筋籠11が埋設される。
【0038】
この鉄筋籠11は、キャピタル2の幅方向に沿って設けられる環状の肋筋11aとキャピタル2の長さ方向に沿って設けられる主筋11bとから構成される。
【0039】
肋筋11aは、キャピタル2の底面2bに沿う底部筋部11c、キャピタル2の上面2aに沿う上部筋部11d及びキャピタル2の左右幅方向両端側でこれら底部筋部11cと上部筋部11dの左右両端同士をそれぞれ接続する左右一対の立ち上げ筋部11e,11eを有する環状鉄筋11fと、左右一対の立ち上げ筋部11e,11eよりも環状鉄筋11fの内方へ寄せた位置に、互いに間隔を隔てて複数設けられ、底部筋部11cと上部筋部11dとを接続する縦鉄筋11gとから構成される。
【0040】
環状鉄筋11fは、柱下部について、キャピタル2の底面2b側及び左右幅方向両側から包囲するように配筋される。
【0041】
縦鉄筋11gは、柱下部を、キャピタル2の左右幅方向両側から多重に挟み込むように配筋される。
【0042】
このように構成された肋筋11aは、キャピタル2の長さ方向へ、互いに間隔を隔てて複数並設される。
【0043】
他方、主筋11bは、キャピタル2の長さ方向に長く形成される。これら主筋11bは、肋筋11aを構成する環状鉄筋11fの内周に沿って、並びに縦鉄筋11gの上下高さ方向に沿って、互いに間隔を隔てて複数並設される。
【0044】
免震部材7を撤去するに際しては、当該免震部材7に併設して、すなわち、下層柱3側とキャピタル2との間に、ジャッキなどのキャピタル側重量を支持する支持部材8が設けられる。
【0045】
下層柱3側とは、下層柱3そのものの場合のみならず、下層柱3に隣接して仮設される仮設体3aを含む意味である。
【0046】
下層柱3の上に、免震部材7と一緒に支持部材8を設置できる場合には、支持部材8は下層柱3の上に設ければよい一方、設置できない場合には、仮設体3aを仮設して、その上に支持部材8が設けられる。図示例では、免震部材7の周囲に、4つの支持部材8が設けられている。
【0047】
そして、下層柱3側の支持部材8をキャピタル2の底面2bに当接させ、リフトアップしていくことにより、免震部材7に作用しているキャピタル側重量を徐々に除荷していき、その後、免震部材7の撤去を行うと、キャピタル側重量が支持部材8にすべて載せ替えられる。
【0048】
各支持部材8の上部とキャピタル2の底面2bとの間には、支持部材8をキャピタル2に当接させる前に、当該支持部材8の上部に配置することによって、下層柱3とキャピタル2の水平方向相対移動を許容する移動許容手段12が設けられる。
【0049】
具体的には、支持部材8は、下層柱3に固定されると共に、移動許容手段12は、支持部材8に固定されて、支持部材8の上部とキャピタル2の底面2bとの水平方向相対移動を許容する。
【0050】
移動許容手段12としては、免震技術において周知の滑り支承や転がり支承が用いられる。移動許容手段12は、相対移動力を減衰させる減衰作用を備えていてもよい。
【0051】
移動許容手段12を設けることにより、免震部材7の撤去時に、柱梁架構1及びキャピタル2に対して下層柱3を水平方向に相対移動させる水平方向振動外力Hが作用しても、下層柱3による柱梁架構1の支持状態が維持される。
【0052】
キャピタル2にはさらに、下層柱3とキャピタル2の水平方向相対移動でキャピタル2に生じる水平軸周りの捩りモーメントを負担して当該捩りモーメントに抵抗する捩り補強筋13が埋設される。
【0053】
捩り補強筋13の1本は、図3に示すように、長さ方向について、両端側が、中央部13aに対し上向きに立ち上げられて立ち上げ部13bとなるように、折曲加工により上向きコ字状に形成される。
【0054】
捩り補強筋13は、中央部13aが、柱下部よりも下方の、キャピタル2の底面2b近くに配置され、両端側の立ち上げ部13bが、柱下部を側方から挟むように、キャピタル2の底面側から厚さ方向へ柱下部に沿って配置される。各立ち上げ部13bは、キャピタル2の幅方向の側面2dに寄せて配置される。
【0055】
捩り補強筋13は、柱下部回りについてキャピタル2を補強するために、図2に示すように、柱下部の直下及び当該柱下部の周辺領域に複数本が配筋される。
【0056】
これら複数本の捩り補強筋13は、隣接するCFT柱4の配列方向に並設される。すなわち、これら複数本の捩り補強筋13は、中央部13aがキャピタル2の幅方向に沿うようにして、キャピタル2の長さ方向(図中、第1の鉄骨梁5の延設方向)に密に並べて設けられる。
【0057】
さらに、捩り補強筋13は、立ち上げ部13bにキャピタル2からの支圧作用が働くように、構造用鉄筋である肋筋11a、具体的には環状鉄筋11fの内方に配筋される。
【0058】
次に、本実施形態に係る複数の柱を設けたキャピタルを有する建物構造の作用について説明する。
【0059】
免震部材7を撤去し、支持部材8を介して下層柱3で柱梁架構1を支持しているときに、地震動などの水平方向振動外力Hが作用すると、移動許容手段12によって免震作用は維持されるが、図4に示すように、キャピタル2に対し、下層柱3の位置が水平方向に往復動するように相対移動し、この往復相対移動中、下層柱3側の支持部材8は、移動量に応じ、偏った位置でキャピタル2を支持する、言い換えれば、キャピタル2は、偏った位置で支持部材8に支持されることとなる。
【0060】
キャピタル2には、自重のほか、複数のCFT柱4の上下方向柱軸力が作用していて、振動外力Hにより下層柱3が相対移動して、支持部材8による支持位置が、上下方向柱軸力の作用位置に対して移動すると、当該キャピタル2に捩りモーメントMが発生する。
【0061】
具体的には、キャピタル2の幅方向(図中、第2の鉄骨梁6の延設方向;図中、X方向)に下層柱3の水平方向相対移動が生じると、X方向と直交するキャピタルの長さ方向(図中、第1の鉄骨梁5の延設方向)の軸周りに、キャピタル2に捩りモーメントMxが生じる。
【0062】
また、キャピタル2の長さ方向(図中、Y方向)に下層柱3の水平方向相対移動が生じると、Y方向と直交するキャピタル2の幅方向の軸周りに、キャピタル2に捩りモーメントMyが生じる。
【0063】
通常、地震動などの水平方向振動外力Hは、X方向とY方向の間の斜め方向(図中、P方向)に作用するため、下層柱3の水平方向相対移動が生じ、このP方向と直交する軸周りに、キャピタル2に捩りモーメントMpが生じる。この斜め方向Pの捩りモーメントMpは、X方向とY方向の捩りモーメントが合成されたものであり、構造設計時にはX方向とY方向のそれぞれの水平方向相対移動量と上下方向柱軸力から捩りモーメントMx,Myに分解されて用いられる。
【0064】
本実施形態にあっては、このようなキャピタル2に作用する水平軸周りの捩りモーメントMに対して抵抗する捩り補強筋13をキャピタル2に備えたことにより、キャピタル2、延いては、このキャピタル2に柱下部が埋設されたCFT柱4で構成される柱梁架構1が、捩りモーメントによって、大きく変形して破損されることを抑制することができる。
【0065】
本実施形態のように、第1の鉄骨梁5の延設方向であるY方向に2本のCFT柱4が並設されたキャピタル2では、下層柱3がY方向へ相対移動した場合、それらCFT柱4の2つの上下方向柱軸力の作用点に対して、同じ側に支持部材8がずれて移動するため、キャピタル2の幅方向の軸周りに捩りモーメントMyが生じる。この方向の場合、キャピタル2の長さ方向の鉄筋と共に、2本のCFT柱4をつなぐ第1の鉄骨梁5が捩りモーメントMyを負担するので、キャピタル2に変形や破損が生じ難い。これに対して、X方向に下層柱3が相対移動した場合、第2の鉄骨梁6はあるが、第1の鉄骨梁5に接合された部材であり、第1の鉄骨梁5よりもスパン長が長く剛性が低いため、同じ移動量について発生する捩りモーメントMにより変形や破損が生じる可能性が高くなる。
【0066】
このため、本実施形態では、捩り補強筋13の配筋について、図2及び図3に示すように、下層柱3がX方向(キャピタル2の幅方向)に相対移動したときに生じる捩りモーメントMxに有効な抵抗作用を発揮するように、長さ方向(中央部13a)をキャピタル2の幅方向に沿わせた複数の捩り補強筋13を、キャピタル2の長さ方向に密に敷き並べるようにしている。
【0067】
捩り補強筋13を、キャピタル2に埋設されたCFT柱4の柱下部周りを補強するために、柱下部の直下及び当該柱下部の周辺領域に配筋するようにしたので、捩りモーメントMに対して、キャピタル2に上下方向柱軸力を伝達する柱下部回りを適切かつ確実に補強することができる。
【0068】
捩り補強筋13を、隣接するCFT柱4の配列方向に並設したので、キャピタル2を、方向性をもって補強することができ、キャピタル2に生じる捩り変形を、不要な応力を生じさせることなく抑制することができる。
【0069】
捩り補強筋13を、柱下部よりも下方から柱下部に沿って上方に向けた上向きコ字状の形態で形成したので、キャピタル2のコンクリート中に捩り補強筋13を埋設するにあたり、配筋作業を容易化できると共に、支持部材8で支持されるキャピタル2の底面2a側を高強度に形成することができる。
【0070】
捩り補強筋13を、キャピタル2に埋設される鉄筋籠11の内方に配筋するようにしたので、捩り補強筋13の立ち上げ部13bを含め、捩り補強筋13に、鉄筋籠11及びその周りのコンクリートからの支圧力を付与することができ、キャピタル2を高強度に形成することができる。
【0071】
本実施形態で説明した捩り補強筋13及びその配筋は一例であって、キャピタル2に生じる捩りモーメントMに対して抵抗作用を奏する限り、どのような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 柱梁架構
2 キャピタル
3 下層柱
4 CFT柱
7 免震部材
8 支持部材
11 鉄筋籠
12 移動許容手段
13 捩り補強筋
M,Mx,My,Mz 捩りモーメント
図1
図2
図3
図4