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特開2023-83958演算装置、超音波検査装置及び超音波検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083958
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】演算装置、超音波検査装置及び超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20230609BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20230609BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/11
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197988
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北岡 雅則
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047AB01
2G047AC09
2G047BA03
2G047BC07
2G047GA14
2G047GB17
2G047GF09
2G047GG34
2G047GG36
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】欠陥を識別し易い超音波検査装置を提供する。
【解決手段】超音波検査装置132は、被検査体120の検査方向に沿って配置される複数の探触子111を備えて構成される探触子群10と、探触子群10に、探触子111から前記検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる信号発生部101と、それぞれの探触子111同士の間隔に基づき、それぞれの探触子111から前記検査方向に送信された前記送信波同士を重ねることで送信波を強めるように、それぞれの探触子111での送信時期を決定する決定部102と、それぞれの探触子111同士の間隔に基づき、それぞれの探触子111で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで受信信号を強めるように合成する合成部105と、それぞれの探触子111の駆動制御を行う制御部103とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の検査方向に沿って前記被検査体に配置されるとともに超音波を送受信可能な複数の探触子を備えて構成される探触子群に、前記探触子から前記検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる信号発生部と、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子から前記検査方向に送信された前記送信波同士を重ねることで前記送信波を強めるように、それぞれの前記探触子での送信時期を決定する決定部と、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで前記受信信号を強めるように合成する合成部と、を備える
演算装置。
【請求項2】
前記合成部で合成した前記受信信号に関する情報と、前記送信信号に関する情報とに基づき、前記被検査体に関する情報を取得する取得部を備える
請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記信号発生部は、第1符号及び第2符号を含んで構成される符号化列に基づいて、前記送信信号を発生させる
請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記合成部で合成した前記受信信号に対応する第1符号化列と、前記送信信号に対応する第2符号化列とに基づき、前記被検査体に関する情報を取得する
請求項3に記載の演算装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記第1符号化列と前記第2符号化列との相関処理により、前記被検査体に関する情報を取得する
請求項4に記載の演算装置。
【請求項6】
前記探触子同士の間隔dと、前記被検査体を伝播する前記超音波の振動モードの波長λとの間には、下記式(1)の関係が成立する
0.9×λ/4≦d≦1.1×λ/4 …式(1)
請求項1に記載の演算装置。
【請求項7】
前記信号発生部は、第1符号及び第2符号を含んで構成される符号化列に従って時間変化する電圧信号を前記送信信号として発生させる
請求項1に記載の演算装置。
【請求項8】
前記探触子同士の間隔d、及び、前記被検査体での前記超音波の音速cの条件を用いて、
前記決定部は、前記探触子群のうち、第1探触子での送信時刻に対し、前記第1探触子に対し前記送信波の伝播方向下流側に隣接する第2探触子では、時間差Δt=d/cを有するように前記送信時期を決定し、
前記合成部は、前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の前記探触子での前記受信波に関する前記受信信号を時間差Δt=d/cだけ時間方向にずらして、他方の前記探触子での前記受信波に関する前記受信信号に合成する
請求項1に記載の演算装置。
【請求項9】
被検査体の検査方向に沿って前記被検査体に配置されるとともに超音波を送受信可能な複数の探触子を備えて構成される探触子群と、
演算制御装置とを備え、
前記演算制御装置は、
前記探触子群に、前記探触子から前記検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる信号発生部と、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子から前記検査方向に送信された前記送信波同士を重ねることで前記送信波を強めるように、それぞれの前記探触子での送信時期を決定する決定部と、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで前記受信信号を強めるように合成する合成部と、を備える
と、
それぞれの前記探触子の駆動制御を行う制御部とを備える
超音波検査装置。
【請求項10】
前記探触子群は、前記探触子同士の間隔を調整する間隔調整機構を備える
請求項9に記載の超音波検査装置。
【請求項11】
被検査体の検査方向に沿って前記被検査体に配置されるとともに超音波を送受信可能な複数の探触子を備えて構成される探触子群に、前記探触子から前記検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる信号発生ステップと、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子から前記検査方向に送信された前記送信波同士を重ねることで前記送信波を強めるように、それぞれの前記探触子での送信時期を決定する決定ステップと、
それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで前記受信信号を強めるように合成する合成ステップとを含む
超音波検査方法。
【請求項12】
前記被検査体の前記検査方向の長さに応じて第1符号及び第2符号で構成される符号化列を入力する入力ステップを含み、
前記信号発生ステップは、前記符号化列に従って時間変化する電圧信号を前記送信信号として発生させる
請求項11に記載の超音波検査方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
鉄道レール、橋梁、トンネル、配管に代表されるインフラ機器の老朽化が進んでいる。これらのインフラ機器を維持管理していくためには、検査技術の高度化による自動化、高効率化が求められている。老朽化により生じる欠陥は、他の構造物に隠された位置に生じることがある。このような欠陥を検査するためには、欠陥を検出可能なセンサがアクセス可能な離れた位置にセンサを配置し、信号を送受信して発見する技術が有用である。
【0002】
代表的な検査手法として,超音波検査法がある。特に社会インフラ機器は長尺の構造物であり、超音波の中でもガイド波と呼ばれる伝搬モードを利用することで、短時間に構造物の一括検査が可能となることが期待されている。特許文献1の要約書には、「本発明の超音波探傷方法では、鉄道用レール1の底端部5を、レール1の高さ方向に振動させるように加振する加振工程と、加振工程により発生する所定の周波数及び所定の群速度をもつ反射超音波を検出して鉄道用レール1の損傷の位置を検知する検知工程と、を備えている。そして、上記の所定の周波数は、30kHz以上200kHz以下であり、所定の群速度は、2000m/s以上3500m/s以下である。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-107165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波は、探触子の配置面内で検査方向以外、即ち、例えば検査方向に垂直な方向等にも進行し得る。この結果、受信信号のSN比が低下し、検査結果において内部の欠陥の識別精度が低下する。
本開示が解決しようとする課題は、欠陥を識別し易い演算装置、超音波検査装置及び超音波検査方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の演算装置は、被検査体の検査方向に沿って前記被検査体に配置されるとともに超音波を送受信可能な複数の探触子を備えて構成される探触子群に、前記探触子から前記検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる信号発生部と、それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子から前記検査方向に送信された前記送信波同士を重ねることで前記送信波を強めるように、それぞれの前記探触子での送信時期を決定する決定部と、それぞれの前記探触子同士の間隔に基づき、それぞれの前記探触子で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで前記受信信号を強めるように合成する合成部と、を備える。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、欠陥を識別し易い演算装置、超音波検査装置及び超音波検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の演算装置、演算制御装置及び超音波検査装置の模式図である。
図2】探触子から送信される超音波の伝播方向を説明する図である。
図3】信号発生部で発生させる電圧信号の時間変化を説明する図である。
図4】探触子同士の間隔を説明する図である。
図5】探触子同士の間隔を調整する間隔調整機構を説明する図である。
図6A】被検査体を伝搬する超音波の指向性を説明する図であり、探触子同士の間隔が超音波の波長の1/2のときの図である。
図6B】被検査体を伝搬する超音波の指向性を説明する図であり、探触子同士の間隔が超音波の波長の1/4のときの図である。
図7A】検査方向と同方向に伝播した受信波に関する受信信号同士を合成した例を示す図である。
図7B】検査方向とは異なる方向に伝播した受信波に関する受信信号同士を合成した例を示す図である。
図8A図7Aに示すデータを用いて取得部が相関処理した場合に得られるグラフである。
図8B図7Bに示すデータを用いて取得部が相関処理した場合に得られるグラフである。
図9】本開示の超音波検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0009】
図1は、本開示の演算装置130、演算制御装置131及び超音波検査装置132の模式図である。演算装置130及び演算制御装置131は、例えば超音波検査装置132に備えられ、超音波であるガイド波を利用して、被検査体120の内部の欠陥(不図示)を検出するものである。被検査体120の内部を伝播(送受信)する超音波は縦波又は横波の少なくとも一方である。被検査体120は、例えば、鉄道レール、橋梁、トンネル、配管であるが、これらに限られない。
【0010】
超音波検査装置132は、探触子群10と、演算制御装置131とを備える。探触子群10は、複数の探触子111(振動子)を備えて構成される。探触子群10は、例えばアレイセンサであるが、これに限られない。探触子111は、被検査体120の検査方向に沿って被検査体120に配置されるとともに、超音波を送受信可能なものである。探触子111は縦波探触子又は横波探触子である。探触子群10は、被検査体120の表面(例えば平面、曲面等)に配置される。「検査方向に沿って配置」とは、マクロ的な視点で、全ての探触子111が検査方向に延びる直線(図示の例ではx軸)上に配置されることをいう。例えば、全ての探触子111が同じ形状を有する場合、それぞれの探触子111が、自身の同じ部位がx軸上に配置されるように、配置される。ただし、探触子111は、全てが同じ形状でなくてもよく、一部又は全部が異なる形状でもよい。
【0011】
探触子111の数は、複数(少なくとも2つ)であれば制限はなく、上限としては、被検査体120の検査方向の長さに配置可能な数である。
【0012】
図2は、探触子111から送信される超音波の伝播方向を説明する図である。単一の探触子111を被検査体120に設置して励振すると、360度の様々な方向に超音波(ガイド波)が拡散する。従って、欠陥位置の特定のため、本開示では、超音波に指向性が付与される。
【0013】
更に、超音波は様々な振動モード(波長等)を有し、振動モードの異なる超音波は、それぞれ異なる速度で伝播する。モード変換は、例えば欠陥、被検査体120の端部等での反射、散乱等により生じ得る。意図しないモード変換により、受信時に様々な方向から音速、周波数等が異なる信号が生じ得る。この結果、欠陥に起因する信号の識別が困難になり、SN比が低下する。従って、SN比の更なる低下抑制のためには、超音波にモード選択性を与える、即ち、送信した超音波と同じ振動モードの超音波を選択して受信することが好ましい。
【0014】
そこで、本開示では、具体的な構成については後記するが、被検査体120を伝播する超音波への指向性の付与とともに、更に、モード選択性が超音波に付与される。これにより、SN比が向上し、欠陥の検出精度を向上できる。
【0015】
図1に戻って、演算装置130は、信号発生部101、決定部102、合成部105、及び取得部106を備える。演算制御装置131は、信号発生部101、決定部102、合成部105、及び取得部106に加え、演算装置130と一体に構成される制御部103としての送信部103a及び受信部103bを更に備える。
【0016】
信号発生部101は、探触子群10に、探触子111から検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させるものである。発生した送信信号は、後記する送信部103aを通じて、探触子111に送られる。これにより、探触子111から、超音波であるガイド波が、x軸において+x方向に被検査体120の内部を伝搬する。
【0017】
信号発生部101は、第1符号及び第2符号を含んで構成される符号化列に基づいて、前記送信信号を発生させる。これにより、符号化列を介して探触子111を駆動でき、被検査体120を伝搬する超音波を制御できる。
【0018】
第1符号及び第2符号は、任意の文字、数字、記号等の符号であり、符号化列は、第1符号及び第2符号を含む2以上の符号の組み合わせである。例えば、第1符号は第1所定電圧値に対応し、第2符号は第1所定電圧値よりも低電圧の第2所定電圧値(例えば0V)に対応する。従って、これらを組み合わせた符号化列により、異なる電圧に起因する送信信号を発生できる。
【0019】
被検査体120の検査方向長さが長い場合、送信信号の1波長に対応する符号化列も長いことが好ましい。ただし、符号化列が長くなり、第1所定電圧に対応する第1符号が増えると、超音波検査装置132に使用される消費電力が増える。そこで、符号化列の長さは、被検査体120の検査方向長さと、超音波検査装置132の消費電力とに基づいて決定されることが好ましい。
【0020】
第1符号、第2符号及び符号化列は、それぞれ、例えば入力装置108を通じて作業員によって入力される。入力装置108は、例えばキーボード、ボタン、ディスプレイのタッチパネル、ディスプレイに表示される入力フォーム等である。ただし、第1符号、第2符号及び符号化列は、それぞれ、ランダムに信号発生部101自身が発生させるようにしてもよい。入力等によって信号発生部101が決定した符号化列は、記憶部107に記憶される。
【0021】
信号発生部101は、上記符号化列に従って時間変化する電圧信号を送信信号として発生させる。これにより、符号化列に対応する送信信号を送信部103aに送り、送信部103aが探触子111を駆動することで、超音波であるガイド波を被検査体120に送信できる。電圧信号は、例えば、電気回路(不図示)を用いて発生できる。
【0022】
図3は、信号発生部101で発生させる電圧信号の時間変化を説明する図である。横軸は時間、縦軸は電圧信号の強度である。図示の例では、第1符号は数字の「1」であり、第2符号は数字の「0」であり、符号化列は「0101101」であり、この符号化列に対応する電気信号が矩形状のパルス波(矩形波)として描かれるが、これらに限られない。
【0023】
例えば、入力装置108(図1)を通じて図示の符号化列が信号発生部101(図1)に入力されると、信号発生部101は、例えば図3に示す矩形波の電圧信号を上記の送信信号として発生させる。当該矩形波は、被検査体120(図1)を伝搬する超音波における1周期に相当する。従って、送信部103a(図1)は、信号発生部101により発生した送信信号としての電気信号に基づき、繰り返し(即ち複数周期)、探触子111を駆動させる。
【0024】
図1に戻って、決定部102は、それぞれの探触子111から検査方向に送信された送信波同士を重ねることで送信波を強めるように、それぞれの探触子111での送信時期を決定する。送信波を強めるとは、送信波の振幅を足し合わせることである。決定部102は、それぞれの探触子111同士の間隔に基づき、送信時期を決定する。
【0025】
図4は、探触子111同士の間隔dを説明する図である。角度θについては、図6A及び図6Bを参照しながら後記する。探触子111同士の間隔dは、隣接する探触子111の端部同士の間隔である。従って、間隔dは、隣接する探触子111間に形成される隙間の長さである。間隔dは全て同じであってもよく、一部又は全部の間隔dが異なっていてもよい。間隔dは、予め定められた(計算された)間隔dでもよく、例えば任意に配置した探触子111同士の間隔dを実測等することで、決定してもよい。後者の場合、例えば、超音波検査の作業員がそれぞれの探触子111を配置し、間隔dを実測することで決定できる。間隔dは、例えば被検査体120の厚さ及び検査方向への長さ、超音波の波長等の条件によっても異なるため一概には言えないが、例えば10μm以上1m以内である。
【0026】
図5は、探触子111同士の間隔を調整する間隔調整機構112を説明する図である。図示の例では、探触子群10は、探触子111に加え、探触子111同士の間隔dを調整する間隔調整機構112を備え、探触子111は、間隔調整機構112に接続される。間隔調整機構112は、何れも不図示であるが、例えばスライドレールに対しスライド可能にそれぞれの探触子111を固定することで構成できる。スライドレールには、適宜、探触子111同士の間隔dを容易に把握するための目盛り(不図示)が備えられてもよい。なお、間隔調整機構112は備えられなくてもよい。
【0027】
図6Aは、被検査体120を伝搬する超音波の指向性を説明する図であり、探触子111同士の間隔dが超音波の波長λの1/2のときの図である。図6Bは、被検査体120を伝搬する超音波の指向性を説明する図であり、探触子111同士の間隔dが超音波の波長λの1/4のときの図である。図6A及び図6Bにおいて、円の周囲に記載の角度θは、図4に記載の角度θであり、角度θは、検査方向(図示の例ではx軸方向)と超音波の伝播方向との間の角度である。角度θは、+x方向に対する反時計回り方向に為す角度である。角度θが大きいほど、検査方向に対して超音波の伝播方向が大きく異なることを表す。
【0028】
図6A及び図6Bに示すように、超音波の振動モードによって、指向性が異なる。例えば図6Aに示すように、d=λ/2のときには、検査方向(θ=0°)だけでなく、後方(θ=180°)にも超音波が大きく伝搬する。一方で、図6Bに示すように、d=λ/4のときには、検査方向(θ=0°)に特に大きく超音波が伝搬し、それ以外の方向には超音波は伝播し難い。
【0029】
従って、間隔dは任意であるものの、被検査体120の形状等から、被検査体120を伝播する超音波の振動モードの波長λを把握できる場合には、間隔dと波長λとの間には、下記式(1)の関係が成立することが好ましい。
0.9×λ/4≦d≦1.1×λ/4 …式(1)
式(1)を満たすことで、超音波のエネルギを検査方向に集中でき、効率的に検査できる。中でも、d=1×λ/4が好ましい。
【0030】
図1に戻って、探触子群10のうち、隣接する2つの探触子111である第1探触子113及び第2探触子114に着目する。第2探触子114は、第1探触子113に対し、送信波(超音波)の伝播方向(+x方向)下流側に隣接する。第1探触子113及び第2探触子114には、それぞれ例えば図3に示す電気信号が送信されるため、第1探触子113及び第2探触子114は、例えば波形が同じ超音波を検査方向に伝播する。ただし、本開示では、伝播方向下流側の第2探触子114は、上流側の第1探触子113よりも、超音波の送信時期が遅くなる。
【0031】
具体的には、上記のように、第1探触子113及び第2探触子114から検査方向に送信された送信波同士を重ねることで強めるように(送信波が減衰しないように)、送信時期が遅くなる。従って、重ね合わせが繰り返される結果、伝播方向で下流側に向かうほど、被検査体120の内部を伝搬する超音波の振幅が大きくなる。これにより、検査方向に向かう超音波の振幅は大きくなるが、それ以外の方向に向かう超音波の振幅は通常は変化しない。これにより、指向性を向上でき、SN比を向上できる。
【0032】
決定される送信時期は、例えば、検査方向で最も上流側の探触子111送信時刻を基準とした探触子111毎に遅れる時間(遅延時間)でもよいし、探触子111毎に独立した送信時刻でもよい。以下では、説明の簡略化のため、一例として遅延時間が決定される。
【0033】
本開示では、決定部102は、間隔d及び被検査体120での超音波の音速cの条件を用いて、遅延時間としての時間差Δt=d/cを計算する。音速cは、例えば、被検査体120の材質等によって決まる。計算した時間差Δt=d/cは、上記のようにどの程度遅らせて送信するのかを示す指標であり、記憶部107に記憶される。そして、決定部102は、第1探触子113での送信時刻に対し、第2探触子114では、時間差Δt=d/cを有するように送信時期を決定する。これにより、検査方向に超音波振動を強め合うように重ね合わせることができる。また、第1探触子113及び第2探触子114以外の探触子111以外についても、同様に遅延時間が計算される。
【0034】
合成部105は、それぞれの探触子111同士の間隔dに基づき、それぞれの探触子11で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで受信信号を強めるように合成するものである。受信信号は、例えば電気信号であるが、受信波そのものを含む概念でもあり、受信波を含む場合、受信信号(受信波)を強めるとは、受信信号(受信波)の振幅を足し合わせることである。具体的には、上記の第1探触子113及び第2探触子114を参照して説明した送信波の遅れと同様に、受信波(超音波であるガイド波。送信波の伝播方向と反対方向に伝播)も、第2探触子114が先に受信し、次に、第1探触子113が受信する。受信時の時間差Δtである遅延時間は、上記の第1探触子113及び第2探触子114を参照して説明した時間差Δtと同様である。
【0035】
そこで、本開示では、合成部105は、第1探触子113又は第2探触子114の一方の探触子111での受信波に関する受信信号を遅延時間(時間差Δt=d/c)だけ時間方向にずらして、他方の探触子111での受信波に関する受信信号に合成する。これにより、複数の受信信号を合成して、探触子群10で受信した受信信号のピークを強くでき、SN比を向上でき、欠陥の検出精度を向上できる。合成は、例えば、時間的にずらして加算することで実行できる。
【0036】
合成は、受信が時間差Δt=d/cだけ遅れる第1探触子113での受信信号を、時間差Δt=d/cだけ前にずらして第2探触子114での受信信号に対し、実行できる。また、合成は、受信が時間差Δt=d/cだけ早まる第2探触子114での受信信号を、時間差Δt=d/cだけ後にずらして第1探触子113での受信信号に対し、実行してもよい。即ち、1つの探触子111での受信時刻に対し、残りの探触子111の受信時刻を揃えるように時間を調整して受信信号同士を合成すればよい。
【0037】
図7Aは、検査方向と同方向に伝播した受信波に関する受信信号同士を合成した例を示す図である。横軸は時間、縦軸は受信信号の強度である。超音波が検査方向と同方向に伝播する場合、各探触子111から送信された超音波(送信波)は、欠陥、端部等で同じように反射することで同じ音速cで同じ距離を伝搬し、各探触子111で受信される。このため、各探触子111で受信した受信波に関する受信信号を合成すると、図7Aに示すように互いに強め合い、信号発生部101で発生させた送信信号に対応する矩形波と同一波形が得られる。また、合成により得られた受信信号に対応する符号化列も、入力装置108(図1)により入力された符号化列と一致する。
【0038】
なお、図示は省略するが、更に超音波にモード選択性を付与することで、図7Aに示す信号において、高い強度の部分を更に高強度にでき、更に、SN比を向上できる。
【0039】
図7Bは、検査方向とは異なる方向に伝播した受信波に関する受信信号同士を合成した例を示す図である。横軸は時間、縦軸は受信信号の強度である。超音波が検査方向とは異なる方向に伝播する場合、各探触子111から送信された超音波(送信波)は、異なる音速cで伝搬したり、探触子111毎に受信した超音波(受信波)の伝搬距離が異なったりする。このため、図7B中で点線で表されるように、各探触子111の受信信号には、それぞれ時間的なずれが生じる。従って、合成部105での合成の結果、実線で示すように、図7Aの例とは異なり強め合いは起こらず、信号発生部101で発生させた送信信号と異なる波形が得られる。また、合成により得られた受信信号に対応する符号化列も、入力装置108(図1)により入力された符号化列と異なる。
【0040】
図1に戻って、合成部105は、それぞれの探触子111での所定時間に対する受信波について、例えば1周期に対応する符号化列に基づく送信信号を含む時間毎に、合成することが好ましい。これにより、計算量が過度に増えることを抑制できる。
【0041】
取得部106は、合成部105で合成した受信信号に関する情報(例えば対応する符号化列)と、送信信号に関する情報(例えば対応する符号化列)とに基づき、被検査体120に関する情報を取得するものである。取得部106を備えることで、例えば内部欠陥の有無等、被検査体120に関する情報を取得できる。被検査体120に関する情報は、例えば、表示装置109に三次元的に表示されたり、記録装置(不図示)に記録されたり、ネットワーク(不図示)を介してクラウド、サーバ等に送信されたりできる。記録装置は、例えばメモリ、ハードディスクドライブ等である。また、演算装置130が解析部(不図示)を備える場合、解析部は、被検査体120に関する情報に基づき、例えば内部欠陥の有無等を解析してもよい。
【0042】
取得部106は、合成部105で合成した受信信号に対応する第1符号化列と、送信信号に対応する第2符号化列とに基づき、被検査体120に関する情報を取得する。第1符号化列は、図7Aを参照して説明したように、合成した受信信号から抽出できる。第12符号化列は、図1及び図3を参照して説明したように、送信信号の発生時に称されたものであり、例えば記憶部107に記憶された符号化列である。上記のように、検査方向に伝播した受信波については、合成した受信信号に対応する符号化列は、信号発生部101で発生させた送信波及び入力された符号化列と一致する。このため、合成した受信信号及び送信信号に基づき、例えばこれらを比較することで、例えば欠陥に基づくピークを識別し易くできる。
【0043】
具体的な検出方法として、本開示の例では、取得部106は、第1符号化列と第2符号化列との相関処理により、被検査体120に関する情報を取得する。相関処理により、一致する部位ほど高い数値(グラフ上でのピーク)が得られるため、容易に比較できる。また、相関処理により、送信波の振動モードとは異なる振動モードを有する受信波を排除し、検査方向から反射してきた送信モードと同一信号を選択的に抽出できる。これにより、SN比を向上できる。
【0044】
図8Aは、図7Aに示すデータを用いて取得部106が相関処理した場合に得られるグラフである。横軸は時間、縦軸は相関である。上記のように、送信信号と受信信号とで略同一波形同士が合成されるため、相互相関値が大きくなる。中でも、送信波の振動モードと同一の振動モードを有する受信波が特に強調される。
【0045】
図8Bは、図7Bに示すデータを用いて取得部106が相関処理した場合に得られるグラフである。横軸は時間、縦軸は相関である。上記のように、異なる波形同士が合成されるため、相互相関値が小さくなる。即ち、検査方向以外から伝播した受信波が低減される。また、送信波の振動モードと異なる振動モードを有する受信波も低減される。
【0046】
図8A及び図8Bに示すように、本開示の例(図8A)によれば、SN比が大きくなる。このため、例えば図8Aでのピークの存在を明確に把握でき、例えば欠陥での反射に起因するピークを把握し易くできる。これにより、欠陥の識別精度を向上できる。
【0047】
制御部103は、それぞれの探触子111の駆動制御を行うものであり、送信部103a及び受信部103bを備える。
【0048】
送信部103aは、信号発生部101で発生した送信信号(本開示の例では電気信号)に基づき、探触子111の駆動を制御するものである。具体的には、送信部103aは、探触子111に送信信号である電圧信号(例えば図3参照)を与え、これにより、被検査体120に超音波が励起される。そして、超音波は、図6A及び図6Bに示すような強度分布で送信波として伝搬する。被検査体120の内部での欠陥、被検査体120の端部等で反射すると、通常は位相は同じ波形の超音波が、受信波として探触子111で受信される。
【0049】
受信部103bは、探触子111で受信した受信波から、受信信号(例えば矩形波)を発生させるものである。受信信号は、合成部105に送信される。
【0050】
演算装置130及び演算制御装置131は、何れも図示はしないが、例えばCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えて構成される。演算装置130は、ROMに格納されている所定の制御プログラム(後記の超音波検査方法を実行するプログラム)がRAMに展開され、CPUによって実行されることにより具現化される。
【0051】
図9は、本開示の超音波検査方法を示すフローチャートである。本開示の超音波検査方法は、例えば超音波検査装置132を用いて、演算装置130及び演算制御装置131によって実行できる。以下、適宜図1も適宜参照しながら、図9に示す本開示の超音波検査方法を説明する。
【0052】
まず、探触子111の間隔dが計算され、計算された間隔dになるように、探触子群10が被検査体120に設置される(ステップS11)。計算は、例えば、上記式(1)を参照して説明したように、例えば、間隔dと波長λとの関係に基づいて行うことができ、中でも、間隔dは、λ/4であることが好ましい。探触子111は、検査したい方向(検査方向)に沿って被検査体120の表面に配置される。なお、波長λが不明な場合には、例えば、任意の間隔dで探触子群10を設置した後、間隔dを実測してもよい。
【0053】
次に、信号発生部101は、符号化列を決定する(ステップS12。決定ステップ)。ステップS12は、例えば、被検査体120の検査方向の長さに応じて入力された符号化列を用いて実行できる。入力は、例えば入力装置108により行われる。ただし、符号化列は、予め決定されて入力されていたものでもよい。決定した符号化列は、記憶部107に記憶される。
【0054】
決定部102は、遅延時間(上記の時間差Δt=d/c)を計算する(ステップS13。決定ステップ)。計算した遅延時間は、記憶部107に記憶される。ステップS13では、決定部102は、複数の探触子111同士の間隔dに基づき、それぞれの探触子111から検査方向に送信された送信波同士を重ねることで強めるように、それぞれの探触子11での送信時期の一例としての遅延時間を決定する。
【0055】
信号発生部101は、遅延時間及び符号化列に基づき、電圧信号を発生させる(ステップS14、信号発生ステップ)。即ち、信号発生部101は、探触子群10に、探触子111から検査方向に送信される送信波に対応する送信信号を発生させる。より具体的には、信号発生部101は、ステップS12(入力ステップ)で決定した符号化列に従って時間変化する電圧信号を送信信号として発生させる。
【0056】
送信部103aは、発生した電圧信号(印加電圧)を各探触子111に印加し、超音波であるガイド波(送信波)を被検査体120の内部に伝播させる(ステップS15)。
【0057】
受信部103bは、探触子111で超音波である受信波を受信する(ステップS16)。受信波は、被検査体120の内部に存在する欠陥で反射した受信波、被検査体120の端部で反射した受信波を含む。受信部103bは、受信波に基づいて受信信号を発生させて、合成部105に送信する。
【0058】
合成部105は、記憶部107に記憶した遅延時間を用いて、各探触子111の受信信号を合成する(ステップS17。合成ステップ)。具体的には、ステップS17では、合成部105は、それぞれの探触子111同士の間隔dに基づき、それぞれの探触子111で受信した受信波に関する受信信号同士を重ねることで強めるように合成する。
【0059】
取得部106は、記憶部107に記憶した符号化列と、合成部105で合成した受信信号との相関(相互相関)を計算する(ステップ17)。これにより、被検査体120に関する情報を取得できる。取得部106は、計算結果である被検査体120に関する情報を表示装置109に表示する(ステップS18)。取得部106は、表示に代えて、又は、表示とともに、記録装置(不図示)に記録してもよい。作業員は、検査結果に基づき、被検査体120の内部の欠陥の有無を確認でき、被検査体120の健全性を判定できる。
【0060】
なお、本開示は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 探触子群
101 信号発生部
102 決定部
103 受信部
103 制御部
103a 送信部
103b 受信部
105 合成部
106 取得部
107 記憶部
108 入力装置
109 表示装置
11 探触子
111 探触子
112 間隔調整機構
113 第1探触子
114 第2探触子
120 被検査体
130 演算装置
131 演算制御装置
132 超音波検査装置
c 音速
d 間隔
Δt 時間差
θ 角度
λ 波長
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9