(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083986
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】水素混焼用電子制御装置及びそれを用いた発電システム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20230609BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198029
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】助川 義寛
(72)【発明者】
【氏名】熊野 賢吾
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA05
3G092AA06
3G092AB01
3G092AB06
3G092AC08
3G092BB01
3G092EA08
3G092EB01
3G092EB03
3G092FA15
3G092HE02Z
3G092HE03Z
3G384AA06
3G384AA14
3G384BA13
3G384DA42
3G384ED01
3G384ED05
3G384ED07
3G384FA57Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】水素混焼エンジンの燃焼異常判定を気筒毎にリアルタイムに実施可能な水素混焼用電子制御装置を提供する。
【解決手段】第一燃料をエンジンに供給する第一燃料供給装置と、水素を一部含む燃料を第二燃料としてエンジンに供給する第二燃料供給装置と、を有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する水素混焼用電子制御装置であって、エンジンのクランク軸の回転時間を検出するクランク角センサと、クランク角センサの検出結果に基づき、クランク軸の回転時間の極値及び極値タイミングを演算する演算部と、を備え、極値及び極値タイミングに基づき、エンジンの燃焼状態を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一燃料をエンジンに供給する第一燃料供給装置と、
水素を一部含む燃料を第二燃料として前記エンジンに供給する第二燃料供給装置と、を有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する水素混焼用電子制御装置であって、
前記エンジンのクランク軸の回転時間を検出するクランク角センサと、
前記クランク角センサの検出結果に基づき、前記クランク軸の回転時間の極値及び極値タイミングを演算する演算部と、を備え、
前記極値及び前記極値タイミングに基づき、前記エンジンの燃焼状態を判定する水素混焼用電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記極値タイミング及び前記極値に基づき、前記第二燃料の水素混合割合を調整する水素混焼用電子制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記極値タイミング及び前記極値に基づき、前記エンジンの異常燃焼又は失火のいずれか一つ以上を判定する水素混焼用電子制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
所定サイクル数の前記極値の平均値が第1所定値を超えており、かつ前記所定サイクル数の前記極値タイミングのばらつきが第2所定値以下の場合、異常燃焼と判定し、前記エンジンに供給される水素割合を0にする水素混焼用電子制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
所定サイクル数の前記極値の平均値が第1所定値を超えており、かつ前記所定サイクル数の前記極値タイミングのばらつきが第2所定値を超えている場合、異常燃焼と判定し、前記エンジンに供給される水素を減少させる水素混焼用電子制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
所定サイクル数の前記極値の平均値が第1所定値以下であり、かつ前記所定サイクル数の前記極値タイミングのばらつきが第2所定値よりも高いときにおいて、
前記水素の混合割合を上昇させて前記極値タイミングのばらつきが小さくなった場合は、失火が原因と判定し、
前記水素の混合割合を減少させて前記極値タイミングのばらつきが大きくなった場合は、
異常燃焼が原因と判定する水素混焼用電子制御装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかひとつに記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記第1所定値及び前記第2所定値は、前記エンジンの履歴情報、前記エンジンの運転条件又は当該エンジンが設置される環境条件のいずれかひとつ以上の情報に基づき設定される水素混焼用電子制御装置。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれかひとつに記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記所定サイクル数は、前記エンジンの履歴情報、前記エンジンの運転条件又は当該エンジンが設置される環境条件のうち少なくともひとつの情報に基づき設定される水素混焼用電子制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記エンジンは複数の気筒を有し、
前記気筒毎の前記極値タイミング及び前記極値に基づき、異常燃焼である気筒を抽出する水素混焼用電子制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記複数の気筒のうち、異常燃焼と判断された気筒の前記水素の混合割合を変化させる水素混焼用電子制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の水素混焼用電子制御装置であって、
前記エンジンの燃焼状態を判定した場合、
燃焼異常が発生した気筒、前記エンジンの水温、吸気温度、吸気湿度、燃料の噴射時期、及び点火時期のうち少なくともひとつを履歴情報として記憶装置に記憶する水素混焼用電子制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の水素混焼用電子制御装置と、
複数の水素混焼用のエンジンと、前記水素混焼用電子制御装置に情報を提供するエネルギーマネジメントシステムと、を備える発電システムであって、
前記水素混焼用電子制御装置は、前記エンジンが設置される環境条件、当該発電システムに供給可能な水素量、又は前記履歴情報のうち少なくともひとつの情報に基づき、前記複数の水素混焼用のエンジンのそれぞれへの水素供給量を決定する発電システム。
【請求項13】
請求項11に記載の水素混焼用電子制御装置と、
複数の水素混焼用のエンジンと、前記水素混焼用電子制御装置に情報を提供するエネルギーマネジメントシステムと、を備える発電システムであって、
前記エネルギーマネジメントシステムは、前記エンジンが設置される環境条件に基づき、前記水素混焼用電子制御装置に供給する水素量の計画である水素供給計画を作成し、
前記水素混焼用電子制御装置は、当該水素供給計画に基づき、前記複数の水素混焼用のエンジンの前記水素の混合割合を決定する発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素混焼用電子制御装置及びそれを用いた発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用を削減するための脱炭素システムとして、再生可能エネルギーで生成した水素を活用した水素混焼のエンジンシステムが、発電用やコジェネレーション向けなどで検討されている。水素は燃焼速度が従来の炭化水素燃料の約7倍以上であることから、水素の供給を調整することで熱効率を向上させることが可能である。
【0003】
その一方で、水素の供給量によって燃焼タイミングが大きく変化することで、バックファイア、アフターファイア、プレイグニション、ノッキングといった異常燃焼が発生し、場合によってはエンジンが故障する虞がある。また、水素の可燃範囲を外れると、燃え切らない未燃の水素がエンジンの外に排出されるため、熱効率の低下につながる。その場合、エンジンの外に水素が排出されることで周辺の安全面が懸念となる。
【0004】
以上より、水素を一部燃料とするエンジンにおいて、異常燃焼や失火を抑制するために、リアルタイムに燃焼状態を検出する必要がある。燃焼状態を検出する技術は、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献1には、水素を一部燃料とするエンジンにおいて、「内燃機関の制御装置は、各気筒筒内圧及びクランクアングルに基づき、各気筒におけるプレイグニッション/バックファイアの発生の有無を検知し、プレイグニッションの発生が検知された各気筒に対しては、燃焼速度を上昇させるための制御を行い、バックファイアの発生が検知された各気筒に対しては、筒内温度を低下させるための制御を行う」ことが記載されている。
【0006】
特許文献2には、筒内圧センサを用いずに既存のクランク回転速度の極値タイミングを検出し、燃焼タイミングを推定する手法が記載されている。例えば、「内燃機関のクランク回転速度を算出する回転速度算出部と、前記回転速度算出部により算出されたクランク回転速度の極値タイミングを算出する極値タイミング算出部と、前記極値タイミング算出部により算出されたクランク速度の極値タイミングに基づいて燃焼状態を推定する燃焼状態推定部と、を備える」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-130473号公報
【特許文献2】特開2020-190234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、筒内圧センサが気筒毎に必要であり、追加コストがかかる。また、筒内圧センサを燃焼室に接続するためのスペースの確保及び加工が必要となる。
特許文献2に記載の方法ではMFB50タイミング(燃焼重心タイミング)を検出することが可能であるが、ノッキングやプレイグニッションといった異常燃焼をリアルタイムに検出することが難しい。また、クランク軸には全ての気筒が接続されていることから、気筒毎のMFB50タイミングの判別が難しいという課題がある。
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、筒内圧センサ等を追加することなく水素混焼エンジンの燃焼異常判定を気筒毎にリアルタイムに実施可能な水素混焼用電子制御装置及びそれを用いた発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水素混焼用電子制御装置は、第一燃料をエンジンに供給する第一燃料供給装置と、水素を一部含む燃料を第二燃料として前記エンジンに供給する第二燃料供給装置と、を有する水素混焼用のエンジンの燃焼室で混焼する水素の混合割合を制御する水素混焼用電子制御装置であって、エンジンのクランク軸の回転時間を検出するクランク角センサと、クランク角センサの検出結果に基づき、クランク軸の回転時間の極値及び極値タイミングを演算する演算部と、を備え、極値及び極値タイミングに基づき、エンジンの燃焼状態を判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筒内圧センサ等を追加することなく水素混焼エンジンの燃焼異常判定を気筒毎にリアルタイムに実施可能な水素混焼用電子制御装置及びそれを用いた発電システムを提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】水素を一部燃料とするエンジンシステムの概略図である。
【
図2】エンジンの燃焼圧力波形の100サイクル平均を示す図である。
【
図3】1サイクル毎の燃焼圧波形の一例を示す図である。
【
図4】気筒、クランク軸、カムシャフト及びコントローラの配置例を示す図である。
【
図5】水素混焼用電子制御装置12の内部構成例を示すブロック図である。
【
図6】電磁ピックアップを用いた方式における電磁ピックアップの信号の例を示す図である。
【
図7】4気筒エンジンの場合の回転時間プロファイルの一例を示した図である。
【
図8】水素混焼用電子制御装置の制御フローを示す図である。
【
図9】回転時間の極値及び極値タイミングを用いた燃焼異常判定を示す図である。
【
図10】極値タイミングと燃焼重心との相関関係を示す図である。
【
図11】
図11Aは正常燃焼時のサイクル毎のプロット点を示す図であり、
図11Bは異常燃焼時のサイクル毎のプロット点を示す図である。
【
図12】それぞれの気筒における極値タイミング(Ha)と極値(Hb)の関係を示した図である。
【
図13】極値タイミングのバラツキと極値の所定サイクルにおける平均値との関係を示した図である。
【
図14】
図14Aは余剰電力が発生する場合の太陽光発電量の推移と電力需要の推移の一例を示す図であり、
図14Bは余剰電力が発生しない場合の太陽光発電量の推移と電力需要の推移の一例を示す図である。
【
図15】所定の気筒における極値(Hb)と極値タイミング(Ha)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、水素を一部燃料とするエンジンシステム20の概略図である。このエンジンシステム20には、水素を燃料の一部に用いるエンジン18を含む。
エンジンシステム20では、インジェクタ4(燃料噴射装置の一例)により、第一燃料、例えば炭化水素燃料が燃焼室2内に直接噴射される。燃焼室2に供給された第一燃料は、ピストン1で圧縮されて高温及び高圧になり、その状態で第一燃料が自己着火燃焼することでピストン1にトルクが発生する。ピストン1の上下運動はクランク軸17の回転運動に変換される。クランク軸17には、発電機(不図示)が接続され、クランク軸17の回転に伴い発電機が発電する。
【0014】
エンジン18の吸気管には、スロットルバルブ3が設けられており、エンジン制御コントローラ11によりスロットルバルブ3の開度が調整されることで、吸気管から燃焼室2に吸気される空気量が変化する。スロットルバルブ3の開度は、不図示の開度センサにより検出され、エンジン制御コントローラ11に出力される。
【0015】
第二燃料であるガス燃料は、エンジンの吸気管に流量調整装置6により供給され、空気と混合された状態で燃焼室2に供給される。燃焼室2内で第一燃料の自己着火燃焼により第二燃料と空気の予混合気は加熱され、燃焼する。このような第一燃料及び第二燃料の燃焼を、「デュアル燃焼」と呼んで以下に説明する。
【0016】
第二燃料は水素を一部燃料とするガスであり、例えば、水素リッチガス、水素が一部含まれる天然ガス、水素が一部含まれるバイオガス、水素が一部含まれる合成ガス、アンモニア、改質ガス等である。改質ガスとは、例えば天然ガス、バイオガス、エタノールなどのバイオ燃料、アンモニア、合成燃料を改質したガスである。水素生成装置5と流量調整装置6は、水素を一部含む燃料を第二燃料としてエンジン(エンジン18)に供給する第二燃料供給装置の一例として用いられる。
【0017】
水素生成装置5としては、例えば、水を水素と酸素に分解する電気分解装置、または触媒が挿入された改質器等が用いられる。水素生成装置5が電気分解装置の場合、供給する電気は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーから生成された電気が活用される。水素生成装置5が改質器の場合、改質器には炭化水素系燃料もしくはアンモニアが供給され、改質器にはエンジンの排気熱、冷却水熱のいずれか一つ又は両方が供給される。
【0018】
水素混焼用電子制御装置12は、改質器に電気を供給して、改質器を動作させてもよい。また、水素生成装置5と流量調整装置6との間には水素貯蔵装置(不図示)を設けてもよい。ここで、水素貯蔵装置とは、例えば、水素用のタンク、水素吸蔵合金、及び有機ハイドライドである。水素貯蔵装置は、水素生成装置5が生成した水素を貯蔵し、流量調整装置6からの要求により水素を取り出すことができる。水素吸蔵合金又は有機ハイドライドを使用する場合は、エンジンの排気熱、冷却水熱のいずれか一つ又は両方が供給される。
【0019】
エンジン制御コントローラ11は、エンジンの回転タイミングを検出するクランク角センサ7とカムセンサ8の信号に基づき、インジェクタ4の第一燃料の噴射タイミングを制御する。第一燃料の噴射タイミングは、エンジンの回転数、トルク、排気中の酸素濃度センサ10の信号に基づき制御される。第二燃料は、一部水素を含むため、第二燃料と空気の予混合気は、量論比率よりも空気過剰な割合、つまり高空気過剰率条件においても、デュアル燃焼が成立する。そのため、従来のディーゼル燃焼用のエンジンの吸気に第二燃料を追加することでデュアル燃焼が成立する。
【0020】
水素混焼用電子制御装置12は、上述した第一燃料供給装置と、第二燃料供給装置とを有する水素混焼用のエンジン(エンジン18)の燃焼室(燃焼室2)で混焼する水素の混合割合を制御する装置である。水素混焼用電子制御装置12は、クランク角センサ7とカムセンサ8の検出結果に基づき、エンジンの燃焼タイミングを検出する。そして、水素混焼用電子制御装置12は、検出されたエンジン18の燃焼タイミングに基づき、流量調整装置6及び水素生成装置5を制御し、エンジン18に供給される水素の流量を制御する。
【0021】
エネルギーマネジメントシステム13は、水素混焼用電子制御装置12、及び、複数の水素混焼用のエンジンと共に、発電システムを構成するものである。エネルギーマネジメントシステム13は、エンジンシステム20とは別に設けられており、再生可能エネルギーを含むエネルギーと、エンジンシステム20で用いられる燃料エネルギーとの全体のエネルギーを管理する。例えば、エネルギーマネジメントシステム13は、太陽光発電システム等で発電される再生可能エネルギーと、水素混焼用電子制御装置12が制御するエンジンシステム20の燃料エネルギーとの全体を管理する。
このため、一つのエネルギーマネジメントシステム13は、複数のエンジンシステム20のエネルギーを管理することが可能である。例えば、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、工場に設けられており、エネルギーマネジメントシステム13は、同じ工場又はクラウド上に設けられている。このため、エネルギーマネジメントシステム13は、互いに離れた場所に設置されるエンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12のエネルギーを管理することもできる。
【0022】
水素混焼用電子制御装置12は、再生可能エネルギーを含むエネルギーマネジメントシステム13と情報を通信する機能を有しており、エネルギーマネジメントシステム13のエネルギーの需給バランスに基づき、流量調整装置6及び水素生成装置5を制御する。
【0023】
水素混焼用電子制御装置12で検出したエンジンシステムの状態や制御実施内容をエネルギーマネジメントシステム13に通信することで、エネルギーマネジメントシステム13での水素生成計画を策定することが可能となる。水素混焼用電子制御装置12はエンジン制御コントローラ11の内部に実装しても良い。エンジン運転時の吸気温度及び水温は温度検出装置14及び15で検出する。また温度検出装置14は吸気の湿度を検出する機能を有してもよい。
【0024】
図2は、エンジンの燃焼圧力波形の100サイクル平均を示す図である。
図2の横軸はクランク角[deg.ATDC]を、縦軸は筒内圧[MPa]を示す。エンジン18に供給される全燃料中の水素の割合である水素混合割合を0%、20%、40%、55%、60%と変化させ、測定された燃焼圧の100サイクル平均が燃焼圧波形として示される。
【0025】
図2に示されるように、水素混合割合が高くなるにつれ、燃焼圧力が早いタイミングで立ち上がり、最大圧力が高くなると共に、燃焼重心タイミング(図中のプロット点)が早期化することが分かる。燃焼重心タイミングは、燃焼による熱発生量が、供給した燃料の発熱量に対し50%に到達した時点と定義される。水素の混合割合が55%と60%とを比較すると、水素混合割合は5%の増加にも関わらず、最大圧力の上昇及び燃焼重心タイミングに大きな差が生じており、その結果、燃焼圧波形が大きく異なることが分かる。これは、水素混合割合が60%の場合に、異常燃焼が起きているサイクルが含まれることに起因する。
【0026】
図3は、1サイクル毎の燃焼圧波形の一例を示す図である。
図3の横軸は時間を示し、縦軸は燃焼圧を示す。
図3の上部には、水素混合割合が60%における1サイクル毎の燃焼圧波形の例が示される。そして、
図3の燃焼圧波形の左端の矩形枠30に含まれる燃焼圧波形の拡大図を
図3の下部に示す。
図3に示されるように、水素混合割合が60%になると異常燃焼が起きているサイクルが多くなる。
【0027】
図3の下部に示される燃焼圧波形の頂部31は、水素混合割合が、異常燃焼が起きやすくなる所定値以上で発生したノッキング時における燃焼圧力波形の特徴を示している。水素の割合が所定以上になると、このような燃焼が起こる確率が高くなる。また、エンジンに供給する空気の温度やエンジンの冷却水の温度が高いほど、ノッキングが発生する確率が高くなる。また、その他の異常燃焼として、エンジンの燃焼室内の温度の高い部材に接触した際に発生する熱面着火により、所定よりも早いタイミングで燃焼するプレイグニッションが挙げられる。プレイグニションも、ノッキング同様、水素の割合、吸入空気温度及び冷却水温度が高い条件で発生しやすくなる。
【0028】
これらの異常燃焼がエンジン18で起こると、燃焼重心タイミングが正常なタイミングの範囲で制御できないために、熱効率が悪化するほか、燃焼室2内の圧力の立ち上がりタイミングが高くなることや、高周波数の圧力脈動が発生することでエンジンが故障する虞がある。そこで、エンジンの故障を防ぐために、水素の供給量を小さくするといった調整制御を実施する必要がある。
【0029】
上述の通り、異常燃焼は外気温度の変化といった環境条件や、エンジンの過渡的な変化時に発生する。そこで、エンジン制御コントローラ11及び水素混焼用電子制御装置12は、エンジン18の燃焼をリアルタイムに検出し、燃焼状態を把握する必要がある。
【0030】
また別の課題として、第二燃料の供給量が小さく、水素混合割合が低い場合には供給した水素を含む第二燃料の一部が燃焼室で燃焼せずにそのまま排気される場合がある。例えば、
図2において、水素混合割合0%と20%を比較すると、ほとんど波形に変化がない。このような条件では水素を含む第二燃料が燃焼に寄与しないため、エンジンの熱効率が低下する。また未燃水素がエンジンの外に排出されることで、安全上の問題が懸念される。
【0031】
上述したように、水素混合割合が低い条件で水素が未燃焼のまま排出されるケースが発生しやすい。水素は炭化水素燃料に比べて空気過剰条件で燃焼しやすい成分であるが、吸入する水素と吸入空気の混合気の空気過剰率が8~10以上になると可燃範囲外の条件になる。また、低水素混合割合時の燃焼性については、外気温度や冷却水温度によって、未燃水素が排出される閾値となる水素混合割合が変化する。さらにエンジン18の回転数、トルクといったエンジン18の運転条件によって、吸入空気の過給圧力や温度も変化することから、エンジン18の運転条件によっても、その閾値となる水素の混合割合が変化する。
こういったことから、燃焼状態をリアルタイムに検出し、燃焼室2に供給される水素の燃焼性を把握する必要がある。
【0032】
ここで、気筒毎に筒内圧センサを装着し、燃焼時の筒内圧力履歴を把握することで、燃焼状態を検出することが考えられるが、装着のための追加コストがかかることや設置スペースの問題がある。したがって、本実施例に係る水素混焼用電子制御装置では、クランク軸17の回転センサであるクランク角センサ7を使い、クランク軸17の回転時間の変化から燃焼状態を検出する。
【0033】
図4は、気筒41、クランク軸17、カムシャフト42及びコントローラの配置例を示す図である。図中に示す4本の気筒41には、「1」~「4」の数値を付している。クランク角センサ7を用い、クランク軸17の回転時間の変化から燃焼状態を検出する。カムシャフト42に接続されたカムセンサ8は、回転位置の基準を把握するために利用される。
【0034】
本実施例に係る水素混焼用電子制御装置12を
図5、
図6及び
図7を用いて説明する。
図5は、水素混焼用電子制御装置12の内部構成例を示すブロック図である。水素混焼用電子制御装置12は、フィルタ60、矩形波変換回路61、マイコン演算部62、及び記憶装置70を備える。
【0035】
図6は、電磁ピックアップを用いた方式における電磁ピックアップの信号の例を示す図である。縦軸は電圧[V]、横軸は時間を示す。
図6に示されるように、電磁ピックアップを用いた方式では、回転軸の検出歯車の回転速度に比例した周期で電圧が出力され、出力信号が矩形波変換回路61に入力される。矩形波変換回路61は、電磁ピックアップの0Vを横切る点で、矩形波のONとOFFとが切り替わる矩形波を生成し、マイコン演算部62に出力する。ホール素子を用いた場合は、出力信号をマイコン演算部62に取り込む。電磁ピックアップ、ホール素子共にギア特性やノイズを除去するためにフィルタ60を活用してもよい。
【0036】
フィルタ60は、例えば、ローパスフィルタを用いて、カットオフ周波数を10kHz以上で設定する。その他として移動平均フィルタ等を用いてもよい。
マイコン演算部62は、回転時間プロファイル演算部63、極値・極値タイミング演算部64、燃焼状態判定部65、異常燃焼気筒抽出部66、燃焼異常判定部67、及び制御モード決定部68を有する。
【0037】
回転時間プロファイル演算部63は、矩形波の立下りエッジをトリガとしてエッジ間の回転時間に相当する物理量をエッジ毎に検出し、その時間変化のプロファイルである回転時間プロファイルを取得する。なお、トリガとして立ち上がりエッジを用いてもよい。
【0038】
図7は、4気筒エンジンの場合の回転時間プロファイルの一例を示した図である。縦軸は角速度、横軸はクランク角度を示している。
図7に示されるように、4気筒エンジンの場合、クランク軸2回転の間に角速度の極値は最小と最大で4回ずつ検出される。極値・極値タイミング演算部64は、回転時間プロファイル演算部63から出力された回転時間プロファイルから、回転時間の極値タイミング(Ha)及び回転時間の極値(Hb)を演算する。このとき、フーリエ級数展開を使い、信号処理することで、電磁ピックアップの回転軸の検出歯車の個体差を無視することが可能となる。ここで、極値は最大値又は最小値のいずれでもよいが、本実施例では極値(Hb)は回転時間の最大値と定義する。
【0039】
燃焼状態判定部65では、極値タイミング(Ha)及び極値(Hb)に基づき、燃焼状態の判定を行う。
図10は、極値タイミング(Ha)と燃焼重心タイミング(MFB50タイミング)との相関関係を示す図である。
図10に示されるように、極値タイミング(Ha)は燃焼重心タイミング(MFB50タイミング)と相関関係を示す。一般的に水素混合割合が高くなるとMFB50タイミングは進角化し、それにより極値タイミング(Ha)も進角化、つまり小さい値となる。燃焼状態判定部65は、水素混合割合を大きくしたにも関わらず、極値タイミング(Ha)が変化しない場合は、水素供給により燃焼重心が進角化していないため、失火と判断する。
【0040】
一方、水素混合割合を所定以上に大きくすると、極値タイミング(Ha)は小さくなり(進角化)し、その際に、極値(Hb)が所定よりも大きくなる、もしくは極値タイミング(Ha)のバラツキが所定よりも大きくなる、という事象が発生する。この事象を、
図11A及び
図11Bを用いて説明する。
図11Aは、正常燃焼時のサイクル毎のプロット点を示す図である。
図11Bは、異常燃焼時のサイクル毎のプロット点を示す図である。それぞれの図において、縦軸は、極値(Hb)、横軸は極値タイミング(Ha)を示す。
【0041】
図11Aに示されるように、正常燃焼においては、水素混合割合を大きくした場合、極値タイミング(Ha)は小さくなる。一方、
図11Bに示されるように、異常燃焼時の極値(Hb)は、所定の値(例えば水素混合割合が小さいとき)よりも大きい値となる。また、異常燃焼時の極値タイミング(Ha)のバラツキ幅は、所定の値(例えば、正常燃焼時の極値タイミング(Ha)のバラツキ幅)よりも大きくなる。このような場合には、燃焼状態判定部65は、プレイグもしくはノッキングが発生したと判定する。
【0042】
燃焼異常判定部67では、記憶装置70に記憶されている気筒毎の燃焼異常判定値、環境条件、運転条件等の情報に基づき、極値(Hb)の所定サイクル数の平均値(AHb)の閾値及び極値タイミング(Ha)の所定サイクル数のバラツキの閾値を決定し、その情報を用いて、燃焼異常の判定を行う。
【0043】
ここで、所定サイクル数とは1サイクル以上であり、運転特性に合わせてサイクル数を決定する。たとえば、定常条件の運転においては、サイクル数を10サイクル以上に設定し、過渡条件の運転時には10サイクル以下で設定する。また、ここでバラツキとは、例えば標準偏差、分散、または変動係数のいずれかの指標を用いて閾値を決定する。平均値の閾値、バラツキの閾値は気筒毎に設定してもよい。気筒ごとに設定することにより、異常燃焼の検知を正確に行うことができる。本実施例では、バラツキは変動係数(Cv)を用いて説明する。
【0044】
図15は、所定の気筒における極値(Hb)と極値タイミング(Ha)との関係を示した図である。エンジンに供給する燃料中の水素混合割合に応じて、燃焼重心タイミング(MFB50タイミング)が変化することで極値タイミング(Ha)が変化する。具体的には水素混合割合が高くなると、極値タイミング(Ha)の値は小さくなる。つまり、進角化する。そして、水素混合割合の高い条件において、プレイグやノッキングといった異常燃焼が発生すると、極値(Hb)は大きくなり、極値の所定サイクルにおける平均値AHbの値は、閾値LHbより大きくなる。また、極値タイミングのバラツキ(Cv)が大きくなり、閾値LCv以上になる。
したがって、燃焼異常判定部67は、極値タイミング(Ha)の所定サイクルにおける平均値(AHa)が、例えば所定よりも小さくなる等の条件を満たすとき、下記の判定を実施する。
【0045】
図9は、回転時間の極値及び極値タイミングを用いた燃焼異常判定を示す図である。
AHb<LHb、かつ、Cv<LCvのとき、異常燃焼は発生していない。したがって、燃焼異常判定部67は、正常燃焼と判断する。AHb>LHb、かつ、Cv<LCvのときは、燃焼異常判定部67は、プレイグやノッキング等の異常燃焼の発生が頻繁に起きていると判定する(異常A)。この場合、燃焼トルクが所定よりも高くなり、AHbがLHbよりも大きくなる。そして燃焼重心は安定して早いタイミングで発生することからCv<LCvとなる。AHb<LHb、かつ、Cv>LCvのとき、燃焼異常判定部67は、燃焼トルクが所定値よりも大きくならないが燃焼重心が変動することから、ノッキング、または失火が発生していると判定する(異常C)。AHb>LHb、かつ、Cv>LCvのとき、燃焼トルクが所定値よりも大きくなり、かつ燃焼重心が変動することから、燃焼異常判定部67は、プレイグ、ノッキング等の異常燃焼が毎サイクルではないが発生していると判定する(異常B)。
【0046】
異常燃焼気筒抽出部66は、クランク角センサ7及びカムセンサ8の検出結果に基づき、異常燃焼している気筒の判別を行う。カムセンサ8で回転の基準位置を把握することにより、気筒毎の極値タイミング(Ha)及び極値(Hb)を抽出する。
【0047】
クランク角センサ7で回転時間を検出する際、回転速度の変化は気筒毎のトルク干渉を受ける。エンジン発電機の場合、エンジン制御コントローラ11は、エンジン18の回転数が所定範囲になるように制御する。そのため、ある気筒が燃焼異常を起こし、クランク軸17の回転速度が変化した場合、エンジン制御コントローラ11は、別の気筒がその回転速度の変化方向と逆の方向になるような制御を行う。したがって、いずれかの気筒で異常燃焼が発生すると、正常燃焼の気筒のうち異常燃焼の気筒の影響を受ける気筒が存在することとなる。エンジンの制御周期は2~10msであるため、その制御周期内で、正常燃焼の気筒が異常燃焼の気筒からの影響を受ける。
【0048】
異常発生時に気筒を特定する手法について
図12を用いて説明する。
図12は、それぞれの気筒における極値タイミング(Ha)と極値(Hb)の関係を示した図である。
図12に示されるように、異常燃焼の気筒は、極値(Hb)が大きくなり、極値タイミングのバラツキ(Cv)が大きくなる。異常燃焼の気筒に影響を受ける正常燃焼の気筒は、回転速度の変化方向と逆の方向になるような制御が行われるため、極値(Hb)が小さくなり、極値タイミングのバラツキ(Cv)が大きくなる。したがって、各気筒の極値タイミング(Ha)及び極値(Hb)を確認することで、異常燃焼をしている気筒を判定することが可能となる。
【0049】
プレイグやノッキングが所定の気筒で発生した場合、水素供給量を小さくすることで、異常燃焼の発生を抑えることができる。
図15に示されるように、一般に水素混合割合を大きくすると、極値タイミング(Ha)の値は小さくなる。異常燃焼が起きた場合は、極値(Hb)の値が大きくなり、極値タイミングのばらつき(Cv)が大きくなるため、異常燃焼を検知することができる。異常燃焼を検知した場合、水素混合割合を小さくすることにより、その運転条件における最適な水素混合割合が判定可能となる。
【0050】
また、気筒ごとに水素供給量を調整する構成としてもよい。気筒ごとに水素供給量を調整することにより、水素供給量を増やすことができ、より二酸化炭素排出量を削減することができる。気筒毎に追加する手法として、例えば、気筒毎に取り付けられた水素インジェクタの駆動パルス幅を制御することで、気筒毎に供給する水素量を調整することができる。また、気筒毎に供給する従来燃料の噴射パルス幅を調整することで従来燃料の供給量を気筒毎に調整する構成としてもよい。
【0051】
なお、本実施例では、各気筒の極値タイミング(Ha)及び極値(Hb)を確認する方法を示したが、異常燃焼している気筒の判別には、クランク角センサ7の出力信号や信号処理後の回転時間プロファイルの特徴から判定することも可能である。
【0052】
制御モード決定部68は、異常燃焼気筒抽出部66の抽出結果に基づき、エンジン18の制御モードを決定する。
図13は、極値タイミングのバラツキ(Cv)と極値の所定サイクルにおける平均値(AHb)との関係を示した図である。
制御(a)は、異常Aが発生した際に実施する制御である。プレイグ、ノッキング等の異常燃焼の発生頻度が高いために、ただちに水素供給をストップし、従来燃料だけの燃焼に切り替える。
制御(b)は、異常Bが発生した際に実施する制御である。プレイグやノッキング等の異常燃焼が毎サイクルではないが発生している状況であるために水素供給量を減少させ、水素混合割合を小さくする制御を行うことで、異常燃焼の発生をなくすことが可能である。
制御(c)は、異常Cが発生した際に実施する制御である。極値タイミングのバラツキ(Cv)の値を参照しながら水素混合割合を微調整し、その値から失火であったのか、ノッキングであったのかを判定する。水素混合割合を増加させ、Cvが小さくなった場合は、失火が原因であったと判定する。逆に水素混合割合を増加させ、Cvが大きくなった場合は、ノッキングが発生したと判定する。
【0053】
制御モード決定部68は、各制御を行う前後のエンジンの回転数、トルクといった運転条件と水素混合割合の関係を記憶装置70に保存する。
【0054】
水素混焼用電子制御装置12のマイコン演算部62では、これらの演算は記憶装置70にアクセスすることで、事前に取得した情報またはリアルタイムに取得した情報を活用して、演算精度を高めることができる。
具体的には、異常燃焼の発生の種類(
図13における異常A、B、及びC)と異常燃焼が発生した際の運転条件(エンジンの回転数、トルク、水素混合割合)、環境条件(吸気温度、水温)を運転実績として記憶装置70に記憶する。また、記憶装置70には、各種の閾値を記憶する。記憶する閾値は、例えば、極値タイミングのバラツキの閾値LCv、極値の平均値AHbの閾値であるLHbを運転条件や環境条件毎に記憶する。
【0055】
また、エネルギーマネジメントシステム13から取得した供給可能な水素量条件の閾値を記憶する構成としてもよい。水素量条件は、エネルギーマネジメントシステム13で水素生成装置の発生計画に応じて決められる。具体的には、太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量が大きく、余剰電力が発生する時間帯には多くの水素を発生することができるため、上記水素量条件の閾値は大きくなる。これらの閾値は、1s以上の周期で更新もしくは蓄積することができる。
【0056】
また、AHb、Cvを算出する際には所定サイクルを取得し、平均値及びバラツキを算出するために、所定サイクル数を記憶装置70に記憶する。こちらはエンジンが運転する際にリアルタイムに記憶するために、10ms以内の周期で記憶データが更新される。
【0057】
図8は、水素混焼用電子制御装置12の制御フローを示す図である。水素混焼用電子制御装置12は、
図8に示される判定処理を行い、その結果を基に、エンジン18に燃料を供給する流量調整装置6を制御する。
【0058】
まず、カムセンサ8及びクランク角センサ(回転センサ)7の取り込みを実施する(S801)。クランク角センサ7の信号は5Vの矩形波に変換された信号であり、エッジ毎にエッジ間の時間(回転時間)変化のプロファイルを取得する(S802)。次に、回転時間変化のプロファイルから、回転時間の気筒毎の極値タイミング(Ha)と極値(Hb)を抽出する(S803)。
【0059】
回転時間変化のプロファイルから気筒判別を行う際、タイミングの基準となるカムセンサ8を活用する。ここで、カムセンサ8の信号を取得できない場合は、所定の運転条件における極値から気筒判別を行ってもよい。例えば、燃焼が安定している条件で、水素を供給しない際の運転において、気筒毎に平均値(AHb)が異なるため、AHbの初期値と取得したAHbを比較することにより気筒判別を行うことも可能である。
【0060】
次に、所定サイクルの極値の平均値(AHb)と、極値タイミングのバラツキ(Cv)を算出する(S805)。所定サイクルは、1サイクル以上200サイクル以下の範囲内で選定し、S804で取得した運転条件、環境条件に応じて選定する。
例えば、定常運転が主体の場合、上記所定サイクルは10サイクル以上の値を選定し、過渡変化が大きい運転の場合は上記所定サイクルの値は10サイクル以下の値を選定する。過渡変化する運転の場合は、エンジンの運転を同条件で取得するためには、サイクル数を小さくする必要がある。そして取得したデータと運転条件をセットで記憶装置70に蓄積し、過去の同運転条件のデータと組み合わせて判定を行う。
【0061】
一方、定常運転時には10サイクル以上の値を選定し、分析精度への影響度に合わせてサイクル数を大きくする。例えば、分析精度が低い場合はサイクル数を100~200と大きくし、逆に分析精度が高い場合は10~50サイクルにて行う。これにより、異常検知までの時間を短くしつつ、分析精度を向上することが可能となる。
【0062】
取得サイクル数が小さいほど、リアルタイムに判定できるため、突発的な異常燃焼に対応可能である。またサイクル数が低いほど、記憶装置70に取得するデータ量を小さくできる。一方、分析の精度が低い場合は取得サイクル数が高いほど、精度を高めることが可能となる。たとえば、燃料性状の変化やエンジン部品の状態変化などで上記の精度は変化するため、エンジンの運転条件、環境条件が同じであるにも関わらず、その分析結果のバラツキ(分散、標準偏差、変動率のいずれかを指標とする)が大きくなることがある。したがって、そのような場合には、取得サイクル数を高くすることにより分析精度を高めることが可能となる。
【0063】
S805で算出した極値タイミング(Ha),極値(Hb)の平均値であるAHa、AHb及び極値タイミングのバラツキ(Cv)の結果を基に異常燃焼の有無を確認する(S806)。次に、失火、プレイグ、ノッキングのいずれか燃焼異常を検知した場合、異常発生の気筒を特定した後(S807)、異常気筒の異常モードを決定する(S808)。さらに、異常燃焼している気筒の特定結果を基に、制御モードを決定する(S809)。
【0064】
水素量条件はエネルギーマネジメントシステム13で水素生成装置の発生計画に応じて決められる。水素は、再生可能エネルギーが大量に発電でき、余剰電力が大きい場合に水素生成量が大きくなる。
図14Aは、余剰電力が発生する場合の太陽光発電量の推移と電力需要の推移の一例を示す図である。
図14Bは、余剰電力が発生しない場合の太陽光発電量の推移と電力需要の推移の一例を示す図である。
【0065】
図14Aに示されるように、気象予測、電力需要予測により太陽光発電量が電力需要量を上回る時間帯が発生すると、余剰電力を水素の生成に利用できる。一方、
図14Bに示される通り、気象予測により天気が雨や曇りと予測され、太陽光発電が電力需要を下回る場合は、水素の生成に利用できる電力は少なくなる。
【0066】
このように、気象予測や電力需要予測を基に、余剰電力が発生する時間帯や規模が大きくなる場合、水素生成量を大きく計画されることから、本システムに供給可能な水素量は大きくなり、水素量条件の閾値は大きくなる。
【0067】
エネルギーマネジメントシステム13は、日単位、週単位又は月単位の水素供給量予測のデータを有しており、これらの予測データをもとにエンジン18に供給可能な水素量を決定することができる。したがって、エネルギーマネジメントシステム13は、環境条件に基づき、水素混焼用電子制御装置12に供給する水素量の計画である水素供給計画を作成し、水素混焼用電子制御装置12は、当該水素供給計画に基づき、エンジン18の水素の混合割合を決定する構成とすることができる。
【0068】
なお、水素混焼用電子制御装置は、エンジンシステム20に複数のエンジン18が含まれる場合は、エネルギーマネジメントシステム13で供給可能な水素量に対して、各エンジン18に供給可能な水素量の割り当てを行う機能を持つ構成としてもよい。これにより、エンジン18の状態に合わせて最適な水素量を各エンジン18に割り当てることができ、エンジン18の特性や環境変化に合わせ、水素の供給量を適正に制御できる。これにより、異常燃焼が起こらない範囲で水素供給量を制御することができ、エンジンの特性や環境変化に合わせ、水素の供給量を適正に制御できる。また、水素の供給量を最大化することでエンジン18から排出されるCO2の削減量を最大化することが可能となる。
【0069】
最後に、燃焼異常の状態(失火、プレイグ、ノッキング)に対応する極値タイミング(Ha)、極値(Hb)の閾値と燃焼異常が発生した気筒、所定サイクルの極値タイミング(Ha)のバラツキ(Cv)、エンジン18が設置される環境条件、運転条件(例えば、エンジンの水温、吸気温度、吸気湿度、燃料の噴射時期、点火時期等)等を履歴情報として記憶装置70に記憶する(S810)。記憶装置70に記憶した情報を活用することで、外気温度、湿度といった外部環境やエンジンの経年変化に対応した高精度な異常判定が可能となる。
【0070】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するためにシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…ピストン、2…燃焼室、4…インジェクタ、5…水素生成装置、6…流量調整装置、7…クランク角センサ、8…カムセンサ、11…エンジン制御コントローラ、12…水素混焼用電子制御装置、13…エネルギーマネジメントシステム、17…クランク軸、18…エンジン、20…エンジンシステム、41…気筒、60…フィルタ、61矩形波変換回路、62…マイコン演算部、63…回転時間プロファイル演算部、64…極値・極値タイミング演算部、65…燃焼状態判定部、66…異常燃焼気筒抽出部、67…燃焼異常判定部、68…制御モード決定部、70…記憶装置