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  • 特開-抗体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084009
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】抗体組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/16 20060101AFI20230609BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20230609BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230609BHJP
【FI】
A61K49/16
G01N33/531 B
C07K16/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198067
(22)【出願日】2021-12-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 隆司
(72)【発明者】
【氏名】北澤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 信幸
(72)【発明者】
【氏名】磯部 正治
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA19
4C085HH20
4C085JJ02
4C085KA04
4C085KA16
4C085KB42
4C085KB74
4C085LL20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】物理的ストレスによる抗体の凝集を効果的に抑制可能である組成物の提供。
【解決手段】配列番号1に示されるアミノ酸配列又はこれに対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列又はこれに対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物。
【請求項2】
モルモット抗体のFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物。
【請求項3】
前記抗体が6.85以上の等電点(pI)を有する、請求項1又は2に記載の抗体組成物。
【請求項4】
前記抗体が7.35以上の等電点(pI)を有する、請求項1~3のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項5】
前記抗体が8.45以上の等電点(pI)を有する、請求項1~4のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項6】
前記抗体組成物全体に対する前記界面活性剤の濃度が0.001~1%(w/v)である請求項1~5のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項7】
前記抗体組成物全体に対する前記界面活性剤の濃度が0.01~0.3%(w/v)である請求項1~6のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤である請求項1~7のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種類の界面活性剤である請求項1~8のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤がTween-20、Tween-80、TritonX-100、及びポロキサマー188からなる群より選ばれる少なくとも1種類の界面活性剤である請求項1~9のいずれかに記載の抗体組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の抗体組成物を含む診断薬用キット。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の抗体組成物を含む研究試薬用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中の抗体は、貯蔵時に構造変化を起こしやすい。構造変化に関与するプロセスは、物理的なもの(例えば、四次、三次、又は二次構造の喪失、凝集、粒子形成など)と化学的なもの(すなわち、共有結合的変化を伴うプロセス、例えば、脱アミド化、アスパラギン酸異性化、酸化、加水分解的クリッピングなど)に分けることができる。構造変化物(例えば、可溶性凝集種、不溶性凝集種、及び化学修飾変種など)の各々は、抗体の生物学的活性、毒性、又は免疫原性に影響を及ぼし得る。
【0003】
医薬用抗体にはマウス抗体が多く用いられるが、免疫原性を低下させるために抗体のヒト型化が行われており、ヒト型化マウス抗体が医薬抗体では主流となっている。医薬用抗体においては、安定性の面も厳しく管理する必要があり、安定性の高い抗体水溶液を得るために、抗体配列自体の最適化又は組成の最適化が試みられている。例えば、ヒト型化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体を含む溶液に界面活性剤を添加することを特徴とする、限外濾過における当該溶液中の凝集物の生成又は白濁化の抑制方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
診断薬用抗体又は研究試薬用抗体においては、マウス抗体又はウサギ抗体が多く用いられる。診断薬用抗体又は研究試薬用抗体においては、免疫原性や安全性に対する要求が低いため、抗体配列自体の最適化は一般的になされていない。また組成の最適化に関しても一般的には実施されていない。
【0005】
近年、モルモットを免疫動物として診断薬用抗体又は研究試薬用抗体を取得した報告がなされている(特許文献2)。モルモットから取得した抗体が抗原に対して高い反応性を有することが示されているが、その安定性に関しては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4812228号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/292407号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、モルモット抗体を含む組成物の安定性を調べたところ、モルモット抗体はマウス抗体と比較して組成物(例えば一般的な緩衝液)中での安定性が低く、低濃度であっても物理的ストレスにより凝集体が生じやすいことを見出した。さらに、本発明者らは、Fc領域の配列に由来する物性(特に等電点)の違いなどにより、マウス抗体と比較してモルモット抗体の組成物中での安定性が低下することを見出した。したがって、本発明は、特定のFc領域を有する抗体を含む組成物であって、物理的ストレスによる前記抗体の凝集を効果的に抑制可能である組成物の提供を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、特定のFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む組成物が、物理的ストレスによる前記抗体の凝集を効果的に抑制できることを見出し、斯かる知見を基に更に鋭意研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、代表的には、以下の態様を包含する。
項1.
配列番号1に示されるアミノ酸配列又はこれに対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物。
項2.
モルモット抗体のFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物。
項3.
前記抗体が6.85以上の等電点(pI)を有する、項1又は2に記載の抗体組成物。
項4.
前記抗体が7.35以上の等電点(pI)を有する、項1~3のいずれかに記載の抗体組成物。
項5.
前記抗体が8.45以上の等電点(pI)を有する、項1~4のいずれかに記載の抗体組成物。
項6.
前記抗体組成物全体に対する前記界面活性剤の濃度が0.001~1%(w/v)である項1~5のいずれかに記載の抗体組成物。
項7.
前記抗体組成物全体に対する前記界面活性剤の濃度が0.01~0.3%(w/v)である項1~6のいずれかに記載の抗体組成物。
項8.
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤である項1~7のいずれかに記載の抗体組成物。
項9.
前記界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種類の界面活性剤である項1~8のいずれかに記載の抗体組成物。
項10.
前記界面活性剤がTween-20、Tween-80、TritonX-100、及びポロキサマー188からなる群より選ばれる少なくとも1種類の界面活性剤である項1~9のいずれかに記載の抗体組成物。
項11.
項1~10のいずれかに記載の抗体組成物を含む診断薬用キット。
項12.
項1~10のいずれかに記載の抗体組成物を含む研究試薬用キット。
なお、本明細書において、配列番号1に示されるアミノ酸配列は、下記の通りである。SARTTAPSVFPLAASCVDTSGSMMTLGCLVKGYFPEPVTVKWNSGALTSGVHTFPAVLQSGLYSLTSMVTVPSSQKKATCNVAHPASSTKVDKTVEPIRTPQPNPCTCPKCPPPENLGGPSVFIFPPKPKDTLMISLTPRVTCVVVDVSQDEPEVQFTWFVDNKPVGNAETKPRVEQYNTTFRVESVLPIQHQDWLRGKEFKCKVYNKALPAPIEKTISKTKGAPRMPDVYTLPPSRDELSKSKVSVTCLIINFFPADIHVEWASNRVPVSEKEYKNTPPIEDADGSYFLYSKLTVDKSAWDQGTVYTCSVMHEALHNHVTQKAISRSPGK
【発明の効果】
【0010】
本発明により、例えば、特定のFc領域を有する抗体を含む組成物であって、物理的ストレスによる前記抗体の凝集を効果的に抑制可能である組成物を提供することができる。当該組成物は、診断薬、研究試薬などの用途に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、等電点マーカー(レーンM)、マウスモノクローナル抗体(レーン1)、並びに、モルモットモノクローナル抗体A及びB(レーン2及び3)の等電点電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗体組成物は、一実施形態において、配列番号1に示されるアミノ酸配列又はこれに対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む(又はそれからなる)Fc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物であることが好ましい。前記Fc領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列又はこれに対して85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む(又はそれからなる)ことが好ましい。
【0013】
本発明の抗体組成物は、一実施形態において、モルモット抗体のFc領域を有する抗体及び界面活性剤を含む抗体組成物であって、(1)前記抗体組成物全体に対する前記抗体の濃度が10mg/mL以下である、及び/又は、(2)前記抗体組成物の濁度OD660が0.01未満である抗体組成物であることが好ましい。前記抗体はモルモット抗体の定常領域を有することが好ましい。また、前記抗体はキメラ抗体であっても完全モルモット抗体であってもよい。
【0014】
本発明の抗体組成物は、任意の形態であってよく、例えば、溶液、懸濁液又は分散液などの液状であってもよいし、抗体溶液の凍結乾燥などによって得られる凍結乾燥品などの固形状又は半固形状であってもよい。これらの中でも抗体組成物は、液状であることが好ましく、水溶液などの溶液であることが好ましい。
【0015】
本発明の抗体組成物中の抗体は、最も広い意味で使用され、特定のFc領域を有する限り特に制限されない。前記抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよい。また、前記抗体は、全長抗体であってもよく、scFv-Fc、dAb-Fcなどの抗体断片であってもよい。これらの中でも前記抗体はモノクローナル全長抗体であることが好ましい。
【0016】
モノクローナル抗体とは、単一クローンの抗体産生細胞が分泌する抗体であり、モノクローナル抗体を構成するアミノ酸配列(1次構造)が均一であるものをいう。
【0017】
モノクローナル抗体はいかなる方法で製造されたものでもよい。モノクローナル抗体は、例えば、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体であってもよい。
【0018】
モノクローナル抗体は、例えば、哺乳類の脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合させるハイブリドーマ法、抗体ファージライブラリーから標的分子に対して親和性を有する抗体を選択するファージディスプレイ法等でも作製することができ、免疫動物(好ましくは、モルモット)から抗原特異的形質細胞を選別し、抗体遺伝子(全長又は可変領域等の一部)を単離して、抗原に親和性の高い組換え抗体を取得する方法によっても作製できる。
【0019】
抗原特異的形質細胞を選別する方法としては、例えば、米国特許出願公開第2014/031528号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法、及び米国特許出願公開第2018/292407号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法が挙げられる。
【0020】
抗原特異的形質細胞から抗体遺伝子を取得する方法としては、例えば、ハイブリドーマ法、抗体遺伝子のクローニング等が挙げられるが、これらに限定されない。後者の方法としては、例えば、抗原特異的形質細胞からmRNAを抽出して逆転写を行い、cDNAを合成することで抗体遺伝子を取得する方法等が挙げられ、例えば、米国特許出願公開第2011/020879号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法であってもよい。当該方法は、磁気ビーズを用いて抗原特異的形質細胞からmRNAを抽出し、RT-PCRにより抗体遺伝子を取得する方法であり、任意に洗浄工程を含む、mRNAからのcDNA合成、DNAの増幅等の複数の逐次反応を並列的に実施できる反応治具を利用する方法である。
【0021】
抗体遺伝子から組換え抗体を取得する方法は、例えば、抗体遺伝子を含む抗体発現ベクターを作製し、この抗体発現ベクターから抗体を発現させる方法であってもよい。当該方法としては、例えば、米国特許出願公開第2013/023009号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法、及び米国特許出願公開第2011/117609号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法等が挙げられる。前者の方法では、標的遺伝子配列を含むPCR増幅産物に一つ以上の二本鎖DNA断片を連結させることで、前記PCR増幅産物を精製することなく、目的とする標的遺伝子に由来する配列を含む連結DNA断片を特異的に作製できる。後者の方法では、線状化されたベクターの両端の相同組換え領域に、増幅用プライマーと標的遺伝子のみに存在する増幅用プライマー配列の内側の配列を保持させることで、標的DNA断片を選択的に相同組換えしてベクターを構築できる。
【0022】
本発明の抗体組成物中の抗体は、上記の方法によって取得した抗体又はその断片のアミノ酸配列情報に基づき、遺伝子工学的手法により得ることもできる。例えば、軽鎖CDR1~3が上記の方法によって取得した抗体の軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列に対してそれぞれ80%以上の同一性を有し、且つ、重鎖CDR1~3が上記の方法によって取得した抗体の重鎖CDR1~3のアミノ酸配列に対してそれぞれ80%以上の同一性を有するように設計した抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、当該分野で公知の任意の宿主細胞で発現させること等によっても取得することができる。
【0023】
抗体を取得する免疫動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒト、ヒツジ、ウシ、イヌ、ロバ、ニワトリ、ネコ、ハムスター、サル、ブタ、ウマ、モルモットなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、製造される抗体の等電点が高い傾向を有し、当該抗体の物理的ストレスによる凝集を特に抑制する観点からモルモットが好ましい。またファージディスプレイなどの遺伝子工学的手法によって取得される抗体に対しても適用されうる。
【0024】
さらに、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、人為的に改変されたキメラ抗体であってもよい。抗体がモノクローナル抗体である場合は、重鎖定常領域又は軽鎖定常領域は天然に存在する重鎖定常領域又は軽鎖定常領域において1個以上のアミノ酸が欠失、付加、置換、及び/又は挿入されたモノクローナル抗体も、本発明の抗体に包含される。1個以上のアミノ酸が欠失、付加、置換、及び/又は挿入されたモノクローナル抗体は、例えば、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 82, 488 (1985)]などの周知の技術により作製できる。欠失、付加、置換、及び/又は挿入されるアミノ酸の数は特に限定されないが、1~数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個(例えば、1個、2個、3個、4個、又は5個)である。
【0025】
本発明の抗体組成物中の抗体は、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質(例えば、抗体)などを、化学的又は遺伝子工学的に直接又はリンカーを介して結合させたもの(以下、抗体の誘導体)も、本発明に使用することができる。
【0026】
本明細書において、凝集とは、抗体組成物中に目視にて判別される不溶物のことである。通常、抗体組成物の濁度OD660が0.01以上である場合に凝集が発生している。凝集の発生要因は、物理的ストレスである限り特に限定されるものではない。例えば、凝集は抗体組成物をフィルターろ過することで発生し得るものを含み、混合等により発生し得るものも含まれる。凝集は抗体組成物を孔径0.45μm以下のフィルターでフィルターろ過することで発生するものを含むことが好ましい。
【0027】
本発明の抗体組成物中の抗体の等電点(pI)は6.85以上であることが好ましく、より好ましくは7.35以上であり、更に好ましくは8.45以上である。前記抗体の等電点は、通常、11以下である。
【0028】
前記等電点は、当業者公知の等電点電気泳動により測定することが可能であり、測定方法としては、等電点電気泳動法(IEF)又はイオン交換クロマトグラフィー法(IEX)などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
等電点電気泳動法の条件として、抗体5μg及び等電点マーカーを等電点電気泳動ゲル及び等電点電気泳動用Bufferを用いて等電点電気泳動した後、加温した0.25%クマシーブリリアントブルー溶液にて浸透しながら30分間染色し、浸透しながら水での洗浄10分間を3回繰り返した後に、等電点マーカーと比較分析する方法が例示される。この際、抗体では、複数のバンドが得られるため、本条件で検出されるもっとも低pIのバンドを基準として該抗体のpIを決定することができる。
【0030】
本発明の抗体組成物中の界面活性剤とは、界面活性を有する物質であれば特に限定されない。当該界面活性剤の一例としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例:Tween-20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(例:Tween-80)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(例:Tween-60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(例:Tween-40)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例:ポロキサマー188等のポロキサマー)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンオクチルフェニルエーテル(例:TritonX-100)、ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油);ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン又はその誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等が挙げられる。当該界面活性剤の別の例としては、陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩(例:炭素原子数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩);ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(例:エチレンオキシドの平均付加モル数が2~4でアルキル基の炭素原子数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩);ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩(例:アルキル基の炭素原子数が8~18のアルキルスルホコハク酸エステル塩)等が挙げられる。当該界面活性剤の更に別の例としては、天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12~18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの界面活性剤の1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。好ましい界面活性剤は、非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤の中でも、Tween-20、Tween-40、Tweenー60、Tween-80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、Tween-20及び/又は80が特に好ましい。また、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチエレンオクチルフェニルエーテル(TritonX-100など)に代表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及び/又は、ポロキサマー(ポロキサマー188など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましく、TritonX-100及び/又はポロキサマー188が特に好ましい。界面活性剤のHLBは、特に制限されないが、6~18であることが好ましい。
【0031】
本発明の抗体組成物全体に対する界面活性剤の濃度は、凝集抑制効果などの観点を考慮すると、0.001%(w/v)以上が好ましく、0.005%(w/v)以上がより好ましく、0.01%(w/v)以上が更に好ましく、0.015%(w/v)以上が更により好ましく、0.02%(w/v)以上が更により好ましく、0.025%(w/v)以上が特に好ましい。当該界面活性剤の濃度の上限は特に限定されないが、例えば、1%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.3%(w/v)以下、又は0.2%(w/v)以下である。当該界面活性剤の濃度は、0.001~1%(w/v)であることが好ましく、より好ましくは0.005~0.5%(w/v)であり、更に好ましくは0.01~0.3%(w/v)であり、特に好ましくは0.025~0.2%(w/v)である。
【0032】
本発明の抗体組成物は、緩衝剤を含まなくてもよいが、pHを安定化するために、緩衝剤をさらに含むことが好ましい。緩衝剤は、抗体安定性を強化するように選択することもできる。好適には、緩衝剤は、リン酸、コハク酸、グリシン、ヒスチジン、クエン酸、マレイン酸、グリシン、ヒスチジン、トリス、2,4,6-トリクロロフェノール、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、酢酸、3,3-ジメチルグルタル酸、カコジル酸、イミダゾール、コリジン、ジメチルアミノエチルアミン、PIPES(ピペラジン-N,N‘-ビス(2-エタンスルホン酸))、ビストリスプロパン、エチレンジアミン、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、アルセニック酸、クロラミンクロライド、p-ニトロフェノール、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。また、緩衝剤は、適宜塩の形で水溶液に添加することもできる。例えば、リン酸の塩としては、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸カリウム(KPO)、リン酸水素カリウム(KHPO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)、並びにこれらの混合物などが挙げられる。好ましい実施形態では、抗体組成物はリン酸緩衝生理食塩水(PBSバッファー)又はクエン酸バッファーを含む。
【0033】
本発明の抗体組成物全体に対する緩衝剤の濃度は、緩衝能を有する範囲であれば特に限定されない。緩衝剤の濃度は、1~200mM、好ましくは2~100mM、より好ましくは5~50mM(mmol/L)である。例えば、緩衝剤の濃度は、10~20mM程度であってもよい。
【0034】
本発明の抗体組成物は、抗体を安定化させるために、塩をさらに含むことが好ましい。塩は、抗体安定性を強化するように選択することもできる。一実施形態において、塩は無機塩若しくは有機塩又はこれらのうちの1つ若しくは複数の組み合わせである。一実施形態において、塩は塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、アルギニン塩酸塩、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、アミノ酸、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0035】
一実施形態において、塩は塩化ナトリウム又は塩化マグネシウムであり、任意選択で他の塩と組み合わせられる。一実施形態において、塩はアルギニン塩酸塩を含む。一実施形態において、塩は無機塩及びアルギニン塩酸塩の組み合わせである。
【0036】
一実施形態において、塩はアミノ酸であり、当該アミノ酸はL-立体異性体が用いられ得る。一実施形態において、塩はアルギニン、グリシン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、アルギニン又はグリシンであることが好ましく、L-アルギニンなどのアルギニンであることがより好ましい。塩の型でも又は遊離型でも何でも適切な型のアミノ酸を抗体組成物に添加することが可能である。
【0037】
抗体組成物全体に対する塩(又は塩の組み合わせ)の濃度は、例えば、0~3%(w/v)である。抗体組成物全体に対する塩の総濃度は、好ましくは2.9%(w/v)以下であり、より好ましくは2%(w/v)以下、さらに好ましくは1.8%(w/v)以下、さらにより好ましくは1%(w/v)以下、特に好ましくは0.9%(w/v)以下である。抗体組成物全体に対する塩の総濃度は、例えば、0.01%(w/v)以上である。
【0038】
本発明の抗体組成物全体に対する抗体の濃度は、低濃度であっても物理的ストレスによる凝集が生じやすいことから、好ましくは10mg/ml以下、より好ましくは9mg/ml以下、さらに好ましくは8mg/ml以下、さらに好ましくは7mg/ml以下、さらに好ましくは6mg/ml以下、特に好ましくは5mg/ml以下である。抗体の濃度は更に低濃度であってもよく、例えば、4mg/ml以下、3mg/ml以下、2mg/ml以下、1mg/ml以下などであってもよい。当該抗体の濃度は、通常、0.1mg/mL以上である。
【0039】
本発明の抗体組成物のpHは、好ましくは4~11、より好ましくは5~10、さらに好ましくは6~9である。当該pHは、pH計により室温(例えば、25℃)で測定することができる。
【0040】
本発明の抗体組成物の濁度OD660は、0.01未満であることが好ましく、0.009以下、0.007以下、又は0.005以下であってもよい。当該OD660は、分光光度計により測定することができる。
【0041】
本発明の抗体組成物は、診断薬又は研究試薬の用途に好適に用いられるが、これらに限定されない。診断薬用途としては、特に制限されないが、例えばイムノクロマト法、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光・酵素免疫測定法、放射免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集法等が挙げられる。研究試薬用途としては、特に限定されないが、核酸増幅用試薬であることが好ましい。
【0042】
本発明は、上述したような抗体組成物を含む診断薬用キット又は研究試薬用キットを包含する。当該キットは、容器を備えていてもよく、当該容器に抗体組成物が含まれていてもよい。また、当該キットは、当該キットの使用に必要な器具や説明書を更に備えていてもよい。
【実施例0043】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は、下記実施例により、特に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
抗体の調製法
抗体発現ベクターを導入したHEK293細胞の培養上清から分泌された抗体を回収した。AKTA pure 25(Cytiva社)を用いて、培養上清をHiTrap ProteinA HPカラム(Cytiva社)に通して抗体を吸着させた。洗浄Buffer(20mM リン酸緩衝液、pH7.4)を用いて当該カラムを洗浄した後、溶出Buffer(0.1M クエン酸-NaOH、pH3.5)で溶出し、精製抗体とした。取得した精製抗体はPD-10カラム(Cytiva社、17085101)を用いて、各実施例に記載のBufferに置換して評価した。
【0045】
(実施例2)
抗体の取得
(1)抗体水溶液の作製
米国特許出願公開第2018/292407号に記載された方法に従ってモルモット又はマウスを免疫して得られたモルモットモノクローナル抗体A、B、及びマウスモノクローナル抗体を実施例1に記載の方法で精製し、Buffer(50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、pH6.0)に置換した。
(2)等電点電気泳動
上記抗体水溶液を、2×Sample Buffer(pH3-10、Invitrogen社)と等量混合し、下記条件にて電気泳動した。
ゲル:Novex IEF gel pH3-10(Invitrogen社)
マーカー:Isoelectic Focusing Calibration Kit Broad Range(pH3-10、GE社)
泳動:100V 1hr → 200V 1hr → 500V 0.5hr
洗浄:蒸留水で洗浄×3回
固定:12%TCA溶液 30min
染色:SimplyBlue SafeStainで染色 10min
脱色:蒸留水で脱色10min×3回
(3)結果
モルモットモノクローナル抗体A、B、及びマウスモノクローナル抗体の等電点電気泳動の結果を図1に示す。モルモットモノクローナル抗体Aでは等電点電気泳動のバンドが≧pI 9.30の位置に、モルモットモノクローナル抗体Bでは等電点電気泳動のバンドがpI 7.35~8.45の位置に出現したが、マウスモノクローナル抗体ではpI 5.85~6.85付近にバンドが確認され、取得したモルモットモノクローナル抗体A及びBの等電点が高いことがわかる。
また、モルモット抗体A及びBについてアミノ酸配列解析を行った。その結果、モルモット抗体ではFc領域において塩基性アミノ酸の割合が高く、このFc領域により高等電点の特徴的な抗体となっていることが推察された(モノクローナル抗体A及びBのFc領域のアミノ酸配列を配列番号1に示す)。
【0046】
(実施例3)
界面活性剤を含まない抗体水溶液の安定性確認
(1)方法
モルモットモノクローナル抗体A及びB、並びにマウスモノクローナル抗体を、表1に示す界面活性剤を含まない水溶液(PBS又は50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、pH6.0)で5mg/mL濃度となるように溶解し、抗体組成物を調製した。その後、孔径0.2μmのフィルター(KURABO社、S-2502)用いたろ過を行い、目視によりろ過後の凝集の有無を判別した。併せて、ろ過後の抗体水溶液の濁度OD660を吸光度計で測定した。これらの結果を表1に示す。凝集が見られない場合を○、凝集が見られる場合を×と表記した。
【0047】
【表1】
【0048】
(2)結果
表1から明らかなように、界面活性剤を含まない抗体水溶液において、マウスモノクローナル抗体ではフィルターろ過操作によって凝集の発生が認められなかったが、モルモットモノクローナル抗体A及びBでは、このような低濃度の抗体水溶液の場合でもフィルターろ過操作によって凝集の発生が確認された。
【0049】
(実施例4)
界面活性剤を含む抗体水溶液の安定性確認
(1)方法
モルモットモノクローナル抗体A及びBを、表2に示す界面活性剤を含む水溶液又は界面活性剤を含まない水溶液で5mg/mL濃度に溶解して、抗体組成物を調製した。さらに、モルモットモノクローナル抗体A及びBを表3に示す界面活性剤を含む水溶液で5mg/mL濃度に溶解して、抗体組成物を調製した。その後、実施例3(1)と同じ方法でフィルターろ過操作を行い、目視による凝集の有無の判別と濁度OD660の測定を実施した。結果を表2と表3に示す。凝集が見られない場合を○、凝集が見られる場合を×で表記する。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(2)結果
モルモットモノクローナル抗体A及びBを、表2に示す界面活性剤を含む水溶液にて調製しフィルターろ過操作を行って、目視により凝集の有無を判別し、更に濁度OD660を測定した結果を表2に示す。界面活性剤として0.1%(w/v)Tween80又は0.1%(w/v)Tween20を添加した結果、PBS buffer及びクエン酸バッファーでフィルターろ過操作による凝集発生が抑制されることを確認した。
【0053】
モルモットモノクローナル抗体A及びBに関して、表3に示すTween20を0.025~0.2%(w/v)の抗体水溶液としてフィルターろ過操作を行って、目視により凝集の有無を判別し、更に濁度OD660を測定した結果、フィルターろ過操作による凝集発生が抑制されることを確認した。
【0054】
(実施例5)
ELISAによる結合能評価
米国特許出願公開第2018/292407号に記載された方法に従って得られたモルモットモノクローナル抗体C(モルモット抗Taqポリメラーゼ抗体(モルモットモノクローナル抗体A及びBと同じFc領域を有するように設計された抗体))を実施例1に記載の方法で精製し、Buffer(50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、pH6.0)、又はBuffer(50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、0.05% (w/v)Tween-20、pH6.0)に置換した。このモルモットモノクローナル抗体Cの濃度は5mg/mLとした。
炭酸緩衝液を用いて、市販のマウス抗Taqポリメラーゼ抗体(TCP-101、東洋紡株式会社製)をELISAプレート(住友ベークライト社、MS-8896F)に固相化した。各ウェルを洗浄後に1%(w/v)ウシ血清アルブミン(グロブリンフリー、ナカライテスク社)を含む1×TBS(ナカライテスク社)を用いてブロッキングを実施した。各ウェルを洗浄後に1×TBS-T(ナカライテスク社)で希釈した抗原(whole Taq)を各ウェルに添加した。各ウェルを洗浄後にBufferにて希釈した高等電点を有するモルモット抗Taqポリメラーゼ抗体を各ウェルに添加した。各ウェルを洗浄後に、Goat Anti-Guinea pig IgG H&L(HRP)(Abcam社)を50000倍希釈して添加した。各ウェルを洗浄後に、TMB溶液(TMBW-1000-01、SURMODICS社)を添加して発色させ、1N硫酸(ナカライテスク社)を添加して反応を停止させたのちに、プレートリーダで450~620nmの波長を測定した。ELISAによるシグナル強度を比較した結果、モルモット抗Taqポリメラーゼ抗体のBuffer中のTween-20の有無によりシグナル強度に差違は見られなかった。
【0055】
(実施例6)
PCR試薬における抗体の機能性確認
米国特許出願公開第2018/292407号に記載された方法に従って得られたモルモットモノクローナル抗体C(モルモット抗Taqポリメラーゼ抗体(Taqポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性ドメインに結合する抗体))を実施例1に記載の方法で精製し、Buffer(50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、pH6.0)、又はBuffer(50mM クエン酸、0.9%(w/v) NaCl、0.05%(w/v) Tween-20、pH6.0)に置換した。このモルモットモノクローナル抗体Cの濃度は5mg/mLとした。
Taqポリメラーゼ及びモルモットモノクローナル抗体Cを含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、モルモットモノクローナル抗体Cが保有する性能を有するか否か確認した。
【0056】
(1)PCR反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
下記に示す組成のPCR用ミックスを調製した。
PCR用ミックス:
Taqポリメラーゼ(0.05U/μL、TAP-201、東洋紡株式会社製);
マウス抗Taqポリメラーゼ抗体
(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
50mM KCl;
1.5mM MgCl;及び
0.3mM dNTPs。
【0057】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブの混合液として、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はRPS19である。
【0058】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標)II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0059】
(2)反応
PCR用ミックスに、プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。各Bufferのモルモットモノクローナル抗体Cについては、各0.1mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.1μg)、25℃で24時間曝露した。
(反応)
反応液について、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0060】
(3)結果
反応液について、RPS19遺伝子を検出した際のCt値及びMulticomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を、表4に示す。
モルモットモノクローナル抗体Cを含まない反応液を25℃で24時間曝露した場合、RPS19遺伝子を検出できなかった。これに対して、モルモットモノクローナル抗体Cを添加して、25℃で24時間曝露した反応液では、―20℃で24時間曝露した場合と比較して、同等のCt値でRPS遺伝子を検出できた。また、モルモットモノクローナル抗体Cを添加した場合は、Tween20の有無にかかわらず、プローブ分解が抑制され、プローブ分解率は5%以下となった。このことから、モルモットモノクローナル抗体Cが有するプローブ分解抑制能が、Tween-20の添加の有無により影響を受けないことが確認された。
プローブ分解率[(F-F)÷(F-F)×100](%)
:モルモットモノクローナル抗体Cの非存在下で-20℃24時間の曝露後(25℃24時間の曝露前に相当)に測定したサイクル初期の蛍光強度
:モルモットモノクローナル抗体Cの非存在下で25℃24時間曝露した後に測定したサイクル初期の蛍光強度
:モルモットモノクローナル抗体Cの存在下で25℃24時間曝露した後に測定したサイクル初期の蛍光強度
【0061】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、水溶液中の低濃度の抗体の凝集を抑制することができ、特に有用である。本発明は、診断薬や研究試薬などの抗体を含む実験系において、抗体の凝集による悪影響を与えないため、産業上も非常に有用である。
図1
【配列表】
2023084009000001.app