(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084112
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】銀粉及び銀粉の製造方法ならびに導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230609BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20230609BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20230609BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20230609BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230609BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20230609BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20230609BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20230609BHJP
B22F 1/065 20220101ALI20230609BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/052
B22F1/068
B22F1/06
B22F9/24 E
B22F1/14
B22F1/107
B22F9/00 B
B22F1/065
B22F9/24 F
H01B1/22 A
B22F9/24
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193053
(22)【出願日】2022-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021198085
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 太郎
(72)【発明者】
【氏名】講武 裕朗
(72)【発明者】
【氏名】安部 史也
(72)【発明者】
【氏名】金杉 実奈美
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA05
4K017CA07
4K017DA07
4K017EJ01
4K017EJ02
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB04
4K018BC08
4K018BD04
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】ライン抵抗を低減可能な銀粉及びその製造方法を提供する。
【解決手段】銀粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含み、フレーク状粒子における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり、不定形粒子における平均最大長を直径とした円の面積と不定形粒子の平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり、強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、
長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含み、
前記フレーク状粒子における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり、
前記不定形粒子における平均最大長を直径とした円の面積と前記不定形粒子の平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり、
強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である銀粉。
【請求項2】
前記粒度分布における、累積90%径から累積10%径を引いた差の値と累積50%径との比が2以上である請求項1に記載の銀粉。
【請求項3】
銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、
前記第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、
前記第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、
前記第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得るフレーク化工程と、を含み、
前記表面処理剤添加工程における前記表面処理剤の添加量は、前記銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記フレーク化工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の添加量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項4】
表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得るフレーク化工程と、を含み、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記フレーク化工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の付着量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記第二銀粉は、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、前記第一銀粉の前記比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数が、前記画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率を10%以下とする請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記滑剤の添加量は前記第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における10μm以上の粒子の比率が10%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の銀粉と、樹脂と、溶剤とを含有する導電性ペースト。
【請求項9】
さらに球状銀粉を含有する請求項8に記載の導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉及び銀粉の製造方法ならびに導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成される導電パターンや基板の電極を形成するために、例えば導電性ペーストが用いられる。導電パターンなどは、導電性ペーストを所定のパターンや形状に塗布などした後、これを焼成して形成される。このような導電性ペーストは、例えば導電性粒子として銀粉を用い、当該銀粉を分散媒と共にペースト状に分散して製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、導電性ペーストが記載されている。導電性ペーストは、液状の脂肪酸によって表面処理された銀粉と、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂と、希釈剤と、を含む場合が記載されている。あるいは、導電性ペーストは、液状の脂肪酸及び固形の脂肪酸によって表面処理された銀粉と、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂と、希釈剤と、を含む場合が記載されている。銀粉の粒子形状は、例えば、球状、フレーク状、りん片状、針状等、どのような形状であってもよいし、複数の異なる形状の銀粉を混合して用いることもできるとされている。そして、銀粉の粒子の形状がフレーク状のものと、球状のものと、を混合して用いた導電性ペーストが例示されている。
【0004】
特許文献2には、銀粉などの無機粉体に含有される脂肪酸の定量分析方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-102304号公報
【特許文献2】特許第5622543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術にあっては、ライン抵抗のさらなる低減が要請される。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、ライン抵抗を低減可能な銀粉及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る銀粉は、以下のとおりである。
(1)レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、
長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含み、
前記フレーク状粒子における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり、
前記不定形粒子における平均最大長を直径とした円の面積と前記不定形粒子の平均粒子面積との比である形状係数 が1.7以上1.9以下であり、
強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である銀粉。
【0009】
(2)前記粒度分布における、累積90%径から累積10%径を引いた差の値と累積50%径との比が2以上である、上記(1)に記載の銀粉。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明に係る銀粉の製造方法は、以下のとおりである。
(3)銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、
前記第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、
前記第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、
前記第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得るフレーク化工程と、を含み、
前記表面処理剤添加工程における前記表面処理剤の添加量は、前記銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記フレーク化工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の添加量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする、銀粉の製造方法。
【0011】
(4)表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得るフレーク化工程と、を含み、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の付着量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする、銀粉の製造方法。
【0012】
(5)前記第二銀粉は、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、前記第一銀粉の前記比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数が、前記画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率を10%以下とする、上記(3)又は(4)に記載の銀粉の製造方法。
【0013】
(6)前記滑剤の添加量は前記第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下である、上記(3)から(5)の何れかに記載の銀粉の製造方法。
【0014】
(7)前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における10μm以上の粒子の比率が10%以下である、上記(3)から(6)の何れかに記載の銀粉の製造方法。
【0015】
(8)上記(1)又は(2)に記載の銀粉と、樹脂と、溶剤とを含有する導電性ペースト。
【0016】
(9)さらに球状銀粉を含有する(8)に記載の導電性ペースト。
【発明の効果】
【0017】
ライン抵抗を低減可能な銀粉及びその製造方法ならびに導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1に係る第一銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図2】実施例1に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図3】実施例1に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図4】実施例2に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図5】実施例2に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図6】実施例3に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図7】実施例3に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図8】比較例1に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図9】比較例2における10時間熱処理後の銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図10】比較例2に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図11】比較例2に係る銀粉のSEM像(1000倍)である。
【
図12】比較例3における乾燥後の銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図13】比較例3に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図14】比較例3に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図15】比較例4における熱処理後の銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図16】比較例4に係る銀粉のSEM像(2000倍)である。
【
図17】球状銀粉のSEM像(10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る銀粉及び銀粉の製造方法について説明する。
【0020】
本実施形態に係る銀粉は、導電性ペースト用の導電性フィラーとしての用途に適したものである。本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、基板上への導電パターンの形成や、電極の形成に用いることができる。本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法などにより基板上に印刷することで、導電パターンや電極などの導電膜(以下、単に導電膜と記載する場合がある)を形成することができるものである。
【0021】
以下、本実施形態に係る銀粉の詳細を説明する。
【0022】
本実施形態に係る銀粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下である。累積50%径は好ましくは4μm以下である。
【0023】
銀粉の体積基準の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定したものを採用する。本実施形態では、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT-3300EXII(以下、単に粒度分布測定装置と記載する)を用いた場合を例示して以下説明する。銀粉の粒度分布は、所定の分散媒に分散して、すなわち、湿式で測定した値を用いてよい。本実施形態では、銀粉0.1gを分散媒としてのイソプロピルアルコール40mLに加え、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-150T;19.5kHz、チップ先端直径18mm)により2分間分散させて分散液を調整した後、この分散液を粒度分布測定装置に供して銀粉の粒度分布を測定する。
【0024】
本明細書において、粒度分布に関し、累積50%径とは、いわゆるメジアン径のことである。累積50%径とは、粒度分布における、粒子径の小さい側からの粒子量の体積基準の累積が50%となる径である。同様に累積10%径は、粒度分布における、粒子径の小さい側からの粒子量の体積基準の累積が10%となる径である。累積90%径は、粒度分布における、粒子径の小さい側からの粒子量の体積基準の累積が90%となる径である。以下では、体積基準の累積10%径、累積50%径及び累積90%径をそれぞれ、D10、D50及びD90と記載する場合がある。また、10μm以上の粒子の比率についても体積基準での値である。
【0025】
本実施形態に係る銀粉は、体積基準の粒度分布における、累積90%径から累積10%径を引いた差の値と累積50%径との比が2以上とされるとよい。すなわち、銀粉の粒度分布が適度に広い。これにより、導電膜を形成した際及びその後の焼結時に粒子間が緻密になって、ライン抵抗の低減を適切に実現できる。
【0026】
本実施形態に係る銀粉の強熱減量値は、0.1wt%以上0.4wt%以下である。
【0027】
本実施形態に係る銀粉は、ライン抵抗を低減可能な導電性ペーストの導電性フィラーとして用いた場合、ライン抵抗の低減を実現できる。本実施形態に係る銀粉の強熱減量値を0.4wt%を以下とすることで、導電膜を形成した後の焼結時に空隙が生じにくくなり、粒子間が緻密になって、ライン抵抗の低減を適切に実現できる。強熱減量値を0.1wt%以上とすることで、導電パターンを形成するまでの間の銀の酸化を抑制でき、ライン抵抗の低減を適切に実現できる。また、導電性フィラーとして基材と共に分散して導電性ペースト化する際の分散性を適切に維持することができる。また、所定形状のフレーク状粒子と不定形粒子とが上記のごとく存在することで、導電膜を形成した際及びその後の焼結時に粒子間が緻密になって、ライン抵抗の低減を適切に実現できる。また、銀粉の強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%以下と小さいことで、ペースト作製時の銀量を維持しながら銀粉以外の構成の選択肢を増やす効果も有する。強熱減量値は、0.35wt%以下とすることがより好ましい。
【0028】
銀粉の強熱減量値(以下、Ig-Lossと記載する場合がある)の測定は、銀粉試料を加熱した後の試料の質量の減少量に基づいて行う。本実施形態では、まず、銀粉試料を精密に秤量(秤量値:w1)して磁性るつぼに入れ、800℃まで加熱する。そして、恒量になるのに十分な時間として800℃で30分間加熱する。その後、冷却し、再度秤量(秤量値:w2)する。そして秤量値w1、w2を次式(式1)に代入し、強熱減量値を求める。本実施形態では、秤量値w1は3gとする。
【0029】
強熱減量値(質量%)=(w1-w2)/w1×100・・・(式1)
【0030】
銀粉又は銀粒子のSEM像は、本実施形態においては、走査型電子顕微(JEOL JSM-IT300LV、日本電子株式会社製、以下、単にSEMと記載する場合がある)によって撮像した画像を用いる。
【0031】
SEM像は、後述する画像解析に供する。SEM像は、粒子の上面視における形状を把握するためのSEM像と、粒子の断面形状を把握するためのSEM像を取得する。
【0032】
粒子の上面視における形状を把握するためのSEM像の撮像に際しては、予め銀粉を分散しておき、分散させた銀粉を撮像して取得してよい。本実施形態では、SEM像の撮像に際し、銀粉0.1gを分散媒としてのイソプロピルアルコール(IPA)100mLに投入し、上記の超音波ホモジナイザーで2分間の分散処理を行って分散液を調製する。そして、この分散液をSEMのステージ上に滴下し、分散媒を蒸発させた後、SEMで測定する。本実施形態において、上面視のSEM像の倍率は、1000倍又は2000倍とする。
【0033】
SEM像中の粒子は、画像解析ソフトなどを用いて、粒子の外形全体が観察される粒子を選択して大きさや形状を解析する。本実施形態では、画像解析ソフトの一例である画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いて計測する。以下の説明では、上記の画像解析式粒度分布測定ソフトウェアを用いて行った場合の画像解析の方法や手順を説明する。
【0034】
本実施形態において、銀粒子の最大長、長径及び粒子面積は、上面視のSEM像に基づいて、画像解析によって求めた値である。本実施形態では、長径等に加えて、短径も画像解析によって求めてよい。更に、必要に応じて、銀粒子の円形度を画像解析によって求めてもよい。
【0035】
最大長は、外接する四角形の辺の長さの最大の長さである。長径は、面積が最小となる外接する四角形の長辺である。短径は、面積が最小となる外接する四角形の短辺である。粒子面積は、上面視のSEM像中の個々の粒子画像の面積、すなわち、銀粒子の投影面積である。円形度は、円形度は、粒子の投影面積と等しい面積を持つ円の周囲長の二乗を粒子画像における粒子周囲長の二乗で除した値である。
【0036】
計測においては、SEM像の1視野(一つのSEM像中)には30個以上の測定粒子が含まれるようにSEMで撮像する。SEM像は複数視野を撮像する。外形全体が観察される合計400個以上の粒子の外形をなぞることで、これら粒子の最大長、長径、短径及び粒子面積を計測する。平均最大長、平均長径、平均短径、平均粒子面積及び平均円形度は、評価の対象とした粒子の最大長、長径、短径、粒子面積及び円形度の平均値である。
【0037】
本実施形態において、形状係数とは、上記の平均最大長を直径とした仮想的な円の面積と銀粒子の平均粒子面積との比であり、当該仮想的な円の面積を平均粒子面積で除した値である。形状係数の計算式は、π(平均最大長/2)2/平均粒子面積で表される。
【0038】
本実施形態に係る銀粉は、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含む。
【0039】
本実施形態に係る銀粉は、フレーク状粒子における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上である。なお、平均厚さは粒子断面のSEM像に基づいて求めた値であり、粒子断面での測定については後述する。
【0040】
本実施形態に係る銀粉は、不定形粒子における平均最大長を直径とした円の面積と不定形粒子の平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下である。
【0041】
本実施形態において、フレーク状粒子とは、長径が6μm以上の粒子のことをいい、その形状がフレーク状である粒子のみならず、フレーク状ではない粒子も含む。本実施形態におけるフレーク状粒子の平均アスペクト比は8以上であり、長径が6μm以上の粒子の平均的な形状がフレーク状といえることから、説明の便宜として、長径が6μm以上の粒子のことをフレーク状粒子と称する。なお、フレーク状粒子の平均アスペクト比(=平均長径/平均厚さ)とは、銀粉中の銀粒子の内、長径が6μm以上の粒子のみを対象として求めたアスペクト比の平均である。
【0042】
本実施形態において、不定形状粒子とは、長径が6μm未満の粒子のことをいい、その形状が不定形状である粒子のみならず、フレーク状の粒子や不定形状ではない粒子も含む。本実施形態における不定形状粒子の形状係数が1.7以上1.9以下であり、長径が6μm未満の粒子の平均的な形状が不定形状といえることから、説明の便宜として、長径が6μm未満の粒子のことを不定形状粒子と称する。なお、不定形粒子における形状係数とは、長径が6μm未満の粒子のみを対象として求めた形状係数である。
【0043】
本実施形態において、フレーク状粒子における平均長径、であるとか、不定形粒子における平均最大長、などと記載する場合は、それぞれ、フレーク状粒子や不定形粒子のみにおける長径や最大長の平均を意味する。形状係数や平均アスペクト比を含め、その他例示を省略したものについても同様である。
【0044】
本実施形態に係る銀粉は、上記の不定形状粒子と、上記のフレーク状粒子とが、混合しており半数以上が不定形状粒子である場合を混合粉とする。混合割合としては少なくとも半数以上が不定形状粒子であり、SEM像中の粒子を観察したときに上記のように長径が6μm以上で区別したフレーク状粒子の個数割合は、1%以上20%以下であることが好ましく、1%以上13%以下とすることがより好ましい。
【0045】
本実施形態において、銀粒子の厚さは、粒子断面のSEM像に基づいて、画像解析によって求めた値である。
【0046】
粒子の断面形状を把握するためのSEM像は、銀粒子を樹脂包埋してからこれをミクロトームで切断して樹脂包埋切片を作成し、この切片中の銀粒子の断面を撮像して取得してよい。本実施形態において、粒子断面のSEM像の倍率は、2000倍とする。
【0047】
厚さは、粒子断面のSEM像中の個々の粒子画像を2組の平行線で挟んだ時の短軸の長さである。厚さの計測においては、一つの種類の銀粉につき、100個以上の粒子を撮像し、外形全体が観察される100個以上のフレーク状粒子とみられる粒子の断面(長径が6μm以上の粒子の断面)に対して、その厚さを計測する。フレーク状粒子の平均厚さは、これら粒子の厚さの平均値である。
【0048】
本実施形態において、フレーク状粒子の平均アスペクト比は、上記の平均長径を上記の平均厚さで除した値である。
【0049】
銀粉のタップ密度は、4.0g/mL以上であることが好ましい。銀粉のタップ密度は、所定量の銀粉を計量して所定容量の容器に投入し、所定の落差で当該容器を落下させる動作を所定回数行った後(以下ではタップ後と称する)の、容器中の銀粉の見かけ密度であり、容器中の銀粉の重量を、容器中の見かけの銀粉の容量で除することで求める。
【0050】
本実施形態において銀粉のタップ密度は、タップ密度測定装置(柴山科学株式会社製、カサ比重測定装置SS-DA-2)を使用し、銀粉30gを計量して、容器(20mL試験管)に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、銀粉の重量である30gを、タップ後の銀粉の見かけの体積(mL)で除した値を採用する。なお、タップ密度の単位は「g/mL」で表記する。
【0051】
本実施形態に係る銀粉は、導電性ペースト用の導電性フィラーの用途に適している。本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストの製造は、この銀粉を、基材とする樹脂(バインダ)及び溶剤に分散することにより行う。本実施形態における導電性ペーストは、本実施形態に係る銀粉と、樹脂と、溶剤とを含有する。また、本実施形態における導電性ペーストは、本実施形態に係る銀粉とは別に、さらに球状銀粉を含有することが好ましい。本実施形態に係る銀粉に対する球状銀粉の混合割合は、重量比で1:9~9:1とすることが好ましく、4:6~8:2とすることがより好ましい。
【0052】
ここで、導電性ペーストとする際に本実施形態に係る銀粉と混ぜて用いる球状銀粉とは、上記にようにSEM像に基づく画像解析によって観察した400個以上の粒子の形状係数の平均が1.0以上1.7未満の範囲内にある銀粉をいう。球状銀粉は、形状係数の平均が1.65以下であることが好ましい。球状銀粉は不定形銀粉よりも球状に近い形状を有している。球状銀粉の平均アスペクト比は1.5以下であることが好ましい。SEM像に基づく画像解析によるHeywood径の平均が0.1~1.0μmであることが好ましい。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%(D50)は、0.3~1.3μmであることが好ましい。
【0053】
導電性ペーストの製造に用いる樹脂の一例は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチルセルロースである。樹脂は、2種以上を同時に用いてもよい。
【0054】
導電性ペーストの製造に用いる溶剤、すなわち分散媒の一例は、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールである。溶剤は、2種以上を同時に用いてもよい。
【0055】
導電性ペーストには、上記以外の成分を含んでもよい。例えば、ガラスフリット、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤を含み得る。
【0056】
導電性ペーストの製造、すなわち、分散や混錬には、超音波分散、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機などを用いてよい。
【0057】
本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、導電膜の形成、すなわち、基板上への導電パターンの形成や、電極の形成に適している。例えば、太陽電池用のシリコンウエハ、タッチパネル用フィルム、EL素子用ガラス等の各種基体上に直接、あるいは必要に応じて基体上に更に透明導電膜を設けたその膜上に、塗布又は印刷して導電膜の形成に好適に用いることができる。本発明の導電性ペーストを用いて得られた導電膜は、例えば、太陽電池セルの集電電極、チップ型電子部品の外部電極、RFID、電磁波シールド、振動子接着、メンブレンスイッチ、エレクトロルミネセンス等の電極又は電気配線用途などに好適に用いられる。
【0058】
本実施形態に係る銀粉を用いた導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法などにより基板上に印刷することで、所望の形状の導電膜を形成できる。
【0059】
導電性ペーストの粘度は、回転式の粘度計によって測定した値を用いることができる。本実施形態では、粘度計としてブルックフィールド社製5XHBDV-IIIUCを用い、以下の条件で粘度を測定する。コーンスピンドルにはCPE-52を用いる。測定温度は25℃とし、コーンスピンドルの回転数は1rpmとする。粘度の値は、コーンスピンドルを5分間回転させた時点の値を採用する。
【0060】
導電ペーストは、スクリーン印刷機などにより塗布されて、導電性ペーストの膜とされた後、焼成されて導電膜とされる。焼成後の導電ペースト、つまり、導電膜は、ライン抵抗、比抵抗又は体積抵抗率の小さいものであることが一般的に要請される。ライン抵抗の測定とは、以下のようにして行える。また、導電膜の各種評価は、以下の線幅や配線アスペクト比を用いて行える。
【0061】
ライン抵抗は、所定形状の導電性ペーストの膜を形成し、更にこれを焼成して導電パターンとしての導電膜を得て、当該導電膜の抵抗値を計測することにより求める。
【0062】
本実施形態においてライン抵抗は、以下の手順で測定した値を用いる。まず、評価対象の銀粉を用いて導電性ペーストを製造する。そして、この導電性ペーストを用い、スクリーン印刷機(マイクロテック社製MT-320T)で、スキージ圧0.18MPaとして、設計幅(線幅)25μm、長さ105mmのラインパターン9本を、150mm/sの速度でアルミナ基板上に印刷して導電性ペーストの膜を形成する。そして、この膜を、大気循環式乾燥機を用い、150℃で10分間乾燥させた後、更に、200℃で30分間加熱硬化(焼成)してライン状の導電膜を形成する。
【0063】
ライン抵抗は、デジタルマルチメーター(ADVANTEST社製R6551)を用い、上記導電膜の抵抗値として求める。
【0064】
配線アスペクト比は、導電膜の厚みを導電膜の線幅で除して求める。導電膜の厚み、導電膜の線幅、導電膜の断面積は、膜の長さ方向の中心箇所において、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製 VKX-1000)を用いて計測する。
【0065】
以下では、本実施形態に係る銀粉の製造方法について詳述する。
【0066】
本実施形態に係る銀粉の製造方法の一例は、表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得るフレーク化工程と、を含む。第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下である。第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径は、比表面積径の1.5倍以上3倍以下である。第一銀粉は、銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、により製造する。フレーク化工程における滑剤の添加量と表面処理剤添加工程における表面処理剤との添加量の合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする。また、フレーク化工程における滑剤の添加量と第一銀粉における表面処理剤の付着量との合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする。
【0067】
比表面積径は、第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積A(m2/g)と銀の密度とに基づいて次式(式2)を用いて算出する。本実施形態における比表面積径は、いわゆるBET径である。銀密度の値は、10.50(g/cm)を用いる。
【0068】
比表面積径(μm)=6/(A×10.50)・・・(式2)
【0069】
銀粉(滑剤と混合後の第一銀粉および第二銀粉)の比表面積は、BET法で測定した比表面積を用いる。BET法による比表面積の測定は、これを実現する比表面積測定装置を用いてよい。本実施形態では、BET法による比表面積の測定装置として、株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210を用いて測定した値を用いた場合を例示して以下説明する。本実施形態では、比表面積の測定は、測定装置内に60℃で10分間He-N2混合ガス(窒素30%)を通流して脱気した後、BET1点法により測定した値を用いる。
【0070】
比表面積径と比較する累積50%径は、第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した値を用いる。「滑剤と混合後」とは、第一銀粉をヘンシェル型ミキサー(三井鉱山(株)製、FMミキサ、型式FM75型、SO型撹拌羽根使用)に投入し、後述するフレーク化時に用いる滑剤と同じ滑剤を同じ量添加して、撹拌羽の回転数を2200rpmとして20分間撹拌して混合した後のことをいう。得られる銀粉は滑剤混合銀粉ともいう。滑剤混合銀粉を、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT-3300EXIIを用いて測定する。粒度分布の測定には、銀粉(滑剤混合銀粉)を0.1g分取し、分散媒としてのイソプロピルアルコール40mLに加え、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-150T;19.5kHz、チップ先端直径18mm)により2分間分散させて分散液を調整した後、この分散液を粒度分布測定装置に供して銀粉の粒度分布を測定する。滑剤を添加する直前に、第一銀粉を適度にほぐす目的での、滑剤添加後の混合時よりも短時間(例えば900rpmで1分間)の攪拌を行っても良い。
【0071】
本実施形態に係る銀粉の製造方法によれば、本実施形態に係る銀粉を製造可能である。この銀粉の製造方法によって製造される銀粉の強熱減量値は、0.1wt%以上0.4wt%とすることができる。
【0072】
本実施形態に係る銀粉の製造方法において、第一銀粉は、銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、を含む製造方法により製造することができる。ここで、表面処理剤添加工程における表面処理剤の添加量は銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下である。
【0073】
上記のように、還元工程と、表面処理剤添加工程と、分離工程と、を含む製造方法により、第一銀粉を滑剤と混合後(後述の滑剤混合工程後)にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径が、1.3μm以上2.0μm以下で、第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、比表面積径の1.5倍以上3倍以下となる第一銀粉を得ることができる。すなわち、滑剤混合銀粉とした場合の比表面積径が1.3μm以上2.0μm以下、且つ、累積50%径が比表面積径の1.5倍以上3倍以下となる、第一銀粉を得ることができる。この第一銀粉(滑剤混合銀粉)は、表面処理剤で被覆されたものとなる。
【0074】
なお、本実施形態に係る銀粉の製造方法において、フレーク化工程における滑剤の添加量と表面処理剤添加工程における表面処理剤との添加量の合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下としている。また、フレーク化工程における滑剤の添加量と第一銀粉における表面処理剤の付着量との合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下としている。これにより、銀粉の強熱減量値を0.1wt%以上0.4wt%以下とすることができる。
【0075】
還元工程は、銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る工程である。還元剤の一例は、ヒドラジン、ヒドラジン化合物及びホルマリンである。還元工程では、還元剤の添加により銀イオンが還元されて、銀の粒子(以下、コア粒子と称する)が析出する。
【0076】
銀アンミン錯体水溶液は、硝酸銀水溶液または酸化銀懸濁液などの原料液にアンモニア水又はアンモニウム塩を添加して生成したものを用いてよい。原料液又は銀アンミン錯体水溶液にはpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、一般的な酸や塩基を用いてよい。pH調整剤の一例は、硝酸や水酸化ナトリウムである。
【0077】
表面処理剤添加工程は、第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る工程である。表面処理剤添加工程では、コア粒子の表面に、表面処理剤が吸着などにより被覆される。以下では、表面処理剤で被覆されたコア粒子を、第一銀粒子と称する。第二液は、第一銀粒子が分散された懸濁液(いわゆるスラリー)又は分散液である。
【0078】
表面処理剤の一例は、ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの脂肪酸である。このうち、特に、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が特に好ましい。
【0079】
なお、本実施形態に係る銀粉の製造方法においては、第一銀粉の比表面積径が、1.3μm以上2.0μm以下となるように制御される。そして、第一銀粉を滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径においても、1.3μm以上2.0μm以下に制御される。すなわち、還元工程及び表面処理剤添加工程において、第一銀粉の比表面積径を上記範囲とするように制御する。第一銀粉の比表面積径は、主にコア粒子の析出条件(例えば、析出させる速度、還元の速度)の制御によって行う。コア粒子の析出条件の制御の具体例は、銀アンミン錯体水溶液に対する還元剤の添加速度の調整である。例えば、還元剤の添加速度を大きくすると、比表面積径は増大する。還元剤の添加速度を小さくすると、比表面積径は減少する。
【0080】
そして、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した第一銀粉の体積基準の粒度分布の累積50%径は比表面積径の1.5倍以上3倍以下となるように制御される。より好ましくは、1.5倍以上2.5倍以下である。比表面積径に対する累積50%径の割合は、凝集の度合いを示している。また、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における10μm以上の粒子の比率が10%以下であることも好ましい。なお、フレーク化工程に用いる銀粉を正しく把握するために、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定する体積基準の粒度分布は、フレーク化工程において滑剤を用いる場合はその滑剤を混ぜた後の銀粉(滑剤混合銀粉)について測定した値を用いる。
【0081】
表面処理剤添加工程における表面処理剤の添加量は、銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下である。
【0082】
表面処理剤添加工程によってコア粒子に付着して乾燥工程後まで残った表面処理剤の付着量は、後述の乾燥工程後の第一銀粉に対し、表面処理剤の種類を特定した状態で測定した値を用いる。表面処理剤の付着量は後述のとおりに測定し、上記の添加量以下である。なお、表面処理剤の種類は、銀粉を加熱し揮発した表面処理剤のガスクロマトグラフィーによる定性分析により特定することができる。
【0083】
銀粉の表面処理剤量の付着量は、特許文献2に記載された脂肪酸の定量分析方法に従って行う。まず銀粉を酸で溶解させた後、有機溶媒を混合し、その有機溶媒相に表面処理剤を全量抽出させた後、有機溶媒相を所定量分取し、蒸発乾燥させて残留した固形物を、炭素硫黄分析装置により炭素量を測定することで計算により求めることができる。
【0084】
例えば、表面処理剤がステアリン酸であると特定されており、ステアリン酸以外の炭素源が第一銀粉に含まれない場合、ステアリン酸の測定方法は以下となる。
【0085】
ステアリン酸の含有量(mg)が異なる標準液において、各々の炭素量(強度)を炭素硫黄分析装置により測定することで検量線を求めたとき、その傾きをA(強度/mg)とする。そして、銀粉中のステアリン酸重量X(mg)、濃度Y(%)は、上記銀粉の処理により、処理剤を全有機溶媒量a(ml)に抽出したものから、所定量b(ml)分取し、その残存固形物の測定により求めた炭素量をC(強度)、酸に溶解した銀粉の量をM(g)とした場合、ステアリン酸重量X及び濃度Yはそれぞれ次式(式3、4)で計算できる。
【0086】
X(mg)=(C/A×a/b)・・・(式3)
【0087】
Y(%)=X/(M×1000)×100・・・(式4)
【0088】
オレイン酸が処理剤の場合でも上記同様に炭素量を測定して求める。オレイン酸についてもステアリン酸の検量線を用いて計算する。ステアリン酸の分子量が284.48で、その内の炭素量が216.19、オレイン酸の分子量が282.46、その内の炭素量が216.19となるので、オレイン酸濃度Y´は次式(式5)により算出する。
【0089】
オレイン酸濃度Y´(%)=Y×(216.19/284.48)×(282.46/216.19)・・・(式5)
【0090】
表面処理剤の付着量は銀粉の重量に対して0.01wt%以上0.11wt%以下であることが好ましい。表面処理剤の付着量は、銀粉の重量から表面処理剤の重量を除いた重量を銀の重量とみなして銀の重量に対する表面処理剤の付着量に換算することができる。表面処理剤の付着量は銀の重量に対して0.01wt%以上0.12wt%以下であることが好ましい。
【0091】
分離工程は、第二液から第一銀粒子を分離する工程である。以下では、分離工程において分離及び乾燥された第一銀粒子の集合体を、第一銀粉と称する。
【0092】
分離工程では、第二液から第一銀粒子を回収して洗浄する洗浄回収工程と第一銀粒子を乾燥させる乾燥工程とが行われてよい。
【0093】
洗浄回収工程では、例えば、第二液を脱水して第一銀粒子の集合体をケーキ状とし、また、第一銀粒子の集合体のケーキが洗浄される。洗浄回収工程における洗浄は、例えば純水を用いて行ってよい。洗浄回収工程における脱水は、例えばデカンテーションやフィルタープレスにより行える。洗浄の終点は洗浄水の電気伝導度を用いて判定してよい。具体的には、洗浄水の電気伝導度が所定の値以下となった場合に洗浄終了を判定してよい。洗浄後の第一銀粒子は、ケーキ状などの凝集状態で乾燥工程に供してよい。
【0094】
乾燥工程では、水分を含み、凝集状態の第一銀粒子の集合体が乾燥される。乾燥工程は、真空乾燥や、気流式の乾燥機を用いてよい。乾燥工程においては、第一銀粉に高圧空気流を吹き付けたり、ケーキや乾燥過程の銀粉を、撹拌ロータを有する撹拌機や粉砕ロータを有する粉砕機に投入して撹拌したりすることによって、ケーキや乾燥過程の銀粉に分散力を与えて、分散や乾燥を促す操作が行われてもよい。
【0095】
なお、乾燥工程においては、銀粉の温度は100℃以下にするとよい。銀粉の温度が100℃を超えると、銀粉中の銀粒子同士が焼結してしまう場合がある。
【0096】
乾燥後の第一銀粉は塊状になっている場合があるため、乾燥工程と同時に、又は、乾燥工程後には、第一銀粉のハンドリング性を向上するなどを目的として解砕、粉砕又は分級操作が行われてもよい。第一銀粉のハンドリング性の向上とは、例えば、後述するフレーク化工程において、後述する滑剤の添加や、装置内への供給操作に支障が出ない程度の流動性を確保したり、装置での処理が効率よく進行するように、適度に第一銀粉をほぐすことを言い、第一銀粉の凝集が無くなるまで完全にほぐすことはしない。
【0097】
なお、本実施形態に係る銀粉における凝集状態とは、滑剤混合銀粉のD50の値(μm)が、滑剤混合銀粉の比表面積径(μm)の値の1.5倍以上である状態のことを言う。このような凝集状態であるために、フレーク化工程において不定形粒子が形成される。なお、過度に凝集しているとフレーク化工程でのフレーク状粒子の割合が多くなるため、3倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましい。
【0098】
フレーク化工程は、第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して第一銀粉を扁平化させる工程である。フレーク化工程は、第一銀粉の表面に滑剤を均一に分散させる目的で、第一銀粉と滑剤とを混合する滑剤混合工程を含む。滑剤混合工程では、解砕によって適度にほぐれた状態の第一銀粉に、滑剤を添加し、解砕機を用いて攪拌し混合してよく、例えば銀粉をヘンシェル型ミキサー(三井鉱山(株)製、FMミキサ、型式FM75型、SO型撹拌羽根使用)に投入し、滑剤を添加して、撹拌して第一銀粉と滑剤とを混合することができる。滑剤混合工程後も適度に凝集状態であってよい。フレーク化工程では、滑剤と混合後の第一銀粉中の第一銀粒子が、容器内でメディアと衝突することで扁平化され、且つ、滑剤で被覆された第二銀粒子の集合体である第二銀粉が得られる。この第二銀粉がすなわち、本実施形態に係る銀粉である。
【0099】
滑剤の一例は、ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの脂肪酸である。このうち、特に、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が特に好ましい。
【0100】
本実施形態に係る銀粉としての第二銀粉は、上述のごとく、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上4μm以下、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下である。また、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、長径が6μm以上のフレーク状粒子と、長径が6μm未満の不定形粒子と、を含む。そして、フレーク状粒子における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上である。また、不定形粒子における平均最大長を直径とした円の面積と不定形粒子の平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下である。強熱減量値は、0.1wt%以上0.4wt%以下である。
【0101】
なお、第二銀粉は、更に、SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数が、画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下となる。換言すれば、本実施形態に係る銀粉の製造方法においては、第二銀粉と第一銀粉との粒子物性に係る各パラメータの対応関係が上記関係となるように第一銀粉の比表面積径が制御される。
【0102】
本実施形態に係る銀粉の製造方法は、滑剤を混ぜた後(滑剤混合銀粉)において適度な凝集状態となっている第一銀粉に対し、フレーク化工程においてメディアと各粒子とを比較的少ない回数で衝突させることによって、第二銀粉としていると予想される。滑剤との混合後において、累積50%径が比表面積径の1.5倍以上3倍以下となるように制御された第一銀粉を、フレーク化工程によって、第二銀粉ではSEM像中の粒子を観察したときに比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状の粒子を含みつつも、比表面積径の4倍未満を維持した、不定形状の粒子を多く含んだ混合粉となるように制御する。そのため、混合粉における比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数割合が、1%以上13%以下となるように製造することが好ましく、3%以上12%以下となるように製造することがより好ましい。
【0103】
フレーク化工程は、一例として、ボールミルやビーズミル等のいわゆる媒体ミルを転用して用いてよい。すなわち、媒体ミル中で、媒体ミルのメディアと共に、第一銀粉と滑剤とを、第一銀粉の粉砕が進行しない程度、且つ、第一銀粉に塑性変形を加える程度に撹拌することにより、第一銀粉の扁平化を行える。媒体ミル中での撹拌は、容器又は撹拌パドルの回転により行ってもよいし、容器を振動させることにより行ってもよい。
【0104】
フレーク化工程において、滑剤の添加量は、フレーク化工程で添加する滑剤の添加量と、表面処理剤添加工程において既に添加された表面処理剤の添加量の合計が、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とされる。また、滑剤の添加量は、フレーク化工程で添加する滑剤の添加量と、表面処理剤添加工程において既に添加された表面処理剤の第一銀粉への付着量(第一銀粉において上記のように炭素硫黄分析装置により炭素量を測定することにより求める表面処理剤の量)の合計(全脂肪酸量ともいう)が、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とされることも好ましく、0.14wt%以上0.30wt%以下とされることがより好ましい。滑剤の添加量は、好ましくは、第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下である。滑剤の添加量は、第一銀粉の重量から上記の表面処理剤の付着量を除いた重量を銀の重量とみなして、第一銀粉の銀の重量に対する滑剤の添加量に換算することができる。
【0105】
本実施形態に係る銀粉の製造方法は、必要に応じて上記で説明した各工程以外の工程を含んでよい。
【0106】
以下では、本実施形態に係る銀粉の実施例について説明する。
【0107】
〔実施例1〕
本実施例に係る第一銀粉は、以下のようにして調整した。
【0108】
(還元工程)
まず、銀イオン水溶液として銀を68.8kg含む硝酸銀水溶液2922kgに、26wt%のアンモニア水溶液167.1kgを加えて、銀アンミン錯体水溶液を生成した。更に、この銀アンミン錯体水溶液に対して還元剤として6wt%ヒドラジン水溶液266kgを加えて第一液を得た。還元剤の添加速度は、80L/minとした。
【0109】
(表面処理剤添加工程)
還元剤添加終了時から5分経過後に、表面処理剤としてオレイン酸を68.8g(銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.1wt%(オレイン酸68.8g/銀68800g×100で計算))を加えた。表面処理剤の添加後、5分間撹拌し、第二液を得た。第二液は、第一銀粒子を含むスラリー状であった。
【0110】
(分離工程)
第二液をろ過、水洗した後、乾燥させて、第一銀粉を得た。この第一銀粉のSEM像を
図1に示す。実施例1に係る第一銀粉は、粒の揃った銀粒子が凝集した状態で構成されている。
【0111】
(滑剤混合工程)
上記第一銀粉16.25kgをヘンシェル型ミキサー(三井鉱山(株)製、FMミキサ、型式FM75型、SO型撹拌羽根使用)に投入し、900rpmで1分間攪拌したのち、滑剤としてオレイン酸を37.4g(第一銀粉の重量に対して0.23wt%(オレイン酸37.4g/第一銀粉16250g×100で計算))を投入して、撹拌羽の回転数2200rpmで20分間混合撹拌した。本工程を複数バッチ行って、銀粒子表面に滑剤を分散させた滑剤混合銀粉を得た。なお、滑剤のオレイン酸の量は銀の重量に対しても0.23wt%である。
【0112】
(フレーク化工程)
上記滑剤混合銀粉を32kgとSUSボール(直径1.6mm)256kgとを、振動ミル(中央化工機株式会社製、FVR-20型)に投入し、フレーク化処理として振動数780vpmにて135分間処理し、滑剤混合銀粉をフレーク化して第二銀粉を得た。
【0113】
第二銀粉はSUSボールと分離した後、上記のヘンシェル型ミキサーにて、2600rpmで25分間撹拌し、解砕した。更に、解砕後の第二銀粉から粗粒を除去するため、乾式篩装置(フロイント・ターボ株式会社製、TS125×200型/目開き27μmスクリーン)でふるい分け、実施例1に係る銀粉(篩後の第二銀粉)を得た。実施例1に係る銀粉のSEM像を
図2、3に示す。なお、
図3のSEM像は、画像解析に用いるべく、
図2のSEM像に比べて銀粉を分散させて撮像したSEM像である。
【0114】
〔実施例2〕
実施例1のフレーク化工程における滑剤の添加量を24.4g(第一銀粉の重量に対して0.15wt%)に変更した以外は実施例1と同じとして実施例2に係る銀粉を得た。実施例2に係る銀粉のSEM像を
図4、5に示す。なお、
図5のSEM像は、画像解析に用いるべく、
図4のSEM像に比べて銀粉を分散させて撮像したSEM像である。
【0115】
〔実施例3〕
実施例1のフレーク化工程における滑剤の添加量を13.0g(第一銀粉の重量に対して0.08wt%)に変更した以外は実施例1と同じとして実施例3に係る銀粉を得た。実施例3に係る銀粉のSEM像を
図6、7に示す。なお、
図7のSEM像は、画像解析に用いるべく、
図6のSEM像に比べて銀粉を分散させて撮像したSEM像である。
【0116】
〔比較例1〕
実施例1における解砕工程及びフレーク化工程を以下のように変更した以外は実施例1と同じにして比較例1に係る銀粉を得た。比較例1に係る銀粉のSEM像を
図8に示す。
【0117】
本比較例では、第一銀粉を0.12kg計量し、これをサンプルミル(協立理工(株)製、SK-M10)で3分間解砕することを13バッチ繰り返し、解砕後の第一銀粉を1.5kgを得た。更に、滑剤を添加せず、振動ミル(中央化工機商事製B-1型)にこの解砕後の第一銀粉全量とSUSボール(直径1.6mm)12kgとを投入し、振動数1200vpmで120分間処理した。その後、上記サンプルミルで3分間の解砕処理を実施後、25μmの目開きの篩で粗粒を除去し、比較例1に係る銀粉を得た。
【0118】
〔比較例2〕
実施例1における表面処理剤添加工程において表面処理剤を添加せず、第二液をろ過、水洗、乾燥した後、150℃で10時間熱処理して粒子同士の凝集を促進させて比較例2の第1銀粉を得た。また、フレーク化工程において添加した滑剤を48.8g(フレーク化工程に供した銀粉の重量に対して0.30wt%)とした以外は実施例1と同じとして比較例2に係る銀粉を得た。10時間熱処理後の銀粉のSEM像を
図9に示す。比較例2に係る銀粉のSEM像を
図10、11に示す。なお、
図11のSEM像は、画像解析に用いるべく、
図10のSEM像に比べて銀粉を分散させて撮像したSEM像である。
【0119】
〔比較例3〕
銀を64.8kg含む硝酸銀水溶液2411kgに、26.28wt%アンモニア水溶液122.1kgを加えて、銀アンミン錯体水溶液を生成した。更に、生成した銀アンミン錯体水溶液に31.15wt%の水酸化ナトリウム水溶液6kgを添加し、引き続いて還元剤として、37wt%ホルマリン水溶液158.4kgを添加した。
【0120】
還元剤添加終了後に、表面処理剤としてセロゾール920(中京油脂株式会社製、ステアリン酸15.5wt%含有)360g(銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.56wt(ステアリン酸量に換算して0.09wt%)を加え、銀粉を含むスラリーを生成した。得られたスラリーをろ過、水洗した後、乾燥して銀粉(以下、乾燥銀粉と称する場合がある)を得た。この銀粉のSEM像を
図12に示す。
【0121】
上記銀粉を32.2kg計量し、実施例1と同じヘンシェル型ミキサーに投入して、撹拌羽根の回転数を1200rpmとして1分間撹拌して解砕した後、滑剤としてステアリン酸を64.4g(銀粉の重量に対して0.2wt%)添加し、更に、撹拌羽根の回転数を1200rpmとして20分間撹拌した。これにより、銀粒子表面に滑剤を分散させた滑剤混合銀粉を得た。
【0122】
上記滑剤混合銀粉を32kgとSUSボール(直径1.6mm)256kgとを、実施例1と同じ振動ミルに投入し、フレーク化処理として振動数1442vpmにて60分間処理した。
【0123】
その後、解砕後の銀粉から粗粒を除去するため、実施例1と同じ乾式篩装置(目開き27μmスクリーン)でふるい分け、比較例3に係る銀粉を得た。比較例3に係る銀粉のSEM像を
図13、14に示す。なお、
図14のSEM像は、画像解析に用いるべく、
図10のSEM像に比べて銀粉を分散させて撮像したSEM像である。
【0124】
〔比較例4〕
比較例3と同様にして乾燥銀粉を得た後、この銀粉を200℃で10時間熱処理して粒子同士の凝集を促進させると共に表面処理剤を揮発させた銀粉(以下、熱処理銀粉と称する場合がある)を得た。
【0125】
上記銀粉(熱処理銀粉)を16.4kg計量し、実施例1と同じヘンシェル型ミキサーに投入して、撹拌羽根の回転数を900rpmとして1分間撹拌して解砕した後、滑剤としてオレイン酸を11.5g(銀粉の重量に対して0.07wt%)添加し、更に、撹拌羽の回転数を2600rpmとして15分間撹拌した。本工程を複数バッチ行って、銀粒子表面に滑剤を分散させた滑剤混合銀粉を得た。滑剤混合銀粉を得るまでの処理は2バッチ行った。
【0126】
上記滑剤混合銀粉を32kgとSUSボール(直径1.6mm)256kgとを、実施例1と同じ振動ミルに投入し、フレーク化処理として振動数1200vpmにて90分間処理した。
【0127】
フレーク化した銀粉はSUSボールと分離した後、上記のヘンシェル型ミキサーにて、2600rpmで20分間撹拌し、解砕した。更に、解砕後の銀粉から粗粒を除去するため、実施例1と同じ乾式篩装置(目開き24μmスクリーン)でふるい分け、比較例4に係る銀粉を得た。10時間熱処理後の銀粉のSEM像を
図15に示す。比較例に係る銀粉のSEM像を
図16に示す。
【0128】
上記実施例及び比較例に係る銀粉の製造条件等の概要を表1に示す。
【0129】
【0130】
上記実施例に係る第一銀粉として滑剤添加後の滑剤混合銀粉及び比較例1に係る滑剤添加混合無の解砕銀粉、そして比較例2から4に係る滑剤添加後の滑剤混合銀粉の評価結果を表2に示す。
【0131】
表2中、表面処理剤付着量は、銀粉中における、表面処理剤の残留量(すなわち、第一銀粉における表面処理剤の付着量)であって、表面処理剤の種類を特定している状態で、上記のとおりに炭素硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製、TG8120)により炭素量を測定することにより求めた値である。表2中、表面処理剤付着量は、銀の重量に対する表面処理剤の重量の比率(wt%)として示している。なお、熱処理をしている比較例2、4は、熱処理に伴い表面処理剤の大部分が揮発しているため測定は除外している。
【0132】
また、表2中、比表面積及び比表面積径は滑剤混合銀粉(比較例1は滑剤添加混合無しの解砕銀粉)に係るものである。比表面積は株式会社マウンテック製のMacsorb HM-model 1210を用いて前述のとおりに測定し、前述のように比表面積径を計算した。
【0133】
表2中、全脂肪酸量とは、滑剤混合銀粉中の全脂肪酸量(フレーク化工程に供される滑剤混合銀粉中の滑剤の添加量と表面処理剤付着量との合計)を意味し、滑剤混合銀粉中の銀の重量に対する全脂肪酸量の重量の比率(wt%)として示している。全脂肪酸量は、表面処理剤付着量(wt%)と表1に示す滑剤の添加量(wt%)との合計に対応する値とすることができ、または、滑剤添加後の滑剤混合銀粉に対して上記炭素硫黄分析装置により炭素量を測定することにより求めた値としてもよい。
【0134】
表2中の体積基準の粒度分布の値は、比較例1を除き、滑剤を添加した後の滑剤混合銀粉に係る値である。滑剤を添加しない比較例1は滑剤添加混合無しの解砕銀粉に係る値である。レーザー回折式粒度分布装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT-3300EXIIを用いて前述のとおりに粒度分布を測定し、体積基準での累積10%径(D10)、累積50%径(D50)、累積90%径(D90)、および、粒径が10μm以上の粒子の比率(%)の値を算出した。表2中では、体積基準の粒度分布の幅の大きさを示す値として累積90%径から累積10%径を引いた差を累積50%径で割った値を「(D90-D10)/D50」と表記している。また、表2中の「D50/比表面積径」とは、比較例1を除き、滑剤混合銀粉のD50を滑剤混合銀粉の比表面積径で除した値のことである。この値によって、フレーク化工程の転動ボールミルの容器内でメディアと衝突する前の銀粒子の凝集状態が把握される。滑剤を使用しない比較例1は滑剤混合無しの解砕銀粉のD50を滑剤混合無しの解砕銀粉の比表面積径で除した値である。
【0135】
【0136】
フレーク化工程後の上記実施例に係る銀粉及び比較例に係る銀粉の評価結果を表3に示す。表3中では、SEM観察によって、フレーク状粒子と不定形粒子とが観察でき半数以上が不定形状粒子である場合に、これを「混合粉」とし、観察される粒子のうちフレーク状粒子の割合が半数以上である場合を「フレーク」としている。銀粉の強熱減量値(Ig-Loss)、体積基準の粒度分布の値、比表面積、タップ密度は、前述のとおりに測定を行った。
【0137】
【0138】
上記の混合粉における不定形粒子とフレーク状粒子のそれぞれについて以下の評価を行った。画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いてそれぞれ合計400個以上の粒子外形の計測を行い、長径が6μm未満である粒子のデータを抽出し不定形粒子とした。上記実施例に係る銀粉における不定形粒子及び比較例3に係る銀粉における不定形粒子の評価結果を表4に示す。表4中、「長径/短径」は、不定形粒子における平均長径を不定形粒子における平均短径で除した値である。
【0139】
【0140】
画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いてそれぞれ合計400個以上の粒子外形の計測を行い、長径が6μm以上である粒子のデータを抽出しフレーク状粒子とした。上記実施例に係る銀粉におけるフレーク状粒子及び比較例3に係る銀粉におけるフレーク状粒子の評価結果を表5に示す。表5中、「長径/短径」は、フレーク状粒子における平均長径をフレーク状粒子における平均短径で除した値である。表5中、「フレーク状粒子の個数割合(%)」は、画像解析の対象とした銀粒子の全数に対するフレーク状粒子の個数の割合であって、当該個数を当該全数で除した値である。また、「比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数割合(%)」は、画像解析の対象とした銀粒子の全数に対する、表2で示した第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数の割合であって、当該個数を当該全数で除した値である。
【0141】
【0142】
更に、実施例及び比較例に係る銀粉を用いて導電性ペーストを製造し、これら実施例及び比較例に係る導電性ペーストを評価した。
【0143】
なお、導電性ペーストの製造は以下のようにして行った。まず、実施例又は比較例に係る銀粉と、球状銀粉(球形状の銀粒子を含む銀粉、DOWAハイテック株式会社製AG-2-1CAP、別名「AG-2-1C Agent Added」)とを、重量比で6:4となるように混合して原料銀粉を調製した。当該球状銀粉は、D50が0.80μmであり、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View、株式会社マウンテック社製)を用いてそれぞれ合計400個以上の粒子外形の計測を行った平均の形状係数が1.53、平均アスペクト比が1.3、平均Heywood径が0.34μmであった。球状銀粉のSEM像(10000倍)を
図17に示す。
【0144】
エポキシ樹脂jER1009(三菱ケミカル株式会社製)を溶剤ブチルカルビトールアセテート(以下、BCAと記載する)に添加し、完全に溶解するまで加熱しながら撹拌し、エポキシ樹脂jER1009ビヒクルを得た。ビヒクル中のjER1009の濃度は62.23wt%であった。
【0145】
原料銀粉94.20wt%、エポキシ樹脂EP-4901E(株式会社ADEKA製)3.97wt%、エポキシ樹脂jER1009ビヒクル1.59wt%、硬化剤三ふっ化ほう素モノエチルアミン錯体0.25wt%、溶剤BCA適量とを混合混練した。
【0146】
混合混練は、まず、プロペラレス自公転式攪拌脱泡装置(株式会社EME製、VMX-N360)を用いて公転1200rpm/自転600rpmで30秒撹拌して混合した後、混合物を3本ロール(オットハーマン社製、EXAKT80S)を用いて混練した。
【0147】
混合混練後、下記の組成となるようにBCAを添加し、粘度調整前の導電性ペーストを得た。
・原料銀粉:91.60wt%
・エポキシ樹脂EP-4901E:3.84wt%
・エポキシ樹脂jER1009:0.96wt%
・硬化剤三ふっ化ほう素モノエチルアミン錯体:0.24wt%
・溶剤BCA:3.36wt%
表6に、粘度調整前の導電性ペーストの粘度を示す。
【0148】
【0149】
更に、各実施例比較例における粘度調整前の導電性ペーストに適宜BCAを添加し、約200Pa・sの粘度に調整した粘度調整済み導電性ペーストを得た。表7に、粘度調整済み導電性ペーストの粘度及び粘度調整後の銀濃度を示す。
【0150】
【0151】
粘度調整前の導電性ペースト及び粘度調整済み導電性ペーストについては、更に、導電膜を形成した後、断線率とライン抵抗とを評価した。導電膜の形成は、導電性ペーストをライン状に塗布した後、大気循環式乾燥機を用いて150℃で10分間乾燥させた後、さらに、200℃で30分間加熱により硬化させてライン状の導電膜(配線)とした。断線率とライン抵抗は、線幅(設計幅)25μmのラインパターンを9本作製し評価対象とした。粘度調整前の導電性ペーストについては、配線アスペクト比および配線断面積も評価した。粘度調整前の導電性ペーストのこれら評価結果を、表6に併せて示す。ライン抵抗値は、デジタルマルチメーター(ADVANTEST社製R6551)を用いて配線の抵抗値を測定し、ラインパターン9本の平均値としている(後述の断線とみなしたものは除く)。配線アスペクト比の値はラインパターン9本の内、任意の3本を選んで各々の長さ方向の中心部をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、VKX-1000)により膜厚と線幅を測定し、それらの膜厚/線幅の値の平均値としている。配線断面積も膜厚、線幅測定時と同じ箇所を、同装置により測定した平均値としている。なお、断線率とはライン抵抗測定時に、測定値が100kΩ以上と非常に高いものを断線とみなした場合の、全9本のラインパターン中で断線が見られた本数の割合としている。また、粘度調整済み導電性ペーストのこれら評価結果を、表7に併せて示す。
【0152】
表6、7に示されるように、実施例に係る銀粉を用いた導電性ペーストによって形成した導電膜のライン抵抗は、比較例に係る銀粉を用いた導電性ペーストによって形成した導電膜のライン抵抗に比べて小さい。すなわち、実施例に係る銀粉によれば、導電膜のライン抵抗を低減可能であることがわかる。また、導電膜が25μmの細線時であっても、そのラインがしっかり形成されており、配線のアスペクト比と配線断面積とが大きい。
【0153】
実施例に係る銀粉(第二銀粉)の体積基準の粒度分布(表3参照)上の特徴についてみると、以下のとおりである。D50は3μm以上4μm以下の範囲にある。また、10μm以上の粒子の比率は、10%以下である。これに対し、比較例に係る銀粉では、D50は4μmを超え、また、10μm以上の粒子の比率は、14%を超えている。すなわち、実施例に係る銀粉では、D50が適度に小さく、また、粗大な10μm以上の粒子の割合が少ないことが、ライン抵抗の低減に寄与していると推定される(表6、7参照)。
【0154】
更に、実施例に係る銀粉は、累積90%径から累積10%径を引いた差の値が2以上であり、2.5以下である(表3参照)。すなわち、実施例に係る銀粉は、D50が適度に小さく、また、10μm以上の粒子の割合が少ないながらも、適度な粒度分布の広がり有するものとなっている。この点も、ライン抵抗の低減に寄与していると推定される。詳述すると、実施例に係る銀粉で導電膜とするパターンを印刷した場合、粗大な10μm以上の粒子の割合が少ないために、パターンにむらが生じにくい。更に、D50が適度に小さく、適度な粒度分布の広がりを有することから、パターン中の銀粒子は、緻密に配列可能となる。これにより、焼結後の導電膜に空隙が生じにくくなり、また、導電膜のラインがしっかり形成され、且つ、ライン抵抗が低減される(表6、7参照)。また、導電膜のパターン中の銀粒子は緻密に配列可能となることから、断線が防止されて断線率が低くなり、導電膜の印刷性にも優れるものと考えられる。銀粒子は緻密に配列可能となることは、タップ密度の値からも類推できる(表3参照)。実施例に係る銀粉は、比較例に係る銀粉よりも、同等以上のタップ密度(4g/ml)を実現している。更に実施例の配線の断面積が比較例より大きいことも、ライン抵抗の低減の要因と推定される。実施例においては粗大な10μm以上の粒子の割合が少ないことにより、スクリーン印刷時においてペーストによる目詰まりが生じにくく、吐出性が優れていることにより、配線の断面積を大きくすることができ、ライン抵抗の低減に寄与したと思われる。
【0155】
比較例に係る銀粉では、粗大な10μm以上の粒子の割合が大きいため(表3参照)、導電膜のパターンにむらが生じやすい。更に、10μm以上の粒子の割合が大きいにもかかわらず、累積90%径から累積10%径を引いた差の値が2を下回る場合(比較例1、2、4及び5)には、銀粒子の緻密な配列は困難となると考えられる。したがって、実施例にみられるような、ライン抵抗の低減は困難となる(表6、7参照)。
【0156】
更に詳しく見ると、実施例に係る銀粉は、フレーク状粒子と不定形粒子とを含む混合粉となっている(表3から表5参照)。フレーク状粒子の個数割合は、5%以上12%以下であり、不定型状粒子の割合は相対的に高くなっている(表5参照)。実施例に係る銀粉のフレーク状粒子の平均アスペクト比はいずれも8以上、且つ、11以下である(表5参照)。また、実施例に係る銀粉の不定形粒子の形状係数は、1.7以上1.9以下である(表4参照)。これら銀粉中における銀粒子の形状的特徴は、上述の粒度分布上の特徴と共に、ライン抵抗の低減に寄与していると考えられる。なお、表5に示す実施例に係る銀粉のフレーク状粒子の平均アスペクト比の値から、本実施形態に係る銀粉のフレーク状粒子の平均アスペクト比の好ましい範囲は、9以上、且つ、10.5以下であることが想定される。
【0157】
ここで、比較例3に係る銀粉においては、そのフレーク状粒子の平均アスペクト比が11をやや超える程度である(表5参照)。また、その不定形粒子の形状係数は、1.7以上1.9以下である。すなわち、比較例3に係る銀粉は、粒度分布上の特徴は実施例に係る銀粉とはやや異なる特徴を有するものの、フレーク状粒子と不定形粒子とを含む混合粉となっており形状的特徴が類似することから、実施例に係る銀粉に近しい効果が得られるべきであるとも考えられる。しかし、比較例3に係る銀粉は、実施例に係る銀粉に比して、Ig-Lossの値がかけ離れて大きい(表3参照)。そのため、比較例3に係る銀粉では、焼結時に空隙が生じやすくなるなどして、断線が生じやすく(表6、7参照)、また、断線が生じない場合でもライン抵抗が大きくなってしまうものと考えられる(表7参照)。実施例に係る銀粉では、粒度分布上の特徴及び形状的特徴に加えて、Ig-Lossの値が0.1wt%以上0.4wt%であることが、焼結時の断線防止とライン抵抗の低減に寄与していると考えられる。また、ペーストの粘度の観点から見ると、比較例3に係る銀粉は、Ig-Lossの値が大きく、且つ、比表面積が大きいため、ペーストが高粘度化する傾向にある。そのため、所定の粘度(表7では、約200Pa・s)に調整する際、ペースト中の銀濃度を低くしなければならない。これに対し、実施例にかかる銀粉では、所定の粘度において、ペースト中の銀濃度を高く調製することが可能になる。これにより、実施例に係る銀粉では、焼結時の断線防止とライン抵抗の低減を実現できると考えられる。
【0158】
このように、実施例に係る銀粉によれば、ライン抵抗の低減を実現できる。
【0159】
ここで、実施例に係る銀粉の製造方法についてみると、以下のとおりである。各実施例の説明のごとく、本実施例に係る銀粉の製造方法は、銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、第二液から第一銀粉を凝集状態で分離する分離工程と、第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して第一銀粉を扁平化した第二銀粉(本実施例に係る銀粉)を得るフレーク化工程と、を含んでいる。銀粉の製造方法が、これら各工程を含んでいることで、本実施形態に係る銀粉が適切に製造可能となるものと考えられる。
【0160】
本実施例に係る銀粉の製造方法において、第一銀粉は、本実施形態に係る銀粉の前駆体である。したがって、本実施形態に係る銀粉を製造するにあたり、前駆体としての第一銀粉の物性のコントロールは重要である。
【0161】
本実施例に係る銀粉の製造方法においては、表2に示される通り、第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径が、1.3μm以上2.0μmに制御されることが、本実施形態に係る銀粉を適切に製造するために好ましいと考えられる。第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径は、好ましくは1.4μm以上1.7μmである。なお、本実施例に係る第一銀粉の滑剤混合銀粉のD50の値(μm)は、いずれも、第一銀粉の滑剤混合銀粉の比表面積径(μm)の値の1.5倍以上となっており、第一銀粉は凝集状態であることがわかる。また、比較例1および比較例3から5のように凝集状態が大きい場合はフレーク状の割合が大きくなりやすいことから、第一銀粉の滑剤混合銀粉のD50は、比表面積径の3倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましいことが分かる。
【0162】
表3からは、本実施例に係る銀粉の製造方法における、本実施例に係る銀粉と第一銀粉との間における、粒度分布上の特徴及び形状的特徴の関係性として、以下の関係性を有することが好ましいと考えられる。すなわち、本実施例に係る銀粉において、第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径の4倍以上の長径を有するフレーク状粒子の個数が、画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下となるように、第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径を調整することが好ましい。
【0163】
以上のように第一銀粉(滑剤混合銀粉)の比表面積径が制御されることが、本実施例に係る銀粉の適切な製造に貢献するものと考えらえる。
【0164】
なお、第一銀粉にあっては、更に、累積90%径から累積10%径を引いた差の値が2以上に制御されることが好ましいと考えられる。また、D50は、3μm以上4以下に制御されることが好ましいと考えられる。これらの制御によって、本実施例に係る銀粉の適切な製造が実現されると考えられる。
【0165】
その他、本実施形態に係る銀粉の製造方法として好ましい製造条件は以下のとおりである。表1に示すように、表面処理剤添加工程における表面処理剤の添加量は、銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下であることが好ましい。また、滑剤の添加量は第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下であることが好ましい。更に、表2に示されるように、滑剤の添加量と表面処理剤の付着量との合計(全脂肪酸量)は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下であることが好ましい。
【0166】
以上のようにして、銀粉及びその製造方法を提供することができる。
【0167】
なお、本明細書において開示された実施形態及び実施例は例示であって、本発明の実施形態及び実施例はこれらに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明は、銀粉及びその製造方法に適用できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率が10%以下であり、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、
長径が6μm以上の粒子と、長径が6μm未満の粒子と、を含み、
前記長径が6μm以上の粒子100個以上における平均長径と平均厚さとの比である平均アスペクト比は8以上であり、
前記長径が6μm未満の粒子400個以上における平均最大長を直径とした円の面積と平均粒子面積との比である形状係数が1.7以上1.9以下であり、
強熱減量値が0.1wt%以上0.4wt%である銀粉。
【請求項2】
前記粒度分布における、累積90%径から累積10%径を引いた差の値と累積50%径との比が2以上である請求項1に記載の銀粉。
【請求項3】
銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、
前記第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、
前記第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、
前記第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得る工程と、を含み、
前記表面処理剤添加工程における前記表面処理剤の添加量は、前記銀アンミン錯体水溶液に含まれる銀の重量に対して0.05wt%以上0.15wt%以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記第二銀粉を得る工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の添加量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項4】
表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して前記第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得る工程と、を含み、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下であり、
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径が、前記比表面積径の1.5倍以上3倍以下であり、
前記第二銀粉を得る工程における前記滑剤の添加量と前記表面処理剤の付着量との合計は、前記第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記第二銀粉は、
SEM像に基づく画像解析によって観察した粒子形状に関し、前記第一銀粉の前記比表面積径の4倍以上の長径を有し、かつ、長径が6μm以上の粒子の個数が、前記画像解析の対象とした粒子の全個数の1%以上13%以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、累積50%径が3μm以上、且つ、10μm以上の粒子の比率を10%以下とする請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記滑剤の添加量は前記第一銀粉の重量に対して0.05wt%以上0.3wt%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記第一銀粉を前記滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における10μm以上の粒子の比率が10%以下である請求項3又は4に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の銀粉と、樹脂と、溶剤とを含有する導電性ペースト。
【請求項9】
さらに球状銀粉を含有する請求項8に記載の導電性ペースト。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
本実施形態に係る銀粉の製造方法の一例は、表面処理剤で被覆されている第一銀粉と滑剤とメディアとを容器内で撹拌して第一銀粉を扁平化した第二銀粉を得る工程(以下、便宜上フレーク化工程ということがある。)と、を含む。第一銀粉を前記滑剤と混合後にBET法で求めた比表面積から計算される比表面積径は、1.3μm以上2.0μm以下である。第一銀粉を滑剤と混合後にレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布における累積50%径は、比表面積径の1.5倍以上3倍以下である。第一銀粉は、銀アンミン錯体水溶液に還元剤を添加して第一液を得る還元工程と、第一液に表面処理剤を添加して第二液を得る表面処理剤添加工程と、第二液から分離し乾燥して第一銀粉を得る分離工程と、により製造する。フレーク化工程における滑剤の添加量と表面処理剤添加工程における表面処理剤との添加量の合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする。また、フレーク化工程における滑剤の添加量と第一銀粉における表面処理剤の付着量との合計は、第一銀粉中の銀の重量に対して0.1wt%以上0.4wt%以下とする。