(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084126
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】養殖魚及び魚類の養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20230609BHJP
【FI】
A01K61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195119
(22)【出願日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021197726
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396011174
【氏名又は名称】くら寿司株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 信
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104BA00
(57)【要約】
【課題】オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を得ること。
【解決手段】養殖魚におけるオルチニン含有量を100gあたり10mg以上とする。養殖魚は、スズキ目アジ科、スズキ目タイ科、スズキ目サバ科、サケ目サケ科、カレイ目ヒラメ科、フグ目フグ科からなる群より選択されるいずれかの魚種である。魚類の養殖方法として、飼料の魚粉含有率を30重量%以上とする。魚類の養殖方法として、飼料の粗蛋白質含有率を25重量%以上60重量%以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100gあたり10mg以上のオルニチンを含む養殖魚。
【請求項2】
スズキ目アジ科、スズキ目タイ科、スズキ目サバ科、サケ目サケ科、カレイ目ヒラメ科、フグ目フグ科からなる群より選択されるいずれかの魚種である、
請求項1の養殖魚。
【請求項3】
増肉係数が1.0以上4.0以下である、
請求項1の養殖魚。
【請求項4】
飼料の魚粉含有率が30重量%以上である、
魚類の養殖方法。
【請求項5】
飼料の粗蛋白質含有率が25重量%以上60重量%以下である、
請求項4の魚類の養殖方法。
【請求項6】
飼料の酸化防止剤含有率が0重量%である、
請求項4の魚類の養殖方法。
【請求項7】
異なる養殖方法を用いた養殖生簀が隣接する場合、隣接する養殖生簀の端部同士が80m以上離間して設置された養殖生簀において養殖する、
請求項4の魚類の養殖方法。
【請求項8】
養殖生簀における魚類の飼育密度が15kg/m3以下である、
請求項4の魚類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚及び魚類の養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、魚類の養殖において、飼料配合を改良して特定のビタミンを多く含む魚の養殖技術が提案されている。例えば、特許文献1のような従来技術がある。特許文献1には、筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含むマグロ類養殖魚が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、市場の動向として、消費者から様々な成分の滋養に富む養殖魚が近年要求されている。しかしながら、養殖魚業者はこのような要求に十分に応えられていない状況にあった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を得ること及びその養殖方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の養殖魚は、100gあたり10mg以上のオルニチンを含むことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の一態様の魚類の養殖方法は、飼料の魚粉含有率が30重量%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1及び比較例1~2の各ブリの冊状の切り身の外観である。
【
図2】テクスチャー試験の評価方法を説明するモデルである。
【
図3】実施例1のブリに対するテクスチャー試験の評価結果を示したグラフである。
【
図4】比較例1のブリに対するテクスチャー試験の評価結果を示したグラフである。
【
図5】比較例2のブリに対するテクスチャー試験の評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の養殖魚及び養殖方法について具体的に説明する。
本発明の養殖魚は、100gあたり10mg以上のオルニチンを含むことを最大の特徴としており、好ましくは100gあたり10.8mg以上のオルニチンを含むことを特徴としている。オルニチンは、有害なアンモニアを尿素に変換する尿素回路を構成する遊離アミノ酸であり、肝臓の働きを保ち、疲労回復に有効な成分である。
【0011】
オルニチンを多く含む食材としては、一般的には、シジミが知られており、シジミにおけるオルニチン成分の含有量は、100gあたり10.7~15.3mgである。また、そのほかの食材としては、チーズが100gあたり0.76~8.47mg、キハダマグロが100gあたり1.9~7.2mg、ひらめが100gあたり0.6~4.2mgであることが知られている。
【0012】
上記のように、シジミにおけるオルニチン成分の含有量は100gあたり十数mgにもなるが、魚類におけるオルニチン成分の含有量は、100gあたり数mg程度と低めである。そこで、本発明における養殖魚は、与える飼料の各成分や養殖環境を特定のものに規定することにより高オルニチン含有量を実現している。これらの飼料や養殖環境については後述する。
【0013】
また、本発明の養殖魚は、スズキ目アジ科の魚、スズキ目タイ科の魚、スズキ目サバ科の魚、サケ目サケ科の魚、カレイ目ヒラメ科の魚、フグ目フグ科の魚等が挙げられる。スズキ目アジ科の魚としては、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マアジ等が挙げられる。スズキ目タイ科の魚としては、マダイ等が挙げられる。スズキ目サバ科の魚としては、本マグロ、マサバ等が挙げられる。サケ目サケ科の魚としては、サケ等が挙げられる。カレイ目ヒラメ科の魚としては、ヒラメ等が挙げられる。フグ目フグ科の魚としては、トラフグ等が挙げられる。本発明においては、養殖魚はスズキ目アジ科の魚であることが最も好ましい。
【0014】
また、本発明の養殖魚は、増肉係数が2.5以上3.5以下であることが好ましい。本発明における増肉係数は、魚が1kg太るのに必要だった餌の量、すなわち食べた餌の量(乾燥重量)を増えた体重(湿潤重量)で割った値である。この増肉係数は、大きすぎると、成長効率が悪いと判断され、一方、小さすぎると、成長効率は良いものの、良好に成長するためには限度がある。この増肉係数は、魚種や給与飼料の種類によって異なり、例えばエクストルーディッドペレット(EP)を給与したブリの増肉係数は2.7~3.0、EPを給与したカンパチやヒラマサの増肉係数は2.9~3.2、EPを給与したマダイの増肉係数は2.0~2.8、EPを給与したシマアジの増肉係数は2.8~4.0、EPを給与したヒラメの増肉係数は1.3~1.8、EPを給与したトラフグの増肉係数は1.3~1.8、EPを給与した本マグロの増肉係数は5.0~7.0、EPを給与したサケの増肉係数は1.5前後である。また、生餌を給与した場合には、増肉係数は顕著に増加することが知られている。
【0015】
本発明の養殖魚は、各魚種に応じた中心出荷サイズに育つまで養殖を行う。例えばブリの場合、2年弱の養殖期間で5kgの中心出荷サイズに、マダイの場合、3年の養殖期間で1.8kgの中心出荷サイズに、サケの場合、半年の養殖期間で2kgの中心出荷サイズに育つ。
【0016】
本発明の魚類の養殖方法を用いることにより、上記のような養殖魚を養殖することができる。本発明の魚類の養殖方法は、飼料の魚粉含有率が30重量%以上であることを特徴としている。本発明における飼料の魚粉含有率は、30重量%以上とすることにより、飼料中の粗蛋白質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分を好適な比率とすることができる。本発明においては、この魚粉含有率は、40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。飼料の魚粉含有率が30重量%未満であると、飼料中の粗蛋白質及び粗脂肪の成分を十分に確保することができなくなってしまう。
【0017】
具体的には、スズキ目アジ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は60重量%以上であることが好ましい。スズキ目タイ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は55重量%以上であることが好ましい。スズキ目サバ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は50重量%以上であることが好ましい。サケ目サケ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は45重量%以上であることが好ましい。カレイ目ヒラメ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は70重量%以上であることが好ましい。フグ目フグ科の魚に給与する飼料の魚粉含有率は70重量%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明における飼料としては、長期間の給与により養殖魚のオルニチン成分の含有量が100gあたり10mg以上となるものであれば、生餌、エクストルーディッドペレット(EP)、モイストペレット(MP)のいずれの形態であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。また、EP及びMPの原材料としては、魚粉、小麦粉または澱粉、魚油を主原料とし、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンK3、コリン、ニコチン酸、パテント酸、イノシトール、葉酸、ビオチン、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、水酸化アルミニウム、ヨウ素酸カルシウム、硫酸コバルトを適宜添加したものが用いられる。
【0019】
本発明における飼料の小麦粉または澱粉の含有率は、11重量%以上13重量%以下であることが好ましい。飼料の小麦粉または澱粉の含有率が11重量%未満であると、飼料中のビタミン類等が不足してしまう。一方、飼料の小麦粉または澱粉の含有率が13重量%を超えると、飼料中の粗繊維が多くなりすぎて、養殖魚の飼料の食い付きが悪くなる。
【0020】
本発明における飼料の魚油含有率は、13重量%以上26重量%以下であることが好ましい。飼料の魚油含有率が13重量%未満であると、飼料中の粗脂肪が15重量%未満となり、養殖魚の成長が鈍化してしまう。一方、飼料の魚油含有率が26重量%を超えると、飼料中の粗蛋白質含有量が確保できなくなる。
【0021】
本発明における飼料は、一般的に魚粉、小麦粉または澱粉、魚油等を主原料としているが、飼料中の各成分を見てみると、粗蛋白質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分が主成分であり、カルシウム及びリンが副成分として含まれている。本発明における飼料の粗蛋白質含有率は、25重量%以上60重量%以下であることが好ましく、37重量%以上52重量%以下であることがより好ましい。飼料の粗蛋白質含有率が25重量%未満であると、養殖魚の成長速度が鈍くなってしまう。一方、飼料の粗蛋白質含有率が60重量%を超えると、飼料中の粗脂肪及び粗灰分の含有率が低くなり、こちらも養殖魚の成長が鈍化してしまう。
【0022】
具体的には、スズキ目アジ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は37重量%以上45重量%以下であることが好ましい。スズキ目タイ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は43重量%以上50重量%以下であることが好ましい。スズキ目サバ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は40重量%以上47重量%以下であることが好ましい。サケ目サケ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は40重量%であることが好ましい。カレイ目ヒラメ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は50重量%以上52重量%以下であることが好ましい。フグ目フグ科の魚に給与する飼料の粗蛋白質含有率は50重量%以上52重量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明における飼料の粗脂肪含有率は、15重量%以上26重量%以下であることが好ましい。飼料の粗脂肪含有率が15重量%未満であると、食品とした際の脂肪分が少なくなり、美味しさという観点から好ましくない。一方、飼料の粗脂肪含有率が26重量%を超えると、飼料中の粗蛋白質の含有率が低くなり、養殖魚の成長速度が遅くなってしまう。
【0024】
本発明における飼料の粗繊維含有率は、2.0重量%以下であることが好ましい。飼料の粗繊維含有率が2.0重量%を超えると、養殖魚の飼料の食い付きが悪くなってしまう。
【0025】
本発明における飼料の粗灰分は、17重量%以下であることが好ましい。飼料の粗灰分が17重量%を超えると、飼料中の粗蛋白質及び粗脂肪の含有率が低くなり、養殖魚の成長速度が遅くなる。
【0026】
本発明における飼料の酸化防止剤含有率は、0重量%であることが好ましい。酸化防止剤は、飼料中の他の成分の酸化を抑制するために添加されるものではあるが、本発明における飼料においては、添加剤を極力用いないとの観点から、酸化防止剤が含まれていないことが好ましい。
【0027】
本発明の魚類の養殖方法においては、飼育管理手段として、異なる養殖方法を用いた養殖生簀が隣接する場合、隣接する養殖生簀の端部同士が80m以上離間して養殖生簀が設置されていることが好ましい。このように養殖生簀間を離間させることにより、他の養殖方法により養殖された魚の健康状態の影響や他の養殖方法に用いられる飼料の混入を防ぐことができる。
【0028】
また、本発明の魚類の養殖方法においては、養殖生簀における魚類の飼育密度を15kg/m3以下とすることが好ましい。このように魚類に飼育密度を制御することにより、
養殖生簀中における魚類同士の接触頻度を低減させ、魚類間に生じるストレスをさらに低く抑えることができる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0030】
<実施例1>
飼料の調製
魚粉74重量%、小麦粉及び澱粉13重量%、魚油(丸善油糧株式会社製、商品名:精製魚油)13重量%、残部:リン酸カルシム、炭酸カルシウム及び水を、エクストルーダ(上田鉄工社製、EP100型)により、スクリュー回転数4500rpm、吐出温度90℃、出口圧力5MPaで混合し、熱風乾燥機により乾燥し、直径12mmのEP飼料を製造した。このEP飼料における成分組成は、粗蛋白質41.0重量%、粗脂肪15.0重量%、粗繊維2.0重量%、粗灰分17.0重量%、カルシウム1.5重量%、りん1.0重量%であった。
【0031】
ブリの養殖
養殖生簀は、和歌山県沖において、隣接する養殖生簀の端部同士が80m離間するように設置した。この養殖生簀において、魚類の飼育密度が13kg/m3となる環境で、上記のように調製した飼料を3ヶ月の期間給与し、中心出荷サイズが5kgのブリを養殖した。なお、養殖した実施例1のブリにおけるオルニチン含有量は、100gあたり10.8mgであった。また、養殖した実施例1のブリにおける増肉係数は2.9であった。
【0032】
<比較例1>
平均魚体重5kgの徳島県鳴門近海で捕れた天然物のブリを比較例1のブリとした。なお、天然物の比較例1のブリにおけるオルニチン含有量は、100gあたり3.2mgであった。
【0033】
<比較例2>
実施例1におけるEP飼料を一般的な養殖EP飼料に代えた以外は同様にして、比較例2のブリを養殖した。なお、養殖した比較例2のブリにおけるオルニチン含有量は、100gあたり4.1mgであった。
【0034】
<評価>
1.切り身の外観
図1は、実施例1及び比較例1~2の各ブリの冊状の切り身の外観を示す。
図1から明らかなように、特定の飼料により養殖した実施例1のブリの切り身は、天然物の比較例1のブリの切り身及び従来の飼料により養殖した比較例2のブリの切り身とほとんど相違のない外観を示した。
【0035】
2.遊離アミノ酸分析
実施例1及び比較例1~2の各ブリをミキサーにより破砕して均一化し、HLPCアミノ酸分析システム(株式会社島津製作所社製)を用いて各ブリにおける遊離アミノ酸を分析した。その結果を表1に示した。
【0036】
【0037】
表1に示されたように、天然物の比較例1のブリにおいては、オルニチンが100gあたり3.2mgであり、従来の養殖物の比較例2のブリにおいては、オルニチンが100gあたり4.1mgであった。これに対し、実施例1のブリにおいては、オルニチンが100gあたり10.8mg含まれており、オルニチン含有率が顕著に高いことが示された。また、旨味、酸味、甘味を有するアミノ酸の含有率に関しては、実施例1のブリは、従来の養殖物の比較例2のブリと同様に、天然物の比較例1のブリに比べてリジンの含有率が高かった。さらに、苦味を有するアミノ酸の含有率に関しては、天然物の比較例1のブリは、ロイシン、フェニルアラニン、バリンの含有率が高く、従来の養殖物の比較例2のブリは、アルギニンの含有率が高かった。
【0038】
3.脂肪酸分析
実施例1及び比較例1~2の各ブリをミキサーにより破砕して均一化し、脂肪酸分析システムを用いて各ブリにおける脂肪酸を分析した。その結果を表2に示した。
【0039】
【0040】
表2に示されたように、実施例1及び比較例1~2の各ブリにおける脂肪酸は、成分によっては若干の相違はあるものの、各成分の比率がかなり類似することが示された。
【0041】
4.官能検査
実施例1及び比較例1~2の各ブリについて、表3に示した特性表現用語に対する強度評価を行う分析型記述法を用いて、様々な特性を評価した。各項目の値は、25名の評価者が感じた結果を5段階で評価し、その平均値を算出することにより求めた。その結果を表3に示した。
【0042】
【0043】
表3に示されたように、実施例1のブリは、複数の項目において天然物の比較例1のブリほど高い評価が得られてはいないが、ほぼ全ての項目において従来の養殖の比較例2のブリと同程度の評価が得られた。すなわち、実施例1のブリにおいては、他の成分に影響を与えることなく、高いオルニチン含有率を実現していることが示された。
【0044】
5.テクスチャー試験
図2は、テクスチャー試験の評価方法を説明するモデルである。ツェスニャクのテクスチャー試験によれば試験片の硬さ、脆さ、粘着性、凝集性、弾力性、ガム性等を評価できる。このプロファイルの用語は以下のように定義されている。
硬さはHで示され、プランジャーで試験片に負荷を加えた時の最大試験力を示す。もろさはBで示され、試験片が口の中で壊れる力を示す。粘着性はA3で示され、試験片を手で触れたり、食して歯・舌・口腔に付着して、引き離そうとする力を示す。凝集性はA2/A1で示され、試験片に負荷を加えて変形や破損する際の連続して加えられる1回目と2回目の負荷面積(エネルギー)の比を示す。弾力性はT2/T1で示され、プランジャーで試験片に連続2回の負荷を加えた際の「くぼみ、変位」の比を示す。ガム性はH×A2/A1、すなわち硬さ×凝集性で示され、試験片が半固形状態であることを示す。咀嚼性はH×A2/A1×T2/T1、すなわち硬さ×弾力性×凝集性で示され、試験片が固形状態であることを示す。
【0045】
実施例1及び比較例1~2の各ブリの冊状の切り身を約1cmの厚さに切り、それぞれ2枚づつ試験片とした。これらの試験片について、テクスチャー試験機(株式会社サン科学社製、商品名:SUN RHEO METER CR-3000EX)を用いてテクスチャー試験を行った。測定条件は、使用アダプター:歯車(A)、侵入距離:5mm、テーブル移動速度:60.0mm/minとした。
【0046】
実施例1及び比較例1~2の試験片の両端側と中央部の3箇所において、歯車(A)型のアダプターを表面から5mmの位置まで押し込んだ。その際、アダプターが表面から5mmの位置まで押し込む際に掛かった荷重、及び、表面から5mmの位置に達した後にアダプターが初期位置までに戻る際に掛かった荷重を経時的に測定した。この負荷操作を再度行い、2回の荷重変化を測定した。
【0047】
図3は、実施例1のブリに対するテクスチャー試験の荷重変化のパターンを示すグラフであり、
図4は、比較例1のブリに対するテクスチャー試験の荷重変化のパターンを示すグラフであり、
図5は、比較例2のブリに対するテクスチャー試験の荷重変化のパターンを示すグラフである。この実施例1及び比較例1~2の各ブリの荷重変化パターンからは、1ストローク目の荷重値が大きく、また、実施例1の荷重値は比較例1~2のものよりも大きいことが示された。
【0048】
また、
図3~5に示された荷重変化のパターンから、実施例1及び比較例1~2の各ブリの試験片の機械的特性(硬さ、もろさ、弾力性、凝集性、ガム性、咀嚼性、粘着性)を求め、その結果を表4に示した。
【0049】
【0050】
表4に示されたように、実施例1のブリの試験片は、他の比較例1~2の各ブリの試験片と比べて、身肉が引き締まっていることが分かった。また、従来の養殖の比較例2のブリの試験片は、天然物の比較例1のブリの試験片よりも身肉が硬いことが分かった。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0052】
以上を換言すると、本発明が適用される養殖魚及び魚類の養殖方法は、次のような構成を有していれば足り、各種各様な実施の形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される養殖魚は、100gあたり10mg以上のオルニチンを含む。
これにより、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を得ることができる。
【0053】
また、本発明の養殖魚は、スズキ目アジ科、スズキ目タイ科、スズキ目サバ科、サケ目サケ科、カレイ目ヒラメ科、フグ目フグ科からなる群より選択されるいずれかの魚種である。
これにより、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を選択的に得ることができる。
【0054】
さらに、本発明の養殖魚は、増肉係数が1.0以上4.0以下である。
これにより、養殖魚の成長と養殖魚に給与する飼料の量とのバランスをとることができる。
【0055】
本発明の魚類の養殖方法は、飼料の魚粉含有率が30重量%以上である。
これにより、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を得ることができる。
【0056】
また、本発明の魚類の養殖方法は、飼料の粗蛋白質含有率が25重量%以上60重量%以下である。
これにより、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚を効率的に得ることができる。
【0057】
さらに、魚類の養殖方法は、飼料の酸化防止剤含有率が0重量%である。
これにより、飼料中の添加物を極力低減することができる。
【0058】
また、本発明の魚類の養殖方法は、異なる養殖方法を用いた養殖生簀が隣接する場合、隣接する養殖生簀の端部同士が80m以上離間して設置された養殖生簀において養殖する。
これにより、養殖生簀間を離間させることにより、他の養殖生簀における養殖魚の健康状態の影響や飼料の混入を防ぐことができる。
【0059】
さらに、本発明の魚類の養殖方法は、養殖生簀における魚類の飼育密度が15kg/m3以下である。
これにより、養殖生簀中における魚類同士の接触頻度が下がるため、魚類間に生じるストレスを低減させることができ、オルニチン成分を含む滋養に富んだ養殖魚をさらに効率的に得ることができる。