(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008413
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/38 20100101AFI20230112BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20230112BHJP
【FI】
H01L33/38
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111964
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA04
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA39
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA74
5F241CA85
5F241CA99
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を縦型構造で実現しつつ、光取り出し効率を従来よりも向上させる。
【解決手段】ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、導電性の支持基板と、支持基板の上層に形成された導電層と、導電層の上層に形成された絶縁層と、絶縁層の上層に形成されたp型又はn型の第一半導体層と、第一半導体層の上層に形成された活性層と、活性層の上層に形成され第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で絶縁層を貫通して第一半導体層と前記支持基板とを電気的に接続する内部電極と、第二半導体層の上層に形成された上部電極と、第二半導体層と上部電極との界面に形成され、上部電極の構成材料と第二半導体層の構成材料との合金からなり平均膜厚が150nm以下の合金層とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された導電層と、
前記導電層の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成されたp型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で前記絶縁層を貫通して前記第一半導体層と前記支持基板とを電気的に接続する内部電極と、
前記第二半導体層の上層に形成された上部電極と、
前記第二半導体層と前記上部電極との界面に形成され、前記上部電極の構成材料と前記第二半導体層の構成材料との合金からなり、平均膜厚が150nm以下の合金層とを備えたことを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記第二半導体層はInPを含むことを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記第二半導体層は、前記活性層側に位置するクラッド層と、前記クラッド層の上層に位置し前記クラッド層に対して組成及びドーパント濃度の少なくとも一方が異なるコンタクト層とを含み、
前記コンタクト層の構成材料は、前記ピーク発光波長の光エネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記合金層は、Geを含む材料からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記第二半導体層は、前記合金層に隣接する箇所のドーパント濃度が5×1017/cm3~5×1018/cm3であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記支持基板の主面に直交する方向に見たときに、前記上部電極の占有面積は、前記第二半導体層の占有面積の20%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特にピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、これまで以下の手順で製造されるのが一般的であった(下記、特許文献1参照)。すなわち、成長基板としてのInP基板上に、InP基板に格子整合する、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させる。その後、半導体ウエハ上に電流注入のための電極を形成し、チップ状に切断して製造される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても光出力の向上が求められるようになってきている。InP基板は、可視光領域で用いられるGaAs基板と同様に、屈折率が3以上と高い値を示す。このため、InP基板を通じて光を取り出そうとすると、空気との界面における屈折率差に起因した全反射が生じ、光取り出し効率が低く制限されてしまう。更に、InP基板は熱抵抗が大きいため、大電流駆動において光出力が飽和状態になりやすい。このような事情から、特許文献1に開示されている構造は、高い光出力を得るLED素子を実現するには不向きであった。
【0006】
特許文献1に開示された構造よりも高い光出力を得る方法として、例えば、特許文献2に開示された構造の採用が考えられる。すなわち、高い放熱性を示す導電性の支持基板に、エピタキシャル層が形成された成長基板を貼り合わせた後、成長基板を除去することで実現した構造が有効であると考えられる。ただし、特許文献2に記載された発光素子は、ターゲットとしている波長が、1000nmよりも低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-282875号公報
【特許文献2】特開2012-129357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載されたようなLED素子、すなわち、活性層よりも上層に一方の電極を、活性層よりも下層に他方の電極をそれぞれ配置して、活性層内において基板の面に直交する方向に電流を流すことで発光させるLED素子は、「縦型構造」と呼ばれることがある。
【0009】
本発明は、ピーク発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を縦型構造で実現しつつ、光取り出し効率を従来よりも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る赤外LED素子は、ピーク発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子であって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された導電層と、
前記導電層の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成されたp型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で前記絶縁層を貫通して前記第一半導体層と前記支持基板とを電気的に接続する内部電極と、
前記第二半導体層の上層に形成された上部電極と、
前記第二半導体層と前記上部電極との界面に形成され、前記上部電極の構成材料と前記第二半導体層の構成材料との合金からなり、平均膜厚が150nm以下の合金層とを備えたことを特徴とする。
【0011】
半導体層との間で良好な電気的な接続(オーミック性)を確保する観点から、半導体層の上層に位置する電極(上部電極)を形成するに際しては、半導体層の上面に電極材料を成膜した後にアニール処理が施される。アニール処理が行われることで、半導体層と上部電極との界面には合金層が形成される。
【0012】
電極材料として使われる金属材料は、半導体層の材料に応じて決定される。なぜならば、半導体層の材料によって、当該半導体層に対する接触抵抗を小さくできる金属が異なるからである。つまり、電極材料の種類は、半導体層の材料、言い換えれば発光波長によって決定される。本発明で対象としているピーク波長が1000nm以上の発光素子を実現できる半導体材料としては、InP基板に格子整合するInP、GaInAsP、AlGaInAs、GaInAs系の半導体しか実用化されていない。
【0013】
従来、発光波長が1000nm以上を示す半導体発光素子は、光通信用のレーザ用途として開発が進められていた。レーザ素子の場合、半導体層の端面から光が取り出されるため、半導体層の主面(基板の主面に平行な面)から光が取り出されることは想定されていない。
【0014】
これに対し、上記のように、接触抵抗を低下させる観点でアニール処理が施されると、縦型構造の赤外LED素子の場合、光取り出し面を構成する半導体層の主面の下層位置に合金層が形成される。
【0015】
仮に、合金層が存在しない場合、活性層から出射した赤外光の一部は、上部電極に入射される。上部電極は金属材料で構成されているため、上部電極に入射された赤外光の一部は電極表面で反射する。このため、反射光は基板側に向かって戻され、再度赤外LED素子内の層で反射されることで、光取り出し面から取り出される。
【0016】
つまり、合金層の存在は、活性層から出射された赤外光を吸収してしまい、光取り出し効率を低下させる原因となる。
【0017】
一方で、合金層を完全になくした場合、半導体層と上部電極との間の接触抵抗が高まることで、順方向電圧の上昇を招く。更に、半導体層と上部電極との密着性が低下するため、ワイヤボンディング時に電極が剥がれる現象を招く場合がある。かかる観点から、合金層を完全になくすことは難しい。
【0018】
本発明者の鋭意研究の結果、合金層の平均膜厚が150nmを超えると、光取り出し効率の低下傾向が促進されることを見出した。また、合金層の平均膜厚が150nm以内であれば、合金層が存在しない場合と遜色ない光出力が得られることを見出した。
【0019】
つまり、上記赤外LED素子によれば、順方向電圧の上昇及び電極の剥がれという2つの課題の発現を抑制しながらも、光取り出し効率を高めることが可能となる。
【0020】
なお、合金層の平均膜厚は、支持基板の主面に直交する方向から見て10μm四方以上の範囲内から、均等に1μm毎の計測点を設定し、各計測点における合金層の膜厚を平均することで得られた値を採用することができる。
【0021】
前記第二半導体層はInPを含むものとして構わない。前記第二半導体層の全体がInPからなるものとしても構わない。
【0022】
前記第二半導体層は、前記活性層側に位置するクラッド層と、前記クラッド層の上層に位置し前記クラッド層に対して組成及びドーパント濃度の少なくとも一方が異なるコンタクト層とを含み、
前記コンタクト層の構成材料は、前記ピーク発光波長の光エネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有するものとしても構わない。
【0023】
InP系材料の場合、InP層よりもGaInAsPやGaInAs等の比較的バンドギャップエネルギーが小さい材料の方が、オーミック接合を形成しやすい。これは、表面のIn組成が高い方が、自然酸化膜が形成されやすいためと考えられる。しかしながら、合金層の膜厚を薄くした場合であっても、コンタクト層が活性層から出射した光を吸収してしまうと、光取り出し効率が低下してしまう。上記のように、コンタクト層を、ピーク発光波長の光エネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有する材料で形成することで、コンタクト層内での光吸収が抑制されるため、高い光取り出し効率が確保される。
【0024】
かかる観点から、コンタクト層としては、クラッド層よりもドーパント濃度の高いInPで形成するのが好適である。InPによれば、III族元素とV族元素がそれぞれ1種類で構成されるため、組成ズレが発生しにくい。これにより、製造時に素子間のばらつきが抑制され、均質な特性を示す赤外LED素子を安定的に製造できるというメリットもある。
【0025】
前記合金層は、Geを含む材料からなるものとしても構わない。
【0026】
前記第二半導体層は、前記合金層に隣接する箇所のドーパント濃度が5×1017/cm3~5×1018/cm3であるものとしても構わない。
【0027】
上部電極と第二半導体層との間で低抵抗のオーミック接触を実現するためには、第二半導体層に対して適切なドーピングを行う必要がある。ドーパント濃度が5×1017/cm3未満である場合には、第二半導体層と上部電極間の接触抵抗が大きくなる可能性がある。また、過度にドーピングを行うと結晶性の劣化を招く。特に、上記赤外LED素子を製造するに際しては、第二半導体層を形成した後に、活性層が形成されるため、第二半導体層は活性層を形成する下地となる。したがって、活性層における高い発光効率を確保する観点からは、第二半導体層の結晶性が劣化する事態は避ける必要がある。かかる観点から、第二半導体層のドーパント濃度は5×1018/cm3以下とするのが好適である。
【0028】
前記支持基板の主面に直交する方向に見たときに、前記上部電極の占有面積は、前記第二半導体層の占有面積の20%以下であるものとしても構わない。
【0029】
第二半導体層の露出面によって光取り出し面が形成される。つまり、上部電極の占有面積が大きくなると、それだけ光取り出し面の面積が低下し、光取り出し量が低下する。上記の構成によれば、光取り出し面の面積を確保しつつ、合金層内における光吸収が抑制されるため、高い光取り出し効率が実現される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光取り出し効率を従来よりも向上した、ピーク発光波長が1000nm以上の縦型構造の赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す赤外LED素子を-Y方向に見たときの模式的な平面図である。
【
図3A】
図1における上部電極の近傍位置の拡大断面図である。
【
図3B】上部電極の近傍位置における赤外LED素子の断面SEM写真である。
【
図4A】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図4B】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
【
図4C】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
【
図4D】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
【
図4E】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
【
図4F】
図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における断面図である。
【
図5】光出力と合金層の平均膜厚との関係を示すグラフである。
【
図6】順方向電圧と合金層の平均膜厚との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の赤外LED素子の別実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る赤外LED素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0033】
本明細書において、「層Q1の上層に層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚20nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。
【0034】
本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0035】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された半導体積層体20を備える。
図1は、所定の位置においてXY平面に沿って赤外LED素子1を切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、
図1に付されたX-Y-Z座標系が参照される。
【0036】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。以下の例では、支持基板11の主面がXZ平面に平行であり、その法線方向(Y方向)に光が取り出されるものとして説明される。
【0037】
本実施形態の赤外LED素子1は、半導体積層体20内(特に後述される活性層25内)で、赤外光Lが生成される。より詳細には、
図1に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1000nm以上である。なお、ここでいうピーク波長とは、光スペクトルにおいて光出力が最も高い波長に対応する。
【0038】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0039】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばSiやGe等の半導体や、Cu、CuW等の金属材料で構成されている。支持基板11が半導体からなる場合には、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされているものとして構わない。一例として、支持基板11は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板である。ドーパントとしては、ホウ素(B)以外には、例えば、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等が利用できる。高い放熱性と低い製造コストとを両立する観点からは、支持基板11はSi基板が好適に用いられる。
【0040】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。
【0041】
(導電層16)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された導電層16を備える。本実施形態において、導電層16は、より詳細には接合層13と反射層15を含む。
【0042】
接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。
図4Eを参照して後述されるように、この接合層13は、半導体積層体20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm~5.0μmであり、好ましくは1.0μm~3.0μmである。
【0043】
反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0044】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合、反射層15はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。反射層15を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0045】
反射層15の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μmであり、好ましくは0.3μm~1.0μmである。
【0046】
図1では図示しないが、導電層16は、反射層15と接合層13との間に、接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制するためのバリア層を更に含むものとしても構わない。バリア層の材料としては、例えば、Ti、Pt、W、Mo、Ni等を含む材料で実現できる。一例として、Ti/Pt/Auの積層体で構成される。バリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.05μm~3μmであり、好ましくは0.2μm~1μmである。このバリア層が介在することで、接合層13の材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率が低下するのを防止できる。バリア層は、接合層13と支持基板11との間にも設けられていても構わない。
【0047】
光取り出し効率を向上させる観点からは、
図1に示すように、赤外LED素子1が反射層15を備えるのが好適であるが、本発明において、赤外LED素子1が反射層15を備えるか否かは任意である。
【0048】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の上層に形成された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0049】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合においては、絶縁層17はSiO2、SiN、Al2O3等の材料を用いることができる。絶縁層17の材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0050】
(半導体積層体20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の上層に形成された半導体積層体20を有する。半導体積層体20は、複数の半導体層の積層体であり、例えば、コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。なお、
図7を参照して後述されるように、半導体積層体20は、第二クラッド層27の上層にコンタクト層28を更に含むものとしても構わない。半導体積層体20を構成する各半導体層は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料で構成される。
【0051】
《コンタクト層21,第一クラッド層23》
本実施形態において、コンタクト層21は例えばp型のGaInAsPで構成される。コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~3×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~2×1019/cm3である。
【0052】
本実施形態において、第一クラッド層23はコンタクト層21の上層に形成されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば、1000nm~10000nmであり、好ましくは2000nm~5000nmである。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~3×1018/cm3である。
【0053】
コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。本実施形態では、コンタクト層21及び第一クラッド層23が「第一半導体層」に対応する。
【0054】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の上層に形成された半導体層である。活性層25の材料は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ
図4Aを参照して後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0055】
ピーク波長が1000nm~2000nmの赤外光Lを出射する赤外LED素子1を実現したい場合に、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0056】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm~2000nmであり、好ましくは、100nm~300nmである。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm~20nmの井戸層及び障壁層が、2周期以上50周期以下の範囲で積層されて構成される。
【0057】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えばSiを利用できる。
【0058】
《第二クラッド層27》
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の上層に形成されており、例えばn型のInPである。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば100nm~10000nmであり、好ましくは、500nm~5000nmである。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3~5×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~4×1018/cm3である。第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。本実施形態の赤外LED素子1においては、第二クラッド層27が「第二半導体層」に対応する。
【0059】
図1に示す例では、第二クラッド層27の+Y側の表面に凹凸部27aが形成されている。凹凸部27aが形成されることで、活性層25から+Y方向に進行した赤外光L(L1,L2)が第二クラッド層27の表面で活性層25側に反射される光量が低下され、光取り出し効率が高められる。ただし、本発明において、第二クラッド層27の表面に凹凸部27aを設けるか否かは任意である。
【0060】
第一クラッド層23及び第二クラッド層27の材料は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ、成長基板3(後述する
図4参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第一クラッド層23及び第二クラッド層27の材料は、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs等を利用することが可能である。
【0061】
本実施形態では、第一半導体層(21,23)がp型半導体であり、第二半導体層(第二クラッド層27)がn型半導体であるものとして説明されるが、両者の導電型が逆転しても構わない。
【0062】
(内部電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17内の複数の箇所においてY方向に貫通して形成された、内部電極31を有する。内部電極31は、第一半導体層(21,23)と、導電層16とを電気的に接続する。内部電極31は、XZ平面に平行な方向(すなわち、支持基板11の主面に平行な方向)に分散した複数の位置に設けられている。
【0063】
内部電極31は、コンタクト層21に対してオーミック接続の形成が可能な材料で構成されている。一例として、内部電極31は、AuZn、AuBe、又は少なくともAuとZnを含む積層構造(例えばAu/Zn/Au等)で構成される。これらの材料は、反射層15を構成する材料と比較して、赤外光Lに対する反射率が低い。
【0064】
Y方向に見た場合の、内部電極31の配置パターンの形状は任意である。ただし、支持基板11の主面に平行な方向に関して活性層25内の広い範囲にわたって均質に電流を流す観点からは、内部電極31はXZ平面に沿った面方向に規則的な形状を有して分散した状態で配置されるのが好ましい。
【0065】
図2は、赤外LED素子1を第二クラッド層27の上方からY方向に見たときの模式的な平面図の一例である。ただし、
図2は、内部電極31の形状パターンの理解を容易化する観点で、内部電極31についても図示されている。
図2については、上部電極40の説明の箇所で詳細に後述される。なお、
図2では、半導体積層体20が上面視で矩形状を呈している場合が図示されている。
【0066】
赤外LED素子1をY方向に見たときの、全ての内部電極31の総面積は、半導体積層体20(例えば第二クラッド層27)の面方向に係る面積に対して、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが特に好ましい。内部電極31の総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2が内部電極31に吸収されてしまい、取り出し効率が低下してしまう。一方で、内部電極31の総面積が小さすぎると、抵抗値が高くなって順方向電圧が上昇してしまう。
【0067】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体積層体20とは反対側(-Y側)の面上に形成された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、Ti/Au、Ti/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0068】
(上部電極40)
図1に示す赤外LED素子1は、半導体積層体20の上層に形成された上部電極40を有する。上部電極40は、典型的には複数本が所定の方向に延在するように形成されている。
【0069】
図2には、上部電極40が、半導体積層体20の辺に沿うように、X方向及びZ方向に複数延在する第一上部電極41と、特定の箇所の第一上部電極41の上面に形成された、第一上部電極41よりも上面視の内径が大きい第二上部電極42を含む構成が示されている。第二上部電極42は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられており、パッド電極と呼ばれることがある。
【0070】
第一上部電極41の配置パターン形状は任意であり、例えば格子状であっても構わないし、渦巻状であっても構わない。上部電極40のうちの第一上部電極41は、下層に位置する半導体層(ここでは第二クラッド層27)の面を露出させつつ、XZ平面上の広い範囲にわたって形成される。これにより、活性層25内を流れる電流をXZ平面に平行な方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。
【0071】
第一上部電極41は、一例として、AuGe/Ni/Au、Au/Ge/Au、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。第二上部電極42は、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で構成される。
【0072】
パッド電極を構成する第二上部電極42は、例えば半導体積層体20の各辺(チップサイズ)が800μm~2500μm程度である場合に、内径90μm~120μm程度の円形状を呈する。なお、第一上部電極41の線幅は10μm~30μm程度である。チップサイズが800μmを超える高出力型の赤外LED素子1においては、高い電流を注入する観点から、
図2に示すように第二上部電極42を複数箇所に設けるのが好適である。
【0073】
Y方向に見たときに、上部電極40(第一上部電極41,第二上部電極42)の専有面積は、好ましくは第二クラッド層27の占有面積の20%以下であり、より好ましくは15%以下である。上部電極40の専有面積が高くなりすぎると、光取り出し面の面積が低下してしまうため、光取り出し効率が低下する可能性がある。なお、前記上部電極40の占有面積は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは8%以上である。
【0074】
(合金層35)
図1に示す赤外LED素子1は、上部電極40と第二クラッド層27との界面に、合金層35を有する。合金層35は、上部電極40を構成する金属材料と第二クラッド層27を構成する半導体材料との合金である。
【0075】
合金層35は、主として上部電極40の形成箇所に対向する位置(すなわち上部電極40の直下の位置)に存在する。合金層35は、XZ平面上の位置に応じて膜厚が微妙に変化しており、その平均膜厚は150nm以下であり、より好ましくは平均膜厚が50nm~150nmである。合金層35の平均膜厚は、支持基板11の主面に直交する方向、すなわちY方向から見て10μm四方以上の範囲内から、均等に1μm毎の計測点を設定し、各計測点における合金層の膜厚の平均値を採用することができる。
【0076】
図3Aは、上部電極40の近傍位置の拡大図である。
図3Bは、上部電極40の近傍位置における赤外LED素子1の断面SEM写真である。なお、
図3A及び
図3Bでは、上部電極40のうち、特に第二上部電極42が形成されている箇所の近傍が示されている。
【0077】
図3A~
図3Bに示す例では、上部電極40は、第一上部電極41と第二上部電極42と有しており、第二上部電極42の第一上部電極41に最も近い位置には例えばTiからなる密着層45を含む。密着層45は、パッド電極を構成する第二上部電極42を半導体積層体20側に密着させる目的で設けられている。
【0078】
図3Bに示すSEM写真にも現れているように、合金層35は、上部電極40と第二クラッド層27との界面に形成されており、その膜厚は場所に応じて微妙に変化している。合金層35は、後述されるように、上部電極40(より詳細には第一上部電極41)を形成する過程で、電極材料を蒸着した後に行われる加熱工程(アニール工程)によって、電極材料と半導体材料とが合金化されることで形成される。加熱工程による合金化の進行の速度が場所に応じて微妙に異なることで、
図3BのSEM写真に示されるように、合金層35の膜厚が場所に応じて微妙に変化しているものと推定される。なお、
図3BのSEM写真において、第二上部電極42と第一上部電極41との境界箇所に、色が異なる層が存在するが、この層は、上記のように第二上部電極42の一部を構成する密着層45に対応する。
【0079】
本実施形態の赤外LED素子1によれば、合金層35の平均膜厚が150nm以下とされていることで、光取り出し効率が高められる。この点は、実施例を参照して後述される。
【0080】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、
図4A~
図4Fの各図を参照して説明する。
図4A~
図4Fは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。以下の各手順は、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲内であれば、その順序は適宜前後しても構わない。
【0081】
(ステップS1)
図4Aに示すように、例えばInPからなる成長基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、半導体積層体20を形成する。本ステップS1において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層(21,23,25,27)の材料例は上述した通りである。
【0082】
成長基板3としては、InPが好適に利用される。ただし、ピーク波長が1070nm以下の赤外LED素子1を製造するに際しては、成長基板3としてGaAsを利用しても構わない。
【0083】
(ステップS2)
エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、コンタクト層21の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを形成する。その後、真空蒸着装置を用いて内部電極31の形成材料(例えばAuZn)を成膜した後、リフトオフ法によってレジストマスクが剥離される。その後、例えば、450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、コンタクト層21と内部電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0084】
次に、プラズマCVD法によって例えばSiO
2からなる絶縁層17が成膜される。その後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により、内部電極31の上層に位置する絶縁層17が取り除かれて、内部電極31が露出される(
図4B参照)。
【0085】
(ステップS3)
図4Cに示すように、絶縁層17及び内部電極31を覆うように、反射層15が形成され、その後接合層13aが形成される。例えば、真空蒸着装置によって、例えばAl/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続き、Au-Snが所定の膜厚で成膜されることで接合層13aが形成される。なお、上述したように、反射層15と接合層13aとの間に、例えばTi/Pt/Auが所定の膜厚で成膜されることでバリア層を形成してもよい。
【0086】
(ステップS4)
図4Dに示すように、成長基板3とは別の支持基板11を準備し、その上面に例えばAu-Snからなる接合層13bが形成される。なお、図示されていないが、支持基板11の面上に、コンタクト用の金属層(例えばTi)を形成し、その上層に接合層13bを形成するものとして構わない。また、接合層13bを形成する前に、上述したバリア層を形成しても構わない。
【0087】
(ステップS5)
図4Eに示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えば280℃の温度、1MPaの圧力下で貼り合わせられる。この処理により、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが溶融されて、接合層13として一体化される。
【0088】
(ステップS6)
半導体積層体20側の面にレジストを塗布して保護した後、露出した成長基板3に対して、研削研磨処理又は塩酸系エッチャントによるウェットエッチング処理を行う。これにより、成長基板3が剥離されて、第二クラッド層27が露出する(
図4F参照)。
【0089】
(ステップS7)
第二クラッド層27の上面の所定の位置に、上部電極40を形成する。詳細には以下の手順で行われる。
【0090】
まず、第二クラッド層27の上面にフォトレジストを塗布する。次に、上部電極40の形状に応じてパターニングされたフォトマスクを所定の位置に設置した状態で、フォトマスクを介して露光用の光を照射する。これにより、フォトレジストが上部電極40の形状にパターニングされ、レジストマスクが形成される。
【0091】
次に、上部電極40を構成する材料の膜を例えば真空蒸着装置を用いて成膜する。より詳細には、第一上部電極41を構成する膜の材料である、AuGe/Ni/Au又はAu/Ge/Au等を成膜する。次に、フォトレジストが剥離された後、例えば450℃、10分間の加熱処理(アニール処理)が施される。これにより、第一上部電極41が形成される。
【0092】
なお、この加熱処理によって、第一上部電極41を構成する金属材料と、第二クラッド層27を構成する半導体材料とが合金化されてなる合金層35が、第一上部電極41と第二クラッド層27との界面に形成される(
図3A参照)。第二クラッド層27を構成する半導体材料として想定され得る、Al、Ga、In、As、P等は第一上部電極41を構成する金属材料としては用いられないため、第一上部電極41の直下を含む領域を例えばXRF等を用いて組成分析することで、合金層35の存在を検知できる。
【0093】
次に、第一上部電極41の上面の所定位置に第二上部電極42が形成される。より詳細には、密着層45を構成する膜の材料であるTi、第二上部電極42を構成する膜の材料であるTi/Au、Ti/Pt/Au等を、真空蒸着装置を用いて成膜した後、リフトオフ工程が行われる(
図1,
図2参照)。
【0094】
(後の工程)
ステップS7以後は、例えば以下の工程が実行される。なお、以下の手順は適宜入れ替えることができる。
【0095】
上部電極40が形成されていない第二クラッド層27の表面に対してウェットエッチングが施され、凹凸部27aが形成される。その後、素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二クラッド層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、臭素とメタノールの混合液によってウェットエッチング処理が行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体積層体20の一部が除去される(
図1参照)。
【0096】
支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に裏面電極33が形成される。裏面電極33の具体的な形成方法としては、上部電極40と同様に、真空蒸着装置によって裏面電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜後、リフトオフすることで形成できる。
【0097】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。また、厚みの程度も用途等に応じて適宜設定される。
【0098】
その後、支持基板11ごとダイシングされることで、チップ化される。
【0099】
その後、各チップの第二上部電極42に対して、ボンディングワイヤが取り付けられる。
【0100】
[検証1]
ステップS7において、第一上部電極41の形成の際に行われる加熱工程の加熱条件を異ならせた点を除き、他は同一の条件で各ステップを実行することで、複数種の赤外LED素子のサンプル#A1~#A4,#B1を製造した。なお、サンプル#B1は、ステップS7において加熱処理を行わずに製造されたサンプルであり、合金層35を備えていない点において、他のサンプル(#A1~#A4)とは異なっている。なお、各サンプル#A1~#A4,#B1のそれぞれは、同一の製造条件で複数個(約1000個)が製造された。
【0101】
各サンプル#A1~#A4について、SEM像に基づき合金層35の平均膜厚を計測した。平均膜厚は、各SEM像の15μm四方の範囲内から、均等に1μmごとに抽出された複数の計測点における合金層35の膜厚の平均値が採用された。それぞれの平均膜厚は、下記表1の通りである。なお、サンプル#B1については、合金層35が存在していないため、平均膜厚は0nmである。サンプル#B1が合金層35を有していない点は、念の為SEM像によっても確認された。
【0102】
ワイヤボンディング工程の実行時に、上部電極40がワイヤに引っ張られて剥がれを生じたサンプルの比率(剥がれ率)を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
表1によれば、合金層35が形成されていないサンプル#B1については、1000個の素子のうちの8個の素子に、上部電極4の剥がれが生じていた。これに対し、合金層35が形成されたサンプル#A1~#A4に属する素子は、いずれも上部電極40の剥がれが確認されなかった。この結果より、第一上部電極41の形成時に加熱工程を行って、第二クラッド層27と上部電極40との密着性を高めることで、ワイヤボンディング工程時における上部電極40の剥がれが抑制されることが分かる。
【0105】
[検証2]
上部電極40の剥がれが生じなかった各サンプル(#A1~#A4,#B1)に属する素子に対して、同一の順方向電流(20mA)を供給して点灯させて、光出力と合金層35の平均膜厚との関係、並びに順方向電圧と合金層35の平均膜厚との関係をそれぞれ計測した。この結果を
図5及び
図6に示す。なお、
図5に示す光出力は、積分球によって測定された。
【0106】
図5によれば、合金層35の平均膜厚が270nm以上であるサンプル#A3及びサンプルA4は、平均膜厚が150nm以下であるサンプル#A1及びサンプル#A2と比べて、光出力が大きく低下していることが分かる。また、サンプル#A1及びサンプル#A2は、合金層35が形成されていないサンプル#B1とほぼ同等の光出力であることが分かる。
【0107】
この結果から、サンプル#A3及びサンプルA4の場合、内部に存在する合金層35の膜厚が厚いため、合金層35内で吸収された赤外光Lの光量が比較的大きくなり、相対的に光出力が低下したものと推察される。
【0108】
一方、
図6によれば、合金層35の平均膜厚が150nm以下であるサンプル#A1及びサンプル#A2は、合金層35の平均膜厚が270nm以上であるサンプル#A3及びサンプルA4と同等の順方向電圧が示されている。そして、合金層35を設けていないサンプル#B1は、サンプル#A1及びサンプル#A2と比べて、順方向電圧が大幅に上昇している。この結果から、合金層35の膜厚をある程度薄くした場合であっても、合金層35を全く設けない構成と比べると、順方向電圧を低下させる効果が得られることが分かる。また、合金層35の膜厚を厚膜化しても、順方向電圧を低下させる作用が大幅に高められるわけではないことが分かる。
【0109】
以上の結果に鑑みれば、平均膜厚が150nm以下の合金層35を備えた赤外LED素子1によれば、上部電極40の膜剥がれの抑制と、順方向電圧の上昇の抑制を両立しながらも、光出力を高められることが分かる。なお、上記の検証からは、合金層35の平均膜厚が50nm~150nmであるのがより好ましいことが分かる。
【0110】
[別実施形態]
図7に示すように、赤外LED素子1は、第二クラッド層27の上層に、第二クラッド層27よりもドーパントが高濃度にドープされたコンタクト層28を備えるものとしても構わない。上記実施形態のように、第二クラッド層27がn型半導体層である場合、コンタクト層28もn型半導体層で構成される。この場合、第二クラッド層27及びコンタクト層28が「第二半導体層」に対応する。
【0111】
一例として、コンタクト層28は、n型のInPで構成される。コンタクト層28の厚みは限定されないが、例えば10nm~1000nmであり、好ましくは、50nm~500nmである。コンタクト層28のn型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~1×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~5×1018/cm3である。
【0112】
図7に示す赤外LED素子1は、ステップS1で上述したエピタキシャル工程において、第二クラッド層27の形成前にコンタクト層28を形成する以外は、上記と同様の方法で製造される。
【符号の説明】
【0113】
1 :赤外LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13(13a,13b) :接合層
15 :反射層
16 :導電層
17 :絶縁層
20 :半導体積層体
21 :コンタクト層
23 :第一クラッド層
25 :活性層
27 :第二クラッド層
27a :凹凸部
28 :コンタクト層
31 :内部電極
33 :裏面電極
35 :合金層
40 :上部電極
41 :第一上部電極
42 :第二上部電極
45 :密着層
L :赤外光