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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084167
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】海底資源掘削船
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20200101AFI20230612BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20230612BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20230612BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B63B35/00 M
E21B43/00 A
B63B35/00 N
B63H25/42 E
B63H21/38 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198177
(22)【出願日】2021-12-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】518102436
【氏名又は名称】合同会社小林知財研鑽処
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 健一
(57)【要約】
【課題】掘削ユニットが接続された掘削船本体を回転させることで海底を掘削し、効果的に海底資源を回収可能な掘削船を提供する。
【解決手段】筒状管21を右船11と左船12で挟持した状態で掘削体23を海底S2に当接させ、筒状管保持部にて掘削船本体10と筒状管21を固定後、掘削船本体10の回転スクリュー15により掘削ユニット20を中心に船体を回転させることで、掘削体23を回転させて海底S2の掘削を行い、掘削後のメタンガスGを資源回収ユニット26にて回収する手段を採る。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に埋蔵されたメタンハイドレート層の採掘が可能な海底資源掘削船であって、
バラストユニット及び船体所定箇所に備えられ船体を回動可能な回転スクリューを備えた掘削船本体と、該掘削船本体に装備された掘削ユニットと、から成り、
掘削船本体は、短手方向略中央箇所にて右船及び左船に分割可能な船体構造を備え、
掘削ユニットは、海底へと延伸可能な筒状管と、筒状管と掘削船本体を接続する筒状管保持部と、筒状管先端部に備えられ海底を掘削可能な掘削体と、掘削体近傍に備えられた燃焼室と、燃焼室から排出される排熱を筒状管の先端領域に熱伝導させるための排熱管と、上端部が筒状管の外周面に周設され下方へ拡開した漏斗状であり海底より浮上したメタンガスを回収可能な資源回収ユニットと、回収したメタンガスを貯留する資源回収タンクと、を備え、
筒状管には、回収したメタンガスを資源回収タンクへ送る資源回収用パイプと、燃焼室へ燃料を送る燃焼用パイプと、排熱管から排出される排気を送出する排気用パイプと、が挿通されて成り、
筒状管を右船と左船で挟持した状態で掘削体を海底に当接させ、筒状管保持部にて掘削船本体と筒状管を固定後、掘削船本体の回転スクリューにより掘削ユニットを中心に船体を回転させることで、掘削体を回転させて海底の掘削を行い、掘削後のメタンガスを資源回収ユニットにて回収することを特徴とする海底資源掘削船。
【請求項2】
前記燃焼用パイプが資源回収タンクに接続され、回収したメタンガスの一部を燃料として燃焼室へ流入させることが可能なことを特徴とする請求項1に記載の海底資源掘削船。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底資源掘削船に関し、詳しくは、採掘船本体と、該採掘船本体に装備され採掘を行う採掘ユニットにて、海底に埋蔵されたメタンハイドレート層の採掘を行うための海底資源掘削船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本政府が領有権を主張している領海・排他的経済水域(EEZ)は約465万平方kmとなっており、世界第6位の面積を誇る。その領海・排他的経済水域(EEZ)には海底資源とも言われる、金、銀、銅、亜鉛、鉛、石油、コバルト・リッチ・クラスト等の鉱物資源や、ガスハイドレート層等の豊富な鉱物資源やエネルギー資源の存在が確認されており、その資源採掘に関する様々な研究や試掘が行われている。
【0003】
海底資源、その中でも特にメタンハイドレートについての掘削や回収方法については、特許第6140238号公報(特許文献1)のような、掘削機を海底に下ろしメタンハイドレート層の掘削をした後に、メタンハイドレートを含んだ掘削物を海中所定箇所に設置したガス回収装置に取り込み、回収装置を温めてメタンハイドレートをガス化し回収する技術提案や、特開第2017-128950号公報(特許文献2)のような、ガス捕集装置を用意し、メタンハイドレートから発生するメタンガスをピンポイントで捕集する技術提案がなされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1にかかる技術提案では、掘削に使用する掘削機の回収が困難であり、海上船内の熱交換部から300~400m先のガス回収装置内加熱部まで熱伝導をさせることもまた困難であった。
また、特許文献2にかかる技術提案では、自然発生しているメタンガスが、どのくらいの頻度で、どれだけの量が噴出しているかによってメタンガス回収量が前後するため、回収方法としては実現可能性に難があると言えるものであった。
【0005】
そこで、本出願人は、メタンハイドレート層の掘削方法に着目し、掘削船本体に掘削ユニットを接続する態様にて、掘削船本体を回転させることで効果的にメタンハイドレート層を掘削できないものかとの着想のもと、掘削船の所定箇所に回転スクリューを備え、バラストユニットによって船体重量を増大させることにより、船底から延伸させた掘削ユニットをメタンハイドレート層のある海底に当接させ、更に掘削船本体が回転スクリューによって円回転を行うことで海底を掘削し得る掘削船を開発し、本発明にかかる「海底資源掘削船」の提案に至るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6140238号公報
【特許文献2】特開第2017-128950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、掘削ユニットが接続された掘削船本体を回転させることで海底を掘削し、効果的に海底資源を回収可能な掘削船を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、海底に埋蔵されたメタンハイドレート層の採掘が可能な海底資源掘削船であって、バラストユニット及び船体所定箇所に備えられ船体を回動可能な回転スクリューを備えた掘削船本体と、該掘削船本体に装備された掘削ユニットと、から成り、掘削船本体は、短手方向略中央箇所にて右船及び左船に分割可能な船体構造を備え、掘削ユニットは、海底へと延伸可能な筒状管と、筒状管と掘削船本体を接続する筒状管保持部と、筒状管先端部に備えられ海底を掘削可能な掘削体と、掘削体近傍に備えられた燃焼室と、燃焼室から排出される排熱を筒状管の先端領域に熱伝導させるための排熱管と、上端部が筒状管の外周面に周設され下方へ拡開した漏斗状であり海底より浮上したメタンガスを回収可能な資源回収ユニットと、回収したメタンガスを貯留する資源回収タンクと、を備え、筒状管には、回収したメタンガスを資源回収タンクへ送る資源回収用パイプと、燃焼室へ燃料を送る燃焼用パイプと、排熱管から排出される排気を送出する排気用パイプと、が挿通されて成り、筒状管を右船と左船で挟持した状態で掘削体を海底に当接させ、筒状管保持部にて掘削船本体と筒状管を固定後、掘削船本体の回転スクリューにより掘削ユニットを中心に船体を回転させることで、掘削体を回転させて海底の掘削を行い、掘削後のメタンガスを資源回収ユニットにて回収する手段を採る。
【0009】
また、本発明は、前記燃焼用パイプが資源回収タンクに接続され、回収したメタンガスの一部を燃料として燃焼室へ流入させることが可能な手段を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる海底資源掘削船によれば、掘削船本体に備えられたバラストユニットによる海水の入排水により、船底に備えられた掘削体が海底に当接するまでの微調整が可能となると共に、掘削速度に合わせて海水を流入させることにより掘削面に掘削体が常に当接し続けられる、といった優れた効果を奏する。また、掘削船に回転スクリューが備わることにより、船体が回転する推進力が発生し、掘削ユニットを中心とした円回転が可能となって、掘削作業に資することとなる。更に、掘削船本体が、短手方向略中央箇所にて右船及び左船に分割可能な船体構造を備えていることにより、右船と左船の間に連結レールを介在させ、該連結レール上に分割した筒状管を何本も載置した状態で現場まで運ぶことが可能であり、また、掘削時に右船及び左船にて筒状管を挟持する固定方法を採用することで、筒状管の確実な挟持と安定的な回動に資することとなる。
【0011】
また、本発明にかかる海底資源掘削船によれば、掘削体近傍に燃焼室が備えられ、該燃焼室からの排熱が排熱管を介して筒状管の先端領域に熱伝導されることで、周囲の海水温を上昇させ、近傍に埋蔵されたメタンハイドレート層の融解を促し、融解によって海面に向かって上昇するメタンメタンガスを、漏斗状の資源回収ユニットにて容易に回収可能である、といった優れた効果を奏する。更に、資源回収ユニットにて回収したメタンガスについて、その一部を燃焼室へ流入させることにより、回収したメタンガスを燃料にして燃焼室の燃焼及び掘削体への熱供給を行うことが可能となり、掘削におけるエネルギーコストの低減に資することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかる海底資源掘削船の実施形態を示す全体図である。
図2】本発明にかかる海底資源掘削船の実施形態を示す要部拡大図である。
図3】本発明にかかる海底資源掘削船の実施態様を示す説明図である。
図4】本発明にかかる海底資源掘削船の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる海底資源掘削船1は、筒状管21を右船11及び左船12で挟持した状態で掘削体23を海底S2に当接させ、回転スクリュー15により掘削ユニット20を中心に掘削船本体10を回動させることで掘削体23を回転させ、海底S2の掘削を行うことを最大の特徴とする。
以下、本発明にかかる海底資源掘削船1の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
尚、本発明にかかる海底資源掘削船1は、以下に述べる実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、すなわち同一の作用効果を発揮できる形状や寸法、材質等の範囲内で適宜変更することができる。
【0015】
図1は、本発明にかかる海底資源掘削船1の実施形態を示す全体図である。また、図2は、本発明にかかる海底資源掘削船1の実施形態を示す要部拡大図である。さらに、図3は、本発明にかかる海底資源掘削船1の実施態様を示す説明図である。またさらに、図4は、本発明にかかる海底資源掘削船1の実施形態を示す説明図である。
本発明にかかる海底資源掘削船1は、主に掘削船本体10と、該掘削船本体10に装備された掘削ユニット20と、から構成されている。
【0016】
掘削船本体10は、船内にバラスト水(海水)を取り込み可能なバラストユニット13を備えている。また、船体の所定箇所には、船体を回動可能な回転スクリュー15を備えている。
掘削船本体10の船体構造については、特に限定するものではないが、バラストユニット13にて海底S2への当接の調整を行うため、海面上高さが20mから50m程度、また、船体の回動に連動した掘削ユニット20にて掘削を行うため、少なくとも200mから300m程度の全長がある態様が好適である。この態様を採ることにより、海上の掘削船本体10によって生じた回転力が海底S2に当接された掘削体23に確実に伝わり、スムーズな掘削に資することとなる。
【0017】
掘削船本体10は、短手方向略中央箇所にて右船11と左船12に分割可能な船体構造となっている。右船11と左船12とは、夫々が個別に航行可能な船舶として機能するとともに、右船11と左船12が合体することで、一の掘削船本体10が構成される態様となっている。尚、右船11と左船12とを合体状に固定する船体固定手段18については、特に限定するものではない。
このように、掘削船本体10が右船11及び左船12に分離可能であることにより、右船11と左船12の間に所要長さの連結レールを介在させ、該連結レール上に分断された筒状管21を何本も載置した状態で現場まで運ぶことが可能であり、また、資源掘削地点にて運搬した掘削ユニット20(筒状管21)を海中S1に沈降させる際に、バラストユニット13を利用して右船11あるいは左船12の一方を船首もしくは船尾を下に鉛直状に沈降させることで、掘削ユニット20(筒状管21)の沈降を補助する仕様も可能である。
【0018】
右船11及び左船12には、合体した状態で筒状管21を挟持可能な凹部が対向位置に夫々備えられており、右船11と左船12が合体した際、互いの凹部が突き合わさって、筒状管挟持部16を構成する。かかる凹部の形状については、特に限定するものではなく、平面視において略半円状や多角形状など種々形態を採り得るが、右船11と左船12とで対称形状とすることが望ましい。
【0019】
バラストユニット13は、掘削船本体10における右船11及び左船12の船内所定箇所に備えられ、バラストユニット13に海水を入排水することにより、船体を浮沈させて掘削ユニット20の位置調整や、航行中の安定を図ることとなる。
また、掘削時においてバラストユニット13に入水を適宜行うことで、掘削体23が海底S2と当接し続けることが可能となる。更に、掘削後の掘削ユニット20を海底S2から引上げる際、バラストユニット13内の海水を適宜排水することで、掘削船本体10の浮力を増大させつつ、掘削時とは逆方向に掘削船を回動させることによって、掘削体23をメタンハイドレート層内から海中S1へ引戻すことが可能となり、引上げ作業をスムーズに行うことが可能となる。
【0020】
尚、右船11及び左船12に備えられたバラストユニット13について、海水量が両船共に数値で確認できるようにする態様が好適である。この態様を採ることにより、掘削船の回動におけるバラストユニット13への入排水時に、自動もしくは手動にて右船11及び左船12のバランスを図りながら入排水量を行うことが可能となり、安定した掘削に資することとなる。
【0021】
回転スクリュー15は、掘削船本体10の右船11及び左船12における所定箇所に備えられ、船体を回動可能とするためのスクリューである。かかる回転スクリュー15の形状や大きさについては、特に限定するものではなく、船舶用スクリューとしての常法手段を用いれば足りる。また、回転スクリュー15の装備位置についても、特に限定するものではなく、例えば船首や船尾、船胴部における海水に浸水状態となる箇所に、一乃至複数の回転スクリュー15が備えられることとなる。
【0022】
かかる回転スクリュー15の位置に関し、例えば、右船11及び左船12のいずれか若しくは両方の船胴部近傍に回転スクリュー15を備え、船尾に備わった推進用スクリュー操作による回動操作と、船胴部の回転スクリュー15による短手方向(横方向)への推進力によって、掘削ユニット20を中心とした回転動作が行われる態様が考え得る。その際、右船11及び左船12に発生させるエネルギー量を同等にするため、夫々のスクリューにおける回転数もしくは運動エネルギー量を数値化し、自動または手動にて回動に向けた回転数の調整を行う態様も採用し得る。この態様により、安定的な掘削船の回動に資すると共に、スクリューの回転数異常等の不具合が発生したとしても、他のスクリューの回転数を抑えるなど、素早い対応が可能となる。
【0023】
掘削ユニット20は、海底S2へと延伸可能な筒状管21と、筒状管21と掘削船本体10を接続する筒状管保持部と、筒状管21先端部に備えられ海底S2を掘削可能な掘削体23と、掘削体23近傍に備えられた燃焼室24と、燃焼室24から排出される排熱を筒状管21の先端領域に熱伝導させるための排熱管25と、上端部が筒状管21の外周面に周設され下方へ拡開した漏斗状であり海底S2より浮上したメタンガスGを回収可能な資源回収ユニット26と、回収したメタンガスGを貯留する資源回収タンク28と、から構成される。
【0024】
筒状管21は、内部が中空状の管体構造であって、先端は海底S2に突き刺し可能な円錐状に窄まっており、その円錐状を成す先端部の外周面には海底S2を掘削可能な掘削体23、例えば螺旋状刃体や螺旋状凹溝などが備えられている。該筒状管21は、その上方領域が右船11と左船12で挟持されつつ、筒状管保持部によって掘削船本体10に接続可能な構造となっている。そして、接続された筒状管21は、掘削船本体10を基点に海底S2へと延伸して先端が海底S2に当接するよう、筒状管21の長さと掘削船本体10のバラストユニット13によって調整される。これにより、掘削船本体10の回動によって筒状管21も同時に回転し、それに伴い掘削体23も回転して掘削が行われることとなる。尚、筒状管21の中空状の内部には、先端部分に燃焼室24が配設され、また、資源回収用パイプ30や燃焼用パイプ31、排気用パイプ32が挿通されていることから、海水を筒状管21内に流入させると、これら機器の故障や不具合等の発生も想定される。したがって、筒状管21は水密性を有して、中空状の内部に海水を流入させない構造とするのが好適である。
【0025】
筒状管21の素材や大きさ、形状については、特に限定するものではないが、水深1000m以上の海底S2まで延伸するため、例えば鋼やアルミニウム合金等の水圧に耐え得る素材が好ましい。筒状管21の長さについては、水深1000m以上の海底S2まで延伸させるべく、相応の長さを有することが必要であり、掘削による進行深さも考慮して、例えば水深1000mであれば筒状管21の全長は1100~1200m程度とする。尚、資源掘削地点までの運搬性等に鑑みると、筒状管21を長手方向所定箇所にて幾つかのパーツに分断し、その分断したパーツを現地で適宜連結することで、海底S2まで延伸し得る長さの筒状管21を構成させる態様が好適である。その際、場所によって異なる海底S2までの水深に対応して長さ調整を容易にするため、筒状管21の基端部に連結されるパーツについては、比較的短い長さ(例えば10~30m程度)に分断されたパーツを用意しておくことが望ましく、必要に応じて短いパーツを連結することで、全体長さの微調整が容易になると共に、バラストユニット13にて調整する範囲を10m以内に収めることが可能となり、作業性を向上させる。また、浸水時における水圧や海流等による圧力に対抗するため、先端部に向けて徐々に筒状管21の厚みを増したり重量を増加させる態様が好適である。
【0026】
筒状管保持部は、筒状管21の上方領域を右船11と左船12で挟持した状態で、鉛直状に延伸する筒状管21を掘削船本体10に接続・固定するための構造であり、その具体的な構造について特に限定するものではなく、例えば筒状管挟持部16にて筒状管21を挟持した際に互いに当接する筒状管21の外周面と筒状管挟持部16を構成する凹部の内面壁とを所定手段により緊結する態様が考え得る。その他の構造例として、図3に示す様に、筒状管21の上方領域に対向して外方へ延伸する所定長さの連結アーム29を備えると共に、掘削船本体10の甲板上に該連結アーム29を嵌合する凹部17が設けられ、該凹部17に連結アーム29を嵌合した状態でボルト・ナット等にて連結・固定する態様も考え得る。かかる態様によれば、掘削船本体10の回動力が連結アーム29を介して伝達されることとなり、梃の原理のごとく効率良い筒状管21の回転に資することとなる。尚、連結アーム29を備える場合、筒状管21の海底S2への進行深さに応じて、筒状管21における連結アーム29の装備高さ位置を可変し得る態様が望ましい。
【0027】
筒状管保持部の構造として、筒状管21の外周面にT字状突起を複数形成すると共に、該筒状管21の外周面と当接する面(前例でいえば筒状管挟持部16の内壁面や円筒板の内壁面)におけるT字状突起の対向位置に、該T字状突起を嵌合状に係合し得るT字状凹溝を同数形成する態様も好適である。この態様により、T字状突起とT字状凹溝が堅い係合状態となり、掘削船本体10の回動によって発生した運動エネルギーを効率よく筒状管21へ伝達することができる。尚、突起の形状については、T字状に限らず逆T字状やL字状、H字状、V字状、その他種々形状、あるいはこれらの組み合わせとすることも可能であり、その場合に凹溝の形状も突起の形状に合わせて、各種形状を採り得るものである。
【0028】
筒状管保持部の構造として、図4に示す様に、筒状管21とは別体として、高さ位置の異なる複数の連結アーム41が対向して外方へ延伸状に備えられて成る外套管40を使用する態様を採用し得る。連結アーム41が高さを違えて複数備えられることで、連結アーム41の取り付け位置を変えることなく、筒状管21と掘削船本体10との異なる高さ位置での接続が容易となる。筒状管21の上方領域における外周面には、部分的に所定間隔の間隙22aを複数有して分断された鉛直方向に延伸する所定長さの凸片22が、少なくとも対向して二箇所に備えられている。また、外套管40の内周面には、かかる凸片22に対応する箇所に、鉛直方向に延伸する凹溝42が上下に貫通して備えられ、該凹溝42の所定中間箇所には、挿嵌具43を挿嵌可能な略水平方向に貫通する開口部44が一乃至複数形成されている。そして、筒状管21の上方から外套管40を挿嵌する際に、筒状管21の凸片22と外套管40の凹溝42とを嵌合することで、外套管40が筒状管21の円周方向に対し摺動することなく固定される。また、外套管40の凹溝42における開口部44の位置と、筒状管21の凸片22における分断された間隙22aの位置とを合わせ、挿嵌具43を開口部44に挿通することで、挿嵌具43が間隙22aに嵌合され、外套管40が筒状管21の縦方向へ摺動することなく固定される。このとき、凸片22には間隙22aが複数形成されているため、開口部44に対応する間隙22aを変更することで、連結アーム41の取り付け位置の変更と併せて、筒状管21と掘削船本体10との異なる高さ位置での接続をより細かく設定することが可能となる。
【0029】
尚、図4では、外套管40における最上段の連結アーム41の先端や、筒状管21の外周所定箇所に、滑車45を備えている態様となっている。かかる滑車45は、筒状管21を掘削船本体10に接続する際の位置合わせに使用するもので、具体的には、滑車45にワイヤを通してウインチ等で引っ張ったり緩めたりして、筒状管21の位置や傾倒具合について微調整しつつ、最終的に正確な位置及び鉛直状となった状態で筒状管21が掘削船本体10に接続されるように仕向けるためのものである。かかる滑車45は、筒状管21の引き上げ時にワイヤを通す部分としても利用し得る。
【0030】
掘削船本体10と筒状管21とを接続する筒状管保持部に関し、掘削体23による掘削にて硬い岩盤等に引っ掛かり回転ができない状態も想定されることから、掘削船本体10の回動時に一定以上の負荷が生じた場合には、船体や掘削ユニット20の破損を防ぐために、掘削船本体10と筒状管21との接続が自動的に解除される態様を採用することも可能である。例えば、掘削物に障害物があって回転が滞った場合に、掘削船本体10と筒状管21とが接続された筒状管保持部に一定以上の負荷がかかると、自動的に筒状管保持部における連結構造が外れ、それにより掘削船本体10と筒状管21との接続が解除され、掘削船本体10が回転しても筒状管21は回転せず、筒状管挟持部16において空転するような構成態様である。尚、掘削船本体10と筒状管21との接続が解除されたことは、運転作業者に対し異常通報として通知されることが望ましく、その通知を受けた運転作業者は、掘削船本体10の無駄な回動をストップして停船状態とし、異常状態の確認及び修復、該当場所における掘削の継続可能性の判断を行う。
【0031】
筒状管21の先端部外周面には、海底S2を掘削可能な掘削体23が備えられている。かかる掘削体23の形状や構造については、特に限定はなく、筒状管21の先端は海底S2に突き刺し可能な円錐状に窄まっており、その円錐状を成す先端部の外周面に、海底S2を掘削可能な掘削体23、例えば回転により掘削可能な螺旋状刃体や螺旋状凹溝などが備えられた構造を採る。筒状管21の先端が掘削ポイントである海底S2に当接した状態で、海上の掘削船本体10の回動と連動して筒状管21が回転することで、掘削体23が海底S2へ進入するように掘削を行うこととなる。掘削体23の素材については、特に限定するものではないが、硬い岩盤などを掘削する可能性もあることから、鋼やタングステンの複合素材といった摩耗に強い素材が好適である。
【0032】
筒状管21の先端内部には、燃焼室24が装備されている。該燃焼室24は、可燃性ガスを燃焼させることで高温の排熱を発生させ、その排熱が排熱管25を通過することにより、筒状管21の先端部外周面並びに掘削体23の表面温度を上昇させるものである。そして、高温となった筒状管21の先端部及び掘削体23による周囲海水温の上昇により、掘削面やその近傍に存するメタンハイドレートの融解を促すこととなる。メタンハイドレートの融解により気泡となったメタンガスGは、後述の資源回収ユニット26にて回収される。排熱管25を通過した後の温度が低下した排気は、後述する排気用パイプ32を介して掘削船本体10の煙突部33から大気中に排出されることとなる。
【0033】
燃焼室24の構造については、特に限定されるものではなく、従来公知の構造にて稼働する態様となるが、燃焼の際に発生した高温の排熱は排熱管25へ送られる態様となる。排熱管25の敷設ルートも特に限定はしないが、例えば、掘削体23が螺旋構造を採る場合であれば、形成された螺旋形状に沿ったルートを流路とし、螺旋構造全体を発熱させて周囲の海水温及び掘削時に密接しているメタンハイドレート層の温度を上昇させる態様を採用し得る。尚、掘削船本体10上において、燃焼室24の稼働状態を把握するために、燃焼室24内に温度センサを備え、燃焼室24の制御(起動や停止、温度設定等)を自動または手動にて指示できる態様が好適である。
【0034】
筒状管21の所定中間箇所には、資源回収ユニット26が備えられている。該資源回収ユニット26は、掘削されたメタンハイドレート層から発生したメタンガスGを回収するものであり、上端部が筒状管21の外周面に閉塞状に周設され、下端部が拡開した漏斗状あるいは傘状の形態となっている。漏斗状あるいは傘状に下端部が拡開することで、海底S2掘削後にメタンハイドレートが融解して海中S1へ放出されたメタンガスGの気泡を広範囲で回収可能である。資源回収ユニット26にて回収されたメタンガスGは、筒状管21に開けられた回収窓27から後述する資源回収用パイプ30へ流入し、該資源回収用パイプ30を通過して海上の資源回収タンク28へ移送されることとなる。したがって、筒状管21における資源回収ユニット26が周設される位置は、回収窓27の直上周縁となる。
ところで、図2に示す様に、回収窓27について、筒状管21の異なる高さ位置に複数開けられている態様が考え得る。すなわち、海底S2の掘削が進むにつれ、筒状管21が下方へ沈降することとなるが、その場合に資源回収ユニット26の周設位置の変更が必要となることが想定され、かかる位置変更に対応するためである。尚、不使用時の回収窓27は、海水の浸入を防ぐべく閉塞され、使用時にのみ開放される。
【0035】
資源回収ユニット26の形状が漏斗状であるため、海中S1へ沈降させる際に、資源回収ユニット26の上方に空気溜まりが発生し、浮力が生じて沈下作業に支障が出る可能性がある。そのため、資源回収ユニット26の沈降時は下方を閉塞させ、資源回収予定地点近傍にて自動もしくは手動にて下方を拡開させる態様が好適である。下方の閉塞及び拡開方法は特に限定しないが、例えば、雨傘の骨組みを参考にして、資源回収ユニット26の上端部から下端部に延伸する複数本のフレームを上方の外周に沿って周設し、該フレームの下方を磁力や締結バンド等の手段にて筒状管21外周面へ吸着させた状態で海中S1に沈降させる態様が考え得る。その際、各フレーム間には、メタンガス不透過素材から成る傘状面材が被覆され、フレームと連動して拡開・閉塞される。そして、メタンガス回収予定地近傍にて、フレーム下端の磁力を消失させたり、締結バンドの締結を解除したり、ワイヤロープにてフレームの所定箇所を上方へ牽引するといった手段を用い、自動もしくは手動にてフレーム及び傘状面材を漏斗状に拡開させる態様となる。また、メタンガス回収後に行われる筒状管21の引上げ時は、自動または手動にてフレーム及び傘状面材を閉塞する態様が望ましく、筒状管21の引上げを行うにあたって発生する水の抵抗力の軽減に資することとなる。
【0036】
掘削ユニット20として、資源回収タンク28が装備されている。該資源回収タンク28は、回収したメタンガスGを貯留する目的で、掘削船本体10における甲板上に装備される。すなわち、資源回収ユニット26によって回収されたメタンガスGは、後述する資源回収用パイプ30を介して資源回収タンク28へ移送され、貯留されることとなる。該資源回収タンク28の構造や素材については、常法手段を採用すれば足り、特に限定するものではない。
【0037】
筒状管21の中空部には、資源回収用パイプ30と燃焼用パイプ31と排気用パイプ32が挿通されている。資源回収用パイプ30は、資源回収ユニット26によって回収されたメタンガスGを資源回収タンク28へ移送するためのもので、掘削船本体10に敷設された資源回収タンク28と資源回収ユニット26との間を連通状に繋がっている。また、燃焼用パイプ31は、燃焼室24へ燃料を送るためのものであって、掘削船本体10に敷設された燃料タンクと燃焼室24との間を連通状に繋がっている。さらに、排気用パイプ32は、排熱管25から排出される排気を送出するためのものであって、掘削船本体10に敷設された煙突部33と排熱管25との間を連通状に繋がっている。夫々のパイプの素材は特に限定するものではなく、例えば銅やアルミニウム合金等の素材を使用する態様が考え得る。また、夫々のパイプの形状についても、特に限定するものではないが、掘削船本体10と資源回収ユニット26や燃焼室24、排熱管25との間を連通状に繋がっていることから、相当の長尺状を成すことを要する。このとき、長尺の各パイプには、燃料やガス、排気を滞りなく移送するためのポンプやプロペラ等の移送手段が装備されている態様が好適である。
【0038】
ところで、回収されたメタンガスGの一部を燃焼用パイプ31によって燃焼室24へ流入させ、燃焼室24内にて該メタンガスGを燃焼する態様を採用し得る。かかる態様の場合、資源回収ユニット26にて回収されたメタンガスGは、一旦資源回収用パイプ30を介して資源回収用タンクへと流入させ、流入したメタンガスGの一部を資源回収用タンクから取り出し、燃焼用パイプ31を経由して燃焼室24へ送出させる態様となる。かかる態様を採用することで、燃焼室24における燃焼物を新たに用意する必要が無くなり、掘削におけるエネルギーコストの低減に資することとなる。
【0039】
以上の構成要素により、本発明にかかる海底資源掘削船1は構成されている。本発明にかかる海底資源掘削船1は、先端に掘削体23を備えた筒状管21の先端を海底S2に当接させた状態で、該筒状管21の上方領域を掘削船本体10に設けられた筒状管挟持部16において筒状管保持部を介して固定的に接続し、回転スクリュー15を使用して掘削船本体10を筒状管21を中心として回動させ、それに連動して筒状管21も回動して先端部の掘削体23が回転され、それにより海底S2の掘削が行われることとなる。その際、燃焼室24で発生する高温の排熱により筒状管21の先端部外周面並びに掘削体23の表面温度を上昇させることで、周囲海水温を上昇させてメタンハイドレートの融解を促し、気泡となったメタンガスGを資源回収ユニット26にて回収し、資源回収タンク28に貯留される。
【0040】
本発明にかかる海底資源掘削船1の使用態様、すなわちメタンハイドレート層の掘削作業の一連の流れについて、図3に基づき、その一例を順を追って説明する。
事前準備として、エコーサウンダー(計量魚探装置)やSEABAT(海底測深装置)等を用い、表層型メタンハイドレート層の位置について音響探査を行っておく。
かかる音響探査にて判明した表層型メタンハイドレート層の直上海上に向け、掘削ユニット20を掘削船本体10に装備して成る海底資源掘削船1を移動する。このとき、掘削ユニット20における筒状管21は、掘削船本体10の上で横向きに寝せて載置された状態で移動する。
尚、筒状管21の長さや重量に鑑みると、該筒状管21を掘削船本体10の上に載置して移動するのには困難を伴う。そこで、ゴムボートや発泡体といった別途浮力体上に筒状管21を載置し、海上を掘削船本体10で牽引する態様を採るのも好適である。その際、掘削船本体10を右船11と左船12に分離し、その一方が浮力体の前側で牽引し、他方が浮力体の後側で方向修正を司る態様も可能であり、狭い水路の航行や幅寄せ、位置の微調整等に資する。
【0041】
表層型メタンハイドレート層の直上海上に到着したら、その場で停留し、停留箇所にて、掘削船本体10と掘削ユニット20の接続を行う。詳しくは、船体固定手段18を外して掘削船本体10が右船11及び左船12に分離し、載置された筒状管21を先端側から海中S1へ斜めに浸水させ、最終的に略鉛直状となる様に沈降させる。このとき、図示の様に、右船11及び左船12の船首側若しくは船尾側のいずれか一方を閉じつつ他方を開く様に分離することで、筒状管21の先端側からの浸水が可能である。筒状管21が所定長さで幾つかのパーツに分断されている場合は、掘削体23を備え燃焼室24が内包された筒状管21を最先端に、内部に存する資源回収用パイプ30と燃焼用パイプ31と排気用パイプ32の夫々が互いに別のパイプに接続されることのないよう位置を合わせつつ、随時接続して沈降させる。筒状管21の所定中間箇所には、資源回収ユニット26も装備される。
【0042】
筒状管21の先端すなわち掘削体23が海底S2に当接したら、筒状管21の基端部を筒状管保持部に接続・固定する。具体的には、右船11と左船12に存する凹部で筒状管21の上方領域を挟持し、所定の固定手段にて強固に締結する。そして、筒状管21を挟持した状態で右船11と左船12が分離してしまうことのないよう、船体固定手段18により互いに連結して一体化される。
【0043】
掘削船本体10に備わるバラストユニット13に海水を注水し、筒状管21に対し下降方向へ負荷を加えつつ、回転スクリュー15や推進スクリュー14により掘削船本体10を回転させる。このとき、筒状管21を中心とした掘削船本体10の回転運動が発生し、かかる掘削船本体10の回転に連動して、固定された筒状管21も回転することとなる。これにより、筒状管21の先端部に存する掘削体23が、回転しながら海底S2のメタンハイドレート層を掘削する。
海底S2が掘削されることで筒状管21の先端が海底S2に当接しなくなり浮いた状態となった場合には、掘削船本体10に備わるバラストユニット13に海水を注水し、掘削船本体10を若干沈下させることで、筒状管21の先端を再度海底S2に当接させることが可能である。あるいは、筒状管21の先端が浮いた状態のまま、掘削船本体10の回転を一度停止し、筒状管21の先端が海底S2に当接する場所まで少し移動して、再度掘削をはじめる態様も可能である。
【0044】
掘削体23近傍には、燃焼室24および該燃焼室24から排出される排熱を熱伝導するための排熱管25が備わっており、燃焼室24では予め充填した可燃性ガスによる燃焼が開始され、排熱管25へ送気される。掘削船本体10の回転により掘削されたメタンハイドレートは、かかる筒状管21の先端領域における熱伝導により、周囲海水温と共に温度が上昇し、メタンガスGと水に分解され、ガス体であるメタンガスGは海上へ向けて浮上することとなる。
尚、排熱が終わった排気は、排熱管25に接続された排気用パイプ32を通じて掘削船本体10上に設けられた煙突部33より大気中へと排出されることとなる。
【0045】
メタンハイドレートから分解され浮上したメタンガスGは、筒状管21の所定箇所に備えられた資源回収ユニット26の拡開した下方から資源回収ユニット26内部に入り、資源回収ユニット26上方近傍に備わっている回収窓27から、筒状管21内に備わった資源回収用パイプ30へとメタンガスGは流入し、比重の軽いメタンガスGは資源回収用パイプ30内を浮上し、掘削船本体10上に設置された資源回収用タンクへと回収されることとなる。
また、資源回収用タンクの所定箇所に接続された燃焼用パイプ31によって、一部のメタンガスGは掘削体23近傍に備わった燃焼室24へと送られ、該燃焼室24での燃焼ガスとして利用される態様も考え得る。
【0046】
回収したメタンガスGは、資源回収ユニット26の上方近傍にて貯留した後、回収窓27から筒状管21内の資源回収用パイプ30へ流入し、メタンガスGが資源回収用パイプ30内を浮上することにより資源回収用タンクへと貯蔵されるが、資源回収用タンクは掘削船本体10以外、例えば筒状管21を運搬してきた随行船等に設けられても良い。また、資源回収用タンクにおいての保管方法は特に限定するものではなく、回収したメタンガスGを船上にて液化させ、資源回収用タンクに貯留し移送する態様も考え得る。
また、上記メタンガスGは、静電気による火災や爆発など等による事故が発生しやすいメタンガスGであるため、資源回収用タンクや、資源回収用タンクに至る配管等に対する防爆処理が必須である。この防爆処理については特に限定されるものではなく、タンク外層を窒素が充填された防爆層で包むといった従来公知の技術を使用し対策を行うことで、事故を未然に防ぐことが可能となる。
【0047】
また、資源回収ユニット26近傍、もしくは資源回収用パイプ30内にて、メタンガスG同士の摩擦や、メタンガスGと資源回収用パイプ30等構造物との接触により静電気や自然発火等の災害が発生する可能性がある。そのため、資源回収用パイプ30の所定箇所に、静電気除去装置や温度センサ、消炎ネット等の災害防止装置を複数つける態様も考え得る。災害防止装置は特に限定するものではなく、従来公知の構造を利用し上記災害の発生を抑えるものとする。
【0048】
掘削及びメタンガスGの回収が終了して撤収する際は、記述した掘削までの流れの逆の手順を行えば足りるもので、特に説明するまでもないが、簡単に説明するならば、掘削船本体10の逆回転によって掘削体23が掘削箇所の海底面に現れた後、筒状管保持部の連結を解き、船体固定手段18を外して右船11と左船12を分離した状態で掘削船本体10に備えられたウインチ等を使用して筒状管21の引上げを行い、該筒状管21を掘削船本体10に載置し、右船11と左船12を合体させて船体固定手段18により固定し、帰船することとなる。
【0049】
以上、本発明にかかる海底資源掘削船1の使用態様の一例を説明したが、必ずしも上記使用態様に限定されるものではなく、以下のような態様も考え得る。
例えば、筒状管21における掘削予定地での設置方法について、右船11及び左船12に1つ乃至複数備えられたウインチを使用し、筒状管21の先端部に接続された掘削体23から徐々に海中S1へと投下させていくと共に、掘削予定深度近傍に達するまで筒状管21の基端部に次の筒状管21を接続していき、掘削体23が海底S2に当接後に筒状管保持部にて掘削船と筒状管21を夫々接続する態様や、先端部に掘削体23を接続しつつ掘削予定深度近傍までの長さまで延伸した筒状管21を予め用意しておき、掘削予定地にて掘削体23から徐々に海中S1へ中に投入し、筒状管21の長さに過不足があった場合には、掘削船の右船11及び左船12に1つ乃至複数備えられたウインチを使用し不足長さの筒状管21を接続もしくは不要長さの接続を解除するといった態様等が考え得る。
【0050】
また、海底資源掘削船1は、掘削予定地の海底S2掘削が終了次第、次の掘削地へ移動する態様が考え得る。その際、予定ポイントまでの移動距離や海底地形によって、掘削ユニット20の一部を収縮、もしくは取外した状態で移動する態様が好適である。この移動方法を採ることにより、作業時間の短縮及び作業負担の軽減が可能となり、効率的な海底資源の掘削に資することとなる。
【0051】
掘削ユニット20の引上げ時には、左船12と右船11に分離された状態で掘削船所定複数箇所に備えたウインチにより、掘削ユニット20の引上げを行う態様が考え得る。更に、この態様による引上げの際、所定長さの筒状管21同士を接続していた部分を解体し、随伴していた随伴船へ積載させる態様が好適である。この態様を採ることにより、筒状管21が一定間隔で随伴船へ移送されることとなり、掘削ユニット20の引上げに伴うウインチへの負担が軽減可能であると共に、海中S1から引上げられた筒状管21へかかる重力及び自重による筒状管21の湾曲を防ぐことも可能となる。
【0052】
以上、本発明にかかる海底資源掘削船1の基本的構成態様、及び、作用について説明したが、本発明は、上記実施形態や図面に示す構成態様に限定するものではない。本発明では掘削船本体10と表記しているが、必ず船の形状である必要はなく、例えば円形の浮島状の本体で、海面からの高さを10m以上として、海底掘削時に回転及び沈降していく態様なども可能である。また、掘削体23の発熱方法も、ガスの燃焼以外の方法、例えば掘削船からの送電により電熱線を発熱させ、掘削体23の発熱を行う態様も考え得る。
【0053】
また、右船11及び/または左船12のバラストユニット13を利用することにより船体を傾斜状にして、筒状管21の沈下若しくは引上げ作業を補助する態様も考え得る。この態様では、右船11及び/または左船12のバラストユニット13へ海水を排出することにより船体が浮上し、浮上した船体と空中の筒状管21の所定箇所を固定し、右船11及び/または左船12のバラストユニット13から海水を注入することにより船体が沈降し、船体に固定された筒状管21を海中S1へ沈下することが可能である。逆に、右船11及び/または左船12のバラストユニット13へ海水を注入することにより船体が沈降し、沈降した船体と海中S1の筒状管21の所定箇所を固定し、右船11及び/または左船12のバラストユニット13から海水を排出することにより船体が浮上し、船体に固定された筒状管21を海中S1から引上げることも可能である。この作業を繰返すことで、長手方向に長大となった筒状管21の沈下および引上げが容易になるといった効果が期待できる。
【0054】
以上のとおり、本発明にかかる海底資源掘削船1によれば、右船11及び左船12に分離した掘削船本体10と筒状管保持部によって筒状管21を固定し、掘削船本体10のバラストユニット13による沈下によって筒状管21の先端部に接続された掘削体23を海底S2に当接させた状態で、掘削船本体10に備えた回転スクリュー15と船尾の推進スクリュー14により、掘削船本体10が筒状管21を中心とした円回転を行うと同時に、筒状管21及び掘削体23が掘削船本体10と連動して回転することにより、海底S2に当接した掘削体23の先端部によって海底S2が掘削され、掘削体23内に備わった燃焼室24の排熱が掘削体23を発熱させることにより周囲のメタンハイドレートを融解させてメタンガスGが発生し、筒状管21の所定箇所に備えられた資源回収ユニット26にて浮上してきたメタンガスGを回収後、船上の資源回収タンク28にて保管することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、日本の周辺海域に眠る表層メタンハイドレート層の掘削にのみならず、他の海洋資源の掘削や、湖沼調査における掘削等へも利用することが可能である。したがって、本発明にかかる「海底資源掘削船」の産業上の利用可能性は大であると思料する。
【符号の説明】
【0056】
1 海底資源掘削船
10 掘削船本体
11 右船
12 左船
13 バラストユニット
14 推進スクリュー
15 回転スクリュー
16 筒状管挟持部
17 凹部
18 船体固定手段
20 掘削ユニット
21 筒状管
22 凸片
22a 間隙
23 掘削体
24 燃焼室
25 排熱管
26 資源回収ユニット
27 回収窓
28 資源回収タンク
29 連結アーム
30 資源回収用パイプ
31 燃焼用パイプ
32 排気用パイプ
33 煙突部
40 外套管
41 連結アーム
42 凹溝
43 挿嵌具
44 開口部
45 滑車
G メタンガス
S1 海中
S2 海底
図1
図2
図3
図4