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特開2023-84191魚釣用リール、及び、魚釣用リールに装着される腐食部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084191
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】魚釣用リール、及び、魚釣用リールに装着される腐食部材
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/015 20060101AFI20230612BHJP
   A01K 89/01 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A01K89/015 B
A01K89/01 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198216
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】城 英樹
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼山 知明
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108BA09
2B108EB00
(57)【要約】
【課題】、主要な構成部材の腐食を効果的に防止可能な魚釣用リールを提供する。
【解決手段】本発明は、リール本体に各種の構成部材が配設され、スプールに釣糸を巻き取ると共に、スプールに巻き取られた釣糸を放出する魚釣用リールにおいて、素材が異なる異種材料で形成されている構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設されており、異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる腐食部材100を、構成部材に対して導通状態で着脱可能に配設したことを特徴とする。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に各種の構成部材が配設され、スプールに釣糸を巻き取ると共に、スプールに巻き取られた釣糸を放出する魚釣用リールにおいて、
素材が異なる異種材料で形成されている構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設されており、
前記異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる腐食部材を、前記構成部材に対して導通状態で着脱可能に配設したことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記魚釣用リールは、両軸受け型リールであり、
前記腐食部材は、前記リール本体を構成する側板内に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項3】
前記腐食部材は板状部材であり、前記スプールを回転駆動する巻き取り駆動機構を支持するセットプレートのスプール対向面側に着脱可能に取着されていることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用リール。
【請求項4】
前記腐食部材は、前記セットプレートの支持部が突出するようにリング状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の魚釣用リール。
【請求項5】
前記腐食部材は板状部材であり、前記スプールを脱外するフレーム部側に着脱可能に装着されるセットプレートに取着されていることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用リール。
【請求項6】
前記魚釣用リールは、スピニングリールであり、
前記腐食部材は、ハンドルの回転操作によって回転駆動されるロータの上面に着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項7】
前記魚釣用リールは、スピニングリールであり、
前記腐食部材は、ハンドルアームの内側に着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項8】
前記魚釣用リールは、スピニングリールであり、
前記腐食部材は、前記リール本体の後端部に取り付けられるリアキャップの内側に着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【請求項9】
前記腐食部材は、前記リール本体に設けられ、釣竿のリール脚固定部に対して装着されるリール脚の足裏部に着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の魚釣用リール。
【請求項10】
前記腐食部材は、前記リール本体に回転可能に設けられるハンドルのノブキャップに着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の魚釣用リール。
【請求項11】
リール本体に配設された各種の構成部材同士が素材の異なる異種材料で形成され、前記異種材料の構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設された部分に着脱可能であり、
前記異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる材料で形成されたことを特徴とする魚釣用リールに装着される腐食部材。
【請求項12】
前記腐食部材は、亜鉛製で板状に形成されていることを特徴とする請求項11に記載の魚釣用リールに装着される腐食部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両軸受け型リール、スピニングリール、片軸受型リール、電動リール等の各種の魚釣用リールに関する。また、本発明は、そのような魚釣用リールに装着される腐食部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した魚釣用リールは、所定の機能を発揮するために多数の構成部材を含んでおり、海水や水等に近い環境(通電性の雰囲気下)で使用される。前記構成部材は、有機的に関連(接触、近接)させた構造となっており、様々な材料で形成されている。このため、電位差のある異種材料同士が関連する部位では電位差が生じてしまい、上記した通電性の雰囲気に晒される使用環境下では、腐食(電食)が促進されてしまう。
そこで、このような腐食を防止するために、構成部材の表面に絶縁被膜を形成する等の表面処理をすることが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。また、構成部材間にシール材を介在することで、海水や水の侵入を防ぎ、腐食を防止することも行なわれている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-159427号
【特許文献2】特開2003-023934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、魚釣用リールは、実釣時又は釣場移動・運搬時等、他物との接触や落下等によって損傷等することがある。このため、絶縁不能となった状態で海水や水等の環境下に晒されることがあり、腐食し易い状況になることが多い。また、魚釣用リールは、海水や水を含んだ釣糸をスプールに巻回し、放出する動作を繰り返すため、スプール近傍の隙間から内部に海水や水が侵入し易く、腐食を誘発する構造上の問題がある。
【0005】
また、魚釣用リールを長期に亘って良好な状態で使用するためには、定期的にメンテナンスや腐食の程度、進行具合を確認する等が必要とされるが、見え難い部分で腐食が進行することもあり、長期間、良好な性能を維持し難い、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、主要な構成部材の腐食を効果的に防止することが可能な魚釣用リール、及び、そのような魚釣用リールに装着される腐食部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来の魚釣用リールに用いられている腐食防止手段とは、全く異なる概念で主要な構成部材の腐食を防止するようにしている。すなわち、上記した目的を達成するために、本発明は、リール本体に各種の構成部材が配設され、スプールに釣糸を巻き取ると共に、スプールに巻き取られた釣糸を放出する魚釣用リールにおいて、素材が異なる異種材料で形成されている構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設されており、前記異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる腐食部材を、前記構成部材に対して導通状態で着脱可能に配設したことを特徴とする。
【0008】
従来の魚釣用リールでは、構成部材そのものに腐食防止手段を施したり、外部から海水や水が浸入しないようにシール構造を配設して、構成部材を可能な限り腐食させないように構成しているが、本発明では、このような従来の腐食防止手段を用いるのではなく、積極的に腐食を促進させる腐食部材を配設することで、魚釣用リールの構成部材の腐食を防止するようにしている。腐食部材は、素材が異なる異種材料で形成されている構成部材同士で生じる電位差よりも大きな電位差となる材料を用いることができ、具体的には、イオン化傾向が大きい材料(例えば、亜鉛、チタン、アルミニウム、マグネシウム等)で形成される。
【0009】
腐食部材となるイオン化傾向が大きい材料としては、前記構成部材同士の材料に応じて選択することが可能である。このようなイオン化傾向が大きい材料を前記構成部材に対して接触させておくことで、海水や水などの通電性の液体が侵入して電子の流れが生じても、優先的に腐食部材に電子の流れが生じるようになって、構成部材の腐食を防止することが可能となる。すなわち、本発明は、優先的に腐食部材を腐食させることを特徴とするものであり、上記した従来の構成部材の防食構造とは異なる技術的思想となる。
【0010】
また、積極的に腐食部材を腐食させる構成にすることで、その腐食状態に応じて、ある程度、魚釣用リールのメンテナンス時期を使用者に把握させることも可能となる。
【0011】
また、本発明は、魚釣用リールに装着される腐食部材を特徴としており、リール本体に配設された各種の構成部材同士が素材の異なる異種材料で形成され、前記異種材料の構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設された部分に着脱可能であり、前記異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる材料で形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、主要な構成部材の腐食を効果的に防止することが可能な魚釣用リール、及び、そのような魚釣用リールに装着される腐食部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る魚釣用リールの第1の実施形態(両軸受け型リール)を示す平面図。
図2図1に示す魚釣用リールの背面図。
図3図1に示す魚釣用リールをハンドル側から見た側面図。
図4図1に示す魚釣用リールを反ハンドル側から見た側面図。
図5図1に示す魚釣用リールの内部構成を示す図。
図6図1に示す魚釣用リールのハンドル側の側板に配設されたセットプレートの構成を示す図。
図7図1に示す魚釣用リールのハンドル側の側板に配設される腐食部材の変形例を示す図。
図8】本発明に係る魚釣用リールの第2の実施形態(スピニングリール)を示す斜視図。
図9図8に示す魚釣用リールのロータ部分の内部を示す図。
図10図8に示す魚釣用リールのハンドルノブの内側を示す図。
図11図8に示す魚釣用リールのリアキャップを取り外した状態を示す図。
図12】セットプレートのスプール側の表面に腐食部材をビス止めして装着し、これを海水に浸漬させた状態の変化状況を示す写真。
図13】セットプレートに接触した状態にある構成部材であり、SUS製のハンドル軸の突出部領域、及び、そこに装着されるドラグノブを示しており、(a)は、図12の腐食部材をセットプレートに配設しなかった状態、(b)は、図12の腐食部材をセットプレートに装着した状態を示す写真。
図14】ハンドルアームの基端部に腐食部材を装着したものと、装着しなかったものを比較した実験結果を示す写真であり、(a)の左側はアルマイト処理を施したアルミプレートを介在したものを示し、(a)の右側は同一の形状の亜鉛プレート(腐食部材)を介在したものを示す。また、(b)の左側は、アルミプレートを介在したもので、SUSのリベット周囲に腐食が発生した状態を示し、(b)の右側は、亜鉛プレートを介在したもので、SUSのリベット周囲に腐食が見られなかった状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から図5は、本発明に係る魚釣用リールの第1の実施形態(両軸受け型リール)を示す図である。
【0015】
本実施形態に係る両軸受け型リールのリール本体1は、左側板1A、右側板1B、及び両側板1A,1B間に回転自在に支持したスプール3を備えている。本実施形態では、右側板1B側にハンドル5を設けており、ハンドル5を巻き取り操作することで、公知の巻き取り駆動機構を介して前記スプール3を回転駆動する構成となっている(右ハンドル式)。
【0016】
前記リール本体1は、左右の側板1A,1Bを構成するフレーム7を備えている。このフレーム7は、例えば、アルミニウム合金の金属材等によって一体形成されており、左フレーム7Aがそのまま左側板1Aを構成すると共に、右フレーム7Bにカバー体15を装着した状態で右側板1Bを構成している。
【0017】
前記フレーム7は、左側板1Aと右側板1Bとを連結する連結部を備えている。本実施形態では、スプール3の前方に前連結部7C、スプール3の後方に後連結部7D、及びスプールの下方に下連結部7Eが設けられており、これらの連結部は、前記左フレーム7A及び右フレーム7Bと共に一体形成されている。なお、下連結部7Eには、釣竿のリールシートに装着されるリール脚8が一体的に装着されている(リール脚はフレームと一体形成されていてもよい)。
【0018】
前記左側板1Aには、スプール3のフランジ3aが収容される環状の凹所7aが形成されている。また、左側板1Aの中心領域には、凹部7bが形成されており、その凹所7b内には軸受10が配設され、スプール3の駆動軸3Aの左側端部を回転自在に支持している。また、左側板1A内には、スプール3の釣糸繰り出し方向の回転を阻止する公知のスプールストッパ12が設置されている。このスプールストッパ12は、左側板1Aの外側面から突出するスライドレバー12aを備えており、スライドレバー12aをスライド操作することにより、スプール3の釣糸繰り出し方向の回転を阻止する状態と、スプール3の釣糸繰り出し方向の回転を許容する状態に切り換え可能としている。
【0019】
前記右フレーム7Bは、ハンドル側にスプール3を脱外可能にする円形の開口部7dが形成されたリング状に形成されている。上記したように、右フレーム7Bは、カバー体15が装着されることで右側板1Bを構成しており、この右側板1B内には、ハンドル5の回転駆動力をスプールに伝達する巻き取り駆動機構、ドラグ機構、クラッチ機構等、各種の機能部品(構成部材)が収容されるようになっている。
【0020】
前記スプール3の中心部には、前記駆動軸3Aが挿通固定されており、左側端部が軸受10によって左側板1A(左フレーム7A)に回転可能に支持される。また、駆動軸3Aのスプール3の右側には、軸受3Cが配設されるとともに、その軸方向外方にクラッチ機構によって軸方向に摺動されるピニオンギア23が係脱するピン3Dが設けられている。このピン3Dが設けられる位置よりも軸方向外方の駆動軸3Aは、小径化されて前記ピニオンギア23に挿通されている。
【0021】
前記右フレーム7Bには、カバー体15が着脱可能に固定され、右フレーム7Bとカバー体15によってリール本体1の右側板1Bが構成される。このカバー体15は、右枠体7Bとの間に収容スペースSが生じるように凹状に形成されており、収容スペースS内に上記した各種の機能部品が配設されている。
【0022】
以下、収容スペースS内に配設される各種の機能部品について、図6を併せて参照しながら説明する。
上記したように、収容スペースS内には、ハンドル5の回転駆動力をスプール3に伝達する巻き取り駆動機構20、スプール3から繰り出される釣糸に対して所望の制動力を付与するドラグ機構50、及び、スプールを巻き取り状態/フリー回転状態に切り換えるクラッチ機構70等が配設される。
【0023】
本実施形態では、カバー体15に装着されるセットプレート16とカバー体15との間に前記収容スペースSを形成し、この収容スペースS内に前記各機構を配設している。すなわち、カバー体15を右フレーム7Bから取り外した際、巻き取り駆動機構20、ドラグ機構50、及びクラッチ機構70は、セットプレート16のカバー体15側に位置した状態となり、各機構の構成部材が露出しない(カバー体15を右フレーム7Bから取り外しても散乱しない)ように構成されている。
【0024】
前記セットプレート16は、円形で板状の支持部16aと、この支持部16aの外周端に形成され、スプール側に突出した環状支持部16bとを備えた略円筒形状に形成されている。前記支持部16aには、環状支持部16bから径方向外方に向けてフランジ部16cが一体形成されており、フランジ部16cに複数個の固定スクリュー17をカバー体側に向けて螺合することで、セットプレート16はカバー体15の内面側にネジ止め固定されている(図6参照)。また、前記環状支持部16bは、前記右フレーム7Bに形成された円形の開口部7dの内面に嵌合されるようになっている。
【0025】
前記フランジ部16cは、図6に示すように、周方向に沿って部分的に切り欠き16dが複数個所形成されており、その切り欠かれた部分にカバー体15に形成された固定部15aが位置するようになっている。前記固定部15aは、カバー体15の環状表面から径方向内側に向けて複数個所形成されるとともに、それぞれ固定用のビス孔が形成されている。また、前記右フレーム7Bの側面には前記ビス孔と対応する位置に固定穴が形成されている。これにより、カバー体15のビス孔を右フレーム7Bの固定穴に位置合わせし、外側から止めビス19を螺合することで、カバー体15は前記右フレーム7Bに固定される。
【0026】
前記セットプレート16の支持部16aの中心部分には、貫通孔16eが形成されており、その周囲には、スプール側に向けて支持部(環状壁部16f)が突出するように形成されている。また、支持部16aの外周側の一部には、カバー体側に開口した凹所16gが形成されている。前記貫通孔16eには、巻き取り駆動機構20を構成するピニオンギア23が配設されるとともに、前記凹所16gには、巻き取り駆動機構20を構成するハンドル軸5Aの基端部が配設される。
【0027】
ここで前記巻き取り駆動機構20の構成について説明する。
上記したように、本実施形態では、前記スプール3を回転駆動するハンドル5を右側板1B側に設置しており、巻き取り駆動機構20は、前記セットプレート16とカバー体15との間の収容スペースSに配設される。巻き取り駆動機構20は、ハンドル5が装着されたハンドル軸5Aと、このハンドル軸5Aに回転可能に装着されたドライブギア21と、ドライブギア21に噛合するピニオンギア23とを備えている。
【0028】
前記ハンドル軸5Aには、端部に巻き取り操作されるハンドル5が装着されており、ハンドル軸は、前記カバー体15との間に配設される軸受25と、前記右フレーム7Bに形成された凹所16gとの間に配設される軸受26によって右側板内に回転可能に支持されている。前記ドライブギア21と噛合されるピニオンギア23は、前記スプールの駆動軸3Aを挿通させており、駆動軸3Aに対して軸方向に摺動できるように支持されている。本実施形態では、ピニオンギア23の両側部を、それぞれ軸受27,28によって回転可能に支持している。この場合、軸受27は、セットプレート16の貫通孔16e部分に配設されており、軸受28は、カバー体15に装着されスプールの駆動軸3Aの端面に当て付いてスプールの回転に制動力を付与する公知の制動装置29に配設されている。
【0029】
前記ハンドル軸5Aには、カバー体15との間に公知の一方向クラッチ30が配設されており、ハンドル5の釣糸巻き取り方向の回転を許容し、逆回転を阻止している。また、ハンドル軸5A部分には、スプール3から繰り出される釣糸に対して所望の制動力を付与する公知のドラグ機構50が配設されている。このドラグ機構50は、ドライブギア21に形成された環状凹所21a内に配設された複数枚の制動板51と、ハンドル軸5Aに軸方向に移動不能に回り止め固定され、ドライブギア21と面接するラチェットギア52と、ハンドル軸5Aに配設され、回転操作することで軸方向に移動する操作ノブ55とを備えている。これにより、操作ノブ55を回転操作すると、一方向クラッチ30の内輪を介して前記制動板51が押圧されて、ドライブギア21にはハンドル軸5Aとの間で所望の押圧力が作用する。すなわち、操作ノブ55を回転操作することで、制動板51に対する押圧力を調整してスプール3から繰り出される釣糸に対して所望のドラグ力を作用させることが可能となる。
【0030】
なお、前記ラチェットギア52には、係止爪(図示せず)が係合可能となっており、前記一方向クラッチ30の逆転防止機能に滑りが生じた際に、ハンドル軸5の逆回転を確実に阻止できるようになっている。
【0031】
前記セットプレート16には、スプール3を巻き取り状態/フリー回転状態に切り換える公知のクラッチ機構70が配設されている。このクラッチ機構70は、右側板1Bに配設され外周面に沿うように回動可能に支持された操作部材71と、セットプレート16に回動可能に支持され、操作部材71の操作に伴って回動するクラッチプレート72と、前記ピニオンギア23の外周面に形成された円周溝と係合し、クラッチプレート71の回動操作によってピニオンギア23を軸方向に摺動させる係合部材74とを備えている。すなわち、操作部材71を操作することでピニオンギア23を軸方向に摺動させ、ピニオンギア23の断面非円形の端部23bを前記スプール3の駆動軸3Aに設けられたピン3Dと係脱させて動力の伝達状態(クラッチON状態)と、動力の遮断状態(クラッチOFF状態)との間で切り換えできるよう構成されている。この場合、前記ラチェットギア52及びセットプレート16には、ハンドルを巻き取り操作した際、前記クラッチ機構をOFF状態からON状態に自動復帰させる復帰機構が設けられている。
【0032】
前記カバー体15には、ハンドル軸5Aに装着されたドライブギア21を部分的に収容するように、略半円状に膨出する膨出部15Aが形成されている。この膨出した部分は、右フレーム7Bにネジによって取着され、略半円状に形成された閉塞部材61によって閉塞される。すなわち、上記したように、セットプレート16が取り付けられたカバー体15を右フレーム7Bに取り付けると、膨出部15Aは、右枠体7Bに取着された閉塞部材61によってそのまま閉塞されるようになっている。
【0033】
上記したように、リール本体1の右側板内には、多数の構成部材(機能部品)が収容されており、これらは上記したようにセットプレート16に支持されている。この場合、多数の構成部材は、素材が異なる異種材料によって形成されており、接触状態又は近接状態に配設されることとなる。このため、海水や水のような通電性のある液体が付着したり、そのような雰囲気に晒されると、その電位差によって電子の流れが生じ、腐食を誘引してしまう。例えば、セットプレート16の貫通孔16eの部分では、スプール側に向けて突出形成されている支持部(環状壁部16f)と、ピニオンギア23の側部との間に配設される軸受27部分等に腐食が生じ易い状況となる(このような腐食は、回転性能を劣化させる)。
【0034】
本実施形態では、セットプレート16と、異種材料となる構成部材(巻き取り駆動機構20、クラッチ機構70の構成要素や固定ネジ等の取り付け部材等)との間の電位差よりも大きい電位差となる腐食部材100を、セットプレート16に対して導通状態で着脱可能に配設している。腐食部材100は、イオン化傾向が大きい材料、例えば、亜鉛、チタン、アルミニウム、マグネシウム等によって形成されており、前記構成部材同士の材料に応じて選択して使用される。
【0035】
このようなイオン化傾向が大きい材料で形成された腐食部材を、構成部材(セットプレート16)に対して接触させておくことで、海水や水などの通電性の液体が侵入して電子の流れが生じても、優先的に腐食部材100に電子の流れが生じて腐食させるようになり、それ以外の構成部材の腐食を効果的に防止することが可能となる。
【0036】
本実施形態の腐食部材100は、板状部材(例えば亜鉛プレート)で構成され、セットプレート16のスプール対向面側に着脱可能に取着されている。具体的には、図6に示すように、セットプレート16の支持部16aの平坦面に、固定手段(複数のビス102)によって着脱可能に取着されており、腐食部材100は、セットプレート16とビス102との間で導通させるようにしている。また、腐食部材100は、右側板の内部(外部から視認できない位置)に配設されているため、腐食した部材が露出することはなく、外観を低下させることがない。また、落下や他物にぶつけて腐食部材を損傷させることもなく、その機能を発揮することが可能となる。さらに、カバー体15を右フレーム7Bから取り外してセットプレート16を露出させることで、腐食部材100の腐食状況を確認することができる(メンテナンス時期を把握させる)。
【0037】
このように、本実施形態では、構成部材そのものに腐食防止手段を施したり、外部から海水や水が浸入しないようにシール構造を配設して、構成部材を可能な限り腐食させない従来の構造とは異なり、積極的に腐食を促進させる腐食部材100を配設することで、魚釣用リールの構成部材の腐食(主要な構成部材の腐食)を防止して耐食性を向上し、動作が低下しないようにしている。また、腐食部材100を設置して、これを積極的に腐食させる構成にすることで、その腐食状態に応じて、ある程度、魚釣用リールのメンテナンス時期を使用者に把握させることも可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、腐食部材100を板状に構成したことから、大きなスペースを要することなく、効率的に腐食部材を配設することができる。特に、セットプレート16の支持部(環状壁部16f)が突出するようにリング状に形成したことで、その中心領域に配設される軸受27部分で生じ易い腐食を効果的に抑制することが可能となる。また、スプール3には、海水や水が付着した釣糸が巻回されることで、側板の内部には、スプールの端縁であるフランジ部分から水分が侵入し易くなるが、セットプレート16のスプール対向面側に腐食部材100を配設したことで、効果的に腐食させることができ、主要な構成部材の腐食を防止することができる。
【0039】
さらに、止めビス19を回転操作してカバー体15を右フレーム7Bから取り外すと、カバー体15側にセットプレート16が固定された状態となっているため、カバー体15の内部に装着されている巻き取り駆動機構20、ドラグ機構50、及びクラッチ機構70の各構成部材を露出させずに、腐食部材100のみを容易に交換することが可能であり、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0040】
図7は、上記した構成の変形例を示す図である。
この変形例では、腐食部材100を板状部材に形成し、前記セットプレート16のスプール側の支持部の表面に取着した例を示している。
このような構成では、セットプレート16とともに腐食部材100を交換することが可能となる。また、腐食部材100を支持部16aに剥離可能に被着しておき、交換時に剥がすような構成であっても良い。
【0041】
図8は、本発明に係る魚釣用リールの第2の実施形態(スピニングリール)の一構成例を示す図である。
上記したような腐食部材100は、それを取り付ける構成部材との間で大きな電位差、具体的には、その構成部材と接触(近接)する別の構成部材との間の電位差よりも大きい電位差で形成されていれば、その取り付け位置は限定されることはなく、前記別の構成部材の腐食を効果的に防止することができる。
【0042】
図8に示す魚釣用スピニングリール200のリール本体202には、釣竿に装着されるリール脚202Aが形成されている。前記リール本体内には、ハンドル軸が軸受を介して回転可能に支持されており、ハンドル軸の端部には、巻き取り操作されるハンドル203が装着されている。このハンドル203は、ハンドルアーム203Aと、その先端にハンドルノブ203Bを備えており、ハンドルノブ203Bを把持してハンドル203を巻取り操作できるように構成されている。また、前記ハンドル軸には、公知の駆動力伝達機構が連結されており、ハンドル203の回転操作に伴ってロータ210を回転駆動すると共に、公知のオシレーティング機構を介してスプール205を前後動させるようになっている。
【0043】
前記スプール205は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の比重の軽い金属、或いは、合成樹脂材等で形成されており、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部205aと、釣糸巻回胴部205aの糸巻量を前後方向で規定する前フランジ部205b及び後フランジ部(スカート部)205cとを有している。
【0044】
前記ロータ210には、一対の支持アーム211,212が略180°間隔で、軸方向前方に延出して対向するように形成されており、前記スプール205は、一対の支持アーム間に位置して前後に往復駆動される。各支持アーム211,212の先端部には、ベール支持部材214,215が、釣糸巻き取り位置と釣糸放出位置との間で回動可能に支持されている。また、それぞれのベール支持部材214,215には、半環状のベール217の基端部が取着されており、ベール217は、前記ベール支持部材214,215と共に回動可能となっている。そして、一方のベール支持部材15の先端には、釣糸をスプールに案内する釣糸案内装置(ラインローラ)250が配設されている。
【0045】
上記した構成のスピニングリールは、ハンドル203を回転操作すると、駆動力伝達機構を介してロータ210が回転駆動され、オシレーティング機構を介してスプール205は前後に往復駆動される。これにより、釣糸は、ロータ210と共に回転するベール支持部材215の釣糸案内装置250を介してスプール205の釣糸巻回胴部205aに均等に巻回される。
【0046】
上記したようなスピニングリールにおいても、様々な個所に腐食部材100を着脱可能に設置することが可能である。
【0047】
例えば、図9に示すように、回転駆動される前記ロータ210の上面にビス110を用いて着脱可能に装着することが可能である。
また、図10に示すように、前記ハンドルアーム203Aの先端に設けられるハンドルノブ203Bのノブキャップ203Cにビス110を用いて着脱可能に装着しても良い。或いは、図示しないが、ハンドルアーム203Aの内側の任意の位置(外部から視認し難い位置)に着脱可能に装着することも可能である。
また、図11に示すように、前記リール本体202の後端部に取り付けられる公知のリアキャップ230を取り外し、開口した部分のリール本体内(リアキャップの内側)に腐食部材100を着脱可能に装着することも可能である。さらには、リアキャップ230の内面(リアキャップの内側)に腐食部材を取着しておき、リアキャップ230を交換するようにしても良い。
【0048】
さらに、腐食部材100は、釣竿のリール脚固定部に対して装着されるリール脚202A、或いは、図2から図4に示した両軸受け型リールのリール脚8の足裏部に着脱可能に装着しても良い。
【0049】
上記したように、腐食部材100は、リール本体内、ハンドル、リール脚、更には、釣糸案内装置等、様々な個所に設置することが可能であり、その設置位置に応じて、腐食部材の形状や、装着方向については種々変形することが可能である。
【0050】
このように、腐食部材を、リールのいずれかの構成部材に装着することで、その構成部材と接触関係(近接関係を含む)にある他の構成部材との間で生じる腐食を効果的に抑制することが可能となる。例えば、駆動力伝達機構やオシレーティング機構を構成する各種の機能部品、構成部材同士を接続する固定部材(ネジ、リベット等)部分での腐食を効果的に抑制することが可能となる。
【0051】
次に、上記した腐食部材を付した魚釣用リールを連続して海水に浸漬させた際、その構成部材の変化状況について行った実験結果について説明する。
【0052】
図12は、セットプレートのスプール側の表面に腐食部材(ダイカスト用の亜鉛合金であるZDCプレートで構成しており、丸で囲んだ部分)をビス止めして装着し、これを海水に浸漬させた状態の変化状況を示す写真である。
海水には、連続して1時間浸漬させ、これを7回繰り返したところ、腐食部材であるZDCプレートの表面には、白い析出物の発現が(凹凸)見られ腐食が発生していた。
【0053】
図13は、セットプレートと接触した状態にある構成部材であり、従来のようにSUS製のハンドル軸の突出部領域、及び、そこに装着されるアルマイト処理されたドラグノブを示した写真である。
(a)は、図12で示した腐食部材をセットプレートに配設しなかった構成、(b)は、図12で示した腐食部材をセットプレートに装着した構成を示しており、いずれも図12と同様、連続して1時間、海水に浸漬させ、これを7回繰り返した際の状態を示している。
【0054】
この比較写真からわかるように、腐食部材をセットプレートに装着しておくと、腐食部材が腐食する代わりに、主要な構成部材については、腐食は進行しないという結果が得られた。
【0055】
図14は、ハンドルアームの基端部(ハンドル軸に取り付けられる部分)の内側に腐食部材を装着したものと、装着しなかったものを比較した実験結果を示す写真である。ハンドルアームは、アルミニウム合金(A6061番)にアルマイト処理を施したものであり、その先端側にSUSのリベットでハンドルノブをカシメて固定したものである。
【0056】
(a)の左側は、ナットが緩まないようにするために、基端部にアルマイト処理を施したアルミプレート(黒色)を介在したものであり、(a)の右側は、同一の形状の亜鉛プレート(白色)を介在したものである。
これらの2つのハンドルアームを、3週間海水噴霧したところ、アルミプレートを介在したものは、SUSのリベット周囲に腐食が発生し((b)の左側)、亜鉛プレートを介在したものは、SUSのリベット周囲に腐食が見られなかった((b)の右側)。
【0057】
アルミニウムは、亜鉛よりもイオン化傾向が大きいが、上記したようにアルマイト処理を施すと通電する面積が少なくなると考えられ、上記した亜鉛プレートを装着しても効果が得られたものと考えられる。
【0058】
本発明は、上記した実施形態のように、魚釣用リールのリール本体の内部や、リール本体の外部に露出する構成部材の表面(視認できない位置が好ましい)に腐食部材を着脱可能としたことを特徴としており、腐食部材については、腐食が進行した場合、専用の腐食部材に交換するメンテナンス作業をすることが可能である。
このため、本発明は、異種材料の構成部材同士が接触状態又は近接状態に配設された部分に着脱可能であって、異種材料の構成部材間の電位差よりも大きい電位差となる材料で形成された腐食部材としたものを含んでいる。このような腐食部材は、交換部品(専用品)として製造、販売することが可能であり、取り付けられる位置や取り付け方法に応じて、その形状を特定したり、プレート状以外にも、ブロック状にしたり、何等かの機能を持たせるような形状にしても良い。
【0059】
また、このような腐食部材については、亜鉛の板状に形成成することで、加工性が良く、低コスト化を図ることが可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
魚釣用リールとしては、上記したタイプのリール以外にも、電動リール、片軸受け型リール等、各種のリールに適用することができ、その装着位置についても種々変更することが可能である。また、腐食は、金属部材同士の接触に限らず、例えば、カーボンとアルミのような異種材料であっても生じることから、構成部材同士で生じる電位差を考慮して、最適な腐食部材を装着すれば良い。
【符号の説明】
【0061】
1 リール本体
5 ハンドル
8 リール脚
16 セットプレート
100 腐食部材
200 スピニングリール
202 リール本体
202A リール脚
203 ハンドル
230 リアキャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14