(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084242
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】温調容器
(51)【国際特許分類】
F28D 1/06 20060101AFI20230612BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
F28D1/06 A
H01L21/30 569
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198296
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】福井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浦田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 稜也
【テーマコード(参考)】
3L103
5F146
【Fターム(参考)】
3L103AA37
3L103BB25
3L103CC01
3L103DD03
3L103DD15
3L103DD36
3L103DD52
3L103DD62
5F146LA13
(57)【要約】
【課題】壁を十分に薄くし、かつ、熱伝導部材の内面が複雑な形状であってもその内面に壁の外面を密着させることにより、流体と熱伝導部材との間での熱交換の効率を向上させることが可能な温調容器を提供する。
【解決手段】温調容器は、外側を囲む熱伝導部材と内側に収容された流体との間で熱を交換させる。温調容器の袋部は樹脂フィルムから成り、流体を収容可能である。温調容器の入口は流体を袋部の内側へ導入し、出口は流体を袋部の内側から排出する。樹脂フィルムの厚さは、袋部が流体の圧力によって膨らみ、外面を熱伝導部材の内面に密着させるように設計されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側を囲む熱伝導部材と内側に収容された流体との間で熱を交換させるための容器であって、
樹脂フィルムから成り、前記流体を収容可能な袋部と、
前記流体を前記袋部の内側へ導入する入口と、
前記流体を前記袋部の内側から排出する出口と
を備え、
前記樹脂フィルムの厚さが、
前記袋部が前記流体の圧力によって膨らみ、外面を前記熱伝導部材の内面に密着させる
ように設計されている
ことを特徴とする温調容器。
【請求項2】
前記入口に対して前記出口が、前記入口における前記流体の流線方向とは異なる方向に位置する、請求項1に記載の温調容器。
【請求項3】
前記入口または前記出口が管継手である、請求項1に記載の温調容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体用の温調装置に関し、特に、内側の流体と外側の熱源または熱媒体との間で熱を交換させる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスやフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造では、ウェハや基板の洗浄に様々な薬液や超純水が使用される。洗浄の効果、特に金属不純物を酸化させ、または溶解させる効果を高めるには、薬液・超純水の温度を数十℃~百数十℃に維持しなければならない。また、洗浄後にウェハまたは基板を乾燥させる工程では、乾燥対象に高温のガスを吹き付けて加熱する場合がある。乾燥の効果を高めるには、ガスの温度を数十℃に維持しなければならない。したがって、半導体やFPDの製造設備には、薬液、超純水、またはガスの温度を調節する装置、すなわち流体用の温調装置が不可欠である。
【0003】
流体用の温調装置は一般に、温調対象の流体が内側を流れる配管、ノズル、タンク等の容器を備え、この容器を、ヒーター、ペルチェ素子等の熱源で加熱し、もしくは冷却し(たとえば特許文献1、2参照。)、または、この容器の外側に熱媒体を流してこの熱媒体とこの容器内の流体との間で熱を交換させる(たとえば特許文献3参照)。以下、温調装置によってこのように利用される容器を「温調容器」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-041619号公報
【特許文献2】特許第4093916号公報
【特許文献3】特許第3927920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体プロセスやFPDの製造においてウェハや基板に不純物が残ると、製品の電気的特性が劣化する危険性が高い。したがって、洗浄用の薬液、超純水、乾燥用のガス等、ウェハや基板に接触する流体を扱う配管、管継手、バルブ、ポンプ、タンク等には、少なくとも薬液等に直に触れる部分が薬品に侵されにくい材料、すなわち化学的安定性の高い材料で形成されている必要がある。そのような材料としてはフッ素樹脂が多用される。フッ素樹脂は耐薬品性だけでなく、耐熱性にも加工性にも優れているからである。
【0006】
温調容器もフッ素樹脂製であることが望ましい。しかし、フッ素樹脂製の温調容器には次の課題がある。温調の精度と効率とを更に高めるには、温調容器にも熱を更に効率良く伝導させるべきである。それには温調容器の壁を更に薄くすればよい。しかし、フッ素樹脂は熱伝導率が低いので、必要とされる壁の薄さが小さく、壁に単独で流体の圧力に耐えさせることが難しい。したがって、壁を補強しなければならない。熱伝導の効率を高く維持したまま、流体を汚染の危険にさらすことなく壁を補強するには、金属、炭素等、熱伝導率の高い材料で形成された部材(以下、「熱伝導部材」と呼ぶ。)で壁を外側から支えればよい(たとえば特許文献2参照)。しかし、フッ素樹脂と熱伝導率の高い材料とでは成形精度に差があるので、壁の外面と熱伝導部材の内面との間には隙間がある程度残らざるを得ない。隙間が多すぎると両面間での熱交換の効率が落ちる。隙間が残りにくいように両面が平面等、成形精度の差の比較的小さい単純な形状に設計されると、壁と熱伝導部材との間の接触面積が制限されるので、両者間の熱流量を増加させることが難しい。
【0007】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、壁を十分に薄くし、かつ、熱伝導部材の内面が複雑な形状であってもその内面に壁の外面を密着させることにより、流体と熱伝導部材との間での熱交換の効率を向上させることが可能な温調容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点による温調容器は、外側を囲む熱伝導部材と内側に収容された流体との間で熱を交換させるための容器である。この温調容器は、樹脂フィルムから成り、流体を収容可能な袋部と、流体を袋部の内側へ導入する入口と、流体を袋部の内側から排出する出口とを備えている。樹脂フィルムの厚さは、袋部が流体の圧力によって膨らみ、外面を熱伝導部材の内面に密着させるように設計されている。
【0009】
この温調容器では、入口に対して出口が、入口における流体の流線方向とは異なる方向に位置してもよい。入口または出口が管継手であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明による上記の温調容器では袋部が樹脂フィルムから成り、その厚さが、袋部がその内側へ導入される流体の圧力によって膨らみ、外面を熱伝導部材の内面に密着させるように設計されている。袋部はこのように薄いので、樹脂フィルムの熱伝導率が低くても十分に多量の熱を伝導する。さらに、流体の静圧は全方向で一様であるので、熱伝導部材の内面が複雑な形状であっても、その内面の全体に袋部の外面を密着させる。これにより、袋部の外面と熱伝導部材の内面とには隙間が実質上残らないので、両面間での熱交換の効率が十分に高い。熱伝導部材の内面が複雑な形状であってもよいことは更に、袋部と熱伝導部材との間の接触面積を拡大して両者間の熱流量を増加させることを容易にする。以上の結果、この温調容器は流体と熱伝導部材との間での熱交換の効率を向上させることができる。
【0011】
入口に対して出口が入口における流体の流線方向とは異なる方向に位置する場合、入口から流れ込んだ流体は、出口に到達する前に袋部の内面に衝突して乱流化する。これにより、袋部の内面では流体の圧力分布の偏りが低減するので、袋部の外面が熱伝導部材の内面に更に隈無く密着する。その上、袋部の内側では流体の熱伝達率が上昇する。これらの結果、流体と熱伝導部材との間での熱交換の効率が更に高まる。
【0012】
入口または出口が管継手である場合、本発明による上記の温調容器は、たとえば半導体等の製造設備が含む配管系統の任意の場所に挿入することが容易である。したがって、本発明による上記の温調容器はレイアウトの自由度が高く、増設も簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態による温調容器を収容した熱伝導部材の外観を示す斜視図であり、(b)は、その温調容器と熱伝導部材との組立図である。
【
図2】
図1の(a)が示す直線II-IIに沿った断面図である。
【
図3】(a)は、
図1が示す温調容器の製造直後の外観を示す斜視図である。(b)は、管継手を樹脂フィルムに溶着する工程を模式的に示す斜視図であり、(c)は、樹脂フィルムを袋状に溶着する工程を模式的に示す斜視図である。
【
図4】(a)は本発明の実施形態の第1変形例による温調容器の袋部と熱伝導部材との組立図であり、(b)は、
図4の(a)が示す直線b-bに沿った断面図である。
【
図5】(a)は本発明の実施形態の第2変形例による温調容器を収容した熱伝導部材の外観を示す斜視図であり、(b)は、
図5の(a)が示す直線b-bに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の(a)は、本発明の実施形態による温調容器100を収容した熱伝導部材200の外観を示す斜視図であり、(b)は温調容器100と熱伝導部材200との組立図である。
図2は、
図1の(a)が示す直線II-IIに沿った断面図である。
【0015】
温調容器100と熱伝導部材200とは、たとえば半導体製造設備内の薬液用または超純水用温調装置(図示せず。)に実装される。温調容器100は外側を熱伝導部材200によって囲まれ、内側に温調対象の薬液または超純水(以下、「薬液等」と略す。)を流す。熱伝導部材200は、ヒーター、ペルチェ素子等の熱源(図示せず。)で加熱され、もしくは冷却され、または、冷却水、高温ガス等の熱媒体(図示せず。)に接触する。これにより、熱伝導部材200は熱源または熱媒体と温調容器100との間で熱を交換させる。温調装置は、温調容器100に流れ込む薬液等の温度、温調容器100から流れ出る薬液等の温度、または熱伝導部材200の温度を監視し、その温度に基づいて熱源または熱媒体の温度を制御する。これにより、薬液等の温度が目標値に維持される。
[温調容器]
【0016】
図3の(a)は、温調容器100の製造直後の外観を示す斜視図である。温調容器100は、袋部110、入口120、および出口130を含む。
【0017】
袋部110は樹脂フィルム製の袋であり、温調容器100の製造直後では平坦に潰れている。袋部110の周はたとえば矩形状であり、その全体が閉じられている。樹脂フィルムは、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素樹脂から成る膜であり、薬液等に対して化学的に安定である。これにより、袋部110は薬液等を収容可能である。樹脂フィルムの厚さは、好ましくは、25μm-100μmである。厚さのこの範囲は、袋部110が、その内側に流れ込んだ薬液等の圧力(たとえば0.1MPa)で膨らみ、
図2が示すように、外面を熱伝導部材200の内面に密着させるように設計されている。
【0018】
入口120と出口130とはいずれも管継手であり、好ましくは、PTFE、PFA等のフッ素樹脂が円筒形状に成型された部材である。入口120と出口130とはそれぞれの先端部121、131が外部の配管(図示せず。)に接続可能である。
図3の(a)が示すように、入口120の基端部122は、平坦に潰れた袋部110の片側の表面に溶着され、出口130の基端部132は袋部110の反対側の表面のうち、その長手方向(
図3の(a)では左右方向)における位置が入口120とは異なる領域に溶着されている。
図1の(b)、
図2が示すように、入口120と出口130との基端部122、132が溶着された袋部110の領域には穴111、112が開いており、それらを通して入口120と出口130との流路123、133が袋部110の内側に連通している。これにより、入口120は薬液等を袋部110の内側へ導入し、出口130は薬液等を袋部110の内側から排出する。
-温調容器の製造-
【0019】
温調容器100の製造は次のように行われる。まず、入口120と出口130となるべき管継手が樹脂フィルムに溶着される。次に、その樹脂フィルムが袋状に溶着されて袋部110を形成する。
【0020】
図3の(b)は、管継手140を樹脂フィルム150に溶着する工程を模式的に示す斜視図である。この工程は、好ましくは、ヒートシンク式レーザー溶着を用いて次のように行われる。まず、管継手140の端面141の上に樹脂フィルム150が被せられ、その上にヒートシンク300が重ねて載せられる。ヒートシンク300は、フッ素樹脂には吸収される波長の光(たとえば赤外線)に対する透過率が高く、かつ熱伝導率が高い物質、たとえばシリコン、サファイア、ZnSe、またはZnSから成るシートである。次に、ヒートシンク300の上方から管継手140の端面141へCO
2レーザー光等の赤外線レーザー光が照射される。レーザー光はヒートシンク300を透過し、樹脂フィルム150と管継手140とに吸収されて熱に変わる。この熱は、ヒートシンク300と樹脂フィルム150との間の境界近傍ではヒートシンク300に吸収される一方、樹脂フィルム150と管継手140との間の境界近傍では周囲のフッ素樹脂を溶融させる。これにより、ヒートシンク300に面した樹脂フィルム150の表面に熱損傷が生じることなく、樹脂フィルム150の反対側の表面に管継手140の端面141が溶着される。樹脂フィルム150が矩形状である場合、樹脂フィルム150の同じ側の表面の対角に入口120と出口130とが溶着される。
【0021】
図3の(c)は、樹脂フィルム150を袋状に溶着する工程を模式的に示す斜視図である。この工程は、好ましくは、ヒートシールを用いて次のように行われる。まず、入口120と出口130とのそれぞれの流路123、133を塞ぐ樹脂フィルム150の部分が除去され、穴111、112が開けられる。次に、樹脂フィルム150が入口120と出口130との中間(
図3の(c)が示す1点鎖線参照。)で折り返され、片側の辺151に反対側の辺152が重ねられ、残りの2辺153、154がそれぞれ2つ折りにされてそれぞれの半分が残りの半分に重ねられる。これにより、入口120と出口130とが樹脂フィルム150の異なる面に配置される。続いて、折り返された樹脂フィルム150の周のうち開いた部分がヒートシールで閉じられる。すなわち、
図3の(c)が2本の細い実線で示す2本の直線状領域155、156が互いに重ねられ、加熱によって互いに溶着する。さらに、
図3の(c)が2本の2点鎖線で示す2本の直線状領域157、158がそれぞれ2つ折りにされ、加熱によってそれぞれの半分が残りの半分に溶着する。こうして樹脂フィルム150から袋部110が形成される。
[熱伝導部材]
【0022】
熱伝導部材200は、フッ素樹脂よりも熱伝導率が高い材料、たとえば、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属、または炭素から成る筐体であり、
図1、
図2が示すように、外形と内側の空洞とがいずれも肉厚の平板形状である。
図1の(b)が示すように、熱伝導部材200は、その板面201の法線方向における中央部を境に2つの部分202、203に分割され、内側の空洞を開くことができる。これにより、その空洞に温調容器100の袋部110が収容される。さらに、熱伝導部材200の互いに平行な側面204、205には穴206、207が1つずつ開いており、熱伝導部材200の空洞を外部に連通させている。穴206、207は板面201に対して対角に位置する。穴206、207の中に温調容器100の入口120と出口130との基端部122、132が嵌め込まれる。それらの先端部121、131は穴206、207の外に露出する。
-熱伝導部材への温調容器の組み込み-
【0023】
温調容器100の袋部110は、
図3の(a)が示す平坦に潰れた状態で熱伝導部材200の内側に収容される。したがって、この段階ではまだ、袋部110の外面の大部分が熱伝導部材200の内面から離れている。入口120から薬液等が袋部110の中へ導入されると、その圧力によって袋部110が膨らむ。ここで、上記のとおり、樹脂フィルムの厚さは、袋部110が薬液等の圧力で外面を熱伝導部材200の内面に密着させるように小さい範囲に設計されている。その結果、
図1の(b)が示すように、袋部110の外面は熱伝導部材200の内面と実質的に同じ直方体形状に変形し、
図2が示すように、袋部110の外面と熱伝導部材200の内面との間に隙間が実質上残らない。
【0024】
図3の(a)が示すように、入口120と出口130とでは、平坦に潰れた袋部110の長手方向(
図3の(a)では左右方向)における位置が異なる。これにより、
図2が示すように袋部110が膨らんだ状態では、入口120に対して出口130が、入口120における薬液等の流線方向、すなわち入口120の流路123の方向(
図2では右方)とは異なる方向(
図2では右斜め下)に位置する。したがって、入口120から袋部110の内側へ流れ込んだ薬液等は、出口130に到達する前に、袋部110の内面のうち入口120と対向する領域113に衝突して乱流化する。これにより、袋部110の内面では薬液等の圧力分布の偏りが小さいので、袋部110の外面が隈無く熱伝導部材200の内面と密着する。さらに、袋部110の内側における薬液等の熱伝達率が上昇する。これらの結果、薬液等と熱伝導部材200との間の熱交換は効率が高い。
[実施形態の利点]
【0025】
温調容器100では上記のとおり、袋部110が樹脂フィルムから成り、その厚さが、袋部110がその内側へ導入される薬液等の圧力によって膨らみ、外面を熱伝導部材200の内面に密着させるように設計されている。袋部110はこのように薄いので、樹脂フィルムの熱伝導率が低くても十分な流量の熱を伝導する。さらに、薬液等の静圧は全方向で一様であるので、熱伝導部材200の内面の全体に袋部110の外面を密着させる。これにより袋部110の外面と熱伝導部材200の内面とには隙間が実質上残らないので、両面間での熱交換の効率が十分に高い。以上の結果、温調容器100は、薬液等と熱伝導部材200との間での熱交換の効率を十分に高くすることができる。
【0026】
温調容器100では更に、入口120に対して出口130が入口120における流体の流線方向とは異なる方向に位置する。これにより、入口120から袋部110の中へ流れ込んだ薬液等が袋部110の内面に衝突して乱流化し、その内面における圧力分布の偏りを低減させ、熱伝達率を上昇させる。その結果、薬液等と熱伝導部材200との間での熱交換の効率が高い。
[変形例]
【0027】
(1)温調容器100と熱伝導部材200とを用いた温調は薬液等を対象とするが、その他に、ウェハの乾燥等に利用されるガスを対象としてもよい。また、温調容器100と熱伝導部材200とは半導体プロセスに限らず、FPD、食品、薬品の製造等、温調対象の流体に対する高い化学的安定性が求められる分野で利用可能である。
【0028】
(2)袋部110はフッ素樹脂製である。しかし、温調対象の流体に対する化学的安定性が十分に高い、その流体に混入する不純物に対する制限が緩い等の理由で、袋部110が他の樹脂から形成されてもよい。同様に、入口120と出口130とがフッ素樹脂に代えて他の樹脂で形成されてもよい。
【0029】
(3)入口120と出口130とはいずれも管継手であり、外部の配管に接続可能である。これらの配管が別の温調容器の出口または入口に接続されてもよい。その他に、入口120が、別の温調容器の出口に直に接続可能な継手であってもよく、出口130が、別の温調容器の入口に直に接続可能な継手であってもよい。いずれの場合においても、温調容器100は、たとえば半導体等の製造設備が含む配管系統の任意の場所に挿入することが容易である。したがって、温調容器100はレイアウトの自由度が高く、増設も簡単である。ただし、入口120と出口130とが継手であることは本発明にとって必須ではなく、入口120と出口130とのいずれかが温調容器100とは別の配管または流体機器と一体化していてもよい。
【0030】
(4)袋部110に対する入口120と出口130との溶着にはヒートシンク式レーザー溶着が利用される。その他に、通常のレーザー溶着、熱溶着(コテ式、熱板式、熱風式)、高周波溶着、または超音波溶着が利用されてもよい。さらに、温調対象の流体が汚染される危険が低い場合には、袋部110に入口120または出口130が接着剤で固定されてもよい。
【0031】
(5)温調容器100の製造直後、袋部110は
図3の(a)が示すような平面形状であるが、その他に、角筒、円筒等の立体的な形状であってもよい。これにより、袋部110の中へ薬液等が導入された際、袋部110の外面を熱伝導部材200の内面に、より確実に密着させることができる。
【0032】
(6)熱伝導部材200の外形と空洞とはいずれも平板形状である。その他に、以下に説明される本発明の実施形態の第1変形例のように、熱伝導部材の空洞がその外形よりも複雑な形状であってもよい。
【0033】
図4の(a)は、第1変形例による温調容器の袋部160と熱伝導部材210との組立図であり、(b)は、
図4の(a)が示す直線b-bに沿った断面図である。袋部160と
図3の(a)が示す袋部110との間、および、熱伝導部材210と
図1、
図2が示す熱伝導部材200との間では、形状のみが異なる。他の特徴は共通するので、以下では相違点のみを説明し、共通点については上記の説明を援用する。
【0034】
温調容器の製造直後、袋部160は、両端が閉じられた細長い円筒形状である(図示せず)。袋部160の両端面には1つずつ穴161、162が開いており、袋部160の内側を外側に連通させている。
【0035】
熱伝導部材210の外形は細長い直方体である。熱伝導部材210の長手方向の両端面には穴211、212が開いており、熱伝導部材210の空洞によって連通している。この空洞は横断面が円形であり、その直径が熱伝導部材210の長手方向において周期的に増減している。すなわち、熱伝導部材210の内面は複数の凹み213を、熱伝導部材210の長手方向において等間隔に含む。
【0036】
熱伝導部材210は、長手方向に対して垂直な方向(
図4では上下方向)における中央部を境に2つの部分214、215に分割され、内側の空洞を開くことができる。これにより、その空洞に温調容器の袋部160が収容される。さらに、
図4の(b)が示すように、熱伝導部材210の穴211、212の中に温調容器の入口120と出口130との基端部122、132が嵌め込まれる。
【0037】
入口120から薬液等が袋部160の中へ導入されると、その圧力によって袋部160が膨らむ。薬液等の静圧は全方向で一様であるので、熱伝導部材210の内面には、凹み213を含め、その全体に袋部160の外面が密着する。その結果、
図4の(a)が示すように、袋部160の外面は、直径が熱伝導部材210の長手方向において周期的に増減している形状に変形する。すなわち、袋部160の外面には複数の隆起163が、熱伝導部材210の長手方向において等間隔に形成される。したがって、
図4の(b)が示すように、袋部160の外面と熱伝導部材210の内面との間には隙間が実質上残らない。
【0038】
凹み213が設けられることにより、袋部160と熱伝導部材210との間の接触面積が大きい。したがって、両者間の熱流量を増加させることが容易である。さらに、凹み213ではその内面から薬液等の境界層が剥がれやすく、すなわち薬液等の流れが乱流化しやすい。これにより、袋部160の内面では薬液等の圧力分布の偏りが低減するので、袋部160の外面が熱伝導部材210の内面に更に隈無く密着する。その上、袋部160の内側では薬液等の熱伝達率が上昇する。以上の結果、薬液等と熱伝導部材210との間での熱交換の効率が高い。
【0039】
第1変形例のように、本発明による温調容器は、熱伝導部材の内面が複雑な形状であっても、その内面に袋部の外面を密着させることができる。したがって、その内面の形状を複雑にすることにより、袋部と熱伝導部材との間の接触面積を拡大することも、袋部内に乱流を生じやすくすることも容易である。それらの結果、袋部と熱伝導部材との間での熱交換の効率を更に向上させることができる。
【0040】
(7)温調容器100の入口120と出口130とでは流路123、133が互いに平行である。その他に、以下に説明される本発明の実施形態の第2変形例のように、入口の流路と出口の流路とが異なる方向であってもよい。
【0041】
図5の(a)は、本発明の実施形態の第2変形例による温調容器170を収容した熱伝導部材220の斜視図であり、(b)は、
図5の(a)が示す直線b-bに沿った断面図である。温調容器170と
図3の(a)が示す温調容器100との間では袋部の形状のみが異なり、熱伝導部材220と
図1、
図2が示す熱伝導部材200との間では全体の形状のみが異なる。他の特徴は共通するので、以下では相違点のみを説明し、共通点については上記の説明を援用する。
【0042】
温調容器170の製造直後、袋部180は、両端が閉じられた細長い筒形状である(図示せず)。袋部180の両端面には1つずつ穴181、182が開いており、袋部180の内側を外側に連通させている。
【0043】
熱伝導部材220の外形と内側の空洞とはいずれも、細長い直方体がL字形に屈曲したような形状である。熱伝導部材220の両端面には穴221、222が開いており、熱伝導部材220の空洞によって連通している。
【0044】
熱伝導部材220は、L字形の側面223の法線方向における中央部を境に2つの部分224、225に分割され、内側の空洞を開くことができる。これにより、その空洞に温調容器170の袋部180が収容される。袋部180はその長手方向における中央部で折り曲げられ、
図5が示すように、入口120と出口130との基端部122、132が熱伝導部材220の穴221、222の中に嵌め込まれる。
【0045】
入口120から薬液等が袋部180の中へ導入されると、その圧力によって袋部180が膨らむ。薬液等の静圧は全方向で一様であるので、熱伝導部材220の内面の全体に袋部180の外面が密着する。その結果、
図5の(b)が示すように、袋部180の外面は熱伝導部材220の空洞と同様なL字形に屈曲し、袋部180の外面と熱伝導部材220の内面との間には隙間が実質上残らない。
【0046】
L字形の屈曲により、入口120に対して出口130が、入口120における薬液等の流線方向、すなわち入口120の流路123の方向(
図5の(b)では右方)とは異なる方向(
図5の(b)では右斜め上)に位置する。したがって、入口120から袋部180の内側へ流れ込んだ薬液等は、出口130に到達する前に、袋部180の内面のうち入口120と対向する領域183に衝突して乱流化する。これにより、袋部180の内面では薬液等の圧力分布の偏りが小さいので、袋部180の外面が隈無く熱伝導部材220の内面と密着する。さらに、袋部180の内側における薬液等の熱伝達率が上昇する。これらの結果、薬液等と熱伝導部材220との間の熱交換は効率が高い。
【0047】
第2変形例のように、本発明による温調容器は、熱伝導部材の空洞が屈曲し、または湾曲していても、その内面に袋部の外面を密着させることができる。したがって、入口に接続される配管と出口に接続される配管との間で方向を変えることも、袋部内で流れの方向を変えることによって乱流を生じやすくすることも容易である。それらの結果、袋部と熱伝導部材との間での熱交換の効率を高く維持したまま、温調容器に接続される配管のレイアウトの自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0048】
100 温調容器
110 袋部
111、112 袋部の穴
120 入口
121 入口の先端部
122 入口の基端部
123 入口の流路
130 出口
131 出口の先端部
132 出口の基端部
133 出口の流路
200 熱伝導部材
201 熱伝導部材の板面
202、203 熱伝導部材の分割部分
204、205 熱伝導部材の側面
206、207 熱伝導部材の穴