(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008428
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ステント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/90 20130101AFI20230112BHJP
【FI】
A61F2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111987
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000153258
【氏名又は名称】株式会社JIMRO
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】相澤 誠
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA53
4C267BB02
4C267BB07
4C267CC07
4C267FF05
(57)【要約】
【課題】デリバリーカテーテルにスムーズに収容でき、かつデリバリーカテーテルからスムーズにリリースできるステントを提供する。
【解決手段】1又は複数の線材10を斜め格子状に編んで筒形のステント3を形成する。線材10の2つの線材部分10aどうしが絡み合う絡まり節部31を、軸方向及び周方向に分布するように配置し、周方向に隣接する絡まり節部31どうしを軸方向にずらして配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の線材によって斜め格子状に編み織りされた筒形のステントであって、
前記線材の2つの線材部分どうしが絡み合う絡まり節部が、軸方向及び周方向に分布されており、
前記周方向に隣接する絡まり節部どうしが、前記軸方向にずれていることを特徴とするステント。
【請求項2】
当該ステントの第1の領域においては、前記周方向の一側へ向かうにしたがって、前記絡まり節部の配置が前記軸方向の一側へずれ、当該ステントの前記第1の領域とは前記周方向に異なる第2の領域においては、前記周方向の一側へ向かうにしたがって、前記絡まり節部の配置が前記軸方向の他側へずれていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第1の領域における前記周方向に隣接する絡まり節部どうしの前記軸方向のずれが、前記第2周側部における前記周方向に隣接する絡まり節部どうしの前記軸方向のずれより小さいことを特徴とする請求項2に記載のステント。
【請求項4】
1又は複数の線材を斜め格子状に編んで筒形のステントを製造する方法であって、
前記線材の2つの線材部分どうしを絡ませて形成した絡まり節部が軸方向及び周方向に分布し、かつ前記周方向に隣接する絡まり節部どうしが前記軸方向にずれるように、前記線材を編むことを特徴とするステント製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉塞又は狭窄した病変部の改善に用いるステント及びそれを製造する方法に関し、特に斜め格子状に編み織りされた筒状のステント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば大腸癌等によって閉塞又は狭窄した病変部を開通させて、そこに筒形のステントを留置することで、開通状態を維持する治療施術が知られている。この種のステントは、例えば2本の線材を斜め格子状に編んだ筒形になっている(特許文献1等参照)。斜め格子の各格子点において、前記線材の2つの線材部分どうしが絡み合うことによって、絡まり節部が構成されている。多数の絡まり節部が、ステントの軸方向及び周方向に斜め格子状に分布するように配置されている。
【0003】
一般に、製造後のステントは、径方向に窄められて専用のデリバリーカテーテルの先端部に収容される。該デリバリーカテーテルが施術現場に持ち込まれる。そして、術者によって、デリバリーカテーテルが患者の病変部まで挿し入れられ、ステントが、デリバリーカテーテルの先端部からリリースされて展開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の編み構造のステントは、径方向に収縮させて窄めると、周方向に並んだ絡まり節部がステントの軸線と直交する円上に集まることによって竹フシ状のコブになる。すなわち、ステントの軸方向における絡まり節部が有る位置の直径が、絡まり節部が無い位置と比べて局所的に大きくなってしまう。このため、ステントを窄めてデリバリーカテーテルの先端部に挿し込む際、絡まり節部が有る位置での抵抗が増大し、ステントをデリバリーカテーテルにスムーズに入れにくい。施術において、ステントをデリバリーカテーテルの先端部からリリースするときにも、リリース抵抗が増大する。特にデリバリーカテーテルを細径化した場合、ステントのデリバリーカテーテルへの出し入れが困難になる。
本発明は、かかる事情に鑑み、窄めたときに竹フシ状のコブが出来るのを防止して、デリバリーカテーテルにスムーズに収容でき、かつデリバリーカテーテルからスムーズにリリースできるステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の一形態においては、1又は複数の線材によって斜め格子状に編み織りされた筒形のステントであって、
前記線材の2つの線材部分どうしが絡み合う絡まり節部が、軸方向及び周方向に分布されており、
前記周方向に隣接する絡まり節部どうしが、前記軸方向にずれている。
【0007】
当該ステントによれば、周方向に隣接する絡まり節部が軸方向にずれているために、窄めたとき、周方向に並んだ絡まり節部どうしがステントの軸線と直交する円上に集まらずに、軸方向に分散される。これによって、窄めたステントに竹フシ状のコブが形成されるのを防止できる。すなわち、ステントの軸方向に間隔を置いて複数箇所の直径が局所的に大きくなるのを防止できる。この結果、ステントをデリバリーカテーテルにスムーズに収容でき、かつステントをデリバリーカテーテルからスムーズに出すことができる。
【0008】
当該ステントの第1の領域においては、前記周方向の一側へ向かうにしたがって、前記絡まり節部の配置が前記軸方向の一側へずれ、当該ステントの前記第1の領域とは前記周方向に異なる第2の領域においては、前記周方向の一側へ向かうにしたがって、前記絡まり節部の配置が前記軸方向の他側へずれていることが好ましい。
これによって、前記軸方向にずれながら前記周方向に並んだ絡まり節部どうしを結ぶ線が、当該ステントの軸線と直交する面に対して斜めをなす概略楕円状の閉曲線となる。
前記第1の領域は、当該ステントの略半周の領域であり、前記第2周部は、当該ステントの他の略半周の領域であることが好ましい。
【0009】
前記第1の領域における前記周方向に隣接する絡まり節部どうしの前記軸方向のずれが、前記第2の領域における前記周方向に隣接する絡まり節部どうしの前記軸方向のずれより小さいことが好ましい。これによって、ステントを窄めたとき、周方向に並んだ絡まり節部が一箇所に集まるのを一層確実に防止でき、ステントをデリバリーカテーテルに一層スムーズに出し入れできる。
【0010】
本発明方法は、1又は複数の線材を斜め格子状に編んで筒形のステントを製造する方法であって、
前記線材の2つの線材部分どうしを絡ませて形成した絡まり節部が軸方向及び周方向に分布し、かつ前記周方向に隣接する絡まり節部どうしが前記軸方向にずれるように、前記線材を編むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るステントによれば、デリバリーカテーテルにスムーズに収容でき、かつデリバリーカテーテルからスムーズにリリースできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るステントを収容したデリバリーシステムの先端部の側面断面図である。
図1(b)は、前記ステントをリリースしたデリバリーシステムの先端部の側面断面図である。
【
図2】
図2は、前記ステントを展開状態で示す側面図である。
【
図3】
図3は、前記ステントの一部分における絡まり節部の配置を示す展開図である。
【
図4】
図4は、前記ステントの編み治具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1(a)は、デリバリーシステム1を示したものである。デリバリーシステム1は、例えば大腸癌等の閉塞又は狭窄した病変部の治療施術に用いられるものであり、デリバリーカテーテル2と、ステント3を備えている。デリバリーカテーテル2は、インナーシャフト4と、アウターチューブ5を含む。インナーシャフト4がアウターチューブ5に軸方向へ移動可能に挿通されている。斜め格子状に編み織りされた筒状のステント3が、径方向に窄められて、インナーシャフト4の先端部の外周に嵌められている。アウターチューブ5がステント3の外周に被さっている。これによって、ステント3が、インナーシャフト4とアウターチューブ5の間に挟まれた状態で、デリバリーカテーテル2の先端部に収容されている。その状態で、デリバリーカテーテル2の先端部が、予め開通させた病変部まで差し入れられる。そして、
図1(b)に示すように、ステント3が、デリバリーカテーテル2からリリースされて、弾性的に拡径展開された状態で病変部に留置される。これによって、病変部の開通状態を維持する。
【0014】
図2に示すように、ステント3は、複数(例えば2つ)の線材10(ワイヤ)によって構成されている。線材10の材質は、好ましくは、ばね性金属であり、より好ましくはニッケルチタン合金などのばね性を有する形状記憶合金である。
【0015】
これら線材10が斜め格子状の筒形になるように編み織りされることによって、ステント3が構成されている。ステント3は、線材10の2つの部分(以下「線材部分10a」)が交差する節部3pを有している。節部3pは、絡まり節部31及び重なり節部32を含む。これら絡まり節部31及び重なり節部32が、ステント3の軸方向及び周方向に交互に分布している。絡まり節部31においては、2つの線材部分10aが、それぞれL字状に屈曲されて、互いに絡み合っている。重なり節部32においては、2つの線材部分10aが、それぞれ屈曲されることなく直行されるとともに、互いにステント3の内外方向に重なっている。環状に配置された4つの節部3pを結ぶ線材部分10aによって、菱形のセル3qが形成されている。各線材10の両端は連結材15によって連結されている。これによって、各線材10が閉環状になっている。
【0016】
図3に示すように、ステント3における周方向(
図3において上下方向)に隣接する絡まり節部31どうしは、軸方向(
図3において左右方向)にずれている。ステント3の第1の領域3a(
図3において略上半分)においては、周方向の一側(
図3において上側)へ向かうにしたがって、絡まり節部31の配置が軸方向の一側(
図3において左側)へずれている。ステント3の第1の領域3aとは周方向に異なる第2の領域3b(
図3において略下半分)においては、周方向の一側へ向かうにしたがって、絡まり節部31の配置が軸方向の他側(
図3において右側)へずれている。
図2に示すように、これらの軸方向にずれながら周方向に並んだ絡まり節部31どうしを結ぶ線は、概略楕円状の閉曲線C
31となる。
【0017】
しかも、
図3に示すように、ステント3の第1の領域3aにおける周方向に隣接する絡まり節部31どうしの軸方向のずれΔaが、ステント3の反対側の第2の領域3bにおける周方向に隣接する絡まり節部31どうしの軸方向のずれΔbより小さい(Δa<Δb)。
ステント3の周方向における、絡まり節部31のピッチPcは、ステント3の全域にわたって均一である。
ステント3の軸方向における、絡まり節部31のピッチPdは、ステント3の全域にわたって均一である。
【0018】
図4は、ステント3を製造するための編み治具40を示したものである。編み治具40は、円筒形状の治具本体41と、絡まり節部31と対応する数のピン43を含む。治具本体41の直径及び有効軸長(ピン43の設置部分の軸長)によって、展開状態(自然状態)のステント3の直径及び軸長が決まる。治具本体41の外周部に多数のピン43が設けられている。治具本体41の外周面における各ピン43の周辺部分には、円形のザグリ凹部42が形成されている。ザグリ凹部42の中央部にピン43が設けられている。
【0019】
ピン43は、治具本体41から径方向外側へ突出されている。多数のピン43が、編み治具40の軸方向及び周方向に分布されている。これらピン43によって、ステント3における絡まり節部31の配置が決まる。詳しくは、編み治具40における周方向に隣接するピン43どうしは軸方向にずれている。編み治具40の略半周部40aにおいては、周方向の一側(
図4において上側)へ向かうにしたがって、ピン43の配置が軸方向の一側(
図4において左側)へずれている。編み治具40の反対側の略半周部40bにおいては、周方向の一側へ向かうにしたがって、ピン43の配置が軸方向の他側(
図4において右側)へずれている。これらの軸方向にずれながら周方向に並んだピン43どうしを結ぶ線は、概略楕円状の閉曲線C
43となる。
【0020】
しかも、編み治具40の略半周部40aにおける周方向に隣接するピン43どうしの軸方向のずれΔ43aが、編み治具40の反対側の略半周部40bにおける周方向に隣接するピン43どうしの軸方向のずれΔ43bより小さい(Δ43a<Δ43b)。
編み治具40の周方向における、ピン43のピッチP43cは、編み治具40の全域にわたって均一である。
編み治具40の軸方向における、ピン43のピッチP43dは、編み治具40の全域にわたって均一である。
【0021】
ステント3を製造する際は、線材10をピン43に引っ掛けてL字状に屈曲させながら編み治具40に巻き付ける。1の線状部分10aを1のピン43に引っ掛ける際、既に他の線状部分10aがそのピン43に引っ掛けられているときは、当該1の線状部分10aをザグリ凹部42に差し入れることで、当該1の線状部分10aが、前記他の線状部分10aを編み治具40の内外方向(径方向)の内から外又は外から内へ回り込むようにしながら、当該1の線状部分10aをピン43に引っ掛けて屈曲させる。これによって、2つの線材部分10aどうしが絡み合って絡まり節部31が形成される。編み治具40の軸方向及び周方向に分布するピン43の各々において2つの線材部分10aどうしを絡ませることによって、絡まり節部31が軸方向及び周方向に分布し、かつ周方向に隣接する絡まり節部31どうしが軸方向にずれるようにして、線材10が斜め格子状の筒状に編み織りされる。このようにして、ステント3が製造される。
【0022】
図1(a)に示すように、当該ステント3によれば、周方向に隣接する絡まり節部31が軸方向にずれているために、窄めたとき、周方向に並んだ絡まり節部31どうしが一箇所に集まらずに、軸方向に分散される。更に、ステント3の第1の領域3aと第2の領域3bにおける絡まり節部31のずれΔa,Δbが互いに異なっているために、窄めたとき、周方向に並んだ絡まり節部31どうしが軸方向に確実に分散される。これによって、窄めたステント3に、竹フシ状のコブが出来るのを防止できる。この結果、ステント3をデリバリーカテーテル2にスムーズに収容できる。かつ、
図1(b)に示すように、ステント3をデリバリーカテーテル2からスムーズにリリースすることができる。
【0023】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、線材10の数は2つに限らず1つでもよく3つ以上でもよい。
第1の領域3a及び第2の領域3bは、ステント3のちょうど半周(180°)である必要はなく、180°より小さくてもよく、180°より大きくてもよい。
ステント3の周方向に第1の領域3a及び第2の領域3bが交互に複数分布されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、例えば閉塞又は狭窄した病変部の治療具に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 デリバリーシステム
2 デリバリーカテーテル
3 ステント
3a 第1の領域
3b 第2の領域
3p 節部
3q セル
31 絡まり節部
32 重なり節部
10 線材
10a 線材部分
40 編み治具