(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000843
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】アクリル樹脂組成物、及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 33/12 20060101AFI20221222BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221222BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C08L33/12
C08K3/22
C08L69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101893
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 光亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩一
(72)【発明者】
【氏名】福井 謙一朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 顕士
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG06W
4J002CG01X
4J002DE078
4J002DE088
4J002DE097
4J002DE107
4J002DE127
4J002DE147
4J002DL008
4J002FA047
4J002FA087
4J002FD017
4J002FD136
4J002FD137
4J002GM00
4J002GP00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】成形物の機械的性能を向上させやすく、かつ難燃性を高めやすいアクリル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、ハロゲン系難燃剤(B)と、無機化合物(C)と、を含有する。熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含む。ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A2)との合計量に対するポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下である。熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、
ハロゲン系難燃剤(B)と、
無機化合物(C)と、を含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含み、
前記ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と前記ポリカーボネート樹脂(A2)との合計量に対する前記ポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記ハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である、
アクリル樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機化合物(C)は、三酸化二アンチモンと錫酸亜鉛とのうち一方又は両方を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記三酸化二アンチモン及び前記錫酸亜鉛の合計量は、0.1質量部以上15質量部以下である、
請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機化合物(C)は、三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛以外の無機フィラー(C1)を更に含み、
前記無機フィラー(C1)は、繊維長6μm以上200μm以下、繊維径6μm以上13μm以下である無機繊維(C11)と、平均粒子径6μm以上以上13μm以下である無機粒子(C12)とのうち少なくとも一方を含む、
請求項1又は2に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラー(C1)は、水和物を含有する、
請求項3に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記無機フィラー(C1)の割合は、0.1質量部以上15質量部以下である、
請求項3又は4に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアクリル樹脂組成物の成形物である、
成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクリル樹脂組成物、及び成形体に関し、より詳細には難燃性を有するアクリル樹脂組成物、及び前記アクリル樹脂組成物の成形物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、例えば(メタ)アクリル重合体(P)と、ハロゲン含有リン系難燃剤(C)と、無機顔料(D)と、ハロゲン非含有リン酸エステル(E)とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物が開示されている。このアクリル樹脂組成物において、ハロゲン含有リン系難燃剤(C)の含有量を(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対して、5.0質量部以上35質量部以下とすること、ハロゲン非含有リン酸エステル(E)の含有量を(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対して、0.005質量部以上0.15質量部以下とすることが開示されている。このアクリル樹脂組成物は、看板・照明材料として利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のアクリル樹脂組成物では、難燃性の向上は望めるものの、成形体の機械的強度や硬度等の機械的性能が低下しやすいという問題があった。
【0005】
本開示の目的は、成形物の機械的性能を向上させやすく、かつ難燃性を高めやすいアクリル樹脂組成物、及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るアクリル樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、ハロゲン系難燃剤(B)と、無機化合物(C)と、を含有する。前記熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含む。前記ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と前記ポリカーボネート樹脂(A2)との合計量に対する前記ポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下である。前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記ハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である。
【0007】
本開示の一態様に係る成形体は、前記アクリル樹脂組成物の成形物を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、成形物の機械的性能を向上させやすく、かつ難燃性を高めやすい、という利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.概要
以下、本開示の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。以下の実施形態は、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0010】
本実施形態のアクリル樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、ハロゲン系難燃剤(B)と、無機化合物(C)と、を含有する。熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含む。ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A2)との合計量に対するポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下である。熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である。これにより、本実施形態のアクリル樹脂組成物は、成形物の曲げ強度や鉛筆硬度等の機械的性能を向上させやすく、かつ難燃性を高めやすい。
【0011】
本実施形態のアクリル樹脂組成物が上記特性を達成できる理由は、正確には明らかにはされていないが、以下の理由によると推察される。ただし、本実施形態は、下記の理由の説明には拘束されない。
【0012】
すなわち、アクリル樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)がポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含み、かつポリメチルメタクリレート樹脂(A1)及びポリカーボネート樹脂(A2)の合計量に対するポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下とすることにより、アクリル樹脂組成物から作製される成形物に高い機械的性能と優れた難燃性を付与することができる。また、アクリル樹脂組成物がハロゲン系難燃剤(B)を含有し、かつ熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下とすることにより、アクリル樹脂組成物から作製される成形物に高い難燃性を付与することができる。特に、本実施形態では、アクリル樹脂組成物が難燃剤を含有するにもかかわらず、ハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量を調整することにより、熱可塑性樹脂(A)による高い機械的性能を維持しつつ、高い難燃性を付与することが可能となる、と考えられる。
【0013】
本実施形態のアクリル樹脂組成物は、上記のとおり、その成形物に高い機械的性能、並びに高い難燃性を付与することができるため、優れた物性を備える成形体を作製するために好適に用いることができる。
【0014】
2.詳細
以下、本実施形態に係るアクリル樹脂組成物、及び成形体についてより詳細に順に説明する。なお、本開示において「A及び/又はB」という表現は、「A」、「B」、又は「A及びB」のいずれかを意味する。また、本開示における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」とのうち少なくとも一方を意味する。例えば、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとのうち少なくとも一方を意味する。
【0015】
(1)アクリル樹脂組成物
本実施形態のアクリル樹脂組成物は、上記のとおり熱可塑性樹脂(A)、ハロゲン系難燃剤(B)、及び無機化合物(C)を含有する。アクリル樹脂組成物が含有しうる成分について説明する。
【0016】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂(A)は、アクリル樹脂組成物に成形性を付与しうる。本実施形態では、熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含む。なお、本開示において、「ポリメチルメタクリレート樹脂」を「PMMA樹脂」と称し、「ポリカーボネート樹脂」を「PC樹脂」と称することもある。PMMAは、PolyMethylMethacrylateの略であり、PCは、PolyCarbonateの略である。
【0017】
熱可塑性樹脂(A)がPMMA樹脂(A1)を含むことにより、アクリル樹脂組成物の成形物に透明性、及び耐薬品性を付与しやすい。本実施形態では、熱可塑性樹脂(A)全体に対するPMMA樹脂(A1)の含有割合は、50質量%以上であることが好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物から作製される成形物に、より優れた透明性及び耐薬品性を付与し、かつ機械的強度も高めうる。熱可塑性樹脂(A)全体に対するPMMA樹脂(A1)の含有割合は、60質量%以上であればより好ましく、67質量%以上であれば更に好ましい。なお、熱可塑性樹脂(A)における主成分とは、熱可塑性樹脂(A)に含まれる複数の成分のうち最も量の多い成分をいう。
【0018】
また、本実施形態においては、熱可塑性樹脂(A)がPC樹脂(A2)を含むことで、アクリル樹脂組成物の成形物の機械的強度をより向上させることに寄与できる。従来、PMMA樹脂を含有する樹脂組成物においては、その成形物に難燃剤を配合して難燃性を付与するためには、難燃剤の割合を高くしなければならず、またこれによりPMMAに由来する物性(例えば透明性、耐薬品性、強度等)を損なう事態を生ずることがあった。これに対し、本実施形態では、アクリル樹脂組成物がPC樹脂(A2)を含有することで、難燃剤を比較的少ない割合で配合しても難燃性を高めることができ、かつ、アクリル樹脂組成物の成形物の透明性、耐薬品性等の物性を損ないにくくでき、かつ機械的性能をより高めることができる。
【0019】
本実施形態では、アクリル樹脂組成物において、PMMA樹脂(A1)とPC樹脂(A2)との合計量に対するPC樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下である。これにより、本実施形態のアクリル樹脂組成物によれば、成形物の機械的性能及び難燃性を高く維持することができる。PMMA樹脂(A1)とPC樹脂(A2)との合計量に対するPC樹脂(A2)の質量割合は、25質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であれば更に好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂(A)は、上記のPMMA樹脂(A1)及びPC樹脂(A2)以外の熱可塑性の成分を含んでもよい。PMMA樹脂(A1)及びPC樹脂(A2)以外の熱可塑性の成分としては、例えばポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂(A)における、PMMA樹脂(A1)及びPC樹脂(A2)以外の熱可塑性の成分の含有割合は、例えば1質量%以上10質量%以下である。
【0021】
[ハロゲン系難燃剤]
ハロゲン系難燃剤(B)は、アクリル樹脂組成物及びその成形物に難燃性を付与しうる。本実施形態では、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である。このため、アクリル樹脂組成物は、高い難燃性を有し、かつ維持することができる。熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)のハロゲン含有量が10質量部以上20質量部以下であればより好ましく13質量部以上17質量部以下であれば更に好ましい。本開示において「熱可塑性樹脂(A)100質量部に対するハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量」とは、ハロゲン系難燃剤(B)の含有量全量にハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有率を乗じた値と熱可塑性樹脂(A)の質量との百分率である。
【0022】
ハロゲン系難燃剤(B)は、分子中に1以上のハロゲン原子、及びビスフェノール骨格を有することが好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物から作製される成形物に難燃性を付与しやすい。
【0023】
ハロゲン系難燃剤(B)の具体的な例としては、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、TBBPAの誘導体、ヘキサブロモシクロドデカン等を挙げることができる。ただし、ハロゲン系難燃剤(B)は前記成分に限定されない。
【0024】
また、アクリル樹脂組成物は、本開示の目的を逸脱しない限りにおいて、ハロゲン系難燃剤(B)以外の難燃性の成分を含有してもよい。ハロゲン系難燃剤(B)以外の難燃性の成分としては、例えばリン含有難燃剤、リン非含有難燃剤等を挙げることができる。
【0025】
[無機化合物]
無機化合物(C)は、上記ハロゲン系難燃剤(B)によるアクリル樹脂組成物及びその成形物への難燃性の付与の効果を更に向上させうる。
【0026】
無機化合物(C)は、三酸化二アンチモンと錫酸亜鉛とのうちのいずれか一方又は両方を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛の合計量は、0.1質量部以上15質量部以下であることも好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物の成形物に更に高い難燃性を付与しうる。なお、本開示において、無機化合物(C)に包含される三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛は、難燃助剤として機能する。また、無機化合物(C)は、三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛以外の難燃助剤を含みうる。
【0027】
無機化合物(C)は、更に無機フィラー(C1)を含有することが好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物の分散性を向上させやすい。これにより、アクリル樹脂組成物を成形する際の成形性を向上させやすい。また、燃焼時にドリップが発生し難くなり、難燃性を高めることができる。なお、本開示において、三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛は、無機フィラー(C1)とは区別され、すなわち無機フィラー(C1)には含まれない。
【0028】
無機化合物(C)が無機フィラー(C1)を含有する場合、無機フィラー(C1)の形状は、粒子状であってもよく、繊維状であってもよい。すなわち、無機フィラー(C1)は、無機繊維(C11)と無機粒子(C12)とのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。無機繊維(C11)は、繊維長6μm以上200μm以下であり、かつ繊維径6μm以上13μm以下の寸法を有することが好ましい。また、無機粒子(C12)は、平均粒子径6μm以上13μm以下の寸法を有することも好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物の流動性を向上させやすい。これにより、アクリル樹脂組成物を成形する際の成形性をより向上させやすい。無機繊維(C11)は、繊維長30μm以上150μm以下であり、かつ繊維径7μm以上12μm以下の寸法を有することがより好ましく、繊維長50μm以上100μm以下であり、かつ繊維径7μm以上10μm以下の寸法を有することが更に好ましい。また、無機粒子(C12)の平均粒子径は、動的光散乱法で測定された粒度分布から算出される累積50%径(メジアン径D50)である。
【0029】
無機フィラー(C1)は、水和物を有することが好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物から作製される成形物の燃焼する際に、成形物中の水和物に由来する水が脱水することで吸熱反応が生じて冷却作用を生じやすく、また脱水により生じた水が燃焼の際の気相中の燃焼ガスを希釈しやすい。これにより、アクリル樹脂組成物から作製される成形物の難燃性をより向上させやすい。なお、「水和物」とは、1以上の水分子が結合して形成された化合物をいう。
【0030】
無機フィラー(C1)は、例えばウォラストナイト、ガラス繊維(ガラスファイバー)、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含みうる。なお、無機フィラー(C1)の具体的な成分は、前記に限られないが、無機フィラー(C1)がウォラストナイトを含む場合、成形体の燃焼時のドリップの発生を特に減らしやすいため、高い難燃性を付与しやすく好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する無機フィラー(C1)の量は、0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物の成形物に更に高い難燃性を付与しうる。熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する無機フィラー(C1)の量は、1質量部以上13質量部以下であればより好ましく、3質量部10質量部以下であれば更に好ましい。
【0032】
[その他成分]
本実施形態のアクリル樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、上記で説明した成分以外の成分、例えば着色剤、離型剤等の添加剤を含有してもよい。
【0033】
本実施形態のアクリル樹脂組成物は、例えば以下のようにして調製することができる。
【0034】
すなわち、アクリル樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)に含まれうる成分のPMMA樹脂(A1)及びPC樹脂(A2)、ハロゲン系難燃剤(B)、無機化合物(C)、及び適宜の添加剤を混合することにより得られる。
【0035】
アクリル樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR:Melt mass Flow Rate)の下限は、1g/10minであれば好ましい。この場合、アクリル樹脂組成物は、高い成形性を有しうる。このため、アクリル樹脂組成物から成形物を作製するにあたり、成形しやすい。アクリル樹脂組成物のMFRの下限は、3g/10minであればより好ましく、4g/10min以上であれば更に好ましい。アクリル樹脂組成物のMFRは、後掲の実施例に記載の方法で測定可能である。
【0036】
このように、本実施形態のアクリル樹脂組成物は、その成形物に高い難燃性を付与でき、かつ高い機械的性能を付与しうる。さらに、アクリル樹脂組成物は、耐薬品性及び光沢性にも優れる。このため、本実施形態のアクリル樹脂組成物は、水廻り用の樹脂成形材料として特に好適に用いることができる。例えば、水廻り用の用途としては、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボール、便器等の家具の部材及び建材等を挙げることができ、アクリル樹脂組成物を樹脂成形材料として用いて成形した成形品により作製することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る成形体について説明する。
【0038】
(2)成形体
本実施形態の成形体は、上記で説明したアクリル樹脂組成物の成形物を含む。すなわち成形体は、アクリル樹脂組成物を成形することにより得られる。成形体の作製方法は、特に制限されず、適宜の成形方法を採用できるが、例えば射出成形、押出成形等の各種の成形法を挙げることができる。成形体は、上記のアクリル樹脂組成物から作製されるため、高い難燃性を有し、かつ高い機械的性能を有する。
【0039】
成形体の特性について、具体的に説明する。
【0040】
成形体は、JIS K7201-2に準拠して測定される酸素指数(OI)の下限が、24以上であれば好ましい。この場合、成形体は、優れた難燃性を有しうる。成形体の酸素指数(OI)の下限は、26以上であればより好ましい。
【0041】
成形体は、ASTM D790に準拠して測定される曲げ強度の下限が、100MPa以上であれば好ましい。この場合、成形体は、高い機械的強度を有しうる。成形体の曲げ強度の下限は、110MPa超であればより好ましい。
【0042】
成形体は、ASTM D3365に準拠して測定される鉛筆硬度が、2H以上であれば好ましい。この場合、成形体は、高い硬度を有しうる。
【実施例0043】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0044】
(1)樹脂組成物の調製
各実施例及び比較例において、表に示す成分を、表に示す割合で混合した。なお、表に示される成分の詳細は以下の通りである。また、表中「熱可塑性樹脂に対するハロゲン含有率」とは、熱可塑性樹脂100質量部に対する前記ハロゲン系難燃剤中のハロゲン含有量のことである。
(熱可塑性樹脂)
・PMMA樹脂:ポリメタクリルメチレート樹脂(三菱ケミカル株式会社製 品番 VH001。)
・PC樹脂:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製 品番 S2000。)
(ハロゲン系難燃剤)
・TBBPA:テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(阪本薬品工業株式会社製 。ハロゲン含有率:52%)
(無機化合物)
・難燃助剤:三酸化二アンチモン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・無機フィラー1:ウォラストナイト(巴工業株式会社製 品番 NYGLOS 4W。繊維長63μm、繊維径7μm。アスペクト比9)
・無機フィラー2:ウォラストナイト(巴工業株式会社製 品名 NYGLOS 8。繊維長156μm、繊維径12μm。アスペクト比13)
・無機フィラー3:ウォラストナイト(巴工業株式会社製 品名 NYAD-G 。繊維長825μm、繊維径55μm。アスペクト比15)
・無機フィラー4:水酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製 品番 S6。平均粒子径 1.0μm。)
・無機フィラー5:水酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製 品番 EP50。平均粒子径 6.0μm。)
・無機フィラー6:ガラス繊維(セントラルグラスファイバー株式会社製 品番EPH150-31。繊維長150μm、繊維径11μm。)
【0045】
(2)成形体の作製
上記(1)で調製した樹脂組成物を、金型に注入して、成形することにより、成形物を作製し、得られた成形物を、評価試験用の成形体とした。
【0046】
(3)評価
(3-1)流動性(MFRの測定)
上記(1)で調製した各実施例及び比較例の樹脂組成物について、メルトマスフローレート(MFR:Melt mass Flow Rate)を測定した。測定は、ISO 1133に準拠して、230℃の温度条件、おもりの重量は37.3Nの条件で行った。測定により得られた結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:MFRが3g/10min超である。
B:MFRが1g/10min以上3g/10min以下である。
C:MFRが1g/10min未満である。
【0047】
(3-2)成形性
(3-2-1)外観
上記(1)で調製した各実施例及び比較例の成形体について、目視により外観を確認し、以下の基準で評価した。
A:成形体の表面に無機フィラーが観察されない。
B:成形体の表面に無機フィラーが僅かに観察される。
C:成形体の表面に無機フィラーが多数明確に観察される。
【0048】
(3-2-2)光沢
上記(1)で調製した各実施例及び比較例の成形体について、光沢の程度を目視により確認し、以下の基準で官能評価した。
A:金型の転写が良好であり、光沢性がある。
B:金型の転写はやや不十分であるが、写像性がある。
C:金型の転写が不十分であり、写像性がない。
【0049】
(3-3)難燃性
上記(2)で作製した各実施例及び比較例の試験用の成形体について、JIS K7201-2に準拠して、長さ100mm、幅10mm、厚さ4mmとなるように成形体(試験片)を切り出し、酸素指数(OI値)を測定し、以下の基準で難燃性を評価した。
A:酸素指数が26以上である。
B:酸素指数が24以上26未満である。
C:酸素指数が24未満であるか、又はドリップが発生する。
【0050】
(3-4)鉛筆硬度(機械的性能)
上記(2)で作製した各実施例及び比較例の試験用の成形体について、ASTM D3365に準拠して、鉛筆硬度を測定した。得られた結果を、以下の基準に基づき評価した。
A:硬度が2H以上である。
C:硬度がH以下である。
【0051】
(3-5)曲げ強度(機械的性能)
上記(2)で作製した各実施例及び比較例の試験用の成形体について、ASTM D790に準拠して曲げ強度を測定し、以下の基準で評価した。
A:曲げ強度が110MPa超である。
B:曲げ強度が100MPa以上110MPa以下である。
C:曲げ強度が100MPa未満である。
【0052】
【0053】
【0054】
3.まとめ
上記実施形態及び実施例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。
【0055】
第1の態様に係るアクリル樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、ハロゲン系難燃剤(B)と、無機化合物(C)と、を含有する。前記熱可塑性樹脂(A)は、ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と、ポリカーボネート樹脂(A2)とを含む。前記ポリメチルメタクリレート樹脂(A1)と前記ポリカーボネート樹脂(A2)との合計量に対する前記ポリカーボネート樹脂(A2)の質量割合は、20質量%以上50質量%以下である。前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記ハロゲン系難燃剤(B)中のハロゲン含有量が7質量部以上21質量部以下である。
【0056】
第1の態様によれば、成形物の機械的性能を向上させやすく、かつ難燃性を高めやすい。
【0057】
第2の態様のアクリル樹脂組成物は、第1の態様において、無機化合物(C)は、三酸化二アンチモンと錫酸亜鉛とのうち一方又は両方を含む。前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記三酸化二アンチモン及び前記錫酸亜鉛の合計量は、0.1質量部以上15質量部以下である。
【0058】
第2の態様によれば、アクリル樹脂組成物の成形物に更に高い難燃性を付与しうる。
【0059】
第3の態様のアクリル樹脂組成物は、第1又は2の態様において、前記無機化合物(C)は、三酸化二アンチモン及び錫酸亜鉛以外の無機フィラー(C1)を更に含む。前記無機フィラー(C1)は、繊維長6μm以上200μm以下、繊維径6μm以上13μm以下である無機繊維(C11)と、平均粒子径6μm以上以上13μm以下である無機粒子(C12)とのうち少なくとも一方を含む。
【0060】
第3の態様によれば、アクリル樹脂組成物の流動性を向上させやすい。これにより、アクリル樹脂組成物を成形する際の成形性をより向上させやすい。また、燃焼時にドリップが発生し難くなり、難燃性を向上させやすい。
【0061】
第4の態様のアクリル樹脂組成物は、第3の態様において、無機フィラー(C1)は、水和物を含有する。
【0062】
第4の態様によれば、アクリル樹脂組成物から作製される成形物の難燃性をより向上させやすい。
【0063】
第5の態様のアクリル樹脂組成物は、第3又は4の態様において、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する前記無機フィラー(C1)の割合は、0.1質量部以上15質量部以下である。
【0064】
第5の態様によれば、アクリル樹脂組成物の成形物に更に高い難燃性を付与しうる。
【0065】
第6の態様に係る成形体は、第1から第5のいずれか1つの態様のアクリル樹脂組成物の成形物である。
【0066】
第6の態様によれば、機械的性能及び難燃性が優れ、水廻り用の樹脂成形品として特に好適に用いることができる。