(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084318
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
A43B23/02 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198426
(22)【出願日】2021-12-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000004433
【氏名又は名称】アサヒシューズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西岡 真菜未
(72)【発明者】
【氏名】岡 謙祐
(72)【発明者】
【氏名】河野 敏治
(72)【発明者】
【氏名】宮本 美智子
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC10
4F050JA27
(57)【要約】
【課題】高齢者や下肢に障害のある人が屈んだり手を使わずに、立ったまま履物を履けることを目的とした履物。
【解決手段】履物の履口の前方部を、足の中足骨の中間を横切る線を横軸としたときに、当該横軸に対して第5趾側を10~40度前方へ傾けるとともに、前記履口前方部の中心を踵部後端からつま先部先端に至る中心線において、踵部後端からつま先方向へ45~65%の位置に配置した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物の履口の前方部を、足の中足骨の中間を横断する線を横軸としたときに、当該横軸に対して第5趾側を10~40度前方へ傾けたことを特徴とする履物。
【請求項2】
前記履口前方部の中心を、踵部後端とつま先部先端を結ぶ中心線において踵部後端から45~65%の位置に配置したことを特徴とする請求項1記載の履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は履物の胛被、特に履口の形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の履物の履口は、履物の用途種類によって多少異なるが概ね長手方向に沿った楕円形で、履口の前方部は均一に湾曲しているか、または足裏のMTP関節に沿うように第1趾側から第5趾側へ後方、すなわち踵側に傾いているものが多く見受けられる。MTP関節とは、足の第1趾~第5趾の基節骨と中足骨の間にある関節である。
【0003】
これらの履物の履口は足入れ(足を履物に挿入する動作)のし易さより外観上の美感が優先されることが多く、前記MTP関節に沿って第1趾側から第5趾側へ後方に傾いているタイプの履口は、足入れの際に足の第4趾または第5趾が外胛側の履口に引っ掛かり、スムーズな足入れができない。
【0004】
また、例えば紐靴の場合、着用者はまず屈んで靴紐をほどき、足を挿入し再度靴紐を結ぶ動作を経て靴を履く必要があるが、この一連の作業は高齢者や下肢に障害のある人、あるいは第三者の介助を必要とする人にとって煩雑で苦痛を伴うものである。
【0005】
なお、スリッポンやサボといった前記動作を行うことなく簡易的に履ける履物は履口を広く設けており、この形状は足入れや着用がし易い利点がある一方、簡易性を重視した結果踵部がないものや履口が広すぎるものが多く、着用時のフィット性が低下し、歩行時の安定性に欠ける。
【0006】
そこで、特許第4499449号(特許文献1)では、履口をアッパーの少なくとも左右いずれか一側面の上縁沿いとするとともに、他側面側は接際部付近まで至る下がり開口部とし、当該開口部は、前甲部の上縁部から下前方に形成した開口前部を有して形成しており、さらに下がり開口部の開口下端部を内底上面よりも僅かに上位よりも低い高さに位置するように形成したことを特徴とする靴が開示されている。これにより足をアッパーの一側面の下がり開口部へ横から挿入、足入れすることができる。
【0007】
また、特開2010-201155(特許文献2)では、短靴を背面視した際に踵部の最凸部(最も高い位置)を、踵部中心よりも外側にオフセット配置し、かつアッパー内側の履口上縁面の高さ位置を、アッパー外側の履口上縁面の高さ位置よりも低く位置させたことを特徴とする短靴が開示されている。これは、歩行時の荷重移動のライン上(踵部の左後端で着地した際に発生した荷重が、右斜め前方の母趾に向かって移動する軌道)に位置する踵部に、当該踵部を覆うアッパーの最も高い位置(最凸部)をオフセット配置することで着用時の踵部のホールド性を保ち、歩行、特に蹴り出しの際に踵部が浮くことを防ぐとともに、アッパー内側の履口上縁面の高さを外側の履口上縁面よりも低くして履口の開口面積を確保し足入れのし易さを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4499449号
【特許文献2】特開2010-201155
【0009】
然しながら、特許文献1の発明では、下がり開口部の底部状態が靴底とアッパーの接際部付近まで開口しているため、足入れはし易い反面着用時のフィット性や歩行時の安定性が十分ではなく、歩行に適していない。
【0010】
また特許文献2は、踵部の最凸点を外側にオフセット配置したことで足と靴の密着性が向上し、着用、歩行時の靴の脱落の防止となるが、足入れ、すなわち足を靴に挿入する際は靴の外胛側からつま先を履口前方に挿入しつつ着用するため、前記形状では足入れ、着用がし易いとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は着用者が屈んだり手を使わずに、あるいは第三者の介助が必要なく立ったまま履くことができる容易性と、着用時または歩行動作中でも履物の脱落あるいは足と履物にズレが生じない安定性の維持を兼ね備えた履物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の履物は足の中足骨の中間を横断する線を横軸とし、当該横軸に対して履物の履口前方部の第5趾側を10~40度前方へ傾けたことを特徴とする履物である。
【0013】
履口前方部の第5趾側を前方、すなわちつま先方向へ傾けたことで、従来の履物の履口のように着用の際第4趾または第5趾が外胛側の履口に引っ掛かることがなくスムーズに着用できる。また、第1趾側の足背部を従来よりも広く覆うことができるため、足と履物のフィット性が向上する。さらに、前記履口前方部は後述する歩行動作において足趾が屈曲する際の屈曲ラインに沿った形状となり、従来の履口の形状よりも屈曲時に足にかかる負担が軽減される。
【0014】
また、踵部後端からつま先部先端を結ぶ中心線において、踵部後端から45~65%の位置に履口前方部の中心を配置したことを特徴とする。
【0015】
これにより履口が従来よりも広くなり足入れをし易くするとともに、前記履口前方部の形状により着用時のフィット性や歩行時の安定性を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の履物の履口は上記形状により、足入れの際に第4趾または第5趾が外胛側の履口に引っ掛かることを防ぐことができる。例えば、本発明の履物を立ったまま履く場合、履口につま先を挿入する際に履口前方部が第5趾側を前方へ傾けているため、つま先をスムーズに履物内前方へ挿入することができ、高齢者や下肢に障害のある人が煩雑な動作をせずに履くことができる。また、履口前方部が歩行の際の足趾の屈曲ラインに沿った形状であるため、従来の履口よりも屈曲の際に足にかかる負担が軽減される。
【0017】
また、履口前方部の中心を踵部後端とつま先部先端を結ぶ中心線において、踵部後端から45~65%の位置に配置したことで、従来の履口よりも広くなるとともに、着用時のフィット性や歩行時の安定性を維持し、歩行時の履物の脱落及び足と履物とがズレるのを防ぐ。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本発明の履物と足の骨格を重ね合わせた平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の履物の実施形態について説明する。
図1は本発明の履物の左足の平面図、
図2は左側面図、
図3は本発明の履物と足の骨格を重ね合わせた平面図である。
【0020】
以下に記載する実施例の履物は23.5cmの婦人靴とし、その形状はより本発明の効果を発揮しやすいようスリッポンタイプとした。なお、スリッポンタイプ以外の、例えば緊締手段を用いるタイプであっても本発明の作用効果に支障はない。
【0021】
図1の履物10の履口20は、踵部後端100からつま先部先端110へ向かう長手方向の中心線30と交差する位置の履物の幅方向に伸長する部分を履口前方部21とし、
図3に示すように足の中足骨60の中間を足の幅方向に横切る線を横軸40とした。
【0022】
前記履口前方部21は、第5趾側へ前方、すわなちつま先方向へ傾けており、その傾斜角70は中心線30と横軸40が直交する箇所において前記横軸40に対して10~40度とし、好ましくは20度とする。これにより足入れの際、主に第4趾及び第5趾が外胛側の履口に引っ掛かることなくスムーズに足を履物内に挿入することができる。また、前記履口前方部が足背部の第1中足骨近位骨頭周辺を覆うことができるが、この範囲は足背部のうち最も上下方向の高さにおいて高い部分であり、この範囲を胛被で覆うことで着用後の足と履物のフィット性が向上する。
【0023】
前記傾斜した履口前方部は、
図1および
図3に示す屈曲部50と近似する傾斜角度となる。屈曲部とは、歩行動作において足を前進させる際に中足骨付近を屈曲させる線のことで、本発明ではその部分の特定方法として特許第4004831号に記載の内容を参考とした。なお、前記特許文献では屈曲部を4か所特定しているが、本発明ではその作用効果上、履口前方部21に最も影響のある箇所を図示した。前記屈曲動作は蹴り出しによる前方への推進力を得るために重要な過程のひとつであり、前記屈曲部50と近似する傾斜角度で履口前方部21を形成することで、歩行動作に係る負荷を軽減し、より屈曲し易い形状となっている。
【0024】
前記傾斜角度は、10度を下回ると足入れの際に第4趾及び第5趾が外胛側の履口に引っ掛かりその効果が発揮されにくく、また40度を上回ると胛被が第4趾及び第5趾の足背部を覆う面積が狭くなり、足入れ後の履物と足のフィット性及び歩行時の安定性が低下する。
【0025】
図1及び3に示すように、前記履口前方部21は踵部後端100とつま先部先端110を結ぶ中心線3において、踵部後端100からつま先方向へ45~65%、好ましくは55%の位置に配置した。
【0026】
紐靴やスリッポン、面ファスナータイプ等従来の靴は概ね踵部後端からつま先方向へ30~40%の位置に履口前方部が配置されている。この位置だと履口が狭く、靴紐の緊締を解いたり舌部を前方に開口して履口を広くし、足入れ後靴紐を結ぶ手間とこれらの動作のため屈む必要がある。また面ファスナーによる緊締手段の靴であっても緊締を解放して足入れし、再度面ファスナーを係合して着用が完了するため、足入れし易いとは言い難い。本発明の履物の履口は、その前方部を従来の履口前方部の位置よりもつま先側へ配置しているため履口が広く足入れがし易くなるとともに、履口前方部が足背部の中足骨近位骨頭周辺を覆うことで足入れ後は足と履物がフィットし、容易にズレることはなく、歩行に支障はない。
【0027】
なお、履口前方部の位置が45%以下の場合、着用時のフィット性は向上する一方、履口が狭く足入れがしにくくなり、65%以上の場合は足入れし易い反面着用時のフィット性及びホールド性が低下し、歩行の際に脱落するおそれがある。
【0028】
また、
図2に示すように外胛90は靴底120から履口20までの高さを内胛80よりも低くし、より足入れし易くした。通常足を履物に挿入する際、履物の外胛側から足を挿入する傾向にあり、前記のように外胛を低く形成することで本発明の効果と相まって足特に足趾が履物に引っ掛かることなくスムーズに足を履物内前方へ挿入できる。
【0029】
本発明の履物は、胛被の材料として繊維、綿布、皮革等通常履物の胛被として用いられる材料で構成される。また履物の形状として本発明の実施例ではスリッポンタイプを用いているが、これに限定されるものではなく、本発明の構成を備えていればその効果を発揮できる。
【実施例0030】
本発明の履物はサイズを23.5cmとした婦人靴であって、履口20の前方部21を中足骨60の中間を横断する横軸40に対して第5趾側を20度前方へ傾けた。また前記履口前方部21を中心線30において踵部後端100からつま先方向へ55%の位置に配置した。
本発明は前記構成からなるもので、履口前方部を横軸に対して第5趾側を10~40度前方に傾け、また前記履口前方部を踵部後端からつま先方向へ45~65%の位置に配置したことで立ったまま履物を履くことができるため、高齢者や下肢に障害のある人にとって最適である。また、前記構成を備えた履物であれば同様の効果を発揮するため、足背部を覆う胛被を備えた履物であればその効果を発揮し、幅広い履物の種類に対応できる。したがって、使用者の年齢や健康状態あるいは使用時の状況を問わず使用することができる。