(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084328
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ゴルフボールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20230612BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A63B37/00 528
A63B37/00 616
A63B45/00 B
A63B37/00 544
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198442
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000114031
【氏名又は名称】ミクロ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】林 界
(72)【発明者】
【氏名】重光 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】花井 辰矩
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、反発性を抑制し、かつ、良好なフィーリングが得られるゴルフボールを提供する。
【解決手段】ゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(1)の関係を満足することを特徴とする。
0.30≦{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}≦1.00 …(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、
前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(1)の関係を満足することを特徴とするゴルフボール。
0.30≦{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}≦1.00 …(1)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aas:球状コアの表面における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Abs:球状コアの表面における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【請求項2】
前記吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度とが式(2)の関係を満足する請求項1に記載のゴルフボール。
0.70≦{(Abo/Aao)/(Ab5/Aa5)}≦0.98 …(2)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aa5:中心から5mmの地点における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Ab5:中心から5mmの地点における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【請求項3】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から10mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T10)との比(Tо/T10)が1.2~5.0である請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との比(Tо/Ts)が1.05~5.0である請求項1~3のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から5mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T10)との比(Tо/T5)が1.0~5.0である請求項1~4のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記比(Tо/T10)と前記比(Tо/T5)との積{(Tо/T10)×(Tо/T5)}が1.2~10.0である請求項1~5のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記比(Tо/Ts)、前記比(Tо/T10)および前記比(Tо/T5)の積{(Tо/Ts)×(Tо/T10)×(Tо/T5)}が1.3~30.0である請求項1~6のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との絶対値(|Tо―Ts|)が1.6~30.0である請求項1~7のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【請求項9】
(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を混合、混練してゴム組成物を調製する第1工程、
キャビティを有する上下型内に前記ゴム組成物を投入し、周波数が2.4GHz~2.5GHzの電波を照射することで加熱し、球状コアを形成する第2工程、
前記球状コアを被覆する少なくとも1層のカバーを形成する第3工程を有することを特徴とするゴルフボールの製造方法。
【請求項10】
前記電波の出力が、500W~10000Wである請求項9に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項11】
前記電波の照射時間が、10秒間~60分間である請求項9または10に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項12】
前記電波を用いた加熱における前記ゴム組成物の温度が、120℃~250℃である請求項9~11のいずれか1項に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項13】
前記第2工程が、第1の出力を有する電波を照射する第1照射工程と、前記第1の照射条件とは異なる第2の出力を有する電波を照射する第2照射工程とを有する請求項9~12のいずれか1項に記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴルフボールに関し、特に球状コアの改良技術に関する。また、本開示はゴルフボールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールとして、ゴルファーが主にゴルフコースで使用するラウンド用ボールと、ゴルファーが主に練習場で使用する練習用ボールが開発されている。練習用ボールは、狭い練習場でも使用できるように、低反発化を図り、飛距離が短くなるように設計されている。このような低反発化されたゴルフボールが種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴム成分100質量部に対してα,β-不飽和脂肪酸金属塩を40質量部以下配合したコアと、該コアを被覆する一層以上のカバーとを備えたゴルフボールからコアを取り出し、該コアを粉砕して平均粒径が0.8mmを超える大きさの粉粒を30%以上含む粉末ゴムとし、この粉末ゴムを、(i)ワンピースゴルフボール材、(ii)コアにカバーを被覆してなるツーピースゴルフボールのコア材、(iii)少なくとも一層のコアに、少なくとも一層の中間層、少なくとも一層のカバーを順に被覆してなる多層ゴルフボールのコア材及び/又は中間層材、又は(iv)センターに糸ゴムを巻回してなる糸巻きコアにカバーを被覆してなる糸巻きゴルフボールのセンター材に、混入させたことを特徴とするゴルフボールが提案されている(特許文献1(請求項1)参照)。
【0004】
また、特許文献2には、コアと一層以上のカバー層とからなるマルチピースゴルフボールのコアのマトリックスに、ワンピースソリッドゴルフボールを粉砕して得られた粉砕ゴムが、前記マトリックス中のゴム成分100質量部に対して1~30質量部混入されていることを特徴とするマルチピースゴルフボールが提案されている(特許文献2(請求項1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-204837号公報
【特許文献2】特開2002-219192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴルフボールのコアに、粉砕ゴムを混入する方法は、製造工程が煩雑であった。本開示は、製造が容易であり、反発性を抑制し、かつ、良好なフィーリングが得られるゴルフボールを提供することを目的とする。また、本開示は前記ゴルフボールを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本開示のゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(1)の関係を満足することを特徴とする。
0.30≦{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}≦1.00 …(1)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aas:球状コアの表面における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Abs:球状コアの表面における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、容易に製造することができ、反発性が抑制され、かつ、良好なフィーリングが得られるゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ゴルフボール]
本開示のゴルフボールは、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(1)の関係を満足することを特徴する。
0.30≦{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}≦1.00 …(1)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aas:球状コアの表面における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Abs:球状コアの表面における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【0011】
(球状コア)
前記球状コアは、フーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が前記式(1)の関係を満足する。前記強度比(Abo/Aao)と強度比(Abs/Aas)との比{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}が、0.30以上であれば容易に製造することができ、1.00以下であれば反発性が抑制され、かつ、より良いフィーリングが得られる。前記比{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}は0.30以上が好ましく、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.70以上であり、1.00以下が好ましく、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.80以下である。
【0012】
前記球状コアは、フーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(2)の関係を満足することが好ましい。
0.70≦{(Abo/Aao)/(Ab5/Aa5)}≦0.98 …(2)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aa5:中心から5mmの地点における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Ab5:中心から5mmの地点における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【0013】
前記強度比(Abo/Aao)と強度比(Ab5/Aa5)との比{(Abo/Aao)/(Ab5/Aa5)}が、0.70以上であれば容易に製造することができ、0.98以下であれば反発性が抑制され、かつ、より良いフィーリングが得られる。前記比{(Abo/Aao)/(Ab5/Aa5)}は0.70以上が好ましく、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.80以上であり、0.98以下が好ましく、より好ましくは0.96以下、さらに好ましくは0.94以下である。
【0014】
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、球状コアの中心の(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度(Aao)と、球状コアの中心の(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度(Abo)との強度比(Abo/Aao)は、0.2以上が好ましく、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.6以上であり、2.0以下が好ましく、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.4以下である。前記強度比(Abo/Aao)が0.2以上であれば反発性がより抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、1.6以下であれば容易に製造することができる。
【0015】
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、球状コアの中心から5.0mm地点の(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度(Aa5)と、球状コアの中心から5.0mm地点の(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度(Ab5)との強度比(Ab5/Aa5)は、0.3以上が好ましく、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上であり、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。前記強度比(Ab5/Aa5)が、0.3以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、3.0以下であれば容易に製造することができる。
【0016】
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、球状コアの中心から10.0mm地点の(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度(Aa10)と、球状コアの中心から10.0mm地点の(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度(Ab10)との強度比(Ab10/Aa10)は、0.6以上が好ましく、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であり、2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下である。前記強度比(Ab10/Aa10)が、0.6以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、2.0以下であれば容易に製造することができる。
【0017】
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、球状コアの表面の(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度(Aas)と、球状コアの表面の(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度(Abs)との強度比(Abs/Aas)は、0.7以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上であり、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。前記強度比(Abs/Aas)が、0.7以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、3.0以下であれば容易に製造することができる。
【0018】
前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、球状コアの中心、5.0mm地点、10.0mm地点および表面の(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度の平均値(Aaave)と、球状コアの中心、5.0mm地点、10.0mm地点および表面の(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度の平均値(Abave)との強度比(Abave/Aaave)は、0.6以上が好ましく、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であり、2.5以下が好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。前記強度比(Abave/Aaave)が、0.6以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、2.5以下であれば容易に製造することができる。
【0019】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から5mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T5)との比(Tо/T5)は1.0以上が好ましく、より好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上であり、5.0以下が好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.0以下である。前記比(Tо/T5)が1.0以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、5.0以下であれば容易に製造することができる。
【0020】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から10mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T10)との比(Tо/T10)は1.2以上が好ましく、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上であり、5.0以下が好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下である。前記比(Tо/T10)が1.2以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、5.0以下であれば容易に製造することができる。
【0021】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との比(Tо/Ts)は1.05以上が好ましく、より好ましくは1.08以上、さらに好ましくは1.10以上であり、5.0以下が好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下である。前記比(Tо/Ts)が1.05以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、5.0以下であれば容易に製造することができる。
【0022】
前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との絶対値(|Tо―Ts|)は1.6以上が好ましく、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上であり、30.0以下が好ましく、より好ましくは20.0以下、さらに好ましくは15.0以下である。前記絶対値(|Tо―Ts|)が1.6以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、30.0以下であれば容易に製造することができる。
【0023】
前記比(Tо/T10)と前記比(Tо/T5)との積{(Tо/T10)×(Tо/T5)}は1.2以上が好ましく、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上であり、10.0以下が好ましく、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。前記積{(Tо/T10)×(Tо/T5)}が1.2以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、10.0以下であれば容易に製造することができる。
【0024】
前記比(Tо/Ts)、前記比(Tо/T10)および前記比(Tо/T5)の積{(Tо/Ts)×(Tо/T10)×(Tо/T5)}は1.3以上が好ましく、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上であり、30.0以下が好ましく、より好ましくは20.0以下、さらに好ましくは15.0以下である。前記積{(Tо/Ts)×(Tо/T10)×(Tо/T5)}が1.3以上であれば反発性が抑制でき、かつ、より良いフィーリングが得られ、30.0以下であれば容易に製造することができる。
【0025】
前記球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。球状コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、打感が硬くならない。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
【0026】
前記球状コアは、直径34.8mm~42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、6.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましい。前記圧縮変形量が、2.0mm以上であれば打球感がより良好となり、6.0mm以下であれば、反発が低下しすぎることがない。
【0027】
前記球状コアは、キャビティを有する上下型内に後述するゴム組成物を投入し、周波数が2.4GHz~2.5GHzの電波を照射することで加熱し形成されたものが好ましい。後述するゴム組成物は、(b)共架橋剤と、(c)架橋開始剤を含有しており、電波によって直接加熱することができる。よって、加熱に電波を用いることで、球状コアの中心から表面の全体を均一に加熱することができ、球状コアの中心から表面にわたって各成分の反応の均一性を高めることができる。
【0028】
(ゴム組成物)
前記球状コアは、(a)ポリブタジエンゴム、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものである。
【0029】
(a)ポリブタジエン
前記ゴム組成物は、基材ゴムとして、(a)ポリブタジエンを含有する。前記基材ゴム中の(a)ポリブタジエンの含有率は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。前記ゴム組成物は、基材ゴムとして、(a)ポリブタジエンのみを含有してもよい。
【0030】
前記(a)ポリブタジエンは、シス-1,4-結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。前記ハイシスポリブタジエンは、1,2-ビニル結合の含有量が2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2-ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
【0031】
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4-シス結合が高含量、1,2-ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
【0032】
前記ハイシスポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは55以下である。なお、本開示でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。
【0033】
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.0以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC-8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
【0034】
前記ゴム組成物は、基材ゴムとして、(a)ポリブタジエン以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
(b)共架橋剤
前記ゴム組成物に使用される(b)炭素数が3~8のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、共架橋剤としてゴム組成物に配合されるものであり、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。
【0036】
前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等を挙げることができる。
【0037】
前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属イオン;アルミニウムなどの三価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの二価の金属が好ましい。炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸の二価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。特に、二価の金属塩としては、得られるゴルフボールの反発性が高くなるということから、アクリル酸亜鉛が好適である。なお、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
前記(b)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の含有量は、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、55質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、45質量部以下がさらに好ましい。(b)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の含有量が20質量部未満では、ゴム組成物から形成されるコアを適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、得られるゴルフボールの反発性が必要以上に低下する傾向がある。一方、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の含有量が55質量部を超えると、ゴム組成物から形成されるコアが硬くなりすぎて、得られるゴルフボールの打球感が低下するおそれがある。
【0039】
(c)架橋開始剤
前記ゴム組成物に使用される(c)架橋開始剤は、基材ゴムを架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
【0040】
前記(c)架橋開始剤の含有量は、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.5質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下、特に好ましくは0.9質量部以下である。含有量が0.2質量部以上であれば、ゴム組成物から形成される部材が柔らかくなり過ぎず、5.0質量部以下であれば、ゴム組成物から形成される部材が適切な硬さとなり、ゴルフボールの耐久性が良好となる。
【0041】
前記ゴム組成物は、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤に加えて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、(d)有機硫黄化合物、(e)金属化合物、(f)カルボン酸および/またはその塩等が挙げられる。
【0042】
(d)有機硫黄化合物
前記(d)有機硫黄化合物としては、チオール類(チオフェノール類、チオナフトール類)、ポリスルフィド類、チウラム類、チオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェンアミド類、ジチオカルバミン酸塩類、および、チアゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましい。前記(d)有機硫黄化合物は、単独もしくは二種以上を混合して使用することができる。
【0043】
前記(d)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類および/またはその金属塩、チオナフトール類および/またはその金属塩、ジフェニルジスルフィド類、チウラムジスルフィド類が好ましく、より好ましくは2,4-ジクロロチオフェノール、2,6-ジフルオロチオフェノール、2,6-ジクロロチオフェノール、2,6-ジブロモチオフェノール、2,6-ジヨードチオフェノール、2,4,5-トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、1-チオナフトール、2-チオナフトール、ジフェニルジスルフィド、ビス(2,6-ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
【0044】
前記(d)有機硫黄化合物の含有量は、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下である。(d)有機硫黄化合物の含有量が0.05質量部未満では、(d)有機硫黄化合物を添加した効果が十分に得られない。また、(d)有機硫黄化合物の含有量が5.0質量部を超えると、得られるゴルフボールの圧縮変形量が必要以上に大きくなるおそれがある。
【0045】
(e)金属化合物
前記(e)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。前記金属化合物として好ましいのは、二価金属化合物であり、より好ましくは亜鉛化合物である。二価金属化合物は、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸と反応して、金属架橋を形成するからである。
【0046】
前記金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。また、前記金属化合物の含有量は、所望とする(b)炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸の中和度に応じて、適宜調整すればよい。
【0047】
(f)カルボン酸および/またはその塩
前記(f)カルボン酸および/またはその塩としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸塩が挙げられる。前記(f)カルボン酸および/または塩は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。なお、前記(f)カルボン酸および/またはその塩は、(b)共架橋剤に使用される化合物とは異なる化合物であり、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸およびその金属塩は含まない。
【0048】
前記脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族カルボン酸(以下、「飽和脂肪酸」と称する場合がある。)、不飽和脂肪族カルボン酸(以下、「不飽和脂肪酸」と称する場合がある。)のいずれであっても良い。また、脂肪族カルボン酸は、分岐構造や環状構造を有していてもよい。前記飽和脂肪酸の炭素数は、1以上が好ましく、30以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。前記不飽和脂肪酸の炭素数は、5以上が好ましく、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上であり、30以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは13以下である。
【0049】
前記芳香族カルボン酸としては、分子中にベンゼン環を有するもの、分子中に複素芳香環を有するものが挙げられる。前記芳香族カルボン酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ベンゼン環を有するカルボン酸としては、例えば、ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した芳香族カルボン酸、ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した芳香族-脂肪族カルボン酸、縮合ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した多核芳香族カルボン酸、縮合ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した多核芳香族-脂肪族カルボン酸などが挙げられる。前記複素芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、複素芳香環に直接カルボキシル基が結合したものが挙げられる。
【0050】
脂肪族カルボン酸塩または芳香族カルボン酸塩としては、上述した脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の塩を用いることできる。これらの塩のカチオン成分としては、例えば、金属イオン、アンモニウムイオン、および、有機陽イオンを挙げることができる。金属イオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、銀などの一価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの二価の金属イオン;アルミニウム、鉄などの3価の金属イオン;錫、ジルコニウム、チタンなどのその他のイオンが挙げられる。前記カチオン成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
【0051】
前記有機陽イオンとは、炭素鎖を有する陽イオンである。前記有機陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、有機アンモニウムイオンが挙げられる。前記有機アンモニウムイオンとしては、例えば、ステアリルアンモニウムイオン、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオンなどの1級アンモニウムイオン、ドデシル(ラウリル)アンモニウムイオン、オクタデシル(ステアリル)アンモニウムイオンなどの2級アンモニウムイオン;トリオクチルアンモニウムイオンなどの3級アンモニウムイオン;ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオンなどの4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。これらの有機陽イオンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記脂肪族カルボン酸および/またはその塩としては、飽和脂肪酸および/またはその塩、不飽和脂肪酸および/またはその塩が挙げられる。前記飽和脂肪酸および/またはその塩が好ましく、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。前記不飽和脂肪酸および/またはその塩としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸もしくはアラキドン酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
【0053】
前記芳香族カルボン酸および/またはその塩としては、特に、安息香酸、ブチル安息香酸、アニス酸(メトキシ安息香酸)、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、アセトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、フランカルボン酸もしくはテノイル酸、または、これらのカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩が好ましい。
【0054】
前記(f)カルボン酸および/またはその塩の含有量は、例えば、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であって、40質量部以下が好ましく、より好ましくは35質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。(f)カルボン酸および/またはその塩の含有量が0.5質量部以上であれば、球状コアの外剛内柔度合が大きくなり、40質量部以下であれば、コア硬度の低下が抑制される。
【0055】
前記ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。また、ゴム組成物は、ゴルフボールのコアや、コア作製時に発生した端材を粉砕したゴム粉末を含有してもよい。
【0056】
ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。
【0057】
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。
【0058】
前記老化防止剤の含有量は、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)ポリブタジエン100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
【0059】
(カバー)
前記カバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成される。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱ケミカル(株)から商品名「テファブロック」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
【0060】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3~8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2~8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン-(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
【0061】
前記カバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0062】
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、包囲層の性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0063】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
【0064】
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で50以上が好ましく、55以上がより好ましく、60以上がさらに好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましく、68以下がさらに好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットおよびアイアンショットにおいて、高打出角で低スピンのゴルフボールが得られ、飛距離が向上する。また、カバー用組成物のスラブ硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、50未満が好ましく、20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で50未満であれば、アプローチショットのスピン量が高くなり、グリーン上で止まりやすいゴルフボールが得られる。また、スラブ硬度を20以上とすることにより、耐擦過傷性が向上する。複数のカバー層の場合は、各層を構成するカバー用組成物のスラブ硬度は、同一あるいは異なっても良い。
【0065】
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上である。カバーの厚みが0.3mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。複数のカバー層の場合は、複数のカバー層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0066】
(ゴルフボールの構造)
本開示のゴルフボールの構造は、球状コアと、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有するものであれば、特に限定されない。
図1は、本開示の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3とを有する。このカバーの表面には、多数のディンプル31が形成されている。このゴルフボール1の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。このゴルフボール1は、カバー3の外側にペイント層およびマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0067】
前記コアの形状は、球状である。また、前記球状コアの構造は、単層構造であっても多層構造であっても良い。また、カバーは、一層以上の構造であればよく、単層構造、あるいは、二層以上の多層構造を有していてもよい。本開示のゴルフボールとしては、例えば、球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された単層のカバーとからなるツーピースゴルフボール;球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された二層以上のカバーを有するマルチピースゴルフボール(スリーピースゴルフボールを含む)などが挙げられる。
【0068】
前記ゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、本開示のゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0069】
前記ゴルフボールは、直径40mm~45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.3mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上であり、4.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは4.3mm以下、さらに好ましくは4.0mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.5mm以下にすることにより、反発が低下しすぎることがない。
【0070】
[ゴルフボールの製造方法]
本開示のゴルフボールを製造する方法としては、ゴム組成物を調製する第1工程、前記ゴム組成物を用いて球状コアを作製する第2工程、および、前記球状コアを被覆する少なくとも1層のカバーを形成する第3工程を有する製造方法が好ましい。
【0071】
前記ゴルフボールの製造方法としては、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を混合、混練してゴム組成物を調製する第1工程;キャビティを有する上下型内に前記ゴム組成物を投入し、周波数が2.4GHz~2.5GHzの電波を照射することで加熱し、球状コアを形成する第2工程;前記球状コアを被覆する少なくとも1層のカバーを形成する第3工程を有することが好ましい。
【0072】
(第1工程)
前記第1工程では、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤、および、必要に応じてその他の添加剤などを混合して、混練することによりゴム組成物を調製する。混練の方法は、特に限定されず、例えば、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。ここで、ゴム組成物に、カーボンブラック、テトラポッド型酸化亜鉛結晶体等を配合することで、後述する第2工程における電波照射時の加熱効率を高めることができる。
【0073】
(第2工程)
前記第2工程では、第1工程で調製したゴム組成物を用いて、球状コアを作製する。球状コアは、キャビティを有する上下型内にゴム組成物を投入し、加熱することで作製できる。前記球状コアは、キャビティを有する上下型内にゴム組成物を投入し、周波数が2.4GHz~2.5GHzの電波を照射し、ゴム組成物を加熱することが好ましい。
【0074】
前記ゴム組成物は(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤を含有しており、これらの成分によって、ゴム組成物は誘電損失の大きな誘電体となるため、電波によって直接加熱することができる。そして、加熱に電波を用いることで、球状コアの中心から表面の全体を均一に加熱することができる。また、これらの(b)共架橋剤および(c)架橋開始剤は反応進行とともに構造が変化し、電波の吸収性が悪くなるため、過加熱を抑制することができ、また架橋反応の完了を知ることができる。
【0075】
なお、日本で平成27年に出された産業用装置に適用される電波規格J5501(H27)や国際規格で定められている中で、2450MHz(2400MHz~2500MHz)のマイクロ波を用いることが好ましい。2450MHz(2400MHz~2500MHz)のマイクロ波は、波長(自由空間波長)が約12cmとゴルフボールの約3倍であるので、吸収効率と加熱ムラの両面から考察して、最も適した電波と言える。
【0076】
前記上下型の材質としては、テトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂、SiC、フェライト等のセラミックスを上記樹脂にコンパウンドしたもの、石英等が挙げられる。これらの中でも、電波のゴム組成物への照射効率をより高めることができるテトラフルオロエチレン、石英が好ましい。なお、型を形成する材料として、マイクロ波を吸収し発熱する材料を用いることで、型自体も同時に加熱することもできる。
【0077】
前記電波を被加熱物に照射する際の照射位置は、特に限定はない。しかし、装置によって、加熱ムラが生じる場合があるため、均一に加熱ができるように装置内の容積や加熱条件を適切に設計することが好ましい。また、電波を均一に照射するために、被加熱物をターンテーブルで回転させたり、ベルトコンベアで水平移動させたりしてもよい。なお、球状コアに硬度分布を付与するために、電波の照射時に型を加熱、冷却して、球状コアの中心と表面との加熱条件を変化させてもよい。
【0078】
前記電波の出力は、500W以上が好ましく、より好ましくは1000W以上、さらに好ましくは2000W以上であり、10000W以下が好ましく、より好ましくは8000W以下、さらに好ましくは6000W以下である。
【0079】
前記電波の照射時間は、10秒間以上が好ましく、より好ましくは1分間以上、さらに好ましくは5分間以上であり、60分間以下が好ましく、より好ましくは40分間以下、さらに好ましくは20分間以下である。
【0080】
前記電波を用いた加熱におけるゴム組成物の温度は、120℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上であり、250℃以下が好ましい。
【0081】
前記第2工程は、第1の出力を有する電波を照射する第1照射工程と、前記第1の出力とは異なる第2の出力を有する電波を照射する第2照射工程とを有してもよい。
【0082】
(第3工程)
前記第3工程では、前記球状コアを被覆する少なくとも1層のカバーを形成する。前記カバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
【0083】
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、-20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
【0084】
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、9MPa~15MPaの圧力で型締めした金型内に、200℃~250℃に加熱したカバー用組成物を0.5秒~5秒で注入し、10秒~60秒間冷却して型開きすることにより行う。
【0085】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0086】
前記カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
【実施例0087】
以下、本開示を実施例によって詳細に説明するが、本開示は、下記実施例によって限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本開示の範囲内に含まれる。
【0088】
[評価方法]
(1)圧縮変形量(mm)
球状コアに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向に球状コアが縮む量)を測定した。
【0089】
(2)反発係数
各球状コアに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物および球状コアの速度を測定し、それぞれの速度および質量から各球状コアの反発係数を算出した。測定は各球状コアについて12個ずつ行って、その平均値を各球状コアの反発係数とした。
【0090】
(3)FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)測定
コンターマシン(アンドソー社製、「TA-300」)を用いて、球状コアの2点のポール(極点)を含む平面(以下、「ポール平面」という場合がある)が厚み方向の中心になるように、球状コアから厚み5mmの円板状の測定サンプルを切り出した。切り出した円板状測定サンプルの表面を紙やすり(240番前後)でけずり、平面研削盤(岡本工作機械製作所社製)で厚みを4mmにした。得られた厚み4mmの円板状測定サンプルの内側断面(ポール平面側)の外周端縁部(球状コア表面)、中心から径方向に10.0mmの地点、中心から径方向に5.0mm地点、中心部分(球状コア中心)をそれぞれFT-IRで測定した。なお、外周端縁部は、測定可能な限り、外周に近い端縁部分である。FT-IRの測定は、赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、AutoIMAGE FT-IR)にて、マクロATR法(ダイヤモンドプリズム、観測径約1mm)により、分解能:4cm-1、積算回数:4回の条件で行った。球状コアから作製した厚み4mmの円板状測定サンプルについてFT-IR測定を行い、平均化処理して、それぞれ球状コアのスペクトルを得た。
スペクトルは、737cm-1(AλC)、827cm-1(AλX)、911cm-1(AλV)、967cm-1(AλT)の吸光度(ピーク強度)を測定した。
また、ミクロ構造の定量はMORERO法の換算式を用いて、下式によりcis-1,4結合、trans-1,4結合、vinyl(1,2)結合の含有量を算出した。
まず、次式よりC、T、Vを求めた。
C=(0.17455AλC-0.00151AλV)
T=(0.04292AλT-0.00129AλV-0.00454AλC)
V=(0.03746AλV-0.0007AλC)
次に、次式より固形ゴム中のシス体、トランス体、ビニル体の含有率(%)を求めた。
cis-1,4(質量%)={C/(C+T+V)}×100
trans-1,4(質量%)={T/(C+T+V)}×100
vinyl(1,2)(質量%)={V/(C+T+V)}×100
【0091】
(4)打球感
アマチュアゴルファー10人により、ドライバーを用いた実打テストを行って、各人の打撃時のフィーリングを下記基準で評価させた。10人の評価のうち、最も多い評価をそのゴルフボールの打球感とした。
評価基準
◎:衝撃が少なくてフィーリングが良い。
〇:衝撃があるがフィーリングが良い方である。
△:普通。
×:衝撃が大きくてフィーリングが悪い。
【0092】
[ゴルフボールの作製]
1.マイクロ波照射による製造
表1に示す配合のゴム組成物を調製し、押出機で押出し、プラグを作製した。このプラグを、半球状キャビティを有する上下型(テトラフルオロエチレン製)に投入し、表1に示した照射条件で電波を照射し、球状コアを得た。電波は、マイクロ波加熱装置(ミクロ電子株式会社社製「MBH-120」、周波数2.45GHz、最大出力12000W)を用いて照射した。電波照射時のゴム組成物の温度は140℃~250℃であった。得られた球状コアを評価し、結果を表2に示した。
【0093】
【表1】
ポリブタジエン:JSR社製、「BR730、ハイシスポリブタジエンゴム(シス-1,4-結合含有量=95質量%、1,2-ビニル結合含有量=1.3質量%)」
ZDA:日触テクノファインケミカル社製、「ZN-DA90S」(アクリル酸亜鉛)
DCP:日油社製、「パークミル(登録商標)D(ジクミルパーオキサイド)」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
【0094】
【0095】
2.加熱プレスによる製造
表3に示す配合のゴム組成物を調製し、押出機で押出し、プラグを作製した。このプラグを、半球状キャビティを有する上下金型に投入し、表3に示した条件で加熱プレスし、球状コアを得た。得られた球状コアを評価し、結果を表4に示した。
【0096】
【表3】
ポリブタジエン:JSR社製、「BR730、ハイシスポリブタジエンゴム(シス-1,4-結合含有量=95質量%、1,2-ビニル結合含有量=1.3質量%)」
ZDA:日触テクノファインケミカル社製、「ZN-DA90S」(アクリル酸亜鉛)
DCP:日油社製、「パークミル(登録商標)D(ジクミルパーオキサイド)」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
PBDS:ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
【0097】
【0098】
ゴルフボールNo.1~5は、前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、比{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}が式(1)の関係を満足する。これらのゴルフボールは、電波(マイクロ波)照射によりコアが製造されているため、製造が容易であり、かつ、反発性が抑制され、基材ゴムと共架橋剤がコア表面から中心にかけて均一に反応が進むため表面から中心における架橋度合いが均一になっており、良好なフィーリングが得られる。
【0099】
本開示(1)は、球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、前記球状コアが、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を含有するゴム組成物から形成されたものであり、前記球状コアをフーリエ変換赤外分光光度計で測定した吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度が式(1)の関係を満足することを特徴とするゴルフボールである。
0.30≦{(Abo/Aao)/(Abs/Aas)}≦1.00 …(1)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aas:球状コアの表面における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Abs:球状コアの表面における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【0100】
本開示(2)は、前記吸光度スペクトルにおいて、(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度と、(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度とが式(2)の関係を満足する、本開示(1)に記載のゴルフボールである。
0.70≦{(Abo/Aao)/(Ab5/Aa5)}≦0.98 …(2)
[Aao:球状コアの中心における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Aa5:中心から5mmの地点における(a)ポリブタジエンが有するビニル基に由来するピーク強度。
Abo:球状コアの中心における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。
Ab5:中心から5mmの地点における(b)共架橋剤が有する炭素-炭素不飽和結合に由来するピーク強度。]
【0101】
本開示(3)は、前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から10mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T10)との比(Tо/T10)が1.2~5.0である、本開示(1)または(2)に記載のゴルフボールである。
【0102】
本開示(4)は、前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との比(Tо/Ts)が1.05~5.0である、本開示(1)~(3)のいずれかに記載のゴルフボールである。
【0103】
本開示(5)は、前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの中心から5mmの地点におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(T10)との比(Tо/T5)が1.0~5.0である、本開示(1)~(4)のいずれかに記載のゴルフボールである。
【0104】
本開示(6)は、前記比(Tо/T10)と前記比(Tо/T5)との積((Tо/T10)×(Tо/T5))が1.2~10.0である、本開示(1)~(5)のいずれかに記載のゴルフボールである。
【0105】
本開示(7)は、前記比(Tо/Ts)、前記比(Tо/T10)および前記比(Tо/T5)の積{(Tо/Ts)×(Tо/T10)×(Tо/T5)}が1.3~30.0である、本開示(1)~(6)のいずれかに記載のゴルフボールである。
【0106】
本開示(8)は、前記球状コアの中心におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Tо)と、前記球状コアの表面におけるポリブタジエン中のトランス体の含有率(Ts)との絶対値(|Tо―Ts|)が1.6~30.0である、本開示(1)~(7)のいずれかに記載のゴルフボールである。
【0107】
本開示(9)は、(a)ポリブタジエン、(b)共架橋剤、(c)架橋開始剤を混合、混練してゴム組成物を調製する第1工程、キャビティを有する上下型内に前記ゴム組成物を投入し、周波数が2.4GHz~2.5GHzの電波を照射することで加熱し、球状コアを形成する第2工程、前記球状コアを被覆する少なくとも1層のカバーを形成する第3工程を有することを特徴とするゴルフボールの製造方法である。
【0108】
本開示(10)は、前記電波の出力が、500W~10000Wである、本開示(9)に記載のゴルフボールの製造方法である。
【0109】
本開示(11)は、前記電波の照射時間が、10秒間~60分間である、本開示(9)または(10)のいずれかに記載のゴルフボールの製造方法である。
【0110】
本開示(12)は、前記電波を用いた加熱における前記ゴム組成物の温度が、120℃~250℃である、本開示(9)~(11)のいずれかに記載のゴルフボールの製造方法である。
【0111】
本開示(13)は、前記第2工程が、第1の出力を有する電波を照射する第1照射工程と、前記第1の出力とは異なる第2の出力を有する電波を照射する第2照射工程とを有する、本開示(9)~(12)のいずれかに記載のゴルフボールの製造方法である。