(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008442
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】合金粉末製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/10 20060101AFI20230112BHJP
B22F 9/02 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
B22F9/10
B22F9/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112002
(22)【出願日】2021-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)新エネルギー・産業技術総合開発機構の助成事業「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」、研究課題「次世代自動車用高効率リアクトルの開発」成果に係る特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】今野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】久野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB05
4K017BB13
4K017BB14
4K017CA01
4K017CA07
4K017DA02
4K017DA05
4K017ED06
4K017FA21
4K017FA24
(57)【要約】
【課題】水アトマイズ法やガスアトマイズ法に代わる新たな合金粉末の製造方法を考え、それに適した合金粉末製造装置を提供すること。
【解決手段】合金粉末製造装置10において、ノズル30は、基部12上に冷却水などの冷却液からなる高圧で供給して矢印A方向に高速で流れる冷却液からなる高速流体で、所定厚みPTを有する液膜50を基部12上に形成する。この際、液膜50には矢印Bに沿った方向に沿った所定加速度がかかるようにする。合金供給部40は、所定厚みPT以下のサイズに分断させることなく液膜50に対して合金溶湯60を供給する。合金溶湯60が液膜50に供給されると、高速流体からなる液膜50により合金溶湯60が所定厚みPT以下のサイズに分断され合金粉末が形成されると共に、所定加速度を利用して合金粉末を液膜50内において高速流体に接触させ続けて冷却する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
所定厚みを有する液膜であって厚み方向に沿った所定加速度がかかる液膜を形成するために、前記基部上に冷却液からなる高速流体を供給するノズルと、
前記所定厚み以下のサイズに分断させることなく前記液膜に対して合金溶湯を供給する少なくとも一つの合金供給部と
を備え、
前記高速流体により前記合金溶湯を前記所定厚み以下のサイズに分断して合金粉末を形成すると共に、前記所定加速度を利用して前記合金粉末を前記液膜内において前記高速流体に接触させ続けて冷却する
合金粉末製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の合金粉末製造装置であって、
前記基部は、少なくとも部分的に曲率を有するドラムの内壁であり、
前記所定加速度は、前記ドラムの前記内壁の前記曲率を利用して発生させた前記ドラム内壁に向かう遠心加速度である
合金粉末製造装置。
【請求項3】
請求項2記載の合金粉末製造装置であって、
前記曲率は100mm以下であり、
前記合金供給部は、前記曲率を有する部分よりも上流側において前記高速流体に対して前記合金溶湯を供給する
合金粉末製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの内径は、10mm以上100mm以下である
合金粉末製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの内径は、20mm以上60mm以下である
合金粉末製造装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの出口に設けられた出口蓋を更に備えており、
前記出口蓋には、前記ドラムの内径よりも小さい内径の開口が設けられている
合金粉末製造装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
少なくとも前記ドラムの出口付近を囲い、前記ドラムから排出される合金粉末を受け止める飛散防止部を更に備えている
合金粉末製造装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記ノズルから供給される前記冷却液の初速は80m/s以上であり、
前記所定加速度は、2.0×104G以上1.0×107G以下であり、
前記所定厚みは、0.1mm以上である
合金粉末製造装置。
【請求項9】
請求項8記載の合金粉末製造装置であって、
前記冷却液の初速は、100m/s以上である
合金粉末製造装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9記載の合金粉末製造装置であって、
前記所定加速度は、3.0×104G以上である
合金粉末製造装置。
【請求項11】
請求項8から請求項10までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記所定厚みは、0.8mm以上である
合金粉末製造装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部は、前記液膜に対して10°以上90°以下の角度をなしつつ前記合金溶湯を供給するように、配置されている
合金粉末製造装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部は、前記液膜上における直径15mm以下の所定領域のみに前記合金溶湯を供給するように、配置されている
合金粉末製造装置。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部から前記液膜までの最長距離は300mm以下である
合金粉末製造装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれかに記載の合金粉末製造装置であって、
前記少なくとも一つの合金供給部は、複数の合金供給部を備える
合金粉末製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金粉末を製造する合金粉末製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、合金粉末の製造方法としては、水アトマイズ法やガスアトマイズ法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって得られる合金粉末は、質的にバラつきのあることが多い。
【0005】
そこで、本発明は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法に代わる新たな合金粉末の製造方法を考え、それに適した合金粉末製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来の急冷タイプのアトマイズ法では、合金溶湯をガスや水などで分断して粉末化した後に冷却水などの冷却液にて急冷していたが、分断された粉末粒の大きさによる冷却速度の違いや粉末粒ごとの落下点や落下速度が異なることから、粉末粒間で冷却水に達するまでに空気中で冷やされる時間に差が生じ、質のバラつきが生じていた。
それに対して、合金溶湯が冷えないようにある程度の塊、湯流れのまま冷却液からなる液膜に供給し、液膜にて溶湯合金を分断して粉末化すると共に粉末粒の冷却を行う、即ち、溶湯合金の分断と冷却を実質的に同時に行うこととすれば、粉末粒間で冷却の程度に差が生じることを抑制することができ、均質な粉末粒を得ることができる。
本発明の合金粉末製造装置は、上述した製造方法を前提としたものであり、具体的には、以下に掲げる構成を備えている。
【0007】
本発明は、第1の合金粉末製造装置として、
基部と、
所定厚みを有する液膜であって厚み方向に沿った所定加速度がかかる液膜を形成するために、前記基部上に冷却液からなる高速流体を供給するノズルと、
前記所定厚み以下のサイズに分断させることなく前記液膜に対して合金溶湯を供給する少なくとも一つの合金供給部と
を備え、
前記高速流体により前記合金溶湯を前記所定厚み以下のサイズに分断して合金粉末を形成すると共に、前記所定加速度を利用して前記合金粉末を前記液膜内において前記高速流体に接触させ続けて冷却する
合金粉末製造装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、第2の合金粉末製造装置として、第1の合金粉末製造装置であって、
前記基部は、少なくとも部分的に曲率を有するドラムの内壁であり、
前記所定加速度は、前記ドラムの前記内壁の前記曲率を利用して発生させた前記ドラム内壁に向かう遠心加速度である
合金粉末製造装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、第3の合金粉末製造装置として、第2の合金粉末製造装置であって、
前記曲率は100mm以下であり、
前記合金供給部は、前記曲率を有する部分よりも上流側において前記高速流体に対して前記合金溶湯を供給する
合金粉末製造装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、第4の合金粉末製造装置として、第3の合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの内径は、10mm以上100mm以下である
合金粉末製造装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、第5の合金粉末製造装置として、第4の合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの内径は、20mm以上60mm以下である
合金粉末製造装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、第6の合金粉末製造装置として、第3から第5のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記ドラムの出口に設けられた出口蓋を更に備えており、
前記出口蓋には、前記ドラムの内径よりも小さい内径の開口が設けられている
合金粉末製造装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、第7の合金粉末製造装置として、第2から第6のいずれかの合金粉末製造装置であって、
少なくとも前記ドラムの出口付近を囲い、前記ドラムから排出される合金粉末を受け止める飛散防止部を更に備えている
合金粉末製造装置を提供する。
【0014】
また、本発明は、第8の合金粉末製造装置として、第1から第7のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記ノズルから供給される前記冷却液の初速は80m/s以上であり、
前記所定加速度は、2.0×104G以上1.0×107G以下であり、
前記所定厚みは、0.1mm以上である
合金粉末製造装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、第9の合金粉末製造装置として、第8の合金粉末製造装置であって、
前記冷却液の初速は、100m/s以上である
合金粉末製造装置を提供する。
【0016】
また、本発明は、第10の合金粉末製造装置として、第8又は第9の合金粉末製造装置であって、
前記所定加速度は、3.0×104G以上である
合金粉末製造装置を提供する。
【0017】
また、本発明は、第11の合金粉末製造装置として、第8から第10のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記所定厚みは、0.8mm以上である
合金粉末製造装置を提供する。
【0018】
また、本発明は、第12の合金粉末製造装置として、第1から第11のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部は、前記液膜に対して10°以上90°以下の角度をなしつつ前記合金溶湯を供給するように、配置されている
合金粉末製造装置を提供する。
【0019】
また、本発明は、第13の合金粉末製造装置として、第1から第12のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部は、前記液膜上における直径15mm以下の所定領域のみに前記合金溶湯を供給するように、配置されている
合金粉末製造装置を提供する。
【0020】
また、本発明は、第14の合金粉末製造装置として、第1から第13のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記合金供給部から前記液膜までの最長距離は300mm以下である
合金粉末製造装置を提供する。
【0021】
また、本発明は、第15の合金粉末製造装置として、第1から第14のいずれかの合金粉末製造装置であって、
前記少なくとも一つの合金供給部は、複数の合金供給部を備える
合金粉末製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の合金粉末製造装置を用いれば、均質な合金粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図4】本発明の第4の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図5】本発明の第5の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図6】
図5の合金粉末製造装置の変形例を示す図である。
【
図7】
図5の合金粉末製造装置の他の変形例を示す図である。
【
図8】本発明の第6の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図9】本発明の第7の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図10】本発明の第8の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【
図11】本発明の第9の実施の形態による合金粉末製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施の形態)
図1を参照すると、本発明の第1の実施の形態による合金粉末製造装置10は、基部12と、ノズル30と、合金供給部40とを備えている。
【0025】
ノズル30は、基部12上に冷却水などの冷却液からなる高圧で供給して矢印A方向に高速で流れる冷却液からなる高速流体で、所定厚みPTを有する液膜50を基部12上に形成するためのものである。この際、液膜50には矢印Bに沿った方向(即ち、液膜20の厚み方向)に沿った所定加速度がかかるようにする。
【0026】
合金供給部40は、所定厚みPT以下のサイズに分断させることなく液膜50に対して合金溶湯60を供給するためのものである。即ち、本実施の形態においては、従来の急冷タイプのアトマイズ法のように合金溶湯を分断して粉末にしてから液膜で急冷するのではなく、ある程度の塊のまま合金溶湯60を液膜50に供給する。
【0027】
このようにある程度の塊のまま合金溶湯60を液膜50に供給すると、高速流体からなる液膜50により合金溶湯60が所定厚みPT以下のサイズに分断され合金粉末が形成される。合金粉末と液膜50が接触すると、それにより合金粉末が冷却される一方で瞬間的には合金粉末の周囲の冷却液が蒸発する。ここで、本実施の形態の液膜50は所定加速度を有している。そのため、合金粉末の周囲の冷却液が蒸発しても合金粉末は高速流体の冷却液に押し付けられ接触し続けることとなる。このように、合金粉末製造装置10においては、所定加速度を利用して合金粉末を液膜50内において高速流体に接触させ続けて冷却する。
【0028】
従来の急冷タイプのアトマイズ法の場合、設備が大型化しやすく、高圧ガス設備やガス費用などが別途必要となるというコスト面の問題に加え、分断してから液膜に達する前に少なからず冷却されてしまうことから、液膜に達した後の冷却速度が低下してしまうという問題がある。これに対して、本実施の形態による合金粉末製造装置10では、溶湯合金60の分断と冷却を液膜50内において実質的に同時に行うこととし、粉末粒間で冷却の程度に差が生じることを抑制していることから、粉末粒の均質化を実現することができる。
【0029】
更に、液膜50にて分断された粉末粒が適切に冷却されないと、凝固が完了する前に液膜50の底を構成する基部12に衝突し、それによって粉末粒が異形状になる可能性がある。これを避けるため、本実施の形態においては、液膜50の厚み方向(矢印Bに沿った方向)における所定加速度を2.0×104G以上とし且つ液膜50の所定厚みPTを0.1mm以上としている。所定加速度が2.0×104G以上であると十分な冷却能力が得られる。また、液膜50の所定厚みPTを0.1mm以上とすることで、分断された溶滴が凝固する前に基部12へ衝突し、異形状粉末が増加することを抑制することができる。このようにして、本実施の形態においては、液膜50の底を構成する基部12に達する前に球状又はほぼ球状の粉末粒を凝固させることとしている。これにより、形状面においてもある程度の均一な粉末粒を得ることができる。このような本実施の形態による合金粉末の製造方法は、特に軟磁性粉末を製造するのに適している。
【0030】
合金供給部40から液膜50までの最長距離は300mm以下であることが好ましい。詳しくは、合金供給部40における合金溶湯を液膜へ供給する供給口から液膜50までの最長距離は300mm以下であることが好ましい。合金供給部40から液膜50までの距離が遠すぎると、液膜50に達するまでの間に冷却が進んでしまい液膜50において合金を急冷する効果が小さくなることに加え、液膜50に達した時点の合金溶湯の速度が速くなり、液膜50による分断が適切に行えなくなる可能性があるからである。
【0031】
所定加速度を液膜50内に生じさせるためには、例えば、基部12を少なくとも部分的に曲率を有するドラムの内壁で構成することとしてもよい。そのような基部12上にノズル30から冷却液を供給し続けると、少なくとも曲率を有する部分において基部の厚み方向に向かう(即ち、ドラムの内壁に向かう)遠心加速度が生じる。これを所定加速度として利用する。ドラムの内壁の少なくとも一部の曲率は、所望とする所定加速度を得るため、100mm以下とすることが好ましい。なお、遠心加速度を所定加速度として利用する場合、合金供給部40は、ドラムの内壁のうちの曲率を有する部分(即ち、遠心加速度が生じる部分)よりも上流側において高速流体に対して合金溶湯60を供給する。このように、遠心加速度を所定加速度として利用することで、簡易な装置構成で効率的に合金粉末を連続冷却できる。
【0032】
好ましくは、ノズル30から供給される冷却液の初速は、80m/s以上であり、所定加速度は、1.0×107G以下である。冷却液の初速が80m/sに満たないと、合金溶湯を分断する能力が乏しい。その結果、液膜50において分断された溶滴が大きくなり、冷却途中に変形する頻度が増えるため、引き伸ばされた粗大粉末が増加する。即ち、異形状粉末になりやすい。これに対して、冷却液の初速が80m/s以上であると、十分な分断能力が得られるため、ほぼ球状又は球状の粉末を得ることができる。
【0033】
更に、ノズル30から供給される冷却液の初速が100m/s以上であると、粉末の微細化が進み、非晶質性と磁気特性が向上する。従って、冷却液の初速は、100m/s以上であることが更に好ましい。但し、ノズル30から供給される冷却液の初速が800m/sを超えると、粉末自体は微細なものとなる一方、形状的には糸状のものが増加する。従って、冷却液の初速は、800m/s以下であることが更に好ましい。
【0034】
液膜50における所定加速度は、3.0×104G以上であることが更に好ましい。所定加速度を高くすると、冷却能力の向上を図ることができる。高い冷却能力を実現できると、組成的には非晶質形成能の低い合金なども非晶質化することができるという利点がある。
【0035】
好ましくは、所定厚みPTは、0.8mm以上である。液膜50の厚みが0.8mm以上であると、分断された溶滴の液膜50中での分散領域が広がるため、分断された溶滴同士が衝突して異形状となるのを防ぐことができる。。
【0036】
合金溶湯60を液膜50に対して供給する際には、液膜50上における直径15mm以下の所定領域のみに供給することが好ましい。換言すると、液膜50上における直径15mm以下の所定領域のみに合金溶湯60を供給するように、合金供給部40が配置されていることが好ましい。このように、所定領域以下に合金溶湯60を供給することで、合金粉末の品質の安定化が可能になり、また、液膜50を形成するために用いられる基部12を有する構造体の小型化が可能になる。所定領域は、直径10mm以下であることが更に好ましい。
【0037】
(第2の実施の形態)
図2を参照すると、本発明の第2の実施の形態による合金粉末製造装置10aは、ドラム20aと、ノズル30と、合金供給部40とを備えている。なお、第1の実施の形態の合金粉末製造装置10と同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0038】
ドラム20aは、合金溶湯60が供給される入り口の開口とノズル30の設けられているところを除き、円筒形状を有している。即ち、ドラム20aの内壁22はドラム20aの内径に応じた曲率を有している。このようなドラム20aの内壁22を上述した第1の実施の形態における基部12として機能させるように、ノズル30から冷却液を供給してドラム20aの内壁22上に所定厚みPTを有する液膜50を形成すると、液膜50にはドラム20aの内壁22に向かう遠心加速度が生じる。詳しくは、ノズル30からドラム20aの内壁22上に供給された冷却液からなる液膜50は、ドラム20aの出口に向かって高速で旋回しながら流下していく。これにより、液膜50は、厚み方向に沿った遠心加速度が生じる。本実施の形態においては、この遠心加速度を第1の実施の形態で述べた所定加速度として利用する。これにより、本実施の形態においては、簡易な装置構成で効率的に合金粉末を連続冷却できる。
【0039】
合金供給部40から供給される合金溶湯60は自重によりドラム20a内に落ちてくる。従って、ドラム20aの傾きを変えることで、液膜50に対する合金溶湯60の供給の角度を調整することができる。
【0040】
ここで、ドラム20aの内径は、10mm以上100mm以下であることが好ましく、20mm以上60mm以下であることが更に好ましい。ドラム20aの内径を小さくすると、遠心加速度が大きくなることから製造される合金粉末の非晶質性が改善される。具体的には、ドラム20aの内径を100mm以下にすることでその効果が大きくなり、Fe量が80at%以上の組成でも非晶質性の良好な粉末を得ることができる。ドラム20aの内径を60mm以下にすると、製造される合金粉末の非晶質性が更に向上する。一方、ドラム20aの内径は小さくするほど、非晶質性の改善効果は大きくなるが、実用上10mm未満では合金溶湯の供給が難しい。従って、ドラム20aの内径は10mm以上が好ましく、液膜20に対して合金溶湯をより安定的に供給するためにはドラム20aの内径は20mm以上が好ましい。
【0041】
液膜50に対する合金溶湯60の供給の際には、角度をつけた方が安定的に行うことができる。また、液膜50に対する合金溶湯60の供給角度を大きくすることで合金粉末の微細化が可能になる。このような観点から液膜50に対して10°以上90°以下の角度をなすように、合金溶湯60を供給することが好ましい。換言すると、合金供給部40は、液膜50に対して10°以上90°以下の角度をなしつつ合金溶湯60を供給するように、配置されていることが好ましい。
【0042】
ドラム20aと合金供給部40との関係について、ドラム20aの入り口の短径をRminとし、合金供給部40からドラム20aの入り口までの距離をDとしたとき(RminとDの単位はいずれも「mm」)、Rminに対するDの割合(D/Rmin)は50以下であることが好ましい。即ち、合金供給部40における合金溶湯を供給する供給口から合金溶湯60が供給される入り口までの距離D(mm)/合金溶湯60が供給される入り口の短径Rmin(mm)は50以下であることが好ましい。合金供給部40から合金溶湯60が供給される入り口(ドラム20aの入り口)までの距離が長すぎると、空気抵抗や環境の影響により、供給される合金溶湯60が真っ直ぐ供給されずにブレたり、広がったりする虞があるためである。
【0043】
ノズル30と合金供給部40との関係について、ノズル30から供給される冷却液の水量をAwとし、合金供給部40からの合金溶湯60の供給量をAmとしたとき(AwとAmの単位はいずれも「kg/分」)、Awに対するAmの割合(Am/Aw)は1/15以下であることが好ましい。合金溶湯の供給量が冷却液の供給量に比べて多すぎると、分断および冷却が充分に行われなくなる可能性があるためである。
【0044】
(第3の実施の形態)
図2及び
図3を参照すると、本発明の第3の実施の形態による合金粉末製造装置10bは、上述した第2の実施の形態による合金粉末製造装置10aの変形例である。そのため、第2の実施の形態の合金粉末製造装置10aと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0045】
本実施の形態による合金粉末製造装置10bは、ドラム20bの出口に設けられた出口蓋24を更に備えている。この出口蓋24には、ドラム20bの内径よりも小さい内径の開口が設けられている。つまり、出口蓋24は、ドラム20bの出口を絞る機能を有している。これにより、液膜50の膜厚を厚くすることができる。
【0046】
(第4の実施の形態)
図3及び
図4を参照すると、本発明の第4の実施の形態による合金粉末製造装置10cは、上述した第3の実施の形態による合金粉末製造装置10bの変形例である。そのため、第2の実施の形態の合金粉末製造装置10aや第3の実施の形態の合金粉末製造装置10bと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0047】
本実施の形態による合金粉末製造装置10cは、ドラム20bの周囲を覆う筒状体の飛散防止部35を更に備えている。上述したように、本実施の形態において液膜50は、ドラム20bの内壁22に沿って高速に旋回する冷却液にて構成される。そのため、ドラム20bの出口から放出される冷却液は勢いがあり、それによって移動させられる合金粉末も飛散しやすい。これに対して、本実施の形態による合金粉末製造装置10cは、飛散防止部35を備えていることから、排出された合金粉末を回収しやすい。
【0048】
本実施の形態の飛散防止部35は、筒状体で構成されているが、合金粉末の回収を容易にするという目的を達成できるのであれば、形状・構造は問わない。また、当該目的を達成するためには、少なくともドラム20bの出口付近を囲っているべきであるが、出口付近以外の部分を囲っていなくてもよい。
【0049】
なお、本実施の形態による合金粉末製造装置10cは、上述した第3の実施の形態による合金粉末製造装置10bに対して飛散防止部35を追加したものであったが、第2の実施の形態による合金粉末製造装置10aに対して飛散防止部35を追加することとしてもよい。
【0050】
(第5の実施の形態)
図5を参照すると、本発明の第5の実施の形態による合金粉末製造装置10dは、上述した第2の実施の形態による合金粉末製造装置10aなどの変形例である。そのため、第2の実施の形態の合金粉末製造装置10aと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0051】
本実施の形態による合金粉末製造装置10dは、ドラム20dを横置きにしたものであり、内壁22の一部に設けた開口を通じて合金供給部40からの合金溶湯60を液膜50に供給するものである。本実施の形態においては、所定加速度は重力のみとなるが、他の手段を用いて加速度を増加させることとしてもよい。
【0052】
合金粉末製造装置10dのドラム20dの断面形状については、特に限定はしない。例えば、
図6に示される合金粉末製造装置10eのドラム20eのように断面形状は長方形であってもよいし、
図7に示される合金粉末製造装置10fのドラム20fのように断面形状は円形であってもよい。
【0053】
(第6の実施の形態)
図5及び
図8を参照すると、本発明の第6の実施の形態による合金粉末製造装置10gは、上述した第5の実施の形態による合金粉末製造装置10dの変形例である。そのため、第5の実施の形態の合金粉末製造装置10dと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0054】
本実施の形態による合金粉末製造装置10gは、2つの合金供給部40を備えており、液膜50に対して2か所で合金溶湯60を供給している。このように、合金粉末製造装置は、複数の合金供給部40を備えていてもよい。
【0055】
なお、本実施の形態による合金粉末製造装置10gは、上述した第5の実施の形態による合金粉末製造装置10dに対して合金供給部40を更に1つ追加したものであったが、第2~第4の実施の形態による合金粉末製造装置10a~10cに対して1つ以上の合金供給部40を更に追加することとしてもよい。
【0056】
(第7の実施の形態)
図2,
図5及び
図9を参照すると、本発明の第7の実施の形態による合金粉末製造装置10hは、上述した第2の実施の形態による合金粉末製造装置10a及び第5の実施の形態による合金粉末製造装置10dの変形例である。そのため、第2の実施の形態の合金粉末製造装置10a及び第5の実施の形態の合金粉末製造装置10dと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0057】
本実施の形態による合金粉末製造装置10hは、略円筒形状のドラム20hを横置きにし、その内壁22上にノズル30から冷却液を供給して液膜50を形成するものである。本実施の形態においては、所定加速度は、主として、ドラム30からの冷却液の供給により液膜50に生じた遠心加速度となる。合金供給部40からの合金溶湯60は、ドラム20hの内壁22の一部に設けた開口を通じて液膜50に供給される。
【0058】
(第8の実施の形態)
図2及び
図10を参照すると、本発明の第8の実施の形態による合金粉末製造装置10iは、上述した第2の実施の形態による合金粉末製造装置10aの変形例である。そのため、第2の実施の形態の合金粉末製造装置10aと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0059】
本実施の形態による合金粉末製造装置10iは、ドラム20iの端部に水平面部を有しており、その水平面部に設けられた開口をドラム20iの入り口としている。即ち、本実施の形態において、ドラム20iの入り口は、ドラム20iの軸方向と直交する面とは無関係である。この場合、合金供給部40からドラム20iの入り口までの距離が明確になるので、ドラム20iの設置場所や傾きによらず、合金溶湯60に環境が与える影響を算出しやすいという利点がある。
【0060】
(第9の実施の形態)
図10及び
図11を参照すると、本発明の第9の実施の形態による合金粉末製造装置10jは、上述した第8の実施の形態による合金粉末製造装置10iの変形例である。そのため、第8の実施の形態の合金粉末製造装置10iと同様の構成については、図面において同様の参照符号を付すこととし、以下においては説明を省略する。
【0061】
図11に示されるように、本実施の形態による合金粉末製造装置10jは、中心軸を含む面で切ったときの内壁22の断面が円弧状である。即ち、ドラム20jは、リング状のパイプの一部のような形状を主として有している。本実施の形態から理解されるように、ドラムの断面形状はある程度自由である。
【0062】
(実施例1~19及び比較例1~4)
上述した本発明の実施の形態による合金粉末製造装置により、下記表1に示されるような複数の条件下で合金粉末の製造し、得られた合金粉末について評価した。
【0063】
【0064】
表1によれば、比較例1のようにドラムの内径が100mmを超えると、粉末粒子の形状は異形状となり、特性も悪かった。また、比較例2や比較例4のように、冷却液の初速が80m/sに満たないと、粉末粒子の形状は異形状となり、特性も悪かった。それに対して、実施例1~実施例19の合金粉末は、粉末粒子の形状が球状又はほぼ球状であり、非晶質性も良好であり、保磁力も小さく、良好な特性を有していた。
【0065】
実施例8~12のように、ドラムの出口内径をドラム内径よりも小さくすると、出口に堰が形成されることとなるため、冷却液の厚みを厚くするような調整が可能となり、それにより、粒径の制御が可能となる。例えば、大粒径の合金粉末を製造したい場合、冷却時間が必要なことから厚い液膜が必要である。そのような場合には、実施例8~12のように、ドラムの出口内径をドラム内径よりも小さくすればよい。
【符号の説明】
【0066】
10,10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h,10i,10j 合金粉末製造装置
12 基部
20a,20b,20d,20e,20f,20h,20i,20j ドラム
22 内壁
24 出口蓋
30 ノズル
35 飛散防止部(飛散防止筒)
40 合金供給部
50 液膜
PT 所定厚み
60 合金溶湯