(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084457
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】真空ポンプ、真空ポンプ構成部品、及び、真空ポンプの製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20230612BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230612BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230612BHJP
【FI】
F04D19/04 F
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198644
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131CA03
(57)【要約】
【課題】各層におけるガス分子の反射精度が高い真空ポンプを提供する。
【解決手段】固定翼と回転翼102とでガスの排気を行う翼排気機構を備え、回転翼102及び固定翼のうちの少なくとも一方が、造形材料を積層して立体造形されており、立体造形により形成された傾斜面の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段である立体造形装置280を用いて作製されている。反射精度向上手段が立体造形の積層方向によるものであって、積層が翼排気機構の径方向に行われている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備え、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方が、造形材料を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記翼排気機構の径方向に積層したことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方の厚み方向に積層したことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記反射精度向上手段が、前記造形材料の積層により生じた段差を平滑化する平滑化処理によるものであることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記立体造形が積層の後に焼結処理を行うものであり、
前記焼結処理の前に前記平滑化処理を実施したことを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備えた真空ポンプを構成する真空ポンプ構成部品であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を備え、
造形材料を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製されていることを特徴とする真空ポンプ構成部品。
【請求項7】
固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備えた真空ポンプの製造方法であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を、立体造形のための造形材料を積層し、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製することを特徴とする真空ポンプの製造方法。
【請求項8】
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記翼排気機構の径方向に積層したことを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項9】
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方の厚み方向に積層したことを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項10】
前記反射精度向上手段が、前記造形材料の積層により生じた段差を平滑化する平滑化処理によるものであることを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプ、真空ポンプ構成部品、及び、真空ポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子(ガス分子)を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【0003】
ターボ分子ポンプの回転翼等の部品には、例えば、以下のような特性が求められる。
(1)回転バランスを得るため、高精度での加工が必要。
(2)高速回転に耐えるため、高い材料強度が必要。
これらの特性が求められる部品を製造する際には、鋳造やプレス成型等の製造方法を採用することは難しいため、製造方法として、削り出しが採用されることが多い。削り出しの際には、円柱状の部材が原材料として用いられ、不要な部分が削り取られる。
【0004】
後掲の特許文献1には、ターボ分子ポンプの部品を、3Dプリンタを用いた製造方法のように生成的な方法で製作することが開示されている(段落0050など)。特許文献1には、生成的な製造方法により、下記の効果が得られると開示されている。
(1)削り出す方法では、出発原料の90%以上が切削されるが(段落0003)、生成的な製造方法によれば、高速かつコスト効率よく部材を製造できる(段落0005)。
(2)アルミニウムとチタンのように、特性が異なる複数の材料を組合わることができる(段落0022)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているように、ターボ分子ポンプの回転翼などの部品を、3Dプリンタ等を用いて製造することには多くの利点がある。
そのため、例えば、PBF(Powder Bed Fusion、粉末床溶融結合)法、BJ(Binder Jetting、結合剤噴射)法、DED(Directed Energy Deposition、指向性エネルギー堆積)法、FDM(Fused Deposition Modeling、熱溶解積層)法などを採用した立体造形装置(3Dプリンタなど)で製造する方法が考案されている。
【0007】
これらの方法を採用した立体造形装置(3Dプリンタなど)においては、積層方向に対して傾斜した面には、階段状の段差が生じる特性がある。このため、例えば、ターボ分子ポンプの回転体を中心軸方向に積層する場合には、回転翼の表面に階段状の段差が生じる課題がある。
【0008】
この段差の大きさは、例えば数十ミクロン程度となる。そのため、一般的なポンプやファンなどでは、この程度の段差は大きな問題にはならない。しかし、ターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、ガス分子を回転翼と固定翼の傾斜面によって狙った方向へ反射することで、排気効果が得られている。このため、僅かであっても、傾斜面に段差が存在すると、ガス分子を狙った方向へ反射できなくなり、排気効果が低下する。
【0009】
本発明の目的とするところは、各層におけるガス分子の反射精度が高い真空ポンプ、真空ポンプ構成部品、及び、真空ポンプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプは、固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備え、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方が、造形材料を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製されていることを特徴とする。
(2)また、本発明に係る真空ポンプ構成部品は、固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備えた真空ポンプを構成する真空ポンプ構成部品であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を備え、
造形材料を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製されていることを特徴とする。
(3)また、本発明に係る真空ポンプの製造方法は、固定翼と回転翼とでガスの排気を行う翼排気機構を備えた真空ポンプの製造方法であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を、立体造形のための造形材料を積層し、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段を用いて作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記発明によれば、各層におけるガス分子の反射精度が高い真空ポンプ、真空ポンプ構成部品、及び、真空ポンプの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプの構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】PBF法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図6】BJ法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図7】DED法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図8】FDM法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図9】(a)は軸方向への積層による回転翼を模式的に示す説明図、(b)は径方向への積層による回転翼を模式的に示す説明図である。
【
図10】(a)は軸方向への積層による回転翼を径方向に見た状態を模式的に示す説明図、(b)は径方向への積層による回転翼を径方向に見た状態を模式的に示す説明図である。
【
図11】傾斜面におけるガス分子の反射を模式的に示す説明図である。
【
図12】(a)は仕上加工を焼結工程の後に行う製造方法を示す説明図、(b)は仕上加工を焼結工程の前に行う製造方法を示す説明図である。
【
図13】厚み方向への積層による回転翼を径方向に見た状態を模式的に示す説明図である。
【
図14】厚み方向への積層による回転翼の製造方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0014】
<ターボ分子ポンプ100の基本構成>
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0015】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0016】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0017】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0018】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0019】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0020】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0021】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0022】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0023】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0024】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0025】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0026】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)が形成された回転体本体103a(
図5~8、
図9(a)、(b)、後述する)の下部には回転体下部円筒部102dが垂下されている。この回転体下部円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0027】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0028】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子(ガス分子)などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0029】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0030】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の回転体下部円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に回転体下部円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0031】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0032】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0033】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0034】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0035】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0036】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0037】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0038】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0039】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0040】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0041】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0042】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0043】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0044】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0045】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0046】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0047】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0048】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0049】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0050】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133が図中の左側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0051】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0052】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部102dやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部に分けて考えることができる。
【0053】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0054】
例えば、図示は省略するが、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガス流路を設ける。そして、このパージガス流路(より具体的にはガスの入り口となるパージポート)に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0055】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0056】
なお、ターボ分子ポンプ100の構造を示す各図(
図1など)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0057】
<立体造形による部品製造>
次に、積層を行う立体造形(積層立体造形)により製造された部品や製造方法について説明する。本実施形態では、回転翼102が、造形の対象となる被造形物であり、回転翼102が、3Dプリンタを用いた立体造形により製造されている。積層による立体造形の方法としては、種々の方法を採用することができる。
【0058】
図5~
図8は、各種の立体造形の方式を回転翼102の製造に用いた例を模式的に示している。以下では、代表的な立体造形方式の基本的事項について説明し、その後に、各方式によって製造が可能な回転翼102の積層構造について説明する。
【0059】
なお、各図において、XYZ軸の直交座標により、方向と向きが示されている。各軸の矢印における矢の向きが正の向き(正方向)を示している。座標における〇印は、紙面の奥から手前へ向かう向きを示しており、〇に×を付加した印は、紙面の手前から奥に向かう向きを示している。
図9~
図11、
図13、
図14の座標における方向と向きは、
図5~
図8の座標を基準にして示されている。
【0060】
<<代表的な立体造形方式>>
図5は、PBF(Powder Bed Fusion、粉末床溶融結合)法による回転翼102の製造方法を示しており、
図6は、BJ(Binder Jetting、結合剤噴射)法による回転翼102の製造方法を示している。
図7は、DED(Directed Energy Deposition、指向性エネルギー堆積)法による回転翼102の製造方法を示しており、
図8は、FDM(Fused Deposition Modeling、熱溶解積層)法による回転翼102の製造方法を示している。
【0061】
<<PBF法>>
PBF法(
図5)は、平坦に敷き詰めた材料粉末228を、ヘッド部220から出力される熱源(レーザや電子ビームなど)により、一層ずつ溶融及び固着しながら積層する。
図5に示すPBF法においては、立体造形装置210の筐体212の中に、材料供給部214、積層部216、余剰材料受入部218、及び、ヘッド部220が備えられている。材料供給部214、積層部216、及び、余剰材料受入部218は、一方向(
図5では左から右、X軸方向)に並んでいる。
【0062】
材料供給部214は、供給エレベータ222やローラ(「リコータ」などともいう)224を備えている。供給エレベータ222は、ねじ部226を用いて上方(
図5中のXYZ座標におけるZ軸の正方向)へ移動し、材料粉末228を全体的に押し上げる。供給エレベータ222の移動量(上昇量)は、例えば、一回の移動につき数十ミクロン程度である。ローラ224は回転し、押し上げられた材料粉末228を掻き取って、積層部216へ移動させる。
【0063】
積層部216は、積層エレベータ230を備えている。積層部216は、ねじ部232を用い、積層エレベータ230の積層テーブル234を、一回の積層毎に所定量ずつ、下方(Z軸の負方向)へ変位させる。積層テーブル234の一回の変位量は、一回の積層における造形厚さ(積層厚さ)に相当する。積層テーブル234が下がる度に発生するスペースに対して、ローラ224により材料粉末228が供給され、材料粉末228が敷き詰められる。
【0064】
図5に示す立体造形装置210においては、熱源としてレーザが用いられている。ヘッド部220は、内蔵した光学系(図示略)を介して、レーザ光源からのレーザ光236の照射を行う。ヘッド部220は、位置決め機構部238により、高速で移動し、位置決めされる。図示は省略するが、位置決め機構部238は、X軸方向及びY軸方向の変位機構を備えている。位置決め機構部238がZ軸の変位機構を備えていてもよい。
【0065】
図5の例では、レーザ光236の照射(レーザ照射)は、真下(Z軸の負方向)の材料粉末228に向けて、所定のビーム径で行われる。レーザ光236の照射により、材料粉末228が溶融し、固化する。レーザ光236の照射形状(レーザ光236の移動軌跡の形状)は、回転翼102の3Dモデルデータをスライスして得られた各層のデータに基づき決定される。一層についてのレーザ照射が完了すると、次の層に係るレーザ照射が行われ、材料粉末228の供給とレーザ照射とが繰り返される。
【0066】
造形中には、造形が行われる領域(造形領域)内に、例えばアルゴン(Ar)などの不活性ガスを充満させて酸素濃度を低下させ、材料粉末228が酸化するのを防止してもよい。ヘッド部220を複数搭載し、生産性の向上を図ってもよい。
【0067】
PBF法に係る主な事項をまとめると、PBF法において、造形材料の供給は、材料粉末228を、積層部216に、全体的に撒くことにより行われる。造形材料の結合は、熱源(レーザや電子ビームなど)を用いた溶接により行われる。PBF法においては、後述するBJ法(
図6)やFDM法(
図8)で行われるような、被造形物の焼結は不要である。
【0068】
<<BJ法>>
BJ法(
図6)は、平坦に敷き詰めた材料粉末228を固化させる点はPBF法と同様であるが、ヘッド部252がインクジェットノズル(図示略)から選択的に液体の結合剤(Binder)254を噴射し、材料粉末228を一層ずつ固形化する。以下では、
図5に示すPBF法と同様な部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0069】
図6に示すBJ法においては、立体造形装置250のヘッド部252が、インクジェットノズル(図示略)を備えている。立体造形装置250のローラ224が、積層テーブル234上に薄く材料粉末228を敷く。続いて、ヘッド部252が、回転翼102の各層のデータに基づき移動しながら、インクジェットノズルから、結合材254を選択的に噴射する。
【0070】
一層の形成が完了すると、積層テーブル234が一段下がり、ローラ224が新しい材料粉末228を敷く。新たに敷かれた材料粉末228の層に、回転翼102の断面形状に従って、結合剤が噴射される。回転翼102の造形が完了するまで、材料粉末228の敷設と各層の形成が繰り返される。
【0071】
造形の完了後には、被造形物が取り出され、被造形物の焼結が行われる。焼結は、結合剤で結合された材料粉末228の機械的特性を向上するために行われる。高温炉で熱を加えられることにより、被造形物中の結合材が焼失するとともに、造形物が幾分収縮し、必要な機械的特性が得られる。
【0072】
BJ法に係る主な事項をまとめると、BJ法において、造形材料の供給は、PBF法(
図5)と同様に、材料粉末228を、積層部216に、全体的に撒くことにより行われる。造形材料の結合は、結合剤を用いて固形化された被造形物を焼結して行われる。
【0073】
<<DED法>>
DED法(
図7)は、レーザ、電子ビーム、プラズマアークなどの指向エネルギービームにより、金属粉末(材料粉末)や、フィラメントの金属を溶融し、肉盛溶接する。以下では、これまでに説明したPBF法(
図5)やBJ法(
図6)と同様な部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0074】
図7の例のDED法においては、立体造形装置270に、フィラメント供給部272やヘッド部274が備えられている。ヘッド部274は、位置決め機構部238に搭載されており、被造形物(ここでは回転翼102)の輪郭形状に合わせて移動する。フィラメント供給部272から導出されたフィラメント276の先端部に対し、ヘッド部274がレーザ光(図示略)を照射する。ヘッド部274により、フィラメント276の溶融や凝固が行われ、回転翼102の各層が積層される。
【0075】
DED法も、PBF法(
図5)やBJ法(
図6)と同様に積層テーブルの上に積層するのが一般的である。しかし、PBF法(
図5)やBJ法(
図6)のように材料粉末228を敷き詰める必要がないため、
図7のように、回転体103の軸方向を水平(X軸方向)に向けた状態で、回転翼102を形成することが可能である。
図7の例では、立体造形装置270にチャック278が備えられ、チャック278が径方向に拡げられて、回転体103が支持されている。
【0076】
回転翼102は、回転体103の半径方向に積層される。一枚の回転翼102について、根元から先端(径方向の外周側)までの造形が完了すると、回転体103が軸心周りに所定角度(例えば10度)回転させられ、次の回転翼102の造形が開始される。ここで、
図7は、積層方向を示すために模式化されたものであり、造形中の回転翼102のみ各層290の境界が示されている。
【0077】
また、DED法においては、ヘッド部274や、チャック278を斜めに設置し、X軸に対し傾斜させて積層を行うことも可能である。DED法により、造形材料を斜めに積層する製造方法(
図13、
図14)については後述する。
【0078】
DED法に係る主な事項をまとめると、DED法において、造形材料の供給は、フィラメント供給部272からフィラメント276を導出して行われる。造形材料の結合は、熱源(レーザなど)を用いた溶接により行われる。前述のBJ法(
図6)や後述するFDM法(
図8)で行われるような、被造形物の焼結は不要である。
【0079】
<<FDM法>>
FDM法(
図8)による立体造形装置280は、フィラメント供給部282から、結合剤を含むフィラメント284を導出する。立体造形装置280は、フィラメント284を、熱で溶かしながらヘッド部286から押し出し、各層を積み上げて立体造形を行う。以下では、DED法(
図7)と同様な部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0080】
FDM法も、PBF法(
図5)やBJ法(
図6)と同様に積層テーブルの上に積層するのが一般的である。しかし、DED法(
図7)と同様に、PBF法(
図5)やBJ法(
図6)のような材料粉末228の敷き詰めは必要ないため、
図8のように、回転体103の軸方向を水平(X軸方向)に向けた状態で、回転翼102を形成することが可能である。ここで、
図8は、積層方向を示すために模式化されたものであり、造形中の回転翼102のみ各層290の境界が示されている。また、FDM法においても、DED法(
図7)と同様に、ヘッド部286や、チャック278を斜めに設置し、X軸に対し傾斜させて積層を行うことが可能である。
【0081】
FDM法に係る主な事項をまとめると、FDM法において、造形材料の供給は、フィラメント供給部282からフィラメント276を導出して行われる。造形材料の結合は、熱源を用い、結合剤を含むフィラメント284を溶融して行われる。造形材料の結合は、結合剤を用いて固形化された被造形物を、前述のBJ法と同様に焼結して行われる。
【0082】
<各層の積層方向>
図9(a)、(b)は、積層により立体造形された回転翼102を示している。回転翼102は、回転体本体103aに一体的に形成されて回転体103を構成している。回転体本体103aは、ロータ軸113(
図1)に、同心的に結合される。
図9(a)、(b)では、回転体103を、軸心Cからの半分のみが図示されている。また、
図9(a)、(b)(及び
図5~
図8)では、
図1に示した回転体下部円筒部102dが省略されているが、回転体本体103aに連続して回転体下部円筒部102dを形成することが可能である。
【0083】
図9(a)の例においては、回転翼102の各層290が、回転体103の軸方向(Z軸の正方向)に積層されている。個々の層290は、回転体103の軸心Cに対して、直交する平面(XY平面)内に形成されている。
【0084】
図9(b)の例においては、回転翼102の各層290が、回転体103の径方向(Z軸の負方向)に積層されている。個々の層290は、回転体103の軸心Cを中心とした半径方向に対して、
図9(a)と同様に、直交する平面(XY平面)内に形成されている。
【0085】
ここで、
図9(a)、(b)では、図示が煩雑になるのを避けるため、一部の回転翼102についてのみ、積層構造が示されている。しかし、いずれの回転翼102も、同方向の積層構造を有している。また、
図9(a)、(b)では、図示が煩雑になるのを避けるため、ハッチングの図示は省略されている。
【0086】
回転翼102を立体造形するにあたっては、回転翼102を回転体本体103aとともに立体造形する方法と、回転翼102を回転体本体103aよりも後に立体造形する方法のいずれも採用が可能である。
図9(a)では、回転翼102が回転体本体103aとともに立体造形されている。このため、回転翼102だけでなく、回転体本体103aも積層構造を有している。この場合は、回転翼102と回転体本体103aとの組み合わせが、積層による被造形物となる。
【0087】
図9(b)では、回転翼102が回転体本体103aの後に立体造形されている。回転翼102を回転体本体103aよりも後に立体造形する方法においては、回転体本体103aを積層により形成しても良く、或いは、切削等により形成してもよい。
図9(b)の例では、回転体本体103aが切削により形成され、回転翼102が積層により形成されている。
【0088】
なお、
図9(a)の実施形態に関して、図示は省略するが、
図9(b)の実施形態と同様に、回転翼102を回転体本体103aの後に立体造形してもよい。さらに、
図9(b)の実施形態に関して、図示は省略するが、
図9(a)の実施形態と同様に、回転翼102を回転体本体103aとともに立体造形してもよい。
【0089】
<<軸方向への積層>>
図9(a)に示すように、各層290を軸方向(Z軸の正方向)に重ねた場合、個々の回転翼102において各層290は、
図10(a)に示すように形成される。
図10(a)は、1つの回転翼102を、
図9(a)におけるX軸の負の側から正の側に向かって見た状態を、模式的に示している。換言すれば、
図10(a)は、回転体103における径方向の外側から軸心Cの側に向かって見た状態を、模式的に示している。
【0090】
図10(a)において、各層290は、回転翼102の傾斜方向に沿って、段差292を生じながら並んでいる。この段差292は、軸方向に、積層によって生じるものである。
図10(a)に符号294で示すのは、回転翼102の断面の輪郭である。
【0091】
回転翼102は、ガス分子の反射のための傾斜面(傾斜した反射面)296を有する。段差292は、仮想的に示す輪郭294から張り出しており、積層後の仕上加工(
図12(a)、(b)のS4、後述する)により削り取られる。仕上加工を行うことにより、回転翼102の傾斜面296は滑らかに形成されるが、仕上加工を含む仕上工程については後述する。
【0092】
図10(a)に示すように、軸方向への積層を行った場合、仕上加工(後述する)により段差292が除去され、滑らかな傾斜面296が得られる。滑らかな傾斜面296を得ることにより、ターボ分子ポンプ100(
図1)の運転時に、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部において、ガス分子の反射が効率よく行われる。
【0093】
図11は、ガス分子300が、回転翼102の傾斜面296で反射する様子を模式的に示している。
図11に示すように、ガス分子300が、反射によって回転翼102の傾斜面296から空間に飛び出す場合、ガス分子は、傾斜面296上における微小面積dS(符号省略)の領域に対しての直角方向(法線302の方向)を中心に拡散する。このことは「余弦則」として知られている。図中11中の角度θは、法線302に対する反射方向の傾きを示している。
【0094】
したがって、傾斜面296を可能な限り滑らかに形成することにより、傾斜面296から飛び出すガス分子の反射方向を適正に制御でき、反射精度を向上することが可能となる。そして、
図9(a)、
図10(a)に示すように、立体造形により段差が生じる場合には、仕上加工(
図12(a)、(b)のS4、後述する)により、傾斜面296を滑らかに形成することにより、ガス分子の反射精度を向上することができる。
【0095】
仕上加工(
図12(a)、(b)のS4、後述する)を行う処理は、段差292を平滑化する平滑化処理として機能する。さらに、平滑化処理や、平滑化処理を行うための機器(工作機械など)は、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段として機能する。これらの場合、ターボ分子ポンプ100、又は、ターボ分子ポンプ100の製造方法は、反射精度向上手段が、平滑化処理、又は、工作機械などによるものとなる。
【0096】
なお、説明中の「反射」や「反射精度」の用語は、主には、排気性能に関係する方向(ここでは軸方向)の「反射」や「反射精度」を意味している。また、「反射」の用語は、例えば、1つの面全体で行われる「反射」に限らず、1つの面の一部や、複数の面のうちの一部の面などで行われる「反射」も含んでいる。さらに、「反射面」の用語は、1つの面全体で構成された「反射面」に限らず、1つの面の一部や、複数の面のうちの一部の面などで構成された「反射面」も含んでいる。
【0097】
また、「反射精度向上手段」には、例えば、
図9(a)や
図10(a)(後述する
図9(b)、
図10(b)、
図13、
図14も含む)に示された積層方法、又は、積層方向(積層方向を規定することを含む)が該当する場合がある。さらに、「反射精度向上手段」には、例えば、
図5~
図8に示された立体造形装置210、250、270、280が該当する場合がある。
【0098】
具体的には、
図9(a)、
図10(a)、
図12に示すように、仕上加工を行って傾斜面296を形成する実施形態においては、平滑化処理や、平滑化処理を行うための機器(工作機械など)は、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段として機能する。これらの場合、ターボ分子ポンプ100、又は、ターボ分子ポンプ100の製造方法は、反射精度向上手段が、平滑化処理、又は、工作機械などによるものとなる。
【0099】
これに対して、後述するように、仕上加工を必ずしも必要としない場合(
図9(b)、
図10(b)、
図13、
図14に示すような場合)には、積層方法や、積層方向(積層方向を規定することを含む)が、「反射精度向上手段」に該当する。さらに、
図9(b)、
図10(b)、
図13、
図14に示すような場合には、例えば、
図5~
図8に示された立体造形装置210、250、270、280も、「反射精度向上手段」には該当する。これらの場合、ターボ分子ポンプ100、又は、ターボ分子ポンプ100の製造方法は、反射精度向上手段が、積層方法、積層方向、又は、立体造形装置210、250、270、280によるものとなる。
【0100】
<<径方向への積層>>
図9(b)に示すように、各層290を軸方向(Z軸の負方向)に重ねた場合、個々の回転翼102において各層290は、
図10(b)に示すように形成される。
図10(b)は、1つの回転翼102を、
図9(b)におけるZ軸の負から正の側に向かって見た状態(
図9(a)と同様に、回転体103における径方向の外側から軸心Cの側に向かって見た状態)を、模式的に示している。
【0101】
図9(b)において、各層290は、回転体103の径方向(Z軸の負方向)に積層されている。個々の層290は、前述したように、回転体103の半径方向に対して直交する平面(XY平面)内に形成されている。このため、
図10(b)には、1層のみが示されている。
図10(b)において、個々の層290は、段差のない傾斜面304を有している。この傾斜面304は、
図11の傾斜面296に相当する。
【0102】
つまり、径方向への積層を行った場合、個々の層290が、積層の時点で、滑らかな傾斜面304を有している。重なり合った層290の間には、多少の段差が生じるが、個々の層290には、段差のない傾斜面304が形成される。そして、個々の層290毎に、傾斜面304が得られ、これらの傾斜面304の集合により、回転翼102の傾斜面296が構成される。
【0103】
ターボ分子ポンプ100(
図1)の運転時には、各傾斜面304について、前述した余弦則に従いガス分子の反射が発生する。各傾斜面304には段差が生じていないことから、各傾斜面304において、ガス分子の反射が効率よく行われる。このため、傾斜面304が可能な限り滑らかになるよう積層を行うことにより、回転翼102の傾斜面304から飛び出すガス分子の数を適正に制御でき、高い反射精度を得ることが可能となる。
【0104】
また、
図9(b)、
図10(b)に示すように、径方向に積層を行うことにより、軸方向に積層を行う場合(
図9(a)、
図10(a))のような仕上加工(
図12(a)、(b)のS4、後述する)を行うことなく、高い反射精度を得ることが可能である。このため、径方向に積層を行った場合には、被造形物の製造のための工数を削減できる。
【0105】
傾斜面304が形成されるよう積層を行う処理(積層処理)は、仕上加工(
図12(a)、(b)のS4、後述する)を伴わずに、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段として機能する。この場合、ターボ分子ポンプ100、又は、ターボ分子ポンプ100の製造方法は、反射精度向上手段が、積層方法、又は、積層方向によるものとなる。
【0106】
<<各種の立体造形方式の利用と製造方法の最適化>>
軸方向への積層(
図9(a)、
図10(a))、及び、径方向への積層(
図9(b)、
図10(b))は、特に支障がない限りは、前述した各種の立体造形方式(
図5~
図8)のいずれによっても実施が可能である。ただし、BJ法(
図6)やFDM法(
図8)のように、金属粉の焼結が行われる立体造形方式の場合には、焼結により金属粉が凝集して硬化するため、切削等による仕上加工を行うことが容易ではない。
【0107】
図12(a)、(b)は、BJ法(
図6)又はFDM法(
図8)により、軸方向への積層(
図9(a)、
図10(a))を行った場合において、仕上加工を最適化する製造方法を示している。
図12(a)は、仕上加工を、焼結後に行う製造方法を示している。
図12(a)においては、3Dプリンタによる積層工程(S1)の後、結合剤を除去する工程(結合剤除去工程、S2)と、焼結の工程(焼結工程、S3)が順に実行されている。
【0108】
その後、仕上加工の工程(仕上工程、S4)が実行され、傾斜面296(
図10(a))が形成されている。仕上加工には、例えば、エンドミルなどを装着して切削を行う一般的な工作機械などが用いられる。
【0109】
回転翼102は、このように焼結(S3)の後に仕上加工を行って製造することも可能である。しかし、被造形物(ここでは回転翼102)の硬化によって、仕上工程(S4)に用いられる刃物の劣化が激しくなるといった事情が生じる場合には、
図12(b)に示すような製造方法を採用することが可能である。特に、チタンやステンレスなどといった硬い素材や、粘りのある素材に対して仕上加工を行う場合には、仕上加工が困難になる。
【0110】
このため、
図12(b)に示す製造方法においては、3Dプリンタによる積層工程(S1)の後に、仕上工程(S4)を実行する。その後、結合剤除去工程(S2)と焼結工程(S3)を順に実行し、回転翼102を得る。このようにすることで、焼結前の、相対的に柔らかい被造形物(ここでは回転翼102)に対して仕上加工を行うことができ、仕上げの作業が容易になる。そして、反射精度が高い回転翼102を容易に製造することが可能となる。このような製造方法は、回転翼102の素材に、チタンやステンレスなどを用いる場合に有効となる。
【0111】
<積層方向に係る他の実施形態>
次に、積層方向に係る他の実施形態について、
図13に基づいて説明する。なお、これまでに説明したのと同様の部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0112】
図13は、
図10(a)、(b)と同様に、1つの回転翼102を、回転体103(
図9(a)、(b)を援用)における径方向の外側から軸心Cの側に向かって見た状態を、模式的に示している。
図13において、各層290は、矢印Gで示すように、回転翼102の厚さ方向に積層されている。
【0113】
図13において、各層290(3層のみに省略して示す)は、回転翼102の傾斜方向と平行に形成されており、最も外側の層306(括弧書きで示す)が、傾斜面310を有している。各層290(外側の層306を含む)の端部には、積層による段差292が生じている。段差292は、
図10(a)の例(軸方向への積層の例)とは異なり、回転翼102の上下の端面298に生じる。
【0114】
段差292は、仕上工程(
図12(a)、(b)のS4)により除去される。
図13に示す厚さ方向(矢印Gの方向)の積層が、BJ法(
図6)又はFDM法(
図8)により行われる場合には、
図12(b)に示す製造方法のように、積層工程(S1)の後に、仕上工程(S4)を実行し、その後に結合剤除去工程(S2)と焼結工程(S3)とを順に実行する。
【0115】
このようにすることで、焼結前の、相対的に柔らかい被造形物(ここでは回転翼102)に対して仕上加工を行うことができ、段差292の除去を容易に行うことが可能となる。回転翼102の端面298における段差292が、ガスの排気にあたり特段の問題を生じないような場合には、仕上工程(S4)を省略することも可能である。
【0116】
図13に示す厚さ方向(矢印Gの方向)の積層が、焼結を伴わないPBF法(
図5)やDED法(
図7)により行われる場合に、仕上工程を行わずに、段差292を残してもよい。或いは、積層工程の後に仕上工程を行って、段差292を除去してもよい。
【0117】
この
図13の例では、積層により形成された傾斜面310は、
図10(b)の例(径方向への積層の例)と同様に、仕上加工(
図12(a)、(b)のS4)を行わなくても、ガス分子の反射に利用することができる。
【0118】
<<段差292の発生を防止した製造方法>>
図14は、
図13に示したような厚さ方向への積層を行うための製造方法を模式的に示している。
図14に示す製造方法においては、厚さ方向への積層が、
図13に示したような段差292を発生させずに(または、段差292の発生を可能な限り抑えて)行われる。
【0119】
図14の例では、
図8のFDM法に係る立体造形装置280を変形して用い、立体造形装置280と同様の部分については同一符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0120】
図14の例では、ヘッド部286が、矢印Fで示すように、傾斜面310と平行な方向に、斜めに移動する。また、ヘッド部286は、矢印Gで示すように、各層290を、傾斜面310に対して直角な方向へ移動する。ヘッド部286を、このように移動させることにより、端面298に段差292(
図13)が生じるのを防止することができる。また、
図14に示す製造方法によれば、例え段差292が発生したとしても、段差292は極小さいものとなる。
【0121】
なお、ここではFDM法を例に挙げて説明したが、例えばDED法も、PBF法(
図5)やBJ法(
図6)のように材料粉末228を敷き詰める必要がない。このため、例えばDED法を採用した場合であっても、段差292(
図13)の発生を防止しながら、傾斜面310に平行に積層を行うことが可能である。
【0122】
<各実施形態から抽出可能な発明>
以上説明したように、本出願に係る真空ポンプ(ターボ分子ポンプ100など)は、以下のような特徴を有している。
(1)固定翼(固定翼123など)と回転翼(回転翼102など)とでガスの排気を行う翼排気機構(回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部など)を備え、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方が、造形材料(材料粉末228、フ ィラメント276、284に含まれる金属など)を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面(傾斜面296、304、310など)の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段(各層290の積層、仕上加工(S4)など)を用いて作製されている。
【0123】
このため、段差のない(或いは小さい)反射面(傾斜面296、304、310など)を得ることができる。そして、段差のない(或いは小さい)反射面により、ガス分子の反射精度が高い真空ポンプを提供することができる。さらに、3Dプリンタ等を用いた立体造形により真空ポンプを製造した場合に、反射方向の精度の高い反射面を作製することができる。そして、部品の製造に、積層による立体造形を用いた場合であっても、排気特性が低下するのを防止できる。
【0124】
(2)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記翼排気機構の径方向(回転体103の径方向など)に積層したことを特徴とする。
このため、平滑化処理(仕上加工(S4)など)を省いて各層毎に反射面(傾斜面304など)を形成でき、ガス分子の反射精度が高い反射面を得るための造形が容易である。
【0125】
(3)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方の厚み方向に積層したことを特徴とする。
このため、上記(2)とは別な方法により、平滑化処理(仕上加工(S4)など)を省いて各層毎に反射面(傾斜面310など)を形成できる。そして、ガス分子の反射精度が高い反射面を得るための造形が容易である。
【0126】
(4)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記反射精度向上手段が、前記造形材料の積層により生じた段差(段差292など)を平滑化する平滑化処理(仕上加工(S4)など)によるものであることを特徴とする。
このため、平滑化処理により、上記(1)と同様な発明の効果を奏することが可能となる。
【0127】
(5)上記(4)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記立体造形が積層の後に焼結処理(焼結工程(S3)など)を行うものであり、
前記焼結処理の前に前記平滑化処理を実施したことを特徴とする。
このため、被造形物(回転翼102及び固定翼123のうちの少なくとも一方)が焼結処理により硬化する前に、平滑化処理のための加工を行うことができる。そして、平滑化処理を、容易に行うことが可能となる。また、3Dプリンタ等を用いた立体造形により真空ポンプを製造した場合であっても、一般的な仕上加工等の平滑化処理を行うことで、十分な反射面の寸法精度を得ることができる。
【0128】
(6)本発明に係る真空ポンプ構成部品は、
固定翼(回転翼102など)と回転翼(固定翼123など)とでガスの排気を行う翼排気機構(回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部など)を備えた真空ポンプ(ターボ分子ポンプ100など)を構成する真空ポンプ構成部品(回転体103など)であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を備え、
造形材料(材料粉末228、フィラメント276、284に含まれる金属など)を積層して立体造形されており、
立体造形により形成された表面(傾斜面296、304、310など)の少なくとも一部が、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段(各層290の積層、仕上加工(S4)など)を用いて作製されていることを特徴とする。
【0129】
このため、段差のない(或いは小さい)反射面(傾斜面296、304、310など)を得ることができる。そして、段差のない(或いは小さい)反射面により、ガス分子の反射精度が高い真空ポンプ構成部品を提供することができる。さらに、3Dプリンタ等を用いた立体造形により真空ポンプ構成部品を製造した場合であっても、反射方向の精度の高い反射面を作製することができる。そして、真空ポンプ構成部品の製造に、積層による立体造形を用いた場合であって、真空ポンプの排気特性が低下するのを防止できる。
【0130】
(7)本発明に係る真空ポンプの製造方法は、
固定翼(回転翼102など)と回転翼(固定翼123など)とでガスの排気を行う翼排気機構(回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部など)を備えた真空ポンプの製造方法であって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方を、立体造形のための造形材料を積層し、ガス分子の反射精度を向上させる反射精度向上手段(各層290の積層、仕上加工(S4)など)を用いて作製することを特徴とする。
【0131】
このため、段差のない(或いは小さい)反射面(傾斜面296、304、310など)を得ることができる。そして、段差のない(或いは小さい)反射面により、ガス分子の反射精度が高い真空ポンプ構成部品を提供することができる。さらに、3Dプリンタ等を用いた立体造形により真空ポンプの部品を製造した場合であっても、反射方向の精度の高い反射面を作製することができる。そして、部品の製造に、積層による立体造形を用いた場合であって、真空ポンプの排気特性が低下するのを防止できる。
【0132】
(8)上記(7)に係る真空ポンプの製造方法の一実施態様は、
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向(各層290の積層など)によるものであって、
前記翼排気機構の径方向(回転体103の径方向など)に積層したことを特徴とする。
このため、平滑化処理(仕上加工(S4)など)を省いて各層毎に反射面(傾斜面304など)を形成でき、ガス分子の反射精度が高い反射面を得るための造形が容易である。
【0133】
(9)上記(7)に係る真空ポンプの製造方法の一実施態様は、
前記反射精度向上手段が、前記立体造形の積層方向によるものであって、
前記回転翼及び前記固定翼のうちの少なくとも一方の厚み方向に積層したことを特徴とする。
このため、上記(8)とは別な方法により、平滑化処理(仕上加工(S4)など)を省いて各層毎に反射面(傾斜面310など)を形成できる。そして、ガス分子の反射精度が高い反射面を得るための造形が容易である。
【0134】
(10)上記(7)に係る真空ポンプの製造方法の一実施態様は、
前記反射精度向上手段が、前記造形材料の積層により生じた段差(段差292など)を平滑化する平滑化処理(仕上加工(S4)など)によるものである。
このため、平滑化処理により、上記(7)と同様な発明の効果を奏することが可能となる。
【0135】
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形や各実施形態の組合せをすることが可能である。
【0136】
例えば、造形の対象である被造形物として回転翼102が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、固定翼123(
図1)を積層により立体造形してもよい。
【0137】
また、本発明は、回転翼102や固定翼123以外の部品に適用することも可能である。回転翼102や固定翼123以外の部品としては、例えば、ネジ溝ポンプ機構部を構成する部品(ネジ付スペーサ131など、
図1)を例示できる。
【0138】
しかし、ネジ付スペーサ131などの部品は、分子流領域の圧力にあるガスの排気を行うための部品ではなく、一般に、回転翼102や固定翼123ほどの高い反射精度は要求されない。このため、反射面(傾斜面)に、積層に伴う段差が生じていても、大きな問題とはならない。したがって、本発明を適用する部品としては、回転翼102や固定翼123がより好適である。
【0139】
また、各層290の厚みを大とすることで、積層の回数を減らすことができる。しかし、各層290の厚みを大とすることで、段差(段差292など)が大きくなり易い。したがって、各層290の厚みを大とする場合は、段差の影響を考慮しながら各層290の厚みを決定することが望ましい。
【符号の説明】
【0140】
100 :ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
101 :吸気口
102 :回転翼
103 :回転体
103a :回転体本体
123 :固定翼
131a :ネジ溝
133 :排気口
210、250、270、280:立体造形装置
228 :材料粉末
276、284:フィラメント
290、306:層
292 :段差
296、304、310:傾斜面(反射面)
298 :端面