(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008449
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/06 20100101AFI20230112BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230112BHJP
H01L 33/14 20100101ALI20230112BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/32
H01L33/14
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112014
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA04
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA66
5F241CA74
5F241CB05
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、活性層の一方側に位置するp型半導体層と、活性層とp型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、を備える。電子ブロック積層体は、第1電子ブロック層と、第1電子ブロック層よりもp型半導体層側に位置するとともに、第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さい第2電子ブロック層とを有する。活性層における井戸層の総数をNとし、第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、第1電子ブロック層の膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層のAl組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、
前記活性層の一方側に位置するp型半導体層と、
前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、
前記電子ブロック積層体は、第1電子ブロック層と、前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さい第2電子ブロック層とを有し、
前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記活性層は、複数の前記井戸層を有し、
前記複数の井戸層のうち、前記p型半導体層から最も遠い位置に形成された井戸層を最遠井戸層としたとき、前記最遠井戸層の膜厚が、前記複数の井戸層のうちの前記最遠井戸層以外の井戸層のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、前記最遠井戸層のAl組成比が、前記複数の井戸層のうちの前記最遠井戸層以外の井戸層のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記井戸層の前記総数Nは3であり、
前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.7nm以上2.1nm以下である、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xは、65%以上75%以下である、
請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記井戸層の前記総数Nは1であり、
前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.3nm以上1.8nm以下である、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xは、55%以上65%以下である、
請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記第1電子ブロック層のAl組成比は、80%以上であり、
前記第2電子ブロック層の膜厚は、10nm以上30nm以下である、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、活性層上に配された第1の電子ブロック層と、第1の電子ブロック層上に配された第2の電子ブロック層とを備える窒化物半導体発光素子が開示されている。第2の電子ブロック層は、第1の電子ブロック層よりもAl組成比が小さくなるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子においては、発光出力を向上させる観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、前記活性層の一方側に位置するp型半導体層と、前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、前記電子ブロック積層体は、第1電子ブロック層と、前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さい第2電子ブロック層とを有し、前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす、窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】第2の実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図3】実験例1における、各試料の第1電子ブロック層の膜厚dと発光出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(窒化物半導体発光素子1)
図1は、本形態における窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、
図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。
【0011】
本形態の発光素子1は、単一量子井戸構造の井戸層62を備える発光素子1である。発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態において、発光素子1は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を構成するものである。特に、本形態の発光素子1は、中心波長が200nm以上365nm以下の深紫外光を発する深紫外LEDを構成するものである。本形態の発光素子1は、例えば殺菌(例えば空気浄化、浄水等)、医療(例えば光線治療、計測・分析等)、UVキュアリング等の分野において用いることができる。
【0012】
発光素子1は、基板2上に、バッファ層3、n型クラッド層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック積層体7、及びp型半導体層8を順次備える。基板2上の各層は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成することができる。また、発光素子1は、n型クラッド層4上に設けられたn側電極11と、p型半導体層8上に設けられたp側電極12とを備える。
【0013】
以下において、基板2、バッファ層3、n型クラッド層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック積層体7、及びp型半導体層8の積層方向(
図1の上下方向)を上下方向という。また、基板2に対して発光素子1の各層が積層された側(すなわち
図1の上側)を上側といい、その反対側(すなわち
図1の下側)を下側という。上下の表現は便宜的なものであり、例えば発光素子1の使用時における、鉛直方向に対する発光素子1の姿勢を限定するものではない。本形態において、発光素子1を構成する各層は、上下方向に厚みを有する。
【0014】
発光素子1を構成する半導体としては、例えば、AlaGabIn1-a-bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。なお、深紫外LEDにおいては、インジウムを含まない窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系の半導体が用いられることが多い。ここで、「AlGaN」は、III族元素の組成(すなわちアルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)の合計の組成)と窒素(N)の組成との比が1:1であり、アルミニウムの組成比とガリウムの組成比とを任意とした3元混晶である。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。以下、発光素子1の各構成要素について説明する。
【0015】
(基板2)
基板2は、活性層6が発する光(本形態においては深紫外光)を透過する材料からなる。基板2は、例えばサファイア(Al2O3)基板である。また、基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム基板等を用いてもよい。
【0016】
(バッファ層3)
バッファ層3は、基板2上に形成されている。本形態において、バッファ層3は、窒化アルミニウムにより形成されている。なお、基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層3は必ずしも設けなくてもよい。
【0017】
(n型クラッド層4)
n型クラッド層4は、バッファ層3上に形成されている。n型クラッド層4は、例えば、n型不純物がドープされたAlqGa1-qN(0≦q≦1)からなる。組成AlqGa1-qNの下付きのqは、Al組成比(AlNモル分率ともいう。)を示している。n型クラッド層4のAl組成比qは、例えば20%以上であり、25%以上70%以下とすることが好ましい。本形態のように、井戸層62が単一量子井戸構造となるよう形成されている場合、n型クラッド層4のAl組成比は、40%以上60%以下とすることがより好ましい。
【0018】
n型クラッド層4は、1μm以上4μm以下の膜厚を有する。活性層6が単一量子井戸構造(SQW:Single Quantum Well)である場合、n型クラッド層4の膜厚は3μm程度が好ましい。活性層6が単一量子井戸構造である場合、格子緩和したn型クラッド層4とすることが好ましいところ、n型クラッド層4の膜厚が一定値以上である場合、n型クラッド層4が格子緩和しやすくなる。また、活性層6が多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)である場合、n型クラッド層4の膜厚は2μm程度が好ましい。活性層6が多重量子井戸構造である場合、コヒーレント成長したn型クラッド層4とすることが好ましいところ、n型クラッド層4の膜厚が一定値以下である場合、コヒーレント成長を促しやすくなる。n型クラッド層4は、単層構造でもよく、複数層構造でもよい。また、本形態において、n型クラッド層4にドーピングするn型不純物としてシリコン(Si)を用いた。n型クラッド層4以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。
【0019】
(組成傾斜層5)
組成傾斜層5は、n型クラッド層4上に形成されている。組成傾斜層5は、AlrGa1-rN(0<r≦1)からなる。組成傾斜層5の上下方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程大きくなっている。なお、組成傾斜層5は、上下方向の極一部の領域(例えば組成傾斜層5の上下方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が大きくならない領域を含んでいてもよい。
【0020】
組成傾斜層5は、その下端部のAl組成比がn型クラッド層4のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であり、その上端部のAl組成比が第1障壁層611のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。組成傾斜層5を設けることにより、組成傾斜層5の上下に隣り合う第1障壁層611とn型クラッド層4との間において、Al組成比が急変することを防止することができる。これにより、格子不整合に起因する転位の発生を抑制することができる。その結果、活性層6における電子と正孔との非発光性再結合率が低くなり、活性層6から発される光が増える。組成傾斜層5の膜厚は、例えば5nm以上20nm以下とすることができる。本形態において、組成傾斜層5には、n型不純物としてのシリコンが含まれているが、これに限られない。
【0021】
(活性層6)
活性層6は、組成傾斜層5上に形成されている。本形態において、活性層6は、単一量子井戸構造となるよう形成されている。活性層6は、n型クラッド層4側から順に、第1障壁層611、第2障壁層612及び井戸層62を備える。なお、以後、第1障壁層611及び第2障壁層612を特に区別しない場合は、単に「障壁層61」という。
【0022】
第1障壁層611は、Als1Ga1-s1N(0<s1≦1)からなる。本形態において、第1障壁層611のAl組成比s1は100%である。すなわち、本形態において、第1障壁層611はAlNからなる。第1障壁層611は、井戸層62への所定エネルギー以下の電子注入を抑制する役割を有する。第1障壁層611は、例えば1.0nm以上5.0nm以下の膜厚を有する。
【0023】
第2障壁層612は、Als2Ga1-s2N(0<s2≦1)からなる。第2障壁層612のAl組成比s2は、井戸層62の後述のAl組成比tと第1障壁層611のAl組成比s1との間のAl組成比とすることができる。第2障壁層612のAl組成比s2は、例えば55%以上75%以下とすることができる。第2障壁層612は、例えば5nm以上20nm以下の膜厚を有する。
【0024】
井戸層62は、AltGa1-tN(0≦t<1)からなる。井戸層62のAl組成比tは、各障壁層61のAl組成比s1,s2のそれぞれよりも小さい。本形態において、井戸層62のAl組成比tは、10%以上30%以下である。井戸層62は、例えば1nm以上10nm以下の膜厚を有することが好ましく、特に2nm以上4nm以下の膜厚を有することが好ましい。
【0025】
本形態において、第1障壁層611、第2障壁層612、及び井戸層62のそれぞれには、n型不純物としてのシリコンが含まれている。活性層6における上下方向の各位置のシリコン濃度は、第1障壁層611又は第2障壁層612において最大値となる。当該最大値は、組成傾斜層5における上下方向の各位置のシリコン濃度よりも大きい。なお、例えば第1障壁層611、第2障壁層612、及び井戸層62の少なくとも1つをアンドープの層とすることも可能である。
【0026】
活性層6は、単一量子井戸構造内で電子及び正孔を再結合させて所定の波長の光を発生させる。本形態においては、活性層6は、波長365nm以下の深紫外光を出力するために、バンドギャップが3.4eV以上となるよう構成されている。特に本形態において、活性層6は、中心波長が200nm以上365nm以下の深紫外光を発生することができるよう構成されている。さらに、本形態のように活性層6が単一量子井戸構造である場合は、発光出力向上の観点から、活性層6が発する紫外光の中心波長は、295nm以上365nm以下であることが好ましい。
【0027】
(電子ブロック積層体7)
電子ブロック積層体7は、活性層6からp型半導体層8側へ電子がリークするオーバーフロー現象の発生を抑制すること(以後、電子ブロック効果ともいう)によって活性層6への電子注入効率を向上させる役割を有する。電子ブロック層は、下側から順に、第1電子ブロック層71と第2電子ブロック層72とを積層した積層構造を有する。以後、第1電子ブロック層71と第2電子ブロック層72とを特に区別しない場合は、単に「電子ブロック層」という。電子ブロック層は、活性層6上に形成される層のうち、Al組成比が50%以上となる層である。
【0028】
第1電子ブロック層71は、活性層6(本形態においては井戸層62)上に設けられている。第1電子ブロック層71は、例えばAluGa1-uN(0<u≦1)からなる。第1電子ブロック層71のAl組成比uは、例えば80%以上100%以下とすることが好ましく、90%以上100%以下とすることがさらに好ましい。Al組成比が大きいほど電子の通過を抑制する電子ブロック効果が高い。そこで、Al組成比の大きい第1電子ブロック層71を活性層6に隣接する位置に形成することにより、活性層6に近い位置において高い電子ブロック効果が得られ、井戸層62における電子の存在確率を確保しやすい。
【0029】
第1電子ブロック層71の膜厚は、1.0nm以上2.2nm以下である。第1電子ブロック層71の膜厚は、井戸層62の膜厚よりも小さいことが好ましい。Al組成比が大きい半導体層ほど電気抵抗値が大きくなるため、Al組成比uが極めて大きい第1電子ブロック層71の膜厚を大きくし過ぎると発光素子1全体の電気抵抗値の過度な上昇を招く。そのため、第1電子ブロック層71の膜厚はある程度小さくすることが好ましい。一方、第1電子ブロック層71の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1電子ブロック層71を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1電子ブロック層71上に第2電子ブロック層72が形成されており、これにより、電子ブロック積層体7を電子がすり抜けることを抑制している。
【0030】
第2電子ブロック層72は、例えばAlxGa1-xN(0<x<1)からなる。第2電子ブロック層72のAl組成比xは、第1電子ブロック層71のAl組成比uよりも小さい。本形態において、第2電子ブロック層72のAl組成比xは、50%以上70%以下である。詳細は後述するが、第2電子ブロック層72のAl組成比xを50%以上70%以下とし、かつ、前述のごとく第1電子ブロック層71の膜厚を1.0nm以上2.2nm以下とすることにより、発光素子1の発光出力の向上が図られる。第2電子ブロック層72の膜厚は、例えば5nm以上100nm以下とすることができ、10nm以上30nm以下とすることが好ましい。第2電子ブロック層72の膜厚は、井戸層62の膜厚及び第1電子ブロック層71の膜厚のそれぞれよりも大きい。
【0031】
各電子ブロック層は、アンドープの層、n型不純物を含有する層、p型不純物を含有する層、又はn型不純物及びp型不純物の双方を含有する層とすることができる。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。各電子ブロック層が不純物を含有する場合において、各電子ブロック層が含有する不純物は、各電子ブロック層の全体に含まれていてもよいし、各電子ブロック層の一部に含まれていてもよい。
【0032】
(p型半導体層8)
p型半導体層8は、第2電子ブロック層72上に形成されている。p型半導体層8は、Al組成比が50%未満の半導体層である。本形態において、p型半導体層8は、p型コンタクト層81からなる。p型コンタクト層81は、p側電極12が接続された層であり、p型不純物が高濃度にドープされたAluGa1-uN(0≦u≦1)からなる。本形態において、p型不純物としてマグネシウムを用いた。なお、p型不純物としては、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、又は炭素等を用いてもよい。p型コンタクト層81は、p側電極12とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比が低くなるよう構成されており、かかる観点からp型の窒化ガリウム(GaN)により形成することが好ましい。
【0033】
(n側電極11)
n側電極11は、n型クラッド層4において上側に露出した面上に形成されている。n側電極11は、例えば、n型クラッド層4の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、金(Au)が順に積層された多層膜とすることができる。
【0034】
(p側電極12)
p側電極12は、p型コンタクト層81上に形成されている。p側電極12は、例えば、p型コンタクト層81の上にニッケル(Ni)、金が順に積層された多層膜とすることができる。
【0035】
本形態において、発光素子1は、図示しないパッケージ基板にフリップチップ実装される。すなわち、発光素子1は、上下方向におけるn側電極11及びp側電極12が設けられた側をパッケージ基板側に向け、n側電極11及びp側電極12のそれぞれが、金バンプ等を介してパッケージ基板に実装される。フリップチップ実装された発光素子1は、基板2側(すなわち下側)から光が取り出される。なお、これに限られず、発光素子1は、ワイヤボンディング等によりパッケージ基板に実装されてもよい。また、本形態において、発光素子1は、n側電極11及びp側電極12の双方が発光素子1における上側に設けられた、いわゆる横型の発光素子としたが、これに限られず、縦型の発光素子であってもよい。縦型の発光素子は、n側電極とp側電極とによって活性層がサンドイッチされた発光素子である。なお、発光素子を縦型とする場合、基板及びバッファ層は、レーザーリフトオフ等により除去することが好ましい。
【0036】
(第1電子ブロック層71の膜厚と第2電子ブロック層72のAl組成比について)
各電子ブロック層は、膜厚及びAl組成比のそれぞれが大きくなるほど、電子ブロック効果が大きくなり、井戸層62における電子の存在確率を上昇させることができる。しかしながら、1つの井戸層62に注入することができる電子の数には限界がある。そのため、単に電子ブロック層の膜厚及びAl組成比のそれぞれを大きくすれば高い発光出力が得られる訳ではない。後述の実験例1で裏付けられるように、活性層6における井戸層62の総数によって、第1電子ブロック層71の膜厚、及び第2電子ブロック層72のAl組成比の適切な値が異なる。
【0037】
ここで、活性層6における井戸層62の総数をNとし、第1電子ブロック層71の膜厚を膜厚d[nm]とし、前述のごとく第2電子ブロック層72のAl組成比をx[%]とする。このとき、第1電子ブロック層71の膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ第2電子ブロック層72のAl組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たすことにより、発光素子1において高い発光出力が得られる。つまり、活性層6における井戸層62の総数Nが多いほど、適切な第1電子ブロック層71の膜厚d及び第2電子ブロック層72のAl組成比xが大きくなる。本形態においては、活性層6における井戸層62の総数Nが1であるため、第1電子ブロック層71の膜厚dは、1.0≦d≦2.2の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xは、50≦x≦70の関係を満たす。これらの数値範囲については、後述の実験例にて裏付けられる。
【0038】
また、発光素子1の発光出力向上の観点から、活性層6における井戸層62の総数Nは、5以下が好ましく、4以下がより好ましい。特に、後述の第2の実施の形態のように、井戸層62の総数Nは3であることが一層好ましい。
【0039】
また、発光素子1の発光出力向上の観点から、井戸層62の総数Nに応じて、n型クラッド層4のAl組成比を調整することが好ましい。具体的には、n型クラッド層4のAl組成比は、(5N+75)/2[%]以上(5N+115)/2[%]以下とすることが好ましい。すなわち、例えばN=1の場合、n型クラッド層4のAl組成比は、40%以上60%以下が好ましく、例えばN=3の場合、n型クラッド層4のAl組成比は、45%以上65%以下が好ましい。井戸層62の総数Nが大きい多重量子井戸構造の場合、n型クラッド層4の膜厚を小さくしてn型クラッド層4をコヒーレント成長させることが好ましい。一方、井戸層62の総数Nが小さい場合、n型クラッド層4の膜厚を大きくしてn型クラッド層4を格子緩和させることが好ましい。
【0040】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
本形態において、第1電子ブロック層71の膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす。本形態においては、井戸層62の総数Nが1であり、第1電子ブロック層71の膜厚dが、1.0≦d≦2.2の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xが、50≦x≦70の関係を満たす。これにより、発光素子1において、高い発光出力が得られる。なお、数値については後述の実験例にて裏付けられる。
【0041】
以上のごとく、本形態によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
本形態は、多重量子井戸構造の活性層6を備える発光素子1の形態である。
図2は、本形態における、発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。
【0043】
活性層6は、障壁層61と井戸層62とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層62とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層62が位置している。
【0044】
各障壁層61は、AlvGa1-vN(0<v≦1)からなる。各障壁層61のAl組成比は、75%以上95%以下であることが好ましい。また、各障壁層61は、2nm以上12nm以下の膜厚を有する。
【0045】
3つの井戸層62は、p型半導体層8から最も遠い位置に形成された井戸層62である最下井戸層621(最遠井戸層ともいう。)と、最下井戸層621以外の2つの井戸層62である上側井戸層622とで構成が異なっている。すなわち、最下井戸層621の膜厚は、2つの上側井戸層622のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、最下井戸層621のAl組成比は、2つの上側井戸層622のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい。本形態において、上側井戸層622は、2nm以上4nm以下の膜厚を有するとともに25%以上45%以下のAl組成比を有し、最下井戸層621は、4nm以上6nm以下の膜厚を有するとともに35%以上55%以下のAl組成比を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、2nm以上4nm以下とすることができる。最下井戸層621の膜厚は、上側井戸層622の膜厚の2倍以上3倍以下とすることができる。また、最下井戸層621のAl組成比と各上側井戸層622のAl組成比との差は、10%以上30%以下とすることができる。最下井戸層621のAl組成比は、上側井戸層622のAl組成比の1.4倍以上2.2倍以下とすることができる。
【0046】
最下井戸層621のAl組成比を、他の井戸層62(すなわち上側井戸層622)のAl組成比よりも大きくすることにより、最下井戸層621の結晶性が向上する。これは、最下井戸層621とn型クラッド層4とのAl組成比の差が小さくなるためである。最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621から上側に転位が伝搬することが抑制される。
【0047】
さらに、最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621上に形成される活性層6の各層の結晶性も向上する。これにより、活性層6におけるキャリアの移動度が向上し、出力光の発光強度が向上する。かかる効果は、最下井戸層621の膜厚が大きくなるほど顕著であるが、発光素子1全体の電気抵抗値が増加することを抑制する観点から最下井戸層621の膜厚は所定値以下となるよう設計される。なお、複数の井戸層62は、例えば下側の井戸層62ほどAl組成比が大きくなるよう構成されていてもよい。
【0048】
また、例えば最下井戸層621にn型不純物としてのシリコンがドープされていてもよい。これにより、活性層6中におけるVピットの形成を誘発し、当該Vピットがn型クラッド層4側からの転位の進展を止める役割を果たす。なお、上側井戸層622にもシリコン等のn型不純物が含まれていてもよい。
【0049】
本形態のように活性層6が多重量子井戸構造である場合、発光出力向上の観点から、活性層6が発する紫外光の中心波長は、250nm以上295nm以下であることが好ましい。
【0050】
また、第1の実施の形態と同様、第1電子ブロック層71の膜厚dは、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xは、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす。つまり、本形態において井戸層62の総数Nは3であるため、第1電子ブロック層71の膜厚dは、1.2nm以上2.6nm以下であり、第2電子ブロック層72のAl組成比xは、70%以上90%以下である。これにより、発光素子1の発光出力を向上させることができる。これらの数値については後述する実験例において裏付けられる。
【0051】
また、最下井戸層621の膜厚を上側井戸層622の膜厚よりも大きくすることにより、最下井戸層621が平坦化し、最下井戸層621上に形成される活性層6の各層の平坦性も向上する。これにより、活性層6の各層においてAl組成比のばらつきが生じることを抑制でき、出力光の単色性を向上させることができる。さらに、活性層6上に形成される各電子ブロック層の平坦性も向上する。これにより、各電子ブロック層の膜厚を均一化することができる。それゆえ、電子ブロック効果が上下方向に直交する面方向の位置によって変動することを防止することができる。その結果、第1電子ブロック層71の膜厚d及び第2電子ブロック層72のAl組成比xを前述のように調整したことによる発光出力向上の効果がより一層得られやすい。
【0052】
また、井戸層62の総数Nが3である場合、n型クラッド層4のAl組成比は、45%以上65%以下が好ましい。
【0053】
その他は、第1の実施の形態と同様である。
なお、第2の実施の形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0054】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
本形態においても、第1電子ブロック層71の膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす。本形態においては、井戸層62の総数Nが3であり、第1電子ブロック層71の膜厚dが、1.2≦d≦2.6の関係を満たし、かつ、第2電子ブロック層72のAl組成比xが、70≦x≦90の関係を満たす。これにより、発光素子1において、高い発光出力が得られる。なお、数値については後述の実験例にて裏付けられる。
【0055】
また、最下井戸層621の膜厚は、各上側井戸層622の膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、最下井戸層621のAl組成比は、各上側井戸層622のAl組成比よりも2%以上大きい。これにより、活性層6を構成する各層の結晶性及び平坦性が向上し、発光素子1の発光出力及び単色性の向上を図ることができる。
【0056】
(実験例1)
本実験例は、単一量子井戸構造(SQW:Single Quantum Well)の発光素子において第1電子ブロック層の膜厚dを種々変更した試料1~試料4と、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)の発光素子において第1電子ブロック層の膜厚dを種々変更した試料5~試料12とにおいて、発光出力を測定した例である。試料1~試料4は、第1の実施の形態と基本構造が同じ発光素子であり、試料5~試料12は、第2の実施の形態と基本構造が同じ発光素子である。単一量子井戸構造の発光素子である試料1~試料4のそれぞれの詳細構造を表1に示し、多重量子井戸構造の発光素子である試料5~試料12のそれぞれの詳細構造を表2に示す。表2における「3QW」は、井戸層が3つの場合の多重量子井戸構造を意味している。
【0057】
【0058】
【0059】
表1及び表2に記載の各層の膜厚は、透過型電子顕微鏡によって測定したものである。また、表1及び表2に記載の各層のAl組成比は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したAlの2次イオン強度から推定した値である。表1において、第1電子ブロック層の膜厚1.0-2.3[nm]とは、試料1~試料4において第1電子ブロック層の膜厚を1.0nm以上2.3nm以下の範囲で種々変更していることを意味している。表2において、第1電子ブロック層の膜厚1.4-3.0[nm]とは、試料5~試料12において第1電子ブロック層の膜厚を1.4nm以上3.0nm以下の範囲において種々変更していることを意味している。また、表1及び表2における組成傾斜層の欄は、組成傾斜層の上下方向の各位置のAl組成比が、下端から上端までにかけて、55%から85%まで変動していることを表している。
【0060】
単一量子井戸構造の試料1~試料4において、第2電子ブロック層のAl組成比xは、50%以上70%以下の値である。多重量子井戸構造(N=3)の試料5~試料12において、第2電子ブロック層のAl組成比xは、70%以上90%以下の値である。つまり、第2電子ブロック層のAl組成比xは、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たしている。
【0061】
本実験例においては、試料1~試料12のそれぞれの発光出力を測定した。各試料の発光出力は、オンウエハの状態の各試料に20mAの電流を流したときの発光出力である。発光出力は、試料1~試料12のそれぞれの下側に設置した光検出器によって測定した。表3に、試料1~試料12における、井戸層の総数N、第1電子ブロック層の膜厚d、第2電子ブロック層のAl組成比x、発光波長及び発光出力を示す。発光出力の測定値の単位は任意単位[a.u.]としている。
【0062】
【0063】
また、各試料の第1電子ブロック層の膜厚dと発光出力との関係を
図3に表している。
図3において、井戸層の総数Nが1である試料1~試料4の結果を丸記号でプロットしており、井戸層の総数Nが3である試料5~試料12の結果を菱形記号でプロットしている。また、
図3には、丸プロットの近似曲線と菱形プロットの近似曲線とを表している。
【0064】
表3及び
図3から分かるように、井戸層の総数Nが1の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xが50%以上70%以下を満たす前提で、第1電子ブロック層の膜厚dが1.0nm以上2.2nm以下を満たす試料1~試料3において高い発光出力が得られている。一方、井戸層の総数Nが1の場合、第1電子ブロック層の膜厚dが1.0nm以上2.2nm以下の数値範囲から外れている試料4においては、発光出力が小さくなっていることが分かる。すなわち、井戸層の総数Nが1の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xが50%以上70%以下を満たし、かつ第1電子ブロック層の膜厚dが1.0≦d≦2.2を満たすことが好ましい。また、井戸層の総数Nが1の場合、第1電子ブロック層の膜厚dは、1.1≦d≦2.1を満たすことが好ましく、1.2≦d≦2.0を満たすことがより好ましく、1.3≦d≦1.8を満たすことがさらに好ましい。また、井戸層の総数Nが1の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xは、55%以上65%以下が好ましく、60%以上65%以下がより好ましい。
【0065】
また、表3及び
図3から分かるように、井戸層の総数Nが3の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xが70%以上90%以下を満たす前提で、第1電子ブロック層の膜厚dが1.2nm以上2.6nm以下を満たす試料6~試料11において高い発光出力が得られている。一方、井戸層の総数Nが3の場合、第1電子ブロック層の膜厚dが1.2nm以上2.6nm以下の数値範囲から外れている試料5及び試料12においては、発光出力が小さくなっていることが分かる。すなわち、井戸層の総数Nが3の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xが70%以上90%以下を満たし、かつ第1電子ブロック層の膜厚dが1.2≦d≦2.6を満たすことが好ましい。また、井戸層の総数Nが3の場合、第1電子ブロック層の膜厚dは、1.3≦d≦2.5を満たすことが好ましく、1.5≦d≦2.4を満たすことがより好ましく、1.7≦d≦2.1を満たすことがさらに好ましい。また、井戸層の総数Nが3の場合、第2電子ブロック層のAl組成比xは、70%以上80%以下が好ましく、70%以上75%以下がより好ましい。
【0066】
(実験例2)
本実験例は、第2の実施の形態のように、最下井戸層(最遠井戸層)の膜厚を各上側井戸層の膜厚よりも1nm以上大きくし、かつ、最下井戸層のAl組成比を各上側井戸層のAl組成比よりも2%以上大きくすることにより、発光出力が向上することを示す実験例である。
【0067】
本実験例においては、最下井戸層の膜厚を各上側井戸層の膜厚よりも1nm以上大きくし、かつ、最下井戸層のAl組成比を各上側井戸層のAl組成比よりも2%以上大きくした第2の実施の形態と同様の構成を有する実施例に係る発光素子を準備した。さらに、すべての井戸層において膜厚を同じにするとともにAl組成比を同じにした比較例に係る発光素子を準備した。実施例に係る発光素子は、基本構造が前述の実験例1における試料5~試料14と同様であり、第1電子ブロック層の膜厚dが1.9±0.2nmである。比較例に係る発光素子は、すべての井戸層のそれぞれにおいて膜厚を3±1nm、Al組成比を35±10%とし、かつ、実施例の発光素子に存在する組成傾斜層を省略した点以外は、実施例と同様である。実施例の各層の膜厚及びAl組成比を表4に、比較例の各層の膜厚及びAl組成比を表5に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
そして、各試料において、実験例1と同様に発光出力を測定した。結果、実施例に係る発光素子の発光出力の測定結果は1.29[a.u.]であり、比較例に係る発光素子の発光出力の測定結果は0.56[a.u.]であった。つまり、最下井戸層の膜厚を各上側井戸層の膜厚よりも1nm以上大きくし、かつ、最下井戸層のAl組成比を各上側井戸層のAl組成比よりも2%以上大きくすることにより、発光出力が向上することが分かる。
【0071】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0072】
[1]本発明の第1の実施態様は、少なくとも1つの井戸層(62)を備える活性層(6)と、前記活性層(6)の一方側に位置するp型半導体層(8)と、前記活性層(6)と前記p型半導体層(8)との間に位置する電子ブロック積層体(7)と、を備え、前記電子ブロック積層体(7)は、第1電子ブロック層(71)と、前記第1電子ブロック層(71)よりも前記p型半導体層(8)側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層(71)よりもAl組成比が小さい第2電子ブロック層(72)とを有し、前記活性層(6)における前記井戸層(62)の総数をNとし、前記第1電子ブロック層(71)の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層(72)のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層(71)の前記膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層(72)の前記Al組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たす、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、窒化物半導体発光素子において、高い発光素子が得られる。
【0073】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記活性層(6)が、複数の前記井戸層(62)を有し、前記複数の井戸層(62)のうち、前記p型半導体層(8)から最も遠い位置に形成された井戸層(62)を最遠井戸層(621)としたとき、前記最遠井戸層(621)の膜厚が、前記複数の井戸層(62)のうちの前記最遠井戸層(621)以外の井戸層(62)のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、前記最遠井戸層(621)のAl組成比が、前記複数の井戸層(62)のうちの前記最遠井戸層(621)以外の井戸層(62)のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きいことである。
これにより、活性層を構成する各層の結晶性及び平坦性が向上し、窒化物半導体発光素子の発光出力及び単色性の向上を図ることができる。
【0074】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記井戸層(62)の前記総数Nが3であり、前記第1電子ブロック層(71)の前記膜厚dが、1.7nm以上2.1nm以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子において、より高い発光素子が得られる。
【0075】
[4]本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記第2電子ブロック層(72)の前記Al組成比xが、65%以上75%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子において、より高い発光素子が得られる。
【0076】
[5]本発明の第5の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記井戸層(62)の前記総数Nが1であり、前記第1電子ブロック層(71)の前記膜厚dが、1.3nm以上1.8nm以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子において、より高い発光素子が得られる。
【0077】
[6]本発明の第6の実施態様は、第5の実施態様において、前記第2電子ブロック層(72)の前記Al組成比xが、55%以上65%以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子において、より高い発光素子が得られる。
【0078】
[7]本発明の第7の実施態様は、第1乃至第6のいずれか1つの実施態様において、前記第1電子ブロック層(71)のAl組成比は、80%以上であり、前記第2電子ブロック層(72)の膜厚は、10nm以上30nm以下であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子において、より高い発光素子が得られる。
【0079】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…窒化物半導体発光素子
6…活性層
62…井戸層
621…最下井戸層(最遠井戸層)
7…電子ブロック積層体
71…第1電子ブロック層
72…第2電子ブロック層
8…p型半導体層