(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084497
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20230612BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20230612BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L55/02
C08L23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198706
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB073
4J002BN152
4J002CG011
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】軋み音(異音)の発生が少なく、且つセルフタップ性にも優れるポリカーボネート樹脂組成物及び成形品。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)55~90質量部と、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量部を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を1.5~5.5質量部を含有し、前記エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が0質量%超20質量%未満であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)55~90質量部と、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量部を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を1.5~5.5質量部を含有し、前記エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が0質量%超20質量%未満であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
JIS K7214に基づくせん断強度が19MPa以上である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【請求項4】
成形品が自動車内装部品である請求項3に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関し、詳しくは、軋み音(異音)の発生が少なく、且つ、セルフタップ性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂にABS樹脂を配合した樹脂アロイは、成形性、耐衝撃性、機械的強度及び耐熱性に優れるため、車両、コンピューター、ノートブック型パソコン、各種携帯端末、プリンター、複写機等の電気・電子機器やOA・情報機器等の部品や部材として好適に使用されている。特に自動車等においては、従来より、内装材料として、成型のし易さ、軽量化等の理由から、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイが多用されている。
【0003】
そして、自動車に内装される製品、例えばディスプレイ、コンソールパネル、ダッシュボード、カーナビ等に代表される製品は、軽量化目的のため、樹脂製の成形部品を嵌合して組み立てて製作される。例えば、それらが筐体構造の場合、通常、上下半割れの成形部材に、それぞれ嵌合用の嵌合部が各所に一体成形され、ネジなどを殆ど使用しないか或いは最小限の使用に留めて、上下の成形部材の外周縁を向かい合わせて嵌合することにより筐体成形品が製作される。
【0004】
しかし、このような成形品を車載する場合、自動車室内環境は低温から高温まで温度変化が激しく、樹脂成形品は熱変動による収縮膨張のため変形を生じやすく、嵌合部に変形が僅かでも生じた場合は、自動車の走行時の振動等により、軋み音が発生しやすくなる。軋み音は乗車時の快適性を大きく損ねてしまうが、特に高級車ほど、より高度な室内静粛性が求められので、軋み音の発生防止は極めて重要な課題である。
【0005】
ところが、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイからなる成形品は、振動時等、成形品同士が動的に接触すると軋み音(異音)を発生することが起こりやすい。この軋み音を低減するために、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイのABS樹脂をAES樹脂にすること(特許文献1参照)が提案されている。
しかしながら、ABS樹脂をAES樹脂に代替したアロイを成形した製品は高温環境下で長期に使用されると、軋み音が発生しやすくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、前記したような成形部材を嵌合しネジ留めするためにはセルフタップ性に優れることが併せて必要である。
本発明の課題(目的)は、軋み音(異音)の発生が少なく、車両用部品等として高温環境下で長期に使用される際にも軋み音(異音)の発生が少なく、且つ、セルフタップ性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂リッチであるポリカーボネート樹脂とABS樹脂等とのアロイに、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が特定量未満であるエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を特定の量で含有するポリカーボネート樹脂組成物が、軋み音(異音)の発生が少なく、かつセルフタップ性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関する。
【0009】
1.ポリカーボネート樹脂(A)55~90質量部と、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量部を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を1.5~5.5質量部を含有し、前記エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が0質量%超20質量%未満であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2.JIS K7214に基づくせん断強度が19MPa以上である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
4.成形品が自動車内装部品である上記3に記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、軋み音(異音)の発生が少なく、車両用部品等として高温環境下で長期にわたって使用される際にも軋み音(異音)の発生が少なく、セルフタップ性にも優れる。そのため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、特に自動車内装部品等として、特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)55~90質量部と、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量部を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を1.5~5.5質量部を含有し、前記エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が0質量%超20質量%未満であることを特徴とする。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限はなく、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。上記式中、Xは、一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、特には芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂とは、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素であるポリカーボネート樹脂をいう。芳香族ポリカーボネートは、各種ポリカーボネートの中でも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、優れている。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0017】
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0018】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0019】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0020】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0021】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0022】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0023】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0024】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0025】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0026】
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましく、それを単独で用いた重合体、又は両者を併せて使用した共重合体、あるいはこれら(共)重合体を混合したものが好ましい。
【0027】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
【0028】
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0029】
エチレングリコール、2,2’-オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0030】
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’-ビフェニルジメタノール、4,4’-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0031】
1,2-エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0033】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量[Mv]で10000~40000であることが好ましい。粘度平均分子量が10000未満では、機械的強度が十分ではなくなる傾向があり、粘度平均分子量が40000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなる傾向にある。粘度平均分子量は、より好ましくは16000~40000であり、さらに好ましくは18000~30000、特には18500~25000である。粘度平均分子量をこのような範囲に調節するには、後記するような分子量調節剤の量を制御する等の公知の方法で可能である。
【0036】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0037】
ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。このようにすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
【0038】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なるポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂に他の熱可塑性樹脂を混合したアロイ(混合物)として組み合わせて用いてもよい。
【0039】
さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0040】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0042】
[芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するグラフト共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)、ジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体である。グラフト共重合体(B)は、好ましくは、芳香族ビニル単量体成分(b1)40~80質量%、シアン化ビニル単量体成分(b2)10~30質量%、ジエン系ゴム質重合体成分(b3)10~50質量%からなることが好ましく、さらにその他の単量体成分(b4)0~30質量%を含有することもできる。
【0043】
グラフト共重合体(B)における芳香族ビニル単量体成分(b1)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
芳香族ビニル単量体成分(b1)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは40~80質量%の範囲であり、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、特に好ましくは65質量%以下である。
【0044】
グラフト共重合体(B)におけるシアン化ビニル単量体成分(b2)としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
シアン化ビニル単量体成分(b2)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは10~30質量%の範囲であり、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは26質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
【0045】
グラフト共重合体(B)のジエン系ゴム質重合体成分(b3)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等のゴム成分が用いられ、ジエン系ゴム質重合体成分(b3)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは10~50質量%の範囲であり、より好ましくは13質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは45質量%以下である。
【0046】
さらに、これらと共重合可能なその他の単量体成分(b4)を共重合したものでもよく、この場合、共重合可能な他のビニルモノマーとしては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。
その他の単量体成分(b4)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは0~30質量%の範囲であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、中でも5質量%以下、とりわけ3質量%以下、特には2質量%以下であることが好ましい。
【0047】
グラフト共重合体(B)の具体例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレングラフト共重合体、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体等が好ましく例示され、中でもアクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(ABS樹脂)が特に好ましい。
【0048】
グラフト共重合体(B)は、通常、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の方法で製造され、いずれの方法によるものでも使用可能である。
【0049】
グラフト共重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とグラフト共重合体(B)の合計100質量部基準で、10~45質量部であり、好ましくは12質量部以上、より好ましくは15質量部以上、好ましくは42質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。含有量がこのような範囲にあることで樹脂組成物の耐熱性と流動性に優れたものとすることが出来る。グラフト共重合体(B)の量が45質量部を超えると耐熱性が低下し、10質量部未満では流動性が低下する。
【0050】
[エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が0質量%超20質量%未満である。本発明では、このような(メタ)アクリル酸エステル由来単位量のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を、ポリカーボネート樹脂(A)とグラフト共重合体(B)のアロイに含有させることにより、軋み音(異音)の発生が少なく、車両用部品等として高温環境下で長期間使用される際にも軋み音(異音)の発生が少なく、セルフタップ性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を可能とする。
【0051】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタアクリル」の少なくともいずれかを意味する。
【0052】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)は、エチレン以外に他のα-オレフィンを含んでもよく、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられるが、エチレン単独が好ましい。
【0053】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、が好ましく、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。
【0054】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合が0質量%超20質量%である。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合がこのような少ない範囲にあることで、良好な軋み音特性と優れたセルフタップ性の両方を初めて両立させることが可能となる。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合が20質量%以上になると、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位が、酸化劣化しやすく高温環境下では特に劣化して異音を発生しやすくなる。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合の好ましい上限は19質量%、より好ましくは18質量%であり、好ましい下限は0.5質量%、より好ましくは1質量%、中でも2質量%、3質量%、4質量%、特に好ましくは5質量%である。
【0055】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)のMFRは10g/10分未満であることが好ましく、8g/10分未満がより好ましく、また、好ましくは1g/10分以上、より好ましくは2g/10分以上、3g/10分以上が好ましい。
ここで、MFRは、JIS K7210(1995)に従い、温度190℃、21.18N荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)である。
【0056】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、1.5~5.5質量部である。このような含有量であることで、耐衝撃性等の機械特性を維持しながら軋み音(異音)特性とセルフタップ性の両方を可能とすることができる。含有量が少ないと後記するように、異音リスク指数が初期およびエージング後も高くなり、含有量が多すぎるとセルフタップ性が悪くなる。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の含有量は、好ましくは2質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上である。
【0057】
[安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
【0058】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0059】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0060】
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)およびグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0061】
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0062】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0063】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)およびグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることで、フェノール系安定剤としての効果を十分得ることができる。また、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値以下にすることにより、効果が頭打ちになることなく、経済的である。
【0064】
[離型剤]
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤(滑剤)を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0065】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0066】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0067】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0068】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0069】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0070】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0071】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0072】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)およびグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることにより離型性の効果が十分に得られやすく、離型剤の含有量が前記範囲の上限値以下とすることにより、射出成形時の金型汚染などが生じにくくなる。
【0073】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)以外のその他の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0074】
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0075】
なお、上記(A)~(C)以外のその他の樹脂を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)およびグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0076】
前記した以外の他の樹脂添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、染顔料(酸化チタン、カーボンブラックを含む。)、帯電防止剤、充填材、難燃剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
なお、他の樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0077】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0078】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、異音発生が少なく、セルフタップ性に優れる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K7214に基づくせん断強度が好ましくは19MPa以上である。せん断強度はセルフタップ性と関連し、せん断強度が高い程、ネジ締め時の材料破壊に至る耐性、即ちセルフタップ破壊トルクに優れる。せん断強度の上限としては、好ましくは30MPa以下である。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ドイツ自動車工業会のVDA203-206に基づく異音リスク指数(RPN)が1~3の範囲にあることが好ましく、特に1であることが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、セルフタップ性に優れるので、セルフタップ破壊トルクは好ましくは1.00N・m以上であり、より好ましくは1.05N・m以上、特に1.10N・m以上が好ましい。
上記それぞれの具体的な測定方法の詳細は、実施例に記載する通りである。
【0079】
[成形体]
得られた樹脂組成物ペレットから成形体を製造する方法に制限はなく、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。成形が容易なことと生産性の観点から射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0080】
ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、軋み音(異音)の発生が少なく、高温環境下で長時間使用される際にも軋み音(異音)の発生が少なく、且つセルフタップ性にも優れる。そのため、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、成形品同士あるいは他の成形品と接触する部品、例えば自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野等の部品等として好適に使用でき、特に自動車内装部品として特に好適に使用できる。
【0081】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品を自動車内装部品とした場合、自動車の振動により部品同士あるいは他の部品と当接する際には、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような自動車内装部品としては、例えば、車内ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ、ダッシュボード、インストルメントパネル、オーバーヘッドコンソール、室内灯パネル、メーターパネル、ドアトリム、ルーフトリム、スイッチパネル、ドアライニング、デコレーションパネル、インジケータパネル、フロントピラーガーニッシュ、センターピラーアッパーガーニッシュ、リアピラーガーニッシュ、カウルサイドガーニッシュ、フロントリアサイドガーニッシュ、センターピラーロアーガーニッシュ等のピラーガーニッシュ類、ピラートリム、センターコンソール、コンソールボックス、インナーパネル、ドアポケット、アームレストベース、グラブレール、アシストグリップ、コラムカバー、ベンチレータ、ダクト、エアコン、スイッチ部品、カップホルダー、サブトランク、グローブボックス、トランクサイドトリム、トランクサイドライニング、テールゲートライニング、リアパネル等が挙げられる。
【実施例0082】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例に用いた各原料成分は、以下の表1の通りである。
【0083】
【0084】
[実施例1~9、比較例1~10]
上記表1に記載した各成分を、後記表2~3に記した割合(質量比)となるように配合し、タンブラーにて均一に混合して、混合物を得た。この混合物を二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SX」)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量25kg/時、バレル温度260℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押し出した。ストランドを水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0085】
<異音リスク指数(RPN)>
上記の方法で得られたペレットを、東芝機械社製の射出成形機「EC50SXII」を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件で射出成形することにより得た、縦60mm、横60mm、厚さ3mmの成形品(大試験片)を得た。また別途大試験片から、縦50mm、横25mm、厚さ3mmの小試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、軋み音評価用の小試験片を得た。
【0086】
得られた大試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機「SSP-04」の可動側ステージに、小試験片を固定側ステージにセットし、温度23℃、湿度50%RH、表2~3に記載した荷重(N)、速度(mm/秒)の条件で、ドイツ自動車工業会規格VDA230-206に基づき、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数(または異音発生リスクともいう。RPN)を測定した。
また、上記評価用の大および小試験片を85℃の恒温槽内で200時間放置(熱処理)した後、25℃で24時間冷却して熱処理した評価用試験片について、上記と同様にして、熱処理後の異音リスク指数を得た。
【0087】
当該装置により異音リスク指数(RPN)は1~10段階の10段階で表示される。異音リスク指数の数値が小さい方が軋み音が生じにくいことを意味し、大きい程、軋み音が発生しやすくなる。
なお、ドイツ自動車工業会規格VDA230-206によれば、異音リスク指数が1~3であれば、軋み音が発生するリスクは低くなり、実用品として合格レベルであるとされている。
得られた異音リスク指数(RPN)から以下のA~Cの基準で判定を行った。
A:試験した条件で最も高い異音リスク指数が1~3である
B:試験した条件で最も高い異音リスク指数が4~5である
C:試験した条件で最も高い異音リスク指数が6~10である
【0088】
<せん断強度(単位:MPa)>
上記で得られた縦60mm、横60mm、厚さ3mmの大試験片の中心に11mmの穴をドリルで開け、試験片を得た。これに対して、JIS K7214に基づき、せん断強度(単位:MPa)を測定した。
【0089】
<ネジ締め試験:セルフタップ破壊トルク(単位:N・m)>
上記で得られたペレットを100℃、5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製「SE50DUZ」)を用い、シリンダー設定温度240~260℃、金型温度60℃にて、70mm×45mm×3mmの板状部に、外径7.5mm×内径2.5mm×高さ10mmのボス穴が形成されたセルフタッピング試験用ボス穴試験片を射出成形した。
得られた試験片のボス穴に、ネジ(M3×8 Pタイプ、ネジ山径3.02mm、ネジ谷径2.17mm)をトルクドライバーにてねじ込み、ボス穴が雌ねじ破壊を起こし「ねじバカ」に至るトルクを測定し、セルフタップ破壊トルク(単位:N・m)とした。
得られたセルフタップ破壊トルクから以下のAとCの基準で判定を行った。
A:セルフタップ破壊トルクが1.00以上である
C:セルフタップ破壊トルクが1.00未満である
【0090】
【0091】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、軋み音(異音)の発生が少なく、かつ、セルフタップ性に優れるので、成形品同士あるいは他の成形品と接触する部品、例えば自動車分野、OA機器分野、家電、電気・電子分野等の部品等として好適に使用でき、特に自動車内装部品として特に好適に使用できる。