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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084522
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】研削用クーラント装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/03 20060101AFI20230612BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20230612BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20230612BHJP
   B03C 1/033 20060101ALI20230612BHJP
   B03C 1/16 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B24B55/03
B23Q11/00 U
B03C1/00 A
B03C1/033 101
B03C1/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198743
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】512325484
【氏名又は名称】有限会社ショウナンエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】佐澤 昌治
(72)【発明者】
【氏名】佐澤 直亮
【テーマコード(参考)】
3C011
3C047
【Fターム(参考)】
3C011BB31
3C047FF09
3C047GG17
3C047GG18
(57)【要約】
【課題】クーラントからスラッジ状のような微細な切粉を効率的に分離でき、廃棄物となるフィルターを使用しない。
【解決手段】第1槽202A、第2槽202Bを通過したクーラント中の切粉は、無端チェーン302Bの永久磁石307Bに吸引されてチップボックス308に排出される。無端チェーン302Aの永久磁石307Aの磁力は無端チェーン302Bの永久磁石307Bの磁力よりも強く設定されている。従って、第3槽202C、第4槽202Dを通過するクーラント中の微少な切粉は、無端チェーン302Aの永久磁石307Aで吸引してチップボックス308に排出することが可能となる。従って、第4槽202Dを通過したクーラントがサブクーラントタンク105に流入すると、クーラントポンプ107は、サブクーラントタンク105内のクーラントを磁気インラインフィルタ10に供給してさらに濾過する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤から排出されるクーラントから切粉を分離するための研削用クーラント装置において、
前記研削盤から排出された前記クーラントを受け入れ、かつ切粉を分離する非磁性体製のクーラントタンクと、
前記クーラントタンクの底板の下部に配置され、所定間隔を置いて配置された永久磁石を有し、前記永久磁石の磁力により、前記クーラントタンクの底板上に沈殿している磁性体の切粉を吸着して、前記クーラントから分離して排出し、回転駆動される無端チェーンを有するマグネット式チップコンベアと、
前記クーラントタンクから供給されるクーラントを浄化して、前記研削盤に供給するものであって、同軸に配置された内管、外管からなる二重管であり、前記クーラントタンクで浄化された前記クーラントを前記二重管の間の隙間である空間に流すための筒状体、前記内管の内周面側に配置された内周面側磁石、及び、前記外管の外周面側に配置された外周面側磁石とからなる磁気インラインフィルタと、
前記クーラントタンクで磁性体の切粉が分離された前記クーラントを前記磁気インラインフィルタに供給するためのポンプと
からなることを特徴とする研削用クーラント装置。
【請求項2】
請求項1に記載の研削用クーラント装置において、
前記クーラントタンクは、前記クーラントが一方向に流れるように、隔壁により区画された複数の液槽からなり、前記クーラントの流れの上流側の前記液槽の底板の下部に配置された前記永久磁石の磁力より、下流側の前記液槽の底板の下部に配置された永久磁石の磁力が強いものである
ことを特徴とする研削用クーラント装置。
【請求項3】
請求項2に記載の研削用クーラント装置において、
前記複数の液槽は、前記クーラントの流れに沿って、第1槽から第4槽からなり、前記永久磁石の磁気強度は、第1槽、及び第2槽が同一の磁気強度からなり、第3槽及び第4槽が第1槽、及び第2槽より強くて同一強度である
ことを特徴とする研削用クーラント装置。
【請求項4】
請求項1~3から選択される1項に記載の研削用クーラント装置において、
前記クーラントは、油性クーラントであり、前記研削盤は、歯面をCBN砥石で研削する歯車研削盤である
ことを特徴とする研削用クーラント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のクーラント装置に関する。更に詳しくは、歯車の研削時に排出されるスラッジ状の微細な切粉の分離に用いる研削用クーラント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械に用いられるクーラント装置は、切削加工位置からの切粉の排出、被加工物と工具の冷却、潤滑性の向上等のために油性、又は水溶性のクーラントが使用されている。同様に、歯車研削盤のクーラントも油性、又は水溶性が用いられている。歯車研削盤に用いる水溶性クーラント装置において、水溶性クーラントの上に浮遊している浮遊切粉を分離するために、噴射ノズルで吹き寄せてこれを効率的に取り除く、研削盤用水溶性クーラント再循環装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1の歯車研削盤は、ビトリファイド砥石で研削するものである。一方、自動車の変速機等の歯車の歯面は、近年、滑らかでかつ正確な寸法精度が求められている。更に、生産性の高い研削方法も求められている。
【0003】
このために、歯車の歯面の研削砥石に、ビトリファイド砥石に代わって、耐熱性が高く高速研削が可能なCBN(立方晶窒化ホウ素「cubic Boron Nitride」)砥石が用いられている。CBN砥石を用いた歯車研削の場合、高速研削のために切粉が微細(スラッジ)なので、通常は浮遊することはないが、大きな磁性切粉を磁気ドラムでクーラントから分離した後、更に微細な切粉は紙フィルター等を用いて分離する必要がある。紙フィルターを用いた場合、定期的な交換を行う手間がかかり、かつ紙フィルターは、産業廃棄物として処理しなければならずコスト高になるし、廃棄物の排出は環境的にも良くない。また、特許文献1に記載のクーラント装置は、磁気ドラムとサイクロン式の濾過装置を用いている。サイクロン式の濾過装置は、産業廃棄物は排出しない利点がある。
【0004】
また、ロール研削盤等でクーラント中に含まれている金属屑や砥石の砥粒等が混在した汚泥状の、いわゆるスラッジを分離する研削液処理装置が提案されている(特許文献2)。特許文献2の研削液処理装置は、タンクを2槽に分離し、工作機械から戻ったダーティクーラントを一方の槽に流し、浄化したクーラントを他方の槽に流すものである。また、特許文献2の研削液処理装置は、磁性切粉を分離するために、研削液収容容器の底板の下面(外面)に磁石を配置し、チェーン駆動されるかき板部材で底板の上面(内面)からスラッジを排除するものである。他方、本出願人は、磁性切粉そのものをフィルターとする磁気インラインフィルタを提案した(特許文献3)。この磁気インラインフィルタは、磁性切粉そのものをフィルターとするので、消耗品であり、廃棄物であるフィルターを必要としない利点がある。また、逆洗等の必要がなく、蓄積された磁性切粉をクーラントで流して排出するだけで良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-181612号
【特許文献2】特公昭63-59824号
【特許文献3】WO2014/098040号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CBN砥石を用いた歯車の研削の場合、通常、油性クーラントが使用されることが多い。油性クーラントを使用した場合、親油性の細かい切粉は一粒、一粒が油でコーティングされる。従って、特許文献1に記載されているような磁気ドラム式のマグネットセパレータでは、切粉の回収率が低くなる。この理由は、油でコーティングされているために切粉の磁化力が低く、クーラントの流速でマグネットセパレータから流出するためと考えられる。また、サイクロン式の濾過装置は、産業廃棄物は排出しない利点があるが、このための専用ポンプが必要となり、エネルギー損失につながる。更に、サイクロン式の濾過装置は、油でコーティングされている微細な切粉の分離性能は高くない。特許文献2の研削液処理装置は、磁性切粉を分離するために、かき板部材でスラッジを排除するものであるので、かき板部材が摩耗し、クーラントに切粉が混入することもあり、又、摩耗したかき板部材を定期的に交換する必要もある。
【0007】
本発明は、以上のような背景により以下の目的を達成するものである。
本発明の目的は、クーラントから微細な切粉を効率的に分離できる研削用クーラント装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、産業廃棄物が出ない研削用クーラント装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、エネルギー損失が少ない研削用クーラント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段を採る。
即ち、本発明1の研削用クーラント装置は、研削盤から排出されるクーラントから切粉を分離するための研削用クーラント装置において、
前記研削盤から排出された前記クーラントを受け入れ、かつ切粉を分離する非磁性体製のクーラントタンクと、
前記クーラントタンクの底板の下部に配置され、所定間隔を置いて配置された永久磁石を有し、前記永久磁石の磁力により、前記クーラントタンクの底板上に沈殿している磁性体の切粉を吸着して、前記クーラントから分離して排出し、回転駆動される無端チェーンを有するマグネット式チップコンベアと、
前記クーラントタンクから供給されるクーラントを浄化して、前記研削盤に供給するものであって、同軸に配置された内管、外管からなる二重管であり、前記クーラントタンクで浄化された前記クーラントを前記二重管の間の隙間である空間に流すための筒状体、前記内管の内周面側に配置された内周面側磁石、及び、前記外管の外周面側に配置された外周面側磁石からなる磁気インラインフィルタと、
前記クーラントタンクで磁性体の切粉が分離された前記クーラントを前記磁気インラインフィルタに供給するためのポンプとからなることを特徴とする。
【0009】
本発明2の研削用クーラント装置は、本発明1において、前記クーラントタンクは、前記クーラントが一方向に流れるように、隔壁により区画された複数の液槽からなり、前記クーラントの流れの上流側の前記液槽の底板の下部に配置された前記永久磁石の磁力より、下流側の前記液槽の底板の下部に配置された永久磁石の磁力が強いものであることを特徴とする。
本発明3の研削用クーラント装置は、本発明2において、前記複数の液槽は、前記クーラントの流れに沿って、第1槽から第4槽からなり、前記永久磁石の磁気強度は、第1槽、及び第2槽が同一の磁気強度からなり、第3槽及び第4槽が第1槽、及び第2槽より強くて同一強度であることを特徴とする。
本発明4の研削用クーラント装置は、本発明1~3から選択される1項において、前記クーラントは、油性クーラントであり、前記研削盤は、歯面をCBN砥石で研削する歯車研削盤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の研削用クーラント装置は、マグネット式チップコンベアと磁気インラインフィルタでクーラント中の切粉を分離するため、微細な切粉をクーラントから効率的に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の研削用クーラント装置を示す全体斜視図である。
図2図2は、図1の平面図である。
図3図3は、図2のP矢視図である。
図4図4は、図1のクーラントタンクの斜視図であり、上面の蓋を取り外した状態を示す。
図5図5は、クーラントタンクとマグネット式チップコンベアを示す図2のA-A断面図であり、クーラントタンクの上面に設置された機器を省略して示す。
図6図6は、図5のB-B断面図である。
図7図7は、本発明の研削用クーラント装置のクーラント回路図である。
図8図8は、図1から図2に示すの磁気インラインフィルタの縦断面図であり、流体シリンダのピストンロッドを最上部まで引っ込め、上端近傍の供給口から加工部にクーラントを供給している状態を示す。
図9図9は、図8の流体シリンダのピストンロッドを最下端まで伸ばし、下方にある排出口からクーラントを排出して、蓄積された切粉を外部に排出している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[研削用クーラント装置の概要]
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の研削用クーラント装置を示す全体斜視図、図2図1の平面図、図3図2のP矢視図である。図4図1のクーラントタンクの斜視図であり、上面の蓋を取り外した状態を示す。図5はクーラントタンクとマグネット式チップコンベアを示す図2のA-A断面図であり、クーラントタンクの上面に設置された機器を省略して示す。図6図5のB-B断面図、図7は本発明の研削用クーラント装置のクーラント回路図である。図8は磁気インラインフィルタの縦断面図であり、流体シリンダのピストンロッドを最上部まで引っ込め、上端近傍の供給口から加工部にクーラントを供給している状態を示す。図9図8の流体シリンダのピストンロッドを最下端まで伸ばし、下方にある排出口からクーラントを排出して、蓄積された切粉を外部に排出している状態を示す。図1から図9に示すように、歯車研削盤101(図2)のCBN砥石で研削された歯車の切粉や治具から洗い流された切粉は、歯車研削盤101の図示しないチップコンベアによって大きな切粉が回収される。その後、切粉は油性のクーラントと共にクーラント回収樋104A、104Bを通してクーラントタンク102に回収される。
【0013】
[クーラントタンクの構造]
クーラントタンク102はステンレス製(非磁性体製)で、図5で見て、右端が右上がりの傾斜面に形成されている。クーラントタンク102の底板106の下部には、マグネット式チップコンベア103に磁石が配置され、この磁石は底板106の裏面に接して移動し、クーラントタンク102の底板106上に沈殿している磁性体の切粉を吸着してクーラントから分離して排出する。クーラントタンク102の側面(図2の下側)には、サブクーラントタンク105が一体的に形成されている。サブクーラントタンク105の上面には、クーラントポンプ107、液面計110が載置されている。液面計110は、サブクーラントタンク105のクーラント液面の上限と下限を検知して、歯車研削盤101の図示しない操作盤の画面にアラームを表示する。
【0014】
クーラントタンク102の上面には、2個の磁気インラインフィルタ10が載置されている。この磁気インラインフィルタ10は、本出願人が提案したものでありその構造、機能は、公知である(特許文献3)。クーラントポンプ107は、サブクーラントタンク105内のクーラントを磁気インラインフィルタ10の導入口21(図7から図9参照)に供給する。図7に示すように、クーラントポンプ107と導入口21を接続する配管111の途中には、圧力計112と手動切換え弁113が取り付けられている。導入口21に供給されたクーラント中の切粉は、磁気インラインフィルタ10の磁場によって吸着されるため、クーラントが濾過される。
【0015】
濾過されたクーラントは、磁気インラインフィルタ10の供給口(クーラント出口)22からクーラント供給管114(図7参照)を介して歯車研削盤101の加工部(CBN砥石と歯車の接触位置)に供給され、清浄なクーラントで研削加工することができる。クーラント供給管114の途中には、クーラント供給管114を流れるクーラントの流量を検知するためのフロースイッチ115(図7参照)が取り付けられ、流量の下限を検知して、歯車研削盤101の図示しない操作盤の画面にアラームを表示する。
【0016】
クーラントタンク102の上面には、メッシュカゴ116が配置されている。磁気インラインフィルタ10の排出口23(図7から図9参照)には、排出口23から排出されたクーラントをメッシュカゴ116に排出するクーラント排出管117が接続されている。メッシュカゴ116は、クーラントから切粉を分離して蓄積するとともに、切粉が分離されたクーラントをクーラントタンク102に戻す。メッシュカゴ116に蓄積された切粉は、メッシュカゴ116をクーラントタンク102から取り外して、定期的に掃除する。
【0017】
図4に示すように、クーラントタンク102は、隔壁201A、201B、201Cによって長手方向に区画された4つの液槽(第1槽202A、第2槽202B、第3槽202C、第4槽202D)で構成されている。また、4つの第1槽202A、第2槽202B、第3槽202C、及び第4槽202Dには、横切る方向に堰板が配置されている。この堰板は、各槽の深さより短く形成されている。即ち、堰板の下部は、切粉が通過できる隙間が形成されている。堰板は、クーラントの乱流防ぎ、スラッジ状の切粉が拡散しないようにするものである。歯車研削盤101から排出されたクーラントは、クーラント回収樋104A、104Bを通してクーラントタンク102の第1槽202Aに流入する。隔壁201A、201B、201Cの下部には、各々複数の開口部203A、203B、203Cが形成されている。また、クーラントタンク102とサブクーラントタンク105との間の隔壁201Dには、2個の開口部203Dが形成されている。従って、クーラントポンプ107でサブクーラントタンク105内のクーラントを吸い上げると、第1槽202Aのクーラントは、第2槽202B、第3槽202C、第4槽202Dの順に通過して、サブクーラントタンク105に流入する。なお、本実施の形態の研削用クーラント装置は、クーラントポンプ107は1台のみで研削盤への供給から濾過まで行うので省エネルギーである。
【0018】
[マグネット式チップコンベアの構造]
図5に示すように、クーラントタンク102の底板106は、水平部106A、傾斜部106B、切粉落下部106Cで構成されている。マグネット式チップコンベア103は、図5の左右方向に長い箱状のチップコンベア本体301を備え、クーラントタンク102の底板106の水平部106A、傾斜部106B、切粉落下部106Cの下部にチップコンベア本体301が配置されている。図6に示すように、チップコンベア本体301の幅W1は、クーラントタンク102の第1槽202Aから第4槽202Dまでの幅W2とほぼ同一寸法に形成されている。チップコンベア本体301は、幅W1の1/2の幅W3の2個のチップコンベア本体301A、301Bを一体にして形成されている。チップコンベア本体301A、301Bには、無端チェーン302A、302Bがスプロケットホイール303、304に巻き付けられて配置されている。図示はしないが、スプロケットホイール303、304は、チップコンベア本体301A、301Bに各々回転可能に軸支されている。チップコンベア本体301Aのスプロケットホイール303と、チップコンベア本体301Bのスプロケットホイール303は、図5の紙面に直交する方向に配置された一本の回転軸(図示せず)で連結されている。同様に、チップコンベア本体301Aのスプロケットホイール304と、チップコンベア本体301Bのスプロケットホイール304も、図5の紙面に直交する方向に配置された一本の回転軸(図示せず)で連結されている。チップコンベア本体301A側で図5の右端のスプロケットホイール303はモータ305によって時計方向に回転し、無端チェーン302A、302Bは図5の時計回りに移動する。
【0019】
無端チェーン302A、302Bには、無端チェーン302A、302Bの長さ方向に等間隔に複数の板状の磁石保持体306A、306Bが各々固定されている。無端チェーン302Aの磁石保持体306Aには、永久磁石(希土類等の永久磁石)307Aが接着されて固定されている。同様に、無端チェーン302Bの磁石保持体306Bには、永久磁石(希土類等の永久磁石)307Bが接着されて固定されている。永久磁石307A、307Bは、図6の左右方向に各々複数固定されている。永久磁石307Aの厚みは永久磁石307Bの厚みよりも厚く形成されているため、永久磁石307Aの磁力(磁束密度)は永久磁石307Bの磁力よりも強く設定されている。即ち、スラッジ状の微細な切粉も吸着できるものである。
【0020】
[マグネット式チップコンベアの動作]
モータ305によって、スプロケットホイール303が図5の時計方向に回転すると、無端チェーン302A、302Bがクーラントタンク102の底板106の裏面に沿って図5の時計回りに移動する。従って、底板106に堆積した切粉は、永久磁石307A、303Bに吸引されて図5の右方に移動する。即ち、クーラントから分離された切粉は、水平部106A、傾斜部106Bを経由して、切粉落下部106Cに移動する。傾斜部106Bでは重力によって、切粉が落下する。右端のスプロケットホイール303で無端チェーン302A、302Bが反転し、切粉落下部106Cから永久磁石307A、307Bが離れるため、切粉落下部106Cからチップボックス308に切粉が落下する。
【0021】
第1槽202A、第2槽202Bを通過したクーラント中の切粉は、無端チェーン302Bの永久磁石307Bに吸引されて、チップボックス308に排出される。しかし、第3槽202Cに流入したクーラント中には微少な切粉が残っている。無端チェーン302Aの永久磁石307Aの磁力は、無端チェーン302Bの永久磁石307Bの磁力よりも強く設定されている。従って、第3槽202C、第4槽202Dを通過するクーラント中の微少な切粉は、無端チェーン302Aの永久磁石307Aで吸引してチップボックス308に排出することが可能となる。しかし、クーラント中に混入している微少な切粉は沈殿しないので、マグネット式チップコンベア103では処理することができない。従って、第4槽202Dを通過したクーラントがサブクーラントタンク105に流入すると、クーラントポンプ107は、サブクーラントタンク105内のクーラントを磁気インラインフィルタ10に供給してさらに濾過する。
【0022】
[磁気インラインフィルタの構造]
図8図9に示すように、磁気インラインフィルタ10は、オーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性体で作られた内管1と外管2で構成された筒状体3を有する。筒状体3は、この内管1の内周面に配置された内周面側磁石4、この外管2の外周面に配置された外周面側磁石5、内周面側磁石4及び外周面側磁石5を軸方向に移動させる流体シリンダ61で構成されている。
【0023】
筒状体3は、円筒状の内管1と円筒状の外管2が同軸に配置された二重管である。内管1の軸方向長さは外管2の軸方向長さのほぼ2倍に形成され、内管1の下端が矩形の下板71に溶接によって固定されて垂直に立設されている。外管2は内管1の上部に配置され、内管1と外管2の間の隙間である空間31をクーラントが流れる。空間31の上端には上蓋32が溶接され、空間31の下端には底蓋33が溶接されて、内管1と外管2を一体化すると共に、空間31を区画している。
【0024】
外管2の軸方向長さの下端近傍には、空間31にクーラント(切粉が混入した汚水)を導入する導入口21が形成されている。また外管2の軸方向長さの上端近傍には、空間31で浄化されたクーラントを加工部に供給する供給口22が形成されている。また、外管2には、導入口21よりも下方に排出口23が形成され、排出口23は空間31に蓄積された切粉を空間31の外部に排出するための出口である。排出口23には、ソレノイドで作動する切換え弁231が取り付けられ、クーラントタンク102のメッシュカゴ116に切粉を排出する。クーラントの濾過時には、切換え弁231は排出口23を遮断する。底蓋33は、導入口21から排出口23に向かって下降する傾斜面に形成され、切粉は排出口23から外部に容易に排出される。
【0025】
内管1の内周面11には、内周面11と若干の隙間を有して内周面側磁石4が配置されている。内周面側磁石4は接着剤等で固定された複数の磁石42で構成されている。磁石42は軸直角方向の形状が扇形に形成され、内管1の内周面11の全周に渡って等角度(30度)間隔に複数(12個)配置されると共に、円筒状の磁石保持体41に固定されている。磁石42は軸方向に10個積層し、外管2の軸方向長さとほぼ同一の軸方向長さに渡って配置されている。
【0026】
内周面側磁石4は、内管1の軸方向に移動可能で、空間31に対面した濾過位置と、空間31から遠ざけられた切粉排出位置との間で駆動される。すなわち、矩形の下板71と矩形の上板72との間には、構造用鋼で作られた3本の円柱状の案内ロッド73が垂直に固定されている。上板72は、筒状体3の上部に若干の隙間を有して配置されている。案内ロッド73は磁石保持体41を貫通して上下に延び、円筒形のリニアブッシュ74、74に摺動可能に組み付けられている。リニアブッシュ74、74は、磁石保持体41の上端と下端に押さえ板43、43によって固定されている。押さえ板43、43は円盤状で、磁石42の上端面と下端面に固定されている。案内ロッド73とリニアブッシュ74、74との間には転がり運動可能に複数のボール(図示せず)が介在し、軽快な直線運動を可能にしている。
【0027】
上板72の上面には流体シリンダ61が固定され、流体シリンダ61の下端から突出するピストンロッド62が、磁石保持体41の上端面にねじ込まれて固定されている。従って、流体シリンダ61に供給する油圧を切り換えることによって、内周面側磁石4は、空間31に対面した濾過位置と、空間31から遠ざけられた切粉排出位置との間で駆動される。外管2の外周面24には、外周面24と若干の隙間を有して外周面側磁石5が配置されている。外周面側磁石5は、2個の半円弧柱状の磁石保持体51、51と、磁石保持体51、51の内周面に、接着剤で固定された複数の磁石52で構成されている。磁石保持体51、51は、外管2の軸方向長さとほぼ同一の軸方向長さに形成され、構造用鋼等の磁性体の金属で成形されている。磁石52は軸直角方向断面が扇形に形成され、外管2の外周面24の全周に渡って等角度間隔に複数配置されると共に、軸方向に10個積層し、外管2の軸方向長さとほぼ同一の軸方向長さに渡って配置されている。
【0028】
外周面側磁石5は、外管2の軸方向に移動可能で、空間31に対面した濾過位置と、空間31から遠ざけられた切粉排出位置との間で駆動される。すなわち、矩形の下板71と矩形の上板72との間には、4本の円柱状の案内ロッド75が垂直に固定されている。各々の磁石保持体51、51を2本の案内ロッド75が貫通して上下に延び、円筒形のリニアブッシュ76、76に摺動可能に組み付けられている。リニアブッシュ76、76は、磁石保持体51、51の上端と下端に押さえ板53、53によって固定されている。押さえ板53、53は軸直角方向断面が半円弧状の板で、磁石保持体51、51の上端面と下端面に固定されている。案内ロッド75とリニアブッシュ76、76との間には転がり運動可能に複数のボール(図示せず)が介在し、軽快な直線運動を可能にしている。
【0029】
外周面側磁石5は内周面側磁石4と同期して駆動される。外周面側磁石5の下端の押さえ板53と、内周面側磁石4の下端の押さえ板43は、軸直角方向断面が矩形の連結板77によって連結されている。従って、流体シリンダ61に供給する油圧を切り換えることによって、内周面側磁石4と外周面側磁石5は、空間31に対面した濾過位置と、空間31から遠ざけられた切粉排出位置との間で同期して駆動される。
【0030】
内周面側磁石4の磁石42は、磁性体である磁石保持体41に固定されている。このために、磁力線はN極から出発して空中に出てからS極に終端する。このとき、磁石42に最も隣接しているのは、非磁性体で作られた内管1であるから、磁力線が曲げられることはない。この磁場に切粉が流れてくると、内管1の外周面12上に補足されることになる。同様に、外周面側磁石5の磁石52は、磁性体である磁石保持体51に固定されている。このために、磁力線はN極から出発して空中に出てからS極に終端する。このとき、磁石52に最も隣接しているのは、非磁性体で作られた外管2であるから、磁力線が曲げられることはない。この磁場に切粉が流れてくると、外管2の内周面25上に補足されることになる。
【0031】
一方、内周面側磁石4と外周面側磁石5は、異なる極性で対向して配置されている。内周面側磁石4の磁石42は、外周面側がS極、内周面側がN極に設定されている。また、外周面側磁石5の磁石52は、内周面側がN極、外周面側がS極に設定されている。通常、磁石のS極の近くに別の磁石のN極を近づけると引力が働くことが知られている。即ち、磁力線は磁気量が正のN極から出て、磁気量が負のS極に入る。従って、外周面側磁石5の磁石52と内周面側磁石4の磁石42との間に、磁気量が正のN極から磁気量が負のS極に入る磁力線が形成される。このように、放射方向への磁場が強くなるため、クーラント中の切粉が空間31の両側の壁面(内管1の外周面12と外管2の内周面25)に吸着し、この吸着した切粉が蓄積されてブリッジする。その結果、ブリッジした切粉の隙間をクーラントを通過させることによって、精密な濾過が可能になる。また、放射方向への磁場が強く、切粉を効率的に吸着するため、特別なフィルタ部材が不要となる。要するに、切粉自身が切粉のフィルターとなる。
【0032】
[磁気インラインフィルタの動作]
図8に示すように、流体シリンダ61のピストンロッド62を最上部まで引っ込め、内周面側磁石4と外周面側磁石5が空間31に対面した濾過位置にする。この状態で、切換え弁231のソレノイドを作動し、排出口23を遮断する。外管2の下端近傍の導入口21から空間31にクーラントを導入し、上端近傍の供給口22から歯車研削盤101にクーラントを供給する。放射方向への磁場が強いため、クーラント中の切粉が空間31の両側の壁面に吸着し、クーラントが濾過される。クーラントの供給を続けると、壁面に吸着した切粉が蓄積されてブリッジする。その結果、ブリッジした切粉の隙間をクーラントが通過するため、精密な濾過が可能になる。
【0033】
歯車研削盤101の加工が終了したら、図9に示すように、流体シリンダ61のピストンロッド62を最下端まで伸ばし、内周面側磁石4と外周面側磁石5を空間31から遠ざけられた切粉排出位置にする。従って、空間31に作用する磁力が無くなり、空間31の両側の壁面に吸着した切粉は、空間31の壁面から離脱し易くなる。切換え弁231のソレノイドを作動し、排出口23からクーラントタンク102のメッシュカゴ116に切粉を排出する。すなわち、外管2の下端近傍の導入口21から空間31にクーラントを導入し、導入口21よりも下方にある排出口23からクーラントを排出する。底蓋33は、導入口21から排出口23に向かって下降する傾斜面に形成されているため、空間31に蓄積された切粉が排出口23から外部に容易に排出される。切粉の排出時には、図7に示す切換え弁232、233、234を切り替え、磁気インラインフィルタ10を経由せずに、歯車研削盤101にクーラントを供給することができる。
【0034】
[冷却器、ミストコレクタ]
図1から図3に示すように、クーラントタンク102の左横にはクーラントを所定温度に冷却する冷却器118が取り付けられている。図7に示す手動切換え弁119を操作して、冷却器118にクーラントを供給して冷却する。冷却したクーラントはクーラント回収樋121を介してクーラントタンク102に戻す。図1から図3に示すクーラントタンク102上のミストコレクタ120は、歯車研削盤101の加工領域に充満するミストを回収して、作業環境を良好に保ち、火災の危険性を低減し、かつ環境の浄化となる。
【0035】
本発明の実施の形態の研削用クーラント装置は、マグネット式チップコンベアと磁気インラインフィルタでクーラント中の切粉を分離するため、微細な切粉をクーラントから効率的に分離できる。また、本発明の実施の形態の研削用クーラント装置のクーラントタンクは、クーラントが一方向に流れるように、隔壁により区画された複数の液槽からなり、クーラントの流れの上流側の液槽の底板の下部に配置された永久磁石の磁力より、下流側の液槽の底板の下部に配置された永久磁石の磁力を強くしている。従って、まず、上流側の液槽の底板の下部に配置された無端チェーン302Bの永久磁石307Bで切粉を吸引してチップボックス308に排出する。次に、上流側で排出できなかったクーラント中の微少な切粉は、下流側の液槽の底板の下部に配置された無端チェーン302Aの永久磁石307Aで吸引してチップボックス308に排出することが可能となる。また、本発明の実施の形態の研削用クーラント装置は、紙フィルタ等の消耗品が無いため、産業廃棄物やランニングコストが削減される。更に、本発明の実施の形態の研削用クーラント装置は、加工用のクーラントポンプ以外のポンプを使用しないので、エネルギー損失が少ない。更に、本発明の実施の形態の研削用クーラント装置は、マグネット式チップコンベアには磁性切粉を分離するためのかき板部材が不要なので、摩耗部分が無くメンテナンス費用を削減できる。
【符号の説明】
【0036】
10…磁気インラインフィルタ
1…内管
11…内周面
12…外周面
2…外管
21…導入口
22…供給口
23…排出口
231、232、233、234…切換え弁
24…外周面
25…内周面
3…筒状体
31…空間(隙間)
32…上蓋
33…底蓋
4…内周面側磁石
41…磁石保持体
42…磁石
43…押さえ板
5…外周面側磁石
51…磁石保持体
52…磁石
53…押さえ板
61…流体シリンダ
62…ピストンロッド
71…下板
72…上板
73…案内ロッド
74…リニアブッシュ
75…案内ロッド
76…リニアブッシュ
77…連結板
101…歯車研削盤
102…クーラントタンク
103…マグネット式チップコンベア
104A、104B…クーラント回収樋
105…サブクーラントタンク
106…底板
106A…水平部
106B…傾斜部
106C…切粉落下部
107…クーラントポンプ
110…液面計
111…配管
112…圧力計
113…手動切換え弁
114…クーラント供給管
115…フロースイッチ
116…メッシュカゴ
117…クーラント排出管
118…冷却器
119…手動切換え弁
120…ミストコレクタ
121…クーラント回収樋
201A、201B、201C、201D…隔壁
202A…第1槽
202B…第2槽
202C…第3槽
202D…第4槽
203A、203B、203C、203D…開口部
301、301A、301B…チップコンベア本体
302A、302B…無端チェーン
303、304…スプロケットホイール
305…モータ
306A、306B…磁石保持体
307A、307B…永久磁石
308…チップボックス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9