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特開2023-84547アクリル系重合体、焼成用バインダー組成物、及び焼成用ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084547
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】アクリル系重合体、焼成用バインダー組成物、及び焼成用ペースト
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/30 20060101AFI20230612BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20230612BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230612BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08F20/30
C08L33/06
C08K5/17
C04B35/634 240
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198791
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】閑念 郁尋
(72)【発明者】
【氏名】松橋 洋介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 峰大
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG041
4J002CM012
4J002EN036
4J002FD202
4J002FD206
4J100AJ02S
4J100AL03Q
4J100AL03R
4J100AL08P
4J100AL08T
4J100BA03T
4J100BA11P
4J100BA15T
4J100BA16T
4J100BC58P
4J100CA03
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】焼成用バインダー組成物に配合することで、焼成用バインダー組成物の熱分解性を損なうことなく、焼成用バインダー組成物を含む焼成用ペーストから作製されるグリーンシートの強度を高めることができるアクリル系重合体(A)を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体(A)は、焼成用バインダー組成物に配合されるアクリル系重合体(A)であり、式(1)で示される構成単位(a)を有する。式(1)において、Rは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基、エチレン基又はエトキシエチレン基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成用バインダー組成物に配合されるアクリル系重合体(A)であり、
式(1)で示される構成単位(a)を有し、
【化1】
前記式(1)において、Rは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基、エチレン基又はエトキシエチレン基である、
アクリル系重合体。
【請求項2】
式(2)で示される構成単位(b)を更に有し、
【化2】
前記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基である、
請求項1に記載のアクリル系重合体。
【請求項3】
カルボキシル基を有する不飽和単量体の残基である構成単位(c)を更に有する、
請求項1又は2に記載のアクリル系重合体。
【請求項4】
前記構成単位(c)が、式(3)で示される構成単位(C1)を含有し、
【化3】
前記式(3)において、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は式(4)で示される置換基であり、
【化4】
前記式(4)において、Rはメチレン基又はエチレン基、Rはメチレン基又はエチレン基である、
請求項3に記載のアクリル系重合体。
【請求項5】
水酸基を含有する不飽和単量体の残基である構造単位(d)を更に有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアクリル系重合体。
【請求項6】
前記構造単位(d)が、下記式(5)で示される構成単位(D1)を含有し、
【化5】
前記式(5)において、Rは水素原子又はメチル基、R10は炭素数1~4のヒドロキシアルキル基である、
請求項5に記載のアクリル系重合体。
【請求項7】
前記構造単位(a)の百分比が、前記アクリル系重合体(A)に対し2質量%以上20質量%以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のアクリル系重合体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のアクリル系重合体(A)を含有する、
焼成用バインダー組成物。
【請求項9】
多官能アミン化合物(B)を更に含有する、
請求項8に記載の焼成用バインダー組成物。
【請求項10】
前記多官能アミン化合物(B)が、脂肪族ジアミンを含有する、
請求項9に記載の焼成用バインダー組成物。
【請求項11】
前記脂肪族ジアミンが、エチレンジアミンとヘキサメチレンジアミンとのうち少なくとも一方を含有する、
請求項10に記載の焼成用バインダー組成物。
【請求項12】
前記多官能アミン化合物(B)が、ポリエチレンイミンを含有する、
請求項9に記載の焼成用バインダー組成物。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか一項に記載の焼成用バインダー組成物と、無機粉体とを含有する、
焼成用ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系重合体、焼成用バインダー組成物、及び焼成用ペーストに関し、詳しくは焼成用バインダー組成物に配合されるアクリル系重合体、前記アクリル系重合体を含有する焼成用バインダー組成物、及び前記焼成用バインダー組成物を含有する焼成用ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
無機粉末の焼結体を作製するための焼成用ペーストに配合される焼成用バインダー組成物に関し、特許文献1には、ポリビニルブチラールと、カルボキシル基含有アクリル系モノマーと窒素含有アクリル系モノマーとのうち少なくとも一方を含有するアクリル系モノマーを、有機溶剤中で、ポリビニルブチラールの存在下で、ポリビニルブチラールとは反応させずに重合させて合成されたアクリル系重合体とを含有する焼成用バインダー組成物が、開示されている。焼成用バインダー組成物と無機粉末とを含有する焼成用ペーストからグリーンシートを成形でき、このグリーンシートを焼成することで、無機粉末の焼結体が作製される。無機粉末の焼結体を、各種電子機器における電極、導体配線、積層コンデンサにおける誘電体層などに、適用できる。
【0003】
特許文献1に記載の技術によれば、ポリビニルブチラールによるグリーンシートへの高い強度の付与と、アクリル系重合体による良好な熱分解性という両者の長所を活用でき、かつ安定性の高い焼成用バインダー組成物を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5767737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、焼成用バインダー組成物の熱分解性を維持しながら、グリーンシートの取り扱い性を更に高めるためにグリーンシートの強度を更に向上すべく、研究開発を進めた。
【0006】
本発明の課題は、焼成用バインダー組成物に配合することで、焼成用バインダー組成物の熱分解性を損なうことなく、焼成用バインダー組成物を含む焼成用ペーストから作製されるグリーンシートの強度を高めることができるアクリル系重合体(A)、このアクリル系重合体(A)を含有する焼成用バインダー組成物、及びこの焼成用バインダー組成物を含有する焼成用ペーストを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様に係るアクリル系重合体(A)は、焼成用バインダー組成物に配合されるアクリル系重合体(A)であり、式(1)で示される構成単位(a)を有する。
【0008】
【化1】
【0009】
前記式(1)において、Rは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基、エチレン基又はエトキシエチレン基である。
【0010】
本発明の一態様に係る焼成用バインダーは、前記アクリル系重合体(A)を含有する。
【0011】
本発明の一態様に係る焼成用ペーストは、前記焼成用バインダー組成物と、無機粉体とを含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成用バインダー組成物に配合することで、焼成用バインダー組成物の熱分解性を損なうことなく、焼成用バインダー組成物を含む焼成用ペーストから作製されるグリーンシートの強度を高めることができるアクリル系重合体、このアクリル系重合体を含有する焼成用バインダー組成物、及びこの焼成用バインダー組成物を含有する焼成用ペーストを、提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎず、本発明は設計に応じ種々の変更が可能である。
【0014】
1.アクリル系重合体
本実施形態に係るアクリル系重合体(A)は、焼成用バインダー組成物に配合される。アクリル系重合体(A)は、(メタ)アクリル化合物を含む重合性単量体を重合して合成される。(メタ)アクリル化合物とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリ-」とは、「アクリ-」と「メタクリ-」とのうち少なくとも一方を意味し、すなわち「アクリ-」及び「メタクリ-」の上位概念である。
【0015】
アクリル系重合体(A)は、式(1)で示される構成単位(a)を有する。
【0016】
【化2】
【0017】
式(1)において、Rは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基、エチレン基又はエトキシエチレン基である。
【0018】
本実施形態によれば、このアクリル系重合体(A)を焼成用バインダー組成物に配合することで、焼成用バインダー組成物の熱分解性を損なうことなく、焼成用バインダー組成物を含む焼成用ペーストから作製されるグリーンシートの強度を高めることができる。
【0019】
構造単位(a)の百分比は、アクリル系重合体(A)に対し2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。構造単位(a)の百分比が2質量%以上であればグリーンシートの硬さを特に高めることができ、かつこの百分比が20質量%以下であればグリーンシートが適度な柔軟性を有することができる。このため、構造単位(a)によってグリーンシートの強度を特に高めることができる。この構造単位(a)の百分比は、2.5質量%以上であればより好ましく、5質量%以上であれば更に好ましい。また、この構造単位(a)の百分比は、17.5質量%以下であればより好ましく、15質量%以下であれば更に好ましい。
【0020】
アクリル系重合体(A)は、式(2)で示される構成単位(b)を有してもよい。
【0021】
【化3】
【0022】
式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基である。
【0023】
構成単位(b)によって、アクリル系重合体(A)が、成形性及び熱分解性などのバインダーとしての良好な特性を有しうる。
【0024】
構造単位(b)の百分比は、例えばアクリル系重合体(A)に対し、5質量%以上95質量%以下である。この構造単位(b)の百分比は、10質量%以上であればより好ましく、15質量%以上であれば更に好ましい。また、この構造単位(b)の百分比は、90質量%以下であればより好ましく、85質量%以下であれば更に好ましい。
【0025】
アクリル系重合体(A)は、カルボキシル基を有する不飽和単量体の残基である構成単位(c)を有してもよい。この場合、焼成用ペースト中でのアクリル系重合体(A)と無機粉体との親和性を高めることができ、このため、焼成用ペーストをシート状に成形しやすく、かつグリーンシートの強度を更に高めることができる。
【0026】
アクリル系重合体(A)が構造単位(c)を有する場合、構造単位(c)の百分比は、アクリル系重合体(A)に対し1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この構造単位(c)の百分比は、2質量%以上であればより好ましい。また、この構造単位(c)の百分比は、5質量%以下であればより好ましい。
【0027】
構成単位(c)は、例えば式(3)で示される構成単位(C1)を含有する。
【0028】
【化4】
【0029】
式(3)において、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は式(4)で示される置換基である。
【0030】
【化5】
【0031】
式(4)において、Rはメチレン基又はエチレン基、Rはメチレン基又はエチレン基である。
【0032】
アクリル系重合体(A)は、水酸基を含有する不飽和単量体の残基である構造単位(d)を含有してもよい。この場合、焼成用ペースト中でのアクリル系重合体(A)と無機粉体との親和性を高めるとともに、分子内相互作用を高めることができ、このため、焼成用ペーストをシート状に成形しやすく、かつグリーンシートの強度を更に高めることができる。
【0033】
アクリル系重合体(A)が構造単位(d)を有する場合、構造単位(d)の百分比は、アクリル系重合体(A)に対し、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この構造単位(d)の百分比は、35質量%以上であればより好ましく、40質量%以上であれば更に好ましい。また、この構造単位(d)の百分比は、55質量%以下であればより好ましく、50質量%以下であれば更に好ましい。
【0034】
構造単位(d)は、例えば式(5)で示される構成単位(D1)を含有する。
【0035】
【化6】
【0036】
式(5)において、Rは水素原子又はメチル基、R10は炭素数1~4のヒドロキシアルキル基である。
【0037】
アクリル系重合体(A)は、構成単位として、構成単位(a)及び構成単位(b)を有してもよく、構成単位(a)、構成単位(b)、及び構成単位(c)を有してもよく、構成単位(a)、構成単位(b)、及び構成単位(d)を有してよく、構成単位(a)、構成単位(b)、構成単位(c)及び構成単位(d)を有してもよい。
【0038】
また、アクリル系重合体(A)は、構成単位(a)、構成単位(b)、構成単位(c)及び構成単位(d)以外の構成単位(以下、構成単位(e)という)を有してもよく、有さなくてよい。アクリル系重合体(A)が構成単位(e)を有する場合、構造単位(e)の百分比は、アクリル系重合体(A)に対し10質量%以下であることが好ましい。
【0039】
構成単位(e)を生成することのできる不飽和エチレン性単量体としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸(3-フェノキシフェニル)メチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アセトアセトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸アリル等が例示される。
【0040】
また、アクリル系重合体(A)は、一分子中に二以上の重合性不飽和基を有する多官能単量体の残基である構成単位(e1)を有さないことが好ましい。アクリル系重合体(A)が構成単位(e1)を有する場合は、構造単位(e1)の百分比は、アクリル系重合体(A)に対し5質量%以下であることが好ましい。この場合、アクリル系重合体(A)を含有する焼成用バインダー組成物の過度な増粘を抑制することができ、焼成用バインダー組成物を含有する焼成用ペーストの成形性を悪化させないようにできる。また、アクリル系重合体(A)が構成単位(e1)を有さず、又は構造単位(e1)の百分比がアクリル系重合体(A)に対し5質量%以下であると、焼成用バインダー組成物の燃焼性が更に向上する。これは、アクリル系重合体(A)の骨格に三次元状のネットワークが形成されにくくなることで、燃焼時のアクリル系重合体(A)の解重合が阻害されにくくなるためであると、推定される。
【0041】
アクリル系重合体(A)は、例えば溶液重合法で合成される。例えば溶媒に、アクリル系重合体(A)の原料となる重合性単量体と重合開始剤とを配合することで反応性溶液を調製する。重合性単量体は、アクリル系重合体(A)の有する各構成単位に対応する単量体である。反応性溶液に更に連鎖移動剤を配合してもよい。この反応性溶液を不活性雰囲気下で加熱しながら攪拌することで重合性単量体を重合させることで、アクリル系重合体(A)が合成される。
【0042】
溶剤には、重合性単量体及びアクリル系重合体(A)を溶解或いは分散させ得るのであれば、特に制限はない。溶剤は、例えば、トルエン、キシレン、エタノール、2-プロパノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、フェニルプロピレングリコール、フェニルグリコール、テキサノール、ベンジルアルコール、フェニルジグリコール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、オクタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルカルビトールアセテート、及びソルベントナフサ等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0043】
重合開始剤は、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)等のアゾ化合物;4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びジ-t-ブチルパーオキサイド等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0044】
連鎖移動剤は、例えばn-ドデシルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール及びα-メチルスチレンダイマー等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0045】
アクリル系重合体(A)の重量平均分子量は、例えば5万以上25万以下である。この重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算の相対平均重量分子量である。
【0046】
2.焼成用バインダー組成物
焼成用バインダー組成物は、上述のアクリル系重合体(A)を含有する。焼成用バインダー組成物は、必要により、更に溶剤を含有してもよい。また、焼成用バインダー組成物は、必要により、分散剤、可塑剤等の添加剤を更に含有してもよい。
【0047】
焼成用バインダー組成物は、多官能アミン化合物(B)を更に含有してもよい。焼成用バインダー組成物が多官能アミン化合物(B)を含有する場合、グリーンシートの強度が更に高まりうる。これは、焼成用バインダー組成物から焼成用ペーストが調製され、さらに焼成用ペーストからグリーンシートが作製される過程で、アクリル系重合体(A)における構造単位(a)中のシクロカーボネート基と多官能アミン化合物(B)中のアミノ基とが反応することで、ウレタン結合が形成され、これにより架橋構造が形成されるためであると推定される。
【0048】
アクリル系重合体(A)と多官能アミンのとの反応により形成される構造の例を、式(6)に示す。
【0049】
【化7】
【0050】
式(6)中、R11は各々独立に水素原子又はメチル基であり、R12は各々独立にメチレン基、エチレン基又はエトキシエチレン基であり、Aは多官能アミン化合物(B)の残基である。
【0051】
なお、多官能アミン化合物(B)は、燃焼すると残渣が残りやすいため、本来であれば焼成用バインダー組成物に配合することは好ましくない。しかし、本実施形態において、焼成用バインダー組成物が多官能アミン化合物(B)を含有すると、多官能アミン化合物(B)がアクリル系重合体(A)のシクロカーボネート基と結合してウレタン結合が形成された場合、残渣が残りにくくなる。そのため、本実施形態では、多官能アミン化合物(B)によって焼成用バインダー組成物の熱分解性が阻害されにくい。
【0052】
また、アクリル系共重合体と多官能アミン化合物との反応は、主として焼成用ペーストを乾燥させてグリーンシートが作製される過程で起こる。そのため、焼成用バインダー組成物の調製時及び焼成用ペーストの調製時には、アクリル系共重合体と多官能アミン化合物との反応によるゲル化及び増粘等は起こりにくく、そのため、焼成用バインダー組成物及び焼成用ペーストの調製の取り扱い性の悪化、及び焼成用ペーストからグリーンシートを作製する際の成形性の悪化などの不具合は生じにくい。
【0053】
多官能アミン化合物は、脂肪族ジアミンを含有することが好ましい。この場合、グリーンシートが適度な柔軟性を有することができ、このため、グリーンシートの強度がより向上しうる。
【0054】
脂肪族ジアミンは、エチレンジアミンとヘキサメチレンジアミンとのうち少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、グリーンシートの強度が更に向上しうる。
【0055】
多官能アミンは、3官能以上のアミンを含有してよく、例えばポリエチレンイミンを含有してもよい。ポリエチレンイミンも、グリーンシートの強度をより向上することができる。
【0056】
多官能アミン化合物に含まれるアミノ基の割合は、アクリル系重合体(A)の有するシクロカーボネート基に対して95モル%以上105モル%以下であることが好ましい。多官能アミンの割合が95モル%以上であると、グリーンシートの強度がより向上しうる。また、この割合が105モル%以下であれば、焼成用バインダー組成物の熱分解性がより阻害されにくい。この割合は97モル%以上であればより好ましく、99モル%以上であれば更に好ましい。また、この割合は、103モル%以下であればより好ましく、101モル%以下であれば更に好ましい。
【0057】
3.焼成用ペースト
焼成用ペーストは、焼成用バインダー組成物と無機粉体とを含有する。
【0058】
無機粉体は、焼成用ペーストの用途に応じた適宜の粉体を含有することができる。例えば無機粉体は、金、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、ビスマス、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、珪酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、及びLiO・Al・SiO系無機ガラスからなる群から選ばれる一種以上の材料を含有することができる。
【0059】
焼成用ペースト中の焼成用バインダー組成物の量及び無機粉体の量は、焼成用ペーストの良好な塗布性、及び焼成用ペーストを焼結させて得られる要素の良好な特性が維持されるように、適宜調整されることが好ましい。例えば焼成用バインダー組成物100質量部に対する無機粉体の量が、20質量部以上4000質量部以下である。
【0060】
焼成用ペーストを使用する際には、例えばまず焼成用ペーストをシート状に成形する。焼成用ペーストの成形方法は、例えばスクリーン印刷法、デイスペンス法、又はドクターブレード法等であるが、これらに制限されない。さらにシート状の焼成用ペーストを加熱することで乾燥させる。このとき、乾燥のために焼成用ペーストを加熱する条件は、例えば加熱温度100℃以上200℃以下、加熱時間1時間以上10時間以下である。焼成用ペーストをまず室温で自然乾燥させてから、加熱することで更に乾燥させてもよい。これにより、焼成用バインダー組成物中の溶剤が揮発する。また、焼成用バインダー組成物が多官能アミン化合物を含有する場合には、アクリル系重合体(A)と多官能アミン化合物との反応が進行する。これにより、グリーンシートが作製される。本実施形態では、既に説明したとおり、グリーンシートが高い強度を有することができる。
【0061】
このグリーンシートを加熱することで、焼成用バインダー組成物を熱分解させ、かつ無機粉体を焼結させる。これにより、無機粉体の焼結体が作製される。このとき、焼結のために焼成用ペーストを加熱する条件は、例えば加熱温度500℃以上1500℃以下、加熱時間1時間以上24時間以下である。本実施形態では、既に説明したとおり、焼成用バインダー組成物は良好な熱分解性を有することができるので、焼結体を作製する効率を向上することができ、かつ焼結体中に不純物が残留しにくい。
【0062】
焼成用ペーストを用いた焼結体の作製方法は、特に積層コンデンサにおける誘電体層を作製するために好適である。ただし、焼結体の用途は誘電体層には限られず、焼結体は、電極、導体配線、絶縁層等の適宜の要素を構成し得る。
【実施例0063】
以下、本実施形態についての、具体的な実施例を提示する。ただし、本実施形態は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0064】
1.重合体の製造
還流冷却器、温度計、窒素置換用菅及び攪拌機を備えた容量1リットルの四つ口フラスコを反応容器として用いた。この反応容器内に、表1-3に示す原料のうち重合開始剤以外の原料を仕込み、窒素気流下で反応容器内を昇温させた。反応容器内が80℃に到達した時点で、重合開始剤を添加し、80℃で6時間重合反応を行った。反応後、反応容器を冷却し、反応容器内の溶液が30質量%の不揮発分を含有するように溶媒を添加することで、重合体溶液を得た。
【0065】
重合体溶液中の重量平均分子量を測定した。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された検量線を、標準ポリマーを使用して換算することで得られる相対平均分子量であり、測定条件は下記のとおりである。
-装置名:Prominence HPLCシステム(株式会社島津製作所製)。
-カラム:KF-805、KF-803、KF-801(直列)(昭和電工株式会社製)。
-移動相:テトラヒドロフラン。
-流速:1mL/min。
-検出器:示差屈折率検出器。
-温度:40℃。
-分子量標準試料:ポリスチレン。
【0066】
なお、比較製造例4については、重合体溶液がゲル化してしまったため、重量平均分子量を測定しなかった。
【0067】
また、表1-3中の略語で示す原料の詳細は下記のとおりである。表1-3中には、構造単位(a)、構造単位(b)、構造単位(c)及び構造単位(d)に対応するモノマーを、それぞれ(a)、(b)、(c)及び(d)の欄に示す。
-CCMA:メタクリル酸(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)-メチル。
-MMA:メタクリル酸メチル。
-BMA:メタクリル酸n-ブチル。
-EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル。
-LMA:メタクリル酸n-ドデシル。
-CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル。
-BA:アクリル酸n-ブチル。
-MAA:メタクリル酸。
-MOES:2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸。
-AA:アクリル酸。
-AOES:2-アクリロイルオキシエチルコハク酸。
-HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル。
-HPMA:メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル。
-PEGDMA:ジアクリル酸ポリエチレングリコール#600。
-PGM:プロピレングリコールメチルエーテル。
-MSD:α-メチルスチレンダイマー。
-AIBN:2,2’-アゾビスイソブチロニトリル。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
2.グリーンシートの作製
表4-7に示す原料を混合し、撹拌脱泡装置を用いて10分間撹拌することで、焼成用ペーストを調製した。この焼成用ペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布してから、室温で12時間自然乾燥させ、続いて実施例7、8、15~18、23~30及び比較例2の場合は100℃で、実施例1~6、9~14、19~22、比較例1、3、4及び5の場合は150℃で60分間加熱した。これにより、評価用の厚み200μmのグリーンシートを作製した。
【0072】
なお、表4-7に略語で示されている原料の詳細は、次のとおりである。
-BT-01:チタン酸バリウム、堺化学工業株式会社製。
-PGM:プロピレングリコールメチルエーテル。
-BYK-102:アニオン性重合開始剤、BYK-Chemie社製、品番BYK-102。
-PEG400:ポリエチレングリコール#400。
-DOA:アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)。
-HT-510:ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアルキルエーテル。日油株式会社製、品番HT-510。
-PVB:ポリビニルブチラール。積水化学工業株式会社製、品名エスレックBH-3。
-PEI:ポリエチレンイミン。株式会社日本触媒製、品名エポミンSP-003。
【0073】
3.評価
(1)引張強度
作製したグリーンシートから、幅1cm、長さ6cmの寸法の試料を切り出した。引張試験機(株式会社島津製作所製、型番AGS-1kNX)を用い、試料の引張強度(最大応力)を、引張速度20mm/minの条件で測定した。
【0074】
(2)多官能アミン化合物(B)の反応性
多官能アミン化合物(B)を使用した実施例2、4、6、8、10、12、14、15、16、18~30の各々について、グリーンシートの赤外線吸光分析を、雰囲気温度25℃の条件で行った。また、グリーンシートの原料のうち、重合体溶液と多官能アミン化合物(B)との混合物を調製した。この混合物についても、赤外線吸光分析を雰囲気温度25℃の条件で行った。
【0075】
その結果、グリーンシートの赤外線吸光スペクトルにおける1790cm-1付近の吸収ピークの強度が、混合物赤外線吸光スペクトルにおける1790cm-1付近の吸収ピークの強度の10%未満である場合を「A」、10%以上20%未満である場合を「B」、20%超である場合を「C」と、評価した。
【0076】
(3)焼成性
グリーンシートを作製するために使用した重合体溶液を乾燥させて溶剤を揮発させることで得られた試料を、示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社リガク製TG-DTA8122)を用い、空気雰囲気下、昇温速度10℃/min、温度範囲25℃~500℃、の条件で測定した。
【0077】
その結果、25℃における試料の重量を基準にした、500℃における試料の重量減少率が、99%以上の場合を「A」、98%以上99%未満の場合を「B」、95%以上98%未満の場合を「C」、95%未満の場合を「D」と、評価した。
【0078】
以上の結果を表4-7に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
上記の結果に示されるとおり、実施例1から30では、式(1)に示す構造単位(a)を有するアクリル系重合体(A)を含有する焼成用バインダー組成物を使用しているため、グリーンシートは強度に優れるとともに、焼成用バインダー組成物は焼成性に優れていることがわかった。
【0084】
比較例1から3では、式(1)に示す構造単位(a)を有さない重合体を含有する焼成用バインダー組成物を使用しているため、重合体の焼成性には優れるが、グリーンシートの強度はいずれの実施例と比べて劣ることがわかった。また、比較例4はグリーンシート形成時において熱分解に対して耐性のある架橋構造を有していることから、重合体の焼成性がやや劣るものであった。比較例5ではポリビニルブチラールをバインダーとして含有するため、グリーンシートの強度には優れるが、焼成性が低いため、焼成用バインダーとしての使用する際の使用条件が制限されることがわかった。