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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084549
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】動物用哺乳装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 9/00 20060101AFI20230612BHJP
   A61D 7/00 20060101ALI20230612BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20230612BHJP
   A23K 50/50 20160101ALI20230612BHJP
【FI】
A01K9/00
A61D7/00 F
A23K20/147
A23K50/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198793
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】守口 徹
(72)【発明者】
【氏名】原馬 明子
【テーマコード(参考)】
2B005
2B102
2B150
【Fターム(参考)】
2B005EA04
2B102AA11
2B102AA13
2B102AB16
2B102AB24
2B102AC05
2B150AA10
2B150AE13
2B150CC12
2B150CC13
2B150CC14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、構造が単純で耐久性に優れ、その使用に熟練した技術を求めない、新規な構造の動物用哺乳装置を提供することを課題とする。本発明はまた、このような新規な構造の動物用哺乳装置を使用して、人工哺乳を行う、人工哺育方法を提供することもまた課題とする。
【解決手段】本発明は、乳頭部分11を有し、この乳頭部分11の先端に液体を排出可能な細孔12を有する、弾力性のある材料により構成される乳首部材10;乳首部材10に連結して、当該連結部分から乳首部材10内に液体を供給する開口部21を有する、液体リザーバー部材20を含む、動物用哺乳装置1を提供することにより、構造が単純で耐久性に優れ、前記課題を解決した、新規な構造の動物用哺乳装置を提供することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳頭部分を有し、この乳頭部分の先端に液体を排出可能な細孔を有する、弾力性のある材料により構成される乳首部材;
乳首部材に連結して、当該連結部分から乳首部材内に液体を供給する開口部を有する、液体リザーバー部材;
を含む、動物用哺乳装置。
【請求項2】
少なくとも前記乳頭部分の内部に充填される、弾性材料により構成される乳頭部分充填部材を含む、請求項1に記載の動物用哺乳装置。
【請求項3】
弾性材料が、シリコンゴム、イソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、ウレタン、またはこれらをスポンジ状としたものである、請求項2に記載の動物用哺乳装置。
【請求項4】
前記液体リザーバー部材に連結可能で、液体リザーバー部材中に液体を供給することができる、乳補充部材をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項5】
乳首部材に金属製細管を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項6】
すべての部材が互いに分離可能である、請求項1~5のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項7】
表面張力により乳頭部分の細孔からの液漏れを防止する、請求項1~6のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項8】
動物が乳頭部分から液体を吸引することで、動物用哺乳装置の内部圧力が陰圧となり、液体リザーバー部材中の液体が乳首部材中に供給される、請求項1~7のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項9】
高タンパク質の液体を供給可能である、請求項1~8のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置。
【請求項10】
タンパク質が100 mlあたり15 gまで含まれる、動物用人工乳。
【請求項11】
動物が、げっ歯類である、請求項10に記載の動物用人工乳。
【請求項12】
タンパク質が100 mlあたり10.5~15 g含まれる、請求項10または11に記載の動物用人工乳。
【請求項13】
タンパク質が、カゼイン、ホエイタンパク質分離物(WPI)、またはホエイタンパク質加水分解物(WPH)、またはこれらのいずれかの組み合わせを含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の動物用人工乳。
【請求項14】
カゼインとホエイ(WPI+WPH)の比率が、2:1~1:2.5である、請求項10~13のいずれか1項に記載の動物用人工乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスなどの実験動物あるいは希少動物などを含む小型の動物に対して、乳や薬液などの液体状組成物、特に高タンパク質含有人工乳等の高粘度で細孔などに詰まりを起こしやすい液体組成物を自発的な吸乳行動により適用する際に用いられる、動物用哺乳装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の誕生から成熟するまでに至る発達期における動物体内における新生児期から成熟期までの各栄養素の必要性、医薬品の有効性、化学物質の安全性、免疫形成や乳児期の様々な負荷が成熟期以降に与える影響などは、成熟個体では評価できない。そのため、発達期における動物体内における薬物動態や生体機能は、実際に発達期における動物において調べる必要がある。生後間もないげっ歯類動物(マウス、ラット)個体においてこのような研究を行う場合には、出生48時間以内に新生仔を母獣から引き離し、人工乳で離乳まで人工哺育することになる。この時期の個体は、人で言えば目や耳が開いていない未熟児に相当し、臓器も成熟していないので薬剤等に対する感受性が非常に高く、その為精度の高いデータの取得が期待できる。
【0003】
これまで、げっ歯類動物の人工哺育は、生後4日齢に胃内挿管を施して、人工乳や薬液を注入する手法が用いられていたが(非特許文献1)、人工乳や薬液の漏出など多くの問題があった。その後、人工哺乳瓶と乳首が開発されたが(特許文献1)、構造が複雑で耐久性に問題があり、その使用にはかなりの熟練した技術が必要であるという問題もあった。
【0004】
また、従来の人工乳を用いた人工哺育では、母乳哺育と同等の成育を十分に達成できない問題もあったが、公知の人工哺乳瓶と乳首(特許文献1)では詰まりが生じやすく、従来の人工乳を使用せざるを得ない状況であった。更に、従来の人工哺乳瓶と乳首(特許文献1)では、構造が複雑で分解ができない部品等もあり、人工乳哺乳後の器具の洗浄も、容易ではなかった。また、オートクレーブ等の高温殺菌を行うと残留していた微量のタンパク質含有人工乳のために徐々に着色するという弊害もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4540324号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Francis, F., et al., Probiotic Studies in Neonatal Mice Using Gavage. J. Vis. Exp. (143), e59074, doi:10.3791/59074 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、人工哺育で母乳哺育と同等の生育を達成するために好ましい、高タンパク質含有人工乳を開発するとともに、そのような高タンパク質含有人工乳を人工哺乳するのに適した、構造が単純で分解洗浄や消毒・殺菌が容易であり、耐久性に優れ、その使用に熟練した技術を求めない、新規な構造の動物用哺乳装置を提供することを課題とする。本発明はまた、このような新規な構造の動物用哺乳装置を使用して、人工哺乳を行う、人工哺育方法を提供することもまた課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、公知の人工哺乳装置の乳頭部分(特許文献1)に装着されている金属製細管が高タンパク質含有液体組成物の哺乳を阻害していることを見出し、細管が不要である哺乳装置の乳頭部分に改良することにより、高タンパク質含有の液体組成物の人工哺乳も行うことができる動物用哺乳装置を提供できること、更にこの動物用哺乳装置において、全体の分解容易性と部品点数の削減を達成し、構造が単純で分解洗浄が容易であり、耐久性に優れ、、その使用も簡単な動物用哺乳装置を提供できることを見出し、本件発明を完成させた。具体的には、本発明は、
乳頭部分(11)を有し、この乳頭部分(11)の先端に液体を排出可能な細孔(12)を有する、弾力性のある材料により構成される乳首部材(10);
乳首部材(10)に連結して、当該連結部分から乳首部材(10)内に液体を供給する開口部(21)を有する、液体リザーバー部材(20)
を含む、動物用哺乳装置(1)を提供することにより、前記課題を解決した、新規な構造の動物用哺乳装置を提供することができる。
【0009】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1]: 乳頭部分を有し、この乳頭部分の先端に液体を排出可能な細孔を有する、弾力性のある材料により構成される乳首部材;
乳首部材に連結して、当該連結部分から乳首部材内に液体を供給する開口部を有する、液体リザーバー部材
を含む、動物用哺乳装置;
[2]: 少なくとも前記乳頭部分の内部に充填される、弾性材料により構成される乳頭部分充填部材を含む、[1]に記載の動物用哺乳装置;
[3]: 弾性材料が、シリコンゴム、イソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、ウレタン、またはこれらをスポンジ状としたものである、[2]に記載の動物用哺乳装置;
[4]: 前記液体リザーバー部材に連結可能で、液体リザーバー部材中に液体を供給することができる、乳補充部材をさらに含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[5]: 乳首部材に金属製細管を含まない、[1]~[4]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[6]: すべての部材が互いに分離可能である[1]~[5]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[7]: 表面張力により乳頭部分の細孔からの液漏れを防止する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[8]: 動物が乳頭部分から液体を吸引することで、動物用哺乳装置の内部圧力が陰圧となり、液体リザーバー部材中の液体が乳首部材中に供給される、[1]~[7]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[9]: 高タンパク質の液体を供給可能である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の動物用哺乳装置;
[10]: タンパク質が100 mlあたり15 gまで含まれる、動物用人工乳;
[11]: 動物が、げっ歯類である、[10]に記載の動物用人工乳;
[12]: タンパク質が100 mlあたり10.5~15 g含まれる、[10]または[11]に記載の動物用人工乳;
[13]: タンパク質が、カゼイン、ホエイタンパク質分離物(WPI)、またはホエイタンパク質加水分解物(WPH)、またはこれらのいずれかの組み合わせを含む、[10]~[12]のいずれか1項に記載の動物用人工乳;
[14]: カゼインとホエイ(WPI+WPH)の比率が、2:1~1:2.5である、[8]~[13]のいずれか1項に記載の動物用人工乳。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上述の新規な構成の動物用哺乳装置の発明により、哺乳瓶の構造を簡素化し、全体の分解容易性と部品点数の削減を達成し、構造が単純で分解洗浄が容易であり、耐久性に優れ、洗浄や消毒・殺菌、さらには高タンパク質含有人工乳のような詰まりやすい液体組成物の人工哺乳などの授乳の技術も容易にすることができ、初心者でも高タンパク質含有人工乳などの液体組成物を使用したマウス・ラットだけでなく、小型の野生の哺乳動物についての人工哺育を行うことを可能にした。その結果、本発明の動物用哺乳装置を使用することにより、成長・発達期における各種の栄養素の摂取や医薬品の投与、化学物質の曝露に加え、養育環境などの影響だけでなく、成熟期以降の変化などの評価が可能となり、また保護が必要な野生動物の人工哺乳も可能になった。更に、種々の高タンパク質含有人工乳の生育に及ぼす効果を、より正確により簡便に評価することも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の動物用哺乳装置(1)の側面を示す図である。
図2図2は、乳首部材(10)の側面図を示す図である。
図3図3は、乳頭部分(11)を細孔(12)側から見た図であり、細孔(12)の形状の例を示している。
図4図4は、乳頭部分(11)を細孔(12)側から見た図であり、細孔(12)の形状の例を示している。液体リザーバー部材(20)の正中断面を示す図であり、補充用開口部(22)の位置の例を示している。
図5図5は、本発明の動物用哺乳装置(1)の製造例を、部品構成(図5(a))と組み立て後(図5(b))で示す図である。
図6図6は、本発明の動物用哺乳装置を用いた人工飼育群と、母獣から自発的に哺乳を受けた自然哺育群のそれぞれについて、28日間の飼育期間における体重増加を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、構造が単純で分解洗浄が容易であり、耐久性に優れ、高タンパク質人工乳のような詰まりを起こしやすい液体組成物も哺乳することができ、その使用に熟練した技術を求めない、新規な構造の動物用哺乳装置を提供するため、
乳頭部分(11)を有し、この乳頭部分(11)の先端に液体を排出可能な細孔(12)を有する、弾力性のある材料により構成される乳首部材(10);
乳首部材(10)に連結して、当該連結部分から乳首部材(10)内に液体を供給する開口部(21)を有する、液体リザーバー部材(20)
を含む、動物用哺乳装置(1)を提供する。
【0013】
<動物用哺乳装置(1)の全体構成>
本発明の動物用哺乳装置(1)は、図1に示すように、乳首部材(10)と、乳首部材(10)に連結して開口部(21)を介して液体連通される液体リザーバー部材(20)から構成される。この動物用哺乳装置(1)は、液体リザーバー部材(20)に設けられた補充用開口部(22)を介して、液体成分補充部材(30)と連結されていてもよい。
【0014】
<乳首部材(10)>
乳首部材(10)は、図2に示すように、動物用哺乳装置(1)の内部に収容される液体成分を排出するための乳頭部分(11)、および後述する液体リザーバー部材(20)に収容される液体成分を乳首部材(10)に供給する開口部を有する構造である。
【0015】
乳首部材(10)の形状は、成形できる限りどのようなものであってもよく、例えば、比較的な単純な構造である半球状であっても、円錐状であってもよい。
【0016】
哺乳対象の動物は、この乳頭部分(11)を口にくわえ、母獣の乳頭から自発的に吸乳するように、該乳頭部分(11)を自発的に吸引し、動物用哺乳装置(1)内の液体を飲むことができる。この特徴を実現するため、乳頭部分(11)のサイズは、哺乳対象の動物により異なっていてよく、その母獣の乳頭と同様のサイズとなるように調整することが好ましい。
【0017】
また、この特徴を実現するため、乳頭部分(11)の硬度を母獣の乳頭と同程度の硬度とするとよい。この硬度は、乳頭部分(11)の材質の厚さと、後述する乳頭部分充填部材(12)の硬度により決定されるものであり、乳頭部分(11)の材質の厚さを薄くすれば(乳頭部分(11)自体の硬度が低下する)、その分乳頭部分充填部材(12)の硬度を上昇させることにより全体の硬度を保ち、逆に乳頭部分(11)の材質の厚さを厚くすれば(乳頭部分(11)自体の硬度が上昇する)、その分乳頭部分充填部材(12)の硬度を低下させることにより全体の硬度を保つことができる。
【0018】
この乳頭部分(11)の先端には、哺乳装置(1)内部に収容される液体を排出可能な細孔(12)を有することを特徴とする。この細孔(12)は、どのような形状のものであってもよく、図3に示すように、乳首部材(10)を乳頭部分(11)側から見た場合に、円状の細孔であっても(図3(a))、十字型の切り込みが貫通した形状の細孔であってもよい(図3(b))。また、細孔(12)のサイズは、乳首部材(10)内部に満たされる液体成分が流れ出なければ、どのようなサイズのものであってもよい。
【0019】
乳首部材(10)の材質は、柔軟性に富み、洗浄可能で、オートクレーブなどの滅菌操作が可能なものであればよい。例えば、シリコンゴム、天然ゴム(ラテックスなど)、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、イソプレンラバーなどの材質のものを使用することができる。
【0020】
乳首部材(10)の成形は、当該技術分野において一般的に使用される成形法であって、乳首部材(10)の構造を作成できる方法であればどのような方法によって作成してもよい。例えば、型の表面に材質を溶融したものをコーティングして全体の構造を作成するコーティング成形などにより作成することができる。
【0021】
乳首部材(10)は、従来の哺乳装置(特許文献1)の乳首部材などと比較して、金属製細管を含まないことを特徴とする。金属製細管を含まないことにより、分解性が高くなり、構造を簡便にでき、分解洗浄が容易にでき、消毒・殺菌も容易になるというメリットが享受できる。
【0022】
<乳頭部分充填部材(13)>
乳首部材(10)の少なくとも乳頭部分(11)の内部に、オプションの部材として、乳頭部分(11)の内部を充填する、弾性材料により構成される乳頭部分充填部材(13)を配置してもよい。この乳頭部分充填部材(13)は、対象動物が乳頭部分(11)をくわえて吸引した際に、弾性素材内部にたまっている液体成分が、その弾性により細孔(12)を介して対象動物の口内に排出される構造である。この乳頭部分充填部材(13)は、相対的にタンパク質濃度が低いサラサラな液体成分を供給する場合に必要となるものであり、内部の液体成分が高タンパク質のものである場合には必須のものではない。
【0023】
乳頭部分充填部材(13)は、弾性材料により構成されるものである。本発明において、弾性材料としては、シリコンゴム、イソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、ウレタン等やこれらをスポンジ状としたものなど、弾性のある素材で構成することができるが、これらの素材には限定されない。このような材質から構成される乳頭部分充填部材(13)は、ディスポーザブルな物であっても、再利用可能なものであってもよいが、オートクレーブ殺菌に耐えられる素材で作成すれば、再利用可能なものとして構成することができる。
【0024】
乳頭部分充填部材(13)の形状は、少なくとも乳頭部分(11)の内部に充填されればよく、乳頭部分充填部材(13)の外形が、乳頭部分(11)の内部形状とほぼ合っているものであればよい。
【0025】
乳頭部分充填部材(13)は、乳首部材(10)と一体的に成形されている必要性はなく、乳首部材(10)とは独立して作成された乳頭部分充填部材(13)を、使用にあたって乳頭部分(11)にはめ込んで構成することができる。
【0026】
乳頭部分充填部材(13)は、スポンジ状に配置されている素材のあいだに液体成分が入りこんだ結果、素材と液体成分とのあいだで生じる表面張力により、細孔(11)から液体成分が流れ出すことを防止する作用を有する。
【0027】
<液体リザーバー部材(20)>
ここまで説明した乳首部材(10)に対して、液体リザーバー部材(20)を結合させて使用する。液体リザーバー部材(20)は、その開口部(21)を介して乳首部材(10)に連結して、液体が連通された状態で使用する。
【0028】
対象動物が乳頭部分(11)を吸引して、乳首部材(10)内部の液体成分が排出された場合、乳首部材(10)内部がわずかに陰圧になるか、乳首部材(10)内部の液体成分の減少に伴って乳首部材(10)が変形することになる。そのような場合、液体リザーバー部材(20)中に貯留している液体成分に対して、乳首部材(10)内部のわずかな陰圧による圧力により、あるいは外部から手動または機械的に圧力をかけることにより、または重力などの外部からの圧力により、液体リザーバー部材(20)中に貯留している液体成分を乳首部材(10)に対して供給する。
【0029】
液体リザーバー部材(20)は、その開口部(21)で乳首部材(10)と液体成分が漏出しないように連結でき、洗浄可能で、オートクレーブなどの滅菌操作が可能なものであればどのような材質のものであってもよく、例えば、プラスチック素材(シリンジなど)、シリコンゴム、ガラス、フッ素樹脂などを使用することができる。開口部(21)の反対側端部は、開口端であっても閉鎖端であってもよい。
【0030】
液体リザーバー部材(20)は、対象動物が吸引した液体成分の量を大まかに把握するために目盛りを付けていてもよい。例えば、開口部(21)とは反対側を開口端とすることで、重力により液体リザーバー部材(20)内部の液体成分を乳首部材(10)中に供給する場合、液体リザーバー部材(20)の目盛りを使用して、供給する液体成分量を計量することができる。また、液体成分の量をより正確に計量したい場合には、注射用シリンジ様の材質および形状のものを液体リザーバー部材(20)として使用し、プランジャーに圧力をかけることで乳首部材(10)中に液体成分を供給するとともに、比較的正確に対象動物が吸引した液体成分の量を計量することができる。
【0031】
液体リザーバー部材(20)は、乳首部材(10)と連結するための開口部(21)とは別に、液体リザーバー部材(20)内部に液体成分を補充するための補充用開口部(22)を設けることができる。液体リザーバー部材(20)における補充用開口部(22)の部位は、液体リザーバー部材(20)の開口部(21)以外のどこの部分に設けられていてもよく、例えば、図4のように形状の液体リザーバー部材(20)の場合に、開口部(21)との関係で側面部に設けられていても、開口部(21)の反対端部に設けられていてもよい。
【0032】
<液体成分補充部材(30)>
液体リザーバー部材(20)は、補充用開口部(22)を介して、液体成分補充部材(30)と連結することができる。この液体成分補充部材(30)は、液体リザーバー部材(20)と乳首部材(10)とを連結したまま、液体リザーバー部材(20)内部に液体成分を補充することができる。
【0033】
図1において、液体成分補充部材(30)は、ほぼチューブ状の形状を有しているものの例を示しているが、このチューブ状の液体成分補充部材(30)の図面外にさらにどのような形状の部材を接続して合わせて液体成分補充部材(30)としてもよい。例えば、チューブ状の形状の液体成分補充部材(30)にさらに注射シリンジを接続して合わせて液体成分補充部材(30)としてもよい。
【0034】
<動物用哺乳装置(1)の特徴>
以上説明してきた構成の動物用哺乳装置(1)は、乳首部材(10)、乳頭部分充填部材(13)、液体リザーバー部材(20)、液体成分補充部材(30)の各部材を、バラバラに分解することができること、洗浄が容易であることを特徴とする。それぞれの部材を滅菌処理可能な材質で作成することにより、これらの部材を、使用前に滅菌処理してから、再構成して動物用哺乳装置(1)に組み立てて使用することができる。これらの各部材は、必要に応じて、部材ごとにディスポーザブルのものとしてもよい。
【0035】
本発明の動物用哺乳装置(1)を使用して人工哺育する方法により、液体成分の定量哺乳が可能になり、成長・発達期における各種の栄養素の摂取や医薬品の投与、化学物質の曝露に加え、養育環境などの影響だけでなく、成熟期以降の変化などを、従前の方法よりもより正確に評価することが可能となる。それにより、本発明の動物用哺乳装置(1)は、新生児や乳幼児のみならず、小児期の健康維持・増進を対象にした特定用途食品を含む機能性食品や未熟児、早産児のNICU、PICU等に関わる小児科領域での医薬品の開発に関わる基礎研究など、あらゆる成長・発達期における研究分野への応用が可能である。更に、種々の高タンパク質含有人工乳の生育に及ぼす効果を、より正確により簡便に評価することも可能となった。
【0036】
また、本発明の動物用哺乳装置(1)は、高タンパク質含有人工乳のような詰まりを起こしやすい液体組成物の哺乳に使用できることが特徴である。
【0037】
例えば、ラットの母乳においては、タンパク質が10.5±1.5 g/100 mL milk(すなわち、9.0~12.0 g/100 mL milk)含まれている(Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 24, 242-252(1997))のに対して、従来の人工乳としては、タンパク質含量が、100 mlの人工乳あたり9.2~9.5 g(実測値:Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 24, 242-252(1997))、9.4 g(Exp. Anim. 55(4), 391-7, 2006)、もしくは10.1 g(Lipids. 44(8), 685-702, 2009)程度のものが使用されていた。ラットのミルクのタンパク質含量の平均値(10.5 g/100 mL milk)までもタンパク質を増加させることができなかったのは、人工乳のタンパク質含量が増加するに従い、従来型の哺乳装置では詰まりを起こしやすくなるためと考えられる。
【0038】
一方、本発明の動物用哺乳装置(1)を使用すれば、乳首部材(10)の構造が単純化されたことにより、例えば、タンパク質含量が100 ml人工乳あたり15.0 g程度の高タンパク質含有人工乳であっても、哺乳することもできる。
【0039】
従って、本発明の動物用哺乳装置は、タンパク質含量の低い低粘度の液体組成物から、タンパク質含量が100 ml人工乳あたり15.0 gまでの詰まりを起こしやすい液体組成物まで哺乳することが可能である。
【0040】
加えて、各部材の構造が単純であることから、特に乳頭部分(11)のサイズの変更が容易であり、様々な動物種にあわせて動物用哺乳装置(1)を構成することができ、例えば、繁殖・飼育の難しい希少な小動物への応用も期待される。
【0041】
<動物用人工乳>
上述したように、本発明の動物用哺乳装置(1)は、高タンパク質含有人工乳のような詰まりを起こしやすい液体組成物の哺乳に使用できることが特徴である。すなわち、本発明の動物用哺乳装置(1)は、タンパク質含量の低い低粘度の液体組成物から、タンパク質含量が100 ml人工乳あたり15 gまでの詰まりを起こしやすい液体組成物まで哺乳することが可能であり、特にラットのミルクのタンパク質含量の平均値(10.5 g/100 mL milk)以上のタンパク質含量の液体組成物まで哺乳することが可能である。
【0042】
従って、本発明は、一態様において、タンパク質が100 mlあたり15 gまで含まれる、動物用人工乳を提供することができる。
【0043】
ここで、動物用人工乳の適用対象は、小型の哺乳動物を挙げることができ、その具体的な例として、げっ歯類を挙げることができる。これらの動物は、実験動物であっても、保護が必要な野生動物であってもよい。
【0044】
本発明の動物用人工乳は、タンパク質が100 mlあたり15 g含まれることを特徴とする。このタンパク質濃度は、これまでの動物用哺乳装置(特許文献1)では、詰まりを生じて使用できなかった濃度である。特に、ラットのミルクは、タンパク質が100 mlあたり10.5±1.5 g/100 mL milk(すなわち、9.0~12.0 g/100 mL milk)含まれている(Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 24, 242-252(1997))ことが知られている。したがって、好ましくは、本発明の動物用人工乳は、ラットのミルクのタンパク質含量の平均値以上、すなわち、人工乳100 mlあたり10.5 g以上のタンパク質を含むものである。言い換えれば、本発明の動物用人工乳は、好ましくは、人工乳100 mlあたり10.5~15 gのタンパク質を含むものである。
【0045】
本発明の動物用人工乳に含まれるタンパク質は、カゼイン、ホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate、WPI)、またはホエイタンパク質加水分解物(Whey Protein Hydrolysate、WPH)、またはこれらのいずれかの組み合わせによるタンパク質を含むタンパク質から構成される。ここで、「ホエイ」は、乳清とも呼ばれるが、母体から分泌されるミルクに含まれるタンパク質の一種で、水に溶けやすい性質を有する。「カゼイン」は、ミルクから脂肪とホエイを取り除いた残りの不溶性固形成分のことをいう。ホエイは消化吸収が早い特徴を有するのに対して、カゼインは、消化吸収がゆっくりである特徴を有する。
【0046】
ホエイタンパク質は、ホエイタンパク質分離物(WPI)またはホエイタンパク質加水分解物(WPH)のいずれであっても、組み合わせであってもよい。WPIは、ホエイタンパク質を、さらにイオン交換して、タンパク質以外の成分をほぼ除去した高濃度のホエイタンパク質のことをいう。WPHは、ホエイタンパク質を、酵素などで加水分解したペプチド状態に分離したもののことをいう。
【0047】
本発明の動物用人工乳に含まれるたんぱく質の中で、カゼインとホエイ(WPI+WPH)の比率が、2:1~1:2.5であることが好ましい。前述した文献におけるラットのミルクには、カゼインとホエイ(WPI+WPH)が、2:1の比率で含まれ(Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 24, 242-252(1997))、その他の従来の人工乳では、カゼインとホエイ(WPI+WPH)が5.75:3.64または5.40:3.60の比率で含まれるもの(Exp. Anim. 55(4), 391-7, 2006)、カゼインとホエイ(WPI+WPH)が3.46:7.64の比率で含まれるもの(Lipids. 44(8), 685-702, 2009)が知られている。一方、本発明の実施例においては使用した動物用人工乳には、カゼインとホエイ(WPI+WPH)が4.0:9.0の比率で含まれる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0049】
実施例1:動物用哺乳装置(1)の構築例
本実施例においては、本発明の動物用哺乳装置(1)の構築例を示す。
【0050】
本実施例において、乳首部材(10)、液体リザーバー部材(20)、液体成分補充部材(30)はいずれも、シリコンゴム製の部材とした(図5(a))。また、これを組み立てたものを図5(b)に示す。液体成分補充部材(30)には注射針が接続されており、ここに液体成分を含有させた注射シリンジを接続する。
【0051】
また、乳首部材(10)の乳頭部分(11)に充填する乳頭部分充填部材(13)は、ウレタンでできたスポンジ状物質を使用した。
【0052】
乳頭部分(11)に開けられた細孔(12)は、図3(a)のような円状の細孔とした。
【0053】
液体リザーバー部材(20)における補充用開口部(22)は、図4のように形状の液体リザーバー部材(20)の側面部に設け、最終的に図示するような構成のものとした(図5(b))。
【0054】
各部材は、120℃、30分の条件でオートクレーブ滅菌を施し、その後乾燥させてから組み立てて、動物用哺乳装置(1)を構成した。
【0055】
実施例2:動物用哺乳装置(1)を使用した哺乳例
本実施例においては、実施例1において構築した本発明の動物用哺乳装置(1)を使用した、動物の哺乳の事例を示す。
【0056】
動物として日本チャールスリバーから購入したC57BL/6Jマウスを使用し、産仔を8匹の人工哺育群と8匹の自然哺育群に分け、前者には本発明の動物用人工哺乳装置を用いた人工哺育を行い、後者には乳仔の自発的母乳の哺乳による自然哺育を行い、発育を体重変化に基づいて比較した。
【0057】
人工哺育群は、試験期間中、毎日8時より20時まで、1日あたり12時間、3時間ごとに、タンパク質を100 mlの人工乳あたり14.5 g含有する人工乳を、自発的に哺乳装置の乳頭部分を吸引させることにより哺乳した。一方、自然哺育群においては、毎日24時間自由に自発的に母乳の哺乳ができるようにした。
【0058】
人工哺育群に適用される動物用人工乳は、主要な栄養成分として、以下の成分を含有するものである。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明の動物用哺乳装置を用いた人工哺育群と、母獣から自発的に哺乳を受けた自然哺育群のそれぞれについて、28日間の飼育期間における体重増加の変化を、図6に示す。図6において、A(AR)は人工哺育群を、Damは自然哺育群を、それぞれ示す。高タンパク質含有人工乳を哺乳した人工哺育群の場合も,自然哺育群と同様な乳仔の生育(体重増加)を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、上述の新規な構成の動物用哺乳装置の発明により、哺乳瓶の構造を簡素化し、全体の分解容易性と部品点数の削減を達成し、構造が単純で分解洗浄が容易であり、耐久性に優れ、洗浄や消毒・殺菌、さらには高タンパク質含有人工乳のような詰まりやすい液体組成物の人工哺乳などの授乳の技術も容易にすることができ、初心者でも高タンパク質含有人工乳などの液体組成物を使用したマウス・ラットの人工哺育を行うことを可能にした。その結果、本発明の動物用哺乳装置を使用することにより、成長・発達期における各種の栄養素の摂取や医薬品の投与、化学物質の曝露に加え、養育環境などの影響だけでなく、成熟期以降の変化などの評価が可能となった。更に、種々の高タンパク質含有人工乳の生育に及ぼす効果を、より正確により簡便に評価することも可能となった。
【符号の説明】
【0062】
1:動物用哺乳装置
10:乳首部材
11:乳頭部分
12:細孔
13:乳頭部分充填部材
20:液体リザーバー部材
21:開口部
22:補充用開口部
30:液体成分補充部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6