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特開2023-84573複合粒子、ワニス、コーティング剤及び接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084573
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】複合粒子、ワニス、コーティング剤及び接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20230612BHJP
   C09J 201/02 20060101ALI20230612BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20230612BHJP
   C08F 20/08 20060101ALI20230612BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
C08L101/02
C09J201/02
C09D201/02
C08F20/08
C08F2/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198836
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】000107561
【氏名又は名称】スガイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柳 捷凡
(72)【発明者】
【氏名】峯山 健治
(72)【発明者】
【氏名】西野 充浩
(72)【発明者】
【氏名】河野 涼太
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J038
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA01W
4J002AA02W
4J002AA03X
4J002BG07W
4J002CM04W
4J002FD20X
4J002GP00
4J011AA05
4J011AC00
4J011PA97
4J011PC08
4J011WA02
4J011WA06
4J038CG141
4J038GA13
4J038MA02
4J038NA17
4J040BA012
4J040DF021
4J040DF031
4J040DF061
4J040GA24
4J040JA07
4J040LA03
4J040LA10
4J100AL08P
4J100BC83P
4J100CA01
4J100DA63
4J100JA01
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】屈折率及び透過性に優れる塗膜を簡便かつ効率よく作製できる複合粒子を提供する。
【解決手段】ジナフトチオフェン骨格を有する化合物と、樹脂と、を含む、複合粒子。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジナフトチオフェン骨格を有する化合物と、樹脂と、を含む、複合粒子。
【請求項2】
前記複合粒子の平均粒子径が1μm以上である、
請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記化合物が、ナノファイバー状のジナフトチオフェン骨格を有する化合物を含む、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記化合物の太さが1μm以下である、請求項3に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記化合物が、下記式(1)で表される化合物、又は下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合粒子。
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、R2は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、mは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、nは、それぞれ独立して、0~4の整数である。)
【請求項6】
ジナフトチオフェン骨格を有する化合物と、樹脂と、溶媒と、を含むワニス。
【請求項7】
前記化合物が、ナノファイバー状のジナフトチオフェン骨格を有する化合物を含む、請求項6に記載のワニス。
【請求項8】
前記化合物の太さが1μm以下である、請求項7に記載のワニス。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の複合粒子、又は請求項6~8のいずれか一項に記載のワニスを含む、コーティング剤又は接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、ワニス、コーティング剤及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジナフトチオフェン骨格を有する化合物(以下、「ジナフトチオフェン誘導体」という)は、高屈折率材料として使用できることが知られており、高屈折率、高透過性が求められる光学フィルム、塗膜、光学レンズ、屈折率向上剤といった用途への応用が期待されている。例えば、特許文献1には、有機化合物による新規な屈折率向上剤、並びにそれを含む樹脂組成物、重合若しくは硬化性組成物及び光学材料、を提供することを目的として、所定のジナフトチオフェン骨格を有する化合物を含む屈折率向上剤、並びにそれを含む樹脂組成物、重合若しくは硬化性組成物及び光学材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-178985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジナフトチオフェン誘導体を単体で屈折率向上剤として用いる場合、ジナフトチオフェン誘導体を溶媒に分散又は溶解させ、その後に屈折率を向上させたい基材に塗布等して、溶媒を揮発させる。しかしながら、その場合、ジナフトチオフェン誘導体の結晶が析出することにより透過性が低下するという問題が生じやすい。
【0005】
また、光学材料への応用を目的として、ジナフトチオフェン誘導体が所定の官能基を含み、加熱や光照射によって該官能基と反応する反応開始剤を含む硬化性組成物等が検討されている。しかしながら、より一層簡便で効率よい方法で光学材料の作製に用いることができるジナフトチオフェン誘導体及びその組成物等が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、以上の知見に基づき、屈折率及び透過性に優れる塗膜を簡便かつ効率よく作製できる複合粒子、ワニス、コーティング剤及び接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、ジナフトチオフェン誘導体と樹脂とを複合化することにより得られる複合粒子が、屈折率及び透過性に優れる塗膜を簡便かつ効率よく作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
ジナフトチオフェン骨格を有する化合物と、樹脂と、を含む、複合粒子。
[2]
前記複合粒子の平均粒子径が1μm以上である、
[1]に記載の複合粒子。
[3]
前記化合物が、ナノファイバー状のジナフトチオフェン骨格を有する化合物を含む、[1]又は[2]に記載の複合粒子。
[4]
前記化合物の太さが1μm以下である、[3]に記載の複合粒子。
[5]
前記化合物が、下記式(1)で表される化合物、又は下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む重合体である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合粒子。
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、R2は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、mは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、nは、それぞれ独立して、0~4の整数である。)
[6]
ジナフトチオフェン骨格を有する化合物と、樹脂と、溶媒と、を含むワニス。
[7]
前記化合物が、ナノファイバー状のジナフトチオフェン骨格を有する化合物を含む、[6]に記載のワニス。
[8]
前記化合物の太さが1μm以下である、[7]に記載のワニス。
[9]
[1]~[5]のいずれかに記載の複合粒子、又は[6]~[8]のいずれかに記載のワニスを含む、コーティング剤又は接着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈折率及び透過性に優れる塗膜を簡便かつ効率よく作製できる複合粒子、ワニス、コーティング剤及び接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ジナフトチオフェン誘導体と樹脂とを含む複合粒子を示す概念図である。
図2】実施例において作製した複合粒子を示す走査型電子顕微鏡写真像である。
図3】実施例において作製した複合粒子の粉末X線回折測定プロファイルである。
図4】実施例において作製した複合粒子の示査走査熱量測定プロファイルである。
図5】実施例において複合粒子を作製する前の混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルである。
図6】実施例において作製した複合粒子を示す走査型電子顕微鏡写真像である。
図7】実施例において作製した複合粒子の粉末X線回折測定プロファイルである。
図8】実施例において作製した複合粒子の示査走査熱量測定プロファイルである。
図9】実施例において複合粒子を作製する前の混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルである。
図10】実施例において作製した混合粉末を示す走査型電子顕微鏡写真像である。
図11】実施例において作製した複合粒子を示す走査型電子顕微鏡写真像である。
図12】実施例のワニスを用いて作製した塗膜の屈折率と消衰係数の測定プロファイルである。
図13】実施例のワニスを用いて作製した塗膜の屈折率と消衰係数の測定プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態、という。)について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本実施形態において、「粒子」とは、完全な球状を指すものではなく種々の公知形状を含むものとする。このような形状としては、特に限定されないが例えば、針状、棒状、及び楕円状が挙げられる。
【0013】
本実施形態において、「結晶性を有する」とはX線回折測定(XRD)測定により得られたX線回折測定スペクトルが回折ピークを有することを意味する。結晶性を有することは、分子同士が配列した積層構造を有することを意味すると考えられる。
【0014】
本実施形態において、ナノファイバー状とは、ファイバーの太さが約1.0~1000nmであることをいう。
【0015】
1.複合粒子
本実施形態の複合粒子は、ジナフトチオフェン誘導体粒子と樹脂粒子とを含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。ここで、本実施形態の複合粒子が、屈折率及び透過性に優れる塗膜を簡便かつ効率よく作製できる要因は以下のように考えられる。複合粒子に含まれるジナフトチオフェン誘導体は化合物単独であっても、樹脂との混合物であっても、非常に高い屈折率を示すため、複合粒子がジナフトチオフェン誘導体を含むことで、屈折率に優れる塗膜を作製することができる。また、複合粒子がジナフトチオフェン誘導体に加えて樹脂を含むことにより、複合粒子中の各成分の形状及び/又は結晶性の偏在が生じにくくなり、透過性に優れる塗膜を作製することができる。さらに、複合粒子を粉体又はワニスとして用いるだけで塗膜の作製ができることから、塗膜を簡便かつ効率よく作製することができる。
【0016】
図1は、ジナフトチオフェン誘導体と樹脂とを含む複合粒子を示す概念図である。例えば、複合粒子1は、複数のジナフトチオフェン誘導体のナノファイバー11と、複数の樹脂の粒子12とを含む。
【0017】
なお、本実施形態において、「複合粒子」とは、ジナフトチオフェン誘導体と樹脂とを含む2種以上の成分が物理的に会合、凝集、又は結合することにより形成される二次粒子をいう。本実施形態における複合粒子においては、該複合粒子に含まれる2種以上の成分に由来する形状及び/又は結晶性の偏在が極めて生じ難いため、形状及び/又は結晶性の偏在が生じる混合物(例えば、実施例に記載の混合粉末)とは明確に区別される。
【0018】
複合粒子の平均粒子径は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上であり、よりさらに好ましくは100μm以上である。また、複合粒子の平均粒子径の上限は特に限定されないが、例えば1000μmである。複合粒子の平均粒子径がこのような範囲であることにより、粉末状の複合粒子が流動性に優れ、取扱いの際の粉塵の発生を防止してより簡便かつ効率よく取り扱うことができる。
【0019】
また、複合粒子中の樹脂の含有量(B)に対するジナフトチオフェン誘導体粒子の含有量(A)の質量比(A/B)は、好ましくは1.0以上5.0以下であり、より好ましくは1.5以上4.0以下であり、さらに好ましくは2.0以上3.0以下である。上記質量比(A/B)がこのような範囲であることにより、複合粒子におけるジナフトチオフェン誘導体と樹脂とがより均一に交錯された状態になる傾向にある。
【0020】
本実施形態において、複合粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて特定する。具体的には複合粒子をSEMで撮影し、そこに写った複数の複合粒子から無作為に10個を選択し、これらの複合粒子の長手方向の長さの平均値を平均粒子径とする。SEMの具体的な条件としては、例えば実施例に記載のものを挙げることができる。
【0021】
複合粒子の結晶性については、粉末X線回折測定(XRD)により評価することができ
る。XRDの具体的な条件としては、例えば実施例に記載のものを挙げることができる。
【0022】
1.1.ジナフトチオフェン誘導体
本実施形態において、ジナフトチオフェン誘導体は、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、好ましくは結晶性を有する(すなわち結晶である)。また、ジナフトチオフェン誘導体が粒子である場合のその形状は特に限定されないが、例えば、ファイバー状、針状、棒状及び球状が挙げられる。
【0023】
ジナフトチオフェン誘導体は、好ましくはナノファイバー状のジナフトチオフェン誘導体を含む。このようなナノファイバー状のジナフトチオフェン誘導体を含むことにより、複合粒子中に分散したナノ結晶としての安定性が増す傾向にある。
【0024】
ジナフトチオフェン誘導体が粒子である場合のその平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下である。その平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、20nm、50nm、又は100nmであってもよい。
【0025】
ジナフトチオフェン誘導体がナノファイバー状のジナフトチオフェン誘導体を含む場合、該ナノファイバーの長さについては、特に限定されない。
【0026】
また、上記ナノファイバーの太さは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。その太さの下限は特に限定されないが、例えば、10nm、30nm、又は50nmであってもよい。
【0027】
上記ナノファイバーのアスペクト比(長さ/太さ)は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は特に限定されないが、例えば、500、1000、又は5000であってもよい。
【0028】
本実施形態において、ジナフトチオフェン誘導体の粒子の平均粒子径は、SEMを用いて特定する。具体的には複合粒子をSEMで撮影し、そこに写ったジナフトチオフェン誘導体粒子から無作為に10個を選択し、これらのジナフトチオフェン誘導体の粒子の長手方向の長さの平均値を平均粒子径とする。SEMの具体的な条件としては、例えば実施例に記載のものを挙げることができる。
【0029】
また、ナノファイバーの長さ及び太さについては、ナノファイバーをSEMで撮影し、そこに写った複数のナノファイバーから無作為に10個を選択し、これらのナノファイバーの長手方向の長さの平均値及び短手方向の長さの平均値をそれぞれ、ナノファイバーの結晶の長さ及び太さとする。
【0030】
ジナフトチオフェン誘導体の含有量は、高屈折率を求める観点からは、複合粒子の全質量に対して好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。また、ジナフトチオフェン誘導体の含有量は、好ましくは90質量%以下である。ジナフトチオフェン誘導体の含有量が90質量%以下になると複合粒子をより作製しやすくなり、また、後述するワニスとして用いた場合に得られる塗膜中にジナフトチオフェン誘導体の結晶が析出し難くなり、透過性がより得られる傾向にある。そのような観点から、ジナフトチオフェン誘導体の含有量は、より好ましくは80質量%以下である。
【0031】
複合粒子におけるジナフトチオフェン誘導体の含有量が高いほど、複合粒子を用いた組成物の屈折率が増加する傾向にあるため、ジナフトチオフェン誘導体の含有量を用途に合わせて調整することにより、透明な塗膜の屈折率を調整することができる。
【0032】
次に、ジナフトチオフェン誘導体であるジナフトチオフェン(DNT)骨格を有する化合物(以下、「DNT化合物」という)について詳説する。
【0033】
DNT化合物は、化合物単独であっても、樹脂との混合物であっても、非常に高い屈折率を示すため、高屈折率光学材料として使用することができる。DNT化合物は、下記式(1)で表される化合物、又はこの化合物に由来する構成単位を含む重合体であることが好ましい。
【化1】
【0034】
式(1)において、R1は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、R2は、それぞれ独立して、有機基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、ハロゲン原子、又は置換されていてもよいシリル基であり、mは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、nは、それぞれ独立して、0~4の整数である。
【0035】
式(1)において、R1及びR2は、好ましくは、それぞれ独立して、2,3-エポキシプロポキシ基、2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基、(メタ)アクリロイルオキシメトキシ基、RaO-基(Raは、酸素又は硫黄を含んでいてもよいアルキル基である)、及びHO-Rb-O-基(Rbは、酸素又は硫黄を含んでいてもよいアルキレン基又はアラルキレン基である)からなる群から選択される有機基、又は水酸基である。なお、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイル及びアクリロイルの総称である。
【0036】
DNT化合物は、好ましくは、下記式(2)で表される化合物、又はこの化合物に由来する構成単位を含む重合体である。
【化2】
【0037】
上記式(2)で表される化合物又はこの化合物に由来する構成単位を含む重合体のDNT化合物全量に対する含有量は、好ましくは、30質量%以上であり、より好ましくは、50質量%以上であり、さらに好ましくは、70質量%以上であり、よりさらに好ましくは90質量%以上である。それらの化合物及び重合体の含有量がこのような範囲であることにより、得られる塗膜の屈折率を向上させることができる傾向にある。
【0038】
DNT化合物及びその結晶は、公知の方法に従って合成することができる。例えば、特開2018-83774号公報、特開2014-196288号公報、特開2011-178985号公報、特開2017-137244号公報、及び特開2015-30727号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0039】
1.2.樹脂
樹脂として、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような樹脂としては、用途に合わせて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、各種繊維素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリオレフィン及びこれらを構成するモノマーの共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルフィド、ポリウレタン、ポリエーテル、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びオキセタン樹脂が挙げられる。
【0040】
この中でもポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂を用いることにより、透過性、耐熱性、及び耐光性に一層優れ、かつ光学材料等として加工しやすくなる傾向にある。
【0041】
複合粒子における樹脂は、複数の樹脂の粒子が凝集・結合したものであってもよい(以下、上記樹脂の粒子を「一次樹脂粒子」という)。一次樹脂粒子の平均粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下である。一次樹脂粒子の平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、20nm、50nm、又は100nmであってもよい。
【0042】
本実施形態において、一次樹脂粒子の平均粒子径は、SEMを用いて特定する。具体的には、一次樹脂粒子をSEMで撮影し、そこに写った複数の一次樹脂粒子から無作為に10個を選択し、これらの一次樹脂粒子の長手方向の長さの平均値を、一次樹脂粒子の平均粒子径とする。SEMの具体的な条件としては、例えば実施例に記載のものを挙げることができる。
【0043】
複合粒子における樹脂の含有量は、複合粒子の全質量に対して好ましくは、10質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上30質量%以下である。複合粒子における樹脂の含有量がこのような範囲であることにより、後述するワニスとして用いる際に、分散安定性及び粘度により優れる傾向にある。
【0044】
1.3.その他の成分
本実施形態における複合粒子は、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、無機粒子が挙げられ、このような無機粒子は、屈折率が好ましくは1.8以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.2以上である。また、該無機粒子の平均粒子径は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。特に、無機粒子の平均粒子径が100nm以下であることにより、より透明な硬い複合粒子や塗膜を得やすい傾向にある。このような無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、ジルコニア、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ等の酸化物粒子が挙げられる。複合粒子がこのような無機粒子を含むことにより屈折率を向上させることができる。
【0045】
複合粒子における無機粒子の含有量は、用途に合わせて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、複合粒子の全質量に対して10質量%以下、5.0質量%以下、又は3.0質量%以下であってもよい。無機粒子の含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0質量%であってもよい。
【0046】
1.4.製造方法
本実施形態における複合粒子の製造方法の一実施形態として、ジナフトチオフェン誘導体の結晶と樹脂とを、ミルで粉砕する粉砕工程を含む製造方法が挙げられる。本実施形態の製造方法においては、ジナフトチオフェン誘導体の結晶を粉砕しても、アモルファス化することなく、結晶構造を維持したまま複合粒子化することができる。原料の結晶構造が維持されることにより、複合粒子化しても、原料結晶の光学特性を維持することができる。一般的には、結晶を粉砕すると結晶化度が減少すると知られているため(例えば、Bulletin of the Faculty of Engineering,Hokkaido University,No.102(1981),pp.55-66、及び特開2012-111841号公報)、結晶構造が維持されたまま複合粒子化することは驚くべきことである。
【0047】
ジナフトチオフェン誘導体の具体例については、上記のとおりである。粉砕する前のジナフトチオフェン誘導体の結晶の形状は、棒状又は針状であることが好ましい。
【0048】
粉砕工程で使用するミルとしては、例えば、ボールミル、ビーズミル、及びジェットミルが挙げられる。ボールミルとしては、例えば、遊星ボールミル、及び振動ボールミルが挙げられる。
【0049】
粉砕工程では、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれの方法を採用してもよい。乾式粉砕は、空気等の気体中、真空中、又は不活性ガス中で粉砕を行う方法である。湿式粉砕は、水等の液体中で粉砕を行う方法である。本実施形態での粉砕工程は、好ましくは乾式粉砕であり、より好ましくは、乾式粉砕中に高い剪断力と圧縮力を印加する処理(以下、「メカノケミカル複合化処理」という)である。
【0050】
粉砕条件は、原料となるジナフトチオフェン誘導体の結晶及び目的とする複合粒子の大きさ、形状等に応じて適宜変更される。
【0051】
(遊星ボールミルによる乾式粉砕法)
特に限定するものではないが、乾式粉砕法を採用する場合には、遊星ボールミルを使用することが好ましい。遊星ボールミルは、粉砕媒体としてのボールを充填した粉砕容器を自転させ、さらに自転方向とは逆向きに公転させることによって、遠心力に基づく大きな粉砕力を得ることができる。
【0052】
遊星ボールミルを使用した乾式粉砕法において、容器内壁及びボールの材質は特に限定されないが、容器内壁及びボールの摩耗による不純物の混入を最小限に抑えるためには、容器内壁及びボールの材質は同一であることが好ましい。容器内壁及びボールの材質としては、例えば、メノー、アルミナ、ジルコニア、タングステンカーバイト、クローム鋼、及び窒化ケイ素が挙げられる。耐摩耗性の観点からは、メノー製、アルミナ製、又はジルコニア製の容器内壁及びボールが好ましい。
【0053】
遊星ボールミルを使用した乾式粉砕法において、ボールの大きさは特に限定されないがボールの直径は、好ましくは1mm以上15mm以下であり、より好ましくは5mm以上10mm以下である。ボールの直径を1mm以上とすることによって、粉砕した試料とボールとの分離が更に容易になる。ボールの直径を15mm以下とすることによって、粉砕効率を向上させることができる。
【0054】
遊星ボールミルを使用した乾式粉砕法において、原料としてのジナフトチオフェン誘導体の結晶とボールとを合わせての粉砕容器への充填率は、好ましくは10体積%以上80体積%以下であり、より好ましくは20体積%以上70体積%以下である。充填率を10体積%以上とすることによって、ボールとボールとの間、及びボールと容器内壁との間での直接の衝突をより抑制し、ボール及び粉砕容器の摩耗を更に抑えることができる。充填率を80体積%以下とすることによって、粉砕効率を向上させることができる。
【0055】
遊星ボールミルを使用した乾式粉砕法において、ボールとボールとの間、及びボールと容器内壁との間での衝突及び摩耗による容器内温度の上昇を抑制するため、粉砕操作中に適宜運転を止めて冷却期間を設けることが好ましい。運転停止中には、容器内壁に付着した試料を剥がし、塊状になっている試料は解砕することが好ましい。
【0056】
(ビーズミルによる湿式粉砕法)
特に限定するものではないが、湿式粉砕法を採用する場合には、ビーズミルを使用することが好ましい。ビーズミルは、粉砕媒体としてのビーズ及び原料含有スラリーを粉砕容器に入れ、撹拌機構(アジテータ)を高速回転して生じる遠心力によって大きな粉砕力を得ることができる。
【0057】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、原料であるジナフトチオフェン誘導体を分散させる溶媒(分散媒)は、原料が難溶又は不溶である溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水、又はメタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセリン若しくはプロピレングリコール等のアルコールが挙げられる。環境及びコストの観点からは、水を使用することが好ましい。
【0058】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、分散媒として水を使用する場合、界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤の種類は、粉砕過程において粒子の凝集を抑制する効果を有するものであれば特に限定されない。例えば、界面活性剤として、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0059】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、容器内壁及びビーズの材質は特に限定されないが、容器内壁及びビーズの摩耗による不純物の混入を最小限に抑えるためには、容器内壁及びビーズの材質は同一であることが好ましい。容器内壁及びビーズの材質としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、タングステンカーバイト、ガラス、クローム鋼、及び窒化ケイ素が挙げられる。耐摩耗性の観点からは、ジルコニア製の容器内壁及びビーズが好ましい。
【0060】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、ビーズの大きさは特に限定されないがビーズの直径は、好ましくは0.03mm以上2mm以下であり、より好ましくは0.1mm以上0.8mm以下である。ビーズの直径を0.03mm以上とすることによって、粉砕した試料とビーズとの分離が更に容易になる。ビーズの直径を2mm以下とすることによって、ジナフトチオフェン誘導体のナノファイバー状の結晶の生成効率を向上させることができる。
【0061】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、スラリー中の固形分濃度は、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。固形分濃度を0.5質量%以上とすることによって、ビーズとビーズとの間、及びビーズと容器内壁との間での直接の衝突を更に抑制し、ビーズ及び粉砕容器の摩耗を抑えることができる。固形分濃度を30質量%以下とすることによって、スラリーの流動性をより維持でき、粉砕効率を向上させることができる。
【0062】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、粉砕容器へのビーズの充填率は、好ましくは50体積%以上95体積%以下であり、より好ましくは70体積%以上90体積%以下である。充填率を50体積%以上とすることによって、ジナフトチオフェン誘導体のナノファイバー状の結晶の生成効率を向上させることができる。充填率を95体積%以下とすることによって、ビーズ及び粉砕容器の摩耗を更に抑えることができる。
【0063】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、撹拌機構の周速度は、好ましくは6.0ms/以上15m/s以下であり、より好ましくは8.0m/s以上12m/s以下である。周速度を6.0m/s以上とすることによって、ナノファイバー状の結晶の生成効率を向上させることができる。周速度を15m/s以下とすることによって、ビーズ及び粉砕容器の摩耗を更に抑えることができる。
【0064】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、スラリーの温度は、冷却水温度、循環速度、周速度等を調節することによって制御できる。粉砕容器の出口部分におけるスラリーの温度は、好ましくは10℃以上30℃以下であり、より好ましくは15℃以上25℃以下である。スラリー温度を10℃以上とすることによって、冷却水の必要量を更に減らすことができ、温度制御が容易になる。スラリー温度を30℃以下とすることによって、ビーズ及び粉砕容器の摩耗を更に抑えることができる。
【0065】
ビーズミルを使用した湿式粉砕法において、運転方法は特に限定されず、例えば、バッチ式、パス式、及び循環式が挙げられる。温度制御及び作業効率の観点からは、循環式の運転方法が好ましい。
【0066】
2.ワニス
本実施形態におけるワニスは、本実施形態の複合粒子と溶媒とを含む、又はジナフトチオフェン誘導体と樹脂と溶媒とを含むものであり、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0067】
2.1.溶媒
本実施形態の溶媒は、ジナフトチオフェン誘導体を溶解し難く、かつ、樹脂を溶解させることができるものであると好ましく、用途に合わせて1又は2以上の溶媒を選択することができる。
【0068】
そのような溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン性溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;二硫化炭素、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒;クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。
【0069】
上記ワニスにおける溶媒の含有量は、ワニスの全質量に対して、好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは65質量%以上85質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上80質量%以下である。ワニスにおける溶媒の含有量がこのような範囲であることにより、更に薄く均一な塗膜を作製することができる。
【0070】
本実施形態のワニスはその他の成分として、特に限定されないが、例えば、無機ナノ粒子を含んでいてもよい。このような無機粒子は、屈折率が好ましくは1.8以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.2以上である。また、該無機粒子の平均粒子径は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。特に、無機粒子の平均粒子径が100nm以下であることにより、より透明な硬い塗膜を得やすい傾向にある。このような無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、ジルコニア、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ等の酸化物ナノ粒子が挙げられる。ワニスがこのような無機粒子を含むことにより、塗膜の屈折率を向上させることができる傾向にある。
【0071】
2.2.製造方法
本実施形態のジナフトチオフェン誘導体の粒子を含むワニスを作製する場合は、ジナフトチオフェン誘導体を溶解し難く、かつ樹脂粒子を溶解させることができる溶媒に対して本実施形態の複合粒子を添加することにより作製することができる。
【0072】
また、本実施形態のジナフトチオフェン誘導体を含むもののその粒子を含まないワニスを作製する場合は、ジナフトチオフェン誘導体及び樹脂を溶解させることができる溶媒に対してジナフトチオフェン誘導体と樹脂と必要に応じてその他の成分とを添加して撹拌等をすることにより得られる。
【0073】
複合粒子又はジナフトチオフェン誘導体を溶媒に迅速に分散させるために、必要に応じて公知の装置を用いてもよく、そのような装置としては、特に限定されないが、例えば、超音波洗浄器等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の複合粒子及びワニスを用いることにより、透明な塗膜(特に透明で硬い塗膜)やその他透明な硬い成形体を作製することができる。さらに、そのような複合粒子及びワニスを、材料間の接着に用いる接着剤に用いることも可能である。
【0075】
より具体的には、本実施形態の複合粒子を固体のまま加熱するだけで物体の表面に乾性の塗膜を作製することができ、2以上の材料の接着に用いることができる。例えば、ガラス板の表面に本実施形態の複合粒子からなる薄く均一な粉末層を作製した後、適切な温度と時間で加熱することにより、ガラス板の表面に透明で硬い塗膜を作製できる。また、2枚のガラス板で挟まれた複合粒子の粉末層を加熱することにより、粉末層が透明体に変化すると同時に2枚のガラス板を接着することができる。
【0076】
また、本実施形態の複合粒子の全部又は一部の成分を溶媒に溶かして使用することも可能である。具体的には、本実施形態のワニスを、コーティング剤又は接着剤として用いることができる。例えば、ガラス板の表面に本実施形態のワニスを塗布し、薄く均一な塗層を作製した後、ワニス中の有機溶媒を揮発させることにより、ガラス板の表面に透明な塗膜を作製することができる。また、2枚のガラス板でワニスを挟み、ワニス中の有機溶媒を揮発させることにより2枚のガラス板を接着することができる。
【0077】
得られる塗膜の屈折率は、複合粒子又はワニスにおけるジナフトチオフェン誘導体の含有量と相関関係があるため、複合粒子又はワニス中のジナフトチオフェン誘導体の含有量を調整することにより、得られる硬性塗膜の屈折率を制御することが可能である。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0079】
1.測定条件
<核磁気共鳴(NMR)の条件>
日本電子株式会社製NMR装置(製品名:JNM-ECA600)を使用し、溶媒としてジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)、標準物質として測定溶媒の残留Hシグナル(2.49ppm)を用いて測定した。
【0080】
<走査型電子顕微鏡(SEM)の条件>
分析装置:日本電子株式会社製走査電子顕微鏡(製品名:JSM-6610LA)
加速電圧:20kV
前処理等:試料をカーボンテープ上に固定し、金蒸着を実施した。
【0081】
<粉末X線回折測定(XRD)の条件>
測定装置:株式会社リガク製粉末X線回折装置(製品名:RINT)
X線:Cu/40kV/30mA
計数時間・スキャンスピード:2 deg/min
ゴニオメータ:Ultima+ 水平ゴニオメータ
サンプリング幅:0.02 deg
走査軸:2θ/θ
走査範囲:5~80 deg
長手制限スリット:10mm
入射スリット:1°
受光スリット1:1°
受光スリット2:0.3mm
検出器:シンチレーションカウンタ
スキャンモード:連続
【0082】
<示差走査熱量分析(DSC)の条件>
測定装置:セイコーインスツル株式会社製示差走査熱量計(製品名:DSC6200)
レファレンス:Al(容器のみ)
昇温速度:10℃/min
ガス:N2
ガス流量:50mL/min
【0083】
<メカノケミカル複合化処理の条件>
使用装置:遊星ボールミル(製品名:premium-line P-7、フリッチュ ジャパン社製)
使用容器:容積;80mL、種類:ジルコニア
複合化処理:混合粉末10gを、直径5mmのジルコニア80gと共に上記容器に投入し、回転数600rpm、合計回転時間45分で粉砕処理を行った。この際、摩擦による容器内温度上昇を抑えるために、5分間回転粉砕する度に60分間程間隔をあけて合計回転時間が45分になるまで繰り返した。
【0084】
2.ジナフトチオフェン誘導体の作製
特開2011-178985号公報の実施例1に記載の方法に基づき、ジナフトチオフェン(DNT)を合成した。
【0085】
また、特開2011-178985号公報の実施例2、3及び7に記載の方法に基づき、ジナフトチオフェン骨格を有するメタクリレートモノマー(DNTMA)を合成し、純度100%の白色粉末を得た。
【化3】
【0086】
DNTMAのNMR測定の結果は以下のとおりである。
1H NMR(DMSO-d6、600MHz):δ(ppm) 1.94(3H,s)、5.63(2H,s)、5.75(1H,s)、6.15(1H,s)、7.63-7.67(4H,m)、8.10-8.11(1H,d)、8.16-8.19(3H,m)、8.23-8.24(1H,d)、8.69-8.73(2H,m)
【0087】
3.複合粒子の作製
<実施例1:複合粒子1>
以下の組成の混合物を乳鉢に投入し、約5分間粉砕し混合することにより作製した混合粉末に対して、上記メカノケミカル複合化処理を行い、複合粒子1を得た。
〔混合比率(質量%)〕
DNTMA:64.3%
DNT:7.1%
ポリイミド樹脂(製品番号:KPI-MX300F、河村産業社製):28.6%
【0088】
<実施例2:複合粒子2>
以下の組成の混合物を乳鉢に投入し、約5分間粉砕し混合することにより作製した混合粉末に対して、上記メカノケミカル複合化処理を行い、複合粒子2を得た。
〔混合比率(質量%)〕
DNTMA:64.3%
DNT:7.1%
エチルセルロース(製品番号14076-01、鹿1級、関東化学社製):28.6%
【0089】
<比較例1及び実施例3:混合粉末1及び複合粒子3>
以下の組成の混合物を乳鉢に投入し、約5分間粉砕し混合することにより混合粉末1を得た。該混合粉末1の一部に対して、上記メカノケミカル複合化処理を行い、複合粒子3を得た。
〔混合比率(質量%)〕
DNTMA:50%
エチルセルロース(製品番号14076-01、鹿1級、関東化学社製):50%
【0090】
4.ワニスの作製
<実施例4:ワニス1>
実施例1で作製した1gの複合粒子1を9mL容量のガラス管瓶に入れた後に、溶媒としてTHF 3.5mLを加え、ガラス管瓶の蓋を閉めた。その後、卓上型超音波洗浄器(W-170ST、本多電子社製)を用いて、ガラス管瓶内の溶媒と複合粒子とを攪拌し、10分間攪拌する度、その後60分間の間隔を設けることを6回繰り返し、合計60分間攪拌することにより透明なワニス1を得た。
【0091】
<実施例5:ワニス2>
複合粒子を複合粒子1から実施例2で作製した複合粒子2に変更した以外は実施例4と同様にして、透明なワニス2を得た。
【0092】
<実施例6:ワニス3>
複合粒子を複合粒子1から実施例3で作製した複合粒子3に変更した以外は実施例4と同様にして、透明なワニス3を得た。
【0093】
5.評価
<複合粒子1>
上記メカノケミカル複合化処理により得られた複合粒子1の走査型電子顕微鏡写真、粉末X線回折測定プロファイル、及び示査走査熱量測定プロファイルをそれぞれ図2図3、及び図4に示す。また、複合粒子1を作製する前の混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルを図5に示す。
【0094】
図2に示す走査型電子顕微鏡による観察の結果より、複合粒子1はジナフトチオフェン誘導体と樹脂が均一に交錯した状態であることが分かった。
【0095】
図3に示す粉末X線回折測定プロファイルの結果より、複合粒子1と複合化前の混合粉末のX線回折測定プロファイル(混合粉末のものは図示せず)を比べた場合、複合粒子1のX線回折測定プロファイルにおける各ピーク強度は低下したが、ピーク形状及び各ピークの位置がほぼ一致しており、複合粒子化した場合においても、複合粒子1中のジナフトチオフェン誘導体粒子は結晶性を有していることがわかった。
【0096】
また、図4に示す示査走査熱量測定プロファイルの結果より、複合粒子1の吸熱ピーク及び放熱ピークは、図5に示す混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルと比べて低温側にシフトしており、さらに吸熱ピーク及び放熱ピークにおける熱量も変化しており、複合粒子1は複合化前の混合粉末と比較して、異なる熱物性を有することがわかった。
【0097】
<複合粒子2>
上記メカノケミカル複合化処理により得られた複合粒子2の走査型電子顕微鏡写真、粉末X線回折測定プロファイル、及び示査走査熱量測定プロファイルをそれぞれ図6図7、及び図8に示す。また、複合粒子2を作製する前の混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルを図9に示す。
図6に示す走査型電子顕微鏡による観察の結果より、複合粒子2はジナフトチオフェン誘導体と樹脂が均一に交錯した状態であることが分かった。
【0098】
図7に示す粉末X線回折測定プロファイルの結果より、複合粒子2と複合化前の混合粉末のX線回折測定プロファイル(混合粉末のものは図示せず)を比べた場合、複合粒子2のX線回折測定プロファイルにおける各ピーク強度は低下したが、ピーク形状及び各ピークの位置がほぼ一致しており、複合粒子化した場合においても、複合粒子2中のジナフトチオフェン誘導体粒子は結晶性を有していることがわかった。
【0099】
また、図8に示す示査走査熱量測定プロファイルの結果より、複合粒子2の吸熱ピーク及び放熱ピークは、図9に示す混合粉末の示査走査熱量測定プロファイルと比べて低温側にシフトしており、さらに吸熱ピーク及び放熱ピークにおける熱量も変化しており、複合粒子は複合化前の混合粉末と比較して、異なる熱物性を有することがわかった。
【0100】
<複合粒子3及び混合粉末1>
作製した混合粉末1と複合粒子3の走査型電子顕微鏡写真を図10及び図11にそれぞれ示す。図10に示す混合粉末1は、ジナフトチオフェン誘導体の粒子と樹脂の粒子が交錯せず、分離して存在しているのに対して、図11に示す複合粒子3は、ジナフトチオフェン誘導体と樹脂とが均一に交錯した複合粒子の状態であることがわかった。
【0101】
<ワニス1>
フィルムアプリケーター(スライドガラスサイズ、オールグッド社製)を用いて、実施例4のワニス1をスライドガラスの表面に塗布した後、大気条件下で1日放置することにより、スライドガラス表面に透明で硬い塗膜を得た。得られた塗膜に対して、高速分光エリプソメータM-2000V-Te (J.A.Woollam Co.社製)を用いて屈折率及び消衰係数を測定した。
【0102】
ワニス1を用いて得られた塗膜の屈折率n及び消衰係数kの波長を横軸とするプロファイルを図12に示す。図12が示すプロファイルの一例として、波長589.5nmの屈折率が1.68であった。図12が示すとおり、ワニス1を用いることにより屈折率と透過性に優れる塗膜が得られることがわかった。
【0103】
<ワニス2>
同様に実施例5のワニス2を用いて上記ワニス1と同様の操作によりスライドガラス表面に透明で硬い塗膜を得た後、得られた塗膜に対して、高速分光エリプソメータM-2000V-Te (J.A.Woollam Co.社製)を用いて上記塗膜の屈折率及び消衰係数を測定した。
【0104】
ワニス2を用いて得られた塗膜の屈折率n及び消衰係数kの波長を横軸とするプロファイルを図13に示す。図13が示すプロファイルの一例として、波長589.5nmの屈折率が1.65であった。図13が示すとおり、ワニス2を用いることにより屈折率と透過性に優れる硬性塗膜が得られることがわかった。
【0105】
<ワニス3>
同様に実施例6のワニス3を用いて上記ワニス1と同様の操作によりスライドガラス表面に透明で硬い塗膜を得た後、得られた塗膜に対して、高速分光エリプソメータM-2000V-Te (J.A.Woollam Co.社製)を用いて上記塗膜の屈折率を測定した。
【0106】
ワニス3を用いて得られた塗膜は、波長589.5nmの屈折率が1.59であった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の複合粒子及びワニスは、透明な硬い塗膜やその他透明な硬い成形体を作製するのに用いることができる。さらに、本発明の複合粒子及びワニスは、材料間の接着にも用いることが可能である。したがって、本発明の複合粒子及びワニスは、それらの用途に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0108】
1…複合粒子、11…ジナフトチオフェン誘導体のナノファイバー、12…樹脂の粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13