(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084578
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】水中使用装置用防水構造、水中使用装置、および飛行装置使用方法
(51)【国際特許分類】
B63C 11/00 20060101AFI20230612BHJP
【FI】
B63C11/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198848
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】村井 博
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水中において機能すべき装置を確実かつ簡易な構造によって防水することのできる技術を提供する。
【解決手段】水中使用装置用防水構造10は、水中Wで使用される装置であるところの水中使用装置における防水が必要な部位を防水するための構造であって、防水が必要な部位すなわち要防水部を収容する収容室2と、収容室2と連通してその下方に設けられており、気体と水の境界である境界水面Pを内部に保持する水面保持部5からなる構成であり、収容室容積V
0、水面保持部断面積A、および本水中使用装置用防水構造10を水中Wにあらしめた際に想定される水面保持部5先端における水深であるところの先端水深hの各仕様が、境界水面Pを水面保持部5内に保持する仕様に設計されていることとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中で使用される装置であるところの水中使用装置における防水が必要な部位を防水するための構造であって、
該防水が必要な部位すなわち要防水部を収容する収容室と、
該収容室と連通してその下方に設けられており、気体と水の境界である境界水面を内部に保持する水面保持部と
からなることを特徴とする、水中使用装置用防水構造。
【請求項2】
前記収容室容積V0、前記水面保持部断面積A、および本水中使用装置用防水構造を水中にあらしめた際に想定される該水面保持部先端における水深であるところの先端水深hの各仕様が、前記境界水面を該水面保持部内に保持する仕様に設計されていることを特徴とする、請求項1に記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項3】
前記境界水面の高さzが下記式を満たし、かつ前記水面保持部の水深方向長さ以下であることを特徴とする、請求項2に記載の水中使用装置用防水構造。
【数1】
(式中の文字は次の通り。ρ:水の密度(kg/m
3)、g:重力加速度(m/s
2)、P
0:大気圧(Pa))
【請求項4】
前記水面保持部は、その内径が水深方向長さ以下に形成されていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項5】
前記収容室と前記水面保持部の間に該水面保持部よりも断面積が小さい狭隘部が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項6】
前記狭隘部は前記収容室の開口における張り出し縁により形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項7】
前記収容室内部に気体を吐出する圧縮気体吐出装置を備えていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項8】
前記圧縮気体吐出装置は、圧縮気体が充填された気体ボンベ、前記水面保持部における水位すなわち境界水面水深を検知する浸水センサ、および該浸水センサによる検知に基づき該気体ボンベからの圧縮気体吐出を制御する吐出制御手段とからなることを特徴とする、請求項7に記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項9】
前記圧縮気体吐出装置は、本防水構造の空中からの着水時など所定の要防水事態発生時に作動するよう構成されていることを特徴とする、請求項7、8のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項10】
前記水中使用装置は、所定の水中保持対象物を水中に吊り下げる吊り下げ装置であることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項11】
前記水中使用装置は、軸回りに回動可能であって、所定の水中保持対象物を先端に取り付ける軸状装置であることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項12】
前記水中保持対象物が下記<H>列記のいずれかあることを特徴とする、請求項10、11のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
<H> 撮影用機器、測定用機器、採水用機器、採取用機器(採水用機器を除く)、設置物設置用機器、標識用機器
【請求項13】
前記水面保持部は、その内部を通して前記水中保持対象物を上下動可能とするよう管状に形成されていることを特徴とする、請求項10、11、12のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項14】
前記収容室と前記水面保持部との間には水密構造が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項15】
前記収容室は複数の部材を用いて構成されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項16】
着水可能な回転翼機その他の飛行装置に取り付け可能に構成されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、12、13、14、15のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【請求項17】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造を備えていることを特徴とする、水中使用装置。
【請求項18】
請求項17に記載の水中使用装置を取り付けて飛行させ、着水後に該水中使用装置を機能させることを特徴とする、飛行装置使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中使用装置用防水構造、水中使用装置、および飛行装置使用方法に係り、特に、海洋や湖沼などの水面に着水する型の飛行装置に搭載されて水中や水底における調査等を行う水中使用装置の、防水技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドローン活用技術は、多岐に亘る産業分野・技術分野にて取り組まれている。着水型ドローンを用いた海洋や湖沼などにおける水産資源調査も、その一つである。出願人はドローンによる水産資源調査の効率化研究を行っており、その一環として、着水型ドローンに搭載した各種カメラやセンサを水中に投下するための牽引装置の開発に取り組んでいる。海面や湖面に着水したドローンから各種カメラやセンサを水中に投下するには、モータとリールで構成される電動リールのような電動機構を要する。しかし、着水型ドローンの使用環境は海水等を被る過酷な環境であり、海水等からの保護が必要である。
【0003】
この牽引装置は着水型ドローンの底部に取り付けることになるが、着水後は完全に水没してしまうことになり、さらに、ある程度の水圧にも耐える構造であることが要求される。一方、当牽引装置はリールを回転させることにより水中に向けて牽引ワイヤと通すことが本来の機能であることから、完全密閉の構造を取ることができない。牽引ワイヤを水中に通しつつモータ部などの確実な防水対策を講じる必要がある。
【0004】
かかる水中における防水という課題に関連する技術としては、船舶のスクリューおよび推進軸に一般的に用いられているスタンチューブという機構がある。これは、回転軸の軸受界面にて防水する方式の機構である。すなわち、船のスクリューそのものは海中に晒されているものの、それを駆動するエンジンは船内に格納され、海水に晒されないような構造が採られており、その要点はグリスを封入した特殊な軸受けの使用である。
【0005】
さて、ドローンを用いた水中調査・探査技術については従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、水中における撮影位置およびその方向を容易かつ柔軟に制御する技術として、空中に滞空しているドローンから牽引装置で水中に投下した各種センサや水中カメラの向きを制御する装置が開示されている。なお、これは着水型ドローンではなく、通常のドローンを用いた技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-85263号公報「水中撮影装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
着水型ドローンの腹部(底部)に牽引装置を装着する場合、牽引装置自体は着水時に海水等に晒される喫水ラインの下に存在することになる。かかる使用環境下においては、小型化・軽量化の要求を満たすこともさることながら牽引装置の電動機構を海水等から保護する、つまり防水対策が必要である。また、ある程度の水圧にも耐える構造であることも要求される。だが一方、当牽引装置は完全密閉の構造を採ることができない。つまり、牽引ワイヤを水中に通しつつ、モータ部などに対しては防水対策を確実に行える構造が求められる。
(なお、着水型ドローンの底部ではなく喫水ラインの上部に牽引装置を設置した場合であっても、波の影響によってドローン上部も水を大いに被ってしまうため、問題の解決にはならない。もとより、牽引装置の重量や重心バランスの観点から、着水時の水面よりも上にこれを固定することには難があり、採用しにくい。)
【0008】
水中で機能すべき装置の一部を防水するには、装置中の何らかの箇所で防水領域/水中領域の境界を設け、その境界が高い精度で防水機能を発揮しなければならない。上述のスタンチューブによれば、リールとモータの軸受の箇所で防水対策を施す、つまり、リールは水に晒されるがモータは防水されることになる。しかし、水の圧力に対してグリスのせん断応力が対抗できるよう、軸長は長くする必要があり、コンパクトな構造にはなり得ない。その上、機械部品には高い精度が要求される。よって、ドローンの底部への設置という空間が極めて制限される構造においては、長大な軸長と摺動面での防水機能を担保する複雑な構造が必要となるスタンチューブの採用は、全く困難であり、かつ低コスト化の要求にも合致しない。かかる摺動面での防水に依らない、新規な防水構造が求められる。
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の状況を踏まえ、着水型ドローンなどの着水可能な飛行装置に搭載され、水中において機能すべき装置を、確実かつ簡易な構造によって防水することのできる技術を提供することである。また本発明が解決しようとする課題は、着水型ドローン等への搭載に係るものであるか否かを問わず、水中において機能すべき装置を確実かつ簡易な構造によって防水することのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
牽引装置の要件上、モータを含む電動部は防水したいが牽引ワイヤ等は水に晒すことが前提となり、牽引装置のどこかに防水部と浸水部の境界を設けることは必須である。そして、牽引ワイヤは下方に伸ばすことから、下方に伸ばしても水が浸水しない状況を検討した。その結果、牽引装置全体を格納できる容積の防水カバーを設けることとし、防水カバー内部を空気で満たして、空気の存在により防水カバーからの水の侵入を止める構造を創案した。いわば、バケツや洗面器を逆さにしたような構造であり、内部の空気が外部に抜けない状態を維持することによる水の浸入回避技術である。これによれば、摺動面にて防水対策をとる必要はなく、一般的なパッキンのレベルで静的な防水対策のみで機能を発揮でき、しかも極めて安価となるはずである。
【0011】
この「バケツをひっくり返して空間を確保する」という発想を具現化した牽引装置を試作し、これをドローンに搭載して大型水槽に着水させる実証試験を行った。さらに、実証試験結果に基づく物理的な機序を考察した。その結果、内部空間の空気圧と水圧の相対関係を考慮すべきという新たな知見に至り、これを定式化して設計変更した牽引装置にて実証試験を重ねたところ、予想通りの効果を再現性よく得ることができた。このようにして信頼性、実用性の面でも良好な結果が確認でき、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
〔1〕 水中で使用される装置であるところの水中使用装置における防水が必要な部位を防水するための構造であって、
該防水が必要な部位すなわち要防水部を収容する収容室と、
該収容室と連通してその下方に設けられており、気体と水の境界である境界水面を内部に保持する水面保持部と
からなることを特徴とする、水中使用装置用防水構造。
〔2〕 前記収容室容積V
0、前記水面保持部断面積A、および本水中使用装置用防水構造を水中にあらしめた際に想定される該水面保持部先端における水深であるところの先端水深hの各仕様が、前記境界水面を該水面保持部内に保持する仕様に設計されていることを特徴とする、〔1〕に記載の水中使用装置用防水構造。
〔3〕 前記境界水面の高さzが下記式を満たし、かつ前記水面保持部の水深方向長さ以下であることを特徴とする、〔2〕に記載の水中使用装置用防水構造。
【数1】
(式中の文字は次の通り。ρ:水の密度(kg/m
3)、g:重力加速度(m/s
2)、P
0:大気圧(Pa))
〔4〕 前記水面保持部は、その内径が水深方向長さ以下に形成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔5〕 前記収容室と前記水面保持部の間に該水面保持部よりも断面積が小さい狭隘部が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【0013】
〔6〕 前記狭隘部は前記収容室の開口における張り出し縁により形成されていることを特徴とする、〔5〕に記載の水中使用装置用防水構造。
〔7〕 前記収容室内部に気体を吐出する圧縮気体吐出装置を備えていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔8〕 前記圧縮気体吐出装置は、圧縮気体が充填された気体ボンベ、前記水面保持部における水位すなわち境界水面水深を検知する浸水センサ、および該浸水センサによる検知に基づき該気体ボンベからの圧縮気体吐出を制御する吐出制御手段とからなることを特徴とする、〔7〕に記載の水中使用装置用防水構造。
〔9〕 前記圧縮気体吐出装置は、本防水構造の空中からの着水時など所定の要防水事態発生時に作動するよう構成されていることを特徴とする、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔10〕 前記水中使用装置は、所定の水中保持対象物を水中に吊り下げる吊り下げ装置であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔11〕 前記水中使用装置は、軸回りに回動可能であって、所定の水中保持対象物を先端に取り付ける軸状装置であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
【0014】
〔12〕 前記水中保持対象物が下記<H>列記のいずれかあることを特徴とする、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
<H> 撮影用機器、測定用機器、採水用機器、採取用機器(採水用機器を除く)、設置物設置用機器、標識用機器
〔13〕 前記水面保持部は、その内部を通して前記水中保持対象物を上下動可能とするよう管状に形成されていることを特徴とする、〔10〕、〔11〕、〔12〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔14〕 前記収容室と前記水面保持部との間には水密構造が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔15〕 前記収容室は複数の部材を用いて構成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔16〕 着水可能な回転翼機その他の飛行装置に取り付け可能に構成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕、〔15〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造。
〔17〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕、〔13〕、〔14〕、〔15〕、〔16〕のいずれかに記載の水中使用装置用防水構造を備えていることを特徴とする、水中使用装置。
〔18〕 〔17〕に 記載の水中使用装置を取り付けて飛行させ、着水後に該水中使用装置を機能させることを特徴とする、飛行装置使用方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水中使用装置用防水構造、水中使用装置、および飛行装置使用方法は上述のように構成されるため、これらによれば、着水型の飛行装置に搭載して用いられ、その際に、水中において機能すべき装置を、確実かつ簡易な構造によって防水することができる。また本発明によれば、着水型ドローンなど着水型の飛行装置への搭載に係るものであるか否かを問わず、水中において機能すべき装置を、確実かつ簡易な構造によって防水することができる。本発明は、着水型ドローンなど海洋や湖沼等の水面に着水する型の飛行装置に搭載されて水中や水底における調査やその他の作業を行う水中使用装置の防水技術として、実用性が高い。
本発明は、水中に晒すものと電動部などの防水する必要があるものとを、簡易な構造により確実に分離、隔離する手段として広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明水中使用装置用防水構造の基本構成を示す概念的説明図である。
【
図1-2】
図1に示す水中使用装置用防水構造の使用状態を示す概念的説明図である。
【
図2】水面保持部の断面積を考慮した本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。
【
図3】
図2に示す構成例に対する比較例を示す概念的説明図である。
【
図4】狭隘部を備えた本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。
【
図4-2】
図4に示す水中使用装置用防水構造の使用状態を示す概念的説明図である。
【
図5】圧縮気体吐出装置を備えた本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。
【
図6】本発明水中使用装置用防水構造の実施例を示す説明図である。
【
図7】本発明水中使用装置用防水構造の適用対象である水中使用装置の形態を示す概念的説明図である。
【
図8】本発明水中使用装置用防水構造の使用形態を示す概念的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明水中使用装置用防水構造の基本構成を示す概念的説明図である。また
図1-2は、
図1に示す水中使用装置用防水構造の使用状態を示す概念的説明図である。これらに図示するように本水中使用装置用防水構造10は、水中Wで使用される装置であるところの水中使用装置Mにおける防水が必要な部位を防水するための構造であって、防水が必要な部位すなわち要防水部M2を収容する収容室2と、開口2Hにより収容室2と連通してその下方に設けられている、気体と水の境界である境界水面Pを内部に保持する水面保持部5からなることを、主たる構成とする。水面保持部5の下端も開口5Hである。すなわち本水中使用装置用防水構造10の収容室2から水面保持部5に亘る内部空間は、水面保持部の開口5Hによって水中Wへと開かれている空間である。
【0018】
かかる構成の本水中使用装置用防水構造10は、水面保持部5の開口5Hを下方に向けて水中Wで使用され、開口5Hからは水が水面保持部5内を上方へと浸入するが、水は水面保持部5の上方にある収容室2内部までは上がらない。したがって、収容室2内にある水中使用装置Mの要防水部M2は水に触れることがなく、防水状態が保持される。これは本水中使用装置用防水構造10が、気体と水の境界である境界水面Pが水面保持部5の内部に保持され、その上方にある収容室2へは上がらない構造に形成されているからである。かかる作用により、本水中使用装置用防水構造10によれば、内部に収容した水中使用装置Mの要防水部M2を確実に防水しながら、同時に、水中使用部M1を水中Wにあらしめて用いることができる。
【0019】
なお、収容室2内部の形状は直方体でもその他の形状でもよいが、水面保持部5内部の形状は、水面保持部5の垂下方向上で同一の断面形状とすること、つまり一様の内径・断面積を有した形状であることが望ましい。本発明所期の作用効果を得る上で、それ以外の形状とする必要がなく、構造としても簡素である。なお、そうである限り、断面形状は円形、楕円形、多角形など適宜設計可能である。以下の説明では、水面保持部内部が一様の内径・断面積を有した形状である態様を前提として説明する。
【0020】
本水中使用装置用防水構造10における、水面保持部5の内部での境界水面Pの保持は、特に収容室2の容積V0、水面保持部5の断面積A、および本水中使用装置用防水構造10を水中にあらしめた際に想定される水面保持部5先端における水深であるところの先端水深hの各仕様を検討、設計することによって、実現することができる。具体的には、水面保持部5内における浸入する水の高さ、すなわち境界水面Pの高さzが下記式を満たすように上記各仕様が設計されるとともに、当該境界水面Pの高さzが水面保持部5の水深方向長さb以下となるように、水深方向長さbも設計されればよい。なお下式は、水圧と空気圧の平衡点が境界水面Pとなることに基づいて導出したものである。式中の文字は次の通り。ρ:水の密度(kg/m3)、g:重力加速度(m/s2)、P0:大気圧(Pa)
【0021】
【0022】
図2は、水面保持部の断面積を考慮した本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。また
図3は、
図2に示す構成例に対する比較例を示す概念的説明図である。
図2に示すように本水中使用装置用防水構造210は、既に述べたいずれかの構成に加えて、その水面保持部25の内径fが水深方向長さ以下に形成されている構成とすることができる。内径fがこのようにより短く形成されることにより、水面保持部断面積Aはより小さくなる。
【0023】
図3の比較例のように水面保持部35の内径f’がより長く、すなわち断面積がより大きく形成されていると、水面に波が立ちやすくなること、さらに、水中での傾斜によって水面が収容室32に近づいてしまうこと、これらにより収容室32が浸水する危険性が高くなる。傾斜角θ=45° を想定するならば、tan45°≦ 1 となるよう、
図2に示すごとく水面保持部25の内径fは水深方向長さ以下とすることが望ましい。かかる構成により、収容室25への浸水の危険性は相当程度低減され、要防水部の防水をより確実に図ることができる。
【0024】
図4は、狭隘部を備えた本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。また
図4-2は、
図4に示す水中使用装置用防水構造の使用状態を示す概念的説明図である。これらに示すように本水中使用装置用防水構造410は、既に述べたいずれかの構成に加えて、収容室42と水面保持部45の間に、水面保持部45よりも断面積が小さい狭隘部44が設けられている構成とすることができる。図示するように狭隘部44は、収容室42の開口42Hにおける張り出し縁43により形成するものとすることができる。狭隘部44をどの程度の狭さにするかは、ここを通す水中使用装置の水中使用部の仕様にも基づき、適宜設計可能である。
【0025】
かかる構成により、水面保持部45内の浸水レベルが上がる場合でも、そこから、より断面積が小さい狭隘部44への浸水は発生しにくくなる。つまり、収容室42内に浸水が発生する危険性をさらに抑えることができる。なお、
図4-2に示すように本水中使用装置用防水構造410は、水中Wにおいて傾斜姿勢をとる場合も決して少なくない。狭隘部44が設けられていない構造では、姿勢の傾斜によって、収容室42における浸水発生防止効果がより低下する。しかし、狭隘部44が設けられることによって、傾斜時の浸水高さのマージンをさらに追加マージンyの分だけ確保することができ、浸水防止効果をより高めることができる。
【0026】
図5は、圧縮気体吐出装置を備えた本発明水中使用装置用防水構造の構成例を示す概念的説明図である。なお以下の図では、
図4等に示した狭隘部を備える例の表示を省略することがある。図示するように本水中使用装置用防水構造510は、既に述べたいずれかの構成に加えて、収容室52内部に対して気体を吐出する圧縮気体吐出装置56を備えた構成とすることができる。圧縮気体吐出装置56は、圧縮気体が充填された気体ボンベ57、水面保持部55における水位すなわち境界水面水深zを検知する浸水センサ58、および浸水センサ58による検知に基づき気体ボンベ57からの圧縮気体吐出を制御する吐出制御手段59とから構成することができる。なお浸水センサ58は、水位を検知できる限り水面保持部55内に設ける必要はない。また気体ボンベ57も、本水中使用装置用防水構造510外部からホースで供給するような構成でもよい。
【0027】
かかる構成の本水中使用装置用防水構造510では、圧縮気体吐出装置56によって収容室52内部に気体が吐出されることにより、収容室52内の気圧が高まり、開口52Hからの水の浸入防止効果を吐出前よりも高めることができる。つまり、圧縮気体吐出装置56による気体放出で、積極的な水位の適正保持を行うことができる。圧縮気体吐出装置56を作動させるタイミングは、適宜仕様に設計することができる。たとえば、本水中使用装置用防水構造510の空中からの着水時など、所定の要防水事態発生時に作動するよう構成されるものとすることができる。
【0028】
図示する構成例の圧縮気体吐出装置56について作用を説明する。浸水センサ58が、水面保持部55における水位すなわち境界水面Pの境界水面水深zが所定の危険水位に達した、あるいは越えたことを検知すると、それに基づき気体ボンベ57からの圧縮気体吐出を制御する吐出制御手段59が作動して吐出制御がなされ、これにより気体ボンベ57内部に充填されている圧縮気体が収容室52内へと吐出される。このようにして、危険水位の検知に基づき、収容室52への水の浸入が発生しない適正水位を保持する作用、水面を適正水位まで遠ざける作用が、即座に、かつ確実になされる。
【0029】
図6は、本発明水中使用装置用防水構造の実施例を示す説明図である。図では収容室上部に設けられるべき天井部分を省略し、収容室内部を示している。図示するように本水中使用装置用防水構造610は主として、水中使用装置(図示せず)の要防水部を収容する収容室62と、これに連通して下方に設けられている水面保持部65とから構成される。本実施例では、収容室62は、図示された構造の上を図示しない蓋様の天井部分が被覆し、両者が密閉されて内部の気密状態が保持される。このように収容室は、複数の部材から構成する設計とすることができる。かかる構成によれば、必要に応じて内部を露出させることができるため、収容室内への水中使用装置の設置や保守管理等において便利である。ただし、各構成要素の組み立てにより密閉状態を保持できることが必要である。収容室内の気密が保持されることによって、空気圧と水圧の平衡による境界水面の保持がなされるからである。
【0030】
水面保持部65は、その内部を通して水中保持対象物が上下動可能なよう、管状に形成されている。水中での本構造610使用時、境界水面は水面保持部65内部に保持される。また、収容室62と前記水面保持部65との接合部には、パッキンなど適宜の水密手段、水密構造を設けることとする。なお、本図に示す実施例については、追ってさらに説明する。図中の寸法はあくまでも一例である。
【0031】
図7は、本発明水中使用装置用防水構造の適用対象である水中使用装置の形態を示す概念的説明図である。図中の(a)に示すように、所定の水中保持対象物Dを水中に吊り下げる吊り下げ装置Mh、または(b)に示すように、水中保持対象物Dを先端に取り付ける軸状装置Mxを、本発明適用対象の水中使用装置として挙げることができる。なお、水中保持対象物Dとは、たとえば撮影用機器、測定用機器、採水用機器、採取用機器、設置物設置用機器、標識用機器などである。
【0032】
図中の(a)に示すように、吊り下げ装置Mhはたとえば、着水型ドローンに装着して、牽引機構により牽引ワイヤに吊るした水中保持対象物Dを上下動させるものとすることができる。この場合は、水中使用部たる牽引ワイヤMh1が、水中使用装置用防水構造710aの水面保持部75aに通される。一方、図中の(b)に示すように、軸状装置Mxはたとえば、通常のドローンに装着して、伸縮機構により伸縮するとともに軸回りに回転する軸体とし、その先端に水中保持対象物Dを取り付けて用いる形とすることができる。この場合は、水中使用部たる軸体Mx1が、水中使用装置用防水構造710bの水面保持部75bに通される。
【0033】
図8は、本発明水中使用装置用防水構造の使用形態を示す概念的説明図である。図示するように本水中使用装置用防水構造810は、着水可能なドローン(回転翼機)、その他の飛行装置8200に取り付け可能に構成されていて、ドローン等8200に取り付けて用いることができる。以上説明したいずれかの構成の水中使用装置用防水構造を備えている水中使用装置もまた、本発明の範囲内である。また、水中使用装置を取り付けて飛行させ、着水後にこの水中使用装置を機能させる飛行装置使用方法も、本発明の範囲内である。
【実施例0034】
前出
図6に示した実施例水中使用装置用防水構造610の、収容室62容積、水面保持部65直径など、境界水面Pの高さ(境界水面水深)zを前出の式によって算出するために必要な各仕様等を、表1に示す。
【0035】
【0036】
上表に示した数値により算出される本実施例構造610における境界水面水深zは、次の通りである。
z=0.0265[m]=26.5[mm]
本実施例水中使用装置用防水構造610の先端水深(先端深さ)hは、
h=250[mm]
水深方向長さ(水面保持部長さ)bは、
b=110[mm]
である。そうすると境界水面は、水面保持部65全長の1/4程度の水位であり、収容室62までは約83mmの余裕があり、十分な防水効果を有することが確認できる。
【0037】
本実施例610では、水中使用装置として吊り下げ装置を用い、収容室62内にはこれを構成するモータ、リール、軸受、制御用素子など防水を要する要素が搭載されている。しかしこれらの要素は全て、本実施例610に具備した仕様によって理論的に完全に防水することができる。また、本実施例610を実際に着水型ドローンに搭載し、大型水槽に着水させる試験を行ったところ、所期の十分な防水効果を確認することができた。なお、本発明が本実施例に限定されないことは言うまでもない。
本発明の水中使用装置用防水構造、水中使用装置、および飛行装置使用方法によれば、着水型ドローンへの搭載に係るものであるか否かを問わず、水中において機能すべき装置を、確実かつ簡易な構造によって防水することができる。したがって本発明は、着水型ドローンなどによる海洋や湖沼等調査業務を初めとして、ドローンによるその他の調査業務、ドローンおよびその関連装置の製造業、水産業および関連する全産業分野において、産業上利用性が高い発明である。