(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084596
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20230612BHJP
F16F 1/373 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
F16F15/04 H
F16F1/373
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198880
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(71)【出願人】
【識別番号】519321683
【氏名又は名称】株式会社3D Printing Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 仁士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恭章
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 奈央子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 一幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】船場 海斗
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AB03
3J048BA05
3J048BA21
3J048BD01
3J048CB21
3J048DA07
3J048EA38
3J059AA09
3J059BA39
3J059BC04
3J059BD03
3J059BD05
3J059CA12
3J059CB03
3J059GA43
(57)【要約】
【課題】軸方向に対する防振効果を発揮しつつ軸方向に対する曲げ変形及びせん断変形が小さい防振構造。
【解決手段】吊部材50は、防振部材100と、防振部材100の軸方向の両側に接合され同軸上に配置された上側吊材52及び下側吊材53と、で構成されている。防振部材100の軸方向の剛性は上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、防振部材100の曲げ剛性及びせん断剛性は上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振部材と、前記防振部材の軸方向の両側に接合され同軸上に配置された支持部材と、で構成された防振構造であって、
前記防振部材の軸方向の剛性が、前記支持部材の軸方向の剛性よりも小さく、
前記防振部材の曲げ剛性及びせん断剛性が、前記支持部材の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上である、
防振構造。
【請求項2】
前記防振部材は、
一方の前記支持部材に接合されると共に他方の前記支持部材に接続された軸部が内部に設けられた筒体と、
前記筒体内に軸方向に間隔をあけて複数枚設けられ、中心部が前記軸部に接合されると共に外縁部が前記筒体の内周面に接合された面材と、
を有している、
請求項1の防振構造。
【請求項3】
前記防振部材は、軸方向の剛性が前記支持部材よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が前記支持部材と同等以上となるように肉抜きされ、剛性に異方性を持つ肉抜き構造体である、
請求項1に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、分離される構造体の機械的な原因による振動振幅を減衰およびフィルタリングする方法に関する技術開示されている。この先行技術では、構造体に付与される非常に広範な周波数帯域および振幅範囲の機械応力に、構造体に伝達されるフィルタリングされた振動波の減衰をもたらすことによって、減衰に組み合わされた入射振動波のフィルタリングを実施することを特徴としている。
【0003】
特許文献2には、プレス装置などの振動が発生する機器が載置されて、該機器の振動を低減させることができる防振部材に関する技術が開示されている。この先行技術では、上部に機器が載置される機器載置部と、支持部と機器載置部との間に介装され上下方向に重ねられた複数の皿ばねと、該複数の皿ばねの上下方向以外の変位および変形を拘束して支持する皿ばね支持部と、を備えることを特徴としている。
【0004】
特許文献3には、人工フォノニックメタマテリアルを構築するための人工フォノニック結晶の単位セルに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5105875号
【特許文献2】特開2013-53720号公報
【特許文献3】特開2019-522151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
防振部材は、スプリングやゴムを用いて軸方向の剛性を小さくすることで防振性能を発揮させることが多い。しかし、スプリングやゴムは、軸方向に対するせん断剛性及び曲げ剛性も小さい。よって、例えば、地震時に防振部材で吊り下げられている天井等の水平変位等が大きくなる。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、軸方向に対する防振効果を発揮しつつ、曲げ方向及びせん断方向の力が作用した場合の曲げ変形及びせん断変形が小さい防振構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、防振部材と、前記防振部材の軸方向の両側に接合され同軸上に配置された支持部材と、で構成された防振構造であって、前記防振部材の軸方向の剛性が、前記支持部材の軸方向の剛性よりも小さく、前記防振部材の曲げ剛性及びせん断剛性が、前記支持部材の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上である、防振構造である。
【0009】
第一態様に記載の防振構造では、一方の支持部材と他方の支持部材との間の軸方向の振動に対しては、防振部材の軸方向の剛性を支持部材の軸方向の剛性よりも小さくすることで防振性能が発揮される。また、一方の支持部材と他方の支持部材との間に曲げ方向及びせん断方向の力が作用した場合に対しては、防振部材の曲げ剛性及びせん断剛性が支持部材の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上とすることで、剛性が同等よりも小さい場合と比較し、曲げ変形及びせん断変形が小さくなる。
【0010】
ここで、「防振部材の軸方向の剛性が支持部材の軸方向の剛性よりも小さい」とは、防振部材と支持部材とで構成された防振構造の軸方向の剛性が、防振構造が支持部材のみで構成されていると仮定した場合の軸方向の剛性よりも小さいことを意味している。
【0011】
また、「防振部材の曲げ剛性及びせん断剛性が支持部材の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上」とは、防振部材と支持部材とで構成された防振構造の曲げ剛性及びせん断剛性が、防振構造が支持部材のみで構成されていると仮定した場合の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上であることを意味している。
【0012】
防振構造に複数の防振部材がある場合は、複数の防振部材全体を一つの防振部材とみなした場合の鉛直方向の軸心を防振部材の軸心とする。
【0013】
第二態様は、前記防振部材は、一方の前記支持部材に接合されると共に他方の前記支持部材に接続された軸部が内部に設けられた筒体と、前記筒体内に軸方向に間隔をあけて複数枚設けられ、中心部が前記軸部に接合されると共に外縁部が前記筒体の内周面に接合された面材と、を有している、第一態様の防振構造である。
【0014】
第二態様に記載の防振構造では、一方の支持部材と他方の支持部材との間の軸方向の振動に対しては、他方の支持部材に接合された軸部を介して、筒体内に軸方向に間隔をあけて複数枚設けられた面材が軸方向に面外変形することで、防振性能が発揮される。また、一方の支持部材と他方の支持部材との間に曲げ方向及びせん断方向の力が作用した場合に対しては、他方の支持部材に接合された軸部を介して、外縁部が筒体に接合された面材が抵抗することで、曲げ変形及びせん断変形が小さくなる。
【0015】
第三態様は、前記防振部材は、軸方向の剛性が前記支持部材よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が前記支持部材と同等以上となるように肉抜きされ、剛性に異方性を持つ肉抜き構造体である、第一態様に記載の防振構造である。
【0016】
第三態様に記載の防振構造では、一方の支持部材と他方の支持部材との間の軸方向の振動に対しては、軸方向の剛性を支持部材よりも小さくなるように肉抜きされた防振部材によって防振性能が発揮される。また、一方の支持部材と他方の支持部材との間に曲げ方向及びせん断方向の力が作用した場合に対しては、曲げ剛性及びせん断剛性が支持部材と同等以上となるように肉抜きされた防振部材によって、剛性が同等よりも小さい場合と比較し、曲げ変形及びせん断変形が小さくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防振構造は、軸方向に対する防振効果を発揮しつつ、軸方向に対する曲げ変形及びせん断変形を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態の吊部材を用いた吊り天井の正面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態の吊部材の防振部材の軸方向に沿った断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態の吊部材の防振部材の斜視図である。
【
図4】(A)は比較例の吊部材の応力分布図であり、(B)は第一実施形態の吊部材の応力分布図である。
【
図5】本発明の第一実施形態の吊部材の防振特性を示すグラフである。
【
図6】本発明の第二実施形態の吊部材の防振部材を構成するユニットの斜視図である。
【
図7】本発明の第二実施形態の吊部材の防振部材を構成する構造体の斜視図である。
【
図8】本発明の第二実施形態の吊部材の防振部材の斜視図である。
【
図9】本発明の第二実施形態の第一変形例の構造体の斜視図である。
【
図10】本発明の第二実施形態の第二変形例の構造体の斜視図である。
【
図11】本発明の第三実施形態の防振装置の上に設備機器を固定した正面図である。
【
図12】本発明の第三実施形態の防振装置を模式的に示す平面図である。
【
図13】既存の防振部材を用いた吊部材の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態の防振構造の一例としての吊部材について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。また、防振部材は、後述する吊材として使用されている状態における方向である。
【0020】
[構造]
本実施形態の吊部材の構造について説明する。
【0021】
図1に示す吊り天井10は、吊部材50と、スラブ20に吊部材50で吊られたTバー30と、Tバー30に接合された天井材32と、を有して構成されている。Tバー30は、平面視格子状に組まれている。なお、吊り天井10の構造は、一例であってこれに限定されるものではない。
【0022】
防振構造の一例としての吊部材50は、支持部材の一例として上側吊材52及び下側吊材53と、防振部材100と、で構成されている。上側吊材52、下側吊材53及び防振部材100は鉛直方向の軸心が一致、すなわち同軸上に設けられている。本実施形態における軸方向は鉛直方向である。
【0023】
本実施形態における上側吊材52及び下側吊材53は、同じ太さの鋼製の棒材とされている。なお、上側吊材52は、上端部がスラブ20に固定されると共に下端部54(
図2参照)が防振部材100に接合されている。下側吊材53は、上端部55(
図2参照)が防振部材100に接合されると共に下端部がTバー30に連結されている。
【0024】
図1及び
図2に示す防振部材100は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定されている合成樹脂製の部材である。
【0025】
ここで、「防振部材100の軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さい」とは、上側吊材52と下側吊材53との間に防振部材100が接合された吊部材50全体の軸方向の剛性が、上側吊材52及び下側吊材53を構成する鋼材の棒材のみで構成されている吊部材800(
図4(A)参照)の軸方向の剛性よりも小さいことを意味している。
【0026】
また、「防振部材100の曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上」とは、上側吊材52と下側吊材53の間に防振部材100が接合された吊部材50全体の曲げ剛性及びせん断剛性が、上側吊材52及び下側吊材53を構成する鋼材の棒材のみで構成されている吊部材800(
図4(A)参照)の曲げ剛性及びせん断剛性軸方向の剛性と同等以上であることを意味している。
【0027】
図2に示すように本実施形態の防振部材100は、筒体110と軸部120と面材130とを有して構成されている。なお、本実施形態では、筒体110は円筒形であり(
図3参照)、軸部120は円柱状であるが、これに限定されるものではない。例えば、筒体は角筒形で、軸部は角柱状であってもよい。
【0028】
筒体110は、筒状の側壁部112と天井部114とを有している。天井部114には、軸方向に沿ったネジ穴142が形成された接合部140が軸心上に形成されている。
【0029】
筒体110の内部には、面材130と軸部120とが設けられている。軸部120は、筒体110内の軸心上に設けられ、内部には軸方向に沿ってネジ穴143が形成されている。
【0030】
円板状の面材130は、筒体110の内部に軸方向に間隔をあけて複数枚設けられている。また、面材130の軸心部分には、軸部120が貫通するように接合されると共に外縁部132が筒体110の内周面112Aに接合されている。
【0031】
なお、
図2では、筒体110の側壁部112、天井部114及び面材130は、同じ板厚で図示されているが、これに限定されるものではない。例えば、後述するように面材130は、面外方向(軸方向)に弾性変形する板バネとして機能するので、面材130の板厚を筒体110の側壁部112及び天井部114の板厚よりも小さくしてもよい。
【0032】
上側吊材52の下端部54にはネジが切られており、防振部材100の接合部140のネジ穴142に捻じ込むことで、防振部材100の筒体110と接合されている。同様に、下側吊材53の上端部55にはネジが切られており、防振部材100の軸部120のネジ穴143に捻じ込むことで、防振部材100の軸部120と接合されている。
【0033】
なお、上側吊材52及び下側吊材53と防振部材100との接合構造は、一例であってこれに限定されるものではない。
【0034】
本実施形態の防振部材100は、合成樹脂製とされ、筒体110、軸部120及び面材130が一体となって構成されている。なお、本実施形態の防振部材100は、3Dプリンターによって製造されているが、これに限定されるものではない。例えば、軸方向に見た形状が半円状の部品を製造して、接合して一体化してもよい。
【0035】
前述したように、防振部材100は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定、例えば、筒体110の直径及び板厚等、面材130の板厚、枚数及び間隔等が設定されている。
【0036】
また、別の観点から説明すると、本実施形態の防振部材100は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上である剛性に異方性を持つメカニカルメタマテリアルと言える。
【0037】
[作用]
次に本実施形態の作用について説明する。
【0038】
まず、
図13に示す従来の防振部材の一例である防振部材600を有する吊部材500について説明する。
【0039】
本例における従来の防振部材600は、鋼製のフレーム部610とゴム部620とを有して構成されている。フレーム部610は板材を矩形枠状に成型した構造とされ、天井部612と底面部613とには、それぞれ貫通穴614、615が形成されている。フレーム部610の底面部613の上には、ゴム部620が設けられている。ゴム部620にも貫通穴622が形成されている。
【0040】
フレーム部610の天井部612の貫通穴614には上側吊材52の下端部54が挿通され、ナット700によって締結されている。フレーム部610の底面部613及びゴム部620の貫通穴615、622には下側吊材53の上端部55が挿通され、ナット700によって固定されている。
【0041】
このような構成の吊部材500の防振部材600のゴム部620は、上側吊材52及び下側吊材53よりも軸方向の剛性が小さく軸方向に弾性変形する。よって、スラブ20(
図1参照)と天井材32(
図1参照)との間で吊部材500を介して伝達される軸方向の振動は、ゴム部620が軸方向に弾性変形することで低減する。
【0042】
一方で、ゴム部620は、上側吊材52及び下側吊材53よりも軸方向に対するせん断剛性及び曲げ剛性も小さく、せん断方向(水平方向)及び曲げ方向にも弾性変形する。よって、
図13(B)に示すように、地震時において、下側吊材53の軸方向に対する水平方向及び曲げ方向の変位が大きく、天井材32(
図1参照)の横揺れが大きくなる。なお、
図13(B)は、判り易くするため、実際よりも変位を大きく図示している。
【0043】
これに対して、
図1~
図3に示す本実施形態の吊部材50の防振部材100は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定されている。
【0044】
よって、スラブ20(
図1参照)と天井材32(
図1参照)との間で吊部材50を介して伝達される軸方向の振動は、防振部材100によって低減する。具体的には、防振部材100の軸方向に間隔をあけて複数枚設けられた面材130が軸方向(面外方向)に弾性変形することで、軸方向の振動が低減する。
【0045】
一方で、防振部材100の曲げ剛性及びせん断剛性は、上側吊材52及び下側吊材53と同等以上になるように設定されている。よって、地震時において、下側吊材53の軸方向に対する水平方向及び曲げ方向の変位が小さいので、天井材32(
図1参照)の横揺れが小さくなる。具体的には、下側吊材53に接合された軸部120が中心部分に接合された面材130が、水平方向の抵抗要素となることで、軸部120の水平方向の変位が小さくなる。また、防振部材100の軸部120の上端部と下端部とが面材130によって固定されているので、軸部120の曲げ方向の変位が小さくなる。
【0046】
[実験]
次に、本実施形態の吊部材50の曲げ剛性と軸方向の振動に対する防振効果についての実験について説明する。
【0047】
図4(A)は比較例の吊部材800であり、
図4(B)は3Dプリンターで製作した本実施形態の防振部材100を用いた吊部材50である。
【0048】
図4(A)の比較例の吊部材800は、上側吊材52及び下側吊材53と同じ鋼製の棒材のみで構成されている。比較例の吊部材800の軸方向の全長と本実施形態の吊部材50の軸方向の全長とは同じである。
【0049】
図4(A)は比較例の吊部材(棒材)800の上端部を固定して下端部に水平方向に荷重をかけた場合の応力分布と変形量L1が示されている。
図4(B)は本実施形態の吊部材50上端部を固定して下端部に水平方向に荷重をかけた場合の応力分布と変形量L2と、を示している。なお、ドットが密であるほど応力が大きい。そして、この図からわかるように、比較例の吊部材800の応力分布及び変形量L1と本実施形態の吊部材50の応力分布と変形量L2とは同等であることが判る。
【0050】
なお、水平荷重の大きさを0~10Nまで実験したが、いずれの場合も応力分布と変形量とは本実施形態の吊部材50は、比較例の吊部材800と同等かそれ以上であった。
【0051】
これから防振部材100は、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上であることが判る。
【0052】
図5は、3Dプリンターで製作した防振部材100を用いた吊部材50の上端部を固定し、下端部に10kgの錘をぶら下げて、振動試験を行った結果のグラフである。具体的には、上側吊材52から防振部材100に入力される振動の大きさと、防振部材100から下側吊材53に透過していく振動の大きさの比を計測した結果のグラフである。
【0053】
このグラフから1つの明瞭なピークと、ピークが生じている振動数より高い振動数帯域において、振動の大きさが低減されていることが読み取れるので、防振部材100は軸方向の振動に対して、一質点系の理想的な防振特性を発揮していることが判る。
【0054】
これから、防振部材100は、軸方向の振動に対して高い防振効果を有していることが判る。
【0055】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態の防振構造の一例としての吊部材について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0056】
[構造]
本実施形態の吊部材の構造について説明する。なお、防振部材以外は、第一実施形態と同じであるので、主に防振部材について説明する。
【0057】
図8に示す本実施形態の吊部材60を構成する防振部材200は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定されている樹脂製の部材である。
【0058】
本実施形態の防振部材200は、複数のユニット210(
図6参照)で構成されている。
図6に示すユニット210は、軸方向に対向して配置された一対の平面視略矩形状の第一プレート212と、一対の第一プレート212の各辺部214A、214B、214C、214D同士を繋ぎ面外方向に湾曲した第二プレート220と、を有している。なお、辺部214A、214B、214C、214Dを区別しないで説明する場合は、単に辺部214とする。
【0059】
第一プレート212は、平面視で正方形の角部が円弧状に切りかかれた板状とされ、板厚方向が軸方向である。第二プレート220は、板厚方向がX方向又はY方向とされ、平面視において、第一プレート212の中心部側に向かって面外方向に湾曲している。なお、第一プレート212の角部は、円弧状に切りかかれていなくてもよい。例えば、第一プレート212の角部は、直線上に切りかかれていてもよいし、切りかかれておらず真に矩形状であってもよい。また、第一プレート212は、平面視で正方形でなくてもよく、矩形状であればよい。
【0060】
図7に示すように、ユニット210は、軸方向と直交するX方向及びY方向に並べられ、隣り合う第一プレート212の辺部214(
図6参照)同士が接合している。具体的には、
図6に示す辺部214Aと辺部214Cとが接合し、辺部214Cと辺部214Dとが接合している。なお、
図7に示すユニット210がX方向及びY方向に並べられたものを構造体250とする、
【0061】
図7の複数のユニット210が並べられた構造体250の上面252を構成する第一プレート212(
図6参照)と下面254を構成する第一プレート212(
図6参照)とには、
図8に示すように、それぞれ上側固定部260と下側固定部270とが接合されている。
【0062】
図8に示すように、上側固定部260は、平面視矩形状の板状とされ、軸心上にネジ穴(図示略)が形成された上側接合部262が設けられている。同様に、下側固定部270は、平面視矩形状の板状とされ、軸心上にネジ穴(図示略)が形成された下側接合部272が設けられている。
【0063】
本実施形態の防振部材200は、複数のユニット210で構成された構造体250、上側固定部260及び下側固定部270が一体となっており、全体を3Dプリンターによって製造されているが、これに限定されるものではない。例えば、ユニット210で構成された構造体250を3Dプリンターで製造し、上側固定部260及び下側固定部270と、型成型で製造して接合してもよい。或いは、ユニット210のみを3Dプリンターで製造し、これらを並べて接合して構造体250としてもよい。また、ユニット210も3Dプリンター以外の方法で製造してもよい。
【0064】
図8に示すように、上側吊材52は、ネジが切られた下端部54が防振部材200の上側固定部260の上側接合部262のネジ穴(図示略)に捻じ込まれることで防振部材200と接合される。同様に、下側吊材53は、ネジが切られた上端部55が防振部材200の下側固定部270の下側接合部272のネジ穴(図示略)に捻じ込まれることで防振部材200と接合される。
【0065】
ここで、
図6に示すユニット210単体では、軸方向(鉛直方向)の変形に対しては、湾曲した第二プレート220が面外方向に弾性変形するので剛性が小さい。また、ユニット210は、せん断方向の変形に対しては、せん断方向と直交する方向が板厚方向の第二プレート220が抵抗するので剛性が大きい。例えば、X方向のせん断変形に対して、上下の辺部214C同士と上下の辺部214A同士を繋ぐ第二プレート220が抵抗する。
【0066】
ユニット210の曲げ方向の変形に対しては、第二プレート220が弾性変形するため剛性が小さい。例えば、
図6におけるY軸回りの回転の場合、上下の辺部214B同士を繋ぐ第二プレート220及び上下の辺部214D同士を繋ぐ第二プレート220が弾性変形するため、曲げ剛性は大きくない。
【0067】
複数のユニット210を並べた構造体250では、軸剛性とせん断剛性は配列したユニット210のユニット数に対して等倍となる。一方、曲げ剛性に関しては、曲げモーメントの軸から離れるにしたがって曲げ方向の抵抗力が大きくなるため、曲げ剛性はユニット数の等倍以上の剛性を有する。よって、ユニット210を多く並べるほど、構造体250の軸方向の剛性と曲げ方向の剛性との差が大きくなる。つまり、軸方向にのみ剛性の低い構造体250となる。
【0068】
よって、ユニット210の第一プレート212及び第二プレート220の大きさや板厚等及びユニット210を並べる個数等を調整することで、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定することができる。
【0069】
別の観点から説明すると、防振部材200、構造体250及びユニット210は、上下の第一プレート212及び四方の湾曲した第二プレート220の間が空洞である肉抜き構造である。よって、防振部材200は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53と同等以上となるように肉抜きされ、剛性に異方性を持つ肉抜き構造体であると言える。
【0070】
或いは、防振部材200は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上である剛性に異方性を持つメカニカルメタマテリアルと言える。
【0071】
[作用]
次に本実施形態の作用について説明する。
【0072】
第一実施形態と同様に、
図8に示す本実施形態の吊部材60の防振部材200は、軸方向の剛性が上側吊材52及び下側吊材53の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が上側吊材52及び下側吊材53の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定されている。
【0073】
よって、スラブ20(
図1参照)と天井材32(
図1参照)の間で吊部材60を介して伝達される軸方向の振動は、防振部材200によって低減する。具体的には、防振部材200のユニット210の湾曲した第二プレート220が弾性変形することで、軸方向の振動が低減する。
【0074】
一方で、防振部材200の曲げ剛性及びせん断剛性は、上側吊材52及び下側吊材53と同等以上になるように設定されている。よって、地震時において、下側吊材53の軸方向に対する水平方向及び曲げ方向の変位が小さいので、天井材32(
図1参照)の横揺れが小さくなる。
【0075】
[変形例]
第二実施形態の構造体の変形例について説明する。
【0076】
上記実施形態では、複数のユニット210がX方向及びY方向に並んで接合されていたが、これに限定されるものではない。必要とする軸方向の剛性、曲げ剛性及びせん断剛性となるように、2以上のユニット210が、接合されていればよい。よって、次に、他の例を変形例として説明する。
【0077】
(第一変形例)
図9に示すように、第一変形例の構造体255は、ユニット210が、X方向及びY方向に沿って格子状に並べられて接合されている。更に、X方向に沿った列のみは、ユニット210が積層されている。
【0078】
(第二変形例)
図10に示すように、第二変形例の構造体257は、ユニット210が、X方向及びY方向に並べられ且つZ方向に積層されて接合されている。別の観点から説明すると構造体250がZ方向に積層された構造である。
【0079】
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態の防振構造の一例としての防振装置70について説明する。
【0080】
[構造]
図11に示すように、振動源となるモーター等の設備機器82が、スラブ80の上に設置された防振装置70の上に固定されている。
【0081】
防振装置70は、複数の防振部材300、ボルト74、上側架台72及び下側架台73で構成されている。複数の防振部材300は、鉛直方向の軸心と、上側架台72及び下側架台73の鉛直方向の軸心G(
図12参照)と、が一致、すなわち同軸上に設けられている。
【0082】
なお、後述するように、平面視において、防振部材300は矩形の角部に配置されている。「複数の防振部材300の鉛直方向の軸心」とは、矩形の中心位置である。別の観点から説明すると、複数の防振部材300全体を一つの防振部材とみなした場合の鉛直方向の軸心が、複数の防振部材300の軸心Gである。
【0083】
上側架台72及び下側架台73は、それぞれ鉄骨材が平面視で矩形枠状に組まれて構成されている(
図12も参照)。これら矩形枠状の上側架台72及び下側架台73の角部の間に防振部材300が設けられている。
【0084】
本実施形態の防振部材300は、第二実施形態の第二変形例の構造体257(
図10参照)の上下に上側固定部360及び下側固定部370が設けられた構成となっている。上側固定部360は、平面視矩形状の板状の部材で各角部にネジ穴(図示略)が形成されている。同様に下側固定部370は、平面視矩形状の板状の部材で各角部にネジ穴(図示略)が形成されている。
【0085】
上側架台72は防振部材300の上側固定部360の角部のネジ穴(図示略)にボルト74を捻じ込ませることで防振部材300と接合されている。同様に、下側架台73は防振部材300の下側固定部370の角部のネジ穴(図示略)にボルト74を捻じ込ませることで防振部材300と接合されている。
【0086】
そして、複数の防振部材300全体で、軸方向の剛性が、ボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性がボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定することができる。
【0087】
ここで、「複数の防振部材300全体の軸方向の剛性がボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の軸方向の剛性よりも小さい」とは、上側架台72と下側架台73との間に複数の防振部材300がボルト74で接合された防振装置70全体の軸方向の剛性が、上側架台72及び下側架台73と同じ架台がこれらの間に挟まれてボルト74で接合されている場合の軸方向の剛性よりも小さいことを意味している。
【0088】
また、「複数の防振部材300全体の曲げ剛性及びせん断剛性がボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上」とは、上側架台72と下側架台73との間に複数の防振部材300がボルト74で接合された防振装置70全体の曲げ剛性及びせん断剛が、上側架台72及び下側架台73と同じ架台がこれらの間に挟まれてボルト74で接合されている場合の曲げ剛性及びせん断剛性軸方向の剛性と同等以上であることを意味している。なお、この場合の曲げ剛性及びせん断剛性は、これらが最も小さくなるボルト74の接合部位である。
【0089】
[作用]
次に本実施形態の作用について説明する。
【0090】
図11に示す本実施形態の防振装置70の複数の防振部材300は、軸方向の剛性がボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性がボルト74を含む上側架台72及び下側架台73の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上になるように設定されている。
【0091】
よって、設備機器82からスラブ80に防振装置70を介して伝達される軸方向(鉛直方向)の振動は、防振部材300によって低減する。具体的には、防振部材300のユニット210の湾曲した第二プレート220が弾性変形することで、軸方向の振動が低減する。
【0092】
一方で、防振部材300の曲げ剛性及びせん断剛性は、ボルト74を含む上側架台72及び下側架台73と同等以上になるように設定されている。よって、地震時において、下側吊材53の軸方向に対する水平方向及び曲げ方向の変位が小さいので、設備機器82の横揺れは小さい。
【0093】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0094】
例えば、上記実施形態の防振部材100、200、300では、軸方向に弾性変形する部材(面材130又は第二プレート220)によって軸方向の剛性を小さくしていたが、これに限定されない。例えば、防振部材は、曲げ力及びせん断力を負担する部材断面が大きく、軸方向の力を負担する部材断面が小さくなるように肉抜きされ、剛性に異方性を持つ肉抜き構造体であってもよい。或いは、防振部材は、仮想の中実体を、曲げ剛性及びせん断剛性が小さくなるよりも軸剛性が小さくなるように肉抜きした剛性に異方性を持つ肉抜き構造体であってもよい。
【0095】
また、例えば、上記実施形態の防振部材100、200、300は、メカニカルメタマテリアルの技術を用いていたが、これに限定されるものではない。例えば、防振部材は、トポロジー最適化の技術を用いてもよいし、他の技術を用いてもよい。要は、防振部材は、軸方向の剛性が支持部材の軸方向の剛性よりも小さく、曲げ剛性及びせん断剛性が支持部材の曲げ剛性及びせん断剛性と同等以上であればよい。
【0096】
また、例えば、上記実施形態の防振部材100、200、300は、合成樹脂製であったが、これに限定されるものではない。例えば、金属製の防振部材であってもよい。
【0097】
また、例えば、実施形態では、防振部材は、吊り天井及び設備機器の防振装置に用いたがこれに限定されるものではない。例えば、防音室の横揺れを抑制するために防振部材を用いてもよい。具体的には、入れ子構造の外側の部屋の壁と内側の部屋の壁との間に防振部材を設けてもよい。
【0098】
また、防振部材の軸方向の一方と他方に接合される支持部材の各剛性が異なる場合は、小さい方の剛性を採用する。
【0099】
また、例えば、上記実施形態の防振部材100、200、300は、合成樹脂製であったが、これに限定されるものではない。例えば、金属製の防振部材であってもよい。
【0100】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0101】
50 吊部材(防振構造の一例)
52 上側吊材(支持部材の一例)
53 下側吊材(支持部材の一例)
60 吊部材(防振構造の一例)
70 防振装置(防振構造の一例)
72 上側架台(支持部材の一例)
73 下側架台(支持部材の一例)
74 ボルト(支持部材の一例)
100 防振部材
110 筒体
112A 内周面
120 軸部
130 面材
132 外縁部
200 防振部材
210 ユニット
212 第一プレート
220 第二プレート
250 構造体
255 構造体
257 構造体
300 防振部材