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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008460
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】水中油型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20230112BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20230112BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/06
A61K8/44
A61K8/55
A61K8/81
A61Q19/00
A61K8/891
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112044
(22)【出願日】2021-07-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り I.販売 販売日 令和2年9月23日 販売場所 MOON-X株式会社の通販のBITOKA公式ショップウェブサイトのアドレス:https://www.bitoka-japan.com/products/crystal-cream II.ウェブサイト掲載 掲載日 令和2年10月21日 アドレス https://www.scconline.org/ifscc2020/
(71)【出願人】
【識別番号】593084649
【氏名又は名称】日本コルマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳永 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】貴傳名 祐希
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC421
4C083AC422
4C083AC482
4C083AC661
4C083AC901
4C083AC902
4C083AD021
4C083AD022
4C083AD151
4C083AD152
4C083AD662
4C083BB04
4C083BB05
4C083BB11
4C083CC02
4C083CC05
4C083DD01
4C083DD33
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】透明性のある外観を呈している水中油型乳化化粧料において、ナノエマルションにおける微小乳化粒子の凝集が抑制されて経時的に乳化状態が安定して維持されており、しかも油性成分を含む内相の比率が25質量%以上であるように油性成分が高配合されているにも拘らず、皮膚への塗布時に過剰な油性感や塗布後の違和感がない付加価値の高い水中油型乳化化粧料とすることである。
【解決手段】油性成分(A)と、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)と、陰イオン性界面活性剤(C)0.1~3.0質量%と、水性成分(D)を必須成分とする透明または半透明の水中油型乳化組成物からなり、前記油性成分(A)、非イオン性界面活性剤(B)及び陰イオン性界面活性剤(C)を含む内相の比率が25~45質量%である水中油型乳化化粧料としたので、乳化粒子の表面電荷とゼータ電位による静電的な反発力が充分にあるため、接近した乳化粒子同士が合一し難くなり、ナノエマルションの分散状態が長時間に亘って安定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性成分(A)と、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)と、陰イオン性界面活性剤(C)0.1~3.0質量%と、水性成分(D)を必須成分とする透明または半透明の水中油型乳化組成物からなり、前記油性成分(A)、非イオン性界面活性剤(B)及び陰イオン性界面活性剤(C)を含む内相の比率が25~45質量%である水中油型乳化化粧料。
【請求項2】
上記油性成分(A)の含有量が、15質量%以上である請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項3】
上記HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)が、HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)も含む非イオン性界面活性剤(B)である請求項1または2に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項4】
上記HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)が、ポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはモノグリセリン脂肪酸エステルまたはこれら両者からなるグリセリン脂肪酸エステル(B2)である請求項3に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項5】
上記HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)成分が、0.5~12質量%であり、かつ上記HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)成分が0.5~5.0質量%である請求項3または4に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項6】
上記陰イオン性界面活性剤(C)が、アシルアミノ酸塩またはリン酸脂肪酸エステル塩である請求項1~5のいずれかに記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項7】
上記透明または半透明の水中油型乳化組成物は、粒子径20~100nmの乳化粒子が分散している水中油型乳化組成物である請求項1~6のいずれかに記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項8】
上記透明または半透明の水中油型乳化組成物は、乳化粒子の平均粒子間距離が50nm以下である請求項7に記載の水中油型乳化化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透明または半透明の水中油型乳化化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
保湿クリームに代表される水中油型乳化化粧料には、皮膚の乾燥を抑える機能を持たせるために、互いに相溶性のない水分と油分が共存してバランスよく配合されることが望まれており、水中油型または油中水型の乳化形態が適用されている。
【0003】
一般的な保湿クリームは、乳化粒子の平均粒子径が可視光線の波長(380~780nm)よりも大きく、白濁した外観を呈する乳化組成物からなる。
【0004】
このような従来の乳化組成物に対し、透明性や半透明性を持たせて、爽やかでみずみずしい外観にする開発が進められ、例えば保湿クリームの油分を可溶化し、またはマイクロエマルション化もしくは液晶を用いた透明ゲルエマルション化を図った水中油型乳化組成物からなる化粧料が周知である。
【0005】
たとえば乳化組成物からなる保湿クリーム等の化粧料に、透明性を持たせるには、油分の含有量を、例えば5%以下程度に少なくすることが必要であり、また多量の界面活性剤の配合、高級アルコール、ワックス等の配合等が必要とされてきた(特許文献1)。
【0006】
また、リンゴ酸ジイソステアリルという所定の低粘度のジエステル油と、特にHLB値を限定しない非イオン界面活性剤である硬化ヒマシ油(水添ヒマシ油)15質量%以下を配合し、平均粒子径が20nmから3μm程度の乳化粒子を含む水中油型のエマルションからなる半透明性のスキンケア化粧料が知られている(特許文献2)。
【0007】
さらにまた、非イオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤を配合して粒子径が、10~500nmのO/W型微細エマルションからなり、外観が透明なジェル状の毛髪化粧料が知られている(特許文献3)。
ちなみに、このような乳化組成物は、互いに溶解しない液相の一方が他方に微細な液滴として分散したものであって、分散する乳化粒子を「内相」という場合には、乳化粒子が分散している媒質を「外相」という。
ただし、このような乳化組成物に含まれる界面活性剤を「内相」に含めるか含めないかについては諸説あるため、以下に「内相」という場合には、油性成分だけでなく、非イオン性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤などの界面活性成分も含めたものをいうこととする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-254670号公報
【特許文献2】特開2020-002102号公報
【特許文献3】特開2012-121839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献2に記載されているスキンケア化粧料は、油性成分を含む内相の比率が特定されたものではなく、また平均粒子径が20nm~3μmというナノ単位からミクロン単位までの広い粒径範囲の乳化粒子からなるエマルションであるから、内相の比率が、例えば25質量%以上のように高い場合であって、特に油性成分の含有比率が15質量%以上の場合には、粒子径100nm以下のナノ単位の微小な乳化粒子を凝集させない非合一性の乳化状態を経時的に安定させることは困難であった。
【0010】
また、特許文献3に記載されるジェル状毛髪化粧料は、マイクロエマルションを調製する際に、非イオン性界面活性剤と共に、毛髪への吸着性を考慮してカチオン性界面活性剤を併用しており、これをナノエマルション化してから、最終工程で高内相の所期したエマルションを得ている。
しかしながら、特許文献3の段落[0044]には、「マイクロエマルション生成の際
に毛髪化粧料中における(C)成分の配合量は0.001~5質量%が好ましい」(同段落[0045])と記載されており、最終製品のジェル状毛髪化粧料の油分(C成分)の配合量は極少量であった。
【0011】
また、いわゆるナノエマルションは、乳化粒子が平均粒子径1μm未満の非常に小さくて粒子表面積が極めて大きいものであるので、界面エネルギーが大きく、かつブラウン運動も生じていて、膨潤したミセルであり熱力学的に安定なマイクロエマルションに比べて、乳化粒子同士が合一する確率が高く、そのために微小な粒子径とそれによる透明性を経時的に安定して維持することが困難である。
【0012】
そこで、この発明の課題は、透明性のある外観を呈している水中油型乳化化粧料において、ナノエマルション化された状態で微小な乳化粒子同士の合一が抑制されることによって乳化状態が経時的に安定して維持され、しかも前記油性成分(A)等を含む内相の比率が25質量%以上であるように油性成分や界面活性剤等が配合されているにも拘らず、皮膚への塗布時にみずみずしい塗布感があり、尚且つ過剰な油性感や塗布後にべたつきや被膜感などの違和感のない水中油型乳化化粧料とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明では、油性成分(A)と、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)と、陰イオン性界面活性剤(C)0.1~3.0質量%と、水性成分(D)を必須成分とする透明または半透明の水中油型乳化組成物からなり、前記油性成分(A)、非イオン性界面活性剤(B)及び陰イオン性界面活性剤(C)を含む内相の比率が25~45質量%である水中油型乳化化粧料としたのである。
【0014】
上記したように構成されるこの発明の水中油型乳化化粧料は、油性成分(A)の含有量が15質量%以上のように高配合されている場合に、油性成分(A)が特定の非イオン性界面活性剤(B)で乳化され、透明または半透明となるように微細な乳化粒子が水中に分散した状態のものである。
【0015】
そして、前記内相の比率が25~45質量%である状態において、この発明の水中油型乳化化粧料は、HLB10以上の親水性のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)に加えて、0.1~3.0質量%の陰イオン性界面活性剤(C)が併用されていることにより、乳化粒子の平均粒子間距離が極めて短くなるように接近しても、表面電荷とゼータ電位による静電的な反発力が充分にあるため、接近した乳化粒子同士が合一し難くなり、ナノエマルションの分散状態が長時間にわたって安定する。
このような水中油型乳化化粧料は、水中に分散する微細な乳化粒子に油性成分が閉じ込められている油性感が抑制されたものになり、その結果、みずみずしい塗布感が得られるものになる。
【0016】
上記非イオン性界面活性剤(B)は、HLB10以上の親水性のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)によって油性成分(A)を充分に乳化するものであり、乳化粒子表面の水分子との結合性も増加させるので、乳化粒子による水分子の束縛性が増加することにより、ゲル強度が向上する。
【0017】
さらに上記非イオン性界面活性剤(B)に、HLB6以下の親油性のグリセリン脂肪酸エステル(B2)が含まれていれば、粒子径100nm以下のナノ単位の微小な乳化粒子となることでエマルション界面が高い曲率になったとしても、それに対応し安定なエマルション界面膜を形成して維持することができる。
【0018】
このような作用を充分に奏するように、上記非イオン性界面活性剤(B)は、HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)を含む非イオン性界面活性剤(B)であることが好ましい。
【0019】
また、この水中油型乳化化粧料は、内相比率、すなわち内相/(内相+外相)×100(質量%)が25質量%以上であるように、油性成分が高配合されている。それにも拘らず、この発明の水中油型乳化化粧料は、上記非イオン性界面活性剤(B)が配合されていることにより、エマルションの合一による不安定化が防止される。
このようにして水中油型乳化化粧料は、一般的に配合される高粘性の増粘剤を配合する必要がなく、皮膚に塗布された際に、増粘剤による粘着性を帯びた不快な被膜感がなく、過剰な油性感や塗布後の違和感を使用者に与えないものになる。
【0020】
上記HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)は、ポリグリセリン脂肪酸エステルもしくはモノグリセリン脂肪酸エステルまたはこれら両者からなるグリセリン脂肪酸エステル(B2)であることが上記作用効果を充分に奏させるために好ましい。
【0021】
また、上記HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)成分が、0.5~12質量%であり、かつ上記HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)成分が0.5~5.0質量%であることが、上記した作用効果が充分に得られるようにするために好ましい。上記同様の理由から、上記陰イオン性界面活性剤(C)が、アシルアミノ酸塩またはリン酸脂肪酸エステル塩であることが好ましい。
【0022】
上記水中油型乳化組成物が、充分に透明または半透明であり、付加価値の高い化粧料として透明性のある外観を呈するように、粒子径20~100nmの乳化粒子が分散しているクリーム状の水中油型乳化組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、透明性のある外観を呈している水中油型乳化化粧料を、高い内相の比率であるように、油性成分(A)と、所定のHLB値のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)と、所定量の陰イオン性界面活性剤(C)と、水性成分(D)を必須成分とする水中油型乳化組成物によって構成したので、微小乳化粒子の凝集が抑制されて経時的にナノエマルションの乳化状態が安定して維持され、しかも前記油性成分(A)等を含む内相の比率が25質量%以上であるように油性成分が高配合されているにも拘らず、皮膚への塗布時にみずみずしい塗布感があり、尚且つ過剰な油性感や塗布後にべたつきや被膜感などの違和感がないという付加価値の高い水中油型乳化化粧料になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1~6の透過光量と陰イオン性界面活性剤量との関係、及び実施例4、7,8及び比較例1、2の透過光量と内相比率との関係を示す図表
図2】実施例1~6の平均粒子間距離と陰イオン性界面活性剤量との関係を示す図表
図3】実施例4、7、8及び比較例1、2の平均粒子間距離と内相比率の関係を示す図表
図4】実施例1~6の乳化粒子のRsp(水分子の束縛性)と陰イオン性界面活性剤量との関係を示す図表
図5】実施例4、7、8及び比較例1、2の乳化粒子のRsp(水分子の束縛性)と内相比率の関係を示す図表
図6】近接する乳化粒子の電気二重層を説明する模式図
図7】実施例4の凍結割断レプリカ法による透過型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係る水中油型乳化化粧料の実施形態は、希釈しても白濁せず透明性を有する水中油型乳化組成物からなり、この水中油型乳化組成物は、油性成分(A)と、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)と、陰イオン性界面活性剤(C)0.1~3.0質量%と、水性成分(D)を必須成分とし、乳化粒子における油性成分(A)、非イオン性界面活性剤(B)及び陰イオン性界面活性剤(C)を含む内相の比率は25~45質量%である。
【0026】
この発明に用いる油性成分(A)は、皮膚からの水分蒸発を抑制して潤いを保ち、皮膚を柔軟に保つことのできる化粧料用のオイルであれば、特に限定されたものではなくてもよく、例えばα-オレフィンオリゴマーのような炭化水素油、スクワラン、ジメチルポリシロキサンのようなシリコーンオイル、その他にも皮脂の代替成分として使用可能な周知のエモリエントオイル等を採用することができる。
【0027】
油性成分(A)を含む内相の比率を25~45質量%とすることにより、皮膚からの水分蒸発を充分に抑制して潤いを保ち、皮膚を柔軟に保つことのできる優れたエモリエント性を持つ化粧料を得ることができる。
【0028】
また、この発明の水中油型乳化化粧料は、乳化粒子の平均粒子間距離が50nm以下であり、上記充分な油性成分を保持する所定の内相比率乳化組成物にて構成される。
【0029】
この発明に用いる非イオン性界面活性剤(B)は、HLB10以上、好ましくはHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)を含むノニオン性界面活性剤である。
【0030】
ちなみに、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、重合度の異なるポリグリセリンと脂肪酸鎖長や飽和、不飽和と種々異なる脂肪酸との組み合わせや比率を変えることで、親水性から親油性まで幅広いHLB値のものを合成することができる。
【0031】
HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)としては、ミリスチン酸ポリグリセリル、ステアリン酸ポリグリセリルなどが挙げられる。
【0032】
また、上記非イオン性界面活性剤(B)が、HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)を含む場合に、モノイソステアリン酸グリセリルのようなモノグリセリン脂肪酸エステルもしくはポリグリセリン脂肪酸エステルまたはこれら両者からなるグリセリン脂肪酸エステル(B2)を採用することができる。
【0033】
上記HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)成分の配合割合は、0.5~12質量%であることが好ましい。0.5質量%未満の少量では、乳化粒子の界面に配向させる所要量に足りないため、透明性を有する微細な乳化粒子で構成された水中油型乳化組成物を調製することが容易でない。また、12質量%を超える多量を配合すると、却って微細な乳化粒子を調製することが容易でないので好ましくない。
【0034】
また、この発明に用いる上記HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル(B2)成分の配合割合は、0.5~5.0質量%であることが好ましい。なぜなら、0.5質量%未満の少量では、粒子径100nm以下のナノ単位の微小な乳化粒子となることで、エマルション界面が高い曲率になった場合に十分にエマルション界面膜を安定に形成し維持できないので、好ましくない。また、5.0質量%を超える多量を配合しても上記のような所期した作用は向上せず、却って微細な乳化粒子を調製することが容易でなくなるので好ましくない。
【0035】
この発明に用いる陰イオン性界面活性剤(C)は、乳化粒子の平均粒子間距離が極めて短くなるように接近させても、表面電荷とゼータ電位による静電的な反発力を充分に高める作用を奏させるために配合される。
【0036】
このような作用を奏するように化粧料成分として周知の陰イオン性界面活性剤を採用することができるが、例えばリン酸ヘキサデシル=カリウム(セチルリン酸カリウム)のようなリン酸脂肪酸エステル塩またはアシルアミノ酸塩が挙げられる。
【0037】
アシルアミノ酸塩は、アミノ酸と脂肪酸から構成された酸アミド型陰イオン性界面活性剤であり、アミノ酸と脂肪酸塩化物とのアシル化反応で得られる。N-アシルグルタミン酸塩、N-アシルグリシン、N-アシルサルコシン塩などを代表例として、これらのナトリウム塩、アンモニア塩、アルカノールアミン塩などが挙げられる。
【0038】
このような陰イオン性界面活性剤(C)を、0.1~3.0質量%配合することで、上記した作用効果を充分に得ることができる。0.1質量%未満の少量の配合割合では、接近した乳化粒子同士が合一しやすくなって好ましくなく、3.0質量%を超える多量を配合しても、上記作用効果はそれ以上に改善しないので、添加効率の点から上記範囲であることが好ましい。
【実施例0039】
[実施例1~8、比較例1、2]
実施例及び比較例の水中油型乳化化粧料は、保湿クリームやスキンケア化粧料等に用いることができるものであり、以下に列挙する必須成分(A)~(D)及びその他の成分を用い、表1に示す組成となるように配合し、高圧乳化法(200MPa)により調製した。得られた実施例は、ゼリー硬度(25℃)10~140gの軟質ゲル状構造であり、比較例1,2は粘性流体の外観であった。
(A)油性成分:α-オレフィンオリゴマー、ジメチルポリシロキサン、
(B)非イオン性界面活性剤:
(B1)HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル:ミリスチン酸ポリグリセリル(HLB:12.2)及びステアリン酸ポリグリセリル(HLB:12.9)
(B2)HLB6以下のグリセリン脂肪酸エステル:モノイソステアリン酸ジグリセリル(HLB:5.5)
(C)陰イオン性界面活性剤:セチルリン酸K(リン酸水素ヘキサデシル=カリウム)
(D)水性成分:グリセリン、水
(その他の成分)
・乳化助剤: モノオレイルグリセリルエーテル
・防腐剤:メチルパラベン
・酸化防止剤:トコフェロール
【0040】
【表1】
【0041】
得られた実施例及び比較例におけるナノエマルションの透明性及び乳化粒子同士の合一性を調べるため、透過率、粒子径、乳化粒子の平均粒子間距離及びゼータ電位並びに表面電位、R2sp(水分子の束縛性)を以下の試験方法によって評価した。
【0042】
[透明性]
実施例及び比較例の可視光(625nm)に対する透過率(T%)を分光光度計で測定した。図1に示す結果からも明らかなように、実施例及び比較例は、内相比率を変化させても、または陰イオン性界面活性剤配合量を変化させても、いずれも透明性のあるものであったが、内相比率(内外相比)が28.7質量%以上の実施例1~8は、比較例1、2に比べて高い透明性(透過率65%以上)が確認された。なお、これらの実施例は10%水溶液となるまで希釈してもエマルションを壊さない閉じたエマルションであり、透明性は低下しなかった。
【0043】
[粒子径及び乳化粒子の平均粒子間距離]
実施例及び比較例をMythen R 1k検出器を備えた SAXSpace(Anton Paar、オーストリア)を使用した小角X線散乱法(SAXS)によって、波長k=0.1542 nm(Cu-Kα)、50kV、40mAでのX線照射にて粒子径と平均粒子間距離を測定した。散乱データの解析は、一般化された間接フーリエ変換(GIFT)法を用いて行なった。この方法は、形状因子と構造因子の同時決定に基づいており、その結果から粒子径と平均粒子間距離を算出してその結果を表2に示し、実施例1~6の平均粒子間距離と陰イオン性界面活性剤量(質量%)との関係を図2に示した。
なお、図6には近接する2つの乳化粒子のモデルを示し、粒子径a及び平均粒子間距離bを符号で示し、符号cは、乳化粒子表面電位からゼータ電位を含めたイオン拡散層の厚さを示した。
【0044】
図2に示される結果からも明らかなように、陰イオン性界面活性剤量(質量%)が0.1~0.9の範囲で増加すると、乳化粒子の平均粒子間距離bが近づくことが判明した。
【0045】
[乳化粒子のゼータ電位並びに表面電位]
超音波減衰分光法(UAS)測定により、実施例及び比較例のゼータ電位、および表面電荷を調べた。測定には超音波減衰分光装置DT-1202(Dispersion Technology、USA)を使用し、その結果を表2中に併記した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示される結果からも明らかなように、実施例及び比較例は、いずれも粒子分散に必要なレベルのゼータ電位(絶対値で25mV以上)を有していることが確認された。
また、実施例4、7、8及び比較例1、2の平均粒子間距離と内相比率との関係を図3に示した。この結果、内相比率が28.7~40.18質量%に増加するにつれて平均粒子間距離が近づくことが確認された。
【0048】
[Rsp(水分子の束縛性)]
実施例及び比較例の粒子界面における水分子の結合特性を調べるためにパルスNMR測定を行ない、緩和速度(R2 sp)の変化を調べた。緩和速度は、水素核が局所的および外部の磁気相互作用によって微妙に摂動されるときの分子運動の程度を示しR2 spは、粒子(液滴)と液体の界面の範囲をダイレクトに観察する指標になるものである。
【0049】
液体および固体のHスピン-スピン緩和(T2法)時間測定は、Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)パルスシーケンスを用いた13.3MHz NMRであるAcorn Area(XiGo Nanotools、USA)を用いて測定し、その結果を図4図5に示した。
【0050】
図4,5に示される結果からも明らかなように、陰イオン性界面活性剤比率が所定範囲内で増加するにつれて水分子の束縛性が弱まることが明らかであり(図4)、内相比率が増加するにつれて水分子の束縛性が増加することが明らかとなった(図5)。
【0051】
実施例4については、凍結割断レプリカ法による透過型電子顕微鏡(FF-TEM)観察を行い、粒子径と充填状態を確認したところ、20~40nm程度の粒子が均一にパッキング状態にあることが確認された(図7)。
【0052】
また、図6に示される粒子径a及び平均粒子間距離bは、表2に示される実施例4の平均粒子径と平均粒子間距離と一致していることから、電気二重層の重なりによりゼータ電位の一部がキャンセルされており、粒子分散が表面電荷とゼータ電位での反発力によって維持されていると考えられた。
以上の測定結果及び観察結果から、粒子の電気二重層が近接した位置関係にありながらもエマルションが非常に安定していることが分かる。
【0053】
また、前述したように陰イオン性界面活性剤量(質量%)が0.1~0.9に増加すると、乳化粒子の平均粒子間距離が近づくことの他、表1及び表2に示される結果からは、陰イオン性界面活性剤の量が一定以上増加しても、粒子の表面電荷は大きく変化しないことがわかり、粒子表面上に分布できる陰イオン性界面活性剤量には限界があると考えられた。また過剰量の陰イオン性界面活性剤は、粒子間の隙間でミセルやその他の構造体を形成することにより相互作用を引き起こし、ゲル強度に影響を与える可能性があると考えられた。
【0054】
図2及び図3に示されるように、所定量の陰イオン性界面活性剤量及び所定の内相比率に調整することによって、平均粒子間距離を近づけ、すなわち充填度を上げて粒子同士を近づけても、ゼータ電位と分散状態を維持するのに十分な表面電荷が付与されたと考えられた。
【0055】
また図5に示されるように、内相比率の増加と同時に粒子表面での水分子の結合性も増加することが確認されたことから、粒子組成が変化せず、内相比率のみを増加させて粒子数が増加することで表面積が増加して水分子の束縛性が増加し、ゲル強度の向上に寄与すると考えられた。
【0056】
このように内相比率が25~45質量%という高い状態において、所定HLB値の親水性のポリグリセリン脂肪酸エステル(B1)が含まれる非イオン性界面活性剤(B)に加えて、所定量の陰イオン性界面活性剤(C)が併用されていることにより、乳化粒子の平均粒子間距離が極めて短くなるように接近させても、表面電荷とゼータ電位による静電的な反発力が充分にあるため、接近した乳化粒子同士が合一し難くなり、ナノエマルションの分散状態が長時間に亘って安定していた。
また、乳化粒子同士の距離(平均粒子間距離)が近接し、粒子の電気二重層を接近させるほどの位置関係になっても内相の油性成分(A)同士を分散できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7