(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084637
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】プレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラム
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20230612BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20230612BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20230612BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230612BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20230612BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20230612BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/23
B21D22/26 D
B21D22/20 Z
G06F111:10
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021752
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021198176
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】澄川 智史
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雄司
(72)【発明者】
【氏名】新宮 豊久
【テーマコード(参考)】
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA13
4E137CB01
4E137EA01
4E137GA01
4E137GA08
4E137GB01
5B146AA06
5B146DJ07
5B146DJ15
(57)【要約】
【課題】形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形解析方法は、平坦ブランクモデル3を用いてプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状5として取得する基準プレス成形品形状取得ステップS1と、形状変動ブランクモデル7を生成する形状変動ブランクモデル生成ステップS3と、形状変動ブランクモデル7を用いてプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状9として取得する形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップS5と、基準プレス成形品形状5と形状変動ブランクプレス成形品形状9を比較し、両形状の乖離する部位と乖離量とを求める乖離量取得ステップS7と、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法であって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得ステップと、
前記形状変動に対応した形状変動ブランクモデルを生成する形状変動ブランクモデル生成ステップと、
前記形状変動ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状として取得する形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と前記形状変動ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得ステップと、を備えたことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項2】
前記形状変動ブランクモデル生成ステップにおいて生成する形状変動ブランクモデルは、所定のピッチと所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項3】
前記形状変動ブランクモデル生成ステップにおいて生成する形状変動ブランクモデルは、形状変動のある金属板から採取した実ブランクの形状を測定し、測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項4】
前記乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記形状変動ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプレス成形解析方法。
【請求項5】
前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプレス成形解析方法。
【請求項6】
形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析装置であって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得部と、
前記形状変動に対応した形状変動ブランクモデルを生成する形状変動ブランクモデル生成部と、
前記形状変動ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状として取得する形状変動ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準プレス成形品形状と前記形状変動ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得部と、を備えたことを特徴とするプレス成形解析装置。
【請求項7】
前記形状変動ブランクモデル生成部において生成する形状変動ブランクモデルは、所定のピッチと所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであることを特徴とする請求項6に記載のプレス成形解析装置。
【請求項8】
前記形状変動ブランクモデル生成部において生成する形状変動ブランクモデルは、形状変動のある金属板から採取した実ブランクの形状の実測値に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とする請求項6に記載のプレス成形解析装置。
【請求項9】
前記乖離量取得部は、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記形状変動ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載のプレス成形解析装置。
【請求項10】
前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部をさらに備えたことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一項に記載のプレス成形解析装置。
【請求項11】
コンピュータを請求項6乃至10のいずれかに記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするプレス成形解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により自動車車体の衝突安全性の向上が進展する中で、昨今の二酸化炭素排出規制を受けて自動車の燃費向上を図るため、車体の軽量化も必要とされている。これら衝突安全性能と車体の軽量化を両立するために、従来よりさらに高強度な金属板が車体に採用されつつある。
【0003】
従来から、プレス成形品を得るためのブランクを採取する実際の金属板は、完全に平坦なものはなく、波形状(形状変動)を有している。
したがって、金属板から採取した実際のブランクもまた、必ずしも平坦であるとは限らず、形状変動を有する場合がある。
【0004】
このような波打ち形状の金属板をブランクとして用いて、車体部品にプレス成形した場合、プレス成形後に得られたプレス成形品は、その形状変動が影響して、目標となる寸法精度から外れることが危惧される。
【0005】
プレス成形した後のプレス成形品について、目標となる寸法精度から外れたものを選別する技術として、例えば特許文献1、2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-047504号公報
【特許文献2】特開2019-002834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または特許文献2に開示の技術は、プレス成形後の成形品同士の形状を比較するものであって、プレス成形前のブランクの形状変動によるプレス成形後のプレス成形品への影響を予測できるものではない。
従来は、ブランクの形状変動によるプレス成形品の形状への影響を予測することは行われておらず、また、プレス成形品のどの部位がブランクの形状変動の影響を受けやすいかを特定することも行われていなかった。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るプレス成形解析方法は、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測する方法であって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得ステップと、
前記形状変動に対応した形状変動ブランクモデルを生成する形状変動ブランクモデル生成ステップと、
前記形状変動ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状として取得する形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準プレス成形品形状と前記形状変動ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記形状変動ブランクモデル生成ステップにおいて生成する形状変動ブランクモデルは、所定のピッチと所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記形状変動ブランクモデル生成ステップにおいて生成する形状変動ブランクモデルは、形状変動のある金属板から採取した実ブランクの形状を測定し、測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量取得ステップは、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記形状変動ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とするものである。
【0013】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定ステップをさらに備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(6)また、本発明に係るプレス成形解析装置は、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するものであって、
平坦な形状の平坦ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得する基準プレス成形品形状取得部と、
前記形状変動に対応した形状変動ブランクモデルを生成する形状変動ブランクモデル生成部と、
前記形状変動ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状として取得する形状変動ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準プレス成形品形状と前記形状変動ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記形状変動ブランクモデル生成部において生成する形状変動ブランクモデルは、所定のピッチと所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0016】
(8)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記形状変動ブランクモデル生成部において生成する形状変動ブランクモデルは、形状変動のある金属板から採取した実ブランクの形状の実測値に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0017】
(9)また、上記(6)乃至(8)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量取得部は、
前記基準プレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記形状変動ブランクプレス成形品形状における前記基準プレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とするものである。
【0018】
(10)また、上記(6)乃至(9)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0019】
(11)また、本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを上記(6)乃至(10)のいずれかに記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブランクにおける形状変動がプレス成形品のスプリングバック後の形状に与える影響の大きい部位やブランクの形状変動に起因する乖離量を知ることができる。
また、乖離量と予め定めた閾値とに基づいてプレス成形品の良否を判定し、これによってブランクの良否を予測できる。これにより、プレス成形品に要求される形状精度に収まるブランクの形状精度の限界を把握できて、適切な形状のブランクを選定することにより安定して形状の良好なプレス成形が可能になる。
また、プレス成形品の形状不良が発生した場合、プレス成形前のブランクのどの部位が形状不良の原因であったのかも特定できて、早急にその対策も採れるようになり、生産性の向上にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態1に係るプレス成形解析方法の各ステップの説明図である。
【
図2】実施の形態1で対象とした部品の外観図である。
【
図3】実施の形態1で用いた平坦ブランクモデルの説明図である。
【
図4】平坦ブランクモデルを用いてプレス成形解析した基準プレス成形品形状の説明図である。
【
図5】凹凸形状を有する形状変動ブランクモデルの説明図である(その1)。
【
図6】凹凸形状を有する形状変動ブランクモデルの説明図である(その2)。
【
図7】形状変動ブランクモデルを用いてプレス成形解析した形状変動ブランクプレス成形品形状の説明図である。
【
図8】形状変動ブランクプレス成形品形状と形状変動ブランクモデルを対応させた図である。
【
図9】実施の形態2に係るプレス成形解析装置の説明図である。
【
図10】実施例において平坦ブランクモデルを用いてプレス成形解析した基準プレス成形品形状(a)と形状変動ブランクモデルを用いてプレス成形解析した形状変動ブランクプレス成形品形状(b)の説明図である。
【
図11】実施例における形状変動ブランクプレス成形品形状と形状変動ブランクモデルを対応させた図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態1]
本実施の形態に係るプレス成形解析方法は、形状変動(凹凸)のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形(フォーム成形やドロー成形など)した際のブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法であって、
図1に示すように、基準プレス成形品形状取得ステップS1と、形状変動ブランクモデル生成ステップS3と、形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップS5と、乖離量取得ステップS7と、を備えている。
図2に示すプレス成形品1を目標形状としてプレス成形する場合を例に挙げて、以下、各構成を詳細に説明する。なお、本実施形態では板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板のブランクモデルを用いたが、これにこだわるものではない。
【0023】
<基準プレス成形品形状取得ステップ>
基準プレス成形品形状取得ステップS1は、
図3に示すような、平坦なブランクモデル(以下、「平坦ブランクモデル3」という)を用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準プレス成形品形状として取得するステップである。
【0024】
平坦ブランクモデル3とは、従来、一般的にプレス成形解析で用いられるブランクモデルであり、凹凸のない平らな形状のものである。
【0025】
プレス成形解析は、通常、有限要素法(FEM)などのCAE解析が行われる。CAE解析による成形はフォーム成形でもドロー成形でもよいが、本実施の形態ではドロー成形を例に挙げて説明し、後述の実施例ではフォーム成形を例に挙げて説明する。
【0026】
プレス成形解析による離型後の基準プレス成形品形状5を
図4に示す。
図4では、形状に加えて成形下死点からの変化量を色の濃淡で示している。
変化量とは、プレス成形方向において、プレス成形後に離型しスプリングバックした後のプレス成形品形状の各部位の高さから、成形下死点の形状の対応する部位の高さを差し引いた値である。すなわち、高さの差(変化量)が+(プラス)の場合は成形下死点形状より凸状となり、高さの差(変化量)が-(マイナス)の場合は成形下死点形状より凹み状となる。
図4においては、成形下死点よりも凹み状になる部位の色を薄くし、凸状になる部位の色を濃くしている。また、図中に表示した数字は、+が凸方向への変化量、-が凹方向への変化量で、単位はmmである。
本例においては、
図4に示すように、基準プレス成形品形状5の左端部の変化量は、4.4mmであり、伸びフランジ部の左端は、-0.6mm、中央部は、3.7mm、右側の伸びフランジ部は、1.8mm、右端部は、-1.8mmであった。
【0027】
<形状変動ブランクモデル生成ステップ>
形状変動ブランクモデル生成ステップS3は、ブランクの形状変動、例えば凹凸の波打ち形状に対応した形状の形状変動ブランクモデル7(
図5参照)を生成するステップである。
図5に示す例は、所定のピッチと所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであり、
図5における濃淡が凹凸を表現している。具体的な形状を
図6に基づいて説明する。
【0028】
図6(a)の破線で示す断面を、矢視A-Aから見た状態が
図6(b)であり、その一部拡大図が
図6(c)である。
図5、
図6に示す例は、板厚1.2mmで、形状の凹凸の振幅が±2.5mm、凹凸のピッチ(
図6(d)参照)が320mmの形状である。また、ブランクに設定する凹凸の開始位置や終了位置はブランクの端である必要はない。なお、
図6(e)に
図6(a)の形状の凹凸部位を強調して示した。
【0029】
なお、形状変動ブランクモデル生成ステップS3において生成する形状変動ブランクモデル7は、形状変動のある金属板の所定位置から採取した実ブランクの形状を、例えばレーザ距離計による3次元形状測定器などによって測定し、測定結果に基づいて生成するようにしてもよい。
【0030】
<形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップ>
形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップS5は、形状変動ブランクモデル7を用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を形状変動ブランクプレス成形品形状として取得するステップである。
形状変動ブランクプレス成形品形状9を
図7に示す。
図7に示す、色や数値は
図4と同様である。
【0031】
図7に示すように、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部の変化量は、5.3mmであり、伸びフランジ部の左端は、-1.3mm、中央部は、3.5mm、右側の伸びフランジ部は、1.7~1.9mm、右端部は、-1.4mmであり、プレス成形品の左端部および右端部と伸びフランジ部の左端が、ブランクが平坦であった場合(
図4)と比べると成形下死点からの変化量が大きい。
【0032】
<乖離量取得ステップ>
乖離量取得ステップS7は、基準プレス成形品形状5と形状変動ブランクプレス成形品形状9を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求めるステップである。
【0033】
本実施の形態では、成形下死点におけるプレス成形品の形状を基準形状として、CAE解析により求めたプレス成形品の各部位における基準形状からの変化量(スプリングバック量)を求めて、ブランクを変更した場合の変化量を比較し、ブランクの変更による変化量の差を乖離量として求めた。
すなわち、乖離量とは、形状変動のあるブランクを用いた形状変動ブランクプレス成形品形状9の変化量(
図7)から、平坦なブランクを用いた基準プレス成形品形状5の変化量(
図4)を差し引いた値となる。したがって、変化量の差(乖離量)が+(プラス)の場合は、形状変動ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準プレス成形品形状5に比べて凸形状となり、変化量の差(乖離量)が-(マイナス)の場合は、形状変動ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準プレス成形品形状5に比べて凹み形状となる。
【0034】
ドロー成形した場合に求めた乖離量と、凹凸形状を有する形状変動ブランクモデル7とを対応させて、
図8に示す。
図8に示されるように、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部の乖離量が0.9mmと最も大きく、この部位に対応するプレス成形前の形状変動ブランクモデル7の左端部における凸形状の影響が大きいことがわかる。また、伸びフランジ部となる形状変動ブランクプレス成形品形状9における左端は乖離量が-0.7mmであり、大きく凹形状となっており、この部位に対応する形状変動ブランクモデル7における凹形状の影響が大きいことがわかる。
なお、図中のMaxは凸形状の最大値であることを示し、Minは凹み形状の最大値(数値では最小)であることを示している。この点は、
図11でも同様である。
【0035】
なお、乖離量を求めた形状変動ブランクプレス成形品形状9について、逆成形解析によりブランクに展開して、前記乖離量に影響する形状変動ブランクモデル7の部位を特定してもよい。
【0036】
本実施の形態によれば、ブランクにおける形状変動がプレス成形品のスプリングバック後の形状に与える影響、すなわち影響の大きい部位や形状変動に起因する乖離量を知ることができる。
また、乖離量と予め定めた閾値とに基づいてプレス成形品の良否を判定し、これによってブランクの良否を予測できる。
例えば、複数のプレス成形品を重ね合わせて接合して車体のメンバー類に組み立てる際など、特にフランジ部分の乖離量が大きいとプレス成形品同士の接合が困難になる。
そこで、乖離量に所定の閾値を設けておき、乖離量が閾値を超えるプレス成形品となるブランクは形状変動の影響が大きく、使用不可のブランクと判定することでブランクの良否を予測できる。これにより、プレス成形品に要求される形状精度に収まるブランクの形状精度の限界を把握できて、適切な形状のブランクを選定することにより安定して形状の良好なプレス成形が可能になる。
また、プレス成形品の形状不良が発生した場合、プレス成形前のブランクのどの部位が形状不良の原因であったのかも特定できて、早急にその対策も採れるようになり、生産性の向上にもつながる。
【0037】
また、乖離量の最大値が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定ステップをさらに備えることで、形状変動のあるブランクを用いる場合に金型の形状等による対策を講じる部位を特定できる。
例えば、
図8において、形状変動ブランクプレス成形品形状9の乖離量の閾値を±0.5mmとすると、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部のみを修正して、閾値以内に収めるようにすればよく、該当部分の金型の一部を修正するなどの対策をとることができる。
【0038】
なお、ブランク形状の相違により求める乖離量として、プレス成形方向において、ブランクが凹凸を有する場合のプレス成形後に離型しスプリングバックした後のプレス成形品形状の各部位の高さから、ブランクが平坦な場合のプレス成形後に離型しスプリングバックした後のプレス成形品形状の各部位の高さを差し引いた差を求めたものを適用してもよい。
もっとも、ブランクの違いによるプレス成形品の形状を比較するために、それぞれのプレス成形品に共通する固定点を設定する必要があり、固定点の選び方によって、プレス成形品の各部位の差が異なる場合がある。
この点、上記実施の形態のように、下死点形状との変化量同士を比較するようにすれば、正確かつ容易に乖離量を求めることができて好ましい。
【0039】
[実施の形態2]
実施の形態1で説明したプレス成形解析方法は、予め設定されたプログラムをPC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータに実行させることで実現できる。そのような装置の一例であるプレス成形解析装置を本実施の形態で説明する。
本実施の形態に係るプレス成形解析装置11は、
図9に示すように、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータによって構成され、表示装置13、入力装置15、記憶装置17、作業用データメモリ19及び演算処理部21を有している。
そして、表示装置13、入力装置15、記憶装置17及び作業用データメモリ19は、演算処理部21に接続され、演算処理部21からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、
図2に示すプレス成形品1を解析対象とし、本実施の形態に係るプレス成形解析装置の各構成について説明する。
【0040】
≪表示装置≫
表示装置13は、解析結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0041】
≪入力装置≫
入力装置15は、ブランクやプレス成形品等の表示指示や操作者の条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0042】
≪記憶装置≫
記憶装置17は、ブランク及びプレス成形品の形状ファイル31等の各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0043】
≪作業用データメモリ≫
作業用データメモリ19は、演算処理部21で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0044】
≪演算処理部≫
演算処理部21は、
図9に示すように、基準プレス成形品形状取得部23と、形状変動ブランクモデル生成部25と、形状変動ブランクプレス成形品形状取得部27と、乖離量取得部29と、を有し、PC等のCPU(中央演算処理装置)によって構成される。
また、要対策部位特定部をさらに有してもよい。
これらの各部は、CPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
演算処理部21における上記の各部の機能を以下に説明する。
【0045】
基準プレス成形品形状取得部23は、実施の形態1において説明した基準プレス成形品形状取得ステップS1を実行するものである。同様に、形状変動ブランクモデル生成部25は形状変動ブランクモデル生成ステップS3を、形状変動ブランクプレス成形品形状取得部27は形状変動ブランクプレス成形品形状取得ステップS5を、乖離量取得部29は乖離量取得ステップS7を、要対策部位特定部は要対策部位特定ステップを、それぞれ実行する。
【0046】
本実施の形態に係るプレス成形解析装置11によれば、実施の形態1と同様に、ブランクにおける形状変動がプレス成形品のスプリングバック後の形状に与える影響、すなわち影響の大きい部位や形状変動に起因する乖離量を知ることができる。
また、乖離量と予め定めた閾値とに基づいてプレス成形品の良否を判定し、これによってブランクの良否を予測できる。
さらに、乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部を備えることで、形状変動のあるブランクを用いる場合に金型の形状による対策や成形品形状の変更による対策を講じる部位を特定できる。
【0047】
なお、上述したように、本実施の形態のプレス成形解析装置11における基準プレス成形品形状取得部23、形状変動ブランクモデル生成部25、形状変動ブランクプレス成形品形状取得部27及び乖離量取得部29、さらに要対策部位特定部は、CPUが所定のプログラムを実行することで実現されるものである。
したがって、本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを、基準プレス成形品形状取得部23、形状変動ブランクモデル生成部25、形状変動ブランクプレス成形品形状取得部27及び乖離量取得部29、さらに要対策部位特定部として機能させるもの、と特定することができる。
【実施例0048】
本発明の効果を確認するために、凹凸形状を有する形状変動ブランクモデルと平坦ブランクモデルを用いたプレス成形解析方法を実施したので
図10、
図11に基づいて以下に説明する。また、板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板のブランクモデルを用いた。
なお、
図10、
図11において示している数値、濃淡、凸状、凹み状は上記の実施の形態で示したものと同義である。
【0049】
図10は、CAE解析による成形をフォーム成形とした場合の離型後のプレス成形品を示しており、
図10(a)は
図3に示した平坦ブランクモデル3を用いたもので、
図10(b)は
図5、
図6に示した凹凸形状を有する形状変動ブランクモデル7を用いたものである。
【0050】
ブランクが平坦であった場合、
図10(a)に示すように、基準プレス成形品形状5の左端部の変化量は4.3mmであり、伸びフランジ部の左端は-0.6mm、中央部は3.3mm、右側の伸びフランジ部は1.8mm、右端部は-2.1mmであった。
これに対して、
図10(b)に示すように、形状変動ブランクモデル7を用いた場合、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部の変化量は5.8mmであり、伸びフランジ部の左端は-1.5mm、中央部は3.0mm、右側の伸びフランジ部は1.6~1.9mm、右端部は-1.8mmであった。
形状変動ブランクモデル7を用いた場合、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部と伸びフランジ部の左端が、ブランクが平坦であった場合と比べると成形下死点からの変化量が大きいことが分かる。
【0051】
フォーム成形した場合に求めた形状変動ブランクプレス成形品形状9の乖離量と凹凸形状を有する形状変動ブランクモデル7とを対応させて、
図11に示す。
図11に示されるように、形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部の乖離量が1.5mmと最も大きく、この部位に対応する形状変動ブランクモデル7の左端部における凸形状の影響が大きいことがわかる。
また、伸びフランジ部の左端は、乖離量が-0.9mmと大きく、この部位に対応するプレス成形前のブランクの凹形状の影響が大きいことが分かる。
【0052】
車体を構成する部品同士を組み立てるための接合を行うにあたり、ここでは、形状精度に対応する乖離量に±0.5mmの閾値を設けて、凹凸形状の形状変動ブランクを用いたプレス成形品の良否を予測した。
その結果、
図11に示す形状変動ブランクプレス成形品形状9の左端部の形状を修正する必要があることが一見して把握できたので、当該部位に対応する金型を修正してプレス成形することで良好な形状のプレス成形品が製造できる。