(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084651
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/449 20210101AFI20230612BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230612BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230612BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230612BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230612BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230612BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20230612BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M50/489
H01M4/58
H01M50/414
H01M50/417
H01G11/52
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116503
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】63/286,577
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598064680
【氏名又は名称】セルガード エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】内田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】武田 久
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA14
5E078BA18
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078CA06
5E078CA09
5E078CA10
5E078CA17
5E078DA02
5E078DA06
5H021BB20
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE15
5H021EE23
5H021EE29
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA19
5H050FA18
(57)【要約】
【課題】デンドライト短絡を抑制し、かつ熱安定性に優れる蓄電デバイス用セパレータを提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン(X)を主成分とする微多孔層(A)と、上記ポリプロピレン(X)と同一または異なるポリプロピレン(Y)、及び上記ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーを含む、微多孔層(B)と、を備える、蓄電デバイス用セパレータが提供される。上記微多孔層(B)のND-MD断面観察において、上記微多孔層(B)に存在する孔の面積平均長孔径が150nm以上500nm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン(X)を主成分とする微多孔層(A)と、
前記ポリプロピレン(X)と同一または異なるポリプロピレン(Y)、及び前記ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーを含む、微多孔層(B)と、を備える、蓄電デバイス用セパレータであって、
前記微多孔層(B)のND-MD断面観察において、前記微多孔層(B)に存在する孔の面積平均長孔径が150nm以上500nm以下である、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーは、ブロック共重合体構造を備える、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記ブロック共重合体は、スチレンを含むユニットを含有する、請求項2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー中のスチレン含有量が、前記熱可塑性エラストマーの合計質量を基準として、1質量%以上50質量%以下である、請求項3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、10秒/100cm3以上300秒/100cm3以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)が、0.7g/10分以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)が、1.1g/10分以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを備える、蓄電デバイス。
【請求項9】
前記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む、請求項8に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイス用セパレータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜、特にポリオレフィン系微多孔膜は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等の多くの技術分野で使用されており、特にリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイス用セパレータとして使用されている。リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途のほか、ハイブリッド自動車、及びプラグインハイブリッド自動車を含む電気自動車等、様々な用途へ応用されている。
【0003】
近年、高エネルギー容量、高エネルギー密度、かつ高い出力特性を有するリチウムイオン電池が求められ、それに伴い、薄膜であり、電池性能、電池の信頼性、安全性に優れたセパレータへの需要が高まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、絶縁破壊および強度を含む特性を改良し得る多層マイクロポーラス膜が記載されている。好ましい多層マイクロポーラス膜は、ミクロ層および1以上の積層バリアを含む。
【0005】
引用文献2には、ポリオレフィンを主成分とし、温度230℃で測定した際の溶融張力が、30mN以下であり、荷重2.16kg、温度230℃で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、0.9g/10min以下である、微多孔膜を有する蓄電デバイス用セパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/089748号
【特許文献2】国際公開第2020/196120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蓄電デバイス中には、充放電で発生するリチウムデンドライトが、セパレータ中に浸透成長し、正負極が短絡するという問題がある。また、電池の大型化に伴い、高温にさらされた後も、透気度及び寸法安定性に優れるセパレータが求められている。したがって、本開示は、デンドライト短絡を抑制し、かつ熱安定性に優れる蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[9]に列記する。
[1]
ポリプロピレン(X)を主成分とする微多孔層(A)と、
上記ポリプロピレン(X)と同一または異なるポリプロピレン(Y)、及び上記ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーを含む、微多孔層(B)と、を備える、蓄電デバイス用セパレータであって、
上記微多孔層(B)のND-MD断面観察において、上記微多孔層(B)に存在する孔の面積平均長孔径が150nm以上500nm以下である、蓄電デバイス用セパレータ。
[2]
上記熱可塑性エラストマーは、ブロック共重合体構造を備える、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3]
上記ブロック共重合体は、スチレンを含むユニットを含有する、項目2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4]
上記熱可塑性エラストマー中のスチレン含有量が、上記熱可塑性エラストマーの合計質量を基準として、1質量%以上50質量%以下である、項目3に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5]
上記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、10秒/100cm3以上300秒/100cm3以下である、項目1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[6]
上記微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)が、0.7g/10分以下である、項目1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[7]
上記微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)が、1.1g/10分以下である、項目1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[8]
正極と、負極と、上記正極及び上記負極の間に配置された項目1~7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータとを備える、蓄電デバイス。
[9]
上記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む、項目8に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、デンドライト短絡を抑制し、かつ熱安定性に優れる蓄電デバイス用セパレータが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《蓄電デバイス用セパレータ》
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、ポリプロピレンを主成分とする微多孔層(A)と、ポリプロピレンを主成分とする微多孔層(B)とを有するセパレータ基材を有する。セパレータ基材は、微多孔層(A)及び/又は微多孔層(B)上に、更に塗工層(「表面層」、「被覆層」などとも呼ばれる。以下、単に「塗工層」という。)を有してもよい。本願明細書において、「微多孔層」とは、セパレータの基材を構成する微多孔質の各層を意味し、「セパレータ基材」とは、任意の塗工層を除くセパレータの基材を意味し、「セパレータ」とは、任意の塗工層も含めたセパレータ全体を意味する。
【0011】
〈微多孔層(A)〉
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(A)を有する。蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(A)を一層のみ有していても、二層以上有していてもよい。微多孔層(A)のうち少なくとも一層は、セパレータ基材の少なくとも片面の最外層を構成することが好ましい。蓄電デバイス用セパレータが微多孔層(A)を二層以上有する場合、微多孔層(A)は、セパレータ基材の両面の最外層を構成してもよい。微多孔層(A)はポリプロピレン(X)を主成分とし、これによって、高温(例えば130℃)保存後も良好な電池性能を維持することができる。本願明細書において、ポリプロピレンを「主成分とする」とは、当該微多孔層(A)の全質量を基準として、ポリプロピレンを50質量%以上含むことを意味する。微多孔層(A)中のポリプロピレンの含有量の下限は、セパレータの濡れ性、薄膜化、及びシャットダウン特性等の観点から、50質量%以上であり、好ましくは55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上である。微多孔層(A)中のポリプロピレンの含有量の上限は、限定されないが、例えば、60質量%以下、70質量%以下、80質量%以下、90質量%以下、95質量%以下、98質量%以下、又は99質量%以下であってよく、100質量%であってもよい。
【0012】
〈微多孔層(A)の材料〉
微多孔層(A)は、ポリプロピレン(X)を主成分とする。微多孔層(A)のポリプロピレンは、後述する微多孔層(B)のポリプロピレン(Y)と同一の材料であってもよく、化学構造的に異なるポリプロピレン、より具体的には、モノマー組成、立体規則性、分子量、及び結晶構造等の少なくとも一つが異なるポリプロピレンであってもよい。
【0013】
ポリプロピレンの立体規則性としては、限定されないが、例えば、アタクチック、アイソタクチック、又はシンジオタクチックのホモポリマー等が挙げられる。本開示に係るポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチック、又はシンジオタクチックの高結晶性ホモポリマーである。
【0014】
微多孔層(A)のポリプロピレンは、好ましくはホモポリマーであり、プロピレン以外の少量のコモノマー、例えばα-オレフィンコモノマーを共重合したコポリマー、例えばブロックポリマーであってもよい。ポリプロピレンに繰り返し単位として含まれるプロピレン構造の量は、限定されないが、例えば70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は99モル%以上であってよい。ポリプロピレンに含まれる、プロピレン構造以外のコモノマーに由来する繰り返し単位の量としては、限定されないが、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってよい。ポリプロピレンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
微多孔層(A)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、微多孔層の強度等の観点、及びデンドライト抑制の観点から、300,000以上であることが好ましく、良好な成膜性、生産性を担保する観点から、1,300,000以下であることが好ましい。ポリプロピレンのMwは、より好ましくは、500,000以上、1,200,000以下、さらに好ましくは、650,000以上、1,100,000以下、より更に好ましくは、750,000以上、1,000,000以下、特に好ましくは、800,000以上、1,000,000以下である。
【0016】
微多孔層(A)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)の上限値は、好ましくは20以下であり、より好ましくは、18以下、16以下、14以下、又は12以下である。Mw/Mnを20以下とすることにより、良好な成膜性、生産性を担保することができる傾向にある。また、Mw/Mnは、好ましくは3以上、より好ましくは、4以上、4.5以上、5.0以上である。ポリプロピレンのMw/Mnの値が大きくなるほど、得られる微多孔層の溶融張力も大きくなる傾向にあり、デンドライト抑制においても微多孔層(A)の溶融張力を増大させることは好ましい。したがって、ポリプロピレンのMw/Mnの値が3以上であることは、微多孔層(A)の溶融張力を高く制御するために好ましい。なお、本開示のポリオレフィンの重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)測定により得られるポリスチレン換算の分子量である。
【0017】
微多孔層(A)のポリプロピレンの密度は、好ましくは0.85g/cm3以上、例えば0.88g/cm3以上、0.89g/cm3以上、又は0.90g/cm3以上であってよい。ポリプロピレンの密度は、好ましくは1.1g/cm3以下、例えば1.0g/cm3以下、0.98g/cm3以下、0.97g/cm3以下、0.96g/cm3以下、0.95g/cm3以下、0.94g/cm3以下、0.93g/cm3以下、又は0.92g/cm3以下であってよい。ポリオレフィンの密度は、ポリプロピレンの結晶性に関連し、ポリプロピレンの密度を0.85g/cm3以上とすることで微多孔層の生産性が向上し、特に乾式法において有利である。
【0018】
〈微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)〉
微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)(単層のMFR)の上限値は、より高強度の微多孔層(A)を得る観点および、デンドライト短絡抑制の観点から、4.0g/10分以下が好ましく、例えば3.0g/10分以下、2.0g/10分以下、1.5g/10分以下、1.1g/10分以下、0.7g/10分以下、又は0.5g/10分以下であってよい。微多孔層(A)のMFR(単層のMFR)の下限値は、微多孔層(A)の成形性等の観点から、限定されないが、例えば0.2g/10分以上、0.25g/10分以上、0.3g/10分以上、0.35g/10分以上であってよい。微多孔層(A)のMFRは、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定する。
【0019】
微多孔層(A)のMFRが4.0g/10分以下であることは、微多孔層(A)に含まれるポリオレフィンの分子量がある程度高いことを意味する。ポリオレフィンの分子量が高いことにより、結晶質同士を結合するタイ分子が多くなるため、高強度の微多孔層(A)が得られる傾向にあるとともに、十分に高い溶融張力を付与することが可能となり、デンドライト短絡を抑制する孔構造を達成しやすい傾向にある。微多孔層(A)のMFRが0.2g/10分以上であることにより、微多孔層(A)の溶融張力が高くなり過ぎず、良好な成膜性、生産性を担保することが可能となる。
【0020】
微多孔層(A)のポリプロピレンのMFRは、高強度かつ高溶融張力の微多孔層(A)を得る観点から、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定した際に、0.2以上4.0g/10分以下であることが好ましい。ポリプロピレンのMFRの上限値は、より高強度の微多孔層を得る観点から、例えば、4.0g/10分以下、3.0g/10分以下、2.0g/10分以下、1.5g/10分以下、1.1g/10分以下、又は0.5g/10分以下であってよい。ポリプロピレンのMFRの下限値は、限定されないが、微多孔層(A)の成形性等の観点から、例えば0.2g/10分以上、0.25g/10分以上、0.3g/10分以上、0.35g/10分以上であってよい。
【0021】
〈微多孔層(A)のペンタッド分率〉
微多孔層(A)のポリプロピレンのペンタッド分率の下限値は、低透気度の微多孔層を得る観点から、好ましくは94.0%以上、例えば、95.0%以上、96.0%以上、96.5%以上、97.0%以上、97.5%以上、98.0%以上、98.5%以上、又は99.0%以上であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率の上限値は、限定されないが、99.9%以下、99.8%以下、又は99.5%以下であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率は、13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定する。
【0022】
ポリプロピレンのペンタッド分率が94.0%以上であるとは、ポリプロピレンの結晶性が高いことを示す。延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータは、結晶質同士の間の非晶質部分が延伸されることにより開孔するため、ポリプロピレンの結晶性が高いと、開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高出力化が可能となる。
【0023】
〈微多孔層(A)の面積平均長孔径〉
微多孔層(A)のND-MD断面での面積平均長孔径(以下、単に「面積平均長孔径」ともいう。)は、好ましくは50nm以上、400nm以下である。本願明細書において、「ND」とは、微多孔層の厚み方向を示し、「MD」とは、微多孔層の成膜方向を示す。例えば、微多孔層を有するセパレータのMDは、ロールであれば長手方向である。「長孔径」とは、MDの孔径を意味する。また、微多孔層(A)及び/又は微多孔層(B)が二層以上ある場合は、各層の平均の面積平均長孔径値に基づいて、微多孔層(A)と微多孔層(B)の面積平均長孔径を比較する。微多孔層(A)の面積平均長孔径の下限は、蓄電デバイス中で良好な出力を担保する観点から、好ましくは、50nm以上、より好ましくは、80nm以上、さらに好ましくは、110nm以上、特に好ましくは、120nm以上、最も好ましくは130nm以上である。また、微多孔層(A)の面積平均長孔径の上限は、良好なデンドライト短絡抑制の観点から、好ましくは、400nm以下、より好ましくは、350nm以下、さらに好ましくは、300nm以下、特に好ましくは、250nm以下、最も好ましくは、210nm以下である。
【0024】
面積平均長孔径は、セパレータのND-MD断面の断面SEM観察を行い、得られた画像からMDに20μm×NDに3μmの範囲の画像解析により測定することができる。詳細の条件は実施例に示す。なお、断面SEM画像から平均孔径を測定する際には、数平均孔径、及び面積平均長孔径を算出することができるが、よりセパレータの物性との相関が取れるよう、本願明細書では、平均孔径として面積平均長孔径を用いる。
【0025】
〈微多孔層(A)の気孔率〉
微多孔層(A)の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、およびセパレータの良好な透気度を得る観点から、20%以上が好ましく、セパレータの強度保持の観点から70%以下であることが好ましい。微多孔層(A)の気孔率は、より好ましくは、25%以上、65%以下、さらに好ましくは、30%以上、60%以下、特に好ましくは、35%以上、60%以下である。
【0026】
〈微多孔層(A)の厚み〉
微多孔層(A)の厚みは、蓄電デバイスの高エネルギー密度化等の観点から、好ましくは10μm以下、例えば8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4.5μm以下、又は4μm以下であってよい。微多孔層(A)の厚みの下限値は、強度等の観点から、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上、3μm以上、又は3.5μm以上であってよい。
【0027】
〈微多孔層(A)の添加剤〉
ポリプロピレンを主成分とする微多孔層(A)は、ポリプロピレン(X)以外に、エラストマー、結晶核剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を必要に応じて更に含有してもよい。添加剤の量は、特に限定されないが、微多孔層(A)の合計質量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上又は1質量%以上、20質量%以下、10質量%以下又は7質量%以下であってよい。20%以下であると、ポリプロピレンの高い結晶化度および結晶配向度が得られ、延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータにおいて開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高出力化が可能となる。微多孔層(A)がエラストマーを含む場合、その量(質量%)は、微多孔層(B)に含まれるエラストマーの量(質量%)よりも少ない。
【0028】
〈微多孔層(B)〉
本開示の蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(B)を有する。蓄電デバイス用セパレータは、微多孔層(B)を一層のみ有していても、二層以上有していてもよい。微多孔層(B)は、上記ポリプロピレン(X)と同一または異なるポリプロピレン(Y)、及びポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーを含む。ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物からなり、これによって、高温(例えば130℃)保存後も良好な電池性能を維持することができる。微多孔層(B)中のポリプロピレン(Y)の含有量の下限は、セパレータの濡れ性、薄膜化等の観点から、好ましくは55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上85質量%以上であってもよい。微多孔層(B)中のポリプロピレンの含有量の上限は、限定されないが、例えば60質量%以下、70質量%以下、80質量%以下、90質量%以下、96質量%以下、又は99質量%以下であってもよい。
【0029】
〈微多孔層(B)の材料〉
微多孔層(B)は、上記ポリプロピレン(X)と同一または異なるポリプロピレン(Y)及び上記ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーを含む、樹脂組成物である。微多孔層(B)のポリプロピレン(Y)は、微多孔層(A)のポリプロピレン(X)と同一の材料であってもよく、化学構造的に異なるポリプロピレン、より具体的には、モノマー組成、立体規則性、分子量、及び結晶構造等の少なくとも一つが異なるポリプロピレンであってもよい。
【0030】
微多孔層(B)のポリプロピレンの立体規則性としては、限定されないが、例えば、アタクチック、アイソタクチック、又はシンジオタクチックのホモポリマー等が挙げられる。本開示に係るポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチック、又はシンジオタクチックの高結晶性ホモポリマーである。
【0031】
微多孔層(B)のポリプロピレンは、好ましくはホモポリマーであり、プロピレン以外の少量のコモノマー、例えばα-オレフィンコモノマーを共重合したコポリマー、例えばブロックポリマーであってもよい。ポリプロピレンに繰り返し単位として含まれるプロピレン構造の量は、限定されないが、例えば70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は99モル%以上であってよい。ポリプロピレンに含まれる、プロピレン構造以外のコモノマーに由来する繰り返し単位の量としては、限定されないが、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、又は1モル%以下であってよい。ポリプロピレンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
微多孔層(B)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、微多孔層の強度等の観点から、250,000以上であることが好ましく、微多孔層の孔径を大きくし、良好なデンドライト抑制性能を発現する観点から、1,000,000以下であることが好ましい。ポリプロピレンのMwは、より好ましくは、400,000以上、950,000以下、さらに好ましくは、550,000以上、900,000以下、より更に好ましくは、600,000以上、900,000以下、特に好ましくは、700,000以上、900,000以下である。
【0033】
微多孔層(B)のポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)の上限値は、好ましくは7以下であり、より好ましくは、6.5以下、6以下、5.5以下、又は5以下である。ポリプロピレンのMw/Mnの値が小さくなるほど、得られる微多孔層の溶融張力も小さくなる傾向にある。したがって、ポリプロピレンのMw/Mnの値が7以下であることは、微多孔層(B)の溶融張力を小さく制御するために好ましい。また、Mw/Mnは、好ましくは1以上、例えば1.3以上、1.5以上、2.0以上、又は2.5以上であってよい。Mw/Mnが1以上であることにより、適度な分子の絡み合いが維持され、成膜時の安定性が良好となることがある。なお、本開示のポリオレフィンの重量平均分子量、数平均分子量、Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)測定により得られるポリスチレン換算の分子量である。
【0034】
微多孔層(B)のポリプロピレンの密度は、好ましくは0.85g/cm3以上、例えば0.88g/cm3以上、0.89g/cm3以上、又は0.90g/cm3以上であってよい。ポリプロピレンの密度は、好ましくは1.1g/cm3以下、例えば1.0g/cm3以下、0.98g/cm3以下、0.97g/cm3以下、0.96g/cm3以下、0.95g/cm3以下、0.94g/cm3以下、0.93g/cm3以下、又は0.92g/cm3以下であってよい。ポリオレフィンの密度は、ポリプロピレンの結晶性に関連し、ポリプロピレンの密度を0.85g/cm3以上とすることで微多孔層の生産性が向上し、特に乾式法において有利である。
【0035】
微多孔層(B)の熱可塑性エラストマーとしては、ポリプロピレン、ポリプロピレン以外のポリオレフィン(「その他のポリオレフィン」ともいう。)、ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体が挙げられる。ポリプロピレンとしては低立体規則性領域を有する低結晶性ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンとは、炭素-炭素二重結合を有するモノマーを繰り返し単位として含むポリマーである。ポリプロピレン以外のポリオレフィンを構成するモノマーとしては、限定されないが、炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数2又は4~10のモノマー、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等が挙げられる。ポリオレフィンは、例えば、ホモポリマー、コポリマー、又は多段重合ポリマー等であり、一例として、ポリエチレンを含有させることも可能である。ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体としては、スチレン―(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(SEBS)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、スチレン―エチレン―スチレン共重合体、オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(CEBC)、水添―オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添CEBC)、スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(SEBC)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)などが好ましく上げることができる。特に好ましくは、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)、スチレン―(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)である。
【0036】
〈ポリプロピレンに対して非相溶性である熱可塑性エラストマー〉
微多孔層(B)に含まれる熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である。これによって、熱可塑性エラストマーがポリプロピレン(Y)中に良好に分散し、十分に大きな面積平均長孔径を得ることができる。ポリプロピレン(Y)に対して非相溶性である熱可塑性エラストマーとしては、例えば、上記の中ではポリスチレンとポリオレフィンの共重合体であるスチレン―(エチレン―プロピレン)-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(SEBS)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)-スチレン共重合体(水添SEBS)、スチレン―エチレン―スチレン共重合体、オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(CEBC)、水添―オレフィン結晶―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添CEBC)、スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(SEBC)、水添―スチレン―(エチレン―ブテン)―オレフィン結晶共重合体(水添SEBC)、などが挙げられる。また、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のポリオレフィンユニットを有するブロック共重合体なども挙げられる。熱可塑性エラストマーは、ブロック共重合体構造を備えることが好ましい。また、ブロック共重合体は、スチレンを含むユニットを含有することがより好ましい。これによって、ポリプロピレン(Y)中に相溶することなく良好に分散し、十分に大きな面積平均長孔径を得ることができる。
【0037】
〈熱可塑性エラストマーのスチレン含有量〉
熱可塑性エラストマーのスチレン含有量はスチレンユニットと他のユニットとの比率のことであり、NMRにて測定することができる。スチレン誘導体ユニットはスチレンに官能基がつくものを示す。
【0038】
熱可塑性エラストマーのスチレン含有量としては、熱可塑性エラストマーの合計質量を基準として、1質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上40質量%以下、更に好ましくは10質量%以上30質量%以下である。50質量%以下であるとポリプロピレン(Y)中に良好に分散し、結果として大孔径を得ることができる。1質量%以上であることでポリプロピレン(Y)中に相溶することなく、非相溶の分散状態を維持することができる。また、孔径が大きくなることで、高い透過性の微多孔層(B)が得られやすい。孔径を十分に大きく制御することができることから、蓄電デバイス中でのデンドライト短絡を効果的に抑制することができる。
【0039】
熱可塑性エラストマーの添加量としては、微多孔層(B)の合計質量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、4質量%以上が好ましく、20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下が好ましい。1質量%以上であると熱可塑性エラストマーの分散状態が良好になり、延伸拡大後の一つ当たりの孔サイズが大きくできる。大きな孔サイズによって蓄電デバイス中でのデンドライト短絡を効果的に抑制することができる。20質量%以下であると、ポリプロピレンの高い結晶化度および高い結晶配向度が得られやすく、延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータにおいて、開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高出力化が可能となる。
【0040】
熱可塑性樹脂のMFRとしては0.05以上が好ましく、1.0以上が好ましく、3.0以上が好ましい。200以下が好ましく、120以下が好ましく80以下が好ましい。1.0以上、200以下であると、ポリプロピレンとのMFR差が少なくなるため溶融混錬の際に均一な混合が可能であるため、厚みや透気度、強度の均一性が高いセパレータを得ることができる。
【0041】
〈微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)〉
微多孔層(B)のメルトフローレート(MFR)(単層のMFR)の上限値は、より高強度の微多孔層(B)を得る観点から、8.0g/10分以下が好ましく、例えば6.0g/10分以下、4.0g/10分以下、3.0g/10分以下、2.0g/10分以下、又は1.1g/10分以下であってよい。微多孔層(B)のMFR(単層のMFR)の下限値は、良好なデンドライト抑制効果を発現する観点から、限定されないが、例えば0.3g/10分以上、0.35g/10分以上、0.4g/10分以上、0.45g/10分以上、又は0.5g/10分以上であってよい。微多孔層(B)のMFRは、荷重2.16kg、及び温度230℃の条件下で測定する。
【0042】
微多孔層(B)のMFRが8.0g/10分以下であることは、微多孔層(B)に含まれるポリオレフィンの分子量がある程度高いことを意味する。ポリオレフィンの分子量が高いことにより、結晶質同士を結合するタイ分子が多くなるため、高強度の微多孔層(B)が得られる傾向にある。微多孔層(B)のMFRが0.3g/10分以上であることにより、微多孔層(B)の溶融張力が高くなり過ぎず、良好なデンドライト抑制効果を発現するセパレータがより得られ易い。
【0043】
微多孔層(B)のポリプロピレンのMFRは、より高強度の微多孔層(B)を得る観点から、8.0g/10分以下が好ましく、例えば6.0g/10分以下、4.0g/10分以下、3.0g/10分以下、2.0g/10分以下、又は1.1g/10分以下であってよい。微多孔層(B)のMFR(単層のMFR)の下限値は、良好なデンドライト抑制効果を発現する観点から、限定されないが、例えば0.3g/10分以上、0.35g/10分以上、0.4g/10分以上、0.45g/10分以上、又は0.5g/10分以上であってよい。
【0044】
〈微多孔層(B)のペンタッド分率〉
微多孔層(B)のポリプロピレンのペンタッド分率の下限値は、低透気度の微多孔層を得る観点から、好ましくは94.0%以上、例えば、95.0%以上、96.0%以上、96.5%以上、97.0%以上、97.5%以上、98.0%以上、98.5%以上、又は99.0%以上であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率の上限値は、限定されないが、99.9%以下、99.8%以下、又は99.5%以下であってよい。ポリプロピレンのペンタッド分率は、13C-NMR(核磁気共鳴法)で測定する。
【0045】
ポリプロピレンのペンタッド分率が94.0%以上であるとは、ポリプロピレンの結晶性が高いことを示す。延伸開孔法、特に乾式法で得られるセパレータは、結晶質同士の間の非晶質部分が延伸されることにより開孔するため、ポリプロピレンの結晶性が高いと、開孔性が良好となり、透気度を低く抑えることもできるため、電池の高出力化が可能となる。
【0046】
〈微多孔層(B)の面積平均長孔径〉
微多孔層(B)のND-MD断面観察での孔の面積平均長孔径(以下、単に「面積平均長孔径」ともいう。)は、150nm以上500nm以下であり、好ましくは160nm以上400nm以下、より好ましくは170nm以上350nm以下である。微多孔層(B)の面積平均長孔径がこの範囲内であると、より効果的にデンドライト短絡を抑制することができる。微多孔層(B)のND-MD断面の面積平均長孔径は、微多孔層(A)の面積平均長孔径よりも大きくてもよい。
【0047】
〈微多孔層(B)の気孔率〉
微多孔層(B)の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、およびセパレータの良好な透気度を得る観点から、20%以上が好ましく、セパレータの強度保持の観点から70%以下であることが好ましい。微多孔層(B)の気孔率は、より好ましくは、25%以上、65%以下、さらに好ましくは、30%以上、60%以下、特に好ましくは、35%以上、60%以下である。
【0048】
〈微多孔層(B)の厚み〉
本開示に係る微多孔層(B)の厚みは、蓄電デバイスの高エネルギー密度化等の観点から、好ましくは10μm以下、例えば8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4.5μm以下、又は4μm以下であってよい。微多孔層(B)の厚みの下限値は、強度等の観点から、好ましくは1μm以上、例えば2μm以上、3μm以上、又は3.5μm以上であってよい。
【0049】
微多孔層(B)の面積平均長孔径LBと、微多孔層(A)の面積平均長孔径LAの比LB/LAは、1.1以上、6.0以下が好ましい。LB/LAを1.1以上とすることは、微多孔層(A)の孔径を十分に小さく、微多孔層(B)の孔径を十分に大きくすることとなり、蓄電デバイス中でのデンドライト短絡を効果的に抑制することができる。LB/LAを6以下とすることにより、良好な開孔性、透気度を有するセパレータを得ることが可能となる。なお、LB/LAは、好ましくは、1.1以上、4.0以下、より好ましくは、1.15以上、3.0以下、特に好ましくは、1.2以上、2.5以下、最も好ましくは、1.3以上、2.0以下である。
【0050】
〈セパレータ基材の層構造〉
蓄電デバイス用セパレータの基材(本願明細書において、単に「セパレータ基材」ともいう。)は、微多孔層(A)と微多孔層(B)とを少なくとも一層ずつ有する。セパレータ基材は、微多孔層(A)および/または、微多孔層(B)の少なくとも一方を2層以上有する3層以上の多層構造であってもよい。例えば、微多孔層(A)/微多孔層(B)の二層構造、微多孔層(A)/微多孔層(B)/微多孔層(A)の三層構造等が挙げられる。また、セパレータ基材は、微多孔層(A)及び微多孔層(B)以外の層を有していてもよい。例えば、微多孔層(A)及び微多孔層(B)以外の層としては、例えば、(A)(B)以外のポリオレフィンを主成分とする微多孔層、無機物を含む層、及び耐熱樹脂を含む層等を挙げることができる。例えば、セパレータ基材は、微多孔層(A)/微多孔層(B)/微多孔層(C)/微多孔層(A)など、4層以上の多層構造であってもよい。製造のしやすさ、セパレータのカール抑制等の観点から、対称的な積層構造が好ましい。
【0051】
蓄電デバイス用セパレータの基材の層構造としては、デンドライト短絡を効果的に抑制する観点から、微多孔層(A)の少なくとも1層と微多孔層(B)の少なくとも1層とが隣接することが好ましい。また、微多孔層(A)が、セパレータ基材の少なくとも片側の最外層を構成することが、より好ましく、セパレータ基材の両側の最外層を構成することが、特に好ましい。微多孔層(A)が最外層を構成するとデンドライト短絡を抑制しやすい傾向にある。
【0052】
〈セパレータ基材の厚み〉
セパレータ基材の厚みの上限値は、蓄電デバイスの高エネルギー密度化等の観点から、好ましくは25μm以下であり、例えば22μm以下、20μm以下、18μm以下、16μm以下、14μm以下、又は12μm以下であってよい。セパレータ基材の厚みの下限値は、強度等の観点から、好ましくは6μm以上であり、例えば7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上であってよい。
【0053】
〈セパレータ基材の透気度(透気抵抗度)〉
セパレータ基材の透気度の上限値は、好ましくは300秒/100cm3以下、290秒/100cm3以下、280秒/100cm3以下、270秒/100cm3以下、260秒/100cm3以下、又は250秒/100cm3以下であってよい。セパレータ基材の透気度の下限値は、限定されないが、好ましくは10秒/100cm3以上、20秒/100cm3以上、30秒/100cm3以上、40秒/100cm3以上、50秒/100cm3以上、60秒/100cm3以上、又は70秒/100cm3以上であってよい。
【0054】
〈セパレータ基材の気孔率〉
セパレータ基材の気孔率は、蓄電デバイス中での目詰まり回避の観点、およびセパレータの良好な透気度を得る観点から、20%以上が好ましく、セパレータの強度保持の観点から70%以下であることが好ましい。セパレータ基材の気孔率は、より好ましくは、25%以上、65%以下、さらに好ましくは、30%以上、60%以下、特に好ましくは、35%以上、60%以下である。
【0055】
〈セパレータ基材の突刺強度〉
セパレータ基材の突刺強度の下限値は、セパレータ基材の厚みを16μmに換算した場合に、好ましくは260gf以上、より好ましくは、270gf以上、280gf以上、290gf以上、又は300gf以上であり、特に好ましくは320gf以上である。セパレータ基材の突刺強度の上限値は、限定されないが、セパレータ基材の厚みを16μmに換算した場合に、好ましくは600gf以下、例えば580gf以下、又は550gf以下であってよい。
【0056】
〈セパレータ基材の熱収縮率〉
セパレータ基材は、150℃で1時間熱処理した後の幅方向(TD)の熱収縮率が、-1.0%以上3.0%以下であることが好ましい。すなわち、セパレータ基材は、高温においても、TDの熱収縮が非常に小さいことを意味する。当該熱収縮率が3.0%以下であることで、高温での短絡を効果的に抑制できる。当該熱収縮率が-1.0%以上である理由は、熱収縮率の測定時、基材がTDに膨張し、熱収縮率が0%より小さくマイナスの値になることがあるからである。当該熱収縮率は、0%以上、又は0%より大きくてもよい。当該熱収縮率が-1.0%以上3.0%以下であるセパレータ基材を製造する方法としては、例えば、MDの一軸延伸によるセパレータの製造方法があげられ、好ましくは一軸延伸の乾式法で製造する方法が挙げられる。湿式セパレータに代表されるMD、TDの二軸方向への延伸によるセパレータの製造方法では、一般的に、TDの熱収縮が非常に大きくなるのに対して、一軸延伸の乾式セパレータでは、当該熱収縮率が-1.0%以上3.0%以下であるセパレータ基材を得られやすい。
【0057】
《蓄電デバイス用セパレータの製造方法》
蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物(以下、「ポリプロピレン系樹脂組成物」ともいう。)を溶融押出して樹脂シート(前駆体シート)を得る溶融押出工程、及び得られた前駆体シートを開孔して多孔化する孔形成工程を含む。微多孔層の製造方法は、孔形成工程に溶剤を使用しない乾式法と、溶剤を使用する湿式法とに大別される。
【0058】
乾式法としては、ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練して押出した後、熱処理と延伸によってポリプロピレン結晶界面を剥離させる方法、ポリプロピレン系樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してフィルム状に成形した後、延伸によってポリプロピレンと無機充填材との界面を剥離させる方法などが挙げられる。
【0059】
湿式法としては、ポリプロピレン系樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してフィルム状に成形し、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出する方法、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶解後、ポリプロピレンに対する貧溶媒に浸漬させてポリプロピレンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0060】
ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融混練には、単軸押出機、及び二軸押出機を使用することができ、これら以外にも、例えばニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等を使用することもできる。
【0061】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、微多孔層の製造方法に応じて、又は目的の微多孔層の物性に応じて、任意に、ポリプロピレン以外の樹脂、及び添加剤等を含有してもよい。添加剤としては、例えば、孔形成材、フッ素系流動改質材、ワックス、結晶核材、酸化防止剤、脂肪族カルボン酸金属塩等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、及び着色顔料等が挙げられる。孔形成材としては、可塑剤、無機充填材又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
可塑剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
【0063】
無機充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。
【0064】
セパレータ基材の製造方法としては、熱処理と延伸によってポリプロピレン結晶界面を剥離させる乾式ラメラ晶開孔プロセスが好ましい。ここで、微多孔層(A)と微多孔層(B)を有するセパレータ基材の製造方法としては、次の方法(i)及び(ii)の少なくとも一方を用いることが好ましい:
(i)微多孔層(A)と微多孔層(B)を共押出成膜し、アニール、冷延伸、熱延伸、熱緩和工程に供する、共押出成膜によるセパレータ基材の製造方法;及び
(ii)微多孔層(A)と微多孔層(B)をそれぞれ別々に押出成膜し、ラミネートにより貼り合わせて、その後、アニール、冷延伸、熱延伸、熱緩和工程に供する、ラミネートによるセパレータ基材の製造方法。
【0065】
上記、共押出プロセス(i)及びラミネートプロセス(ii)のうち、製造コスト等の観点から、共押出プロセス(i)が好ましい。共押出プロセス(i)において、微多孔層(A)、(B)の押出成膜条件としては、可能な限り低温で樹脂を吐出し、低温のエアを吹き付けることにより効果的に急冷させることが好ましい。成膜後にはエアにより急冷させることが好ましく、吹き付けるエアの温度としては、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下である。このような低温に制御した冷風を吹き付けることにより、成膜後の樹脂が均一にMDに配向する。
【0066】
上記、共押出プロセス(i)及びラミネートプロセス(ii)ともに、セパレータ基材の製造方法は、押出成膜後にアニール工程を含んでもよい。アニール工程を行うことにより、微多孔層(A)および(B)の結晶構造が成長し、開孔性が改善する傾向にある。特定の温度で、所定時間アニールを付与することにより、微多孔層(A)および(B)ともに良好な面積平均長孔径を得ることが可能となる傾向にある。その理由は、結晶構造が乱れることなく結晶が成長し、高い開孔性が得られるからであると考えられる。アニール工程では、好ましくは、115℃以上、160℃以下の温度範囲で、好ましくは20分以上、より好ましくは60分以上アニール処理をすることが、良好な面積平均長孔径を得て、蓄電デバイスの高出力を維持しつつ、デンドライト抑制効果を発現させる観点から好ましい。
【0067】
セパレータ基材の製造方法は、アニール工程の後に、延伸工程を含んでもよい。延伸処理としては、一軸延伸、又は二軸延伸のいずれも用いることができる。限定されないが、乾式法を使用する際の製造コスト、TDの熱収縮低減等の観点では、一軸延伸が好ましい。得られるセパレータ基材の強度等を向上させる観点では、二軸延伸が好ましい。二軸延伸としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。
【0068】
セパレータ基材の熱収縮を抑制するために、延伸工程後又は孔形成工程後に熱固定を目的として熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程は、物性の調整を目的として、所定の温度及び所定の延伸倍率で行う延伸操作、及び/又は、成膜、延伸時に付与される収縮応力の低減を目的として、所定の温度及び所定の緩和倍率で行う緩和操作を含んでもよい。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理工程は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0069】
得られたセパレータ基材は、それ自体をそのまま蓄電デバイス用セパレータとして使用することができる。任意に、セパレータ基材の片面又は両面に、塗工層等の更なる層を提供してもよく、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を施してもよい。
【0070】
《蓄電デバイス》
本開示の蓄電デバイスは、本開示の蓄電デバイス用セパレータを備える。本開示の蓄電デバイスは正極と負極とを有し、正極と負極との間に、本開示の蓄電デバイス用セパレータが配置されることが好ましい。蓄電デバイス中で生成するデンドライトはセパレータ表面の孔を通るように成長することおよび、正極側表面への高い貫通力を有することから、比較的溶融張力が高くかつ小孔径である微多孔層(A)をセパレータの表面に配置すること、セパレータ中へのデンドライトの成長を効果的に抑制することができ、結果デンドライト短絡を効果的に抑制することができる傾向にある。
【0071】
蓄電デバイスとしては、限定されないが、例えば、リチウム二次電池(全固体リチウム電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池を含む)、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、及び亜鉛空気電池等が挙げられる。これらの中でも、高エネルギー密度、低コスト、耐久性の観点から、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0072】
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、上記で説明されたセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。
【0073】
本蓄電デバイスは、より好ましくは、リチウムイオン二次電池であり、ここで、リチウムイオン二次電池の好ましい態様を記載する。
【0074】
正極は、リチウムイオン二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。正極は、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。正極としては、電池容量、安全性の観点から、好ましくは、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物、Li2Mn2O4に代表されるスピネル系リチウムマンガン酸化物、Li2Mn1.5Ni0.5O4に代表されるスピネル系リチウムニッケルマンガン酸化物、LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物、LiMO2(MはNi、Mn、Co、AI及びMgからなる群より選ばれる2種以上の元素を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム化合物が挙げられる。この中でも、高安全性、長期安定性の観点から、より好ましくは、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物、LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物、LiMO2(MはNi、Mn、Co、AI及びMgからなる群より選ばれる2種以上の元素を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム化合物が挙げられ、特に好ましくは、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム化合物である。
【0075】
負極は、リチウムイオンニ次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料及び金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。すなわち、負極は、負極活物質として、金属リチウム、炭素材料、リチウムと合金形成が可能な元素を含む材料、及び、リチウム含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。そのような材料としては、金属リチウムの他、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、カーボンブラックに代表される炭素材料が挙げられる。
【実施例0076】
《測定及び評価方法》
[メルトフローレート(MFR)の測定]
微多孔層(A)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した(単位はg/10分である)。ポリプロピレンのMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した。ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0077】
[GPC(ゲルパーミエーションクロマトグロフィー)によるMw及びMnの測定]
アジレント PL-GPC220を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。試料のポリマーについても同様の条件でクロマトグラフを測定し、較正曲線に基づいて、下記条件によりポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除したMWD(Mw/Mn)を算出した。
カラム :TSKgel GMHHR-H(20) HT(7.8mmI.D.×30 cm)2本
移動相 :1,2,4-トリクロロベンゼン
検出器 :RI
カラム温度:160℃
試料濃度 :1mg/ml
較正曲線 :ポリスチレン
【0078】
[溶融張力の測定]
東洋精機製作所製キャピログラフを用いて、以下の条件で微多孔膜の溶融張力(mN)を測定した。
・キャピラリー:直径1.0mm、長さ20mm
・シリンダー押出速度:2mm/分
・引き取り速度:60m/分
・温度:230℃
【0079】
[ペンタッド分率の測定]
ポリプロピレンのペンタッド分率は、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編集)の記載に基づいて帰属した13C-NMRスペクトルから、ピーク高さ法によって算出した。13C-NMRスペクトルの測定は、JEOL-ECZ500を使用して、ポリプロピレンペレットをo-ジクロロベンゼン-dに溶解させ、測定温度145℃、積算回数25000回の条件で行った。
【0080】
[厚み(μm)の測定]
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて、室温23±2℃で、セパレータ基材の厚み(μm)を測定した。各微多孔層の厚みは、後述する面積平均長孔径の評価方法で取得した断面SEMによる画像データから算出した。
【0081】
[気孔率(%)の測定]
10cm×10cm角の寸法を有する試料をセパレータ又は微多孔層から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/密度)/体積×100
【0082】
[透気度(秒/100cm3)]
JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計を用いて、セパレータ基材の透気抵抗度(秒/100cm3)を測定した。
【0083】
[高温処理後透気度(秒/100cm3)]
セパレータ基材をMD/TDそれぞれ100mmの方形に切り出して得たサンプルを、熱風乾燥機(ヤマト科学社製、DF1032)に入れ、常圧、大気中で140℃で30分間熱処理を行った。熱風乾燥機よりサンプルを取り出し、25℃で10分間放冷し、その後、JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計を用いて、セパレータ基材の透気抵抗度(秒/100cm3)を測定した。
【0084】
[TD熱収縮率(%)]
セパレータ基材をMD/TDそれぞれ50mmの方形に切り出して得たサンプルを、熱風乾燥機(ヤマト科学社製、DF1032)にコピー紙にのせて入れ、常圧、大気中で150℃で1時間熱処理を行った。熱風乾燥機よりサンプルを取り出し、25℃で10分間放冷し、その後、寸法収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(加熱前の寸法(mm)-加熱後の寸法(mm))/(加熱前の寸法(mm))×100
【0085】
[突刺強度]
先端が半径0.5mmの半球状である針を用意し、直径(dia.)11mmの開口部を有するプレート2つの間にセパレータを挟み、針、セパレータ及びプレートをセットした。株式会社イマダ製「MX2-50N」を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、セパレータ保持プレートの開口部直径11mm及び突刺速度25mm/分の条件で突刺試験を行った。針とセパレータを接触させ、最大突刺荷重(すなわち、突刺強度(gf))を測定した。突刺強度(gf)をセパレータ厚み(μm)で除し16μmを乗じることにより、セパレータ基材の厚みを16μmに換算した場合の突刺強度(gf/16μm)を求めた。
【0086】
[面積平均長孔径(nm)]
面積平均長孔径は断面SEM観察での画像解析により測定を行った。前処理として、セパレータにルテニウム染色を行い、凍結割断により、断面試料を作製した。断面はND-MD面とする。上記断面試料を導電性接着剤(カーボン系)により断面観察用SEM試料台に固定、乾燥した後、導電処理としてオスミウムコーター(HPC-30W、株式会社真空デバイス製)を用いて、印加電圧調整つまみ設定4.5、放電時間0.5秒の条件でオスミウムコーティングを実施し、検鏡試料とした。次に、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S-4800)を用い、微多孔膜表面の任意の3点を加速電圧1kV、検出信号LA10、作動距離5mm、倍率5000倍の条件で観察した。
【0087】
観察画像を、画像処理ソフトImageJを使い、Otsu法を用いて2値化処理し、樹脂部と孔部とを分け、孔部の平均長径を算出した。この際、撮影範囲と撮影範囲外に跨って存在している孔面積が0.001nm2以下の孔については、測定対象から除外した。平均径は、各孔の面積から、面積平均により算出した。
【0088】
[電池性能(デンドライト短絡評価)]
電解液として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:2で混合したものに、リチウム塩としてのLiPF6を1mol/L含有させた電解液を用いた。
【0089】
正極活物質としてリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト混合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(Timcal社製、商品名:SuperP Li)と、バインダーとしてPVDFとを、混合酸化物:導電助剤:バインダー=100:3.5:3の質量比で混合したものを、厚み15μmの正極集電体としてのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後、ロールプレスでプレスして、両面塗工正極を作製した。
【0090】
負極活物質として粒子径22μm(D50)の黒鉛粉末(日立化成社製、商品名:MAG)と、バインダー(日本ゼオン社製、商品名:BM400B)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、商品名:#2200)とを、黒鉛粉末:バインダー:増粘剤=100:1.5:1.1の質量比で混合して、厚み10μmの負極集電体としての銅箔の片面、及び両面に塗布し、溶剤を乾燥除去し、その後、塗布された銅箔をロールプレスでプレスして、それぞれ片面塗工負極と両面塗工負極を作製した。
【0091】
得られた正極及び負極を、それぞれの活物質の対向面に、下記で作製したセパレータを挟みながら、片面塗工負極/両面塗工正極/両面塗工負極/両面塗工正極/片面塗工負極の順に積層した。なお、微多孔層(A)が負極に対向するように配置した。次いで、得られた積層体を、アルミニウム箔(厚み40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムから成る袋(電池外装)の内部に正負極の端子を突設させながら挿入した。その後、上述のようにして作製した電解液を0.8mL袋内に注入し、袋に真空封止を行うことによってシート状リチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
得られたシート状リチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、商品名:PLM-73S)に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、商品名:ACD-01)に接続し、16時間静置した。次いで、その電池を、0.05Cの定電流で充電して、電圧が4.35Vに到達してから4.35Vの定電圧で2時間充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、3回繰り返すことによって、電池の初期充放電を行った。なお、1Cとは、電池の全容量を1時間で放電させる場合の電流値を示す。
【0093】
上記初期充放電後、10℃に設定した恒温槽に上記電池を収容し、その電池を、1Cの定電流で充電して、電圧が4.50Vに到達してから4.50Vの定電圧で1時間充電した後、1時間開回路状態で静置し、その後、1Cの定電流で3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、10回繰り返し、その間のデンドライト短絡の発生の有無を各10個のシート状リチウムイオン二次電池を用いて確認し、10個中、短絡が発生しなかったシート状リチウムイオン二次電池の個数から合格率(%)を算出した。ここで、デンドライト短絡の有無は、充電終了後、開回路状態で静置している間に、0.3V以上電圧が低下している場合、もしくは、1Cの定電流充電時に、2時間以内に4.5Vまで充電できない場合に、デンドライト短絡が発生しているものと判断した。
【0094】
《実施例1》
[微多孔層の作製]
微多孔層(A)の樹脂として、高分子量のポリプロピレン樹脂(MFR(230℃)=0.91g/10分、密度=0.91g/cm3)100重量%を、2.5インチの押出機で溶融し、二種三層の共押出Tダイの両外層へとギアポンプを使って供給した。また、微多孔層(B)の樹脂として、高分子量のポリプロピレン樹脂(MFR(230℃)=0.91g/10分、密度=0.91g/cm3)95重量%と熱可塑性エラストマー(表中の水添SEBS)(MFR(230℃)=0.8)5重量%とをドライブレンドで混合し、樹脂材料を得た。得られた樹脂材料を2.5インチの押出機で溶融し、上記二種三層の共押出Tダイの内層へとギアポンプを使って供給した。Tダイの温度は240℃に設定し、溶融したポリマーをTダイから吐出後、吹込空気によって吐出樹脂を冷却しながら、ロールに巻き取ることで約14μm厚みのA/B/A層構造の前駆体シートを得た。ここで、TダイのTDのリップ幅は500mm、Tダイのリップ間距離(リップクリアランス)は、2.4mmに設定し、6kg/hの吐出量条件で吐出を行った。
【0095】
次いで、得られた前駆体を乾燥機に投入し、150℃で、180分アニール処理を実施した。その後、アニールされた前駆体を室温にて30%冷間延伸を行い、延伸後の膜を収縮させることなく140℃のオーブン中に投入し、180%まで熱間延伸を行い、その後、30%緩和させることにより、A/B/A層から成る三層構造を有するセパレータ基材を得た。得られたセパレータ基材の構造、物性及び電池性能評価結果を表1に示す。
【0096】
《実施例2~10、比較例1、2》
表1に示すとおりに原料を変更したこと以外は実施例1と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られたセパレータを評価した。
【0097】
《比較例3》
微多孔層(A)の樹脂として、高分子量のポリプロピレン樹脂(MFR(230℃)=0.91g/10分、密度=0.91g/cm3)100重量%を、2.5インチの押出機で溶融し、単層Tダイへとギアポンプを使って供給した。Tダイの温度は240℃に設定し、溶融したポリマーをTダイから吐出後、吹込空気によって吐出樹脂を冷却しながら、ロールに巻き取ることで約5μm厚みの微多孔層(A)の前駆体シートを得た。ここで、TダイのTDのリップ幅は500mm、Tダイのリップ間距離(リップクリアランス)は、2.4mmに設定し、6kg/hの吐出量条件で吐出を行った。
【0098】
内層の樹脂として、ポリエチレン樹脂(MFR(230℃)=1.5g/10分、密度=0.96g/cm3)100重量%を、2.5インチの押出機で溶融し、単層Tダイへとギアポンプを使って供給した。Tダイの温度は210℃に設定し、溶融したポリマーをTダイから吐出後、吹込空気によって吐出樹脂を冷却しながら、ロールに巻き取ることで約5μm厚みの内層ポリエチレン層の前駆体シートを得た。ここで、TダイのTDのリップ幅は500mm、Tダイのリップ間距離(リップクリアランス)は、2.4mmに設定し、6kg/hの吐出量条件で吐出を行った。
【0099】
次いで、120℃にてラミネート処理を行い、微多孔層(A)/ポリエチレン層/微多孔層(A)の三層構造の前駆体シートを得た。次いで、得られた前駆体を乾燥機に投入し、120℃で、180分アニール処理を実施した。その後、アニールされた前駆体を室温にて20%冷間延伸を行い、延伸後の膜を収縮させることなく140℃のオーブン中に投入し、180%まで熱間延伸を行い、その後、30%緩和させることにより、A/ポリエチレン層/A層から成る三層構造を有するセパレータ基材を得た。得られたセパレータ基材の構造、物性及び電池性能評価結果を表1に示す。
【0100】