(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008469
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】シール材の寿命予測方法、並びにそれに用いるコンピュータプログラム及びそれを記録した記録媒体
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20230112BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20230112BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20230112BHJP
G06F 119/04 20200101ALN20230112BHJP
【FI】
F16J15/00 E
G06F30/23
G06F111:10
G06F119:04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112059
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田窪 毅
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】高精度でシール材の寿命予測を行う方法を提供する。
【解決手段】所定の流体を封止するように装着されるシール材の寿命予測方法は、前記シール材の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析し、前記構造解析における前記シール材のシール力の結果に基づいて、前記シール材のシール性能の有無を判断し、前記シール材のシール性能を有と判断するとき、前記構造解析における前記シール材の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材の前記流体との曝露面における所定時間後の消耗量を見積もり、前記見積もった消耗量を控除するように、前記シール材のモデルのメッシュの要素を無効化して前記構造解析に戻り、前記シール材のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積及び前記モデル要素無効化を行ったサイクル数に基づいて、前記シール材の寿命を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の流体を封止するように装着されるシール材の寿命予測方法であって、
前記シール材の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析するFEM構造解析ステップと、
前記FEM構造解析ステップの構造解析における前記シール材のシール力の結果に基づいて、前記シール材のシール性能の有無を判断するシール性能判断ステップと、
前記シール性能判断ステップで前記シール材のシール性能を有と判断するとき、前記FEM構造解析ステップの構造解析における前記シール材の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材の前記流体との曝露面における所定時間後の消耗量を見積もる消耗量見積ステップと、
前記消耗量見積ステップで見積もった消耗量を控除するように、前記シール材のモデルのメッシュの要素を無効化してFEM構造解析ステップに戻るモデル要素無効化ステップと、
前記シール性能判断ステップで前記シール材のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積ステップ及び前記モデル要素無効化ステップを行ったサイクル数に基づいて、前記シール材の寿命を算出する寿命算出ステップと、
を含むシール材の寿命予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたシール材の寿命予測方法において、
前記シール性能判断ステップでは、前記シール力は、前記シール材が、その接触部材から受ける反力であるシール材の寿命予測方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたシール材の寿命予測方法において、
前記消耗量見積ステップでは、前記消耗量の見積もりは、前記シール材のモデルのメッシュのうちの前記流体との曝露面に対応する各要素について、その変形パラメータに対応する消耗速度に前記所定時間を乗じることにより行うシール材の寿命予測方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたシール材の寿命予測方法において、
前記寿命算出ステップでは、前記シール材の寿命の算出は、前記サイクル数に前記所定時間を乗じることにより行うシール材の寿命予測方法。
【請求項5】
所定の流体を封止するように装着されるシール材の寿命予測に用いるコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記シール材の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析するFEM構造解析手順と、
前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材のシール力の結果に基づいて、前記シール材のシール性能の有無を判断するシール性能判断手順と、
前記シール性能判断手順で前記シール材のシール性能を有と判断するとき、前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材の前記流体との曝露面における所定時間後の消耗量を見積もる消耗量見積手順と、
前記消耗量見積手順で見積もった消耗量を控除するように、前記シール材のモデルのメッシュの要素を無効化してFEM構造解析手順に戻るモデル要素無効化手順と、
前記シール性能判断手順で前記シール材のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積手順及び前記モデル要素無効化手順を行ったサイクル数に基づいて、前記シール材の寿命を算出する寿命算出手順と、
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載されたコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み込み可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材の寿命予測方法、並びにそれに用いるコンピュータプログラム及びそれを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品の寿命を予測する技術が知られている。例えば、特許文献1には、形状や構造等のタイヤ設計案から有限要素法により、走行時の摩耗や内部伝熱を考慮してタイヤの寿命を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、半導体ドライエッチング装置のチャンバー用のシール材は、チャンバー内のラジカルガスに曝露されて消耗し、それによりシール性能を喪失することがある。そして、そのシール材がシール性能を喪失するまでの寿命は、シール材を形成する材料のラジカルによる消耗速度を実験的に求め、その結果に基づいて予測することが考えられる。このとき、シール材は、装置に変形状態で装着されるが、一般的に、変形状態では、ストレスフリー状態よりも消耗速度が大きい。そのため、ストレスフリー状態での消耗速度を用いた予測をしたのでは、実際の寿命よりも長く見積もってしまう虞があるという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、高精度でシール材の寿命予測を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定の流体を封止するように装着されるシール材の寿命予測方法であって、前記シール材の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析するFEM構造解析ステップと、前記FEM構造解析ステップの構造解析における前記シール材のシール力の結果に基づいて、前記シール材のシール性能の有無を判断するシール性能判断ステップと、前記シール性能判断ステップで前記シール材のシール性能を有と判断するとき、前記FEM構造解析ステップの構造解析における前記シール材の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材の前記流体との曝露面における所定時間後の消耗量を見積もる消耗量見積ステップと、前記消耗量見積ステップで見積もった消耗量を控除するように、前記シール材のモデルのメッシュの要素を無効化してFEM構造解析ステップに戻るモデル要素無効化ステップと、前記シール性能判断ステップで前記シール材のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積ステップ及び前記モデル要素無効化ステップを行ったサイクル数に基づいて、前記シール材の寿命を算出する寿命算出ステップとを含む。
【0007】
本発明は、所定の流体を封止するように装着されるシール材の寿命予測に用いるコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記シール材の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析するFEM構造解析手順と、前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材のシール力の結果に基づいて、前記シール材のシール性能の有無を判断するシール性能判断手順と、前記シール性能判断手順で前記シール材のシール性能を有と判断するとき、前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材の前記流体との曝露面における所定時間後の消耗量を見積もる消耗量見積手順と、前記消耗量見積手順で見積もった消耗量を控除するように、前記シール材のモデルのメッシュの要素を無効化して解析手順に戻るモデル要素無効化手順と、前記シール性能判断手順で前記シール材のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積手順及び前記モデル要素無効化手順を行ったサイクル数に基づいて、前記シール材の寿命を算出する寿命算出手順とを実行させる。
【0008】
本発明は、本発明のコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み込み可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シール材の変形状態を考慮した消耗量を見積もることにより、高精度でシール材の寿命予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態に係るシール材の寿命予測方法のフローチャートである。
【
図3】シール材の装着状態をメッシュに切った有限要素法による構造解析のためのモデル図である。
【
図4】要素を無効化した後のシール材のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るシール材の寿命予測方法の適用対象の一例としての半導体ドライエッチング装置のチャンバー内に設けられるシール材装着構造10を示す。
【0013】
シール材装着構造10は、ステンレス鋼等の金属材料で形成された円筒状部材11及び円盤状部材12と、フッ素ゴム等のゴム材料で形成されたシール材13とを備える。なお、シール材13は、ステンレス鋼等の金属材料やポリテトラフロオロエチレン(PTFE)樹脂等の樹脂材料で形成されていてもよい。
【0014】
円筒状部材11は、円筒状の部材本体111と、その先端に一体に設けられた円環状のフランジ部112とを有する。フランジ部112の表面には、環状に延びるコの字溝で構成されたシール材収容部112aが設けられている。円盤状部材12は、円筒状部材11のフランジ部112と同一外径の円盤状に形成されている。シール材13は、いわゆるOリングで構成されている。
【0015】
円筒状部材11のフランジ部112のシール材収容部112aにはシール材13が収容されている。円盤状部材12は、円筒状部材11のフランジ部112に当接するとともに、シール材収容部112aに収容されたシール材13を厚さ方向に圧縮するように設けられている。円盤状部材12は、円筒状部材11に、図示しないボルト等の固定手段により固定されている。
【0016】
半導体ドライエッチング装置では、その使用時において、シール材13は、円筒状部材11が連通するチャンバー内を真空に維持する。そして、このとき、チャンバー内には、副産物としてラジカルガスが発生するが、このシール材装着構造10では、シール材13の断面弧状の内周面がラジカルガスとの曝露面を構成する。
【0017】
次に、実施形態に係るシール材13の寿命予測方法について、
図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0018】
まずスタート後のステップS1では、初期準備として、ラジカルガスに曝露したシール材13を形成するゴム材料についての変形パラメータと消耗速度との関係を求め、続くステップS2に進む。
【0019】
シール材13を形成するフッ素ゴム等のゴム材料は、ラジカルガスに曝露されると劣化して消耗するが、その消耗量は、その変形状態に依存する。そこで、実験的に、シール材13を形成するゴム材料を、ラジカルガスに曝露させるとともに、種々の変形モードにおいて変形パラメータ(例えば応力や歪)を変量し、それぞれの場合での単位時間当たりの消耗量である消耗速度を求める。そして、ラジカルガスに曝露したゴム材料について、各変形モードでの変形パラメータと消耗速度との関係をデータベース化する。なお、変形モードとしては、例えば、引張りモード、曲げモード、捻りモード等が挙げられる。
【0020】
ステップS2では、
図3に示すようにシール材13の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法(FEM)により構造解析し(FEM構造解析ステップ)、続くステップS3に進む。
【0021】
この有限要素法による構造解析では、シール材13のモデルのメッシュの各要素毎に変形パラメータが計算され、全体として、その変形パラメータの分布が出力される。なお、有限要素法による構造解析は、変位法であっても、応力法であっても、どちらでもよい。
【0022】
ステップS3では、ステップS2の構造解析におけるシール材13のシール力の結果に基づいて、シール材13のシール性能の有無を判断し(シール性能判断ステップ)、有の場合には続くステップS4に進み、無の場合にはステップS6に進む。
【0023】
具体的には、例えばシール材13が、その接触部材である円筒状部材11のフランジ部112から受ける反力Fをシール力としたとき、構造解析から得られた反力Fが、ラジカルガスの封止に最低限度必要な臨界反力FC以上であれば、シール性能を有と判断し、臨界反力FC未満であれば、シール性能を無と判断する。なお、このシール性能の有無の判断は、シール材13とフランジ部112との間の最大接触圧力等によっても行うことができる。
【0024】
ステップS4では、ステップS2の構造解析におけるシール材13の変形パラメータの結果に基づいて、シール材13のラジカルガスとの曝露面である内周面における所定時間T後の消耗量を見積もり(消耗量見積ステップ)、続くステップS5に進む。
【0025】
この消耗量の見積もりは、シール材13のモデルのメッシュのうちのラジカルガスとの曝露面である内周面に対応する各要素について、その変形パラメータに対応する消耗速度に所定時間Tを乗じることにより行う。
【0026】
ステップS5では、ステップS4で見積もった消耗量を控除するように、シール材13のモデルのメッシュの要素を無効化してステップS2に戻る(モデル要素無効化ステップ)。
【0027】
具体的には、
図4に示すように、シール材13のモデルのメッシュのうちの内周面から外側の法線方向にステップS4で見積もった消耗量を排除したときに、その範囲に含まれる要素を無効化、つまり、変形して応力を生じる要素として扱わないようにする。なお、この要素の無効化の後、シール材13のモデルの内周面は、無効化した要素を排除して残った有効な要素で構成されることになる。
【0028】
ステップS6では、それまでのステップS4及びステップS5を行ったサイクル数Cに基づいて、シール材13の寿命を算出した後に終了する(寿命算出ステップ)。
【0029】
ステップS2での構造解析の結果、ステップS3でシール材13のシール性能を有と判断すると、その後、ステップS4及びステップS5を経由してシール材13のモデルの要素の無効化を図り、ステップS2に戻って再度の構造解析を行うこととなる。このサイクルは、ステップS3でシール材13のシール性能を無と判断するまで繰り返す。そして、この1サイクルは、ステップS4における所定時間Tの時間経過に相当する。したがって、シール材13の寿命は、シール材13のシール性能を無と判断するまでの所要時間であって、その算出は、所定時間TにステップS4及びステップS5を行ったサイクル数Cに乗じることにより行う。
【0030】
以上の実施形態に係るシール材13の寿命予測方法によれば、シール材13の変形状態を考慮した消耗量を見積もることにより、高精度でシール材13の寿命予測を行うことができる。これにより、消耗劣化したシール材13を交換して漏れを予防することにより安全性を得ることができるとともに、健全なシール材13を交換対象としないことにより経済性を得ることもできる。
【0031】
実施形態に係るシール材13の寿命予測方法は、ラジカルガスに曝露したシール材13を形成するゴム材料についての変形パラメータと消耗速度との関係をデータベース化しておき、コンピュータに下記のコンピュータプログラムを実行させて行うこともできる。
【0032】
そのコンピュータプログラムは、コンピュータに、
シール材13の装着状態をメッシュに切ったモデルについて有限要素法により構造解析するFEM構造解析手順と、
前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材13のシール力の結果に基づいて、前記シール材13のシール性能の有無を判断するシール性能判断手順と、
前記シール性能判断手順で前記シール材13のシール性能を有と判断するとき、前記FEM構造解析手順の構造解析における前記シール材13の変形パラメータの結果に基づいて、前記シール材13のラジカルガスとの曝露面における所定時間T後の消耗量を見積もる消耗量見積手順と、
前記消耗量見積手順で見積もった消耗量を控除するように、前記シール材13のモデルのメッシュの要素を無効化してFEM構造解析手順に戻るモデル要素無効化手順と、
前記シール性能判断手順で前記シール材13のシール性能を無と判断するとき、それまでに前記消耗量見積手順及び前記モデル要素無効化手順を行ったサイクル数Cに基づいて、前記シール材13の寿命を算出する寿命算出手順と、
を実行させるものとすればよい。なお、FEM構造解析手順、シール性能判断手順、消耗量見積手順、モデル要素無効化手順、及び寿命算出手順が、それぞれ上記ステップS2乃至ステップS6に相当する。
【0033】
このシール材13の寿命予測用のコンピュータプログラムは、これを記録したCD-ROMやDVD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体としてのみならず、ネットワーク等を通じてプログラム自体も独立した取引対象となり得る。
【0034】
なお、上記実施形態では、シール材13がラジカルガスに曝露されて消耗するものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、シール材13が腐食性液体、腐食性ガス、高温液体、高温ガス等の流体に曝露されて消耗するものであってもよく、その場合でも、高精度でシール材13の寿命予測を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、シール材の寿命予測方法、並びにそれに用いるコンピュータプログラム及びそれを記録した記録媒体の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0036】
10 シール材装着構造
11 円筒状部材
111 部材本体
112 フランジ部
112a シール材収容部
12 円盤状部材
13 シール材