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特開2023-84705生物電気化学システムを使用した原排水及び曝気された排水の同時処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084705
(43)【公開日】2023-06-19
(54)【発明の名称】生物電気化学システムを使用した原排水及び曝気された排水の同時処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20230612BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022195980
(22)【出願日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2021198900
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 真美
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・プロフォロバ
(72)【発明者】
【氏名】比屋根 理恵
(72)【発明者】
【氏名】風岡 雅輝
(72)【発明者】
【氏名】イゴール・ゴリヤニン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・バビアック
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040BB02
4D040BB42
4D040BB52
4D040BB82
4D040BB91
4D040DD03
4D040DD14
4D040DD31
(57)【要約】
【課題】
本発明は、嫌気性生物電気化学システム(BES)を使用した、カソード槽における処理された排水からの硝酸イオン(亜硝酸イオン)と、アノード槽における原排水からの有機物、浮遊物質及び臭気(揮発性脂肪酸により発生)との同時除去のための、高度な畜産の排水処理システム、装置及び方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを備え、ここで、アノード槽がアノード槽とカソード槽との間でアニオン又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている、装置を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気された排水の脱窒と、原排水の処理とを同時に行うための装置であって、
少なくとも1つのアノードを内部に備え、原排水を処理するための少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備え、曝気された排水を脱窒するための少なくとも1つのカソード槽とを備え、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている、
装置。
【請求項2】
カソード槽及び/又はアノード槽が内部に、参照電極をさらに備える、請求項1記載の装置。
【請求項3】
アノード及び/又はカソードが、導電性電極である、請求項1記載の装置。
【請求項4】
導電性電極が、炭素繊維又はステンレス鋼を含む、請求項3記載の装置。
【請求項5】
アノード槽及びカソード槽のうちの少なくとも一方が、槽内を連続的又は周期的に撹拌するための手段を備える、請求項1記載の装置。
【請求項6】
該装置が、曝気槽に接続されている、請求項1記載の装置。
【請求項7】
有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うためのシステムであって、
1)請求項1又は2記載の装置と、
2)カソードとアノードとの間又はカソードもしくはアノードと参照電極との間の電位を調整するための手段とを含み、
ここで、この手段は、アノード及びカソード、又はアノード、カソード及び参照電極に接続されており、
アノード槽において、発電細菌は、原排水中の有機化合物を分解し、アノードを通して電子を供給し;及び
カソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、曝気された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
システム。
【請求項8】
電位を調整するための手段が、ポテンショスタット又は外部抵抗又は開回路電位(OCP)モードである、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
発電細菌が、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、請求項7記載のシステム。
【請求項10】
脱窒細菌が、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus及びMaribacterの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、請求項7記載のシステム。
【請求項11】
少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)アノードとカソードとの間の電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
方法。
【請求項12】
少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽と、
カソード槽又はアノード槽内の参照電極とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)参照電極に対するカソード又はアノードのいずれかの電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
方法。
【請求項13】
発電細菌が、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
脱窒細菌が、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus及びMaribacterの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項15】
原排水が、畜産の排水又はその上清である、請求項11又は12記載の方法。
【請求項16】
原排水が、養豚排水又はその上清である、請求項11又は12記載の方法。
【請求項17】
曝気された排水が、低レベルの有機化合物を含む、曝気された畜産の排水又はその上清である、請求項11又は12記載の方法。
【請求項18】
曝気された排水が、低レベルの有機化合物を含む、曝気された養豚排水又はその上清である、請求項11又は12記載の方法。
【請求項19】
工程2)において、参照電極(Ag/AgCl)に対して-0.2~-0.8Vで、電位がカソードに印加され、及び調整される、請求項12記載の方法。
【請求項20】
工程2)において、参照電極(Ag/AgCl)に対して-0.4~-0.6Vで、電位がカソードに印加され、及び調整される、請求項12記載の方法。
【請求項21】
0)アノード槽及び/又はカソード槽に、活性汚泥をその0%~60%の容量で接種する工程をさらに含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項22】
工程0が、アノード槽及び/又はカソード槽に、活性汚泥をその20%~25%の容量で接種する工程である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
工程2後の曝気された排水が、窒素当量として合計100mg/L以下のNO 及びNO を含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
発電細菌及び有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、脱窒細菌並びに硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)アノードとカソードとの間の電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを水に不溶性のNガスに還元し、及びリン酸塩は、カソード槽内に沈殿する、
方法。
【請求項25】
少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽と、
カソード槽又はアノード槽内の参照電極とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
発電細菌及び有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、脱窒細菌並びに硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)参照電極に対するカソード又はアノードのいずれかの電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを水に不溶性のNガスに還元し、及びリン酸塩は、カソード槽内に沈殿する、
方法。
【請求項26】
リンの重量で、曝気された排水中に存在するリン酸態リンの30%超が、工程2)により除去される、請求項24又は25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
この出願は、2021年12月7日に出願された日本国特許出願(特願2021-198900)の優先権の利益を主張し、その内容全体が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本出願は、嫌気性生物電気化学システム(BES)を使用した、カソード槽における処理された排水、特に、曝気処理された排水からの硝酸イオン(亜硝酸イオン)と、アノード槽における原排水からの有機物、浮遊物質及び臭気(揮発性脂肪酸により発生)との同時除去のための養豚排水高度処理システムを対象とする。
【背景技術】
【0003】
持続可能な排水処理は、水を再利用し、汚染を最小限に抑えることを目的とするだけでなく、貴重な資源、例えば、エネルギー及び栄養素の回収を最大限にすることも目的とする(Verstraete et al., 2009)。農業排水は、リサイクルが可能な栄養素を豊富に含む。排水処理は、集約的な養豚業により排水量が大幅に増加し、環境汚染に寄与する望ましくない生成物の蓄積を引き起こし、日本の沖縄諸島のような地域にとって、差し迫った問題となる。畜産場からのこのアンモニウムに富む排水は、一般的には、曝気システムにより処理される(Rosso et al., 2008)。硝酸イオン(nitrate)は、畜産場から排出されるアンモニアを含んだ排水を除去するのに使用される曝気槽中に一般的に検出される、有害で大量に存在する無機汚染物質である。排水の硝酸イオン汚染は、ヒトの健康及び環境に対するその毒性のために、大きな関心が持たれている(Powlson et al., 2008)。人が硝酸イオンを摂取すると、硝酸イオンは、亜硝酸イオン(nitrite)に変換され、体内のヘモグロビンと結合し、酸素を運ぶことができないメトヘモグロビンを形成する。したがって、飲料水中の過剰なレベルの硝酸イオンは、メトヘモグロビン血症(ブルーベビー症候群とも呼ばれる)を引き起こすおそれがある(Majumdar and Gupta, 2000)。
【0004】
生物学的脱窒は、酸化窒素、例えば、硝酸イオン又は亜硝酸イオンの窒素ガスへの還元であり、従来は、従属栄養通性嫌気性微生物により達成される(Schmidt et al., 2003)。生物学的脱窒は、十分に確立された技術であるが、多くの場合、好気性微生物と脱窒性微生物との間で利用可能な有機物の競合が起こってしまう。この競合により、不十分な基質(有機物)供給のために、適正な脱窒反応が行われない場合がある。このため、多くの場合、低濃度の有機物を含む排水中で完全な脱窒を達成するために炭素源の追加投入が必要となる。
【0005】
最先端の環境技術である生物電気化学システム(BES)は、嫌気性消化の限界に対処し、曝気アプローチを補完できる可能性がある。BESは、アノードでの電子供与体の酸化を、カソードでの電子受容体の還元と、一方又は両方の反応を触媒する細菌を利用して、結び付ける(Clauwaert et al., 2007)。一般的には、BESのアノード槽では、発電菌が有機物を酸化し、電子をアノードに放出する。BESのカソード槽内で窒素含有電子受容体、例えば、硝酸イオン(NO )、亜硝酸イオン(NO )、さらには、亜酸化窒素(NO)を、電気栄養脱窒細菌により、窒素ガスに還元することができる。伝統的な生物学的栄養除去技術と比較して、脱窒BESでは、カソード上に豊富に存在する細菌バイオフィルムのために、低いC/N比下であっても、高い窒素除去効率が得られている(Zhang and He, 2012、Tian and Yu, 2020)。BESにおける微生物群の挙動を理解することは、多くの調査研究の近年の焦点となっている。Geobacter属は、ポテンショスタットで印加したハーフセルモードにおいて、硝酸イオンを亜硝酸イオンに還元するための電子供与体として、グラファイトカソードを直接使用できることが見出された(Gregory et al., 2004)。同様のシステムを使用した別の研究では、カソードから直接電子を消費する電気栄養微生物により、硝酸イオンが完全に窒素ガスに還元されたことが示された(Park et al., 2005)。これらの電気栄養脱窒細菌は、電極を電子供与体として使用することができ、無機炭素(例えば、二酸化炭素及びカーボナート)を炭素源として使用することができる独立栄養細菌である。したがって、バイオカソードは、安全かつ無限の電子源としての役割を果たす。さらに、このような微生物群は、電気刺激環境に容易に適応し、順応期間後に集積することができる。
【0006】
BESにおけるバイオカソード脱窒の開発における近年の進歩には、合成排水が使用されてきた(Park et al., 2017;N Pous et al., 2015)。したがって、本研究において特に興味深いことは、カソードによる独立栄養脱窒を、養豚排水にて達成することができるかどうかを検証し、このようなシステムを安定化させるための最適条件を特定することであった。我々の知る限り、この研究は、アノード槽における希釈されていない養豚原排水と、カソード槽における曝気処理水の同時処理を達成した最初の研究である。アノード槽における有機物及び臭気化合物除去能及び効率を、カソード槽における硝酸イオン除去性能と共に評価した。さらに、このようなシステムの長期運転を行った。
【0007】
これまで独立栄養脱窒に関与する細菌群が解明されてきた(Van Doan et al., 2013;Vilar-Sanz et al., 2013)。ただし、畜産排水中でのこれらの細菌群の長期生存については、未知のままであることが多い。
【0008】
[先行技術文献]
[非特許文献]
【表1】



【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
排水中の硝酸イオンは、ヒト及び環境の健康に悪影響を及ぼすため、懸念される。日本では、畜産業は、500mg NO3 --N/L(2021年12月現在)の暫定排水基準以下であり、この水準は、400mg NO3 --N/L(2022年7月)まで下げられた。この水準は、300mg NO3 --N/L又は200mg NO3 --N/Lまでさらに下げられ、最終的には、他の産業と同様の一般排水基準(100mg NO3 --N/L)まで下げられると予想されている。
硝酸イオンは、有害物質として指定されている。また、畜産の排水中のリン(phosphate)は、現在の暫定排水基準(22mg/L)を下回り、一般排水基準(16mg/L)まで下げられるであろう。従来の排水処理システムで広く使用されている活性汚泥法では、一般的には、アンモニアは除去されるが、硝酸イオン及びリンは除去されない。硝酸イオンを除去するために、従来の排水システムでは、C/N比3~5以上で低溶存酸素(DO)を維持する必要があり、これらは両方とも、制御が困難である。
従来の養豚排水処理では、富栄養化の原因となりかつ希少資源であるリンを除去しない曝気(活性汚泥法)が利用される。
従来の養豚排水処理(活性汚泥法)では、COD除去中に余剰汚泥が発生し、これを定期的又は毎日でさえも除去する必要がある。これは、曝気を行うための電気代と共に主な運転コストの1つである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、嫌気性生物電気化学システム(BES)を使用した、カソード槽における曝気処理された排水(以下、曝気された排水又は二次処理排水とも呼ばれる)からの硝酸イオン(亜硝酸イオン)と、アノード槽における原排水からの有機物、浮遊物質及び臭気(揮発性脂肪酸)との同時除去のための、畜産の高度排水処理装置、システム及び方法を提供する。
本高度排水処理装置は、少なくとも2つの個別の槽を備える。アノード槽では、BODを酸化し、養豚原排水からSS、臭気及び病原菌を除去し、同時に、カソード槽では、曝気された排水から硝酸イオンを窒素ガスに還元する。畜産舎からの原排水を、アノード槽に流入し処理させることができ、曝気槽への有機物負荷を低減し、それにより、曝気槽の寿命を延ばし、また曝気に伴う余剰汚泥の除去コストを低減する。その後、アノード槽で処理された排水は、既存の曝気槽に入り、残留BODを除去し、アンモニウムを硝酸イオンに硝化することができる。曝気槽処理された水を、曝気された排水として使用することができる。
【0011】
本発明は、下記実施態様を含む。
(1) 曝気された排水の脱窒と、原排水の処理とを同時に行うための装置であって、
少なくとも1つのアノードを内部に備え、原排水を処理するための少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備え、曝気された排水を脱窒するための少なくとも1つのカソード槽とを備え、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている、装置。
(2) カソード槽及び/又はアノード槽が内部に、参照電極をさらに備える、(1)記載の装置。
(3) アノード及び/又はカソードが、導電性電極である、(1)記載の装置。
(4) 導電性電極が、炭素繊維又はステンレス鋼を含む、(3)記載の装置。
(5) アノード槽及びカソード槽のうちの少なくとも一方が、槽内を連続的又は周期的に撹拌するための手段を備える、(1)記載の装置。
(6) 該装置が、曝気槽に接続されており、ここで、好ましくは、曝気槽は、現地ですでに設置されており、本開示の装置より前の位置にある既存のものであり、これにより、農場主が硝酸イオン、亜硝酸イオン及び/又はアンモニウムの排水基準に関する新たな規制に合致することが可能となり、並びに該装置を曝気槽に、直接又は1つ以上の中間槽もしくは容器、例えば、沈殿タンクを介して接続することができる、(1)記載の装置。
【0012】
(1A) 有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うためのシステムであって、
1)(1)又は(2)記載の装置と、
2)カソードとアノードとの間又はカソードもしくはアノードと参照電極との間の電位を調整するための手段とを含み、
ここで、この手段は、アノード及びカソード、又はアノード、カソード及び参照電極に接続されており、
アノード槽において、発電細菌は、原排水中の有機化合物を分解し、アノードを通して電子を供給し;及び
カソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、曝気された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
システム。
(2A) 電位を調整するための手段が、ポテンショスタット又は外部抵抗又は開回路電位(OCP)モードである、(1A)記載のシステム。
(3A) 発電細菌が、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(1A)記載のシステム。
(4A) 脱窒細菌が、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus及びMaribacterの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(1A)記載のシステム。
【0013】
(1B) 少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)アノードとカソードとの間の電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
方法。
(2B) 少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽と、
カソード槽又はアノード槽内の参照電極とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている、装置を使用することにより、
有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)参照電極に対するカソード又はアノードのいずれかの電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元する、
方法。
(3B) 発電細菌が、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(1B)又は(2B)記載の方法。
(4B) 脱窒細菌が、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus及びMaribacterの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(1B)又は(2B)記載の方法。
(5B) 原排水が、畜産の排水又はその上清である、(1B)又は(2B)記載の方法。
(6B) 原排水が、養豚排水又はその上清である、(1B)又は(2B)記載の方法。
(7B) 曝気された排水が、低レベルの有機化合物を含む、曝気された畜産の排水又はその上清である、(1B)又は(2B)記載の方法。
(8B) 曝気された排水が、低レベルの有機化合物を含む、曝気された養豚排水又はその上清である、(1B)又は(2B)記載の方法。
(9B) 工程2)において、参照電極(Ag/AgCl)に対して-0.2~-0.8Vで、電位がカソードに印加され、及び調整される、(2B)記載の方法。
(10B) 工程2)において、参照電極(Ag/AgCl)に対して-0.4~-0.6Vで、電位がカソードに印加され、及び調整される、(2B)記載の方法。
(11B) 0)アノード槽及び/又はカソード槽に、活性汚泥をその0%~60%の容量で接種する工程をさらに含む、(1B)又は(2B)記載の方法。
(12B) 工程0が、アノード槽及び/又はカソード槽に、活性汚泥をその20%~25%の容量で接種する工程である、(11B)記載の方法。
(13B) 工程2後の曝気された排水が、窒素当量として合計100mg/L以下のNO 及びNO を含む、(1B)又は(2B)記載の方法。
【0014】
(1C) 少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
発電細菌及び有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、脱窒細菌並びに硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)アノードとカソードとの間の電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元し、及びリン酸塩は、カソード槽内に沈殿する、
方法。
(2C) 少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽と、
カソード槽又はアノード槽内の参照電極とを含み、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間でアニオン及び/又はカチオンを輸送するために、セパレータを介してカソード槽に取り付けられている装置、を使用することにより、
発電細菌及び有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、脱窒細菌並びに硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)アノード槽に原排水を加える、及びカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで
2)参照電極に対するカソード又はアノードのいずれかの電位を調整する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、アノードを通して電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンをNガスに還元し、及びリン酸塩は、カソード槽内に沈殿する、
方法。
(3C) リンの重量で、曝気された排水中に存在するリン酸態リンの30%超が、工程2)により除去される、請求項24又は25記載の方法。
【0015】
(A1) 少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、
少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを備え、
ここで、アノード槽は、アノード槽とカソード槽との間で移動可能なアニオン又はカチオンを輸送するために、アニオン交換膜又はカチオン交換膜を介してカソード槽に取り付けられており;及び
アノード槽は、発電細菌を内部に、好ましくは、アノードの表面上に含み、カソード槽は、脱窒細菌を内部に、好ましくは、カソードの表面上に含む、
装置。
(A2) カソード槽が内部に、参照電極をさらに備える、(A1)記載の装置。
(A3) アノード及び/又はカソードが、炭素電極である、(A1)又は(A2)記載の装置。
(A4) 発電細菌が、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(A1)~(A3)のいずれか1つに記載の装置。
(5) 脱窒細菌が、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus、Methylobacter、Nitrosococcus、Mesorhizobium及びMaribacterの種からなる群より選択される少なくとも1種の細菌を含む、(A1)~(A4)のいずれか1つに記載の装置。
【0016】
(A1A)
1)(A2)記載の装置と、
2)参照電極に対してカソード電極に電位を印加するためのポテンショスタット、外部抵抗モード又は開回路モードとを備える、
システム。
(A1B) 有機化合物を含有する原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸の除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法であって、
1)(A2)記載の装置のアノード槽に原排水を加える、及び該装置のカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2) カソードに、好ましくは、参照電極(両方ともポテンショスタットに接続されている)を使用して、電位を印加する工程とを含み、
ここで、アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、それにより、ポテンショスタットに接続されているアノードにより電子を供給し;及びカソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを電子により、好ましくは、NO、NO及び/又はNに還元する、
方法。
(A2B) 原排水が、畜産の排水又はその上清、好ましくは、養豚排水又はその上清である、(A1B)記載の方法。
(A3B) 曝気された排水が、低レベルの有機化合物を含む、曝気された畜産の排水又はその上清、好ましくは、曝気された養豚排水又はその上清である、(A1B)記載の方法。
(A4B) 原排水が、有機化合物及びNH を含み、曝気された排水が、工程2)において有機化合物を除去し、ついで、NH を硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンに、曝気下で硝化細菌により変換した後の原排水である、(A1B)記載の方法。
(A5B) 工程2)において、カソードが、-0.2~-0.8V(Ag/AgCl)、好ましくは、-0.4~-0.6V(Ag/AgCl)に合わせている、(A1B)記載の方法。
(A6B)少なくとも工程2)を、嫌気性条件で行う、(A1B)記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施態様は、下記効果を示すことができる。
1.曝気された排水の三次処理(カソード槽内)
有利な効果は、このシステムが、電極を電子供与体として使用することにより、従来の方法で必要となる労働集約的な有機物量又は溶存酸素(DO)量の調整及び追加の化合物添加なしに、独立栄養性脱窒細菌が硝酸イオンを窒素ガスに還元することを可能にすることでありうる。少量の有機物を含む硝酸イオン含有排水、例えば、曝気による硝化排水、硝酸イオン汚染地下水又は水産養殖水は、このシステムに適している(低C/N排水)が、これらに限定されない。
加えて、このシステムにより、従来の従属栄養脱窒も可能となる場合がある。硝酸性窒素を一般排水基準(100mg/L)以下まで除去することができる。
【0018】
2.原排水の二次処理(アノード槽内)
本発明の一実施態様は、原排水からの有機物負荷を低減し(80%超)、その結果、既存の曝気槽の負担を軽減し、曝気コスト及び総運転コストを節約する二次排水処理として機能することができる。
【0019】
加えて、このシステムにより、浮遊物質(80%)及び臭気(80%)並びに大腸菌(E. coli)(病原性指標)を除去することができる。このシステムを高度処理システムとして、既存の排水処理に追加することができる(図10及び図11)。このシステムは、排水から大きな粒子を除去するための連続沈殿タンクと、BESバイオリアクターとからなる。このシステムの全体的な利点は、余剰汚泥の除去、化学物質の添加及び電気使用を含む従来の処理システムに対する運転コストを低減し、このため、CO排出を減少させることである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】短期実験におけるバイオカソード脱窒性能。A)300mg L-1の初期濃度でのNO -Nの除去;B)-0.6V対Ag/AgCl、-0.4V対Ag/AgCl及び-0.2V対Ag/AgClの印加電位下でのカソード電流発生曲線;C)NO -N濃度;D)NH -N濃度。
図2】カチオン交換膜(CEM)対アニオン交換膜(AEM)を伴うバイオカソード脱窒性能。A)300mg L-1の初期濃度でのNO -Nの除去。ここで、AEMを有するBESには、6日目でのその完全な除去のために、追加の300mg L-1の硝酸性窒素を補充した;B)カソード電流発生曲線。
図3】長期実験におけるNO -Nの平均累積除去量。BESを、フェドバッチモードを使用して、3日のHRTで各45サイクル運転させた。ここで、各奇数サイクル数において、アノード槽に、未処理排水を充填し、カソード槽に、曝気された排水を充填し、各偶数サイクル数において、カソード槽のみに、新たなバッチの曝気された排水を充填した。
図4】A)0~15日;B)15~35日;C)145~170日の運転中のサイクルの最終日における電流出力及び硝酸イオン減少の累積量。青色の菱形:3日目での除去されたNO -Nの累積量。
図5】カソード上の微生物群の分類学的分類。A)属レベル及びB)種レベルでの相対占有率(最も一致する上位30種のヒートマップ。色強度は、2進対数変換を適用した後の相対占有率の値を示す)。CEM:カチオン交換膜(短期実験)、AEM:アニオン交換膜(長期実験)。
図6】脱窒に関与する最も一致する優性種の占有率。ステージIからのサンプルで-0.6Vの印加電位及びOCP下で3%より高い占有率で示される脱窒微生物群の組成。
図7】本出願の一実施態様の模式図。図7Aは、1つのアノード槽及び1つのカソード槽を有する装置の一実施態様を示す。7A-i.ポテンショスタットによる電位の印加、ii.外部抵抗による電位の調整、及びiii.開回路電位。図7Bは、本出願における方法のカスケードの一実施態様を示す。脱窒細菌を含有する微生物群は、SEMにより、カソード表面に局在することが確認された。図7Cは、脱窒細菌によるNO からNへの変換カスケードを示す。図7Dは、カソード槽内のカソードに電位を印加することにより、NO の除去が増強されたことを示す。図7E カソードに電位(-0.4V)を印加及び外部抵抗(500Ω)を使用することによる硝酸イオンの除去。図7F 外部抵抗実験(R=500Ω)におけるカソード電位、アノード電位及び電流量。
図8】複数のアノード槽及び複数のカソード槽を有する実証リアクターシステム。
図9】実証リアクターシステムの模式図。2つアノード槽及び4つのカソード槽;カソード区画:36L;アノード区画:18L;電極としての炭素ブラシ/繊維;アニオン交換膜;トレイ容積 約65L;-0.4V対Ag/AgCl(カソードにおいて)。原排水は、アノード槽内で発電細菌を含めて生物学的に処理される。そして、処理された原排水は、曝気槽に移され、残りの有機物は、曝気により処理されると共に、NH をNO に変換することができる硝化細菌により処理される。曝気された排水は、曝気された排水としてカソード槽に移される。
図10】システム設置の模式図。
図11】既存の排水処理施設に対する設置。
図12】アノード槽における有機化合物の除去。アノード槽における処理により、原排水中のCODが減少する。図12Aは、CODの経時変化を示す。図12Bは、COD値を示し、図12Cは、濁度を示す。
図13】カソード槽におけるNO の除去。図13Aは、NO の経時変化を示す。図13Bは、NO の濃度を示す。図13Cは、NO の経時変化を示し、これは、脱窒細菌によりNO が還元され、変換されることを示す。図13Dは、獲得電流とNO 除去との間の関係を示す。
図14】このシステムにおける処理後の水質の概要。
【0021】
(意図的に空白)
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に断りない限り、本発明におけるすべての用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」及び「The」は、特に断りない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「又は」という語は、特に断りない限り、「及び」を含むことが意図される。「少し」という用語は、この説明において、2~3の数字を意味する。「いくつか」という用語は、この説明において、2~6の数字を意味する。矛盾した場合、用語の説明を含む本明細書が支配するものとする。加えて、材料、方法及び実施例は、例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0023】
一実施態様では、本出願は、少なくとも1つのアノードを内部に備えた少なくとも1つのアノード槽と、少なくとも1つのカソードを内部に備えた少なくとも1つのカソード槽とを備えた、装置を含む。アノード槽は、アノード槽に原排水を加えるための少なくとも1つの入口と、アノード槽から処理された原排水を回収するための少なくとも1つの出口とを備えることができる。アノード槽において、入口は、出口と同じであることができる。カソード槽は、カソード槽に曝気された排水を加えるための少なくとも1つの入口と、カソード槽から処理された曝気された排水を回収するための少なくとも1つの出口とを備えることができる。カソード槽において、入口は、出口と同じであることができる。
槽の容積及び数は限定されない。該装置が、複数のアノード槽及び複数のカソード槽を備える場合、アノード槽は、排水をアノード槽間で移動可能にするように互いに直接接続されていることができ、カソード槽は、排水をカソード槽間で移動可能にするように互いに直接接続されていることができる。
アノード槽は、イオン、特に、アニオンがアノード槽とカソード槽との間を移動することが可能となるように、カソード槽に接続されていることができる。一実施態様では、アノード槽は、セパレータ、例えば、イオン交換膜(ただし、他のものを排除しない)を介して、好ましくは、アニオン交換膜を介して、カソード槽に接続されていることができる。アニオン交換膜により、槽間でアニオンが透過するが、一方、アニオン交換膜は、カチオン、例えば、NH を透過させない。
アノード槽を、原排水を処理するのに使用することができる。アノード槽に、発電細菌を含む接種材料として、活性汚泥又は原排水を接種することができる。結果として、アノード槽は、好ましくは、アノードの表面上に、発電細菌を含むことができる。発電細菌又は電子生成菌(exoelectrogen)は、嫌気性又は微好気性条件下で、電極、酸化ミネラル及び他の細菌を含む電子受容体へ又は電子受容体から細胞エンベロープを通して細胞外に電子を移動させることができる微生物の群である。発電細菌は、原排水中の有機化合物を分解して、CO及び電子を産生し、産生された電子をアノードに供給することができる。発電細菌は、独立栄養細菌である場合があり、Geobacter、Desulfovibrio、Syntrophobacter、Clostridium、Alicycliphilus、Thauera、Acidovorax、Xanthomonas、Bacteroides、Rhodopseudomonas、Thiomonas、Acinetobacter、Stenotrophomonas、Dechloromonas、Pseudomonas、Azoarcus及びRalstoniaの種を含むが、これらに限定されない。発電細菌の更なる例は、Escherichia、Methanospirillum、Rohdobactor及びStenotrophomonasを含む。
カソード槽を脱窒に使用することができる。カソード槽に、脱窒細菌を含む接種材料として、活性汚泥又は曝気された排水を接種することができる。結果として、カソード槽は、好ましくは、カソードの表面上に、脱窒細菌を含むことができる。脱窒細菌は、好ましくは、発電細菌により産生された、並びにアノード、電位を印加し及び/又は調整するための手段、並びにカソードを通して供給された電子を使用することにより、窒素サイクルの一部として脱窒を行い、種々の酵素を使用して窒素化合物を代謝し、硝酸イオン及び亜硝酸イオン(NO 、NO )を窒素ガス(N)又は一酸化窒素、亜酸化窒素(NO、NO)に戻すことができる。好ましくは、脱窒細菌は、硝酸イオン(NO )及び亜硝酸イオン(NO )を窒素ガス(N)に至るまで還元する。脱窒細菌は、独立栄養細菌である場合があり、Syderoxidans、Gallionela、Thiobacillus、Thauera、Mycobacterium、Alicycliphilus、Azoarcus、Acidovorax、Psudomonas、Dechloromonas、Methylibium、Burkholderia、Leptothrix、Ralstonia、Aromatoleum、Cupriavidus、Delfia、Nitrosomonas、Methylococcus及びMaribacterの種を含むが、これらに限定されない。脱窒細菌の更なる例は、Janthinobacterium、Hyphomicrobium、Mesorhizobium、Methylobacillus及びRhodobacter、Rhodopseudomonasを含む。
【0024】
一実施態様では、カソード槽及び/又はアノード槽は、参照電極を内部にさらに備えることができる。電位が、カソード又はアノードのいずれかに印加される場合、電位は、参照電極を使用することにより調整されるのが好ましい。
【0025】
一実施態様では、アノード及び/又はカソードは、好ましくは、排水により引き起こされる腐食に対して抵抗性である。アノード及び/又はカソードは、導電性電極、好ましくは、炭素繊維電極又はステンレス鋼であることができる。
【0026】
一実施態様では、カソード槽及び/又はアノード槽は、槽内を連続的又は周期的に撹拌するための手段を内部にさらに備えることができる。この手段としては、撹拌ポンプ、バブリングマシン等を挙げることができるが、これらに限定されない。この手段は、槽自体の形状又は構造であることができる。
【0027】
一実施態様では、本出願は、前述の装置と、電位を調整するための手段とを備える、システムを含む。電位を参照電極に対するカソード又はアノードのいずれかへ調整することができ又はアノードとカソードとの間で調整することができる。この手段は、電位を印加するための機能を有することができる。この手段は、ポテンショスタット、外部抵抗器及び開回路電位を含むが、これらに限定されない。一部の実施態様では、外部抵抗は、100Ω~1000Ωの抵抗を有する場合がある。「開回路電位」という用語は、無限又はほぼ無限の抵抗値を有する抵抗の使用、例えば、回路の終端が取り外された時又は電極間に外部負荷がない場合に対応する。
【0028】
一実施態様では、本出願は、有機化合物を含有する原排水から有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸を除去するための方法;硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水から硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを除去するための方法;リンを含む曝気された排水からリンを除去するための方法;有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸の除去と、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンの除去とを同時に行うための方法;並びに発電細菌及び有機化合物を含む原排水からの有機化合物、例えば、有機物、浮遊物質及び揮発性脂肪酸並びに病原体の嫌気性除去と、脱窒細菌並びに硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンを含む曝気された排水からの硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオン並びにリンの除去とを同時に行うための方法を含む。
【0029】
これらの方法は、
1)前述の装置のアノード槽に原排水を加える、及び装置のカソード槽に曝気された排水を加える工程と、ついで、
2)(好ましくは、参照電極に対する)カソード又はアノードのいずれかへの電位を調整する工程とを含むことができ、ここで、「電位を調整すること」は、「電位を印加すること」を含むことができる。
アノード槽において、発電細菌は、有機化合物を分解し、電位を印加し及び/又は調整するための手段に接続されているアノードにより、電子を供給することができる。
カソード槽において、脱窒細菌は、カソードを介して電子を受け取り、電子を使用して硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを還元することができ、好ましくは、NO、NO及び/又はNガスに変換することができる。排水がリンを含む場合、リン酸塩、例えば、リン酸カルシウムを、カソード槽内で沈殿させることができる。
【0030】
一実施態様では、アノード槽に加えられる原排水は、畜産の排水又はその上清、好ましくは、養豚排水又はその上清であることができる。特に、原排水は、好ましくは、任意の沈殿処理に適用され、並びに任意の沈殿物及び/又は固体を除去することにより得られた排水であることができ、それでも依然として豊富に有機化合物(例えば、1000mg/L~10000mg/LのCOD値、より好ましくは、1000mg/L~3000mg/LのCOD値)を含有する。原排水は、生きた発電細菌を含むことができる。
【0031】
曝気された排水は、曝気された畜産の排水又はその上清、好ましくは、曝気された養豚排水又はその上清であることができる。曝気された排水は、任意の沈殿処理に適用され、並びに任意の沈殿物及び/又は固体を除去することにより得られた、曝気された排水であることができる。特に、曝気された排水は、豊富に、例えば、100mg/L以上(NO -N)、200mg/L以上(NO -N)又は100~400mg/L(NO -N)の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有することができる。さらに、曝気された排水は、有機化合物が少なくてもよい(例えば、5~30のBOD値、ただしこれに限定されない)。したがって、曝気された排水のBOD/Nの比は、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.2以下又は0.1以下であることができる。曝気された排水は、生きた脱窒細菌を含むことができる。
【0032】
別の実施態様では、アノード槽において処理された原排水を、曝気された排水の供給源として使用することができる。その場合、原排水は、好ましくは、有機化合物及びNH を含むことができる。アノード槽において処理された原排水は回収され、曝気処理に適用される。この場合、NH は、硝化細菌により、NO 及び/又はNO に変換される。必要に応じて、曝気された排水を、任意の沈殿物及び/又は固体を除去するために、任意の沈殿処理にさらに適用することができる。原排水に由来する処理された排水は、カソード槽に加えられる、曝気された排水として利用可能である場合がある。したがって、使用される装置は、入口を介して曝気槽に接続されていることができる。この接続により、アノード槽において処理された原排水を曝気槽に流入させ、曝気槽において曝気されることにより、処理された原排水を曝気された排水に変換させ、曝気された排水をカソード槽に流入させることが可能となる。
硝化細菌は、無機窒素化合物の酸化によりエネルギーを得る。硝化細菌は、独立栄養細菌である場合があり、例えば、Nitrosomonas、Nitrosococcus、Nitrobacter、Nitrospina、Nitrospira及びNitrococcusの属の種を含むが、これらに限定されない。
【0033】
電位を調整するための手段としてポテンショスタットを使用する場合、カソードは、工程2において、おおよそ又は平均で、-0.1~-1V、好ましくは、-0.2~-0.8V、より好ましくは、-0.4~-0.6V対(Ag/AgCl)で釣り合わせることができる。この電位により、カソード上の脱窒細菌の集積を高めることができる。
【0034】
アノード槽及びカソード槽内の細菌が、嫌気性細菌である場合、少なくとも工程2)を嫌気性条件で行うことができる。さらに、この方法を周囲温度(すなわち、10~35℃、好ましくは、20~30℃又はより好ましくは、22~28℃又は約25℃)で行うことができる。
【0035】
原排水に加えて、生きた細菌(発電細菌、硝化細菌及び脱窒細菌を含有するが、これらに限定されない)を含む活性汚泥を、アノード槽に、アノード槽の0%~60%の容量で、好ましくは、20%~25%の容量で加えることができる。
曝気された排水に加えて、生きた細菌(発電細菌、硝化細菌及び脱窒細菌を含有するが、これらに限定されない)を含む活性汚泥を、カソード槽に、カソード槽の0%~60%の容量で、好ましくは、20%~25%の容量で加えることができる。
活性汚泥を工程2)の前に加えることができる。活性汚泥を、排水を加える前に、排水を加えるのと同時に又は排水を加えた後に加えることができる。
【0036】
上記方法は、窒素当量として合計100mg/L以下、50mg/L以下又は10mg以下のNO 及びNO を含む、工程2後の曝気された排水を提供することができる。
上記方法は、100mg/L~1000mg/L又は1000mg/L以上 COD値まで除去された有機化合物を含む、工程2後の原排水を提供することができる。
【0037】
リンの重量で、曝気された排水中に存在するリン酸態リンの30%超、40%超、50%超又は60%超が工程2)により除去されるように、上記方法を行うことができる。
【実施例0038】
本発明は、下記実施例においてより詳細に記載されるであろう。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。本明細書におけるこれらの実施例において、市販のキット及び試薬を使用した実験を特に断りない限り、添付のプロトコールに従って行った。ここで、本発明は、下記非限定的な実施例により実証されるであろう。
【0039】
実施例1
材料及び方法
1.BESの設計及び構築
2槽式BESを、透明ポリアクリルシートを使用して作製した。細菌増殖のための広い表面積を提供するために、直径3.5mm、長さ10cmのステンレス鋼ワイヤ(Hengshui Chiehwang Industry and Trade Co, China)の2つの断片を含有する、2.5cm当たりに密度800Kチップの炭素繊維ZOLTEK Panex 35を含む2つの炭素ブラシ電極を、アノード及びカソードの両方に使用した。最初の使用前に、ブラシをアセトンに一晩浸漬し、マッフル炉中において、450℃で30分間加熱し(Feng et al., 2010)、蒸留水で3回洗浄した。アノード電極とカソード電極との間の距離を2cmとした。Nafion(商標)117(Dupont, USA)膜をアノード槽とカソード槽との間のカチオン交換膜(CEM)として使用し、AMI-7001(Membranes International Inc, USA)をアニオン交換膜(AEM)として使用した。2つの膜のフレームを、48cm2の表面積で設置した。電極を、チタンワイヤを使用して、ポテンショスタット(Uniscan PG580RM)に接続した。全ての実験を3電極設定又は開回路電位で行った。カソード区画及びアノード区画をそれぞれ1Lとした。このシステムを25℃の制御された温度下で運転させた。
【0040】
2.接種、集積及びシステムの運転
養豚排水(原排水及び曝気された排水)及び曝気槽からの活性汚泥の両方を沖縄県畜産研究センター(日本)から入手した。アノード槽及びカソード槽の両方に、排水流に対する1:3の初期比で活性汚泥を接種した。接種後に、アノード槽に、薄めていない(full-strength)養豚原排水を充填し、一方、カソード槽に、曝気処理後の排水を充填した。BESにおける処理後の同じ排水と比較した2種類の排水の化学組成を表1に示す。BESに供給する前に、排水を、1mmの孔径を有するメッシュを通過させて、残存する汚泥粒子を除去した。アノード槽に使用された排水についての平均初期pHは、6.86±0.26であり、伝導率は、263±28μScm-1であった。カソード槽に使用された曝気後の排水についての平均初期pHは、7.96±0.34で、伝導率は、315.5±8.5μScm-1であった。カソード槽に使用される排水の硝酸性窒素レベルを硝酸ナトリウムにより、300mg L-1に調整した。全ての実験の間、両方の槽を嫌気性条件下で維持し、フェッドバッチモードで運転した。
【0041】
3.BES運転
全ての実験を3電極設定又は開回路電位で行った。この場合、カソードをクロノアンペロメトリーで制御された作用電極として使用し、Ag/AgCl電極を参照電極として使用した(0.197V対標準的な水素電極であるRadiometer XR300 Reference Electrode, Hach)。接種後、BESを開回路電位(OCP)下でプレインキュベーションして、細菌バイオフィルムを環境に順応させた。実施例で試験された実験運転の3つの段階の概要を表2に示す。
ステージIにおいて、硝酸イオン除去及び得られた最終生成物を下記条件下で評価した:異なる印加されたカソード電位(-0.2V、-0.4V及び-0.6V対Ag/AgCl参照電極)、開回路電位(OCP)、及び接種を行わない、-0.6Vの印加電位のリアクター、及び電極を備えないリアクター。ステージII及びIIIにおいて、BESを-0.6Vの印加電位下及びOCPモード下で運転させた。全てのBESをデュプリケートで運転させた。ステージIIIにおける実験のために、BESを180日間運転させて、その性能を調べ、微生物群が経時的にどのように適応したかを分析した。開回路(OCP)モード中の細胞電圧をデータロガー(GRAPHTEC Midi Logger GL240)でモニターした。クーロン効率は、下記等式:
【数1】

[式中、Fは、ファラデー定数(F=96485Cmol-1e-)であり、Vは、カソードの液体容量であり、nは、この反応に費やされた電子の数(脱窒プロセスのために5つのe)を表わし、ΔNOは、どれだけ硝酸性窒素(NO -N)が消費されたかを示す(mmol N L-1 h-1)]
に基づいて計算した。
【0042】
4.化学分析
HACH試験キット(USA)を使用して、化学的酸素要求量(COD)、揮発性脂肪酸(VFA)、アンモニウム(NH -N)、硝酸イオン(NO -N)及び亜硝酸イオン(NO -N)の濃度を分析した。測定前(CODを除く)の全てのサンプルを、0.45μmフィルターを通してろ過した。pH及び伝導率をpHメーター(LAQUAtwin-pH-33、Horiba scientific, Japan)及びECメーター(LAQUAtwin-EC-33、Horiba scientific, Japan)で測定した。
液相中のNOを、PLOTカラム粒子トラップ(0.25mm×2.5m、GL Science, Tokyo, Japan)及びRT-Q-BOND分離カラム(0.25mm×30m、8μm、RESTEK, PA, USA)を備えたガスクロマトグラフィー質量分析法(PEGASUS 4D GCxGC-TOFMS、LECO, MI, USA)を使用して分析した。
浮遊物質(SS)を水質汚濁防止法(日本)付表9の環境基準に従って測定した。
【0043】
5.微生物学的分析
バイオフィルムサンプルを、ステージIにおける7日後及びステージIIIにおけるサイクル#45、180日後、微生物群集が安定化した時点で、両方のカソード電極から収集した。ゲノムDNAを、Maxwell RSC DNAキット(Promega, USA)を使用して、固体サンプルから抽出した。RNAを、Maxwell RSC RNAキット(Promega, USA)を使用して抽出した。抽出されたDNA及びRNAの品質を、4200 TapeStation(Agilent, USA)を使用して分析した。DNAショットガン配列決定のために、NEBNext Ultra(商標)II FS DNA Library Prep Kit for Illuminaを使用し、配列決定をNovaSeq6000(Illumina)で行った。リボソームRNA除去のために、Ribo-Zero rRNA除去キット(Bacteria)を使用した。ライブラリを、NEBNext Ultra II Directional RNA Library Prep Kit for Illuminaを使用して調製し、配列決定をNovaSeq6000及びHiSeq2500 Rapid(Illumina)で行った。大腸菌群を、日本工業規格K350-20-10:2001の方法に従って計数した。
走査型電子顕微鏡法(SEM)分析のために、バイオフィルムを有するカソード電極の小片をBESから採取し、0.1M カコジラートバッファー(pH7.4)中の2.5%(w/v) グルタルアルデヒドに浸漬した。その後、サンプルを洗浄し、エタノール系列で順次脱水した。固定されたサンプルを臨界点乾燥機で乾燥させ、金層でスパッタリングした。被覆されたサンプルを15kVでのSEM(JEOL JSM‐7900F)により調べ、画像をデジタルでキャプチャした。
【0044】
6.配列決定及びデータ分析
組み合わせた分類学的ドメイン情報分析をMG-RAST(Meta Genome Rapid Annotation using Subsystem Technology)サーバにより、下記条件下で行った:分類学的ドメインフィルタを、細菌及び古細菌に設定し、%同一性を90%に設定し、長さを50に設定した;他の全てのパラメータをデフォルト値として設定した。
ゲノム存在量を示すバープロット及びヒートマップをR(R Core Team, 2013)内のggplot2パッケージ(Wickham, 2016)を使用して生成した。プロットについてのデータを、MG-RAST内のRefSeqデータベースを使用してtsvファイルとしてエクスポートした。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
結果
1.同時処理のための脱窒BESの全体的性能
1.1 異なる電気化学的条件下でのBESにおけるバイオカソード脱窒(ステージI)
2LのバイオカソードBESを、アノード槽において高レベルの有機物及び揮発性脂肪酸を含有する、薄めていない原排水を処理し、かつカソード槽において曝気後の処理された排水を処理するように構築した。カソード槽において、BODが、10mg L-1未満であった場合においても、硝酸イオンは、カソードの微生物群を介した脱窒により、亜硝酸イオン、亜酸化窒素及び窒素ガスに還元された。
ステージIから、硝酸イオン除去速度に対するカソードでの印加電位の重要性が実証された。印加電位が7日間の実験期間中のフェッドバッチモードでのNO -N除去に及ぼす影響を図1Aに示す。300mg L-1の初期NO -N濃度を現地の農場での最高値に基づいて設定した。この初期濃度は、-0.6Vの印加電位下でのBESにおいて、7日後にほぼ完全に除去され、除去されたNO -Nの量は、282±12mg L-1であった。-0.6Vの印加されたカソード電位は、-0.4V及び-0.2Vと比較して、最良の除去を示した(-0.4V及び-0.2Vの印加電位下それぞれにおいて、226±21mg L-1 NO -N及び213±19mg L-1 NO -N)。また、OCP下で除去された硝酸イオンの量は、印加電位条件と比較して明らかに低かった(145±13mg L-1 NO -N)。電極なしBES及び接種材料なしBESの他の対照条件も、低い除去能力を示した(それぞれ82±7mg L-1NO -N及び87±11mg L-1 NO -N)。これらの結果は、より速い脱窒のために、印加電位及び接種材料の存在の重要性を示す。これは、これらの条件下での微生物群の集積に起因する可能性が高い。
図1Bに、異なる印加電位(-0.6V、-0.4V及び-0.2V)下でのリアクター中における経時的な電流応答を示す。カソード電流の低下は、活発な電気化学的還元プロセスを示し、以前に報告されたように(Chen et al., 2017)、これにより、電気栄養脱窒細菌の助けを借りて脱窒を進行させることができる。図1A及び図1Bに、硝酸イオン除去とカソード電位との間の明確な相関を示し、より低いカソード電位により、より高い硝酸イオン除去率がもたらされる。この相関は、以前の報告(Yu et al., 2015)と一致する。より多くの硝酸イオンが除去されると、カソード電流が急速に低下するが、この低下は、カソードによる脱窒のために供与された電子の消費を反映したものである。その後のカソード電流の上昇は、フェッドバッチモードで利用可能な硝酸イオンの量が限られているために、硝酸イオン濃度の低下により引き起こされた。硝酸イオン還元のためのカソードクーロン効率は、全ての印加電位条件下で100%を超えた(データを示さず)。これらの高い値は、電子供与体としてBES中の有機基質を使用した従属栄養脱窒も硝酸イオン除去率に寄与する場合があることを示している。
脱窒の中間生成物としての亜硝酸イオンは、実験1日目に検出され、2日目まで増加し、その時点で、集積期間が進むにつれて減少した(図1C)。硝酸イオンの亜硝酸イオンへの還元が、脱窒プロセスがちょうど開始した1日目及び2日目にカソードで起こったことを示している。その後、亜硝酸イオンは、以前の報告(Puig et al., 2011)と一致したカソード微生物群により、次の脱窒段階、すなわち、NO、NOからNに生物電気化学的に還元された。さらに、1日目及び2日目に、アノード槽から膜を通ってカソード槽へアンモニア流入が検出された(図1D)。アンモニアは、この期間に亜硝酸イオンに酸化される可能性がある(セクション3.4.1を参照のこと)。電気化学的に刺激された条件下では、対照BES(2~12mg L-1 NO -N)と比較して、より高い濃度の亜硝酸イオンが検出され(25~46.7mg L-1 NO -N)これは、印加電位下でのより速い硝酸イオン除去と一致した。GC/MS分析から、強力な温室効果ガスであるNOが低濃度でのみ検出されたことが明らかとなった(データを示さず)。これは、脱窒サイクルが窒素の放出で完了した可能性が高いことを示唆している。
BESにおける脱窒反応によるプロトンの消費は、pH8.0へのアルカリ度の上昇の原因である可能性が高い。このpHは、依然として従来の脱窒に最適なpH範囲内である(Sun et al., 2020)。
一般的には、これらの結果は、電子の制御された送達による原排水の同時処理と組み合わせられた、曝気された排水を使用するバイオカソード脱窒システムの潜在的な利点を示す。さらに、本研究から、接種材料として汚泥を使用することの重要性が示されている。以前の研究では、Khilyas et al.(Khilyas et al., 2017)は、養豚排水を処理するための接種材料として異なる種類の汚泥を比較し、同じ曝気槽から採取された汚泥がビール工場処理汚泥より微生物燃料電池アノード接種材料として良好に機能することを見出した。加えて、高電子利用効率、低汚泥産生及び容易な取扱いは全て、大規模リアクターのための畜産の排水を使用した硝酸イオン除去に有望な特徴である。
【0049】
1.2.アノード槽における養豚原排水の処理
これらの実験の間、アノード槽におけるCOD及びVFAの除去を絶えずモニターした(表3)。印加されたカソード電位及びOCPモードの条件下では、COD消費率は類似しており(約0.87±0.07g COD L-1 d-1)、初日に、1.62g L-1 d-1±0.03g L-1d-1の最高除去であった。これらの条件下での総平均効率は、58.5±2.6%であり、最高は、-0.4V(61.4±0.5%)で達成されたが、印加電位下及びOCPモード下では、BES内で統計的差異はなかった(データを示さず)。これは、カソードに印加された電位がこのシステムにおけるアノード槽内でのCOD除去率に顕著には影響しないことを示す可能性がある。1.6±0.7g COD L-1 d-1及び2.1±0.5g COD L-1 d-1の類似するCOD除去率が、以前に報告されている(Vilajeliu-Pons et al., 2017)。この報告では、養豚の糞尿は、連続モードで6積層微生物燃料電池(MFC)において処理された。これらの結果は、脱窒BESが有機物を処理するために特別に設計されるMFCと同様の処理速度を達成することができたことを示す。一方、-0.6Vの印加電位下で接種材料(汚泥)なしのリアクターでは、COD除去率は、0.53g L-1 d-1±0.21g L-1 d-1であり、効率は、38.5±2.1%であった。この結果は、初期細菌接種材料としての曝気槽からの汚泥の重要性を示し、微生物群の迅速な集積に寄与した。
最良のVFA除去は、-0.2V及び-0.4Vの印加電位で検出され、それぞれ41.5±8.3%及び39.7±6.2%の効率であった。486±18.5mg VFA L-1 d-1の最高除去率が、-0.2Vで行われた。これは、発電菌群の活性は、カソードに-0.2Vを印加された時に最大に達したことを示す。この場合に、BESのセル電圧が、0.13±0.05Vで安定化したためである(データを示さず)。これは、アノード電位が0.33±0.05Vであったことを意味する。アノード電位が、0.2V対Ag/AgCl参照電極より高い時、発電菌群は、最高電子伝達率で動作し、より高い割合のVFA除去をもたらすことが以前に示された(Prokhorova et al., 2017)。他の試験された条件下では、アノードにおける電位は、0.2Vの値を超えなかった。
アノード槽におけるBES処理後の排水の水質をさらに調査するために、水の病原性又は糞便汚染の指標として通常使用される大腸菌群細菌試験を行った。7日間の実験運転の後、大腸菌群密度の1000倍超の低下が確認された(データを示さず)。これは、BESにおける処理により、排水中の病原性細菌を抑制することができたことを示唆している。これは、BESがEnterobacteriaceae(Shigella、Yersinia、Vibrio)が濃縮された排水を消毒することができたという以前の知見(Vasieva et al., 2019)と一致している。アノードにおける異なる電位が、大腸菌群密度の低下に影響を及ぼすかどうかを理解するには、更なる実験が必要である。さらに、浮遊物質(SS)濃度も、89%の効率で排水から除去された(表1)。
【0050】
2.BES(ステージII)における硝酸イオン除去の最適化
カチオン交換膜(CEM)を通るイオン移動の結果として、アノード槽からカソード槽へのアンモニウムの輸送が、最大濃度162.5±7.5mg NH4 +-N L-1で検出された(図1D)。アンモニウムの蓄積により、カソード槽における全窒素濃度が上昇した。この制限因子を克服するために、CEMを、実験運転のステージIIにおいて、アニオン交換膜(AEM)で置き換えた。300mg L-1 NO -Nの初期総量は、AEMリアクターにおいて、5日以内に完全に除去された(最大99±2mg NO3 --N L-1 d-1)。一方、CEMリアクターにおいて、-0.6Vが印加された時、約8~9日かかった(最大34mg L-1 d-1±7mg L-1 d-1)(図2A)。
全体として、AEMを有するBESは、アノード槽において、より良好な有機物除去も達成した(0.8g COD L-1 d-1)。この場合、無視できる量の硝酸イオン(約1.1mg NO3 --N L-1)のみが検出された。これは、わずかな量の拡散しか起こらなかった場合があるか又はAEMを通って移動した硝酸イオンがアノード槽中の脱窒細菌により、窒素ガスに還元されたかのいずれかを示した。これは、養豚排水に基づく以前の研究(Vilajeliu-Pons et al. 2015)と一致している。実験運転のステージIIにおいて、アンモニウムのわずかな増加のみが、カソード槽において観察された(約3.8mg L-1±2.2mg NH4 +-N L-1d-1)。
【0051】
3.長期運転(ステージIII)についての適応性
現在、実際の畜産排水を使用した電気栄養脱窒細菌の長期適応性及び経時的な脱窒効率については、ほとんど知られていない。本研究のステージIIIにおいて、脱窒細菌の安定性及び集積に焦点を当てた長期脱窒を調査した。AEMを有するBESを45サイクル運転した。各サイクルは、3日の滞留時間(HRT)とした。奇数サイクルごとに、排水を両方の槽において変えた(アノードに、未処理の排水を充填し、カソードに、曝気された排水を充填した)。偶数サイクルごとに、カソード槽のみに、新たなバッチの曝気された排水を充填した。BESを-0.6Vの印加電位及び対照として使用されたOCPモードで運転させた。最初の10サイクルまでは、高い硝酸イオン除去率:90mg L-1 d-1(印加電位条件下)が実証された。アニオン交換膜による硝酸イオンの吸収が確認されたため(データを示さず)、初期の高い除去率は、脱窒プロセスと共に膜吸収によるものであったかもしれない。10サイクル後、硝酸イオン除去率は、60mg NO3 --N L-1d-1の平均値で安定化した(最高値は、78mg NO3 --N L-1 d-1であった)。これらの結果は、以前の調査(Gregoire et al., 2014;Tang et al., 2017)と比較して、長期実行中の硝酸イオン除去効率の上昇を示す。一旦安定化されると、各奇数サイクル(アノード排水及びカソード排水の両方を変えた)と偶数サイクル(カソード排水のみを変え、アノード槽において、より少ない有機物で運転させた)の除去効率を比較した(図3)。3日間に減少した硝酸イオンの平均値は、偶数サイクル(-0.6Vの電位下での177.2±58mg L-1及びOCP下での133.8±56mg L-1)と比較して、奇数サイクル(-0.6Vの電位下での198±51mg L-1及びOCP下での160±42mg L-1)で顕著に高かった。これは、より速い硝酸イオン除去のためには、電子源としてのアノード有機物の重要性を示した。
さらに、硝酸イオン濃度の顕著な低下は、明確な電流消費と一致した(図4)。初期サイクルでの電流は、排水を変えた後、1日目により高いピーク値を有する傾向があり、ついで、硝酸イオンが減少するのにつれて、徐々に低下した(図4A図4B)。より長い運転時間後、排水の変化にかかわらず、電流は安定した(図4C)。この効果は、カソードにより供給される脱窒細菌による電子の急速な消費に起因する可能性がある。
まとめると、これらの結果から、実排水を使用したAEMを有するBESにおけるカソード脱窒は、非常に有望な除去率を有することが示唆される。長期実験運転により、良好な電気化学的活性を示す所望の脱窒細菌の増殖が促進され、より高い硝酸イオン減少率が観察された。
養豚場の大規模化を容易にするために、より低コストの構成要素、より低い保守要求及び長期運転にわたる適切な微生物群の安定性を有するリアクターを開発中である。
【0052】
4.細菌群の構造
CEMを使用したステージIでの実験(-0.6V及び-0.2Vの印加電位下、OCP下並びに電極なし)及びAEMを使用したステージIIIでの実験(6か月にわたる運転後の-0.6Vの印加電位下及びOCPモード下)からのカソードを占める微生物群の分類学的組成を、ショットガンメタゲノム配列決定アプローチを使用して、活性汚泥からの元の微生物群と比較して評価した(図5)。ステージIにおいて、異なる電気化学的条件がカソード微生物群に及ぼす影響を調べた。ステージIIIの後半では、主な目的は、6か月後のカソード上での確立された電気栄養及び脱窒微生物群の適応を調査することであった。各条件下で約800,000の配列を得た。1%超の相対的存在量の属は、コア群を構成すると考えられた。サンプルの分類学的分布を、属から種までのレベルで分析した。
【0053】
4.1.異なる電気化学的条件下での微生物群の比較分析
接種材料としての活性汚泥は、初期の細菌群を表わし、Comamonadaceae科のAcidovorax spp.(10.3%)及びMycobacteriaceae科のMycobacterium spp.(5.9%)と共に、Zoogloeaceae科のThauera(31.7%)及びAzoarcus(4.3%)が主に優勢であった。以前に、2つの特定の科、Zoogloeaceae及びComamonadaceaeが、活性汚泥中で、主に脱窒プロセスに関与していると特定された(Khan et al., 2002)。また、Thauera及びAzoarcusは、活性汚泥中の全生存細菌の16%程度を占めることが示された(Juretschko et al., 2002)。
BESの運転中に、細菌群集は、従属栄養嫌気性菌優勢群から、従属栄養生物と独立栄養生物との両方を含む多様な代謝経路を有する嫌気性菌群に変化した。ステージIの実験からのサンプルにおいて、微生物の多様性及びそれらの機能は、適用された電気化学的条件に応じて変化した。-0.6Vの印加電位による条件下で、分類学的分布の顕著な変化が観察され、この条件により、最速の脱窒が記録された。最も豊富な細菌は、Pseudomonas属(21.7%)に属した。これは、種々の脱窒及び電子生成細菌を含有することを表わす(Deng et al., 2020;Vo et al., 2020)。また、Deng et al.(2020)には、MFC-顆粒汚泥カップリングシステムにおいて、脱窒は、主に、非常に優勢なPseudomonas(14.79%)及びThauera spp.(26.21%)により行われたことが示された。Thaueraは、OCPモード(22.6%)及び-0.2Vの電位(26.6%)下のリアクターでは、活性汚泥サンプル中で最も多い相対存在量を有したが、それらの存在量は、-0.6Vの電位下で9.8%に減少した。これは、電子受容体として硝酸イオン及び亜硝酸イオンを使用することができる従属栄養通性嫌気性かつ偏性呼吸性細菌である(Deng et al., 2020;Yang et al., 2019)。
従属栄養のThaueraが優勢であるのに代わって、微生物群は、電極から電子を受容する潜在的能力を有する独立栄養脱窒細菌属であるSideroxydans(9.9%)及びGalionella(8.6%)でさらに集積された。両方とも、CO固定のための経路及び低OレベルでのFe(II)での成長のための電子輸送経路を含む、化学独立栄養に適応している(Emerson et al., 2013)。細胞外Fe(II)を酸化する能力は、特定の線毛構造及びシトクロムセットに基づいている。これらにより、これらの細菌がカソードから電子を受け取り、電子を硝酸イオンに輸送することが可能となる(Emerson et al., 2013)。これらの細菌間の主な違いは、還元されたS-化合物上で成長し、窒素を固定するSideroxydansの能力を含む。一方、Galionellaは、一般的に重金属の存在(Fabisch et al., 2013)があるであろう畜産の排水処理環境(Irshad et al., 2013)において重金属に耐性である。興味深いことに、Sideroxydansの亜硝酸レダクターゼ/一酸化窒素レダクターゼオペロンは、Acidovoraxのオペロンとほぼ同一である。以前の研究により、一部のAcidovorax spp.は、無機電子供与体、例えば、Fe(II)を使用した脱窒により増殖することができることが確認されていた(Chakraborty et al., 2011;Park et al., 2017)が、本発明者らの分類学的組成分析から、-0.6Vの印加電位を有するリアクターにおいて、Acidovoraxの存在量が、8.4%に減少することが明らかとなった。これは、優勢なPseudomonas sppによるそれらの抑制に起因する可能性がある。
-0.2Vの印加電位下では、コア微生物群は、Thauera(26.6%)、Nitrosomonas(12.4%)、Thiobacillus(12%)、Acidovorax(9.8%)及びPseudomonas(8.9%)により占められた。これらは全て、窒素サイクルに関与する。Nitrosomonasは、電気化学的に活性であり、カソード電極から電子を受容することが可能な(Wang et al., 2013)最も周知のアンモニア酸化細菌である(Holmes et al., 2004)。CEMを使用したこの研究では、アノード槽からカソード槽へアンモニウム流入が観測され(図1D)、窒素ガスへのアンモニウムの変換を支持するNitrosomonasの活発な増殖のための理想的な条件を作り出した可能性がある。
OCPモードにおいて、コア微生物群は、元の接種材料の微生物群と密接に関連したままであった。この場合、最も優勢な属は、Thauera(22.6%)、Acidovorax(11%)及びAzoarcus(5.6%)であったが、非常に豊富なGeobacter(19.9%)も有した。以前に1000Ωの外部抵抗を有する単一槽のエアカソードシステムの長期試験において電子生成性Geobacter(6.5%)及び脱窒Thauera(59.9%)の効果的な共存について報告されている(Huang et al., 2019)。ただし、この栄養共生関係は、未だ研究中であり、更なる調査が必要である。本研究では、Geobacterが任意の他の条件よりOCPモード下で豊富であったことが観察された。これらの結果は、OCP条件が第二鉄還元プロセスに関連している可能性があることを示唆している。
上記の全てから、バイオカソードの表面上に発達し調査したバイオフィルムは、非常に多様な微生物群からなり、そこでは、反対の機能を有する微生物(例えば、Fe3還元微生物/Fe2酸化微生物)が共存し、補完的プロセス上で相互作用している可能性があることが示される。種の多様性と生態系の機能との間の関係は、数十年にわたって議論されてきたが、より大きな多様性により、微生物群の機能的生産性及び安定性が高まるというコンセンサスが生まれつつある(Tilman et al., 2014)。-0.6Vでのリアクターにおける電気栄養脱窒細菌の全体的な多様性の向上は、同等の集積を有する細菌脱窒群における生態系機能及び安定性の向上に関連し、これにより、硝酸イオン除去のためのBES性能が改善される。
【0054】
4.2.長期適応後のカソード微生物群
フェドバッチモードで行われた長期運転中に微生物群がどのように変化したかを調査することは興味深かった。ステージIIIにおいて、6か月にわたる-0.6Vの印加電位及びOCPモード下でのカソード上の微生物群の適応を調べた。本発明者らの知る限り、本研究は、長期運転で実際の排水を使用したフェッドバッチシステムにおける事前に増殖した脱窒バイオフィルムを調査する最初の研究である。カソードにおける-0.6Vの印加電位下での6か月後の微生物群は、主に、Thiobacillus(60.7%)により集積された(図5)。これらの細菌は、電子供与体として硫化鉄(FeS)からのSを利用し、電子受容体として酸素を利用する。この場合、Sはスルファート(SO 2-)に酸化される。この属の一部の種は、Fe2+を酸化し、硝酸イオンを電子受容体として使用することができる(Straub et al., 1996)。Thiobacillus denitrificansは、固体電極を唯一の電子供与体として直接利用することができ、脱窒を促進するためにカソード上で集積することが可能な電気活性脱窒細菌として報告されている(Pous et al., 2014;Yu et al., 2015)。また、カソードバイオフィルムは、事前に集積された接種材料を使用したBESにおいて、Thiobacillus(75~80%)が優性であったことも以前に報告された(Pous et al., 2014)。これらの結果から、排水を使用した効率的かつ連続的な脱窒プロセスのためのThiobacillus及び電極上に堅牢かつ安定なバイオフィルムを作り出すその能力の重要性が示される。
OCPモード下では、主な寄与因子は、下記細菌:Thauera spp.(14.3%)、Nitrospira(13.7%)、Mycobacterium(10.6%)及びAcidovorax(8.2%)間で均一に分布していた。興味深いことに、Acidovorax(3.9%)、Mycobacterium(2.9%)及びNitrospira(2.7%)が、-0.6V下でのリアクターにおいて、Thiobacillusの次に豊富であることも見出された。Mycobacteriumは、ほ乳類及びヒトにおいて重篤な疾患を引き起こすことが公知の病原体を含む。この属は、以前に、独立栄養微生物脱窒中に見出された(Broman et al., 2017)。それらの存在量の減少は、Vasieva et al.により以前に報告されたように(Vasieva et al., 2019)、BESの殺菌能力に関連する可能性が高いが、依然として更なる調査が必要である。Nitrospiraは、好気性化学独立栄養性亜硝酸イオン酸化細菌として、硝化において重要な役割を果たすことが公知である(Mehrani et al., 2020)。これらの結果から、このような細菌が、長期処理中に物理的に安定かつ生物学的に活性なバイオフィルムを発達させることが可能であることが示されたが、電気的に刺激された環境下では、それらは、電極表面上の電子の主な消費者としてのThiobacillusにより打ち負かされる。
【0055】
4.3.種レベルでのカソード微生物群
種レベルでの分類学的分布をさらに分析し、上位30種を選択し、対数スケールのヒートマップを作成した(図5B)。短期実験(ステージI)において、2種のPseudomonas:P. putida及びP. aeruginosaが、-0.6Vの電位下で最も豊富に見出された。両方とも、病原性細菌であり、非常に密接に関連している。ただし、嫌気性条件下でのP. aeruginosaは、亜硝酸イオンの過剰産生を伴う完全な脱窒を行うことができ(Arat et al., 2015)、一方、重金属抵抗性のP. putidaは、硝化と好気的脱窒とを同時に達成することができる(Zhang et al., 2019)。
アンモニアを亜硝酸イオンに酸化し、主な炭素源としてCOを同化する、化学独立栄養細菌であるNitrosospira multiformisが、主に、CEMを有した、カソード槽へのアンモニウム流束が検出されたBESで見出された。P. aeruginosa及びN. multiformisが-0.6Vで豊富に存在することにより、他の条件と比較してNO の濃度が高いことを説明することができる。属レベルでの分析と一致して、2つの最も豊富な独立栄養性脱窒菌(Gallionella及びSyderoxydans)は、Gallionella capsiferriformans及びSideroxydans lithotrophicusと特定された。別の公知の脱窒菌であるDechloromonas aromaticaは、塩又はストレス条件下においてNO産生を促進することが可能である(Han et al., 2019)。長期実験(ステージIII)において、Thiobacillus denitrificansは、最も豊富な株であり、属レベルでの研究と一致している。パートナーの増殖を阻害する能力について公知(Li et al., 2013)のSorangium cellulosumのような細菌の増殖が、長期運転下で低下したことに注目することは興味深い。
SEM分析を使用して、-0.6Vでのカソード上の集積バイオフィルムの微生物組成構造を可視化した(補足資料)。
【0056】
5.カソードバイオフィルムにおける窒素代謝の分析
各バイオリアクターにおける更なる窒素サイクル関連プロセスである脱窒、硝化、アンモニア化及び窒素固定を分析した。全体的に、脱窒は、4つのプロセスの中で最も高いヒットを有した。ステージIの間の脱窒遺伝子の発現を実証するために、メタトランスクリプトームを、-0.6Vの印加電位下及び対照としてのOCPモード下でのサンプルから分析した。6つの代表的遺伝子である硝酸レダクターゼのnapAB及びnarGHI、亜硝酸レダクターゼのnirS及びnirK、一酸化窒素レダクターゼのnorBC並びに亜酸化窒素レダクターゼのnosZの発現を調査して、脱窒プロセスの各段階に関与する細菌種を分析した(図6)。高い微生物多様性を考慮して、全コピーの3%を上回る遺伝子存在量のみを計数した。異なる電気化学的条件に応じて、脱窒プロセスの各段階に関与する細菌は変化した。2種類の硝酸レダクターゼであるレスパラトリ型(NarGHI)及びペリプラズム型(NapAB)の中で、ペリプラズム型硝酸レダクターゼが、種当たりの総読み取り数を占めた。
Thauera sp. MZ1Tに最も密接に関連する株における高存在量のnapAB遺伝子は、印加された電位条件下でのみ発現された(15.5%)。一方、Azoarcus sp. BH72(19.4%対OCPモードにおける6.7%)及びBordetella petrii(12.4%対OCPモードにおける6.7%)が、両方の条件下で存在することが見出されたが、-0.6Vでは明らかに豊富であった。これらの結果から、脱窒の第一段階を電気栄養的に進める能力が示される。レスパラトリ硝酸レダクターゼ(NarGHI)について、Aromatoleum aromaticumは、印加された電位下で最も優勢な種であった(39%)。A. aromaticum及びT. denitrificansは両方とも、脱窒プロセスの全ての中間体を還元する酵素を有するが、幾つかの条件下での本研究では、これらの系統の存在量は3%を下回った。Thauera sp.、Acidovorax sp.、Alicycliphilus denitrificans及びDechloromonas aromaticaも、完全な脱窒に必要な全ての遺伝子を有し、本研究において、印加された電位条件下での高存在量として捕捉された。
二つの構造的に異なる亜硝酸レダクターゼが、脱窒菌の中から見出されるが、それらは両方とも、同じ細胞では決して発現されない(Zumft, 1997):一方は、nirK遺伝子によりコードされる銅(Cu-Nir)を含有し、一方は、nirS遺伝子によりコードされるヘムc及びヘムd1(cd1-Nir)を含有する。T. denitrificans及びBurkholderia pseudomalleiは、-0.6VでのサンプルにおけるnirSK遺伝子の2つの主な供給源であるが、A. aromaticum及びThauera sp.は、OCPモードの下で優勢であった。一方、P. putida(4%)及びS. lithotrophicus(6.1%)に含まれるnirSK遺伝子の存在量は、印加された電位条件でのみ特定された。これは、-0.6VでのBESにおける微生物群がこれらの独立栄養細菌により占められたセクション3.4.1における以前の知見と一致している。また、OCP条件下でのThaueraの優勢性を、トランスクリプトームレベルで証明した:亜硝酸レダクターゼ(nirSK)、一酸化窒素レダクターゼ(norBC)及び亜酸化窒素レダクターゼ(nosZ)の発現は、Thauera sp. MZ1Tに密接に関連する種により明らかに占められた。
一酸化窒素レダクターゼは、2つのサブユニット、NorC及びNorBを有する。ここで、c型シトクロムとしてのNorCは、ペリプラズム供与体から電子を受け取り、それらを2つのb型ヘム及び非ヘム鉄を含有するNorBに渡す(Vaccaro et al., 2015)。下記種:Maribacter sp. HTCC2170(10.3%)、Methylococcus capsulatus(8.1%)、Roseobacter denitrificans(3.7%)及びDechloromonas aromatica(3.7%)に密接に関連する、電気栄養脱窒菌の可能性のある種が、-0.6VでのBESにおけるこの脱窒段階において特定された。ただし、これら集積された電気栄養細菌の可能性のある菌の更なる調査が必要である。一方、OCPモード下では、norBCは、主に、Thauera sp.(20.9%対印加電位下における5.9%)及びT. denitrificans(14%対印加電位下における11%)により示された。脱窒の最終段階は、可溶性ペリプラズムCu含有NOレダクターゼnosZの触媒作用により完了する。注目すべきことに、norBC及びnosZ遺伝子を有する細菌組成は、印加電位及びOCP下でのサンプル中において非常に多様である。これは、このような条件が脱窒プロセスの最後の2段階に寄与することを示している。
【0057】
本出願の一実施態様では、高硝酸イオンレベル及び低有機炭素下にある曝気された養豚排水を使用する生物電気化学システム(BES)のカソード槽における硝酸イオン除去の向上を、窒素と脱窒経路に関与する細菌群との間の関係に焦点を当てて調査した。結果として、AgCl/AgCl参照電極に対する-0.6Vのカソード印加電位下でアニオン交換膜(AEM)を有するBESは、99±2mg L-1 d-1の除去率を示した。さらに、未処理の薄めていない排水からの有機化合物は、7日間にわたって測定された場合、61.4±0.5%の達成効率で、約5gのCOD L-1の初期濃度から、0.46gのCOD L-1 d-1の除去率で、アノード槽において同時に除去された。最大の微生物多様性が、-0.6Vの電位下でのBESにおいて検出された。この多様性は、独立栄養脱窒菌、例えば、Syderoxidans、Gallionela及びThiobacillusを含む。
【0058】
実施例2
56Lのリアクター運転
材料及び方法
1.BES設計、接種及びシステム運転
56Lのリアクターシステム(38Lのカソード槽及び18Lのアノード槽)を構築し、沖縄県畜産研究センターの養豚場及び曝気槽の隣に現場設置した(図8図11)。このシステムでは、アノード槽にて電子源となる高レベル有機物原排水及びカソード槽にて低レベル有機硝酸イオンを含有する曝気された排水(低C/N比(約0.1))の2種類の排水流が、同時に処理される。リアクターは、アニオン交換膜(AMI-7001 Membrane Internationals)により分離された2つのアノード槽と4つのカソード槽とから構成される(図8図9)。各槽に長さ1メートルの電極を設置したことを除いて、実施例1と同じ炭素ブラシ電極を使用した(図9図11)。このリアクターにより、排水の蛇行流が可能となった。各槽に、曝気槽から採取した活性汚泥を、槽容積の25%で接種した。ポテンショスタット(Hokuto HA-151B)を使用して、カソードを-0.4V対Ag/AgClに合わせた。
【0059】
農場から集められ、固体分離された養豚原排水を沈殿タンク#1にポンプで送り込み、そこで、嫌気的に3~5時間貯留した。その後、それを別のポンプにより、沈殿タンク#2に移した。そこから、1日のHRTで、BESにおけるアノード槽#1に送った。アノード槽における処理後、処理された排水を酸化処理及び硝化のために、曝気槽に入れた。曝気槽から、曝気された排水を沈殿タンク#3にポンプで送り込み、そこで、NO -Nを300mg L-1の値に調整した。沈殿タンク#3に貯留された、曝気された排水を、最終処理のために、2日のHRTで、BESにおけるカソード槽にポンプで送り込んだ(図9)。ただし、滞留時間を運転開始後4か月目及び5か月目に1日に変更し、その後、2日のHRTに戻した。サンプルは、両槽から、処理前(流入)及び処理後(流出)に採取した。
【0060】
2.化学分析
COD、アンモニウム(NH -N)、硝酸イオン(NO -N)、亜硝酸イオン(NO -N)の濃度を、HACH試験キット(USA)を使用して分析した。BOD、浮遊物質、全窒素、可溶性リン、全リン及びカルシウムを、水質汚濁法の環境基準(日本)に従って分析した。臭気を臭気センサ(XP-329IIIR, New Cosmos Electric Company, Japan)により測定した。
【0061】
3.結果
56Lのリアクター運転からの結果を図12図14に示す。図14に、BESにより、アノード槽において、BOD、COD、SS、臭気、カソード槽において、NO 、全窒素、可溶性P、全P及びカルシウムの除去が成功したことを示す。平均して、約1g/L BODが、この装置を使用して、原排水から除去された。1g/L BODの除去は、運転コストの50%を低減すると計算され、コスト節減は、主に、より短い曝気時間により可能になる、過剰な汚泥除去及び電力消費の低減に起因する。これは、曝気槽からのCO排出の低減にもつながる。
【0062】
実施例3
外部抵抗を有するBESの運転
実験を図7iに示されたように、-0.4Vに印加されたカソード電位の3電極設定及び図7iiに示されたように、外部抵抗実験(R=500Ω)用の2電極設定において、実施例1に記載されたのと同じ2Lのリアクターを使用して行った。3電極設定では、カソードを、クロノアンペロメトリーにより制御される作用電極として使用し、Ag/AgCl電極を、参照電極として使用した(0.197V対標準的な水素電極であるRadiometer XR300 Reference Electrode, Hach)。外部抵抗実験中のセル電圧を、データロガー(GRAPHTEC Midi Logger GL240)でモニターした。全ての実験は、セパレータとしてAEMを並びにアノード槽において養豚原排水を及びカソード槽において実験の開始時に硝酸イオン濃度の変化をもたらす硝酸イオン調整なしの曝気された排水を使用して行った。接種後、BESを開回路電位(OCP)下でプレインキュベートして、細菌バイオフィルムを環境に順応させた。
図7Eにおいて、Ag/AgClに対する-0.4Vの印加カソード電位中かつ外部抵抗R=500Ωを使用した3日間の実験での硝酸イオン除去を比較する。図7Fに、外部抵抗実験R=500Ω時点でのカソード電位、アノード電位及び電流を示す。図7E及び図7Fは、BESにより、電力供給なしで、NO の除去が成功したことを示す。これは、BESが電池として機能することができることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本出願におけるバイオカソード脱窒BESは、2種類の養豚排水:有機物、臭気及び病原体除去のための原排水並びに硝酸イオン除去のための曝気された排水の処理のための有望な技術である。カソードが-0.6Vに合わせた条件では、独立栄養脱窒細菌の増殖が促進され、同時に、硝酸イオンの除去率が向上した。電気栄養性Syderoxydans lithotrophicus及びGallionella capsiferriformansは、短期運転において優勢種であり、Thiobacillus denitrificansは、長期動作において優勢種であった。
このシステムは、前処理システム(排水から大きな粒子を除去するための連続沈殿タンク)と、BESバイオリアクターへの後続の排水流とを備えることができる。
カソード排水が、リン及びカルシウムを含有する場合、カソード槽において、電気結晶化を介してリンも除去される。この場合、リン酸塩、例えば、リン酸カルシウムは、カソード上に沈殿する。一部の実施態様では、リンの重量で、曝気された排水中に存在するリン酸態リンの30%超、好ましくは、50%超が、カソード槽における処理後に除去される。このシステムは、E. coliを指標として、糞便細菌を減少させることも証明された。
本システムは、最も過酷な排水の1つである養豚排水を使用して動作することができる。嫌気性処理であるため、余分な汚泥を除去する必要がほとんどなく、これは、運転コストの低減につながる。
【0064】
この装置により、アノード槽における高いCODを有する原排水からの化学エネルギーを利用して、カソード槽における曝気された排水中の硝酸イオンを還元することが可能となる。嫌気性条件においてCODを酸化することにより生成された電子は、発電細菌によりアノードに供与され、外部回路を介して電子はカソードに流れ、硝酸イオンをNに還元する脱窒細菌により使用される。この設定により、カソードにおける排水のCODが低い場合であっても、硝酸イオンを還元することが可能となる。カソード槽におけるpHは、硝酸イオンがNに還元されると上昇し、これにより、リン酸塩が沈殿する。
本明細書に記載された高度な排水処理により、嫌気性条件において、アノード槽における原排水中のCODを除去することができ、従来の活性汚泥プロセスより過剰汚泥の発生がはるかに少ない。この装置は、既存の曝気排水設備に追加で設置することができ、これにより、典型的には、処理能力の向上及び運転コストの低減がもたらされる(図10)。すなわち、本発明の装置は、脱窒のために更なる化学物質を添加し又はCOD及び酸素レベルを調整する必要なしに、原排水を処理することにより収集されたエネルギーを使用して、CODが少ない可能性がある曝気された排水を脱窒することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C-7F】
図8
図9
図10
図11
図12
図13A-13B】
図13C-13D】
図14
【外国語明細書】