(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084733
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】固体電池及び固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230613BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230613BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198976
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 明洋
(72)【発明者】
【氏名】浅枝 勉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩光
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AM12
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029DJ15
5H029DJ16
5H029HJ05
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050DA10
5H050DA13
5H050FA16
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】電極層内に含める導電助剤及び活物質を十分に機能させることのできる固体電池を実現する。
【解決手段】電極層60は、固体電池の正極層及び負極層の少なくとも一方に用いられる。電極層60は、固体電解質63と、固体電解質63内に導電助剤として設けられた導電繊維61群と、導電繊維61群の各々の周囲表面に集中して設けられた活物質62とを含む。電極層60では、その機能の発現に寄与する導電繊維61及び活物質62、即ち、互いに接触して電子伝導パスを形成し且つ活物質62と接触する導電繊維61、及び導電繊維61と接触し且つ固体電解質63と接触する活物質62が、電極層60内に含められる導電繊維61及び活物質62の量に対し、高率で存在する構造になる。これにより、電極層60内に含める導電繊維61及び活物質62を、無駄を抑えて有効に活用し、十分に機能させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、
前記固体電解質内に導電助剤として設けられた導電繊維群と、
前記導電繊維群の各々の周囲表面に集中して設けられた活物質と
を含む電極層を備えることを特徴とする固体電池。
【請求項2】
前記導電繊維群は、互いに接触する複数の導電繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記活物質は、前記導電繊維群の各々を覆うように前記周囲表面に集中して設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記活物質は、前記導電繊維群及び前記固体電解質と接触することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の固体電池。
【請求項5】
前記活物質は、活物質粒子群を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の固体電池。
【請求項6】
前記活物質粒子群の平均粒子径は、前記導電繊維群の平均繊維径よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の固体電池。
【請求項7】
固体電解質と、
前記固体電解質内に導電助剤として設けられた導電繊維群と、
前記導電繊維群の各々の周囲表面に集中して設けられた活物質と
を含む電極層を形成する工程を備えることを特徴とする固体電池の製造方法。
【請求項8】
前記電極層を形成する工程は、
前記導電繊維群の各々の前記周囲表面を覆うように前記活物質を設ける工程と、
前記周囲表面を覆うように前記活物質が設けられた前記導電繊維群を固体電解質内に設ける工程と
を含むことを特徴とする請求項7に記載の固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池及び固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の固体電解質材料を主成分とする固体電解質層の一方の主面に、正極活物質、固体電解質材料、導電剤を含有する正極層を有し、固体電解質層の他方の主面に、負極活物質、固体電解質材料、導電剤を含有する負極層を有する全固体電池が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、固体電解質層を介して設けられる正極及び負極の少なくとも一方を、粒子状の電極活物質の表面に粒子状の固体電解質と粒子状の導電助材とが結合したものとする二次電池が知られている(特許文献2)。このほか、固体電解質及び導電助剤を、活物質にコーティングして製造される全固体電池が知られている(特許文献3)。
【0004】
また、正極層及び負極層とそれらの間の固体電解質層とを含み、正極層が、正極活物質と繊維状炭素とを含み、繊維状炭素が正極活物質に結合している正極材料を含む、全固体電池である二次電池が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-51539号公報
【特許文献2】特開2016-189339号公報
【特許文献3】特開2019-179669号公報
【特許文献4】国際公開第2014/073470号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極層である正極層及び負極層とそれらの間に設けられる固体電解質層とを備える固体電池において、その電極層には、例えば、活物質(正極活物質又は負極活物質)、導電助剤及び固体電解質が含まれる。このような電極層では、互いに接触する導電助剤同士が電子伝導パスを形成し、互いに接触する固体電解質同士がイオン伝導パスを形成し、導電助剤及び固体電解質と接触する活物質が電子とイオンの分解及び結合を行う。
【0007】
ここで、活物質、導電助剤及び固体電解質の各材料を混合することで電極層を形成しようとする場合には、各材料の電極層内での配置がランダムになり易い。そのため、比較的多量の導電助剤及び活物質を含めないと、電子伝導パスの形成や、電子とイオンの分解及び結合といった、電極層の機能を十分に発現させることが難しい。即ち、電極層内に含められる導電助剤及び活物質のうち、一部は電極層の機能の発現に寄与する一方、残りは電極層の機能の発現には十分に寄与しないということが起こり得る。
【0008】
1つの側面では、本発明は、電極層内に含める導電助剤及び活物質を十分に機能させることのできる固体電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様では、固体電解質と、前記固体電解質内に導電助剤として設けられた導電繊維群と、前記導電繊維群の各々の周囲表面に集中して設けられた活物質とを含む電極層を備える固体電池が提供される。
【0010】
また、1つの態様では、上記のような電極層を形成する工程を備える固体電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、電極層内に含める導電助剤及び活物質を十分に機能させることのできる固体電池を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】固体電池の製造方法の一例について説明する図である。
【
図5】活物質を形成した導電繊維の一例のSEM像を示す図である。
【
図6】活物質を形成した導電繊維を固体電解質で被覆した構造の一例のSEM像を示す図(その1)である。
【
図7】活物質を形成した導電繊維を固体電解質で被覆した構造の一例のSEM像を示す図(その2)である。
【
図9】電極層構造体の一例のSEM像及び元素マッピング結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
リチウムイオン二次電池は、装置の小型化や軽量化に大きく寄与し、電気自動車、定置型蓄電設備、携帯情報端末、IoT(Internet of Things)機器、ウェアラブル端末等、用途は拡大している。それに伴い、要求される仕様も多様化しており、高いエネルギー密度、安全性への期待が高まっている。要求に対応するための新しい電池として、電解質に固体電解質を用いる固体電池の開発が進められている。このような固体電池は、可燃性の有機電解液を用いないため、漏液、燃焼、爆発、有毒ガスの発生といった危険性を低減して安全性を高めることが可能で、大気中での取り扱いが容易であり、また、低温及び高温の条件でも性能を維持することが可能である。固体電解質を用いることで、それに対応して、より高電圧で動作する活物質を用いることができるため、高エネルギー密度化等、固体電池の更なる性能向上も期待される。
【0014】
[固体電池]
図1は固体電池の一例について説明する図である。
図1(A)には、固体電池の一例の要部外観斜視図を模式的に示している。
図1(B)には、固体電池の一例の要部断面図を模式的に示している。
図1(B)は
図1(A)の面Q1に沿って切断した断面図の一例である。
【0015】
図1(A)及び
図1(B)に示す固体電池1は、チップ形電池の一例である。固体電池1は、固体電池本体1aと、その両端部にそれぞれ設けられた端子40及び端子50とを有する。
【0016】
固体電池本体1aは、
図1(B)に示すように電解質層30、正極層10(電極層)及び負極層20(電極層)が積層された構造を有する。1組の正極層10と負極層20との間に1層の電解質層30が介在される。最上層の正極層10上、及び最下層の負極層20下には、例えば電解質層30が設けられる。正極層10は、固体電池本体1aの一方の端面から側面の一部が露出するように設けられ、固体電池本体1aの当該一方の端面側に設けられる端子40と接続される。負極層20は、固体電池本体1aの他方の端面から側面の一部が露出するように設けられ、固体電池本体1aの当該他方の端面側に設けられる端子50と接続される。正極層10の側面は、端子40との接続部を除き、正極層10と同じ層内に設けられる例えば電解質層30によって囲まれ、負極層20の側面は、端子50との接続部を除き、負極層20と同じ層内に設けられる例えば電解質層30によって囲まれる。
【0017】
固体電池本体1aの電解質層30は、固体電解質を含む。電解質層30の固体電解質には、例えば、酸化物固体電解質が用いられる。電解質層30の酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON(Na super ionic conductor)型(「ナシコン型」とも称される)の酸化物固体電解質の1種であるLAGPが用いられる。LAGPは、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0<x≦1)で表される酸化物固体電解質である。このほか、電解質層30の固体電解質には、Li2S(硫化リチウム)-P2S5(五硫化二リン)等の硫化物固体電解質が用いられてもよい。
【0018】
固体電池本体1aの正極層10には、正極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。正極層10の固体電解質には、酸化物固体電解質又は硫化物固体電解質、例えば、電解質層30に用いられる固体電解質と同種の材料が用いられる。正極層10の正極活物質には、例えば、Li2CoP2O7(ピロリン酸コバルトリチウム、「LCPO」とも言う)等が用いられる。正極層10の導電助剤には、導電繊維、例えば、カーボンファイバー等の繊維状炭素が用いられる。
【0019】
固体電池本体1aの負極層20には、負極活物質、導電助剤及び固体電解質が含まれる。負極層20の固体電解質には、酸化物固体電解質又は硫化物固体電解質、例えば、電解質層30に用いられる固体電解質と同種の材料が用いられる。負極層20の負極活物質には、例えば、TiO2(酸化チタン)、Nb2O5(五酸化ニオブ)等が用いられる。このほか、負極層20の負極活物質には、Li3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム)等が用いられてもよい。負極層20の導電助剤には、導電繊維、例えば、カーボンファイバー等の繊維状炭素が用いられる。
【0020】
上記のような構成を有する固体電池1は、例えば、次のような方法を用いて製造される。
まず、電解質層30用のペースト又はグリーンシート、正極層10用のペースト又はグリーンシート、及び負極層20用のペースト又はグリーンシートが準備される。電解質層30用のペースト又はグリーンシートには、固体電解質及び有機系のバインダー等の材料が含まれる。正極層10用のペースト又はグリーンシートには、正極活物質、導電助剤、固体電解質及びバインダー等の材料が含まれる。負極層20用のペースト又はグリーンシートには、負極活物質、導電助剤、固体電解質及びバインダー等の材料が含まれる。
【0021】
電解質層30用、正極層10用及び負極層20用の各々のペースト又はグリーンシートが、所定の順序及び配置となるようにスクリーン印刷又は積層され、圧着されて、固体電池本体1aの基本構造となる積層体が形成される。積層体は、その両端部にそれぞれ正極層10及び負極層20が露出するように所定の順序及び配置でスクリーン印刷又は積層されて形成されるか、或いは、所定の順序及び配置でスクリーン印刷又は積層された後に所定の位置で裁断されてその両端部にそれぞれ正極層10及び負極層20が露出するように形成される。
【0022】
積層体の形成後、酸化雰囲気での熱処理が行われ、バインダー等の有機成分が焼き飛ばされ、脱脂が行われる。更に、非酸化性雰囲気での熱処理(焼成)が行われ、電解質層30、正極層10及び負極層20の固体電解質等の焼結が行われる。これにより、
図1(A)及び
図1(B)に示すような固体電池本体1aが形成される。
【0023】
固体電池本体1aの形成後、その両端部に、導電ペーストの焼き付け、更に金属めっき等が行われ、端子40及び端子50が形成される。
このような方法により、電解質層30が正極層10と負極層20との間に介在された構造を有する固体電池本体1aを備え、その両端部に正極層10及び負極層20とそれぞれ接続される端子40及び端子50を備えた、
図1(A)及び
図1(B)に示すような固体電池1が製造される。
【0024】
尚、ここでは、2層の正極層10及び2層の負極層20を含む固体電池本体1aを備えた固体電池1を例示したが、正極層10及び負極層20の層数はこれに限定されるものではなく、各々1層であってもよいし、各々3層以上であってもよい。
【0025】
上記のような電解質層30、並びに電極層である正極層10及び負極層20を有する固体電池1において、その充電時には、正極層10内から電解質層30を介して負極層20内にリチウムイオンが伝導して取り込まれ、放電時には、負極層20内から電解質層30を介して正極層10内にリチウムイオンが伝導して取り込まれる。固体電池1では、このようなリチウムイオン伝導によって充放電動作が実現される。
【0026】
[固体電池の電極層]
従来、固体電池の電極層(正極層又は負極層)には、活物質(正極活物質又は負極活物質)、導電助剤及び固体電解質を含める技術が知られており、その導電助剤として、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、粒子状黒鉛、繊維状炭素といった炭素材料を用いる技術が知られている。炭素材料は、優れた電子伝導性を有し、室温ならば大気暴露しても変質することが少なく安定しており、固体電池の電極層の導電助剤として好適である。電極層を形成する従来の方法として、例えば、活物質、導電助剤及び固体電解質の各材料を所定量ずつ準備し、それらを混合する方法(ここでは「混合法」とも言う)が知られている。
【0027】
ところで、このような活物質、導電助剤及び固体電解質を含む電極層にあっては、電極層内の互いに接触する導電助剤同士が電子伝導パスを形成し、互いに接触する固体電解質同士がイオン伝導パスを形成し、導電助剤及び固体電解質の双方と接触する活物質が電子とイオンの分解及び結合を行う。
【0028】
活物質、導電助剤及び固体電解質の各材料を所定量ずつ準備して混合することにより電極層を形成する従来の混合法では、各材料の電極層内での配置がランダムになり易い。そのため、電極層内に比較的多量の導電助剤及び活物質を含めないと、電子伝導パスの形成や、電子とイオンの分解及び結合といった、電極層の機能を十分に発現させることが難しい。
【0029】
例えば、導電助剤に粒子状の材料を用いる場合、他の材料との混合によって得られる電極層内に電子伝導パスを形成するには、その粒子径の依存性もあるが、体積分率で20vol%~30vol%程度の導電助剤が必要になり得る。その一方、導電助剤に炭素材料を用いた場合、炭素材料は他の材料との反応性が乏しいため、電極層内に比較的多量に含めると、その焼結が難しくなり得る。また、活物質は、導電助剤及び固体電解質の双方と接触するように電極層内に分散させて配置させようとすると、電極層内に含める量がやはり比較的多量となり得る。
【0030】
ところが、このように電極層の機能の発現のためにその内部に導電助剤及び活物質を比較的多量に含めても、電極層の機能の発現に寄与するのは、導電助剤であれば、互いに接触して電子伝導パスを形成し且つ活物質と接触する導電助剤であり、活物質であれば、導電助剤と接触し且つ固体電解質と接触する活物質である。即ち、比較的多量の活物質及び導電助剤を固体電解質と共に混合して電極層を形成しても、電極層内に含められる導電助剤及び活物質のうち、一部は電極層の機能の発現に寄与する一方、残りは電極層の機能の発現には十分に寄与しないということが起こり得る。
【0031】
そこで、上記
図1(A)及び
図1(B)に示したような固体電池1の電極層(正極層10及び負極層20の一方又は両方)として、以下に示すような構成を有する電極層を用いる。
【0032】
図2は電極層の一例について説明する図である。
図2(A)には、電極層の一例の要部平面図を模式的に示している。
図2(B)には、電極層の一例の要部断面図を模式的に示している。
図2(B)は
図2(A)のII-II断面模式図である。
【0033】
図2(A)及び
図2(B)に示す電極層60は、上記
図1(A)及び
図1(B)に示した固体電池1の電極層である正極層10又は負極層20の一例である。電極層60は、正極層10であってもよいし、負極層20であってもよい。電極層60は、導電繊維61、活物質62及び固体電解質63を含む。
【0034】
電極層60の固体電解質63には、例えば、LAGP等の酸化物固体電解質が用いられる。このほか、固体電解質63には、Li2S-P2S5等の硫化物固体電解質が用いられてもよい。固体電解質63には、非晶質の固体電解質が用いられてもよいし、結晶質の固体電解質が用いられてもよいし、非晶質の固体電解質と結晶質の固体電解質との両方を含むものが用いられてもよい。例えば、酸化物固体電解質又は硫化物固体電解質の粉体が焼成により焼結され、固体電解質63が形成される。このような固体電解質63の内部に、導電繊維61及び活物質62が設けられる。
【0035】
電極層60の導電繊維61は、導電助剤として電極層60(その固体電解質63)内に含まれる。電極層60内には、複数の導電繊維61が含まれる。電極層60内の導電繊維61群には、互いに接触する導電繊維61群が含まれる。導電繊維61には、例えば、カーボンファイバー等の繊維状炭素が用いられる。例えば、導電繊維61には、直径(繊維径)が1μm~10μm程度で、長さが10μm~数mm程度の、アスペクト比が10~数千程度である繊維状炭素が用いられる。
【0036】
尚、電極層60の導電繊維61には、このようなカーボンファイバー等の繊維状炭素に限らず、例えば、金属繊維や、樹脂繊維の内部に金属やカーボン等の導電材料を含有したものや、樹脂繊維の表面に金属やカーボン等の導電材料をコーティングしたもの等、導電性を有する繊維状の各種材料を用いることもできる。
【0037】
電極層60の活物質62には、電極層60を正極層10とする場合には、LCPO等の正極活物質が用いられ、電極層60を負極層20とする場合には、TiO2やNb2O5等の負極活物質が用いられる。活物質62には、例えば、粒子状活物質(活物質粒子)が用いられる。例えば、活物質62には、平均粒子径が0.1μm~0.5μm程度の範囲にある粒子状活物質が用いられる。例えば、活物質62には、平均粒子径が導電繊維61の平均繊維径よりも小さい粒子状活物質、一例として、平均粒子径が導電繊維61の平均繊維径の1/10以下の粒子状活物質が用いられる。
【0038】
一例として、電極層60には、導電繊維群(導電繊維61群)の1つとしてのカーボンファイバー、活物質粒子群(活物質62群)の1つとしてのLCPO或いはTiO2若しくはNb2O5が用いられる。カーボンファイバーは、導電繊維群の一形態であり、LCPO或いはTiO2若しくはNb2O5は、活物質粒子群の一形態である。
【0039】
電極層60内において、活物質62は、導電繊維61の周囲表面に集中して設けられる。即ち、活物質62は、導電繊維61の周囲表面とそれを覆う固体電解質63との界面領域に集中して設けられる。例えば、活物質62は、導電繊維61の周囲表面に、当該導電繊維61を覆うように或いはコーティングするように設けられる。この場合、活物質62は、必ずしも導電繊維61の周囲表面を完全に覆っていることを要しない。
【0040】
ここでは一例として活物質62を粒子状とするが、電極層60内に含まれる活物質62は、導電繊維61の周囲表面に集中して存在すれば、必ずしも粒子状の形態で存在していることを要しない。例えば、活物質62は、導電繊維61の周囲表面において、部分的に又は全体的に、層状の形態で存在していてもよい。
【0041】
尚、活物質62は、電極層60の形成工程、例えば、後述のように活物質62を周囲表面に設けた導電繊維61を固体電解質63で覆う工程において、導電繊維61の周囲表面のほか、固体電解質63の内部(固体電解質の粒子間等)にも存在するようになる場合もあり得る。このような場合でも、電極層60内に含まれる活物質62は、固体電解質63の内部よりも導電繊維61の周囲表面に多く存在し、導電繊維61の周囲表面に集中して設けられる。
【0042】
活物質62は、電極層60内に含まれる導電助剤の導電繊維61群の各々の周囲表面に集中して設けられる。導電繊維61群の各々の周囲表面に集中して設けられる活物質62は、当該周囲表面において導電繊維61群と接触すると共に、導電繊維61群を覆う固体電解質63と接触する。導電繊維61群には、互いに接触する導電繊維61群が含まれる。互いに接触する導電繊維61群の各々の周囲表面には、それらの接触部位を除いて、活物質62が集中して設けられる。電極層60では、互いに接触する導電繊維61群によって電子伝導パスが形成され、固体電解質63(互いに接触する固体電解質)によってイオン伝導パスが形成される。そして、導電繊維61群の各々の周囲表面、即ち、導電繊維61群とそれらを覆う固体電解質63との界面領域に集中して設けられる活物質62によって、電子とイオンの分解及び結合が行われる。
【0043】
電極層60によれば、導電助剤である導電繊維61群の各々の周囲表面に集中して活物質62が設けられ、電子伝導パスの形成や、電子とイオンの分解及び結合といった、電極層60の機能が発現される。電極層60では、このような機能の発現のために、比較的多量の導電助剤や活物質を含めることが不要になり、比較的多量の導電助剤や活物質を含めても一部は機能の発現に寄与するが残りは機能の発現に寄与しないといった事態も回避される。
【0044】
即ち、電極層60の機能の発現に寄与するのは、互いに接触して電子伝導パスを形成し且つ活物質62と接触する導電助剤の導電繊維61群であり、導電助剤の導電繊維61群と接触し且つ固体電解質63と接触する活物質62である。電極層60は、それに含められる導電繊維61群及び活物質62の量に対し、このような導電繊維61群及び活物質62が高率で存在する構造になっている。従って、電極層60では、それに含める導電繊維61群及び活物質62を、無駄を抑えて有効に活用し、それらの利用率を高め、電極層60内に含める導電繊維61群及び活物質62を十分に機能させることができる。よって、含められる導電繊維61群及び活物質62が十分に機能する電極層60を備えた固体電池1を実現することが可能になる。
【0045】
このように電極層60では、それに含められる導電繊維61群及び活物質62を十分に機能させることができるため、電極層60の機能の発現に寄与しない導電助剤及び活物質が生じることが抑えられる。そのため、電極層60では、従来の混合法に比べて、電極層60内に含める導電繊維61群及び活物質62を比較的少量に抑えることができる。従って、十分な機能を発揮する電極層60を備えた固体電池1を、製造コストを抑えて実現することが可能になる。
【0046】
[固体電池の製造]
図3は固体電池の製造方法の一例について説明する図である。
上記
図1(A)及び
図1(B)に示したような構成を有する固体電池1の製造では、電極層60用(正極層10用若しくは負極層20用又はそれらの両方)のペースト又はグリーンシートの形成のため、次のような工程が実施される。まず、導電繊維61が準備される(ステップS1)。次いで、準備された導電繊維61の周囲表面に、活物質62が形成される(ステップS2)。
【0047】
ここで、電極層60用のペースト又はグリーンシートとして、正極層10用のペースト又はグリーンシートを形成する場合、導電繊維61の周囲表面には、活物質62として、LCPO等の正極活物質が形成される。電極層60用のペースト又はグリーンシートとして、負極層20用のペースト又はグリーンシートを形成する場合、導電繊維61の周囲表面には、活物質62として、TiO2やNb2O5等の負極活物質が形成される。
【0048】
導電繊維61の周囲表面への活物質62の形成には、例えば、予め準備された導電繊維61と、予め準備された活物質62とを複合化する粒子複合化技術を用いることができる。このほか、導電繊維61の周囲表面への活物質62の形成には、予め準備された導電繊維61に対し、予め準備された活物質62を静電吸着させる静電吸着技術を用いることもできる。また、導電繊維61の周囲表面への活物質62の形成には、予め準備された導電繊維61に対し、気相法又は液相法によって活物質62を成長させる技術や堆積させる技術、含浸法によって活物質62を担持させる技術等を用いることもできる。導電繊維61の周囲表面への活物質62の形成に用いる技術は、電極層60に含める導電繊維61の種類、活物質62の種類、導電繊維61と活物質62との組み合わせ等に基づいて選択することができる。
【0049】
周囲表面に活物質62が形成された導電繊維61は、LAGP等の固体電解質63及びバインダー等と混合される(ステップS3)。混合時の材料成分の種類及び量が調整され、電極層60用のペーストが形成されるか、或いは、形成されたペースト状材料がPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等に塗工され乾燥されて電極層60用のグリーンシートが形成される(ステップS4)。
【0050】
このステップS1~S4のような工程が実施され、正極層10用及び負極層20用のうちの少なくとも一方のペースト又はグリーンシートが形成される。尚、正極層10用及び負極層20用のうちの一方のペースト又はグリーンシートを、このステップS1~S4のような工程によらずに形成する場合には、当該一方のペースト又はグリーンシートは、通常の方法、即ち、活物質、導電助剤、固体電解質及びバインダー等を混合してペースト又はグリーンシートを形成する方法を用いることができる。
【0051】
また、電極層60用のペースト又はグリーンシートの形成と共に、電解質層30用のペースト又はグリーンシートが形成される(ステップS5)。例えば、LAGP等の固体電解質(非晶質若しくは結晶質又はそれらの両方)及びバインダー等が混合され、電解質層30用のペーストが形成されるか、或いは、形成されたペースト状材料がPETフィルム等に塗工され乾燥されて電解質層30用のグリーンシートが形成される。
【0052】
電解質層30用、正極層10用及び負極層20用のペースト又はグリーンシートが、所定の順序及び配置となるようにスクリーン印刷又は積層され、圧着されて、固体電池本体1aの基本構造となる積層体が形成される(ステップS6)。積層体は、その両端部にそれぞれ正極層10及び負極層20が露出するように所定の順序及び配置でスクリーン印刷又は積層されて形成されるか、或いは、所定の順序及び配置でスクリーン印刷又は積層された後に裁断されてその両端部にそれぞれ正極層10及び負極層20が露出するように形成される。
【0053】
そして、酸化雰囲気での熱処理により、バインダー等の有機成分が焼き飛ばされて脱脂が行われ、更に、非酸化性雰囲気での焼成により、電解質層30、正極層10及び負極層20の固体電解質63等の焼結が行われる(ステップS7)。これにより、上記
図1(A)及び
図1(B)に示したような固体電池本体1aが形成される。
【0054】
固体電池本体1aの形成後、その両端部に、導電ペーストの焼き付け、更に金属めっき等が行われ、端子40及び端子50が形成される(ステップS8)。
このような方法により、電解質層30を介して設けられる正極層10及び負極層20のうちの少なくとも一方に、上記
図2(A)及び
図2(B)に示したような電極層60の構造を有する、固体電池1が製造される。
【0055】
固体電池1の正極層10及び負極層20のうちの少なくとも一方に、導電繊維61の周囲表面、即ち、導電繊維61とそれを覆う固体電解質63との界面領域に集中して活物質62が設けられた構造が採用される。これにより、正極層10及び負極層20のうちの少なくとも一方において、含めた導電繊維61及び活物質62を十分に機能させることのできる固体電池1が製造される。
【0056】
[実施例]
以下、実施例について説明する。
図4は導電繊維の一例の走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)像を示す図である。
図4(A)には、導電繊維の一例の低倍率のSEM像を示している。
図4(B)には、導電繊維の一例の高倍率のSEM像を示している。
【0057】
また、
図5は活物質を形成した導電繊維の一例のSEM像を示す図である。
図5(A)及び
図5(B)にはそれぞれ、活物質を形成した導電繊維の一例のSEM像を示している。
【0058】
この実施例では、導電助剤である導電繊維61として、
図4(A)及び
図4(B)に示すようなカーボンファイバーCFを用いた。このようなカーボンファイバーCFの周囲表面に、
図5(A)及び
図5(B)に示すように活物質62を形成した。ここでは、活物質62として、負極活物質の1種であるTiO
2を用いた。
【0059】
活物質62のTiO2は、導電繊維61のカーボンファイバーCFの周囲表面に集中して形成され、比較的小さい粒子状のTiO2又は比較的薄い層状のTiO2がカーボンファイバーCFを覆うように形成される。カーボンファイバーCFの周囲表面に存在するTiO2のサイズ(例えば粒子径や層厚)は、カーボンファイバーCFのサイズ(例えば繊維径や長さ)よりも十分に小さいものとなっている。
【0060】
図6及び
図7は活物質を形成した導電繊維を固体電解質で被覆した構造の一例のSEM像を示す図である。
図6には、当該構造の一例の低倍率のSEM像を示している。
図7(A)には、当該構造の一例の中倍率のSEM像を示している。
図7(B)には、当該構造の一例の高倍率のSEM像を示している。
【0061】
上記のようにして活物質62のTiO
2が周囲表面に形成された、導電繊維61のカーボンファイバーCFを、固体電解質基板上に設け、その上に固体電解質ペーストを塗布して乾燥させ、脱脂後、更に焼成して焼結させた。これにより、
図6並びに
図7(A)及び
図7(B)に示すような構造、即ち、TiO
2を周囲表面に形成したカーボンファイバーCFを固体電解質63で覆った構造を得た。ここでは、固体電解質63として、LAGPガラスを用いた。
【0062】
このようにして、導電助剤である導電繊維61のカーボンファイバーCFの周囲表面に、活物質62のTiO2を形成したものを、固体電解質63のLAGPで覆った、上記電極層60に対応する電極層構造体60aを得た。
【0063】
図8は電極層構造体の一例を示す図である。
図8(A)及び
図8(B)にはそれぞれ、電極層構造体の一例の要部断面図を模式的に示している。
例えば、
図8(A)に示すように、電極層構造体60aは、導電繊維61のカーボンファイバーCFの周囲表面に、活物質62のTiO
2が形成され、これらが固体電解質63のLAGPによって覆われた構造になる。活物質62のTiO
2は、導電繊維61のカーボンファイバーCFを覆うように設けられ、カーボンファイバーCFの周囲表面に集中して設けられるようになる。即ち、TiO
2は、カーボンファイバーCFの周囲表面とそれを覆う固体電解質63のLAGPとの界面領域に集中して設けられるようになる。
【0064】
電極層構造体60aには、例えば、
図8(B)(更に上記
図6並びに
図7(A)及び
図7(B))に示すように、複数の導電繊維61のカーボンファイバーCFが含まれる。このカーボンファイバーCF群には、
図8(B)に示すように、互いに接触するカーボンファイバーCF群が含まれる。互いに接触するカーボンファイバーCF群の周囲表面には、それらの接触部位を除いて、活物質62のTiO
2が形成される。電極層構造体60aは、このようなカーボンファイバーCF群とそれらの周囲表面に形成されたTiO
2が固体電解質63のLAGPで覆われた構造にもなる。
【0065】
図9は電極層構造体の一例のSEM像及び元素マッピング結果を示す図である。
図9(A)には、電極層構造体の一例のSEM像を示している。
図9(B)には、C(カーボン)マッピング像を示している。
図9(C)には、Ti(チタン)マッピング像を示している。
図9(D)には、P(リン)マッピング像を示している。
【0066】
図9(B)に示すようなCが存在する領域の周囲に、
図9(C)に示すようにTiが存在している。
図9(B)に現れるCは、導電繊維61のカーボンファイバーCFに含有されるCに相当するものであり、
図9(C)に現れるTiは、活物質62のTiO
2に含有されるTiに相当するものである。このように周囲にTiが存在するCの周囲に、
図9(D)に示すようにPが存在する。
図9(D)に現れるPは、固体電解質63のLAGPに含有されるPに相当するものである。
【0067】
図9(B)~
図9(D)に示すように、Ti(TiO
2に相当)は、C(カーボンファイバーCFに相当)が存在する領域の周囲に集中して存在し、Cが存在する領域とP(LAGPに相当)が存在する領域との界面領域に集中して存在することが分かる。
図9(A)に示すような電極層構造体60aでは、導電繊維61のカーボンファイバーCFの周囲表面に活物質62のTiO
2が集中して設けられ、これらが固体電解質63のLAGPで覆われた構造になっていることが確認された。
【0068】
このような電極層構造体60aの知見から、導電繊維61としてカーボンファイバーCF、活物質62としてTiO2、固体電解質63としてLAGPを用いた電極層60では、互いに接触するカーボンファイバーCF群によって電子伝導パスを形成し、LAGPによってイオン伝導パスを形成することが可能になる。そして、カーボンファイバーCF群の周囲表面(それを覆うLAGPとの界面領域)に集中して設けられるTiO2によって、電子とイオンの分解及び結合を行うことが可能になる。
【0069】
電極層構造体60aの知見から、導電繊維61としてカーボンファイバーCF、活物質62としてTiO2、固体電解質63としてLAGPを用いた電極層60では、互いに接触して電子伝導パスを形成し且つTiO2と接触するカーボンファイバーCFが多く含まれ、カーボンファイバーCFと接触し且つLAGPと接触する活物質62が多く含まれる構造を得ることが可能になる。従って、電子伝導パスや、電子とイオンの分解及び結合のサイトを、含めるカーボンファイバーCF及びTiO2の量に対して高率で形成することが可能になる。これにより、含めるカーボンファイバーCF及びTiO2を、無駄を抑えて有効に活用し、十分に機能させることが可能になる。また、含めるカーボンファイバーCF及びTiO2を、比較的少量に抑えることが可能になる。
【0070】
尚、ここでは、電極層構造体60aの活物質62として負極活物質の1種であるTiO2を用い、導電繊維61としてカーボンファイバーCFを用い、固体電解質63としてLAGPを用いる例を示したが、各種材料を用いて電極層構造体60aを得ることができる。例えば、活物質62には、Nb2O5等の他の負極活物質、或いは、LCPO等の正極活物質を用いることもできる。また、導電繊維61には、各種繊維径又は平均繊維径のカーボンファイバーCFを用いることができ、そのほか、導電性を有する繊維状の各種材料を用いることもできる。また、固体電解質63には、各種組成のLAGPや他の酸化物固体電解質、或いは、硫化物固体電解質を用いることもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 固体電池
1a 固体電池本体
10 正極層
20 負極層
30 電解質層
40,50 端子
60 電極層
60a 電極層構造体
61 導電繊維
62 活物質
63 固体電解質