(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084757
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】超音波探触子
(51)【国際特許分類】
H04R 1/34 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
H04R1/34 330A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199019
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志村 勇
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA18
5D019AA25
5D019FF04
(57)【要約】
【課題】小型かつ低背であっても所望の強度が得られる超音波探触子を提供する。
【解決手段】
超音波探触子10は、音響レンズ20と、音響整合層30と、振動子アレイ40と、バッキング材50と、側板60と、ベースブロック70と、を備えている。
バッキング材50の長手方向の両側面に、ガラス複合樹脂又はアルミニウムから成る側板60を設け、かつ、バッキング材50の底面に、アルミニウム製の部材からなるベースブロック70を設けることで、側板60とベースブロック70から成る補強部80を形成する。なお、側板とベースブロックが一体型の、アルミニウム製から成る補強部91を設けてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物側から見て、音響整合層、振動子アレイ、バッキング材及びベースブロックを備え、かつ、バッキング材の長手方向に沿う両側面に側板を備える超音波探触子において、
前記ベースブロックと前記側板とで、当該超音波探触子の補強部を構成してあることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記補強部が、前記バッキング材の長手方向と直交する方向に切った断面がコの字状であり、
前記ベースブロックが、アルミニウム製の部材であることを特徴とする請求項1に記載の超音探触子。
【請求項3】
前記補強部が、前記バッキング材の長手方向と直交する方向に切った断面がコの字状の部材であって、アルミニウム製の一体の部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記補強部の素材がチタン又はステンレスであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波探触子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型かつ低背であっても所望の強度が得られる超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子の一例として、特許文献1に開示されたものがある。
図6は、特許文献1に開示された超音波探触子110を示した斜視図である。超音波探触子110は、検査対象物側から見て、超音波ビームを収束させるための音響レンズ112、超音波を効率よく伝搬させるための第1・第2音響整合層(以下、音響整合層という。)114、超音波の送波及び受波をするための圧電振動子素子(以下、振動子アレイという。)116、背面負荷材(以下、バッキング材という。)118及びベースブロック120を順に具え、かつ、バッキング材118の長手方向に沿う両側面に側板122を具えるものであった。
バッキング材は、送受波信号に音響的な制動をかけるとともに、振動子アレイの背面から発する超音波を吸収減衰するものである。ベースブロックは、超音波探触子全体を保持するものである。側板は、少なくとも振動子アレイの厚み全体を覆うサイズの導電性材料から成るものである(特許文献1の段落0017右欄第10~20行)。
【0003】
特許文献1に開示された超音波探触子では、音響整合層及び側板が導電材料であり、アース電極を兼ねているため、超音波探触子の分解能の低下やクロストークの発生及び不要輻射を防止できるという(特許文献1の発明の効果の欄)。
【0004】
超音波探触子の他の例として、特許文献2に開示されたものがある。特許文献2に開示された超音波探触子は、腹腔鏡下手術に用いて好適なものであって、トラカール内を通過する程に小型低背で、かつ、操作性が確保されたものである(特許文献2の段落0005、段落0015)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-139998
【特許文献2】特開2020-156888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、腹腔鏡下手術に用いるような超音波探触子の場合、配線やケースなどを含め、トラカール内を通過する程に小型かつ低背な超音波探触子が求められる。
さらに、小型かつ低背であっても製造段階及び製品段階それぞれで、強固であることが要求される。しかし、特許文献1の超音波探触子においては、ベースブロックをアルミブロックで構成する点が開示されているが、低背の超音波探触子の強度向上を図る上では、自ずと限界がある。また、特許文献1には、側板を用いる点が記載されているが、側板に関しては、導電性材料から成りアース電極を兼ねるとの記載があるのみである(請求項1等)。
【0007】
特許文献2には、バッキング材を具えること、音響整合層が設けられても良いことが記載されている(特許文献2の段落0023)が、小型かつ低背の超音波探触子の強度確保に関する具体的な記載はされていない。
この出願の目的は、小型かつ低背であっても所望の強度が得られる新規な構造を有した超音波探触子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的の達成を図るため、本発明の超音波探触子によれば、検査対象物側から見て、音響レンズ、音響整合層、振動子アレイ、バッキング材及びベースブロックを具え、かつ、バッキング材の長手方向に沿う両側面に、側板を備える超音波探触子において、前記ベースブロックと側板とで、当該超音波探触子の補強部を構成してあることを特徴とする。
【0009】
この超音波探触子の発明を実施するに当たり、前記補強部は、前記長手方向と直交する方向に切った断面がコの字状であることが好ましい。
【0010】
この超音波探触子の発明を実施するに当たり、前記ベースブロック及び側板はアルミニウム製の一体の部材で構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明の超音波探触子によれば、ベースブロック及び側板で補強部を構成してあるので、小型かつ低背であっても所望の強度が得られる新規な構造を有した超音波探触子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の超音波探触子の概要を示した斜視図である。
【
図2】第2実施形態の超音波探触子の概要を示した斜視図である。
【
図3】(A)図は、第1実施形態の超音波探触子の補強部の概要を示した斜視図であり、(B)図は、第2実施形態の超音波探触子の補強部の概要を示した斜視図である。
【
図4】本発明の超音波探触子の適用例であって、超音波探触子用ケースに実装した状態を示した斜視図である。
【
図5】(A)図は、本発明の超音波探触子の適用例であって、超音波探触子用ケースに実装した状態であり、(B)図は、(A)図中のA―A断面図である。
【
図6】従来の超音波探触子の構成例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明の超音波探触子の実施形態についてそれぞれ説明する。
なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
図1は、第1実施形態の超音波探触子の概要を示した斜視図である。
第1実施形態の超音波探触子10は、検査対象物側から見て(
図1の上方から見て)、超音波ビームを収束させるための、例えばシリコーンゴムから成る音響レンズ20と、超音波を効率よく伝搬させるための、例えばエポキシ樹脂から成る音響整合層30と、電圧を加え振動させることで超音波を発する、例えばチタン酸ジルコン酸鉛から成り、個別の圧電素子を多数個アレイ上に配置した振動子アレイ40と、振動子アレイ40が発する超音波を吸収し、減衰させる役割を持つ、例えば鉄粉を混入させたゴム材から成るバッキング材50と、超音波探触子の強度を保つための、所定の剛性を持つ材料、例えば厚みが0.8~2mmから選ばれたガラス複合樹脂から成る側板60及び側板同様に超音波探触子の強度を保つための、例えば厚みが0.8~1.3mm、好ましくは1mmのアルミニウムから成るベースブロック70と、で構成される。
【0015】
ところで、超音波探触子10を構成する振動子アレイ40とバッキング材50の厚みは、欲する超音波探触子の周波数によって決定される。また、超音波探触子を構成する音響レンズ20と音響整合層30の厚みは、欲する超音波探触子の性能によって厚みが決定される。
よって、特定の周波数及び性能の超音波探触子を製造する際、超音波探触子を構成する材料の中で、超音波探触子の性能に関与せず、厚みを自由に変更できるのはベースブロック70と側板60だけになる。
【0016】
ここで、側板60とベースブロック70は、超音波探触子を組み立てる際や、超音波探触子の完成後の強度を保持する役割を持っている。組み立てる際の強度は、各材料の接着、固定や音響整合層の厚み加工等の過程で、各部品に生じる、例えば過重負荷や応力に耐え得るものである必要がある。また、超音波探触子がケースに収納されるような製造工程がある場合は、その工程でも、例えば過重負荷や応力がかかることになる。
【0017】
ベースブロックの厚みに制約がない場合、厚みを十分に確保することで上記のような、例えば過重負荷や応力に耐えることができるが、一方、例えばトラカール内を通過できるような、小型かつ低背な超音波探触子であり、ベースブロックの厚みに制約がある場合でも、製造工程及び製品段階それぞれで、強固であることが要求される。本発明では、第1実施形態のように、所定の剛性を持つ2枚の側板60を、バッキング材50の長手方向に沿うように両側面に設け、かつ、ベースブロック70をバッキング材50の下に設けた。これにより、バッキング材50を、2枚の側板60と1個のベースブロック70とによって、合計3面で覆う構成になっている。
【0018】
本発明の第1実施形態における側板60及びベースブロック70それぞれは、別の部品であるため互いを所定関係で接着をする必要があり、接着剤、例えばエポキシ系接着剤で接着される。
また、バッキング材50は、一般的な直方体形状とは異なり、バッキング材の長手方向に対して直交する方向に切った断面がT字形状をしている(
図1)。
バッキング材50の振動子アレイ30側を除く3面のうちの両側面に、2枚の側板60を長手方向、かつ、バッキング材50の下面に、1個のベースブロック70を、断面がT字状であるバッキング材50に沿うように接着することで、側板60とベースブロック70は、前記長手方向に対して直交する方向に切った断面がコの字形状になる。このコの字形状をした前記側板60及び前記ベースブロック70を合わせて補強部80と呼ぶ。
【0019】
本発明のバッキング材50は、一般的な直方体形状と異なり、バッキング材の長手方向に対して直交する方向に切った断面がT字形状をしているため、2枚の側板60がバッキング材50のT字の側面部分を適正に補強する構造になる。これにより、製造段階、製品段階の応力や過重負荷に耐える強度を保つことができる。
【0020】
本発明の第1実施形態における前記側板60及び前記ベースブロック70接着工程の際、バッキング材50がT字形状となっているため、側板60はバッキング50の切り欠き部に合わせて接着するだけでよく、製造の容易性も確保している。
【0021】
なお、ベースブロックの素材はアルミニウムに限らず、他の金属や合金、例えばチタンやステンレスなどでもよい。ただし、超音波探触子は人が手で扱うものである点から、軽い素材であり、かつ、製造コストの点からより安価な素材が推奨される。
また、側板の素材は、ガラス複合樹脂に限られず、例えば銅などの金属素材でもよい。
【0022】
次に、第2実施形態について説明する。
図2は、第2実施形態の超音波探触子90の概要を示した斜視図である。
第2実施形態の超音波探触子90は、音響レンズ20と、音響整合層30と、振動子アレイ40と、バッキング材50と、側板の機能も持つ第1部分91a及びベースブロックの機能も持つ第2部分91bが一体型の、例えば、アルミニウムから成る補強部91と、で構成される。補強部91は、バッキング材50のT字形状に嵌合するよう、バッキング材の長手方向に対して直交する方向に切った断面が、コの字形状をしている。
【0023】
第2実施形態の補強部91の素材はアルミニウムに限らず、炭素繊維強化プラスチックや、他の金属や合金、例えばチタンやステンレスなどでもよい。ただし、超音波探触子は人が手で扱うものである点から、軽い素材であり、かつ、製造コストの点からより安価な素材が推奨される。
【0024】
ここで、本発明の理解を深めるために、第1実施形態の補強部80と、第2実施形態の補強部91各々に着目して説明する。
図3(A)は、第1実施形態における補強部80の概要を示した斜視図であり、
図3(B)は第2実施形態における補強部91の概要を示した斜視図である。
第1実施形態における前記補強部80は、側板60とベースブロック70が別々の部品であるため、補強部80を構成する側板60とベースブロック70は、接着剤、例えばエポキシ系接着剤で接着されている。
一方、本発明の第2実施形態における前記補強部91は、側板とベースブロックが一体型であるため、側板とベースブロックとを接着する工程が必要なく、また、接着不良により前記側板とベースブロックの間で剥がれが生じることがないという製造上の利点がある。
【0025】
次に、本発明の超音波探触子の実用例を説明する。
図4は本発明の第1実施形態の超音波探触子10又は第2実施形態の超音波探触子90を、トラカール内を通過させるため、超音波探触子用ケース100に実装した状態を示した斜視図である。
本発明の超音波探触子10及び90各々は、製造工程及び製品段階での強度を保つための、上記したように側板とベースブロックとで構成した補強部を有しているため、音響レンズ20(
図1、
図2等参照)の放射面に沿う方向の高さが4.5mm以下で、かつ、必要な強度を保つことができる。
これにより、直径12mmの円筒内に収まる細いケース100であっても、その内部に収まるような、小型かつ低背の超音波探触子を実現することができる。
【0026】
図5(A)はケース100に対する超音波探触子10又は90の位置及び大きさの関係を示した上面図であり、
図5(B)は
図5(A)のA―A断面図である。
ケース100には、超音波探触子を任意の位置に移動させるため、鉗子でケースを把持する鉗子把持部101があり、当然、この鉗子把持部101を含め、ケース100がトラカール内を通過できる必要がある。
本発明は、第1実施形態の超音波探触子が、例えばガラス複合樹脂から成る側板と、例えばアルミニウムから成るベースブロックによる補強部をもつため、製造段階及び製品段階で必要な強度を保ちながら製造することができ、かつ、超音波探触子は4.5mm以下の高さで製造でき、ケースを含めても高さが10mm程度に収まるため、直径12mm程度のトラカールを通過できる超音波探触子を実現することができる。
【符号の説明】
【0027】
10:第1実施形態の超音波探触子 20:音響レンズ
30:音響整合層 40:振動子アレイ
50:バッキング材 60:側板
70:ベースブロック 80:補強部(第1実施形態の補強部)
90:第2実施形態の超音波探触子 91:補強部(第2実施形態の補強部)
100:ケース 101:ケース鉗子把持部
110:従来の超音波探触子 112:音響レンズ
114:音響整合層 116:振動子アレイ
118:バッキング材 120:ベースブロック
122:側板