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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008477
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/181 20060101AFI20230112BHJP
   B62D 1/185 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B62D1/181
B62D1/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112080
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 潤
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】岡 大登志
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DD05
3D030DD13
3D030DD63
(57)【要約】
【課題】モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることのできる操舵装置を提供すること。
【解決手段】固定ブラケット11とコラムホルダ20とを有するステアリングコラム10と、コラムホルダ20を軸方向に変位させるロア側テレスコピック用アクチュエータ80と、を備え、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80は、ウォームホイール87と共に回転するねじ軸83と、を有し、ねじ軸83には、操作部材110が係合する係合部83aが一端に形成され、ねじ軸83は、ウォームホイール87の回転をウォームホイール87からねじ軸83に伝達するトルクリミッター89を介してウォームホイール87の挿入孔87aに挿入され、トルクリミッター89は、所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合にはウォームホイール87とねじ軸83との相対回転を許容する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にステアリングホイールが取り付けられ、前記ステアリングホイールから入力されるトルクにより回転するステアリングシャフトと、
第1のコラム部材と、前記第1のコラム部材に対し軸方向の相対変位を可能に組み合わされた第2のコラム部材とを有し、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムと、
前記第1のコラム部材に対して前記第2のコラム部材を軸方向に変位させるテレスコピック用アクチュエータと、
を備え、
前記テレスコピック用アクチュエータは、
駆動源であるテレスコピック用モータと、
前記テレスコピック用モータからの駆動力により回転するウォームホイールと、
前記ウォームホイールに形成される挿入孔に挿入されて前記ウォームホイールと共に回転するねじ軸と、
前記ねじ軸の回転に伴って前記ねじ軸の軸方向に変位し、ナット支持部材により前記第2のコラム部材に支持固定されるナットと、
を有し、
前記ねじ軸には、前記ねじ軸に対して回転トルクを入力する操作部材が係合する係合部が一端に形成され、
前記ねじ軸は、円環状の形状で形成されて前記ウォームホイールの回転を摩擦力により前記ウォームホイールから前記ねじ軸に伝達するトルクリミッターを介して前記挿入孔に挿入され、
前記トルクリミッターは、前記ウォームホイールと前記ねじ軸との間で所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合には前記ウォームホイールまたは前記ねじ軸に対して滑ることにより、前記ウォームホイールと前記ねじ軸との相対回転を許容する操舵装置。
【請求項2】
前記ねじ軸は、前記ステアリングシャフトと平行に配置され、
前記係合部は、前記ねじ軸における、前記ステアリングシャフトに取り付けられる前記ステアリングホイールが位置する側の端部に形成される
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記係合部は、多角形の孔になっており、
前記操作部材は、前記係合部に係合する部分が前記係合部の形状である多角形と同じ形状で形成され、前記係合部に挿し込むことにより前記係合部に係合する
請求項1または2に記載の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力により作動するモータをアクチュエータとして用いることにより任意の動作を行う装置では、モータが作動不可能になった場合、モータの駆動力により動作する装置として動作が行われなくなる。このように装置の動作が停止した場合、他の動作に影響を及ぼすことがあるため、モータを用いた従来の装置の中には、モータが作動不可能になった場合の対策を施しているものがある。例えば、特許文献1、2に記載された電動ブレーキ装置用モータでは、モータの回転軸の端部に、治具と係合することができる加工を施し、モータが作動不可能になった場合には、モータの回転軸の端部に治具を係合することにより、回転軸を治具によって手動で回転させ、装置を手動で動作させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-39240号公報
【特許文献2】特開2001-234958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年では、車両に搭載される操舵装置においても、モータを使って任意の動作を行わせるものが増えてきている。操舵装置におけるモータを使った動作としてば、例えば、ステアリングホイールを前後方向に移動させる機構であるテレスコピック機構が挙げられる。このようなテレスコピック機構においても、当該テレスコピック機構に用いられるモータに不具合が発生することによりモータを作動させることができなくなった場合、テレスコピック機構は、モータの駆動力を用いてステアリングホイールを前後方向に移動させることができなくなる。
【0005】
しかしながら、車両の室内で運転者が運転席に座った状態では、操舵装置に対して手が届く範囲が限られているため、モータの配置位置によっては、特許文献1、2のようにモータの回転軸を手動で回転させるのが困難な場合がある。このため、モータで発生する駆動力により動作をするテレスコピック機構等において、モータに不具合が発生することによりモータを作動させることができなくなった場合でも、ステアリングホイールを前後方向に移動させる動作等の、モータで発生する駆動力により行っていた動作を確保するという点で、改良の余地があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることのできる操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の操舵装置は、一端にステアリングホイールが取り付けられ、前記ステアリングホイールから入力されるトルクにより回転するステアリングシャフトと、第1のコラム部材と、前記第1のコラム部材に対し軸方向の相対変位を可能に組み合わされた第2のコラム部材とを有し、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムと、前記第1のコラム部材に対して前記第2のコラム部材を軸方向に変位させるテレスコピック用アクチュエータと、を備え、前記テレスコピック用アクチュエータは、駆動源であるテレスコピック用モータと、前記テレスコピック用モータからの駆動力により回転するウォームホイールと、前記ウォームホイールに形成される挿入孔に挿入されて前記ウォームホイールと共に回転するねじ軸と、前記ねじ軸の回転に伴って前記ねじ軸の軸方向に変位し、ナット支持部材により前記第2のコラム部材に支持固定されるナットと、を有し、前記ねじ軸には、前記ねじ軸に対して回転トルクを入力する操作部材が係合する係合部が一端に形成され、前記ねじ軸は、円環状の形状で形成されて前記ウォームホイールの回転を摩擦力により前記ウォームホイールから前記ねじ軸に伝達するトルクリミッターを介して前記挿入孔に挿入され、前記トルクリミッターは、前記ウォームホイールと前記ねじ軸との間で所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合には前記ウォームホイールまたは前記ねじ軸に対して滑ることにより、前記ウォームホイールと前記ねじ軸との相対回転を許容する。
【0008】
この構成によれば、テレスコピック用モータに不具合が発生することによりテレスコピック用モータを作動させることができなくなった場合には、ねじ軸の係合部に操作部材を係合させ、操作部材からねじ軸に対して回転トルクを付与することにより、トルクリミッターに滑りを発生させて、ねじ軸をウォームホイールに対して相対回転させることができる。これにより、ねじ軸に螺合するナットをねじ軸の回転に伴ってねじ軸の軸方向に変位させることができ、ナット支持部材によりナットが支持固定される第2のコラム部材を、ナットと共に第1のコラム部材に対して軸方向に変位させることができる。従って、テレスコピック用モータを作動させることができなくなった場合でも、操作部材を用いてねじ軸を回転させることにより、第2のコラム部材を第1のコラム部材に対して軸方向に変位させる動作を行わせることができる。この結果、モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0009】
望ましい形態として、前記ねじ軸は、前記ステアリングシャフトと平行に配置され、前記係合部は、前記ねじ軸における、前記ステアリングシャフトに取り付けられる前記ステアリングホイールが位置する側の端部に形成される。
【0010】
この構成によれば、ねじ軸の係合部は、ねじ軸における、ステアリングシャフトに取り付けられるステアリングホイールが位置する側の端部に形成されるため、ステアリングホイール寄りの位置から、係合部に操作部材を係合させることができる。このため、操作部材を用いてねじ軸を回転させる際に、操作部材をねじ軸の係合部に対して係合させることができ、操作部材を用いてねじ軸を回転させることができる。これにより、モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0011】
望ましい形態として、前記係合部は、多角形の孔になっており、前記操作部材は、前記係合部に係合する部分が前記係合部の形状である多角形と同じ形状で形成され、前記係合部に挿し込むことにより前記係合部に係合する。
【0012】
この構成によれば、ねじ軸の係合部は多角形の孔になっており、操作部材は、係合部に係合する部分が係合部の多角形と同じ形状で形成されるため、操作部材は、係合部に挿し込むことにより係合部に係合することができる。これにより、操作部材は、ねじ軸の係合部に対して相対回転が不可の状態で係合させることができ、操作部材を用いてねじ軸を回転させることができる。従って、モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る操舵装置は、モータを作動させることができなくなった場合でも、モータで発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る操舵装置を組み込んだステアリングシステムを示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る操舵装置が有するステアリングコラム装置の側面図である。
図3図3は、実施形態に係る操舵装置が有するステアリングコラム装置の斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る操舵装置が有するステアリングコラム装置の斜視図である。
図5図5は、図2のA-A矢視図である。
図6図6は、変位ブラケットの斜視図であり、揺動支持ブラケット部に配置されるチルト用送りねじ装置の説明図である。
図7図7は、図5のB-B断面図である。
図8図8は、ロア側テレスコピック用アクチュエータの分解斜視図である。
図9図9は、ロア側テレスコピック用アクチュエータの組立斜視図である。
図10図10は、コラムホルダが前寄りの位置の状態でロア側テレスコピック用モータが作動不可能になった状態を示すステアリングコラム装置の平面図である。
図11図11は、図10に示すステアリングコラム装置の斜視図である。
図12図12は、操作部材をねじ軸の係合部に係合させた状態を示すステアリングコラム装置の側面図である。
図13図13は、操作部材を用いて固定ブラケットに対してコラムホルダを相対変位させた状態を示すステアリングコラム装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る操舵装置1を組み込んだステアリングシステム120を示す模式図である。本実施形態に係る操舵装置1は、ステアバイワイヤ方式のステアリングシステム120に組み込まれている。ステアバイワイヤ方式のステアリングシステム120は、ステアリングホイール121及び該ステアリングホイール121の操舵量を測定するためのセンサ(図示省略)を有する操舵装置1と、一対の操舵輪135に舵角を付与するための転舵装置130とを電気的に接続してなる。即ち、ステアバイワイヤ方式のステアリングシステム120では、運転者によるステアリングホイール121の操作量を、操舵装置1のセンサにより測定する。そして、センサの出力信号に基づいて、転舵装置130のアクチュエータ131を駆動し、車両の幅方向に配置されたラック軸やねじ軸などの直動軸を車両の幅方向に変位させ、一対のタイロッド132を押し引きして、一対の操舵輪135に舵角を付与する。
【0017】
また、本実施形態に係る操舵装置1は、車両に搭載されるセンサ類や地図情報、GPS(Global Positioning System)により得られる自車の位置情報、他車等の外部の装置との間で通信を行う通信装置等に基づいて、運転者の運転操作によらずに車両が自動的に運転を行う、いわゆる自動運転を行うことができる車両に搭載される。このため、操舵装置1が搭載される車両には、車両の運転制御を自動運転と手動運転とで切り替える運転制御部(図示省略)が備えられており、車両の走行状態や運転者の希望に応じて、車両の運転制御を自動運転と手動運転とで切り替えることが可能になっている。
【0018】
操舵装置1は、ステアリングコラム装置2と、ステアリングシャフト3と、反力付与装置70とを備える。なお、操舵装置1に関して前後方向、上下方向及び幅方向とは、操舵装置1を車両に取り付けた状態での車両の前後方向、上下方向及び幅方向をいう。
【0019】
図2は、実施形態に係る操舵装置1が有するステアリングコラム装置2の側面図である。図3図4は、実施形態に係る操舵装置1が有するステアリングコラム装置2の斜視図である。なお、図4は、反力付与装置70を取り外した状態の図になっている。ステアリングコラム装置2は、ステアリングコラム10と、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80と、アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90と、チルト用アクチュエータ100とを備える。
【0020】
ステアリングコラム10は、固定ブラケット11と、コラムホルダ20と、アッパコラム40とを備え、全長を伸縮可能に構成されている。具体的には、ステアリングコラム10は、固定ブラケット11とコラムホルダ20とを、軸方向の相対変位を可能に組み合わせ、且つ、コラムホルダ20とアッパコラム40とを、軸方向の相対変位を可能に組み合わせてなる。
【0021】
固定ブラケット11は、固定板部12と、固定側ブラケット部15とを備える。
【0022】
固定板部12は、上下方向から見て前後方向に伸長する矩形形状を有し、且つ、幅方向両側部分のそれぞれの前後方向2箇所に、上下方向に貫通する通孔13を有する。固定ブラケット11は、固定板部12の通孔13に下側から挿通した取付ボルト14により、ステアリングコラム装置2が搭載される車両の車体(図示省略)に対し支持固定される。
【0023】
固定側ブラケット部15は、前後方向から見て略U字形形状を有し、固定板部12の前側の端部に固設されている。即ち、固定側ブラケット部15は、固定板部12の前側端部の幅方向両側の端部から下側に向けて垂下した一対の固定側側板部16a、16bと、該固定側側板部16a、16bの下側の端部同士を連結する固定側連結部17とを有する。換言すれば、固定側連結部17は、一対の固定側側板部16a、16bの下側の端部同士の間に掛け渡されている。
【0024】
コラムホルダ20は、固定ブラケット11に対し軸方向(前後方向)の相対変位を可能に支持された変位ブラケット21と、該変位ブラケット21に対し上下方向の揺動を可能に支持されたロアコラム50とを備える。
【0025】
変位ブラケット21は、変位板部22と、一対の垂下板部24a、24bと、揺動支持ブラケット部25とを備える。
【0026】
変位板部22は、上下方向から見て前後方向に伸長する矩形形状を有している。
【0027】
一対の垂下板部24a、24bは、変位板部22の前側部分から中間部分にかけての部分の幅方向両側の端部から下側に向けて垂下している。
【0028】
図5は、図2のA-A矢視図である。揺動支持ブラケット部25は、前後方向から見て略U字形形状を有し、変位板部22の後側の端部に固設されている。即ち、揺動支持ブラケット部25は、変位板部22の後側の端部の幅方向両側の端部から下側に向けて垂下した一対の変位側側板部26a、26bと、該一対の変位側側板部26a、26bの下側の端部同士を連結する変位側連結部27とを有する。
【0029】
固定ブラケット11と、コラムホルダ20との間には、リニアガイド30が配置されており、固定ブラケット11とコラムホルダ20とは、リニアガイド30を介して軸方向の相対変位を可能に組み合わされている。リニアガイド30は、コラムホルダ20が有する変位ブラケット21と、固定ブラケット11との間に配置され、変位ブラケット21は、リニアガイド30により、固定ブラケット11に対し軸方向の相対変位を可能に支持されている。即ち、本実施形態では、固定ブラケット11が第1のコラム部材を構成し、且つ、コラムホルダ20が第2のコラム部材を構成する。
【0030】
リニアガイド30は、軸方向(前後方向)に伸長する矩形形状を有するガイドレール31と、軸方向から見て略U字形形状を有し、且つ、ガイドレール31に対し該ガイドレール31に沿って軸方向の変位を可能に組み合わされたスライダ32とを備える。本実施形態では、ガイドレール31を、固定ブラケット11の固定板部12の下面に結合固定している。また、スライダ32を、変位ブラケット21の変位板部22の上面に結合固定している。
【0031】
なお、リニアガイド30としては、滑り式リニアガイドと、ボール循環式リニアガイドと、非循環ローラ式リニアガイドとのうちのいずれのリニアガイドを使用しても良い。滑り式リニアガイドは、ガイドレールに形成されたレール溝に、スライダに形成された係合凸部を係合してなる。ボール循環式リニアガイドは、ガイドレールとスライダとの間に備えられた負荷路に複数個のボールを転動可能に配置し、且つ、スライダの内部に、ガイドレールとスライダとの相対変位に伴い負荷路の終点に移動したボールを、負荷路の始点に戻す循環路を設けてなる。非循環ローラ式リニアガイドは、スライダに回転自在に支持された複数個のローラを、ガイドレールに形成された転動面に転がり接触させてなる。
【0032】
ロアコラム50は、略円筒形状を有し、変位ブラケット21に対し上下方向の揺動を可能に支持されている。ロアコラム50は、前側部分に大径部51を有し、且つ、後側部分に、大径部51よりも内径寸法が小さい小径部52を有する。
【0033】
ロアコラム50は、後側部分が、チルト用アクチュエータ100を構成するチルト用送りねじ装置102(図6参照)を介して、変位ブラケット21の揺動支持ブラケット部25に対し上下方向の変位が可能に支持されている。また、ロアコラム50は、前側部分が、インナコラム60と反力付与装置70のハウジング71とを介して、車体に支持される固定ブラケット11の固定側ブラケット部15に枢支されている。
【0034】
図6は、変位ブラケット21の斜視図であり、揺動支持ブラケット部25に配置されるチルト用送りねじ装置102の説明図である。変位ブラケット21には、チルト用アクチュエータ100を構成するチルト用送りねじ装置102が配置されている。チルト用送りねじ装置102は、外周面に雄ねじ部を有するねじ軸103と、内周面にねじ軸103の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されるナット105とを備えており、ナット105は、外周面に円柱状の枢支軸部104を有している。
【0035】
ねじ軸103は、揺動支持ブラケット部25の幅方向片側の変位側側板部26aに形成される凹溝28及び変位側連結部27に形成された円孔の内側に、軸受装置106を介して回転自在に支持されている。詳しくは、変位ブラケット21の揺動支持ブラケット部25が有する一対の変位側側板部26a、26bのうち一方の変位側側板部26aには、幅方向内側面に、上下方向に伸長する凹溝28が形成されている。また、変位ブラケット21の揺動支持ブラケット部25が有する変位側連結部27は、幅方向片側部分、即ち、凹溝28が形成される変位側側板部26aが位置する側の部分に、上下方向に貫通する円孔が形成されている。ねじ軸103は、これらのように形成される凹溝28及び変位側連結部27の円孔の内側に、軸受装置106を介して支持されている。
【0036】
軸受装置106としては、例えば、ラジアル転がり軸受や滑り軸受が用いられる。また、ねじ軸103の雄ねじ部に螺合するナット105に形成される枢支軸部104は、ロアコラム50の後側部分、即ち、ロアコラム50における小径部52の外周面に形成された枢支凹部に回動可能に係合しており、ロアコラム50を枢支している。このため、ねじ軸103が回転した場合には、ねじ軸103の回転に伴ってナット105がねじ軸103に沿って該ねじ軸103の軸方向(上下方向)に変位することにより、ロアコラム50の後側部分が、変位ブラケット21の揺動支持ブラケット部25に対して上下方向に変位する。
【0037】
インナコラム60(図4参照)は、インナコラム60の前側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったフランジ部62を備える。インナコラム60は、ロアコラム50に対して該ロアコラム50の軸方向の相対変位を可能に組み合わされている。即ち、ステアリングコラム装置2は、インナコラム60を、ロアコラム50に対して該ロアコラム50の軸方向の相対変位を可能に内嵌している。
【0038】
反力付与装置70のハウジング71は、固定ボルト64(図4参照)によってインナコラム60のフランジ部62に固定されることにより、インナコラム60に対し支持固定されている。また、ハウジング71は、固定側ブラケット部15の固定側側板部16a、16bに形成された通孔を挿通した枢支ボルト65により、固定ブラケット11に対し枢支されている。
【0039】
このため、チルト用送りねじ装置102が有するねじ軸103の回転に伴い、ナット105が上下方向に変位することで、ロアコラム50の後側部分が変位ブラケット21の揺動支持ブラケット部25に対し上下方向に変位すると、ロアコラム50は枢支ボルト65を中心に上下方向に揺動する。即ち、枢支ボルト65は、ロアコラム50が上下方向に揺動する際における揺動軸になっている。
【0040】
アッパコラム40は、略円筒形状を有し、コラムホルダ20に対して軸方向への相対変位が可能に組み合わされている。具体的には、アッパコラム40は、前側部分がロアコラム50の小径部52に隙間嵌で内嵌している。これにより、アッパコラム40は、ロアコラム50に対して該ロアコラム50の軸方向への相対変位が可能に内嵌している。
【0041】
ロア側テレスコピック用アクチュエータ80は、ロア側テレスコピック用モータ81を有し、該ロア側テレスコピック用モータ81を駆動源として、固定ブラケット11に対しコラムホルダ20を軸方向に変位させる。本実施形態では、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80がテレスコピック用アクチュエータを構成し、且つ、ロア側テレスコピック用モータ81がテレスコピック用モータを構成する。ロア側テレスコピック用モータ81は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、ロアコラム50が揺動する際の揺動軸である枢支ボルト65の位置よりもステアリングホイール121(図1参照)寄りに位置している。つまり、ステアリングホイール121は、ステアリングシャフト3の後端に位置するステアリングホイール取付部3aに取り付け可能になっており、ロア側テレスコピック用モータ81は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、枢支ボルト65の位置よりも、ステアリングシャフト3のステアリングホイール取付部3a寄りに位置している。換言すると、ロア側テレスコピック用モータ81は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、枢支ボルト65の位置よりも後側に位置している。
【0042】
ロア側テレスコピック用アクチュエータ80は、ロア側テレスコピック用モータ81の出力軸の回転運動を、直線運動に変換するためのロア側送りねじ装置82をさらに有する。ロア側送りねじ装置82は、外周面に雄ねじ部を有し、ロア側テレスコピック用モータ81により回転駆動されるねじ軸83と、内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有するナット84とを備える。
【0043】
本実施形態に係るステアリングコラム装置2では、ねじ軸83を、固定ブラケット11に対し回転のみ可能に支持し、且つ、ナット84を、コラムホルダ20の変位ブラケット21に対し支持固定している。具体的には、ねじ軸83を、固定ブラケット11を構成する固定側ブラケット部15における固定側側板部16bの幅方向外側面に対し回転のみ自在に固定し、且つ、ナット84を、変位ブラケット21における垂下板部24bの幅方向外側面に支持固定している。
【0044】
また、ロア側テレスコピック用モータ81を、固定側ブラケット部15に対し支持固定しており、ロア側テレスコピック用モータ81で発生した回転駆動力を、減速機構を介してねじ軸83に伝達可能にしている。減速機構としては、本実施形態ではウォーム減速機が用いられる。ナット84は、ロア側テレスコピック用モータ81から減速機構を介してねじ軸83に伝達される回転駆動力によってねじ軸83を回転駆動することに伴い、該ねじ軸83に沿って前後方向に変位することが可能になっている。ナット84は、変位ブラケット21の垂下板部24bに支持固定されているため、変位ブラケット21は、前後方向に変位するナット84に伴って、固定ブラケット11に対し該固定ブラケット11の軸方向、即ち、前後方向に変位することが可能になっている。
【0045】
図7は、図5のB-B断面図である。図8は、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80の分解斜視図である。図9は、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80の組立斜視図である。ロア側送りねじ装置82の構成について詳しく説明すると、本実施形態では、ロア側テレスコピック用モータ81で発生した回転駆動力は、ウォーム減速機を介してねじ軸83に伝達可能になっているため、ねじ軸83の一端は、ウォーム減速機が配置されるハウジング86内に位置している。ハウジング86内には、ウォーム減速機を構成するウォームホイール87と、ねじ軸83を回転自在に支持する転がり軸受88と、ウォームホイール87とねじ軸83との間に介在するトルクリミッター89とが配置されている。
【0046】
ハウジング86には、ロア側テレスコピック用モータ81における出力軸(図示省略)側の部分が取り付けられる。詳しくは、ハウジング86には、ロア側テレスコピック用モータ81が取り付けられる面に、固定ボルト81a用のねじ孔86aが形成されており、ロア側テレスコピック用モータ81は、ロア側テレスコピック用モータ81に形成される通孔(図示省略)を挿通した固定ボルト81aをねじ孔86aに螺合させることにより、ハウジング86に取り付けられる。これにより、ロア側テレスコピック用モータ81は、ウォーム減速機を構成するウォーム(図示省略)が取り付けられた出力軸がハウジング86内に入り込む状態で、ハウジング86に取り付けられる。ハウジング86は、固定ブラケット11が有する固定側ブラケット部15(図2参照)の固定側側板部16b(図2参照)に取り付けられている。
【0047】
ウォームホイール87は、ロア側テレスコピック用モータ81の出力軸に取り付けられたウォームに噛み合ってハウジング86内に配置されており、ロア側テレスコピック用モータ81からの駆動力により回転することが可能になっている。ウォームホイール87には、回転の中心側の部分に、厚さ方向に貫通する挿入孔87aが形成されている。ねじ軸83は、一端寄りの部分がハウジング86内で、ウォームホイール87に形成される挿入孔87aに挿入されており、これによりねじ軸83は、ウォームホイール87と共に回転することが可能になっている。
【0048】
転がり軸受88は、ハウジング86内における、ねじ軸83の軸方向においてナット84が位置する側の反対側に配置されている。転がり軸受88は、外周面側がハウジング86に嵌め込まれており、内周面側にねじ軸83が通されている。これにより、転がり軸受88は。ねじ軸83がハウジング86に対して回転自在にねじ軸83を支持している。
【0049】
トルクリミッター89は、外径がウォームホイール87に形成される挿入孔87aの内径と同程度で、内径が、ねじ軸83における、ウォームホイール87の挿入孔87aに挿入される部分の外径と同程度の円環状の形状で形成されている。ウォームホイール87の挿入孔87aにトルクリミッター89が嵌め込まれ、ねじ軸83は、挿入孔87aに嵌め込まれてトルクリミッター89に対して挿入されることにより、ウォームホイール87の挿入孔87aに対して、トルクリミッター89を介して挿入される。ウォームホイール87の挿入孔87aとねじ軸83との間に配置されるトルクリミッター89は、ウォームホイール87の回転を、摩擦力によりウォームホイール87からねじ軸83に伝達することが可能になっている。
【0050】
また、トルクリミッター89は、ウォームホイール87とねじ軸83との間で所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合にはウォームホイール87またはねじ軸83に対して滑ることにより、ウォームホイール87とねじ軸83との相対回転を許容可能になっている。つまり、トルクリミッター89は、ウォームホイール87とねじ軸83との少なくとも一方に対しては、相対回転不可の状態にはなっておらず、ウォームホイール87とねじ軸83との間で所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合には、滑りが発生する。これにより、トルクリミッター89は、所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合に、ウォームホイール87とねじ軸83との相対回転を許容することができる。トルクリミッター89で滑りが発生する回転トルクは、例えば、5~10Nmに設定され、この大きさ以上の回転トルクが作用する場合に、トルクリミッター89は、滑りが発生してウォームホイール87とねじ軸83との相対回転を許容する。トルクリミッター89として、トレランスリングを用いることもできる。
【0051】
なお、この場合における所定の大きさの回転トルクは、ロア側テレスコピック用モータ81より受けた回転駆動力により回転をするウォームホイール87が、回転駆動力をねじ軸83側に伝達する際の回転トルクよりも大きいトルクになっている。このため、ロア側テレスコピック用モータ81より受けた回転駆動力により回転をするウォームホイール87から、回転駆動力をねじ軸83側に伝達する際には、トルクリミッター89は、滑りが発生することなく摩擦力によって回転駆動力を伝達することができる。
【0052】
トルクリミッター89を介してウォームホイール87の挿入孔87aに挿入されるねじ軸83は、ステアリングシャフト3と平行に配置され、ウォームホイール87の挿入孔87aに挿入される側の端部側から、後側に向かって延在して配置されている。つまり、ねじ軸83は、ウォームホイール87が内設されるハウジング86内から、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121が位置する側に向かって、ステアリングシャフト3と平行に延在して配置されている。
【0053】
ねじ軸83の雄ねじ部と螺合するナット84は、ねじ軸83の回転に伴ってねじ軸83の軸方向に相対的に変位することが可能になっており、且つ、ナット支持部材85によりコラムホルダ20に支持固定される。詳しくは、ナット84は、コラムホルダ20の変位ブラケット21が有する垂下板部24b(図3参照)に、ナット支持部材85によって支持固定されている。
【0054】
また、ねじ軸83には、ねじ軸83に対して回転トルクを入力する部材である、操作部材110が係合する係合部83aが一端に形成されている。係合部83aは、ねじ軸83における、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121が位置する側の端部、即ち、ねじ軸83における後側の端部に形成されている。本実施形態では、係合部83aは、多角形の孔となってねじ軸83の端部に形成されており、具体的には、係合部83aは、六角形の孔の形状で形成されている。
【0055】
アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90(図4参照)は、アッパ側テレスコピック用モータ91を有し、該アッパ側テレスコピック用モータ91を駆動源として、コラムホルダ20に対しアッパコラム40を軸方向に変位させる。本実施形態では、アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90は、アッパ側テレスコピック用モータ91の出力軸の回転運動を、直線運動に変換するためのアッパ側送りねじ装置92(図2参照)をさらに有する。
【0056】
アッパ側送りねじ装置92は、外周面に雄ねじ部を有し、アッパ側テレスコピック用モータ91により回転駆動されるねじ軸93と、内周面に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有するナット94とを備える。
【0057】
本実施形態では、ねじ軸93を、コラムホルダ20のロアコラム50に対し回転のみ可能に支持し、且つ、ナット94を、アッパコラム40に対し支持固定している。具体的には、ねじ軸93を、ロアコラム50の大径部51の前側部分の下面に対し回転のみ自在に支持し、且つ、ナット94を、複数の部材からなる連結部材95によって、アッパコラム40の前側部分の下面に対し支持固定している。詳しくは、ロアコラム50の下面には、軸方向に伸長する長孔が形成されており、連結部材95は、ロアコラム50に形成される長孔を貫通して配置されている。連結部材95の下側部分は、ロアコラム50の下側に位置するナット94に連結され、連結部材95の上側部分は、ロアコラム50内に位置するアッパコラム40に連結されている。これにより、連結部材95は、ロアコラム50の下側に位置するナット94を、ロアコラム50内に位置するアッパコラム40に対して支持固定している。また、アッパ側テレスコピック用モータ91を、ロアコラム50に対し支持固定している。
【0058】
アッパ側テレスコピック用モータ91で発生した回転駆動力は、ウォーム減速機などの減速機構を介してねじ軸93に伝達可能になっている。このため、アッパ側テレスコピック用モータ91で発生した回転駆動力は、減速機構を介してねじ軸93に伝達され、ねじ軸93に伝達された駆動力によってねじ軸93が回転駆動することにより、ねじ軸93に螺合するナット94は、ねじ軸93に沿って前後方向に変位する。これにより、ナット94が支持固定されるアッパコラム40は、ナット94の前後方向の変位に伴って、ロアコラム50に対し該ロアコラム50の軸方向、即ち、前後方向に変位することが可能になっている。
【0059】
これらのように構成されるステアリングコラム装置2は、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80とアッパ側テレスコピック用アクチュエータ90とを動作させることにより、固定ブラケット11に対するステアリングシャフト3の相対的な位置を、前後方向に適宜変位させることが可能になっている。
【0060】
チルト用アクチュエータ100(図4参照)は、チルト用アクチュエータ100における駆動源であるチルト用モータ101と、チルト用送りねじ装置102(図6参照)とを有する。
【0061】
チルト用モータ101とチルト用送りねじ装置102とを有して構成されるチルト用アクチュエータ100は、ステアリングコラム10における、ステアリングシャフト3のステアリングホイール取付部3aが位置する側の反対側の端部側に位置してステアリングシャフト3の軸方向に直交する揺動軸を中心として、ステアリングシャフト3を揺動させることが可能になっている。本実施形態では、チルト用アクチュエータ100による揺動の中心となる揺動軸としては、枢支ボルト65が適用される。
【0062】
揺動軸である枢支ボルト65は、ステアリングコラム10におけるステアリングホイール取付部3aが位置する側の反対側の端部側、即ち、ステアリングコラム10の前端側に配置されるため、チルト用モータ101を含むチルト用アクチュエータ100は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、枢支ボルト65の位置よりも後側の位置に配置されている。つまり、チルト用モータ101を有するチルト用アクチュエータ100は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、枢支ボルト65の位置よりもステアリングホイール121(図1参照)寄りに位置している。
【0063】
これらのように構成されるチルト用アクチュエータ100は、チルト用モータ101で発生した回転駆動力を、ウォーム減速機などの減速機構を介してチルト用送りねじ装置102のねじ軸103(図6参照)に伝達可能になっている。このため、チルト用モータ101で発生した回転駆動力は、減速機構を介してチルト用送りねじ装置102のねじ軸103に伝達され、ねじ軸103に伝達された駆動力によってねじ軸103が回転駆動することにより、ねじ軸103に螺合するナット105(図6参照)は、ねじ軸103に沿って上下方向に移動する。これにより、チルト用アクチュエータ100は、ナット105に形成される枢支軸部104が枢支するロアコラム50の後側部分を、変位ブラケット21に対し上下方向に変位させる。
【0064】
ステアリングシャフト3は、ステアリングコラム装置2が有するステアリングコラム10の径方向内側に回転自在に支持されている。
【0065】
ステアリングシャフト3は、一端にステアリングホイール121(図1参照)が取り付けられ、ステアリングホイール121から入力されるトルクにより回転する。詳しくは、ステアリングホイール121は、ステアリングシャフト3における後側の端部形成されるステアリングホイール取付部3aに取り付けられ、ステアリングシャフト3により支持される。また、ステアリングシャフト3の前側の端部には、ステアリングホイール121に操作反力を付与するための反力付与装置70(図2参照)が接続されている。つまり、反力付与装置70は、ステアリングコラム10における、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121が位置する側の反対側の端部側に配置されている。
【0066】
反力付与装置70は、ハウジング71と、反力付与装置70における駆動源である反力付与モータ72と、減速機とを備える。なお、反力付与モータ72は、図2において二点鎖線により示している。反力付与装置70は、運転者によりステアリングホイール121が操作された場合に、反力付与モータ72を駆動し、反力付与モータ72のトルクを、ハウジング71の内側に収納された減速機により増大してから、ステアリングシャフト3に付与することが可能になっている。
【0067】
減速機は、ハウジング71内に配置されており、ウォームギヤと、ウォームギヤに噛み合うウォームホイールとを備えるウォーム減速機になっている。反力付与モータ72は、回転軸が、ハウジング71内に配置される減速機のウォームギヤに直結して配置されており、即ち、反力付与モータ72は、出力軸が減速機のウォームギヤに直結している。これにより、反力付与モータ72は、反力付与モータ72の回転軸がステアリングシャフト3の軸方向に対して直交する向きで配置されている。換言すると、反力付与モータ72は、反力付与モータ72で発生したトルクを、ウォームギヤとウォームホイールとを有する減速機を介してステアリングシャフト3に付与することにより、反力付与モータ72の回転軸がステアリングシャフト3の軸方向に対して直交する向きで配置されている。
【0068】
その際に、反力付与モータ72は、ステアリングシャフト3の軸方向における当該反力付与モータ72回転軸の位置が、チルト用アクチュエータ100において揺動の中心である揺動軸として用いられる枢支ボルト65に対して、ステアリングホイール121が位置する側の反対側に配置されている。つまり、枢支ボルト65は、ステアリングシャフト3の軸方向における位置が、反力付与モータ72の回転軸の位置よりも後側に位置して配置されている。
【0069】
これらのように構成される反力付与装置70からステアリングシャフト3に付与するトルクは、運転者がステアリングホイール121に対して行った操作の回転方向の反対方向になっており、即ち、運転者によるステアリングホイール121の回転操作に対して、反力となる方向のトルクになっている。このため、反力付与装置70は、ステアリングホイール121からステアリングシャフト3に入力されるトルクに対して回転方向が反対方向となるトルクをステアリングシャフト3に対して付与することが可能になっている。これにより、反力付与装置70は、運転者によって操作されたステアリングホイール121に対して、運転者の操作に対する操作反力を付与することが可能になっている。
【0070】
なお、反力付与装置70によってステアリングホイール121に付与される反力の大きさは、センサにより取得したステアリングホイール121の操舵角やステアリングシャフト3に加わるトルクなどに応じて決定される。また、減速機は、例えばウォーム減速機により構成される。
【0071】
本実施形態に係る操舵装置1において、ステアリングホイール121の前後位置を調節する際には、ロア側テレスコピック用モータ81への通電に基づいて、固定ブラケット11に対して変位ブラケット21を軸方向、即ち、前後方向に相対変位させ、これによりコラムホルダ20を前後方向に相対変位させる。または、アッパ側テレスコピック用モータ91への通電に基づいて、コラムホルダ20のロアコラム50に対して、アッパコラム40を軸方向、即ち、前後方向に相対変位させる。或いは、ステアリングホイール121の前後位置を調節する際には、ロア側テレスコピック用モータ81への通電に基づいてコラムホルダ20を前後方向に相対変位させることと、アッパ側テレスコピック用モータ91への通電に基づいてアッパコラム40を前後方向に相対変位させることとの双方を行ってもよい。
【0072】
詳しくは、ロア側テレスコピック用モータ81に通電した場合には、ロア側テレスコピック用モータ81の回転駆動力が、ロア側テレスコピック用モータ81の出力軸に取り付けられるウォームからウォームホイール87に伝達され、ウォームホイール87が回転をする。ロア側テレスコピック用モータ81からウォームホイール87に伝達された回転駆動力は、トルクリミッター89を介してねじ軸83に伝達される。即ち、トルクリミッター89は、ウォームホイール87とトルクリミッター89との間の摩擦力によりウォームホイール87と共に回転し、ねじ軸83とトルクリミッター89との間の摩擦力により、回転駆動力をねじ軸83に伝達してねじ軸83を回転させる。
【0073】
ねじ軸83が回転することにより、ねじ軸83に螺合するナット84は、ねじ軸83の回転に伴ってねじ軸83の軸方向、即ち、前後方向に変位する。これにより、ナット支持部材85によりナット84が支持固定されるコラムホルダ20の変位ブラケット21が、ナット84と共に前後方向に変位する。ロア側テレスコピック用モータ81に通電した場合には、このようにナット84を前後方向に変位させることにより、変位ブラケット21を固定ブラケット11に対して、固定ブラケット11の軸方向、即ち、前後方向に変位させる。
【0074】
また、アッパ側テレスコピック用モータ91に通電した場合には、アッパ側テレスコピック用モータ91により、アッパ側送りねじ装置92のねじ軸93を回転駆動して、ナット94を前後方向に変位させる。これにより、ナット94が支持固定されているアッパコラム40を、ロアコラム50に対してロアコラム50の軸方向、即ち、前後方向に変位させる。これによって、ステアリングコラム10の全長を伸縮させるとともに、ステアリングシャフト3の全長を伸縮させることで、ステアリングホイール121の前後位置を調節する。ステアリングホイール121の前後位置を所望の位置に調節した後は、ロア側テレスコピック用モータ81やアッパ側テレスコピック用モータ91への通電を停止する。
【0075】
ステアリングホイール121の上下位置を調節する際には、チルト用モータ101への通電に基づいて、ロアコラム50の後側部分を、変位ブラケット21に対して上下方向に相対変位させる。即ち、チルト用モータ101に通電し、チルト用モータ101により、チルト用送りねじ装置102が有するねじ軸103を回転駆動して、ねじ軸103に螺合するナット105を上下方向に変位させる。これにより、ナット105に形成される枢支軸部104が枢支するロアコラム50を、枢支ボルト65を中心に揺動させ、ロアコラム50の後側部分を上下方向に変位させる。本実施形態に係るステアリングコラム装置2では、このようにステアリングコラム10の径方向内側に回転自在に支持されたステアリングシャフト3の後側の端部を上下方向に変位させることにより、ステアリングホイール121の上下位置を調節する。ステアリングホイール121の上下位置を所望の位置に調節した後は、チルト用モータ101への通電を停止する。
【0076】
なお、ステアリングホイール121の前後位置の調節と、上下位置の調節とは、同時に行うこともできるし、独立して異なる時間に行うこともできる。また、ステアリングホイール121の前後位置を調節する際には、例えば、コラムホルダ20を固定ブラケット11に対して軸方向に高速で大きく変位させた後、固定ブラケット11に対するコラムホルダ20の軸方向変位量や、コラムホルダ20に対するアッパコラム40の軸方向変位量を微調整することで、ステアリングホイール121の前後位置を所望の位置に調節することができる。
【0077】
本実施形態に係る操舵装置1では、ステアリングホイール121の前後位置を調節する際には、ロア側テレスコピック用モータ81、またはアッパ側テレスコピック用モータ91への通電に基づいて前後位置を調整するが、これらのモータに不具合が発生することによりモータを作動させることができなくなった場合は、モータの駆動力によるステアリングホイール121の前後位置の調整が不可能になる。本実施形態では、このような場合は、ステアリングホイール121の前後位置を手動で調節することが可能になっている。
【0078】
例えば、操舵装置1が搭載される車両の運転制御を自動運転にする際には、車両の運転制御を自動運転と手動運転とで切り替える運転制御部は、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80やアッパ側テレスコピック用アクチュエータ90を制御することにより、ステアリングホイール121を前側に変位させる。これにより、自動運転時には、運転者とステアリングホイール121との間の距離を大きくし、運転者の前側の空間を大きくすることにより、運転者がリラックスし易くなるようにする。
【0079】
車両の運転制御を自動運転の状態から手動運転に切り替える際には、運転制御部は、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80やアッパ側テレスコピック用アクチュエータ90を制御することにより、ステアリングホイール121を後側に変位させる。これにより、手動運転時には、運転者がステアリングホイール121に対して運転操作を適切に行うことができる位置に、ステアリングホイール121を変位させる。
【0080】
このように、車両の運転制御を自動運転から手動運転に切り替える際において、ステアリングホイール121を前後方向に変位させるための駆動源として用いられるモータに不具合が発生することにより、モータを作動させることができなくなった場合は、ステアリングホイール121を後側に変位させることができなくなる。このような場合は、本実施形態では、車両を路肩等の停車させることが可能な位置で車両を一旦停車させ、手動でステアリングホイール121の前後位置を調節することにより、運転者が運転操作を適切に行うことができる位置にステアリングホイール121を変位させることができる。
【0081】
次に、ステアリングホイール121を手動で変位させる際の手法について説明する。図10は、コラムホルダ20が前寄りの位置の状態でロア側テレスコピック用モータ81が作動不可能になった状態を示すステアリングコラム装置2の平面図である。図11は、図10に示すステアリングコラム装置2の斜視図である。図10図11に示すように、コラムホルダ20が前寄りの位置の状態で、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121は、前寄りの位置で停止することになる。この場合、本実施形態に係る操舵装置1では、ねじ軸83の端部に形成される係合部83aに操作部材110を係合させることにより、車両の運転者が手動でコラムホルダ20を変位させることが可能になっている。
【0082】
操作部材110は、ねじ軸83の係合部83aに係合する部分が係合部83aの形状である多角形と同じ形状で形成され、係合部83aに挿し込むことにより係合部83aに係合することが可能な部材になっている。ねじ軸83の係合部83aは、六角形の孔の形状で形成されているため、操作部材110は、係合部83aに挿し込んで係合部83aに係合する六角形の棒状の部材になっている。操作部材110は、例えば、いわゆる六角レンチが用いられる。
【0083】
図12は、操作部材110をねじ軸83の係合部83aに係合させた状態を示すステアリングコラム装置2の側面図である。操作部材110は、ねじ軸83における後側の端部に形成されている係合部83aに対して後側から挿し込むことにより、係合部83aに係合させる。即ち、操作部材110は、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121が位置する側から、ねじ軸83の係合部83aに対して係合させる。操作部材110を係合部83aに係合させたら、運転者は操作部材110に対して、コラムホルダ20を所望の方向に変位させる方向にねじ軸83を回転させる力を付与する。
【0084】
例えば、ステアリングホイール121が前寄りに位置する状態で、ロア側テレスコピック用モータ81に不具合が発生することによりロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合には、ねじ軸83の係合部83aに係合させた操作部材110に対して、コラムホルダ20を後側に変位させる方向にねじ軸83を回転させる力を付与する。これにより、係合部83aに操作部材110が係合するねじ軸83には、操作部材110から回転トルクが入力される。
【0085】
ねじ軸83は、係合部83aが形成される側の端部の反対側の端部寄りの部分が、トルクリミッター89を介してウォームホイール87の挿入孔87aに挿入されているが、ウォーム減速機は、ウォームホイール87からウォームへの回転の伝達が困難な、いわゆるセルフロックの特性を有している。このため、操作部材110によってねじ軸83に対して回転トルクを付与した場合でも、ウォームホイール87はセルフロックにより回転をしないため、ねじ軸83とウォームホイール87との間には、相対的に大きな回転トルクが作用する。
【0086】
ここで、ねじ軸83は、ウォームホイール87の挿入孔87aに対してトルクリミッター89を介して挿入されており、トルクリミッター89は、摩擦力によってウォームホイール87とねじ軸83との間で回転を伝達する。このため、ねじ軸83とウォームホイール87との間で相対的に大きな回転トルクが作用する場合には、トルクリミッター89は、ねじ軸83とトルクリミッター89との間、またはウォームホイール87とトルクリミッター89との間で、回転トルクによって滑りが発生する。つまり、ねじ軸83からウォームホイール87側に作用する回転トルクが、トルクリミッター89が滑りを発生させることなく伝達することのできるトルク以上の大きさである場合は、ねじ軸83とトルクリミッター89との間、またはウォームホイール87とトルクリミッター89との間で滑りが発生する。これにより、ねじ軸83は、操作部材110によってねじ軸83に対して付与される回転トルクによりウォームホイール87に対して相対回転をし、ウォームホイール87が回転不可の状態であるのに関わらず、ねじ軸83を回転させることができる。
【0087】
図13は、操作部材110を用いて固定ブラケット11に対してコラムホルダ20を相対変位させた状態を示すステアリングコラム装置2の側面図である。操作部材110からねじ軸83に対して付与される回転トルクにより、ねじ軸83が回転をすると、ねじ軸83に螺合しているナット84は、ねじ軸83の回転に伴ってねじ軸83の軸方向に変位する。これにより、ナット支持部材85によりナット84が支持固定されるコラムホルダ20の変位ブラケット21も、ナット84と共にねじ軸83の軸方向に変位する。このため、例えば、操作部材110からねじ軸83に対して付与する力により、コラムホルダ20を後側に変位させる方向にねじ軸83を回転させた場合には、ねじ軸83に螺合するナット84は、ねじ軸83の回転に伴って後側に変位し、ナット84が支持固定されるコラムホルダ20も、図13に示すように後側に変位する。
【0088】
これにより、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121も、コラムホルダ20と共に後側に変位し、運転者が操舵の操作を行い易い位置に、ステアリングホイール121を変位させることができる。従って、車両の運転制御を自動運転から手動運転に切り替える際において、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合には、操作部材110を用いてねじ軸83を回転させることにより、ステアリングホイール121を前後方向に変位させることができ、運転者が操舵の操作を行い易い位置にステアリングホイール121を位置させることができる。
【0089】
以上の本実施形態に係る操舵装置1では、コラムホルダ20を固定ブラケット11に対して軸方向に変位させるロア側テレスコピック用アクチュエータ80のねじ軸83は、操作部材110が係合する係合部83aが一端に形成されており、また、ねじ軸83は、トルクリミッター89を介してウォームホイール87の挿入孔87aに挿入されている。ウォームホイール87とねじ軸83との間に介在するトルクリミッター89は、ウォームホイール87とねじ軸83との間で所定の大きさ以上の回転トルクが作用する場合には、ウォームホイール87またはねじ軸83に対して滑ることにより、ウォームホイール87とねじ軸83との相対回転を許容することが可能になっている。
【0090】
このため、ロア側テレスコピック用モータ81に不具合が発生することにより、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合には、ねじ軸83の係合部83aに操作部材110を係合させ、操作部材110からねじ軸83に対して回転トルクを付与することにより、トルクリミッター89に滑りを発生させて、ねじ軸83をウォームホイール87に対して相対回転させることができる。これにより、ねじ軸83に螺合するナット84をねじ軸83の回転に伴ってねじ軸83の軸方向に変位させることができ、ナット支持部材85によりナット84が支持固定されるコラムホルダ20を、ナット84と共に固定ブラケット11に対して軸方向に変位させることができる。従って、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合でも、操作部材110を用いてねじ軸83を回転させることにより、コラムホルダ20を固定ブラケット11に対して軸方向に変位させる動作を行わせることができる。この結果、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合でも、ロア側テレスコピック用モータ81で発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0091】
また、本実施形態に係る操舵装置1では、ねじ軸83の係合部83aは、ねじ軸83における、ステアリングシャフト3に取り付けられるステアリングホイール121が位置する側の端部に形成されるため、ステアリングホイール121寄りの位置から、係合部83aに操作部材110を係合させることができる。このため、操作部材110を用いてねじ軸83を回転させる際に、操作部材110をねじ軸83の係合部83aに対して係合させることができ、操作部材110を用いてねじ軸83を回転させることができる。この結果、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合でも、ロア側テレスコピック用モータ81で発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0092】
また、本実施形態に係る操舵装置1では、ねじ軸83の係合部83aは多角形の孔になっており、操作部材110は、係合部83aに係合する部分が係合部83aの多角形と同じ形状で形成されるため、操作部材110は、係合部83aに挿し込むことにより係合部83aに係合することができる。これにより、操作部材110は、ねじ軸83の係合部83aに対して相対回転が不可の状態で係合させることができ、操作部材110を用いてねじ軸83を回転させることができる。この結果、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合でも、ロア側テレスコピック用モータ81で発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0093】
また、本実施形態に係る操舵装置1では、ロア側テレスコピック用モータ81が作動不可能になった場合におけるコラムホルダ20の軸方向への変位動作を確保することができる。これにより、自動運転が可能な車両においてロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなることによりロア側テレスコピック用モータ81によってステアリングホイール121を前後方向に変位させることが出来なくなった場合でも、手動運転に適した位置へのステアリングホイール121の変位を行わせることができる。この結果、操舵装置1を、自動運転が可能な車両に搭載した際における、手動運転による操舵の操作性を確保することができる。
【0094】
また、本実施形態に係る操舵装置1では、ステアリングコラム10を、固定ブラケット11とコラムホルダ20とを軸方向の相対変位を可能に組み合わせ、且つ、コラムホルダ20とアッパコラム40とを軸方向の相対変位を可能に組み合わせることにより構成している。即ち、ステアリングコラム10は、2段伸縮構造を有している。このため、ステアリングコラム10の全長の伸縮可能量を十分に確保しつつ、ロア側送りねじ装置82のねじ軸83及びアッパ側送りねじ装置92のねじ軸93の軸方向寸法が過大になることを防止できる。
【0095】
また、本実施形態の操舵装置1では、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80のロア側テレスコピック用モータ81とアッパ側テレスコピック用アクチュエータ90のアッパ側テレスコピック用モータ91とに同時に通電することで、コラムホルダ20を固定ブラケット11に対して軸方向に変位させると同時に、アッパコラム40をコラムホルダ20に対して軸方向に変位させることができる。このため、1個の電動モータにより、ステアリングコラムの全長を伸縮させる構造と比較して、ステアリングコラム10の伸縮速度を高速化し易くすることができる。
【0096】
また、これらのようにステアリングコラム10の伸縮可能量を確保しつつ、伸縮速度の高速化を図るために、ステアリングコラム10を2段伸縮構造にした場合、コラムホルダ20やアッパコラム40の軸方向への移動量をそれぞれ小さくすることができる。つまり、ステアリングコラム10を2段伸縮構造にした場合は、ステアリングコラム10の伸縮構造が1段の場合と比較して、ロア側送りねじ装置82によるコラムホルダ20の軸方向への移動量と、アッパ側送りねじ装置92によるアッパコラム40の軸方向への移動量とをそれぞれ小さくすることができる。これにより、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合に、ねじ軸83を手動で回転させてステアリングホイール121の前後位置を手動で調節するにあたっての、手動によるコラムホルダ20の移動量が大きくなり過ぎることを抑制することができる。この結果、ロア側テレスコピック用モータ81を作動させることができなくなった場合でも、ロア側テレスコピック用モータ81で発生する駆動力を用いて行っていた動作を容易に行わせることができる。
【0097】
[変形例]
上述した実施形態に係る操舵装置1では、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80が有するねじ軸83が、ロア側テレスコピック用モータ81からの駆動力により回転するウォームホイール87の挿入孔87aに対して、トルクリミッター89を介して挿入されているが、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80以外のアクチュエータが、同様の構成になっていてもよい。
【0098】
例えば、コラムホルダ20が第1のコラム部材を構成すると共に、アッパコラム40が第2のコラム部材を構成し、アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90が、トルクリミッターを有して構成されていてもよい。この場合、アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90は、アッパ側送りねじ装置92が有するねじ軸93(図2参照)が、アッパ側テレスコピック用モータ91(図4参照)からの駆動力により回転するウォームホイール(図示省略)の挿入孔に対して、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80のトルクリミッター89と同様のトルクリミッター(図示省略)を介して挿入される。また、ねじ軸93には、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80のねじ軸83の端部に形成される係合部83aと同様の係合部が、ねじ軸93における後側の端部に形成される。ねじ軸93は、係合部に操作部材を係合させることができるように、ロア側テレスコピック用アクチュエータ80のねじ軸83と同様に、後側の端部が後側に向かって露出して配置される。
【0099】
アッパ側テレスコピック用アクチュエータ90は、これらのように構成されることにより、アッパ側テレスコピック用モータ91を作動させることができなくなった場合でも、ねじ軸93の係合部に操作部材を係合させてねじ軸93に対して回転トルクを付与することにより、トルクリミッターで滑りが発生し、ねじ軸93を回転させることができる。従って、アッパ側テレスコピック用モータ91を作動させることができなくなった場合でも、操作部材を用いてねじ軸93を回転させることにより、アッパコラム40をコラムホルダ20に対して軸方向に変位させる動作を行わせることができる。この結果、アッパ側テレスコピック用モータ91を作動させることができなくなった場合でも、アッパ側テレスコピック用モータ91で発生する駆動力を用いて行っていた動作を行わせることができる。
【0100】
また、上述した実施形態に係る操舵装置1では、ねじ軸83の一端に形成される係合部83aは、多角形の孔になっており、操作部材110は、係合部83aに係合する部分が係合部83aの形状である多角形と同じ形状で形成されることにより係合部83aに係合するが、係合部83aと操作部材110とは、これ以外の形態であってもよい。例えば、操作部材110側に、ねじ軸83に形成される係合部83aが入り込む孔が形成され、ねじ軸83に形成される係合部83aが、操作部材110に形成される孔に入り込むことにより、係合部83aと操作部材110とが係合するように構成されていてもよい。ねじ軸83の一端に形成される係合部83aと操作部材110とは、互いを係合させることができ、且つ、係合部83aに係合した操作部材110によってねじ軸83を回転させることができれば、その構成は問わない。
【0101】
また、上述した実施形態に係るステアリングコラム10は、2段伸縮構造を備えるが、本開示は、ステアリングコラムが1段伸縮構造を備えるステアリングコラム装置に適用することもできる。
【0102】
また、上述した実施形態では、本開示の一例として、ステアリングホイール121の前後位置を調節するためのテレスコピック機構と、上下位置を調節するためのチルト機構との両方を備えるステアリングコラム装置2に適用した場合について説明したが、本開示は、テレスコピック機構のみを備えるステアリングコラム装置に適用することもできる。
【0103】
以上、本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示は上記の実施形態に記載されたものに限定されない。実施形態や変形例として説明した構成は、適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 操舵装置
2 ステアリングコラム装置
3 ステアリングシャフト
10 ステアリングコラム
11 固定ブラケット
12 固定板部
20 コラムホルダ
21 変位ブラケット
22 変位板部
30 リニアガイド
40 アッパコラム
50 ロアコラム
60 インナコラム
65 枢支ボルト
70 反力付与装置
71 ハウジング
72 反力付与モータ
80 ロア側テレスコピック用アクチュエータ
81 ロア側テレスコピック用モータ
82 ロア側送りねじ装置
83 ねじ軸
83a 係合部
84 ナット
85 ナット支持部材
86 ハウジング
87 ウォームホイール
87a 挿入孔
89 トルクリミッター
90 アッパ側テレスコピック用アクチュエータ
91 アッパ側テレスコピック用モータ
92 アッパ側送りねじ装置
100 チルト用アクチュエータ
101 チルト用モータ
102 チルト用送りねじ装置
110 操作部材
120 ステアリングシステム
121 ステアリングホイール
130 転舵装置
131 アクチュエータ
132 タイロッド
135 操舵輪
図1
図2
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