(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084776
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】防汚性樹脂組成物、およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20230613BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20230613BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230613BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K3/22
C08K5/00
C08K3/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199066
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】谷口 明男
(72)【発明者】
【氏名】田中 滋
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002DE096
4J002DG016
4J002EG046
4J002EV346
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD110
4J002FD130
4J002FD140
4J002FD160
4J002FD170
4J002FD186
4J002GH01
4J002GH02
4J002GL00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】防汚性や機械的特性に優れる防汚性樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体を含む樹脂成分(A)と、亜酸化銅、銅ピリチオン、チオシアン酸第一銅、および、ナフテン酸銅の群から選択される少なくとも1種の銅イオン含有化合物成分(B)とを含み、前記銅イオン含有化合物成分(B)の含有量が、前記樹脂成分(A)100重量部に対して10~60重量部である、防汚性樹脂組成物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体を含む樹脂成分(A)と、亜酸化銅、銅ピリチオン、チオシアン酸第一銅、および、ナフテン酸銅の群から選択される少なくとも1種の銅イオン含有化合物成分(B)とを含み、
前記銅イオン含有化合物成分(B)の含有量が、前記樹脂成分(A)100重量部に対して10~60重量部である、防汚性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体において、共重合体を構成する構造単位の3-ヒドロキシブチレート(3HB)と3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)の平均含有比(3HB/3HH)が95モル%/5モル%~82モル%/18モル%である、請求項1に記載の防汚性樹脂組成物。
【請求項3】
前記銅イオン含有化合物成分(B)が、亜酸化銅である、請求項1または2に記載の防汚性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の防汚性樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項5】
厚みが0.01~1mmのフィルム状である、請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の成形体を、船底、ブイ、海産物用養殖用支柱、海上フロート、オイルフェンス、養殖いかだ、漁網、および、海洋構築物から選択される対象物の表面に固着させた、水棲生物付着防止物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体と、特定の銅イオン含有化合物とを含む防汚性樹脂組成物、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
浸水部分の腐食や航行速度低下の原因となる、フジツボ、フナクイムシ、藻類等の水棲生物の付着防止を目的として、ブイ、海上フロート等の海洋構造物や船舶には、防汚性塗料が塗装されている。また、養殖用の網、いかだ等においても、海中生物の付着による魚介類の致死防止等の目的で防汚性塗料が塗装されている。
【0003】
従来の防汚性塗料として、塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂等の船底塗料用樹脂に、トリクレジルホスフェートや塩素化パラフィン等の可塑剤で被覆された亜酸化銅を混合してなる防汚性塗料が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ポリ塩化ビニル共重合体およびトリクレジルホスフェート等の成分に亜酸化銅が80重量%程度含有している防汚性塗料が開示されているが、塗膜表面の銅の酸化等により銅イオンの水中への溶出量がすぐに低下したり、亜酸化銅が多く含まれるため塗膜が脆く船底等から塗膜が脱落してしまう等、防汚効果や機械的特性の点で不十分であった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、防汚性や機械的特性に優れる防汚性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体(以下、PHBHと称する場合もある。)に亜酸化銅などの銅イオン含有化合物を組み合わせた防汚性樹脂材料とすることにより、材料の防汚性や機械的特性(材料の耐久性)が大幅に改良されることをようやく見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体を含む樹脂成分(A)と、亜酸化銅、銅ピリチオン、チオシアン酸第一銅、および、ナフテン酸銅の群から選択される少なくとも1種の銅イオン含有化合物成分(B)とを含み、前記銅イオン含有化合物成分(B)の含有量が、前記樹脂成分(A)100重量部に対して10~60重量部である、防汚性樹脂組成物に関する。
【0009】
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体において、共重合体を構成する構造単位の3-ヒドロキシブチレート(3HB)と3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)の平均含有比(3HB/3HH)が95モル%/5モル%~82モル%/18モル%である。
【0010】
好ましくは、前記銅イオン含有化合物成分(B)が、亜酸化銅である。
【0011】
また本発明は、前記防汚性樹脂組成物を含む、成形体にも関する。好ましくは、前記成形体は、厚みが0.01~1mmのフィルム状である。
【0012】
また、本発明は、前記成形体を、船底、ブイ、海産物用養殖用支柱、海上フロート、オイルフェンス、養殖いかだ、漁網、および、海洋構築物から選択される対象物の表面に固着させた、水棲生物付着防止物にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防汚性や機械的特性に優れる防汚性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1、比較例1および2に係る、水棲生物付着防止性の評価前(海水投入前)フィルム表面の観察写真図。樹脂成分が(a)はポリ乳酸、(b)はポリメタクリル酸メチルであり、(c)はPHBHである。
【
図2】本発明の実施例1、比較例1および2に係る、水棲生物付着防止性の評価後(海水投入後)フィルム表面の観察写真図。樹脂成分が(a)はポリ乳酸、(b)はポリメタクリル酸メチルであり、(c)はPHBHである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の一実施形態は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体を含む樹脂成分(A)と銅イオン含有化合物成分(B)とを含む防汚性樹脂組成物に関する。
【0017】
<防汚性樹脂組成物>
本発明の防汚性樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体を含む樹脂成分(A)と銅イオン含有化合物成分(B)を含む。
前記銅イオン含有化合物(B)の含有量は、前記樹脂成分(A)100重量部に対して10~60重量部の範囲であり、15~55重量部がより好ましく、20~50重量部が特に好ましい。前記範囲で混合させることにより、防汚性樹脂組成物を含む成形体において、防汚性(銅イオンの水中への徐放性)や機械的特性のバランスに優れる成形体とすることができる。
【0018】
<樹脂成分(A)>
[ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体]
前記防汚性樹脂組成物の主要な樹脂成分を構成するポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合体(PHBH)は、3-ヒドロキシブチレート構造単位(モノマー単位、略称:3HB)と、3-ヒドロキシヘキサのエート構造単位(モノマー単位、略称:3HH)を含む共重合体である。
【0019】
PHBHは、樹脂の機械的特性や加工性に優れる点で3HB構造単位(特に、上記一般式(1)で表される構造単位)を、全構造単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。
【0020】
PHBHは、共重合体を構成する構造単位として、3HBおよび3HHに加えて、その他の構造単位(例えば、乳酸構造単位、4-ヒドロキシアルカノエート構造単位等)を含むものであってもよい。
【0021】
PHBH全体における3HBおよび3HHの平均含有比は、防汚性樹脂組成物を含む材料又は成形体の強度と生産性を両立する観点から、3HB/3HH=95/5~82/18(モル%/モル%)が好ましく、94/6~83/17(モル%/モル%)がより好ましく、93/7~84/16(モル%/モル%)がさらに好ましい。3HB/3HH比率上記範囲とすることにより、銅イオン含有化合物を多量に混合させても、強度のある塗膜やフィルムを形成することができる。上記範囲外とすると、塗膜が対象物から剥離しやすくなったり、フィルムの機械的特性(自己支持性)が低下する傾向がある。
【0022】
PHBH全体における各モノマー単位の平均含有割合は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有割合とは、防汚性樹脂組成物に含まれるP3HAの全体に含まれる、全モノマー単位のうち各モノマー単位が占める割合を意味する。PHBHが3HB/3HH比が異なる2種以上のPHBHの混合物である場合、当該混合物全体に含まれる各モノマーの割合を指す。
【0023】
本実施形態では、防汚性樹脂組成物が成形性に優れる点でポリPHBHの重量平均分子量は、50,000~3,000,000が好ましく、100,000~1,500,000がより好ましく、200,000~1,000,000が特に好ましい。
【0024】
前記PHBHの重量平均分子量は、樹脂成分に含まれるPHBH全体について測定した重量平均分子量である。前記PHBHが2種以上のP3HAの混合物から構成される場合、当該混合物全体について測定した重量平均分子量が前記範囲内にあればよい。この時、前記混合物に含まれる各PHBH単独の重量平均分子量は、特に限定されない。
【0025】
なお、PHBHの重量平均分子量は、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0026】
PHBHの製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物から産生されるPHBHにおいては、3HBおよび3HH構造単位が、全て(R)-3-ヒドロキシブチレートおよび(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位として含有される。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3HBと、3HHとのコポリマー生産菌としては、アエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)やアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHBH合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、各種PHBH合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。これらにより、PHBH中の3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合を調節することができる。
【0027】
尚、2種以上のPHBHをブレンドした組成物を製造する方法は、特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0028】
[他の樹脂]
樹脂成分(A)に含まれる成分は、PHBHのみから構成されてもよいが、PHBHに加えて、PHBHに該当しない他の樹脂を含むものであってもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、防汚性樹脂組成物の防汚性の観点から少ないほうが好ましい。具体的には、前記他の樹脂の含有量は、PHBH100重量部に対して、35重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、20重量部以下がさらに好ましく、10重量部以下がより更に好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
<銅イオン含有化合物成分(B)>
本発明の一実施形態において、銅イオン含有化合物成分(B)は、亜酸化銅、銅ピリチオン、チオシアン酸第一銅、および、ナフテン酸銅の群から選択される少なくとも1種を含む。
【0030】
本発明で用いる銅イオン含有化合物としては、防汚性(水中への徐放性)に優れている点で、1価の銅イオンを含有する、亜酸化銅、チオシアン酸銅が好ましく、
亜酸化銅が特に好ましい。
【0031】
<その他成分>
[添加剤]
前記防汚性樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲において、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、無機フィラー、結晶核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0032】
PHBHの結晶核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)を結晶核剤として添加することもできる。中でも、PHBHの結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。また、結晶核剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。しかし、前記防汚性樹脂組成物は、結晶核剤(特にペンタエリスリトール)を含有しないものであってもよい。
【0033】
結晶核剤として前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)以外のものを使用する場合、該結晶核剤の添加量は、特に限定されないが、PHBH100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、より好ましくは0.5~8.5重量部、更に好ましくは0.7~6重量部、特に好ましくは0.8~3重量部である。一方、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)を結晶核剤として添加する場合、その添加量は、特に限定されないが、当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)を除くPHBH100重量部に対して、0.1~15重量部が好ましく、より好ましくは1~10重量部、更に好ましくは3~8重量部、特に好ましくは4~7重量部である。
【0034】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、PHBHに対する滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミド又はエルカ酸アミドが好ましい。また、滑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0035】
前記滑剤の使用量は、特に限定されないが、PHBH100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、より好ましくは0.05~3重量部、更に好ましくは0.1~1.5重量部である。
【0036】
可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、PHBHに対する可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。また、可塑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0037】
前記可塑剤の使用量は、特に限定されないが、PHBHを含む樹脂成分の合計100重量部に対して、0~20重量部が好ましく、より好ましくは0~15重量部、更に好ましくは0~10重量部、特に好ましくは0~5重量部である。
【0038】
<防汚性樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係る防汚性樹脂組成物は、PHBHの融点以上にまで加熱し混練できる装置であれば公知の溶融混練機によって容易に製造できる。例えば、樹脂成分(A)、銅イオン含有化合物成分(B)、及び必要に応じて添加剤を押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とし、成形に供する方法や、銅イオン含有化合物成分(B)の高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これをPHBH成分(A)に所望の割合で溶融混練して成形に供する方法、などが利用できる。
【0039】
樹脂成分(A)と銅イオン含有化合物成分(B)は混練機に同時に添加してもよいし、先に樹脂成分(A)を溶融した後に、銅イオン含有化合物成分(B)を添加しても良い。
【0040】
<成形体>
本実施形態に係る防汚性樹脂組成物は、押出成形、射出成形、カレンダー成形、射出ブロー成形、押出ブロー成形など種々の成形方法によって成形体を作製することができる。
【0041】
[フィルム状の成形体の製造方法]
本発明の防汚性樹脂組成物をフィルム状またはシート状に加工する際の成形加工方法としては、インフレーション法、Tダイ押出法やプレス方法などの公知の方法を用いることができる。
【0042】
本発明のフィルム状の防汚性樹脂組成物を含む成形体(防汚性樹脂シート)は、例えば、防汚性樹脂組成物の各成分、または、防汚性樹脂組成物を含むペレット等を添加剤等と押出機中で溶融混錬した後、押出機出口に接続されているTダイから押出した後、冷却ロール上で冷却する、または2本の冷却ロールの間で挟み込む、ことで製造することができる。あるいは、防汚性樹脂組成物の各成分、または、防汚性樹脂組成物を含むペレット等を複数の加熱ロール間で溶融混錬した後、例えば、1本または2本以上の冷却ロール間を通す、プレスするなどの手段でフィルムを得ることで製造することができる。
また、上記以外の方法としては、公知の方法により製造される防汚性樹脂組成物を含む粉体塗料を、基材上にパウダーコーティング法により塗膜を形成し、基材より塗膜を引きはがしフィルム状の成形体を得る方法や、防汚性樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液や水などに分散分散させた分散液(コーティング液)を基材上に塗布し乾燥させて塗膜を形成した後、基材より塗膜を引きはがしフィルム状の成形体を得る方法などを用いることができる。
【0043】
フィルムまたはシートの厚みについて特に制限はされないが、防汚性の効果持続性や機械的特性等の観点で、0.01~1mmが好ましく、0.03~0.9mmがより好ましく、0.1~0.8mmが特に好ましい。
【0044】
<水棲生物付着防止物>
本発明の成形体は、水棲生物の付着防止性に優れているため、対象物(構造物)の水中、特に海水と接触する表面等に固着、あるいは固定させることにより、水棲生物付着防止物として利用することができる。
【0045】
本発明の成形体を対象物に固着する方法としては、構造物に固定できれば特に限定されないが、超音波加熱や熱プレス等の熱融着による固着方法、接着剤を介した固着方法、紐などにより構造物に物理的に括り付ける固着方法などを用いることができる。
【0046】
また、パウダーコーティング法やコーティング液を塗布する方法により、直接対象物に防汚性樹脂組成物を含む塗膜を形成し、水棲生物付着防止物として利用することもできる。
対象物としては、水中、あるいは海水等と接触する対象物であれば特に限定されないが、例えば、船底、ブイ、海産物用養殖用支柱、海上フロート、オイルフェンス、養殖いかだ、漁網、海洋構築物などに好ましく用いることができる。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0048】
(使用した原料)
樹脂原料1:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)〔カネカ製、カネカ生分解性ポリマーGreen PlanetTM X131A 、3-ヒドロキシヘキサノートの構造単位が、6molのPHBH〕
樹脂原料2:ポリ乳酸〔NatureWorks製、Ingeo 10361D〕
樹脂原料3:ポリアクリル酸メチル〔住友化学製、スミペックス MGSS、PMMA
樹脂原料4:ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-コ-3-ヒドロキシ吉草酸)〔シグマ・アルドリッチ社製、ヒドロキシ吉草酸単位が5mol%のPHBV〕
銅イオン含有化合物:亜酸化銅〔古川ケミカルス製〕
【0049】
(フィルムの海水中での水棲生物付着防止性の評価)
兵庫県高砂市の港湾部に、全フィルムが、海面から1m~2mの深さにとどまるように沈めて、おもりでで固定し90日間放置した。
〇;海中投入後のフィルム表面において、水棲生物の付着している面積が、海水中に投入する前のフィルム表面の30%未満である。
△:海中投入後のフィルム表面において、水棲生物の付着している面積が、海水中に投入する前のフィルム表面の30%以上70%未満である。
×:海中投入後のフィルム表面において、水棲生物の付着している面積が、海水中に投入する前のフィルム表面の70%以上である。
【0050】
(実施例1)
樹脂材料として樹脂原料1を35gと銅イオン含有化合物として亜酸化銅を15gをブレンドした後、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、20C200型)を用いて、成形温度135℃、スクリュー回転数80rpmの条件で溶融混錬し、防汚性樹脂組成物を得た。2mm厚のSUS板(30cm×35cm)の上に片面離型処理したPETフィルム(厚み50μm)の離型面をSUS板に対して反対向けに設置し、前記PETフィルム上に得られた防汚性樹脂組成物を置いた。
さらに、前記樹脂組成物を囲うようにスペーサーとして120μmのシムプレートを設置した。その後、前記樹脂組成物を挟むように前記SUS板と同様の板を被せ、160℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製:圧縮成形機NSF-50)の加熱プレス板上に設置し、5分間予熱した。予熱後、2分間の時間をかけながら徐々に5MPaまで加圧した後、2分間圧力を保持した。プレス完了後、およそ20℃に冷却された冷却板上で室温まで冷却し、約0.10mm(100μm)厚のフィルムを得た。このフィルムを室温23℃、湿度50%の環境中で1週間養生し、フィルムサンプルとした。フィルムサンプルの8か所の端部に穴をあけた後、紐をフィルムの穴に通してフィルムを格子状のフィルムホルダーに固定し、水棲生物付着防止性の評価を行った。水棲生物付着防止性の評価結果をの表1および
図2に示した。
【0051】
(比較例1)
樹脂原料1を樹脂原料2(PLA)に変更し、溶融混錬の成形温度及びプレス温度をそれぞれ170℃に設定した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、水棲生物防止性の評価を行った。水棲生物付着防止性の評価結果を表1および
図2に示した。
【0052】
(比較例2)
樹脂原料1を樹脂原料3(PMMA)に変更し、溶融温度の成形温度及びプレス温度をそれぞれ210℃に設定した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、水棲生物防止性の評価を行った。水棲生物付着防止性の評価結果を表1および
図2に示した。
【0053】
(比較例3)
樹脂原料1を樹脂原料4(PHBV)に変更し、溶融混錬の成形温度及びプレス温度をそれぞれ170℃に設定した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製したが、フィルムが脆く自己支持性が十分でないため水棲生物付着防止性の評価を行えなかった。
【0054】
【0055】
〔結果〕
表1および
図2から、フィルムに含有する樹脂成分により防汚(水棲生物付着防止)性が異なることがわかる。実施例1〔
図2の(c)〕のPHBHは、フィルム表面への水棲生物の付着は殆ど観察されず、一方、比較例1〔
図2の(a)〕のポリ乳酸(PLA)は、フィルム表面のほぼ全面、比較例2〔
図2の(b)〕のポリメタクリル酸メチルは、フィルム表面の半分程度に水棲生物の付着があり、実施例1は、比較例1および比較例2に比較して防汚性に優れていることがわかる。