(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084781
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】円形加速器および粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
H05H 13/00 20060101AFI20230613BHJP
H05H 7/10 20060101ALI20230613BHJP
H05H 7/04 20060101ALI20230613BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H05H13/00
H05H7/10
H05H7/04
A61N5/10 H
A61N5/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199071
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】えび名 風太郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓也
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA11
2G085BA13
2G085BA14
2G085BC01
2G085BC15
2G085CA16
2G085CA20
2G085CA21
2G085CA27
2G085EA07
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE01
4C082AG12
4C082AP01
(57)【要約】
【課題】大電流かつ高品質なビームを照射することが可能であり、なおかつ低コストな円形加速器および粒子線治療システムを提供する。
【解決手段】磁場中を周回する荷電粒子のビームを、ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速する円形加速器であって、異なるエネルギーのビームを閉軌道から取り出すビーム取り出し口と、ビーム取り出し口から取り出されたビームを偏向する第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22と、取り出されたビームのエネルギーに応じて、第一偏向電磁石および第二偏向電磁石の励磁量を制御する制御部40aを備え、制御部40aは、取り出されたビームのエネルギーが円形加速器1の設計上の最大エネルギーの場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22のいずれも励磁してビームを偏向する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場中を周回する荷電粒子のビームを、前記ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速する円形加速器であって、
異なるエネルギーのビームを前記閉軌道から取り出すビーム取り出し口と、
前記ビーム取り出し口から取り出された前記ビームを偏向する第一偏向電磁石および第二偏向電磁石と、
前記取り出されたビームのエネルギーに応じて、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石の励磁量を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記取り出されたビームのエネルギーが前記円形加速器の設計上の最大エネルギーの場合、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石のいずれも励磁して前記ビームを偏向する
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項2】
請求項1に記載の円形加速器において、
前記制御部は、
前記取り出されたビームのエネルギーが前記円形加速器の設計上の最小エネルギーの場合、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石のいずれも励磁して前記ビームを偏向する
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項3】
請求項1に記載の円形加速器において、
前記第二偏向電磁石の出口における各エネルギーのビーム軌道が、前記ビームのエネルギーが設計上の最大値である場合の設計軌道に一致するよう前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石が発生する磁場の強度が制御される
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項4】
請求項1に記載の円形加速器において、
前記第一偏向電磁石を励磁する第一電源、および前記第二偏向電磁石を励磁する第二電源は、前記第一偏向電磁石、あるいは前記第二偏向電磁石を構成するコイルを流れる電流の向きを切り替えることができる両極性の電源により構成される
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項5】
請求項4に記載の円形加速器において、
前記第二偏向電磁石の出口における各エネルギーのビーム軌道が、前記ビームのエネルギーが設計上の最小値よりも大きく、かつ設計上の最大値よりも小さい場合の設計軌道に一致するよう前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石が発生する磁場の強度が制御される
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項6】
請求項1に記載の円形加速器において、
前記第二偏向電磁石の上流側に設置され、一台以上の四極電磁石を更に備えた
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項7】
請求項6に記載の円形加速器において、
前記四極電磁石は、前記第一偏向電磁石の下流側に設置された
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項8】
請求項6に記載の円形加速器において、
前記四極電磁石が発生する磁場の強度が、前記ビームのエネルギーごとに異なる値に設定される
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の円形加速器を備えたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の円形加速器と、
前記円形加速器から取り出された前記ビームを輸送するビーム輸送系と、
前記ビーム輸送系で輸送された前記ビームを照射する照射装置と、を備え、
前記ビーム輸送系は、通過する前記ビームの位置および傾きを計測するビーム検出器を備え、
前記制御部は、前記ビームの位置および傾きから求めたビーム軌道が設計上のビーム軌道となるように、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石の励磁量を制御する
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項11】
磁場中を周回する荷電粒子のビームを、前記ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速する円形加速器と、
前記円形加速器で加速された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、
前記ビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射する照射装置と、を備え、
前記円形加速器は、
前記円形加速器の前記閉軌道から異なるエネルギーの前記ビームを取り出すビーム取り出し口の下流側に、前記ビーム取り出し口から取り出された前記ビームを偏向する第一偏向電磁石および第二偏向電磁石と、
前記取り出されたビームのエネルギーに応じて、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石の励磁量を制御する制御部と、を有する軌道制御装置を有しており、
前記第一偏向電磁石の径が、前記ビーム輸送系を構成する偏向電磁石の径より大きい
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項12】
請求項11に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記第二偏向電磁石の径が、前記第一偏向電磁石の径より小さい
ことを特徴とする粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線を加速する円形加速器および粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主磁場中での高周波を印加することにより、軌道半径を増加させながら荷電粒子ビームを加速する円形加速器において、荷電粒子ビームの円形加速器からの出射を高精度に制御する技術の一例として、特許文献1には、主磁場中で高周波を印加することにより、軌道半径を増加させながら荷電粒子ビームを加速する円形加速器において、加速に用いる高周波とは周波数の異なる高周波を荷電粒子ビームに印加することにより、荷電粒子ビームを出射する、ことが記載されている。
【0003】
粒子加速器の調整時間の短縮と運転パラメータファイルの種類が少なく、レンジシフタの移動音およびエネルギー変更時間を大幅に低減できるとともに、粒子加速器の機器変動によるシステム停止の頻度が低く、荷電粒子ビームのエネルギーや強度の変動が小さな粒子線治療装置の一例として、特許文献2には、荷電粒子ビームが透過する方向の厚みがビーム透過方向に直交する一方向で異なり、透過する荷電粒子ビームのエネルギーを厚みに比例する分だけ低下するレンジシフタと、荷電粒子ビームをレンジシフタの厚みの異なる部分に透過するためにレンジシフタの上流側で荷電粒子ビームの軌道を厚みが変化する方向に平行移動させる上流側偏向電磁石対と、レンジシフタを透過した荷電粒子ビームの軌道を上流側偏向電磁石対に入射したときの軌道の延長線上に平行移動させる下流側偏向電磁石対と、レンジシフタを透過することにより荷電粒子ビームのエネルギーが所望の値までに低下する軌道を荷電粒子ビームが進むように上流側偏向電磁石対および下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置とを備えるエネルギー変更装置を具備する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-133745号公報
【特許文献2】特許第4115468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シンクロトロンやサイクロトロンなどの加速器により荷電粒子ビーム(以下、単にビームという)を加速し、この加速したビームをがんなどの病変へ照射する粒子線治療が行われている。
【0006】
粒子線治療に用いられる加速器の一種として、例えば特許文献1に記載されたような加速器がある。特許文献1に記載の円形加速器では、静磁場中で運動エネルギー(以下、単にエネルギー)の異なるビーム粒子が形成する円状の閉軌道(以下、中心軌道と呼ぶ)を、加速器からのビームの取り出し口へ向けて偏心する様に配置し、異なるエネルギーのビームを同一のビーム取り出し口から加速器の外部へ取り出す。
【0007】
特許文献1に記載の円形加速器では、加速器中を周回するビーム(以下、周回ビームと呼ぶ)を所望のエネルギーまで加速した後、周回ビームにビーム進行方向および磁極ギャップ方向(以下、鉛直方向)に対して垂直な方向(以下、水平方向)の高周波電圧を印加する。高周波電圧を印加されたビーム粒子は、中心軌道を中心とした振動(以下、ベータトロン振動)の水平方向の振幅が徐々に増大し、中心軌道の周囲に形成されたピーラ磁場およびリジェネレータ磁場と呼ばれるベータトロン振動の共鳴を発生させるための磁場分布に接触する。ピーラ磁場およびリジェネレータ磁場に接触したビーム粒子は、水平方向のベータトロン振動の振幅が急激に増大し、取り出し用のセプタムコイルへ入射する。セプタムコイルはビームを円形加速器の外周方向へ偏向する。偏向されたビームは円形加速器の外部である高エネルギービーム輸送系へと取り出される。
【0008】
したがって、特許文献1に記載の円形加速器は、静磁場中でビームを加速する円形加速器でありながら、円形加速器から取り出されるビームのエネルギーを所定の範囲(例えば70MeVから230MeVの範囲)で切り替えることが可能である。
【0009】
一方、特許文献1に記載の円形加速器では、セプタムコイルが円形加速器の磁極内の限られた空間に設置されることからセプタムコイルが発生する磁場(セプタム磁場)の強度が制限される。セプタムコイルはエネルギーが異なるビームの軌道を円形加速器の取り出し口で揃える機能を有する為、特許文献1に記載の円形加速器ではセプタム磁場の不足により円形加速器から取り出されるビームの軌道がエネルギーの変化に伴い変化する可能性がある。
【0010】
ここで、高エネルギービーム輸送系を構成する偏向電磁石や四極電磁石といった機器は、高エネルギービーム輸送系を通過する全てのエネルギーのビーム軌道を内包する様に製作する必要がある。
【0011】
この為、特許文献1に記載の円形加速器では取り出しビーム軌道の変化に対応する為に高エネルギービーム輸送系の構成機器が大型化し、高エネルギービーム輸送系および円形加速器とビーム輸送系により構成される加速器システムの設置面積やコストが増大する恐れがあることから、改善の余地がある。
【0012】
特許文献2に記載のエネルギー変更装置は、ビーム軌道に垂直な平面内の場所によって厚さの異なるエネルギー吸収体(レンジシフタ)、レンジシフタよりも上流側に設置した二台の偏向電磁石、更にはレンジシフタよりも下流側に設置した二台の偏向電磁石により構成される。
【0013】
この特許文献2に記載のエネルギー変更装置では、加速器から取り出されたビームを上流側の偏向電磁石により偏向することでビームがレンジシフタへ入射する位置、即ちレンジシフタの厚さを制御し、レンジシフタを通過した後のビームのエネルギーを所望の値に変更する。レンジシフタを通過したビームは下流側の偏向電磁石により偏向され、エネルギー変更装置へ入射する前のビーム軌道の延長上に揃えられる。これにより、特許文献2に記載のエネルギー変更装置はビームの軌道を変化させることなくビームのエネルギーを所望の値に調整できるため、サイクロトロンなどの静磁場型の加速器から取り出されたビームのエネルギーを調整し、粒子線治療などの用途に供することができる。
【0014】
一方で、特許文献2に記載のエネルギー変更装置はエネルギーの変更にレンジシフタを用いるため、ビームとレンジシフタとの散乱によりエネルギー変更後のビームの空間的な広がり(ビームサイズ)が拡大する恐れがある。
【0015】
近年、粒子線治療においては患部を細径のビームにより三次元的に走査するスキャニング照射法が普及しており、スキャニング照射法で高精度な線量分布を形成する上ではビームサイズの拡大は極力抑えられていることが望ましい。
【0016】
そのため、特許文献2に記載のエネルギー変更装置を用いることにではビームがレンジシフタを通過する際にビーム粒子のエネルギーの広がり(以下、運動量分散)が拡大し、高エネルギービーム輸送系の通過効率が低下して実効的なビーム電流が減少する恐れがあることから、その技術をそのまま適用することは困難であり、改善が求められる。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は大電流かつ高品質なビームを照射することが可能であり、なおかつ低コストな円形加速器および粒子線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、磁場中を周回する荷電粒子のビームを、前記ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速する円形加速器であって、異なるエネルギーのビームを前記閉軌道から取り出すビーム取り出し口と、前記ビーム取り出し口から取り出された前記ビームを偏向する第一偏向電磁石および第二偏向電磁石と、前記取り出されたビームのエネルギーに応じて、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石の励磁量を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記取り出されたビームのエネルギーが前記円形加速器の設計上の最大エネルギーの場合、前記第一偏向電磁石および前記第二偏向電磁石のいずれも励磁して前記ビームを偏向することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、大電流かつ高品質なビームを照射することが可能であり、なおかつ低コストな円形加速器および粒子線治療システムを提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態1である円形加速器を用いた粒子線治療システムの構成を表す模式図。
【
図2】実施形態1である円形加速器の構成を表す模式図。
【
図3】本発明の実施形態2である円形加速器の構成を表す模式図。
【
図4】本発明の実施形態3である円形加速器の構成を表す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の円形加速器および粒子線治療システムの実施形態を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0022】
<実施形態1>
本発明の円形加速器および粒子線治療システムの実施形態1について
図1および
図2を用いて説明する。
【0023】
最初に、円形加速器を含めた粒子線治療システムの全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態1である円形加速器を用いた粒子線治療システムの構成を表す模式図である。
【0024】
図1に示す本実施形態の粒子線治療システム100は、磁場中を周回する荷電粒子のビームを加速して取り出す円形加速器1、円形加速器1で加速された荷電粒子ビームを輸送する高エネルギービーム輸送系30、高エネルギービーム輸送系30で輸送された荷電粒子ビームを照射する照射ノズル53、制御装置40等を備えている。
【0025】
粒子線治療システム100では、円形加速器1から取り出されたビームを高エネルギービーム輸送系30により輸送し、患者51の患部52へと照射することでがん等の病変の治療を行う。
【0026】
高エネルギービーム輸送系30の後段は回転ガントリー50となっており、回転ガントリー50は患者51の周囲を回転することで複数の異なる方向からのビーム照射を可能とする。
【0027】
回転ガントリー50の最下流の直線部には円形加速器1からのビームを患部52の形状に合わせて成型する照射ノズル53が設けられている。
【0028】
高エネルギービーム輸送系30および回転ガントリー50を構成する電磁石等の機器は円形加速器1と同様、制御装置40に接続されている。
【0029】
粒子線治療では、ビームが患者51の体内を進む距離(以下、飛程という)が患者51へ照射されるビームのエネルギーにより制御される。
【0030】
制御装置40は、患者51ごとにあらかじめ作成されたビームの照射位置と照射量の情報(以下、治療計画)に基づいて円形加速器1を制御し、円形加速器1から取り出されるビームのエネルギーを患部52の深さに応じた値に調節する。制御装置40は第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22、高エネルギービーム輸送系30、回転ガントリー50を治療計画に基づいて制御し、円形加速器1から取り出されたビームは患部52へと照射される。
【0031】
次いで、円形加速器の構成について
図2を用いて説明する。
図2に本実施例の円形加速器1の概要、特には円形加速器1の本体10の外部に備えられたビーム軌道調整装置の模式図を示す。
【0032】
図2に示すように、円形加速器1は磁極11、コイル12、取り出し磁場発生装置13、ヨーク14を備えており、ヨーク14にはビームの取り出し口15が形成されている。コイル12に所定の電流を流すと磁極11間にはビームを円形加速器1内で周回させるための磁場(以下、主磁場という)が発生し、軌道平面上に円状の周回ビーム軌道16が形成される。周回ビーム軌道16の半径はビーム粒子の運動エネルギー(以下、単にエネルギー)が高いほど大きくなる。
【0033】
本実施例の円形加速器1では、ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心している。より具体的には、周回ビーム軌道16の中心はエネルギーが高くなるほど取り出し磁場発生装置13から離れており、取り出し磁場発生装置13の近傍にはエネルギーの異なる周回ビーム軌道16が狭い領域に集まる軌道集約領域17が形成される。円形加速器1は軌道集約領域17を形成することで、エネルギーの異なるビームを主磁場の強度を変更することなく共通の取り出し口15から取り出すことが可能である。
【0034】
取り出し磁場発生装置13は、取り出し磁場発生装置13へ入射したビームを偏向し、ビームを取り出し口15へと導く。取り出し磁場発生装置13は、例えばビーム軌道に沿って形成したセプタムコイルで構成される。セプタムコイルはコイルに流れる電流を変更することで、ビームを偏向する向きや量をエネルギーに応じて調節することが可能な構成である。なお、本実施形態では取り出し磁場発生装置13をセプタムコイルで構成する例を説明したが、セプタムコイルの替わりに、鉄等の磁性体で構成された磁場補正構造部材(以下、マグネッティックチャネルと呼ぶ)をビーム軌道に沿って配置する構成としてもよい。マグネティックチャネルは励磁用の電源が不要である反面、発生する磁場はビームのエネルギーに依らず一定となる。なお、セプタムコイルおよびマグネッティックチャネルの両方を配置して取り出し磁場発生装置13を構成してもよい。
【0035】
円形加速器1の取り出し口15の下流側には、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22が設置されている。本実施例の軌道制御装置18は、第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22、電源23,24および制御部40a(好適には制御装置40の一部)を備える。第一偏向電磁石21が電源23に接続され、第二偏向電磁石22が電源24に接続される。制御部40aが電源23を制御することで、第一偏向電磁石21に励磁する励磁電流を制御する。また、制御部40aが電源24を制御することで、第二偏向電磁石22に励磁する励磁電流を制御する。
【0036】
第一偏向電磁石21はビームを磁極11の中心から離れる方向、即ち円形加速器1の外周方向に偏向し、第二偏向電磁石22はビームを磁極11の中心へ接近する方向、即ち円形加速器1の内周方向へ偏向する。
【0037】
本実施形態では、第一偏向電磁石21の径は、
図1に示すように、第二偏向電磁石22の径や、高エネルギービーム輸送系30を構成する偏向電磁石50a,50b,50cの径より大きいものとなっている。
【0038】
また、第二偏向電磁石22は、
図1に示すように、第一偏向電磁石21の径より小さいものの、高エネルギービーム輸送系30を構成する偏向電磁石50a,50b,50cの径より大きいものとなっている。なお、第二偏向電磁石22の径は、第一偏向電磁石21の径より小さく、また偏向電磁石50a,50b,50cの径より大きい必要はなく、第一偏向電磁石21の径と同じ、あるいは偏向電磁石50a,50b,50cの径と同じであってもよい。第二偏向電磁石22の径が、第一偏向電磁石21、あるいは偏向電磁石50a,50b,50cの径と同じ場合、それらと仕様が共通化されるため、第二偏向電磁石を専用の仕様の偏向電磁石として製造する必要が無く、低コスト化を図ることができる。
【0039】
また、偏向電磁石の内側に配置される真空ダクト(図示の都合上省略)の径は、偏向電磁石の径と同じ傾向となる。例えば、第一偏向電磁石21が設置される部分の真空ダクトの径は、第二偏向電磁石22が設置される部分の真空ダクトの径や、偏向電磁石50a,50b,50cが設置される部分の真空ダクトの径より大きいものとなっている。
【0040】
第二偏向電磁石22の下流側にはビームを照射対象まで輸送する高エネルギービーム輸送系30が形成されており、高エネルギービーム輸送系30における第二偏向電磁石22の直後の直線部にはビーム進行方向に垂直な平面内におけるビームの位置と形状を測定するプロファイルモニタ31,32が設置されている。なお、このビームの位置および傾きを測定するプロファイルモニタの設置場所は、高エネルギービーム輸送系30内に限定されず、他の箇所、例えば軌道制御装置18内に設けることができる。
【0041】
第一偏向電磁石21は電源23に、第二偏向電磁石22は電源24に接続されている。電源23、電源24、円形加速器1、プロファイルモニタ31は制御装置40に接続されている。
【0042】
本実施形態の円形加速器1で大電流かつ高品質なビームを照射することが可能であり、なおかつ低コストな加速器システムを提供するための手法について説明する。
【0043】
本実施形態の円形加速器1は主磁場の強度を変更することなくエネルギーの異なるビームを共通の取り出し15から取り出すことが可能である。しかしながら、取り出し口15におけるビームの軌道は取り出し口15を通過可能な範囲でエネルギーごとに異なっている可能性がある。
【0044】
この取り出し口15におけるビーム軌道ずれの原因は、例えば取り出し磁場発生装置13を構成するセプタムコイルが十分な強度の磁場を発生させることができないことや、マグネティックチャネルが発生する磁場がエネルギーに依らず一定であることにある。セプタムコイルの磁場強度がどの程度不足するかは円形加速器1の設計に依存するが、円形加速器1の小型化を目的として高い強度の主磁場(例えば2.5T程度)を発生させる場合セプタムコイルの磁場強度の不足が課題となる。
【0045】
また、取り出し磁場発生装置13をマグネティックチャネルにより構成する場合、円形加速器1の設計に依らず取り出し口15におけるビーム軌道はエネルギーに応じて変化する。
【0046】
取り出し口15の直後に高エネルギービーム輸送系を接続する場合、高エネルギービーム輸送系30の構成機器、例えば偏向電磁石50a,50b,50cや四極電磁石等の電磁石、プロファイルモニタ31,32の様な測定機器は内部を全てのエネルギーのビームが通過できるよう大型の設計とする必要がある。これにより、従来の円形加速器を用いた加速器システムでは高エネルギービーム輸送系の設置面積や製作コストが増大する恐れがあった。
【0047】
そこで、本実施形態の円形加速器1では、取り出し口15の下流側に第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22を設置し、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量を、エネルギーの異なるビームの軌道が第二偏向電磁石22よりも下流側で一致する様に制御する。これにより、本実施形態の円形加速器1では高エネルギービーム輸送系30におけるビーム通過領域の拡大を防止し、高エネルギービーム輸送系30を構成する機器のサイズを抑えることを実現することができる。
【0048】
なお、電磁石の励磁量とは電磁石が発生する磁場の強度を表し、一般には電磁石を構成するコイルを流れる電流に比例する。第一偏向電磁石21のコイルを流れる電流は電源23により制御され、第二偏向電磁石22のコイルを流れる電流は電源24により制御される。
【0049】
次に、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22を用いて高エネルギービーム輸送系30においてエネルギーの異なるビームの軌道を一致させる手法について説明する。
【0050】
円形加速器1の内部にはビームを円形加速器1の内周側へと偏向するような磁場が発生していることから、取り出し口15においてはエネルギーが高いビームの軌道ほど外周側に位置しており、エネルギー毎に軌道が異なる。
【0051】
図2では、軌道25は円形加速器1から取り出される最大のエネルギー(以下、最高エネルギー)における設計上のビーム軌道(以下、設計軌道)を表し、軌道26は最高エネルギーよりも低いエネルギーにおけるビーム軌道の例を表す。このように円形加速器1から取り出されるビームの軌道はエネルギー毎に異なることから、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22により発生させる偏向磁場の強度は、円形加速器1から取り出されるビームのエネルギーに応じて制御される必要があり、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22がビームを偏向する量がビームのエネルギーごとに異なったものとする必要がある。
【0052】
そのうえで、制御装置40の制御部40aでは、取り出されたビームのエネルギーが円形加速器1の設計上の最大エネルギーの場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22のいずれも励磁してビームを偏向するものとする。この際、好適には、取り出されたビームのエネルギーが円形加速器1の設計上の最小エネルギーの場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22のいずれも励磁してビームを偏向するものとすることが望ましい。
【0053】
ここでは、第一偏向電磁石21はビームを外周方向へ、第二偏向電磁石22はビームを内周方向へ偏向し、第二偏向電磁石22の出口における各エネルギーのビーム軌道26が、ビームのエネルギーが設計上の最大値である場合の設計軌道25に一致するよう第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22が発生する磁場の強度を制御するものとする。
【0054】
最高エネルギーにおける第一偏向電磁石21の励磁量の設計値と第二偏向電磁石22の励磁量の設計値とは共に0ではなく、最高エネルギーにおける設計軌道25は第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22により曲げられている。本実施形態の円形加速器1では、最高エネルギーよりも低いエネルギーのビームの軌道26を最高エネルギーにおける設計軌道25よりも大きく曲げることで、高エネルギービーム輸送系30内でのこれらビーム軌道を最高エネルギーにおける設計軌道25に一致させる。
【0055】
第一偏向電磁石21の励磁量と第二偏向電磁石22の励磁量とは、円形加速器1を粒子線治療などのビーム照射に供する前に行われる調整運転(以下、ビーム調整)において決定される。
【0056】
最高エネルギーよりも低いエネルギーにおけるビーム軌道26を調整する場合、制御装置40は円形加速器1から取り出されるビームのエネルギーが目標の値となる様に円形加速器1を制御する。
【0057】
また、制御装置40は電源23,24を制御し、第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22の励磁量を、調整するエネルギーにおける設計値に設定する。第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22の励磁量の設計値は、計算機を用いたビーム軌道の解析などによりあらかじめ導出される。
【0058】
高エネルギービーム輸送系30におけるビームの位置と傾きは、プロファイルモニタ31,32を用いて測定される。円形加速器1が発生する磁場は磁極11の製作誤差などにより設計値からのずれを持つため、高エネルギービーム輸送系30におけるビームの位置と傾きは初期状態では完全には設計値と一致しないことがある。
【0059】
そこで、本実施形態の円形加速器1では、プロファイルモニタ31,32によりビーム位置およびビームの傾きを測定して設計値からのずれを計測し、ビーム位置と傾きとが設計値と一致する様に第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量を調節する。
【0060】
なお、取り出し口15でのビーム軌道が内周側、もしくは外周側にずれていることは、この高エネルギービーム輸送系30におけるプロファイルモニタ31,32の測定により求めることができる。具体的には、高エネルギービーム輸送系30でのビームの位置および傾きを求めることで、取り出し口15におけるビーム軌道が設計軌道25よりも内周側、もしくは外周側にずれているかを判断できることになる。
【0061】
第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量の変更量と高エネルギービーム輸送系30におけるビームの位置、傾きの変化量は線形の関係にある為、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量の調整量はビーム位置、傾きの測定結果から容易に求められる。第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量の変更量はビーム位置、傾きの測定結果に基づいて制御装置40が導出しても良いし、ビームの位置、傾きの測定結果から円形加速器1の調整者が別途計算して制御装置40へ入力しても良い。
【0062】
第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量の調整後は高エネルギービーム輸送系30におけるビームの位置と傾きを再度測定し、ビーム軌道が最高エネルギーにおける設計軌道25に一致していることを確認する。この段階でビーム軌道と最高エネルギーにおける設計軌道25との間に許容できないずれがある場合、同様の手順で第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量を再度調整する。励磁量の調整結果は制御装置40に保管され、実際に円形加速器1によるビーム照射を行う際はこの調整結果に基づいて第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22が励磁される。
【0063】
次に、本実施形態の円形加速器1において最高エネルギーにおけるビーム軌道を調整する手法について説明する。
【0064】
本実施形態では、高エネルギービーム輸送系30内での各エネルギーにおけるビーム軌道26を最高エネルギーにおける設計軌道25に一致するよう調節するが、最高エネルギーのビーム軌道自体についても磁場誤差等の影響により設計軌道25からのずれを生じることが予想されるため、その他のエネルギーと同様に最高エネルギーについてもビーム軌道の調整を行う必要がある。
【0065】
取り出し口15における最高エネルギーのビーム軌道が設計軌道25よりも内周側に位置している場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量を設計値よりも高い値に設定することでビーム軌道を外周側へ偏向し、最高エネルギーにおけるビーム軌道を設計軌道25に一致させることができる。
【0066】
逆に、取り出し口15における最高エネルギーのビーム軌道が設計軌道25よりも外周側に位置している場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量を設計値よりも低い値に設定することで最高エネルギーにおけるビーム軌道を設計軌道25に一致させることができる。
【0067】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0068】
上述した本発明の実施形態1の粒子線治療システム100における円形加速器1は、磁場中を周回する荷電粒子のビームを、ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速する円形加速器であって、異なるエネルギーのビームを閉軌道から取り出すビーム取り出し口と、ビーム取り出し口から取り出されたビームを偏向する第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22と、取り出されたビームのエネルギーに応じて、第一偏向電磁石および第二偏向電磁石の励磁量を制御する制御部40aを備え、制御部40aは、取り出されたビームのエネルギーが円形加速器1の設計上の最大エネルギーの場合、第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22のいずれも励磁してビームを偏向するものとなっている。また、第一偏向電磁石21の径が、高エネルギービーム輸送系30を構成する偏向電磁石50a,50b,50cの径より大きくなるように構成してもよい。
【0069】
このように、本実施形態の円形加速器1では、最高エネルギーにおける設計軌道25に対して第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22の励磁量の設計値が0でない値に設定されている為、取り出し口15における最高エネルギーのビーム軌道が設計値よりも外周側にある場合であっても最高エネルギーのビーム軌道を設計値に一致させることが可能である。これにより、本実施形態の円形加速器1では高エネルギービーム輸送系30におけるビーム軌道を効率的に補正し、高エネルギービーム輸送系30を構成する機器の拡大を防止して加速器システムの製作コストを抑えることができる。
【0070】
また、本実施形態の円形加速器1はエネルギーの異なるビームの閉軌道が偏心して配置されることから、エネルギーの異なるビームを共通の取り出し口15から取り出すことが可能である。これにより、円形加速器1は照射ビームのエネルギーを変更する際に高エネルギービーム輸送系中にエネルギー吸収体を設置する必要がない為、エネルギー吸収体との散乱による照射ビームサイズの増大を防止し、質の高いビームを照射することができる。更に、円形加速器1では取り出されるビームのエネルギーを変更する為に円形加速器1の主磁場の強度を変更する必要がない為、円形加速器1から連続的にビームを取り出すことが可能であり、高いビーム電流を得ることが可能である。特に、患者51へ照射されるビームのサイズの拡大を抑え、患部52をビームにより三次元的に走査するスキャニング照射法において高精度な照射を行うことができる。その上、本実施形態の円形加速器1はビームのエネルギーに依らず大電流のビームを照射することができるため、粒子線治療では治療を従来に比べて短時間に終了させることができ、患者の負担をより軽減することが可能である。
【0071】
本実施形態の円形加速器1では、最高エネルギーの設計軌道25が第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22により曲げられている、即ち、最高エネルギーに対応するこれら偏向電磁石の励磁量の設計値が0でない値となっている。この特徴により、円形加速器1は最高エネルギーにおけるビーム調整前のビーム軌道が設計軌道25よりも外周側に位置する場合であっても最高エネルギーにおけるビーム軌道を補正し、高エネルギービーム輸送系30におけるビーム通過領域の拡大を抑えることが可能である。
【0072】
本実施形態の粒子線治療システム100によれば、大電流かつ高品質なビームを照射することが可能でありなおかつ低コストな加速器システムを提供することができる。
【0073】
また、第二偏向電磁石22の径が、第一偏向電磁石21の径より小さいため、その製造コストの低減を図ることができる。
【0074】
更に、第二偏向電磁石22の出口における各エネルギーのビーム軌道26が、ビームのエネルギーが設計上の最大値である場合の設計軌道25に一致するよう第一偏向電磁石21および第二偏向電磁石22が発生する磁場の強度が制御されることで、高エネルギービーム輸送系におけるビームの通過領域を低減し、加速器システムのコストを低減することが可能である。
【0075】
本実施形態の円形加速器1は、磁場中を周回する荷電粒子のビームを、ビームのエネルギーごとの閉軌道が偏心するように加速させ、加速したビームを閉軌道から取り出して取り出し口15へ導く。取り出し口15から取り出された後のビーム軌道は当該ビームのエネルギーに応じて異なる軌道となるが、本実施形態のように、円形加速器1の取り出し口15の下流側かつ高エネルギービーム輸送系30の上流側の位置に、複数の偏向電磁石を設置し、これらの偏向電磁石の励磁量をビームのエネルギーに応じて制御することで、ビーム軌道を高エネルギービーム輸送系30内で略一致させることができるようになる。そのため、粒子線治療システムを小型化することができる。特に、取り出し磁場発生装置13をマグネティックチャネルで構成する場合、マグネティックチャネルで生成される磁場が一定であるため、取り出し口15から取り出された後のビーム軌道は当該ビームのエネルギーに応じて大きく異なる軌道となり、粒子線治療システムをより小型化する効果を得ることができる。
【0076】
なお、本実施形態1や後述する実施形態2,3では、軌道制御装置18,18A,18Bを構成する偏向電磁石が2台(第一偏向電磁石および第二偏向電磁石)の場合について説明しているが、円形加速器の本体の出口側と高エネルギービーム輸送系との間に設けられる軌道制御装置に設置される偏向電磁石の台数は2台以上でもよく、特に限定されない。
【0077】
<実施形態2>
本発明の実施形態2の円形加速器および粒子線治療システムについて
図3を用いて説明する。
図3は本実施形態の円形加速器1Aの模式図を示す。
【0078】
図3に示す本実施形態の円形加速器1Aは、基本的には実施形態1に記載の円形加速器1と同様の構成を有するが、実施例の軌道制御装置18Aは、第一偏向電磁石61、第二偏向電磁石62、電源63,64および制御部40a1(好適には制御装置40Aの一部)を備え、第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62がビームを円形加速器1Aの外周方向と内周方向の両方に偏向する点が実施形態1とは異なっている。
【0079】
第一偏向電磁石61を励磁する電源63および第二偏向電磁石62を励磁する電源64は、ビームを両方向へと偏向する為に、第一偏向電磁石61、あるいは第二偏向電磁石62を構成するコイルを流れる電流の向きを切り替えることが可能な両極性の電源となっている。
【0080】
次いで、第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62を用いて、エネルギーの異なるビームの軌道を高エネルギービーム輸送系30において一致させる手法について説明する。
【0081】
本実施形態では、第二偏向電磁石62の出口における各エネルギーのビーム軌道が、ビームのエネルギーが設計上の最小値よりも大きく、かつ設計上の最大値よりも小さい場合の設計軌道65に一致するよう第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62が発生する磁場の強度が制御される。
【0082】
例えば、円形加速器1から取り出される最小のエネルギー(以下、最低エネルギー)と最高エネルギーとの間に基準となるエネルギー(基準エネルギー)を定め、高エネルギービーム輸送系30における各エネルギーのビーム軌道が基準エネルギーにおける設計軌道65と一致する様に、第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62の励磁量を制御する。
【0083】
このとき、第一偏向電磁石61は最低エネルギーのビーム(軌道66)を外周方向へ偏向し、最高エネルギーのビーム(軌道67)を内周方向へと偏向する。第二偏向電磁石62は最低エネルギーのビームを内周方向へ偏向し、最高エネルギーのビームを外周方向へと偏向する。
【0084】
ビーム調整において高エネルギービーム輸送系30中のプロファイルモニタ31,32を用いて第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62の励磁量を調節する手順については実施形態1と同様である。
【0085】
その他の構成・動作は前述した実施形態1の円形加速器1および粒子線治療システムと略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0086】
本発明の実施形態2の円形加速器1Aおよび粒子線治療システムでは、第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62がビームを偏向する方向が最低エネルギーと最高エネルギーで異なっている為、実施形態1と同様に高エネルギービーム輸送系30におけるビーム軌道を効率的に補正することができる。例えば、最高エネルギーにおける調整前のビーム軌道67が最高エネルギーにおける設計軌道65よりも外周側にある場合、第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62の励磁量を設計値よりも弱めることでビーム軌道67を設計軌道65に一致させることができる。
【0087】
また、第一偏向電磁石61を励磁する電源63、および第二偏向電磁石62を励磁する電源64は、第一偏向電磁石61、あるいは第二偏向電磁石62を構成するコイルを流れる電流の向きを切り替えることができる両極性の電源により構成されることにより、偏向電磁石の磁場強度をより低減することができる。
【0088】
更に、第二偏向電磁石62の出口における各エネルギーのビーム軌道が、ビームのエネルギーが設計上の最小値よりも大きく、かつ設計上の最大値よりも小さい場合の設計軌道65に一致するよう第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62が発生する磁場の強度が制御されることで、本実施形態の円形加速器1Aでは最低エネルギーのビーム軌道66を基準エネルギーにおける設計軌道65の位置まで偏向するだけでよく、ビームを最高エネルギーにおける設計軌道65の位置まで偏向する必要のある実施形態1に比べて第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62の励磁量の最大値を低減することができる。逆に、これら偏向電磁石の励磁量の最大値が実施形態1と等しい値となった場合でも、本実施形態では第一偏向電磁石61および第二偏向電磁石62の進行方向の長さ(以下、磁極長)を短縮し、加速器システムを小型化できる。
【0089】
<実施形態3>
本発明の実施形態3の円形加速器および粒子線治療システムについて
図4を用いて説明する。
図4は本実施形態の円形加速器1Bの模式図である。
【0090】
図4に示す本実施形態の円形加速器1Bは、基本的には実施形態1に記載の円形加速器1と同様の構成を有するが、実施例の軌道制御装置18Bは、第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22、四極電磁石71、電源23,24,72および制御部40a2(好適には制御装置40Bの一部)を備え、第一偏向電磁石21の下流側、かつ第二偏向電磁石22の上流側に四極電磁石71が設置される点が実施形態1とは異なっている。
【0091】
四極電磁石71は電源72に接続されており、電源72は制御装置40に接続されている。第一偏向電磁石21や第二偏向電磁石22Bと同様、四極電磁石71の励磁量は電源72を介して制御装置40により制御される。
【0092】
本実施形態の円形加速器1Bでは、軌道制御装置18Bが四極電磁石71を備え、通過するビームを水平方向および垂直方向に収束する構成とした。円形加速器1から取り出されたビームは、水平方向および垂直方向に徐々に拡大するが、本実施形態のように四極電磁石71を設置することで、四極電磁石71よりも下流側でのビームサイズの拡大を抑制できる。これにより、ビームが第二偏向電磁石22や真空ダクト等の構造物と衝突することによるビーム損失を防ぐことができる。また、本実施形態の円形加速器1Bは、第一偏向電磁石21の下流側、かつ第二偏向電磁石22の上流側に四極電磁石71を備える構成であるため、四極電磁石71を用いて第一偏向電磁石21通過した後のビームを水平方向あるいは垂直方向に収束でき、第二偏向電磁石22Bにおけるビームサイズの拡大が抑制され、第二偏向電磁石22Bをさらに小型化でき、第二偏向電磁石22Bの製作コストを低減することができる。
【0093】
また、本実施形態の円形加速器1Bでは四極電磁石71の励磁量、すなわち発生する磁場の強度をビームのエネルギーに応じて調節する。
【0094】
その他の構成・動作は前述した実施形態1の円形加速器1および粒子線治療システムと略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0095】
本発明の実施形態3の円形加速器1Bおよび粒子線治療システムにおいても、前述した実施形態1の円形加速器1および粒子線治療システムとほぼ同様な効果が得られる。
【0096】
本実施形態の円形加速器1Bでは、第二偏向電磁石22Bの上流側に四極電磁石71を備えたことにより、高エネルギービーム輸送系30におけるビームサイズのエネルギー依存性を低減することができ、高エネルギービーム輸送系30以降のビーム調整を簡略化することが可能となる。
【0097】
本実施形態の円形加速器1Bでは、第一偏向電磁石21の下流側に四極電磁石71を設置する構成であるため、円形加速器1の本体10から出てきたビームを第一偏向電磁石21で速やかにキックしてビーム軌道を偏向することが担保されるとともに、第二偏向電磁石22の径が大きくなることを抑制することができる。
【0098】
本実施形態の円形加速器1Bは、四極電磁石71が発生する磁場の強度が、ビームのエネルギーごとに異なる値に設定されることにより、ビームサイズの拡大抑制の効果をより確実に得ることができる。
【0099】
本実施形態の円形加速器1Bでは、第一偏向電磁石21と第二偏向電磁石22Bとの間に一台の四極電磁石を設置する構成を例に説明したが、当該領域に設置する四極電磁石は二台以上であってもよい。第一偏向電磁石21と第二偏向電磁石22Bとの間に複数の四極電磁石を設置する場合、第二偏向電磁石22Bの出口におけるビームサイズを四極電磁石を一台だけ設置する場合よりもさらに小さく抑えることが可能である。
【0100】
また、本実施形態では、第一偏向電磁石21の下流側に四極電磁石71を設置する例を説明したが、四極電磁石71を設置する場所はこれに限られず、第一偏向電磁石21の上流側に1台以上設置する構成としてもよい。
【0101】
更に、本実施形態の四極電磁石71は、実施形態2にも適用可能である。つまり、実施形態2の軌道制御装置が第二偏向電磁石62の上流側に一台以上の四極電磁石を備える構成としてもよい。さらに、好適には、実施形態2の第一偏向電磁石61の下流側に1台以上の四極電磁石を設置してもよい。
【0102】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0103】
また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0104】
1,1A,1B…円形加速器
10…本体
11…磁極
12…コイル
13…取り出し磁場発生装置
14…ヨーク
15…取り出し口
16…周回ビーム軌道
17…軌道集約領域
18,18A,18B…軌道制御装置
21,61…第一偏向電磁石
22,62,22B…第二偏向電磁石
23,24,63,64…電源
25,65…設計軌道
26,66,67…ビーム軌道
30…高エネルギービーム輸送系
31,32…プロファイルモニタ
40,40A,40B…制御装置
40a,40a1,40a2…制御部
50…回転ガントリー
50a,50b,50c…偏向電磁石
51…患者
52…患部
53…照射ノズル
71…四極電磁石
72…電源
100…粒子線治療システム