(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084782
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】乗客コンベア用検査装置
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20230613BHJP
B66B 29/04 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B29/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199072
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波田野 利昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 壮太
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321EA15
3F321EA16
3F321EB07
3F321EC06
3F321GA22
3F321HA05
(57)【要約】
【課題】 踏段の両側に非接触に配設されるスカートガードの位置が適正か否かを効率的に検査する乗客コンベア用検査装置を提供する。
【解決手段】 組立相互位置を計測可能な乗客コンベア用検査装置であって、フレーム内に設定されて乗客コンベアの進行方向に平行な基準芯と、実働状態を模擬して検査する検査治具としての踏段と、それに配設された基準芯センサと、踏段に配設されてその側面からスカートガードまでのスカートガード距離を検出する距離センサと、基準芯センサ及び距離センサそれぞれの出力信号を用いて、基準芯に対するスカートガードの位置を算出する制御部と、を備える。制御部は、ステップチェーンに装着された踏段が検査治具として所定速度で移動しながら記憶した計測データにおける基準点の位置及び基準時からの経過時間に基づいて算出された現在位置と、算出されたスカートガードの位置と、を紐づける。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組立相互位置を計測可能な乗客コンベア用検査装置であって、
フレーム内に設定されて乗客コンベアの進行方向に平行な基準芯と、
実働状態を模擬して検査可能な検査治具としての踏段と、
該踏段に配設された基準芯センサと、
前記踏段に配設されて該踏段の側面からスカートガードまでのスカートガード距離を検出する距離センサと、
前記基準芯センサ及び距離センサそれぞれの出力信号を用いて、前記基準芯に対するスカートガードの位置を算出する制御部と、
を備える乗客コンベア用検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、
ステップチェーンに装着された前記踏段が前記検査治具として所定の速度で移動しながら記憶した計測データにおける基準点の位置及び基準時からの経過時間に基づいて算出された現在位置と、
前記算出されたスカートガードの位置と、
を紐づける請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【請求項3】
前記基準芯は、前記踏段の循環動作に干渉しない位置に、弛みを所定範囲内にする引張力で張架された線状物により形成された請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記基準芯センサの時系列データを用いて、前記基準芯からカートガードまでのスカートガード距離を算出し、
該スカートガード距離の変化幅を前記踏段の蛇行量とし、
該蛇行量が許容範囲であるか否かを閾値判断する蛇行量判定部を備えた請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、無線通信部を介して外部の電子端末との間で、操作情報と、記憶内容と、演算結果と、少なくとも何れかを無線通信可能であり、
前記電子端末は、前記乗客コンベアの外部で利用される、
請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【請求項6】
さらに姿勢角センサを備え、
該姿勢角センサは、前記検査治具を形成する前記踏段の姿勢角と、走行振動と、少なくとも何れかを検出する、
請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【請求項7】
前記基準芯をレーザ光線で形成し、前記基準芯センサでレーザ光線を受光し、前記基準芯の位置を検出する請求項1記載の乗客コンベア用検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア用検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
組み立てた乗客コンベアの動作確認検査において、踏段(ステップ)を循環させ、異常音(異常振動)の有無を確認する検査がある。発生頻度の多い異常音の一例として、循環する踏段とその両側に配設されたスカートガードとの接触に起因する異常音がある。
【0003】
乗客コンベアを工場で組み立てる作業者は、音を頼りに発生箇所の見当を付け、スカートガードの取付調整を図るが、工場内の検査環境が必ずしも静音状態ではないため、周囲の騒音と異常音を判別するのが困難な場合がある。
【0004】
これに対し、音に頼らず、短時間で踏段の両側面それぞれとスカートガードとの隙間が許容範囲であるか否かを検査するため、距離センサと、コントローラと、を備えた乗客コンベアの自動隙間測定装置が知られている(例えば、特許文献1)。その自動隙間測定装置は、コントローラが、踏段が走行中に距離センサによる測定データを時系列で取得し、隙間閾値を超えた場合には、隙間異常が発生したと判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の乗客コンベア用検査装置は、踏段の車輪の遊び(車軸方向の隙間)、踏段とステップチェーンとの遊び、踏段の車輪が走行するレールの据付誤差等により循環中に発生する踏段の蛇行を考慮していない。
【0007】
このように蛇行する踏段は、設計上の踏段走行中心線上を常時走行しているわけではない。そのため、特許文献1の乗客コンベア用検査装置では、スカートガードが既定の幅で取付けられているかは検出できるが、乗客コンベアフレーム(以下、単に「フレームという」)の基準芯(絶対座標)に対する既定の位置で取り付けられているかどうかを判断することが困難である。
【0008】
この状態、すなわち、踏段の蛇行量を考慮せずに、踏段とスカートガードの隙間情報(相対座標)のみでスカートガードの位置を調整した場合、フレームの基準芯(絶対座標)に対して、両側のスカートガードの位置が調整される訳ではない。したがって、踏段の蛇行状態によっては、調整後に再び異常音が発生してしまう場合があり、再調整に時間を要するという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、踏段の両側に非接触に配設されるスカートガードの位置が適正か否かを効率的に検査する乗客コンベア用検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、組立相互位置を計測可能な乗客コンベア用検査装置であって、フレーム内に設定されて乗客コンベアの進行方向に平行な基準芯と、実働状態を模擬して検査可能な検査治具としての踏段と、踏段に配設された基準芯センサと、踏段に配設されて踏段の側面からスカートガードまでのスカートガード距離を検出する距離センサと、基準芯センサ及び距離センサそれぞれの出力信号を用いて、基準芯に対するスカートガードの位置を算出する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、踏段の両側に非接触に配設されるスカートガードの位置が適正か否かを効率的に検査する乗客コンベア用検査装置を提供できる。上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る乗客コンベア用検査装置(以下、「本装置」ともいう)の適用対象である乗客コンベアを一部透視した概略側面図である。
【
図2】フレームの中間部における踏段の姿勢を示す側面断面図である。
【
図3】本装置が検出すべき隙間異常の見本として、スカートガードの継部に生じた段差を示す平面図である。
【
図4】
図3とは異なる形態の隙間異常の見本として、スカートガードの継部の折れ曲がりを示す平面図である。
【
図5】
図3及び
図4とは異なる形態の隙間異常の見本として、踏段進行方向に対して反りがあるスカートガードを例示する平面図である。
【
図6】
図3~
図5とは異なる形態の隙間異常の見本として、継部でなくても踏段進行方向に対して平行でないスカートガードを例示する平面図である。
【
図7】
図3~
図6とは異なる形態の隙間異常の見本として、踏段走行中心線に対して、平行に配設された両側のスカートガードと、その間で進行直角方向に横滑りした踏段を例示する平面図である。
【
図8】検査治具である本装置を装着して検査中の乗客コンベアを一部透視して例示する概略側面図である。
【
図9】
図8の状態において、拡大した本装置のみを一部透視して示す概略側面図である。
【
図10】
図9の本装置を踏段走行方向から一部透視して示す概略正面図である。
【
図11】
図10の本装置が踏段蛇行の状態を一部透視して示す概略正面図である。
【
図12】
図11の状態で本装置を
図1に相当する視点で乗客コンベアを一部透視した概略側面図、及び蛇行量検出値を示すグラフである。
【
図13】
図1に相当する本装置の適用対象である乗客コンベアを一部透視した概略側面図、及び隙間検出値を示すグラフである。
【
図15】
図14の本装置のシステム構成を示す機能ブロック図である。
【
図16】
図8に相当する本装置の変形例に係る乗客コンベア用検査装置(これも「本装置」という)を一部透視した概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。
図1~
図7を用いて、本発明の主な適用対象となるエスカレーター1を例示しているが、以下ではこれを上位概念で乗客コンベア1という。
【0014】
本装置100は、据え付け前の乗客コンベア1を工場で組み立て完成させる段階で、スカートガード4の位置調整を短時間で的確に実施するための検査治具である。
図8~
図15を用いて、本装置100の基本例を説明する。
図16を用いて、本装置の変形例を説明する。
【0015】
なお、各図に示す制御部104、及び不図示の蛇行量判定部は、マイクロコンピュータ等が、メモリに記憶されたブログラムを実行することによって形成される。また、本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部品から成ること、複数の構成要素が一の部品から成ること、ある構成要素が別の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【0016】
(乗客コンベアの基本構成)
図1は、本装置100(
図8~
図10参照)の適用対象である一般的な乗客コンベア1を一部透視した概略側面図である。乗客コンベア1は、工場において、
図1に示す一塊(欄干3や特別な長大型は分割)に組立完成された状態で、施工現場まで搬送され、据え付けられる。この乗客コンベア1は、乗降口床11と、フレーム12と、無端状にステップチェーン13と、複数の踏段5と、スカートガード4と、欄干3と、ハンドレール2と、駆動装置8と、より概略構成されている。
【0017】
乗降口床11は、上部階床と下部階床に、それぞれの高さが一致するように配設され、乗客が乗り降りする。フレーム12は、上下乗降口床11に跨って支持されている。複数の踏段5は、無端状のステップチェーン13に連結されて循環移動する。スカートガード4は、踏段5の移動方向の両側に立設されている。欄干3は、スカートガード4の上部に配設される。
【0018】
ハンドレール2は、欄干3の周縁に案内されて循環可能である。フレーム12には、その長手方向の一端に駆動側ターミナルギヤ6が軸支され、他端に従動側ターミナルギヤ7が軸支されている。ステップチェーン13は、駆動側ターミナルギヤ6と、従動側ターミナルギヤ7に跨って、循環可能に巻掛けられている。
【0019】
駆動側ターミナルギヤ6は、その近傍の駆動装置8により、短い駆動チェーン9を介して駆動される。ハンドレール2も駆動装置8の動力によって踏段5に同期して駆動される。
(踏段の基本構造)
【0020】
つぎに、
図2を用いて、連接された複数のうち1つの踏段5だけをクローズアップし、他は図から消して説明する。
図2は、フレーム12の中間部における踏段5の姿勢を説明するための側面断面図である。踏段5は、主に乗客が乗る踏板16、ライザ17、前輪18、後輪19、ブラケット20、及び踏段ガイド21で構成される。
【0021】
なお、ここで前輪18、及び後輪19それぞれの呼称は、乗客コンベア1が昇り方向に運転中であることを前提とする。移動方向が逆になれば、前後関係も逆転するので呼称も変わる。しかし、その点は本発明の本質から外れるので問題にせず、乗客コンベア1において、前輪18が、ステップチェーン13に内蔵された場合のみを例示をする。
【0022】
図2に示すように、乗客コンベア1は、フレーム12内に、前輪レール22、後輪レール23が配設され、それらの上を踏段5が移動する構造である。その踏段5の蛇行を抑制するため、踏段ガイド21がブラケット20の側面からスカートガード4に突出するように配設され、両者の接近を阻止するため、対向面に介在してスペーサを形成するように取り付けてある(
図3~
図7、
図9~
図11、及び
図14参照)。
【0023】
(スカートガードの取付不良)
図3~
図7を用いて、スカートガード4の取付不良について、極端な状態を示して説明する。
図3は、本装置100が検出すべき隙間異常の見本として、スカートガード4の継部に生じた段差を示す平面図である。
【0024】
図3において、少なくとも平面視する限り、スカートガード4cは、スカートガード4dに直線性を維持する良好な継部で接続されている。この場合、ブラケット20の側面とスカートガード4との隙間は、概ね理想通りに維持される。これに対し、
図3におけるスカートガード4aは、スカートガード4bとの直線性を維持できていない。したがって、ブラケット20の側面とスカートガード4aとの隙間は、理想通りにならない。
【0025】
図4は、
図3とは異なる形態の隙間異常の見本として、スカートガードの継部の折れ曲がりを示す平面図である。
図4において、少なくとも平面視する限り、スカートガード4aは、スカートガード4bと、の継部に曲がりがあるため、直線性を維持できていない。したがって、ブラケット20の側面とスカートガード4aとは、平行でなく、それらの隙間は、理想通りにならない。
【0026】
図5は、
図3及び
図4とは異なる形態の隙間異常の見本として、踏段進行方向に対して反りがあるスカートガード4eを例示する平面図である。
図5において、少なくとも平面視する限り、反りがあるスカートガード4eは、ブラケット20の側面とは、平行でなく、それらの隙間は、理想通りにならない。
【0027】
図6は、
図3~
図5とは異なる形態の隙間異常の見本として、継部でなくても踏段進行方向に対して平行でないスカートガード4aを例示する平面図である。
図6において、少なくとも平面視する限り、対向するスカートガード4a,4cが非平行の場合、踏段進行方向に対して平行でないスカートガード4aは、ブラケット20の側面とは、平行でなく、それらの隙間は、理想通りにならない。
【0028】
(踏段蛇行の状態)
図7は、
図3~
図6とは異なる形態の隙間異常の見本として、踏段走行中心線14に対して、平行に配設された両側のスカートガード4と、その間で進行直角方向に横滑りして蛇行する踏段5bを例示する平面図である。
【0029】
図7において、踏段5の蛇行状態を示す。踏段5の車輪の遊び(車軸方向の隙間)、踏段5とステップチェーン13との遊び、踏段5の車輪が走行するレールの取付誤差等により、踏段5は循環中に僅かに蛇行する。したがって、踏段5は設計上の踏段走行中心線14上を常時安定的に走行するわけではない。
【0030】
[基本例]
図8は、検査治具である本装置100を装着して検査中の乗客コンベア1を一部透視して例示する概略側面図である。なお、
図1で説明した部位について、同一符号で示すところは、同一であり、重複説明を省く。
【0031】
図8の乗客コンベア1に配設される複数の踏段5の内、フレーム12における中間位置に示した1段のみを本装置100に置き換えている。本装置100を中間位置に示した理由は、
図8において見易くしているだけであり、他の踏段5の循環動作に応じて、連接された中のどこかに所在する。また、乗客コンベア1は、その踏段5の進行方向と平行の基準芯101を備える。この基準芯101は、フレーム12内に配設される。
【0032】
本装置100において、基準芯101は、ピアノ線や釣糸等の単一の線状物であり、フレーム12内に緩みなく張られ、本装置100が循環する際に干渉しない位置に配設される。また、説明を容易にするため、基準芯101を設計上の踏段走行中心線と同一平面上に配設された場合を図示するが、フレーム12の任意の位置に基準芯101を設けても良い。
【0033】
つぎに、本装置100の詳細について、
図9と
図10を用いて説明する。
図9は、
図8の状態において、拡大した本装置100のみを一部透視して示す概略側面図である。
図10は、
図9の本装置100を踏段走行方向から一部透視して示す概略正面図である。なお、
図9では、
図2の踏段5の構造で示した前輪18、ステップチェーン13、前輪レール22は、図の簡易化のため図示しないが、実際には取り付けてある。
【0034】
本装置100は、前述した踏段5の構成に加えて、基準芯センサ102、距離センサ103、制御部104、電源部105を備える。基準芯センサ102は、基準芯センサ支柱106で本装置100本体に接続されている。
【0035】
なお、基本例としての本装置100では、基準芯センサ102として、レーザ透過型のセンサを想定しており、基準芯101によって遮られたレーザ光の位置から基準芯101の位置を検出するものである。また、距離センサ103の一例として、レーザ距離センサを想定しており、一対のスカートガード4における対向距離を測定するため、スカートガード4に向けて取り付けてある。
【0036】
図9では、片側上下2か所に距離センサ103を配設した場合を図示した。これはスカートガード4の位置を調整する際に上部、下部の位置で寸法確認をするためである。
【0037】
図11は、
図10の本装置100が踏段蛇行の状態を一部透視して示す概略正面図である。
図10及び
図11に示すように、本装置100に備わる各センサ103と、それらで計測する対象と、の位置関係において、基準芯101からのスカートガード4までの距離は、左右それぞれ下式(1),(2)のように算出される。
【0038】
右側スカートガード位置: WR = XR + W/2 - XC ・・・・(1)
左側スカートガード位置: WL = XL + W/2 + XC ・・・・(2)
ここで、Wは、一対の距離センサ103における対向距離であるため既知である。
【0039】
図12は、
図11の状態で本装置100を
図1に相当する視点で乗客コンベアを一部透視した概略側面図、及び蛇行量検出値を示すグラフである。このグラフは、基準芯センサ102で取得したデータの用途を説明するためにある。
【0040】
図13は、
図1に相当する本装置100の適用対象である乗客コンベアを一部透視した概略側面図、及び隙間検出値を示すグラフである。そのグラフは、基準芯センサ102と距離センサ103から算出した右側スカートガード位置W
Rを示す。
【0041】
以上が、本装置100の基本構成である。取得した計測データを制御部104内のメモリに記録し、その後、メモリを読み出して計測結果を確認することが可能である。このとき、記憶媒体ごと取り出しても良いが、検査結果をその場でリアルタイムに確認できる方が好ましい。この要望に応じて、使い勝手を良好にして実用性を高めた本装置100(同じ符号)を
図14に示す。
図14は、
図10及び
図11に相当し、本装置100のみを一部透視して示す詳細側面図である。
【0042】
図14に示す本装置100(同一符号で通す)は、無線通信部107、及び姿勢角センサ108を追加した構成である。姿勢角センサ108は、本装置100の姿勢角や、本装置100の走行振動を検出することができる。姿勢角とは、例えば、踏板16が天井を向いているのか、反転しているのか、を示すため、水平に対する角度をいう。
【0043】
図15は、
図14の本装置100のシステム構成を示す機能ブロック図である。基準芯センサ102、左右の距離センサ103、姿勢角センサ108で取得したデータを制御部104に集約し、無線通信部107を介して、乗客コンベア1外のPCやタブレット端末等113に無線伝送する構成である。なお、タブレット端末等113に無線通信部117が内蔵されていても良い。
【0044】
このような本装置100は、フレーム12内に配設された基準芯101に基づく絶対座標において、スカートガード4の位置を取得できるため、スカートガード4の調整量を踏段5の蛇行量を考慮した上で、より正確に把握することにより、スカートガード4の位置調整時間の短縮に寄与する。
【0045】
なお、本装置100とスカートガード4の接触に伴う異常音の発生箇所の特定に関しては、本装置100を定速で循環させることで、検査開始位置又は基準位置からの時間により、本装置100の現在位置(移動距離)が求められる。なお、起動時の加速度も既知で固定的なので、そのデータも予め制御部104のメモリに記憶させて、演算に反映させれば良い。
【0046】
[変形例])
ここまでの説明において、本装置100の基本例では、基準芯101が、ピアノ線等の線状物であったが、これをレーザに置き換えた変形例を
図16に示す。
図16は、
図8に相当する本装置100の変形例に係る乗客コンベア用検査装置(本体部は基本例と同じであり、これも「本装置」という)100を一部透視した概略側面図である。
【0047】
レーザ照射器109をフレーム12内の任意の位置(駆動側ターミナルギヤ6あるいは、従動側ターミナルギヤ7付近のフレーム)に配設し、乗客コンベア1の踏段5の進行方向と平行となるようにレーザ照射点を基準位置ターゲット111に合わせてレーザ光110を照射する。
【0048】
乗客コンベア用検査装置100には、基準芯センサ102の代わりに、光位置センサ112が取り付けられ、レーザ光110の位置を検出することで、本装置100の蛇行量を絶対座標において計測することが可能である。上記以外の構成は、基本例で前述した本装置100の構成と同じである。
【0049】
[補足]
本装置100の適用対象は、エスカレーター1やオートライン(通称、動く歩道)等の乗客コンベア1である。それら乗客コンベア1の組立調整において、本装置100は、循環する踏段5の両側に配設されたスカートガード4が、既定の位置で取付けてあるか否かを効率的に動的検査する検査治具である。
【0050】
検査治具とは、部品、組み立て途中、又は組み立て完成後の製品検査を行い、主に寸法や形状などの精度を満たしているか否か確認するために使用される装置をいう。そのような検査治具を用いず、ノギスやマイクロメータ等による測定では、作業者によって精度やスピードに差が発生するほか、製品の動作状態での検査は困難なことが多い。
【0051】
したがって、本装置100のような専用の検査治具を用いて、適宜に製品の実働状態を模擬し、個人差を抑え、効率的に製品の合否判定を行うことが効果的である。
【0052】
本装置100は、つぎのような構成、作用及び効果を有する。
[1]
図8に示す本装置100は、各部品間の組立相互位置を計測可能な乗客コンベア用検査装置100である。本装置100は、基準芯101と、踏段5と、基準芯センサ102と、距離センサ103と、制御部104と、を備える。基準芯101は、フレーム12内に設定され、乗客コンベア1の進行方向と平行に張架された単一線材である。
【0053】
本装置100は、乗客コンベア1の実働状態を模擬して検査(動的検査)可能な検査治具(動的検査治具)である。
図1、
図8、
図12、及び
図13に示す乗客コンベア1は、ステップチェーン13の循環駆動に伴って、それに多数が係合する踏段5も循環動作する。このような乗客コンベア1の組立完成品に対し、ステップチェーン13に多数が連結された踏段5の1つを検査治具である本装置100に置き換える。そうすることにより、乗客コンベア1の実働状態が模擬される。
【0054】
このような本装置100は、第1の機能及び外観が踏段5であり、その踏段5の外殻に第2の機能である検査治具を内蔵して構成される。つまり、本装置100は、検査治具として第2の機能を発揮するため、乗客コンベア1の実働状態を模擬しながら、踏段5としての外観及び第1の機能を満たす。
【0055】
図15に示すように、本装置100は、検査治具として、基準芯センサ102と、距離センサ103と、これらの検出信号を適切に演算処理する制御部104と、それらを駆動する電源部105と、を備える。基準芯センサ102は、
図8に示すように、踏段5に下方に立設された基準芯センサ支柱106の先端部に配設され、基準芯101を非接触に取り囲む位置関係である。
【0056】
図10及び
図11に示すように、距離センサ103は、踏段5に配設され、その踏段5の側面からスカートガード4までのスカートガード距離Xを検出する。制御部104は、本装置100全体を総合的に制御するとともに、基準芯センサ102及び距離センサ103それぞれの出力信号を用いて、基準芯101の絶対座標に対するスカートガード4の位置を算出する。
【0057】
このような本装置100によれば、循環する踏段5の両側に配設されたスカートガード4の位置が適正か否かを効率的に検査できる。このとき、本装置100の蛇行による相対位置として検出されたスカートガード距離Xを絶対座標に補正する演算処理が制御部104により実行されるので、高精度の計測結果が得られる。
【0058】
[2]上記[1]において、制御部104は、乗客コンベア1の動的検査において、本装置100の現在位置と、算出されたスカートガード4の位置と、を紐づけた情報が記憶され、適宜に出力できることが好ましい。
【0059】
現在位置は、ステップチェーン13に装着された踏段5が、検査治具として所定の速度で移動しながら記憶した計測データにおける基準点の位置及び基準時からの経過時間に基づいて算出される。スカートガード4の位置も、踏段5に配設された距離センサ103により、踏段5の側面からスカートガード4までのスカートガード距離Xが検出される。このような本装置100によれば、
図13にグラフで示すように、循環する踏段5の両側に配設されたスカートガード4の位置が適正か否かを効率的に検査できる。
【0060】
[3]上記[1]において、基準芯101は、踏段5の循環動作に干渉しない位置に、弛みを所定範囲内にする引張力で張架された単一の線状物により形成されると良い。その線状物は、例えば、ピアノ線や釣糸等が好ましい。基準芯センサ102は、乗客コンベア1の進行方向に直交する断面がU字状の収納スペースを有する。
【0061】
そのスペースに、基準芯101が非接触に収容されて係合する必要がある。基準芯センサ102のスペースが大きすぎると精度が低下するので、所定の大きさに制限される。したがって、基準芯101は、弛みが少なく、動作部に干渉しなければ問題ないが、動作部に干渉させないためにも、適切な引張力を維持するためにバネ等を介した引張力調整機構が有ると良い。これによれば、簡素かつ確実に基準芯101を構成できる。
【0062】
[4]上記[1]において、制御部104は、不図示の蛇行量判定部を備えると良い。蛇行量判定部は、式(1)、式(2)、
図11及び
図12に示すように、蛇行量を判定する。まず、基準芯センサ102の時系列データを用いて、基準芯101からカートガード4までのスカートガード距離Wを算出する。このスカートガード距離Wの変化幅を踏段5の蛇行量X
0とする。それから、この蛇行量X
0が許容範囲であるか否かを閾値判断する。
【0063】
これによれば、かつてない、乗客コンベア1における踏段5の蛇行量X0を考慮したカートガード4の位置に対する動的検査治具を実現できる。つまり、蛇行量X0を考慮しない相対座標では、カートガード4の位置を正確には知り得ず、後日に不具合が生じる可能性も残った。これに対し、本装置100は、蛇行量X0を考慮した絶対座標のため、カートガード4の位置を正確に知り得る。
【0064】
[5]上記[1]において、本装置100の制御部104は、無線通信部107,117を介して外部の電子端末113との間で、操作情報と、記憶内容と、演算結果と、少なくとも何れかを無線通信可能であると良い。制御部104の通信相手となる電子端末113は、乗客コンベア1の外部で、本装置100のリモコン操作卓、及び結果表示器として利用される。
【0065】
本装置100は、乗客コンベア1の動的検査治具であり、人が全部を行うと危険な作業を伴う。それを安全かつ正確化する本装置100は、踏段5の側面からスカートガード4までのスカートガード距離Xと、基準芯101からのスカートガード4までの距離Wと、を移動中に計測できる動的検査治具である。
【0066】
そのとき、本装置100は、歩く程度の通常速度、又は検査モードとして微速度で移動中の踏段5の一つに、計測器具一式を搭載して計測するので、危険防止の観点から、熟練作業者であっても近づかないに越したことは無い。したがって、本装置100のリモコン操作卓、及び結果表示器として、無線接続された電子端末113は、乗客コンベア1の外部で、安全かつ便利に利用できる。
【0067】
[6]上記[1]の本装置100において、
図14及び
図15に示すように、さらに姿勢角センサ108を備えると良い。この姿勢角センサ108は、検査治具を形成する踏段5の姿勢角と、走行振動と、少なくとも何れかを検出できることが好ましい。この本装置100によれば、踏段5の姿勢や移動速度に対し、検査に必須の条件を姿勢角センサ108の検出出力により検知し、制御部4によって、その状態を認識して、検査を実行するか停止するかの指令を適切に出せる。その結果、使い勝手の良い検査治具を提供できる。
【0068】
[7]上記[1]において、
図16に示すように、基準芯101は、投光角度等を正確に初期設定されたレーザ光線で形成され、そのレーザ光線を基準芯センサ102で受光し、その基準芯センサ102の検出出力によって、基準芯101の位置を検出すると良い。
【0069】
それ以前の基本例である上記[3]では、基準芯101として、ピアノ線や釣糸等による単一の線状物が例示された。その場合、単一の線状物を弛まないように張架し、長期間にわたって一直線形状を維持することは容易でない。これに対し、[7]の本装置100において、レーザ光線で形成された基準芯101は、実在物体ではないため、経年劣化で狂うことも少ない。
【符号の説明】
【0070】
1…乗客コンベア、2…ハンドレール、3…欄干、4…スカートガード、5…踏段、6…駆動側ターミナルギヤ、7…従動側ターミナルギヤ、8…駆動装置、9…駆動チェーン、10…制御盤、11…乗降口床、12…フレーム、13…ステップチェーン、14…踏段走行中心線、15…スカートガード継部、16…踏板、17…ライザ、18…前輪、19…後輪、20…ブラケット、21…踏段ガイド、22…前輪レール、23…後輪レール、100…乗客コンベア用検査装置(本装置)、101…基準芯、102…基準芯センサ、103…距離センサ、104…制御部、105…電源部、106…基準芯センサ支柱、107,117…無線通信部、108…姿勢角センサ、109…レーザ照射器、110…レーザ光、111…基準位置ターゲット、112…光位置センサ、113…PC/タブレット端末等