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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084813
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ゴマリグナンの定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20230613BHJP
【FI】
G01N21/3577
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199134
(22)【出願日】2021-12-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 しおり
(72)【発明者】
【氏名】仲川 清隆
(72)【発明者】
【氏名】乙木 百合香
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊治
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB11
2G059CC12
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】
ごま油を含有する植物油中のゴマリグナンを短時間で高精度に定量する方法を提供する。
【解決手段】
ゴマリグナンの定量方法は下記の工程1~3を含む。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する
工程2:調整用植物油の近赤外スペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、工程2で得られた回帰式と、を用いて測定用植物油中の工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1~3を含むことを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【請求項2】
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域である請求項1に記載のゴマリグナンの定量方法。
【請求項3】
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm-1である請求項2に記載のゴマリグナンの定量方法。
【請求項4】
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分とベクトル正規化と組合せである請求項1から3のいずれか一項に記載のゴマリグナンの定量方法。
【請求項5】
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがエピセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分単独である請求項1から3のいずれか一項に記載のゴマリグナンの定量方法。
【請求項6】
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサモリンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が二次微分単独である請求項1から3のいずれか一項に記載のゴマリグナンの定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴマリグナンの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油等の油脂は、一般的に空気や光等の影響によって酸化が進み品質が低下する。また、油脂の酸化により生じる過酸化物は、食品の風味や栄養価の低下を引き起こすのみならず、生体内における癌等の疾病の要因の一つと考えられている。そのため、油脂にとって酸化を防止する抗酸化物質の含量は重要な要素である。
【0003】
食用油の中でもごま油は酸化し難いことが広く知られている。ごま油は、セサミンに代表されるゴマリグナンという特有の微量成分を含んでいる。ゴマリグナンは強い抗酸化活性を有し、ごま油の酸化し難いという性質に寄与しているため、ごま油の品質維持に欠かせない成分である。また、ゴマリグナンを摂取すると、その抗酸化作用により生体内の活性酸素を低減させて酸化による細胞の老化や生活習慣病を予防することや、抗炎症作用および抗癌作用を奏することが知られている。
【0004】
このようにゴマリグナンは優れた機能を有しており、ごま油の製造においてゴマリグナンの含量の把握は非常に重要である。しかし、ゴマリグナンはごま油中に総量で約0.1~1重量%しか含まれていない。そのため、ゴマリグナンの定量には高い精度が必要であり、微量成分の定量精度に優れる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析が一般に用いられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福田靖子著、「ゴマ種子の抗酸化成分に関する食品化学的研究」日本食品工業学会誌、1990年6月、第37巻第6号、p.484~492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、HPLC分析は微量成分の定量精度に優れるものの、一検体当たりの分析時間が長いという欠点を有する。そのため、ゴマリグナンの定量を短時間かつ高精度で可能な定量方法が求められている。
【0007】
そこで本開示は、短時間で試料の近赤外スペクトルの測定が可能なフーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定対象である測定用植物油中のゴマリグナンを高精度で定量できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の技術は以下の手段をとる。
[1]下記の工程1~3を含むことを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
[2]前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域である[1]に記載のゴマリグナンの定量方法。
[3]前記波数領域が、9400±10~5900±10cm-1である[2]に記載のゴマリグナンの定量方法。
[4]前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分とベクトル正規化と組合せである[1]から[3]のいずれかに記載のゴマリグナンの定量方法。
[5]前記工程1で選ばれるゴマリグナンがエピセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分単独である[1]から[3]のいずれかに記載のゴマリグナンの定量方法。
[6]前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサモリンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が二次微分単独である[1]から[3]のいずれかに記載のゴマリグナンの定量方法。
【0009】
なお、本明細書において「A~B」で示される数値範囲は、特段の記載が無い限り、その上限及び下限を含む。つまり、「A~B」は「A以上、B以下」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ゴマリグナンの定量方法≫
本開示のごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法は、下記の工程1~3を含む。なお、ゴマリグナンの定量方法は工程1~3以外の工程を含んでもよい。
工程1:HPLC分析により、植物油(以下、工程1及び工程2で回帰線を得るために用いる植物油を調整用植物油という)中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【0011】
<工程1>
工程1では、ごま油を含有する植物油中のゴマリグナンをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析により定量する。植物油はごま油を含んでいればよく、特に限定されない。同様にごま油も、ごまの種類や製法等により特に限定されない。ゴマリグナンは、セサミン、セサモリン、及びエピセサミンから選ばれる1種である。HPLC分析の方法は特に限定されないが、例えば以下の工程1-1~工程1-4を含む方法が挙げられる。
工程1-1:セサミン、セサモリン、及びエピセサミンから選ばれる1種の精製ゴマリグナンを各種濃度で含む複数の標品をHPLCで溶出し、UV検出器を用いてUVの吸収スペクトルを測定する。
工程1-2:工程1-1で測定されたUVの吸収スペクトルに基づきゴマリグナンの検量線を作成する。
工程1-3:ごま油を含有する複数の調整用植物油を工程1-1と同じ条件のHPLCで溶出し、UVの吸収スペクトルを測定する。
工程1-4:工程1-3で測定されたUVの吸収スペクトルに工程1-2で作成した検量線を適用して、調整用植物油中のゴマリグナンの量を算出する。
なお、ゴマリグナンの検量線は事前に作成したものを用いることで、工程1-1及び工程1-2を省略してもよい。
【0012】
ゴマリグナンの定量は、UVの吸収スペクトルのピーク高さ又はピーク面積のいずれに基づいて行ってもよいが、ピーク面積に基づき定量することが好ましい。なお、HPLC分析に関し、カラムの種類、移動相、検出器の種類、測定波長等は適宜変更可能である。
【0013】
<工程2>
工程2では、工程1で用いた調整用植物油のスペクトルデータと、工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る。調整用植物油のスペクトルデータは、調整用植物油の近赤外スペクトルをフーリエ変換型近赤外光分析装置で測定し、得られた原スペクトルデータについてスペクトル前処理をして取得する。
【0014】
調整用植物油の近赤外スペクトルは、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定される。フーリエ変換型近赤外光分析装置は、試料の近赤外光(一般に波数12500~4000cm-1)の吸収に基づく分光を行う装置であり、試料に近赤外光を照射し、透過光または反射光を干渉計により干渉させ、その信号強度をフーリエ変換することで試料の近赤外スペクトルを測定する。フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いることにより、分散型の近赤外光分析装置を用いた場合と比べて、短時間で調整用植物油の近赤外スペクトルを測定することができる。
【0015】
調整用植物油の近赤外スペクトルを測定して得られた原スペクトルデータは、スペクトル前処理をすることにより、回帰式を得る際に用いるスペクトルデータに変換される。スペクトル前処理は、一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つである。スペクトル前処理は、ゴマリグナンがセサミンの場合は一次微分とベクトル正規化との組み合わせが好ましく、ゴマリグナンがエピセサミンである場合は一次微分単独が好ましく、ゴマリグナンがセサモリンである場合は二次微分単独が好ましい。
【0016】
回帰式を作成する際に用いられるスペクトルデータの波数領域は近赤外光の範囲内で適宜選択可能である。波数領域は、複数の連続する波数領域であってもよいが、1つの連続した波数領域であることが好ましく、具体的には9400±10~5900±10cm-1であることが更に好ましい。この範囲の波数領域を用いて回帰式を作成することにより、定量精度をより向上することができる。なお、フーリエ変換型近赤外光分析装置による近赤外スペクトルの測定は、測定対象に応じて波数分解能(以下、分解能という)を適宜選択して測定される。そのため、本開示における「連続した波数領域」とは、当該波数領域全体にわたって所定の分解能で示された領域を意味する。工程2における分解能は特に限定されないが、測定精度と測定時間のバランスの観点から16cm-1又は8cm-1であることが好ましく、8cm-1であることが更に好ましい。また、回帰式を作成する際に用いられるスペクトルデータの波数領域は、測定した波数領域の全体であってもよいし、その一部であってもよい。
【0017】
回帰式の作成は多変量回帰分析により行われる。多変量回帰分析の方法は特に限定されないが、部分的最小二乗回帰(PLS)法が特に好ましい。多変量回帰分析は市販のソフトウェアを使用することができる。例えば、OPUS(Bruker社製)、The Unscrambler X(株式会社エス・ティ・ジャパン社製)、Pirouette(ジーエルサイエンス株式会社製)等が使用可能である。
【0018】
スペクトル前処理されたスペクトルデータと、工程1で得られたゴマリグナンの定量値とを多変量回帰分析に供することにより、スペクトルデータからゴマリグナンの含量を予測する回帰式を得ることができる。その際に、スペクトルデータを説明変数に設定し、ゴマリグナンの定量値を目的変数に設定することにより、スペクトルデータの中に内在するゴマリグナンの含量の変化と相関の高い因子を決定し、この因子の回帰係数を用いて回帰式を作成する。なお、作成される回帰式の精度を向上し、ゴマリグナンの定量方法の誤差を低減するために、調整用植物油の検体数は多数、例えば100個以上であることが好ましい。
【0019】
<工程3>
工程3では、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定対象である植物油(以下、測定用植物油という)の近赤外スペクトルを測定した後に工程2と同じスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、工程2で作成した回帰式と、を用いて測定用植物油中のゴマリグナンを定量する。工程3ではフーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定された近赤外スペクトルに基づき測定用植物油中のゴマリグナンを定量するため、測定用植物油を損なうことなく短時間での定量が可能である。
【0020】
測定用植物油のスペクトルデータは、工程2における調整用植物油のスペクトルデータを取得する場合と同様にして取得することができる。つまり、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油の近赤外スペクトルを測定し、得られた原スペクトルデータに対して工程2と同じスペクトル前処理をしてスペクトルデータを得る。フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いることにより、分散型の近赤外光分析装置を用いた場合と比べて短時間で測定用植物油の近赤外スペクトルを測定することができる。また、工程3におけるスペクトルの測定条件やスペクトルデータの波数領域等は、ゴマリグナンの定量精度を向上するため、工程2における測定条件や波数領域と同一であることが好ましい。
【0021】
測定用植物油中のゴマリグナンを定量は、測定用植物油のスペクトルデータに工程2で作成した回帰式を適用することにより行う。このスペクトルデータと回帰式からゴマリグナンを定量する工程には、市販のソフトウェアを使用することができる。なお、工程3で使用するソフトウェアは、ゴマリグナンの定量精度を向上するため、工程2で用いたソフトウェアと同一であることが好ましい。
【実施例0022】
以下、本開示の具体的な構成及び効果を実施例及び比較例に基づき説明する。
【0023】
<ゴマリグナンの検量線の作成>
先ず、各種濃度の精製ゴマリグナン(セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサミノール、又はセサモール)を含有する複数の標品を用いて、以下の条件でHPLC分析を行った。そして、得られたUVの吸収スペクトルのピーク面積から各ゴマリグナンの検量線を作成した。
カラム:Develisil OSD-5(4.6×150mm)(野村化学株式会社製)
移動相:水:メタノール=30:70(容積比)
流量:0.8mL/min
検出器:UV検出器(SPD-20A Prominence)(株式会社島津製作所)
測定波長:290nm
【0024】
実施例1
<調整用植物油中のゴマリグナンの定量>
製造日が異なる複数(100個)の調整用植物油(竹本油脂株式会社製 太白胡麻油(A-1))について、標品のHPLC分析と同じ条件でHPLC分析を行った。得られたUVの吸収スペクトルのピーク面積と、予め作成したセサミンの検量線とを対比して、各調整用植物油(A-1)中のセサミンを定量した。
【0025】
<回帰式の作成>
フーリエ変換型近赤外分光計MPA(Bruker社製)を用いて、HPLC分析に用いた各調整用植物油(A-1)の近赤外スペクトルを以下の条件で測定し、原スペクトルデータを得た。
測定波数:12500~4000cm-1
積算回数:128回
分解能:8cm-1
【0026】
解析ソフトOpus(Bruker社製)を用いて各調整用植物油の原スペクトルデータについてスペクトル前処理(一次微分及びベクトル正規化)を行った後、波数領域を9400~5900cm-1に限定してスペクトルデータを得た。各調整用植物油について、スペクトルデータを説明変数に、HPLC分析で求めたセサミンの定量値を目的変数にそれぞれ設定し、PLS法で多変量回帰分析することにより回帰式を作成した。
【0027】
<測定用植物油中のゴマリグナンの定量>
調整用植物油とは製造日の異なる測定用植物油(竹本油脂株式会社製 太白胡麻油(A-1))について、調整用植物油と同じ条件で近赤外スペクトルの測定及び加工を行い、スペクトルデータを得た。測定用植物油のスペクトルデータに作成した回帰式を適用し、測定用植物油(A-1)中のセサミンの定量値(以下、NIR定量値という)を算出した。
【0028】
<定量精度の検討>
近赤外スペクトルの測定に用いた測定用植物油(A-1)について上記条件でHPLC分析を行い、UVの吸収スペクトルのピーク面積と予め作成した検量線とを対比して測定用植物油(A-1)中のセサミンの定量値(以下、HPLC定量値という)を算出した。そして、測定用植物油(A-1)のNIR定量値とHPLC定量値との誤差を下記式により算出し、以下の基準で評価した。実施例1の誤差は2%未満であった。
誤差(%)=|HPLC定量値-NIR定量値|÷HPLC定量値×100
◎:2%未満
〇:2~3%
×:3%超
【0029】
実施例2~51、比較例1~25
実施例1と同様にして、表1~表3に示す実施例2~51及び比較例1~25についても同様に測定および評価を行った。
【0030】
表1~表3中の植物油は以下の通りである。
A-1:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油
A-2:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の1:9の混合油
A-3:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の5:5の混合油
A-4:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の9:1の混合油
A-5:かどや製油株式会社製 純白ごま油
A-6:九鬼産業株式会社製 九鬼太白純正胡麻油
A-7:竹本油脂株式会社製 純正胡麻油
A-8:かどや製油株式会社製 金印純正ごま油
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
実施例1から実施例51は、HPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が小さく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた高精度の定量方法を実現できた。また、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いているため、測定用植物油中のゴマリグナンを短時間で定量できた。一方、比較例1から比較例18は、ゴマリグナンがセサミノール又はセサモールであるため、一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せのいずれの前処理をしてもHPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が大きく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた定量精度が低かった。比較例19から比較例25は、前処理が一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せのいずれでもないため、HPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が大きく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた定量精度が低かった。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分とベクトル正規化との組合せであることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【請求項2】
下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがエピセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分単独であることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【請求項3】
下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサモリンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が二次微分単独であることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴマリグナンの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油等の油脂は、一般的に空気や光等の影響によって酸化が進み品質が低下する。また、油脂の酸化により生じる過酸化物は、食品の風味や栄養価の低下を引き起こすのみならず、生体内における癌等の疾病の要因の一つと考えられている。そのため、油脂にとって酸化を防止する抗酸化物質の含量は重要な要素である。
【0003】
食用油の中でもごま油は酸化し難いことが広く知られている。ごま油は、セサミンに代表されるゴマリグナンという特有の微量成分を含んでいる。ゴマリグナンは強い抗酸化活性を有し、ごま油の酸化し難いという性質に寄与しているため、ごま油の品質維持に欠かせない成分である。また、ゴマリグナンを摂取すると、その抗酸化作用により生体内の活性酸素を低減させて酸化による細胞の老化や生活習慣病を予防することや、抗炎症作用および抗癌作用を奏することが知られている。
【0004】
このようにゴマリグナンは優れた機能を有しており、ごま油の製造においてゴマリグナンの含量の把握は非常に重要である。しかし、ゴマリグナンはごま油中に総量で約0.1~1重量%しか含まれていない。そのため、ゴマリグナンの定量には高い精度が必要であり、微量成分の定量精度に優れる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析が一般に用いられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福田靖子著、「ゴマ種子の抗酸化成分に関する食品化学的研究」日本食品工業学会誌、1990年6月、第37巻第6号、p.484~492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、HPLC分析は微量成分の定量精度に優れるものの、一検体当たりの分析時間が長いという欠点を有する。そのため、ゴマリグナンの定量を短時間かつ高精度で可能な定量方法が求められている。
【0007】
そこで本開示は、短時間で試料の近赤外スペクトルの測定が可能なフーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定対象である測定用植物油中のゴマリグナンを高精度で定量できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の技術は以下の手段をとる。
[1]下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分とベクトル正規化との組合せであることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
[2]下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがエピセサミンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が一次微分単独であることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
[3]下記の工程1~3を含み、
前記工程2及び前記工程3で用いられるスペクトルデータは1つの連続した波数領域であり、
前記波数領域が、9400±10~5900±10cm -1 であり、
前記工程1で選ばれるゴマリグナンがセサモリンであり、且つ前記工程2で選ばれるスペクトル前処理が二次微分単独であることを特徴とするごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法。
工程1:HPLC分析により、調整用植物油中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【0009】
なお、本明細書において「A~B」で示される数値範囲は、特段の記載が無い限り、その上限及び下限を含む。つまり、「A~B」は「A以上、B以下」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ゴマリグナンの定量方法≫
本開示のごま油を含有する植物油中のゴマリグナンの定量方法は、下記の工程1~3を含む。なお、ゴマリグナンの定量方法は工程1~3以外の工程を含んでもよい。
工程1:HPLC分析により、植物油(以下、工程1及び工程2で回帰線を得るために用いる植物油を調整用植物油という)中のセサミン、セサモリン及びエピセサミンから選ばれる1種のゴマリグナンを定量する工程
工程2:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて前記調整用植物油のスペクトルを測定した後に一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つのスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る工程
工程3:フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油のスペクトルを測定した後に前記工程2で選ばれたスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、前記工程2で得られた回帰式と、を用いて前記測定用植物油中の前記工程1で選ばれたゴマリグナンを定量する工程
【0011】
<工程1>
工程1では、ごま油を含有する植物油中のゴマリグナンをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析により定量する。植物油はごま油を含んでいればよく、特に限定されない。同様にごま油も、ごまの種類や製法等により特に限定されない。ゴマリグナンは、セサミン、セサモリン、及びエピセサミンから選ばれる1種である。HPLC分析の方法は特に限定されないが、例えば以下の工程1-1~工程1-4を含む方法が挙げられる。
工程1-1:セサミン、セサモリン、及びエピセサミンから選ばれる1種の精製ゴマリグナンを各種濃度で含む複数の標品をHPLCで溶出し、UV検出器を用いてUVの吸収スペクトルを測定する。
工程1-2:工程1-1で測定されたUVの吸収スペクトルに基づきゴマリグナンの検量線を作成する。
工程1-3:ごま油を含有する複数の調整用植物油を工程1-1と同じ条件のHPLCで溶出し、UVの吸収スペクトルを測定する。
工程1-4:工程1-3で測定されたUVの吸収スペクトルに工程1-2で作成した検量線を適用して、調整用植物油中のゴマリグナンの量を算出する。
なお、ゴマリグナンの検量線は事前に作成したものを用いることで、工程1-1及び工程1-2を省略してもよい。
【0012】
ゴマリグナンの定量は、UVの吸収スペクトルのピーク高さ又はピーク面積のいずれに基づいて行ってもよいが、ピーク面積に基づき定量することが好ましい。なお、HPLC分析に関し、カラムの種類、移動相、検出器の種類、測定波長等は適宜変更可能である。
【0013】
<工程2>
工程2では、工程1で用いた調整用植物油のスペクトルデータと、工程1で得られたゴマリグナンの定量値と、を用いて回帰式を得る。調整用植物油のスペクトルデータは、調整用植物油の近赤外スペクトルをフーリエ変換型近赤外光分析装置で測定し、得られた原スペクトルデータについてスペクトル前処理をして取得する。
【0014】
調整用植物油の近赤外スペクトルは、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定される。フーリエ変換型近赤外光分析装置は、試料の近赤外光(一般に波数12500~4000cm-1)の吸収に基づく分光を行う装置であり、試料に近赤外光を照射し、透過光または反射光を干渉計により干渉させ、その信号強度をフーリエ変換することで試料の近赤外スペクトルを測定する。フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いることにより、分散型の近赤外光分析装置を用いた場合と比べて、短時間で調整用植物油の近赤外スペクトルを測定することができる。
【0015】
調整用植物油の近赤外スペクトルを測定して得られた原スペクトルデータは、スペクトル前処理をすることにより、回帰式を得る際に用いるスペクトルデータに変換される。スペクトル前処理は、一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せから選ばれる1つを用いることができるが、本発明においては、ゴマリグナンがセサミンの場合は一次微分とベクトル正規化との組み合わせであり、ゴマリグナンがエピセサミンである場合は一次微分単独であり、ゴマリグナンがセサモリンである場合は二次微分単独である
【0016】
回帰式を作成する際に用いられるスペクトルデータの波数領域は近赤外光の範囲内で適宜選択可能であ、複数の連続する波数領域であってもよいが、本発明では、1つの連続した波数領域であり、具体的には9400±10~5900±10cm-1 の波数領域が用いられる。この範囲の波数領域を用いて回帰式を作成することにより、定量精度をより向上することができる。なお、フーリエ変換型近赤外光分析装置による近赤外スペクトルの測定は、測定対象に応じて波数分解能(以下、分解能という)を適宜選択して測定される。そのため、本開示における「連続した波数領域」とは、当該波数領域全体にわたって所定の分解能で示された領域を意味する。工程2における分解能は特に限定されないが、測定精度と測定時間のバランスの観点から16cm-1又は8cm-1であることが好ましく、8cm-1であることが更に好ましい。また、回帰式を作成する際に用いられるスペクトルデータの波数領域は、測定した波数領域の全体であってもよいし、その一部であってもよい。
【0017】
回帰式の作成は多変量回帰分析により行われる。多変量回帰分析の方法は特に限定されないが、部分的最小二乗回帰(PLS)法が特に好ましい。多変量回帰分析は市販のソフトウェアを使用することができる。例えば、OPUS(Bruker社製)、The Unscrambler X(株式会社エス・ティ・ジャパン社製)、Pirouette(ジーエルサイエンス株式会社製)等が使用可能である。
【0018】
スペクトル前処理されたスペクトルデータと、工程1で得られたゴマリグナンの定量値とを多変量回帰分析に供することにより、スペクトルデータからゴマリグナンの含量を予測する回帰式を得ることができる。その際に、スペクトルデータを説明変数に設定し、ゴマリグナンの定量値を目的変数に設定することにより、スペクトルデータの中に内在するゴマリグナンの含量の変化と相関の高い因子を決定し、この因子の回帰係数を用いて回帰式を作成する。なお、作成される回帰式の精度を向上し、ゴマリグナンの定量方法の誤差を低減するために、調整用植物油の検体数は多数、例えば100個以上であることが好ましい。
【0019】
<工程3>
工程3では、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定対象である植物油(以下、測定用植物油という)の近赤外スペクトルを測定した後に工程2と同じスペクトル前処理をして得られるスペクトルデータと、工程2で作成した回帰式と、を用いて測定用植物油中のゴマリグナンを定量する。工程3ではフーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定された近赤外スペクトルに基づき測定用植物油中のゴマリグナンを定量するため、測定用植物油を損なうことなく短時間での定量が可能である。
【0020】
測定用植物油のスペクトルデータは、工程2における調整用植物油のスペクトルデータを取得する場合と同様にして取得することができる。つまり、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いて測定用植物油の近赤外スペクトルを測定し、得られた原スペクトルデータに対して工程2と同じスペクトル前処理をしてスペクトルデータを得る。フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いることにより、分散型の近赤外光分析装置を用いた場合と比べて短時間で測定用植物油の近赤外スペクトルを測定することができる。また、工程3におけるスペクトルの測定条件やスペクトルデータの波数領域等は、ゴマリグナンの定量精度を向上するため、工程2における測定条件や波数領域と同一であることが好ましい。
【0021】
測定用植物油中のゴマリグナンを定量は、測定用植物油のスペクトルデータに工程2で作成した回帰式を適用することにより行う。このスペクトルデータと回帰式からゴマリグナンを定量する工程には、市販のソフトウェアを使用することができる。なお、工程3で使用するソフトウェアは、ゴマリグナンの定量精度を向上するため、工程2で用いたソフトウェアと同一であることが好ましい。
【実施例0022】
以下、本開示の具体的な構成及び効果を実施例及び比較例に基づき説明する。
【0023】
<ゴマリグナンの検量線の作成>
先ず、各種濃度の精製ゴマリグナン(セサミン、エピセサミン、セサモリン、セサミノール、又はセサモール)を含有する複数の標品を用いて、以下の条件でHPLC分析を行った。そして、得られたUVの吸収スペクトルのピーク面積から各ゴマリグナンの検量線を作成した。
カラム:Develisil OSD-5(4.6×150mm)(野村化学株式会社製)
移動相:水:メタノール=30:70(容積比)
流量:0.8mL/min
検出器:UV検出器(SPD-20A Prominence)(株式会社島津製作所)
測定波長:290nm
【0024】
実施例1
<調整用植物油中のゴマリグナンの定量>
製造日が異なる複数(100個)の調整用植物油(竹本油脂株式会社製 太白胡麻油(A-1))について、標品のHPLC分析と同じ条件でHPLC分析を行った。得られたUVの吸収スペクトルのピーク面積と、予め作成したセサミンの検量線とを対比して、各調整用植物油(A-1)中のセサミンを定量した。
【0025】
<回帰式の作成>
フーリエ変換型近赤外分光計MPA(Bruker社製)を用いて、HPLC分析に用いた各調整用植物油(A-1)の近赤外スペクトルを以下の条件で測定し、原スペクトルデータを得た。
測定波数:12500~4000cm-1
積算回数:128回
分解能:8cm-1
【0026】
解析ソフトOpus(Bruker社製)を用いて各調整用植物油の原スペクトルデータについてスペクトル前処理(一次微分及びベクトル正規化)を行った後、波数領域を9400~5900cm-1に限定してスペクトルデータを得た。各調整用植物油について、スペクトルデータを説明変数に、HPLC分析で求めたセサミンの定量値を目的変数にそれぞれ設定し、PLS法で多変量回帰分析することにより回帰式を作成した。
【0027】
<測定用植物油中のゴマリグナンの定量>
調整用植物油とは製造日の異なる測定用植物油(竹本油脂株式会社製 太白胡麻油(A-1))について、調整用植物油と同じ条件で近赤外スペクトルの測定及び加工を行い、スペクトルデータを得た。測定用植物油のスペクトルデータに作成した回帰式を適用し、測定用植物油(A-1)中のセサミンの定量値(以下、NIR定量値という)を算出した。
【0028】
<定量精度の検討>
近赤外スペクトルの測定に用いた測定用植物油(A-1)について上記条件でHPLC分析を行い、UVの吸収スペクトルのピーク面積と予め作成した検量線とを対比して測定用植物油(A-1)中のセサミンの定量値(以下、HPLC定量値という)を算出した。そして、測定用植物油(A-1)のNIR定量値とHPLC定量値との誤差を下記式により算出し、以下の基準で評価した。実施例1の誤差は2%未満であった。
誤差(%)=|HPLC定量値-NIR定量値|÷HPLC定量値×100
◎:2%未満
〇:2~3%
×:3%超
【0029】
実施例2~15、参考例16~51、比較例1~25
実施例1と同様にして、表1~表3に示す実施例2~15、参考例16~51及び比較例1~25についても同様に測定および評価を行った。
【0030】
表1~表3中の植物油は以下の通りである。
A-1:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油
A-2:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の1:9の混合油
A-3:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の5:5の混合油
A-4:竹本油脂株式会社製 太白胡麻油と焙煎ごま油の9:1の混合油
A-5:かどや製油株式会社製 純白ごま油
A-6:九鬼産業株式会社製 九鬼太白純正胡麻油
A-7:竹本油脂株式会社製 純正胡麻油
A-8:かどや製油株式会社製 金印純正ごま油
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
実施例1から実施例15、及び参考例16から51は、HPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が小さく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた高精度の定量方法を実現できた。また、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いているため、測定用植物油中のゴマリグナンを短時間で定量できた。一方、比較例1から比較例18は、ゴマリグナンがセサミノール又はセサモールであるため、一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せのいずれの前処理をしてもHPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が大きく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた定量精度が低かった。比較例19から比較例25は、前処理が一次微分単独、二次微分単独、及び一次微分とベクトル正規化との組合せのいずれでもないため、HPLC定量値に対するNIR定量値の誤差が大きく、フーリエ変換型近赤外光分析装置を用いた定量精度が低かった。