(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008483
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極合剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230112BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20230112BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230112BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230112BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230112BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230112BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230112BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20230112BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230112BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230112BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230112BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M10/0565
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112091
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織地 学
(72)【発明者】
【氏名】利根川 明央
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 耐
(72)【発明者】
【氏名】原田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】茂利 敬
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029DJ15
5H029DJ16
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA16
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【解決手段】正極活物質と、カーボンブラックと、繊維状炭素と、バインダーとを成分として含む正極合剤であって、前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1)またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上)であり、前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下であり、前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである、正極合剤。
【効果】本発明の正極合剤をリチウムイオン二次電池の正極に用いると、サイクル特性およびレート特性に優れた電池を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、カーボンブラックと、繊維状炭素と、バインダーとを成分として含む正極合剤であって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1)またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上)であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである、
正極合剤。
【請求項2】
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上30nm以下のカーボンナノチューブである、請求項1に記載の正極合剤。
【請求項3】
複数の前記繊維状炭素が絡まりながら、前記正極活物質または前記カーボンブラックの表面に付着している、請求項2に記載の正極合剤。
【請求項4】
前記繊維状炭素が凝集粒子を形成し、該凝集粒子が前記正極活物質または前記カーボンブラックの間に存在する構造を含む、請求項2または3に記載の正極合剤。
【請求項5】
前記カーボンブラックまたは前記正極活物質の表面に、ほぐれた前記繊維状炭素が存在している構造を含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項6】
カーボンブラックと繊維状炭素との質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)が1:20~20:1である、請求項2~5のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項7】
前記繊維状炭素は、平均繊維径が100nm以上200nm以下のカーボンナノチューブである、請求項1に記載の正極合剤。
【請求項8】
前記繊維状炭素が、前記正極活物質の粒子間を橋渡ししている構造を含む、請求項7に記載の正極合剤。
【請求項9】
前記繊維状炭素が、前記カーボンブラックの二次凝集体を貫いた構造を含む、請求項7または8に記載の正極合剤。
【請求項10】
前記カーボンブラックと前記繊維状炭素との質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)が1:5~5:1である、請求項7~9のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項11】
前記カーボンブラックが前記正極活物質の表面、前記繊維状炭素の表面、前記正極活物質の粒子間の空隙、および前記繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在している、請求項1~10のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項12】
前記正極活物質の一次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)が0.01μm~2.0μmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項13】
前記正極活物質の二次粒子の、数基準準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)が0.5μm以上30.0μm以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項14】
前記正極活物質の含有量が90質量%以上98質量%以下であり、前記カーボンブラックと前記繊維状炭素の含有量の合計が0.5質量%以上5.0質量%以下であり、バインダーの含有量が1.5質量%以上5.0質量%以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項15】
前記バインダーがポリフッ化ビニリデンである、請求項1~14のいずれか1項に記載の正極合剤。
【請求項16】
正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および溶媒を含む正極塗工用スラリーであって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである 、
正極塗工用スラリー。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の正極合剤を含む正極。
【請求項18】
請求項17に記載の正極を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項19】
正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および固体電解質を含む、全固体型リチウムイオン二次電池用の正極層であって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである 、
全固体型リチウムイオン二次電池用の正極層。
【請求項20】
請求項19に記載の正極層を含む全固体型リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、その高い電圧と充放電の可逆性から、携帯機器の電源、自動車用の電源として主流の地位を確立した。そして今後も、この電池に対するエネルギー密度向上への要望や追求は続いていく。
【0003】
将来使用が期待されている活物質は、正極側はいわゆる三元系化合物のうちニッケルの比率が高いもの、あるいはオリビン型リン酸塩であり、負極側はシリコンである。正極活物質はそれぞれ、Lia(NixMnyCoz)O2(0≦a≦1、x+y+z=1)あるいはLiaMPO4(0≦a≦1、MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上である)という組成式で表される。
【0004】
これらの正極活物質を用いることによる弊害が存在する。それは従来の活物質であるLiaCoO2やLia(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2(0≦a≦1)に比べ、十分なサイクル特性とレート特性の両立が難しいことである。このような課題を、導電助剤の工夫で解決しようとした例は例えば次の特許文献に開示される。
【0005】
特開2010-108889号公報(特許文献1)には、繊維状炭素とカーボンブラックが連結されてなり、かつJIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であるカーボンブラック複合体とオリビン形リン酸鉄リチウムを含有してなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極が開示されている。このような正極では、電極全体の抵抗が高くなることがあるので、好ましくない。
【0006】
再表2015/111710号公報(特許文献2)には、Li1+yMO2の一般組成式を持つ正極活物質を含む非水二次電池が開示されている。この正極には導電性材料としてカーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、難黒鉛化炭素、人造黒鉛及び天然黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種が含まれてもよい。このような正極は、導電性材料について制限がなく、電極全体の抵抗が高くなることがあるので、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-108889号公報
【特許文献2】再表2015/111710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、十分なサイクル特性とレート特性に優れたリチウムイオン二次電池およびそれに用いる、正極合剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のカーボンブラックと繊維状炭素という2種の導電助剤により、上記活物質を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性およびレート特性を両立できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明を以下に示す。
[1]正極活物質と、カーボンブラックと、繊維状炭素と、バインダーとを成分として含む正極合剤であって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1)あるいはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上)であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである、
正極合剤。
[2]前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上30nm以下のカーボンナノチューブである、前項[1]に記載の正極合剤。
[3]複数の前記繊維状炭素が絡まりながら、前記正極活物質または前記カーボンブラックの表面に付着している、前項[2]に記載の正極合剤。
[4]前記繊維状炭素が凝集粒子を形成し、該凝集粒子が前記正極活物質または前記カーボンブラックの間に存在する構造を含む、前項[2]または[3]に記載の正極合剤。
[5]前記カーボンブラックまたは前記正極活物質の表面に、ほぐれた前記繊維状炭素が存在している構造を含む、前項[2]~[4]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[6]カーボンブラックと繊維状炭素との質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)が1:20~20:1である、全項[2]~[5]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[7]前記繊維状炭素は、平均繊維径が100nm以上200nm以下のカーボンナノチューブである、前項[1]に記載の正極合剤。
[8]前記繊維状炭素が、前記正極活物質の粒子間を橋渡ししている構造を含む、前項[7]に記載の正極合剤。
[9]前記繊維状炭素が、前記カーボンブラックの二次凝集体を貫いた構造を含む、前項[7]または[8]に記載の正極合剤。
[10]前記カーボンブラックと前記繊維状炭素との質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)が1:5~5:1である、前項[7]~[9]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[11]前記カーボンブラックが前記正極活物質の表面、前記繊維状炭素の表面、前記正極活物質の粒子間の空隙、および前記繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在している、前項[1]~[10]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[12]前記正極活物質の一次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)が0.01μm~2.0μmである、前項[1]~[11]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[13]前記正極活物質の二次粒子の、数基準準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)が0.5μm以上30.0μm以下である、前項[1]~[12]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[14]前記正極活物質の含有量が90質量%以上98質量%以下であり、前記カーボンブラックと前記繊維状炭素の含有量の合計が0.5質量%以上5.0質量%以下であり、バインダーの含有量が1.5質量%以上5.0質量%以下である、前項[1]~[13]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[15]前記バインダーがポリフッ化ビニリデンである、前項[1]~[14]のいずれか1項に記載の正極合剤。
[16]正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および溶媒を含む正極塗工用スラリーであって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである 、
正極塗工用スラリー。
[17]前項[1]~[15]のいずれか1項に記載の正極合剤を含む正極。
[18]前項[17]に記載の正極を含むリチウムイオン二次電池。
[19]正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および固体電解質を含む、全固体型リチウムイオン二次電池用の正極層であって、
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、
前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、
前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである 、
全固体型リチウムイオン二次電池用の正極層。
[20]前項[19]に記載の正極層を含む全固体型リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極合剤をリチウムイオン二次電池の正極に用いると、サイクル特性およびレート特性に優れた電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る正極合剤の第一の態様における正極合剤中の、正極活物質、カーボンブラックおよび繊維状炭素の状態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る正極合剤の第二の態様における正極合剤中の、正極活物質、カーボンブラックおよび繊維状炭素の状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1で得られた正極合剤のSEM写真である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた正極合剤のSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例2で得られた正極合剤のSEM写真である。
【
図6】
図6は、比較例2で得られた正極合剤のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る正極合剤は、正極活物質と、カーボンブラックと、繊維状炭素と、バインダーを成分として含む。さらにその他の成分を含むこともできる。
【0014】
(正極活物質)
本発明の実施形態に係る正極合剤の成分の1つである正極活物質は、三元系の正極材料であり、ニッケルの割合の比較的高いもの、または、オリビン型構造を持つリン酸塩である。
【0015】
前記の三元系の正極材料であり、ニッケルの割合の比較的高いものは、組成式では、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5、y≦0.3、z≦0.3、x+y+z=1)と表される。具体的には、例えばLi(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O2、Li(Ni0.7Mn0.2Co0.1)O2、Li(Ni0.7Mn0.1Co0.2)O2、Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O2、Li(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O2、Li(Ni0.5Mn0.2Co0.3)O2などの組成式を持つものが好ましい。
【0016】
また、前記のオリビン型構造を持つリン酸塩は、組成式では、LiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上)と表され、具体的には例えば、LiFePO4、LiFe0.5Mn0.5PO4、LiFe0.3Mn0.7PO4、LiCoPO4、LiCo0.5Mn0.5PO4などの組成式を持つものが好ましい。
【0017】
正極活物質の表面は非晶質炭素でコーティングされていてもよい。非晶質炭素でのコーティングの方法は、正極活物質を加熱し、そこに炭化水素ガスを流すことでCVDを行うことや、炭素前駆体と正極活物質を混合し、正極活物質表面に炭素前駆体が付着した状態で熱処理を行うことにより、炭素前駆体を炭化するという公知の方法が用いられる。
【0018】
正極活物質の一次粒子径の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は0.01μm以上であることが好ましい。0.01μm以上であることにより、十分な比容量が得られる。この観点から、Dn50は0.02μm以上であることがより好ましく、0.03μm以上であることがさらに好ましい。
【0019】
正極活物質の一次粒子径の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は2.0μm以下であることが好ましい。2.0μm以下であることにより、十分なレート特性が得られる。この観点から、Dn50は1.7μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
正極活物質の一次粒子径の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は電極のSEM写真および断面SEM写真から、任意の100個の正極活物質の一次粒子を選び出し、画像認識ソフトによる、粒子の最大長さの計測結果を平均することにより、求めることができる。
【0021】
正極活物質の二次粒子の、数積基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は0.5μm以上であることが好ましい。0.5μm以上であることにより、粉体のハンドリング性が優れ、また電極密度が上がりやすい。この観点から、Dn50は1.0μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。
【0022】
正極活物質の二次粒子の、数積基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は30.0μm以下であることが好ましい。30.0μm以下であることにより、十分なレート特性が得られ、また電極塗工時に異常な凹凸を生じない。この観点から、Dn50は25.0μm以下であることがより好ましく、20.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
正極活物質の二次粒子径の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は電極のSEM写真および断面SEM写真から、任意の100個の正極活物質の二次粒子を選び出し、画像認識ソフトによる、粒子の最大長さの計測結果を平均することにより、求めることができる。
【0024】
正極活物質の一次粒子は、本明細書では、3000倍~30000倍のSEM写真で、1つの粒と認識できるものを指す。
正極活物質の二次粒子は、本明細書では、一次粒子の集合によって形成される塊である。正極活物質の二次粒子は、SEM写真から確認することができる。
本明細書において、正極活物質について単に「粒子」という場合、それは一次粒子または二次粒子のことを指す。
【0025】
例えば、正極合剤の一具体例のSEM写真である
図3では、中央にある10μm程度の大きさの球体は、白っぽい粒子の集合体の表面を黒っぽい粒子が被覆しているという構造をとっているが、前記球体中の白っぽい粒子1粒1粒が一次粒子、10μm程度の白っぽい粒子の集合体が二次粒子である。
図3中の黒っぽい粒子は、カーボンブラックである。導電性の違いから、SEM写真では、金属酸化物である正極活物質は通常比較的白く、導電性のあるカーボンブラックは黒っぽく見える。炭素被覆された正極活物質の場合、この白黒の差が見えにくいことがあるため、EDX等を用いて、各粒子に含まれる元素から、正極活物質なのか、導電助剤なのかを確認することができる。
【0026】
(カーボンブラック)
本発明の実施形態に係る正極合剤の成分の1つであるカーボンブラックは、特に限定されない。カーボンブラックとしては、一般的なリチウムイオン二次電池の導電助剤として用いられているカーボンブラックを好適に用いることができる。例えば、デンカブラック(登録商標、デンカ株式会社製)、C-NERGY(登録商標)Super C45、C65(イメリスグラファイト&カーボン製)、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル製)等が挙げられる。
【0027】
カーボンブラックの一次粒子径は10nm以上100nm以下である。ここでいう一次粒子とは、アグリゲートと呼ばれる数珠状の構造内の、数珠の玉一粒に相当する部分を指す。カーボンブラックの一次粒子径がこの範囲であれば、活物質表面に均一に分散することができる。この観点から、カーボンブラックの一次粒子径は20~80nmであることが好ましく、30~70nmであることがさらに好ましい。
【0028】
カーボンブラックの一次粒子径は、電極のSEM写真および断面SEM写真から、任意の100個のカーボンブラックの一次粒子を選び出し、画像認識ソフトによる、粒子の最大長さの計測結果を平均することにより、求めることができる。
【0029】
また、前記のアグリゲートは一次凝集体とも呼ばれ、一次凝集体径とは、アグリゲートの最大長さを指す。一次凝集体径は、よく分散させたカーボンブラックをTEMで観察することにより、測定することができる。
【0030】
カーボンブラックの二次凝集体径は特に限定されない。
電極中では、ほとんどのカーボンブラックは、アグロメレートあるいはアグロメレートが凝集塊を作った状態で存在していると考えられるため、SEMやTEM観察から二次凝集体径を測定することは一般的には難しい。
【0031】
(繊維状炭素)
本発明の実施形態に係る正極合剤の成分の1つである繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである。
【0032】
本発明の正極合剤においては、繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下であれば、優れたサイクル特性およびレート特性を得ることができる。その中でも、繊維状炭素の平均繊維径が1nm以上30nm以下である態様(以下、第一の態様という)、および繊維状炭素の平均繊維径が100nm以上200nm以下である態様(以下、第二の態様という)が好ましい。第一の態様および第二の態様の作用については、後記の(正極合剤)の項で詳述する。
【0033】
第一の態様の繊維状炭素の例として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CNF)が挙げられる。MWCNTとして具体的には、VGCF(登録商標)-X(昭和電工株式会社製)が挙げられる。第二の態様の繊維状炭素の例として、気相成長炭素繊維やMWCNTが挙げられる。気相成長炭素繊維として具体的には、VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製)が挙げられる。
【0034】
繊維状炭素の平均繊維径は、電極のSEMによって観察された10本の任意の繊維の直径の平均から求めることができる。1本の繊維の直径は、SEM写真からある繊維の任意の10か所の幅を測定し、その平均をとることで求めることができる。
ここで、繊維の幅とは、長手方向に垂直な方向の繊維の寸法を指す。
【0035】
繊維状炭素の平均繊維長は、電極を溶媒で洗浄し、バインダーを除去したのちの粉体を分散媒に分散させ、アルミニウム箔等の上に展開したものを乾燥後にSEM観察し、100本の任意の繊維の、繊維軸に沿った長さを測定し、その平均をとることで測定することができる。
【0036】
(バインダー)
本発明の実施形態に係る正極合剤の成分の1つであるバインダーは特に限定されない。バインダーとしては、通常のリチウムイオン二次電池用の正極合剤に用いられるバインダーを好適に用いることができる。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが好ましく、PVdFを用いることが最も好ましい。
【0037】
(その他の成分)
本発明の実施形態に係る正極合剤は、上記のほか、分散剤や添加材を含んでいても構わない。正極活物質を分散させるための各種分散剤や、正極活物質を表面修飾するための薬剤を含むことができる。
【0038】
(正極合剤)
本発明の正極合剤は、優れたサイクル特性およびレート特性を有する。
本発明の正極合剤においては、前述のとおり、繊維状炭素が第一の態様または第二の態様であることが好ましい。
繊維状炭素が第一の態様である場合、本発明の正極合剤は、複数の繊維状炭素が絡まりながら、正極活物質またはカーボンブラックの表面に付着していることが好ましい。これにより、活物質表面に広範囲にわたって電子伝導性を付与できるからである。
【0039】
繊維状炭素が第一の態様である場合、繊維状炭素が凝集粒子を形成し、凝集粒子が正極活物質またはカーボンブラックの間に存在する構造を含むことが好ましい。これにより、活物質間に電子伝導性を付与できるからである。
【0040】
また、繊維状炭素が第一の態様である場合、カーボンブラックあるいは正極活物質の表面に、ほぐれた繊維状炭素が存在している構造を含むことが好ましい。これにより、少量の添加量で、正極合剤に電子伝導性を付与できるからである。
【0041】
繊維状炭素が第一の態様である場合の本発明の正極合剤の好ましい態様の模式図を
図1に示した。
図1で、101は正極活物質、102は繊維状炭素、103はカーボンブラックを示す。
図1において、繊維状炭素102は、糸毬状の繊維の凝集体からほぐれて、例えば1本の、もしくは2本の、または3本以上、例えば5~10本程度の繊維状炭素としてカーボンブラック103あるいは正極活物質101の表面に存在している。また、
図1において、繊維状炭素102は凝集粒子を形成し、その凝集粒子が正極活物質101またはカーボンブラック103の間に存在してもよい。また、複数の繊維状炭素102が絡まりながら、正極活物質101またはカーボンブラック103の表面に付着していてもよい。なお、
図1において、バインダーは省略してある。バインダーは各成分をコーティングしているか、
図1のような態様の全体あるいは一部がバインダーによるマトリックスの中に埋まっていると考えられる。そのため、接触した各成分は接着され、脱落しないものと考えられる。
【0042】
繊維状炭素が第二の態様である場合、繊維状炭素は活物質の粒子間を橋渡ししている状態が好ましい。これにより、遠距離にわたって、電子伝導のための径路が存在することになるからである。また繊維状炭素は、カーボンブラックの二次凝集体を貫いた構造を有していることが好ましい。これにより、カーボンブラックの二次凝集体が活物質との接点を多く持つことができ、遠距離の電子伝導径路とつながるからである。
【0043】
繊維状炭素が第二の態様である場合の本発明の正極合剤の好ましい態様の模式図を
図2に示した。
図2で、101は正極活物質、102は繊維状炭素、103はカーボンブラックを示す。
図2において、繊維状炭素102は、離れた正極活物質101間を橋渡ししており、また、カーボンブラック102の二次凝集体を貫いている。
【0044】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、カーボンブラックは活物質粒子の表面および充填された活物質粒子間の隙間に存在している。さらに、繊維状炭素の表面および繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在していることが好ましい。これらすべての箇所に均一に分散している状態が最も好ましい。正極合剤に良好な電子伝導性を付与できるからである。
【0045】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、正極活物質は90.0質量%以上を占めることが好ましい。正極の容量を十分に得ることができるためである。この観点から、正極合剤における正極活物質は、93.0質量%以上を占めることがより好ましく、95.0質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、正極活物質は98.0質量%以下を占めることが好ましい。導電助剤やバインダーを十分な量添加するためである。この観点から、正極合剤における正極活物質は97.0質量%以下であることがより好ましく、96.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、カーボンブラックと繊維状炭素の合計は0.5質量%以上であることが好ましい。正極合剤に十分な電子伝導性を与えるためである。この観点から、正極合剤におけるカーボンブラックと繊維状炭素の合計は1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、カーボンブラックと繊維状炭素の合計は5.0質量%以下であることが好ましい。正極の容量を十分に確保するためである。この観点からカーボンブラックと繊維状炭素の合計は4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、繊維状炭素が第一の態様である場合、カーボンブラックと繊維状炭素の質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)は1:20~20:1であることが好ましい。両者の複合化により、より正極合剤の低抵抗化につながるからである。この観点から、正極合剤におけるカーボンブラックと繊維状炭素の質量比は1:15~15:1がより好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、繊維状炭素が第二の態様である場合、カーボンブラックと繊維状炭素の質量比(カーボンブラック:繊維状炭素)は1:5~5:1であることが好ましい。両者の複合化により、より正極合剤の低抵抗化につながるからである。この観点から、正極合剤におけるカーボンブラックと繊維状炭素の質量比は1:4~4:1がより好ましい。
【0051】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、バインダーは1.5質量%以上であることが好ましい。正極合剤を一つにまとめるためである。この観点から、正極合剤におけるバインダーは2.0質量%以上であることがより好ましく、2.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の実施形態に係る正極合剤において、バインダーは5.0質量%以下であることが好ましい。バインダーは元来絶縁性であり、増やしすぎると正極合剤の抵抗が増大してしまうからである。この観点から、バインダーは4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
(正極塗工用スラリー)
本発明の実施形態に係る正極塗工用スラリーは、正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および溶媒を含む。
【0054】
前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである。
溶媒としては、特に制限はないが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が好ましい。
【0055】
(正極合剤の製造方法)
本発明の実施形態に係る正極合剤の製造方法は、特に制限はないが、好ましくは以下のステップを含む。
(1)正極活物質とカーボンブラック、繊維状炭素を秤量し、さらにバインダーを秤量して、溶媒を加えながらこれらを混合する。
(2)(1)で得られた混合物に溶媒を加えながら混練し、適切な粘度の正極塗工用スラリーを調製する。
(3)正極塗工用スラリーを集電体上に塗工する。
(4)スラリーを塗工した集電体を乾燥し、溶媒を除去する。
(5)得られた生成物をプレスする。
【0056】
(ステップ(1):秤量・混合)
ステップ(1)の混合の際は、予定量の溶媒を全量は添加しない。脱泡ニーダーあるいは混練機を用いて、粘度の高い状態で混合する。これにより、正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素を均一に分散させることができる。
(ステップ(2):正極塗工用スラリー調製)
次に溶媒の量を増やしながら混練し、均一な混合状態を維持しながら、塗工しやすい粘度のスラリーを調製する。添加する溶媒は用いるバインダーに応じて適宜選択されるが、バインダーとしてPVdFを用いる場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンが好適に用いられる。
(ステップ(3):塗工)
ドクターブレードあるいは塗工機を用いて、集電体上に正極塗工用スラリーを塗工する。集電体としては、高電位において酸化溶解せず、電子伝導性のある材料であれば制限はないが、アルミニウム箔が通常は用いられる。
(ステップ(4):乾燥)
正極塗工用スラリーが塗工された集電体を、ホットプレートなどの加熱装置上に置くことで溶媒を乾燥させる。その後真空乾燥を行い、残留した有機溶媒を除去する。
(ステップ(5):プレス)
電池において、電極はプレスされた状態で用いるため、上記工程で得られた製造物をロールプレスや一軸プレスでプレスし、正極合剤を成形する。100~500MPaの圧力を掛け、正極合剤の密度を3.0g/cm3以上にまで上げるのが普通である。
【0057】
正極合剤とは一般には正極活物質、導電助剤、バインダーおよびその他材料の混合物を指す。本発明における正極合剤は、少なくとも正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダーの混合物のことを指す。集電体上に成形された正極合剤を、正極合剤層と呼ぶ。正極合剤層と集電体の一体品を、正極シートと呼ぶ。正極シートは所望の形状および大きさに切り出された正極として、後述の負極とともに電池へと組み込まれる。
【0058】
(負極)
リチウムイオン二次電池を組むために、上記正極と組み合わせる負極は、負極合剤層と負極シートからなる。負極合剤層を形成する負極合剤は、負極活物質とバインダー、任意成分としての導電助剤からなる。
【0059】
(負極活物質)
負極合剤に含まれる負極活物質としては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において使用される負極活物質を好適に用いることができる。負極活物質の例としては、黒鉛、ハードカーボン、シリコンと炭素の複合化物、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(LTO)等が挙げられる。負極活物質は2種以上を混合して用いてもよい。また、負極活物質の表面は非晶質炭素でコーティングされていてもよい。
【0060】
(バインダー)
負極合剤に含まれるバインダーとしては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において使用されるバインダーを好適に用いることができる。バインダーの例としては、正極と同様にPVdFやPTFEを用いることができるほか、スチレンブタジエンラバー(SBR)やカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)などを用いることができる。
【0061】
(導電助剤)
負極合剤に含まれる導電助剤としては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において使用される導電助剤を好適に用いることができる。導電助剤の例としては、正極と同様、カーボンブラック、繊維状炭素、またはそれらの複合化物あるいは混合物が挙げられる。他にも、グラフェンや黒鉛粒子など、他の炭素材料も用いることができる。黒鉛などの炭素材料を負極活物質として用いる場合は、導電助剤は必須成分ではなく、必要に応じて添加すればよい。導電助剤は上記の2種以上を混合して用いることができる。
【0062】
(負極合剤ないし負極シート)
上記の負極活物質とバインダー、任意成分として導電助剤を混合して、負極合剤ないし負極シートを製造することができる。負極合剤ないし負極シートの製造方法は、正極の場合と概ね同様である。負極用の集電体としては銅箔が通常は用いられること、負極における負極合剤層の密度は1.6g/cm3以上とするのが普通であることが、正極の場合と異なる点である。
【0063】
(リチウムイオン二次電池)
上記の正極と負極、そしてセパレータと電解液、セルの外装から、リチウムイオン二次電池を組むことができる。固体電池の場合は正極、負極、固体電解質とセルの外装からリチウムイオン二次電池を組むことができる。
【0064】
(電解液)
電解液としては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において用いられている電解液を好適に用いることができる。すなわち、1M程度のリチウム塩が溶解した有機溶媒が通常用いられる。リチウム塩としてはLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiFSIなどが用いられ、有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等が挙げられる。溶媒はここに挙げたものおよびそれ以外を適宜選択して混合して用いてよい。また、電解液の添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が挙げられる。添加量としては、前記非水電解液100質量%に対して、0.01~20質量%が好ましい。
【0065】
(イオン液体)
溶媒を含まないカチオンとアニオンのみからなるイオン液体も、リチウムイオン二次電池の電解質となりうる。イオン液体の例としては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリニジウムカチオン、アンモニウムカチオンといったカチオンと、ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドアニオンといったアニオン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
(セパレータ)
セパレータとしては、一般的リチウムイオン二次電池において用いることのできるものから、その組み合わせも含めて自由に選択することができ、例えばポリエチレンあるいはポリプロピレン製の微多孔フィルム等が挙げられる。またこのようなセパレータに、SiO2やAl2O3などの粒子をフィラーとして混ぜたものや、これらの粒子を表面に付着させたセパレータも用いることができる。
【0067】
(全固体型リチウムイオン二次電池)
固体電解質には、ポリマー電解質と無機固体電解質が存在する。固体電解質を用いた場合は、セパレータが不要となり、固体電解質と活物質、導電助剤、バインダーを混合した電極層で、固体電解質を挟んだ形態の電池、すなわち全固体型リチウムイオン二次電池を形成できる。例えば、正極活物質、カーボンブラック、繊維状炭素、バインダー、および固体電解質を含む全固体型リチウムイオン二次電池用の正極層を構成することができる。ここで、前記正極活物質が、Li(NixMnyCoz)O2(x≧0.5,y≦0.3,z≦0.3,x+y+z=1) またはLiMPO4(MはFe、Co、Mn、Ni、Cuから選ばれる1種以上) であり、前記カーボンブラックは一次粒子径が10nm以上100nm以下 であり、前記繊維状炭素は、平均繊維径が1nm以上200nm以下、平均繊維長が1μm以上20μm以下のカーボンナノチューブである 。
【0068】
(固体電解質)
ポリマー電解質は、限定されないが、例えばポリエチレンオキシドなどのポリマーに上記リチウム塩を含浸したものが用いられる。無機固体電解質は、限定されないが、例えばLi13Ti1.7Al0.3(PO4)3やLi2S-P2S5などが挙げられる。
【0069】
(セルの外装材)
電池ケースとしては、正極および負極、そしてセパレータ及び電解液を収容できるものであれば、とくに制限されない。通常市販されている電池パックや18650型の円筒型セル、コイン型セル等、業界において規格化されているもののほか、アルミ包材でパックされた形態のもの等、自由に設計して用いることができる。
【0070】
各電極は積層したうえでパックして用いることができる。また、単セルを直列につなぎ、バッテリーやモジュールとして用いることができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、スマートホン、タブレットPC、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動工具、掃除機、電動自転車、ドローン、電気自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られる電力の貯蔵などに用いることができる。
【実施例0071】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。物性値の測定および電池評価は下記のように行った。
【0072】
[SEM観察]
以下の条件で、実施例、比較例で得た正極合剤、およびその成分のSEM観察を行った。
・走査型電子顕微鏡:株式会社日立ハイテクノロジーズ SU8220
・加速電圧:1kV
・倍率:3000~6000
正極活物質やカーボンブラックの平均粒子径や、繊維状炭素の平均直径および平均長さの定義および測定方法は、(発明を実施するための形態)の項に記載した通りである。SEM像における各図形の特定や計測には、画像認識ソフトImage J(アメリカ国立衛生研究所製)を用いた。
【0073】
(正極作製手順)
各実施例の説明の欄に記載した。
【0074】
(負極作製手順)
バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC1300、ダイセル製)を用いた。具体的には、CMC粉末を水に溶解して、固形分が2質量%の水溶液を調製した。導電助剤としてカーボンブラック(C-NERGY(登録商標)Super C45、イメリスグラファイト&カーボン製)を用いた。負極活物質としては、人造黒鉛SCMG(登録商標)-XR-s(昭和電工株式会社製)を用いた。
【0075】
黒鉛粒子90質量部、導電助剤2質量部、CMC固形分を8質量部含む量の2質量%CMC水溶液を秤量し、これらを混練機で混合して負極用スラリーを得た。
前記負極用スラリーを、厚さが20μmの銅箔上に、ロールコーターを用いて塗工した。乾燥後、さらに真空乾燥して負極シートを得た。負極シートは、300MPaの圧力でロールプレスすることにより、負極合剤層の密度を1.6g/cm3に調整した。
【0076】
(正負極容量比の調整)
正極と負極を対向させてリチウムイオン電池を作製する際、両者の容量バランスを考慮する必要がある。すなわち、負極の容量が正極の容量に対して小さ過ぎると、電池の充電時、負極活物質にリチウムが挿入しきった後には、金属のリチウムが負極上に析出するが、これはサイクル劣化の原因となる。逆に負極の容量が大き過ぎると、サイクル特性は向上するものの、負荷の小さい状態で充放電させることになるため、エネルギー密度はとしては低い電池なってしまう。このような事態を防ぐため、正極シートはできるだけ同一のロットのものを一定の面積打ち抜いて使用した。負極シートについては、対極をリチウムとしたハーフセルにより、事前に活物質の比容量を測定しておいた。そしてリチウムイオン二次電池における正極の容量(QC)に対する負極の容量(QA)の比が1.1となるように、負極用スラリーを集電体に塗工する時点で負極用スラリーの厚みを調整した。
【0077】
(評価用セルの作製)
露点が-80℃以下の、乾燥アルゴンガス雰囲気に保ったグローブボックス内で以下の電池を作製した。
【0078】
(ラミネート型フルセル)
上記正極作製手順および負極作製手順で得られた正極シートおよび負極シートを打ち抜いて面積20cm2の正極および負極を得た。正極のAl箔にAlタブを、負極のCu箔にNiタブをそれぞれ取り付けた。ポリプロピレン製微多孔膜を正極と負極との間に挟み入れ、それをタブ以外丸ごとアルミラミネート包材で包み、その中に電解液を700μL注入した。その後、開口部を熱融着によって封止して評価用の電池であるラミネート型フルセルを作製した。なお電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートを3:5:2の体積比で混合した溶媒に、ビニレンカーボネート(VC)が1質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が10質量%となるように混合し、これにさらに電解質LiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解させることによって得た液である。
【0079】
(Cレートの決定)
測定は25℃の恒温槽内で行った。上限電圧を3.8VとしてCC(定電流)-CV(定電圧)モードで、1mA、カットオフ電流値を0.4mAとして充電を行い、ガス抜きを行った。その後、上限電圧を4.2VとしてCC-CVモードで、1mA、カットオフ電流値を0.4mAとして充電し、下限電圧を2.8Vとして、CCモードで1mAの放電を行った。同条件で充放電を繰り返し、3サイクル目の放電容量をセル容量としてCレートを決定した。1Cは8mAであった。
【0080】
(セルのエージング)
上記とは別のラミネート型フルセルを用い、45℃の恒温槽内で操作を行った。作製後のセルを3時間置いておいた。次に、上限電圧は3.4VとしてCC(定電流)-CV(定電圧)モードで、0.03C、カットオフ電流値を0.01Cとして充電を行い、ガス抜きを行った。
【0081】
次に、上限電圧は4.25VとしてCC-CVモードで、0.1C、カットオフ電流値を0.02Cとして充電を行った。10分間休止後、CCモード、0.1C、カットオフ電圧を2.8Vとして放電を行った。
【0082】
次に、上限電圧は4.25VとしてCC-CVモードで、0.2C、カットオフ電流値を0.02Cとして充電を行った。10分間休止後、CCモード、0.2C、カットオフ電圧を2.8Vとして放電を行った。その後、ガス抜きを行った。
この操作をエージングとした。
上記の放電終了後、グローブボックス中でセルのラミネートを切り開いてガス抜きを行い、真空包装機を用いて再度封止した。ここまでの操作をセルのエージングとした。
【0083】
(サイクル特性)
上記エージング後、1Cの電流で、定電流充放電を300サイクル行った。試験は45℃の恒温槽内で行った。次の式(1)により、300サイクル後放電容量維持率を求めた。
(300サイクル後放電容量維持率)
=100×(300サイクル後放電容量)/(1サイクル目放電容量)・・・(1)
【0084】
(レート特性)
上記と同様に、45℃で300サイクル定電流充放電を行った後、満充電状態から0.1Cで300サイクル目時の半分の放電容量まで放電した。30分間休止後、8mAで5秒間放電を行った。このときの電圧降下量からオームの法則(R=ΔV/0.008)により、電池の内部抵抗(soc=50%時のDCR)を求めた。
【0085】
(実施例1)
正極活物質としてNMC811(Li(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O2、アモイタングステン株式会社製)を96.5質量部、カーボンブラック(C-NERGY(登録商標)Super C65、イメリスグラファイト&カーボン製、一次粒子径:33nm)を1.4質量部、気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-X(昭和電工株式会社製)を0.1質量部、PVdF2.0質量部を含むNMP溶液(12質量%)を秤量し、混練機で混合した。その後、適宜NMPを添加しながら混練機で混合し、粘度を調整したスラリーを調製した。
【0086】
前記スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上に、ロールコーターを用いて塗工し、乾燥させて正極シートを得た。これを真空乾燥した後、ロールプレスにより、正極合剤層の密度を3.1g/cm3にした。
【0087】
カーボンブラックの一次粒子径は33nmであった。
気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-Xの平均繊維径は15nmであり、平均繊維長は3μmであった。
【0088】
正極活物質NMC811の一次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は0.5μmであり、二次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は10.1μmであった。
【0089】
実施例1で得られた正極合剤のSEM像を
図3に示す。
図3から、実施例1で得られた正極合剤は、複数の繊維状炭素が絡まりながら、正極活物質またはカーボンブラックの表面に付着している構造を含むこと、繊維状炭素が凝集粒子を形成し、この凝集粒子が正極活物質またはカーボンブラックの間に存在する構造を含むこと、およびカーボンブラックまたは正極活物質の表面に、糸毬状の凝集体からほぐれた2~10本の繊維状炭素が存在している構造を含むことが確認された。
【0090】
また、
図3から、実施例1で得られた正極合剤は、カーボンブラックが正極活物質の表面、繊維状炭素の表面、正極活物質の粒子間の空隙、および繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在していることが確認された。
このようにして得られた正極を用いて、前述の作製方法に従い、ラミネート型フルセル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0091】
このラミネート型フルセルを用いて、サイクル特性およびレート特性を測定した。45℃での300サイクル後放電容量維持率は87%、45℃での300サイクル後の、50%SOCでの放電時DCRは3.3Ωであった。
【0092】
(比較例1)
カーボンブラックの量を1.5質量部とし、気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-Xを用いなかったことを除き、実施例1と同様にスラリー、正極合剤、正極を作製した。
比較例1で得られた正極合剤のSEM像を
図4に示す。
図4で示すように、比較例1で得られた正極合剤には、複数の繊維状炭素が絡まりながら、正極活物質またはカーボンブラックの表面に付着している構造、繊維状炭素が凝集粒子を形成し、この凝集粒子が正極活物質またはカーボンブラックの間に存在する構造、およびカーボンブラックまたは正極活物質の表面にほぐれた繊維状炭素が存在している構造は存在しない。
【0093】
また、
図4から、比較例1で得られた正極合剤は、カーボンブラックが正極活物質の表面、繊維状炭素の表面、正極活物質の粒子間の空隙、および繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在していることが確認されなかった。
【0094】
このようにして得られた正極を用いて、前述の作製方法に従い、ラミネート型フルセルを作製した。
このラミネート型フルセルを用いて、サイクル特性およびレート特性を測定した。45℃での300サイクル後放電容量維持率は86%、45℃での300サイクル後の、50%SOCでの放電時DCRは3.6Ωであった。
得られた結果を表1にまとめた。
【0095】
【0096】
(実施例2)
正極活物質としてNMC811(Li(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O2、アモイタングステン株式会社製)を96.5質量部、カーボンブラックを1.2質量部、気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製)を0.3質量部、PVdF2.0質量部分を含むNMP溶液(12質量%)を秤量し、混練機で混合した。その後、適宜NMPを添加しながら混練機で混合し、粘度を調整したスラリーを調製した。
【0097】
前記スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔上に、ロールコーターを用いて塗工し、乾燥させて正極シートを得た。これを真空乾燥した後、ロールプレスにより、正極合剤層の密度を3.6g/cm3にした。
【0098】
カーボンブラックの一次粒子径は33nmであった。
気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-Hの平均繊維径は150nmであり、平均繊維長は6μmであった。
【0099】
正極活物質NMC811の一次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は0.5μmであり、二次粒子の、数基準累積粒度分布における50%粒子径(Dn50)は10.1μmであった。
【0100】
実施例2で得られた正極合剤のSEM像を
図5に示す。
図5から、実施例2で得られた正極合剤は、繊維状炭素が正極活物質の粒子間を橋渡ししている構造を含むこと、および繊維状炭素がカーボンブラックの二次凝集体を貫いた構造を含むことが確認された。
【0101】
また、
図5から、実施例2で得られた正極合剤は、カーボンブラックが正極活物質の表面、繊維状炭素の表面、正極活物質の粒子間の空隙、および繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在していることが確認された。
【0102】
このようにして得られた正極を用いて、前述の作製方法に従い、ラミネートセルを作製(リチウムイオン二次電池)した。
このラミネート型フルセルを用いて、サイクル特性およびレート特性を測定した。45℃での300サイクル後放電容量維持率は87%、45℃での300サイクル後の、50%SOCでの放電時DCRは3.2Ωであった。
【0103】
(比較例2)
カーボンブラックの量を1.5質量部とし、気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-Hを用いなかったことを除き、実施例2と同様にスラリー、正極合剤、正極を作製した。
比較例2で得られた正極合剤のSEM像を
図6に示す。
図6で示すように、比較例2で得られた正極合剤には、繊維状炭素が正極活物質の粒子間を橋渡ししている構造、および繊維状炭素がカーボンブラックの二次凝集体を貫いた構造は存在しない。
【0104】
また、
図6から、比較例2で得られた正極合剤は、カーボンブラックが正極活物質の表面、繊維状炭素の表面、正極活物質の粒子間の空隙、および繊維状炭素同士の隙間の、いずれか1つ以上に存在していることが確認されなかった。
【0105】
このようにして得られた正極を用いて、前述の作製方法に従い、ラミネート型フルセルを作製した。
このラミネート型フルセルを用いて、サイクル特性およびレート特性を測定した。45℃での300サイクル後放電容量維持率は86%、45℃での300サイクル後の、50%SOCでの放電時DCRは3.6Ωであった。
得られた結果を表2にまとめた。
【0106】