(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084840
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20230613BHJP
H04R 7/26 20060101ALI20230613BHJP
H04R 19/01 20060101ALI20230613BHJP
H04R 19/02 20060101ALI20230613BHJP
H04R 7/24 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
H04R7/26
H04R19/01
H04R19/02
H04R7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199185
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】入井 広一
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【テーマコード(参考)】
5D005
5D016
5D021
【Fターム(参考)】
5D005BA05
5D005BA10
5D005BA11
5D016AA17
5D021CC05
5D021CC08
5D021CC19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振動膜が破損しづらく、かつ、小型あっても電気音響変換器の感度の低下を招きにくい電気音響変換器を提供する。
【解決手段】イヤホン1において、電気音響変換器2は、筐体20と、筐体の内部に配置された仕切部材30と、第1の電気音響変換ユニット100と、第2の電気音響変換ユニット200と、を備える。各電気音響変換ユニットは夫々、固定極101、201と、固定極に対向して配置され、電気信号に基づいて固定極との間に生じた電位差に応じて振動する振動膜105、205と、振動膜の一部の領域を支持し、振動膜の一部を固定極に当接させる支持部材107、207と、を有する。第1の電気音響変換ユニットと第2の電気音響変換ユニットとは、放音部100aと放音部200aとが音響出口2aに連通するように、仕切部材30を挟んで互いに対向して配置される。仕切部材3は、凹部33で支持部材107及び支持部材207を支持している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音を外部に放出する音響出口を有する筐体と、
前記筐体の内部に配置された仕切部材と、
前記筐体の内部に配置された第1の電気音響変換ユニットと、
前記筐体の内部に配置された第2の電気音響変換ユニットと、
を備え、
前記第1の電気音響変換ユニットおよび前記第2の電気音響変換ユニットは、
固定極と、
前記固定極に対向して配置され、電気信号に基づいて前記固定極との間に生じた電位差に応じて振動する振動膜と、
前記振動膜の一部の領域を支持し、前記振動膜の一部を前記固定極に当接させる支持部材と、を有し、
前記振動膜と前記固定極との間の距離が前記一部の領域から外側に離れるにつれて長くなるように設けられており、
前記第1の電気音響変換ユニットの放音部と前記第2の電気音響変換ユニットの放音部とが前記音響出口に連通するように、前記仕切部材を挟んで互いに対向して配置され、
前記仕切部材は、前記第1の電気音響変換ユニットの前記支持部材と、前記第2の電気音響変換ユニットの前記支持部材とを支持している、
電気音響変換器。
【請求項2】
前記仕切部材は、
前記第1の電気音響変換ユニットの音響空間の一部を規定する第1の面に形成され、前記第1の電気音響変換ユニットの前記支持部材を受け入れて前記支持部材を支持する第1の凹部と、
前記第2の電気音響変換ユニットの音響空間の一部を規定する第2の面に形成され、前記第2の電気音響変換ユニットの前記支持部材を受け入れて前記支持部材を支持する第2の凹部と、を有する、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記仕切部材は、前記筐体の内部を第1の空間と第2の空間とに分けるように設けられている、
請求項1又は2に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記仕切部材は板状の部材であって、一方の開口部が前記第1の空間に露出し他方の開口部が前記第2の空間に露出する貫通孔が形成されている、
請求項3に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記筐体は、筒状であり、
前記音響出口は、前記筐体の側面部に形成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記第1の電気音響変換ユニットおよび前記第2の電気音響変換ユニットは、
前記筐体を厚み方向に切った断面において、互いの距離が、前記筐体における前記音響出口が位置する側の端部から前記音響出口とは反対側の端部に向かって徐々に近づくように、傾斜して配置されている、
請求項5に記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記筐体は、
筒状のハウジング部材と、
前記ハウジング部材の一方の端部に取り付けられる第1のカバー部材と、
前記ハウジング部材の他方の端部に取り付けられる第2のカバー部材と、
を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を音に変換する電気音響変換器(electro-acoustic transducer)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状の固定電極(以下、固定極という)と、固定極に対向して設けられた振動膜とを有する静電型電気音響変換器が知られている。特許文献1には、薄膜状の振動膜の外周部が筐体に固定されたコンデンサ型イヤホンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンデンサ型のイヤホン又はヘッドホン等のような電気音響変換器においては、装着状態によって耳孔内部の圧力が変化することに伴って、電気音響変換器の内部の圧力が変化する。振動膜の外周部のみにおいて振動膜が筐体に固定された状態で電気音響変換器の内部の圧力が変化すると、振動膜が変位することにより振動膜の外周部に応力が集中する。電気音響変換器においては、振動膜の外周部に加わる応力によって振動膜が破損しにくく、かつ、小型であっても電気音響変換器の感度(音圧)を向上させることができる構造であることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、振動膜が破損しづらく、かつ、小型であっても電気音響変換器の感度の低下を招きにくい電気音響変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気音響変換器は、音を外部に放出する音響出口を有する筐体と、前記筐体の内部に配置された仕切部材と、前記筐体の内部に配置された第1の電気音響変換ユニットと、前記筐体の内部に配置された第2の電気音響変換ユニットと、を備え、前記第1の電気音響変換ユニットおよび前記第2の電気音響変換ユニットは、固定極と、前記固定極に対向して配置され、電気信号に基づいて前記固定極との間に生じた電位差に応じて振動する振動膜と、前記振動膜の一部の領域を支持し、前記振動膜の一部を前記固定極に当接させる支持部材と、を有し、前記振動膜と前記固定極との間の距離が前記一部の領域から外側に離れるにつれて長くなるように設けられており、前記第1の電気音響変換ユニットの放音部と前記第2の電気音響変換ユニットの放音部とが前記音響出口に連通するように、前記仕切部材を挟んで互いに対向して配置され、前記仕切部材は、前記第1の電気音響変換ユニットの前記支持部材と、前記第2の電気音響変換ユニットの前記支持部材とを支持している。
【0007】
前記仕切部材は、前記第1の電気音響変換ユニットの音響空間の一部を規定する第1の面に形成され、前記第1の電気音響変換ユニットの前記支持部材を受け入れて前記支持部材を支持する第1の凹部と、前記第2の電気音響変換ユニットの音響空間の一部を規定する第2の面に形成され、前記第2の電気音響変換ユニットの前記支持部材を受け入れて前記支持部材を支持する第2の凹部と、を有していてもよい。
【0008】
前記仕切部材は、前記筐体の内部を第1の空間と第2の空間とに分けるように設けられていてもよい。
【0009】
前記仕切部材は板状の部材であって、一方の開口部が前記第1の空間に露出し他方の開口部が前記第2の空間に露出する貫通孔が形成されていてもよい。
【0010】
前記筐体は、筒状であり、前記音響出口は、前記筐体の側面部に形成されていてもよい。
【0011】
前記第1の電気音響変換ユニットおよび前記第2の電気音響変換ユニットは、前記筐体を厚み方向に切った断面において、互いの距離が、前記筐体における前記音響出口が位置する側の端部から前記音響出口とは反対側の端部に向かって徐々に近づくように、傾斜して配置されていてもよい。
【0012】
前記筐体は、筒状のハウジング部材と、前記ハウジング部材の一方の端部に取り付けられる第1のカバー部材と、前記ハウジング部材の他方の端部に取り付けられる第2のカバー部材と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、振動膜が破損しづらく、かつ、小型あっても電気音響変換器の感度の低下を招きにくい電気音響変換器を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】電気音響変換装置の一例であるイヤホンの断面図である。
【
図3】
図1のイヤホンの電気音響変換器を示す断面図であり、筐体を厚み方向に切った断面を示している。
【
図5】電気音響変換器の構成をモデル化して示す模式図である。
【
図6】電気音響変換器の筐体の内部構造を説明するための斜視図である。
【
図7】固定極および振動膜に電気信号を入力するための電気回路を示す図である。
【
図8】プッシュプル方式の電気音響変換器を模式的に示す断面図である。
【
図9】第2の実施形態の電気音響変換器の構成を示す断面図である。
【
図10】第2の実施形態の電気音響変換器を有するイヤホンがユーザに装着された状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1の実施形態〕
本発明の一形態の電気音響変換器およびその電気音響変換器を備えた電気音響変換装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、電気音響変換装置の一例であるイヤホン1の断面図である。
図2は、
図1のイヤホン1の外観を示す図である。
【0016】
本発明は、いわゆるカナル型のイヤホンおよびインナーイヤー型のイヤホンのいずれにも適用可能であるが、以下ではカナル型のイヤホンについて例示する。
図1のイヤホン1の外形は、
図2のイヤホン1の外形と一部異なっているが、これらの相違点は本質的な相違ではない。
【0017】
以下では、図面に描かれた対象物の向きに合わせて「上」、「下」、「右」、「左」のような方向を示す用語が使用されるが、これらの用語は本発明を限定する意図で使用されるものではない。「上」および「下」の方向は、電気音響変換器の厚み方向に対応し、「右」および「左」の方向は、電気音響変換器を横断する方向に対応する。
【0018】
(電気音響変換装置の概要)
イヤホン1は、
図1および
図2に示すように、電気音響変換器2と、イヤピース3と、導管形成部材4と、ケーブル5とを備えている。
【0019】
電気音響変換器2は、電気信号を音に変換するドライバユニットである。電気音響変換器2の内部構造の詳細については後述する。イヤピース3は、ユーザの耳の穴に挿入される部材であり、弾力性のある材質で形成されている。
【0020】
導管形成部材4は、イヤホン1の外形の一部を形成している。導管形成部材4は、導管部4aとケーブル接続部4bとを有している。導管部4aは、電気音響変換器2で発生した音を外部に放出するための筒状の構造部であり、内部に管路4cが形成されている。導管部4aの先端にはイヤピース3が取り付けられる。
【0021】
ケーブル接続部4bは、ケーブル5が接続される部分である。ケーブル5は電気信号を電気音響変換器2に伝送するケーブルである。
【0022】
本実施形態では、導管形成部材4と電気音響変換器2とを別々の構成要素として説明するが、このことは、導管形成部材4と電気音響変換器2とが別体に設けられていなければならないことを意味しない。導管形成部材4と電気音響変換器2とは、単一の部材で一体的に設けられていてもよい。
【0023】
(電気音響変換器の構成)
図3は、
図1のイヤホン1の電気音響変換器2を示す断面図であり、筐体を厚み方向に切った断面を示している。
図4は、電気音響変換器2の筐体を示す断面図である。
図5は、電気音響変換器2の構成をモデル化して示す模式図である。
図6は、電気音響変換器2の筐体の内部構造を説明するための斜視図である。
図7は、固定極および振動膜に電気信号を入力するための電気回路を示す図である。
【0024】
電気音響変換器2は、
図3に示すように、筐体20と、仕切部材30と、第1の電気音響変換ユニット100と、第2の電気音響変換ユニット200とを有している。
【0025】
電気音響変換器2の特徴の1つは、
図3および
図5に示すように、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200とが、筐体20内で、仕切部材30を挟むように対向した状態で配置されていることである。第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200のそれぞれで発生した音は、筐体20の側面部の音響出口2aから外部に放出される。電気音響変換器2がこのような構成を有していることで、1つの電気音響変換ユニットだけを有する場合に比べて振動膜の有効面積が大きくなる。その結果、筐体20が小型であっても、電気音響変換器2の感度が向上し、イヤホン1の音質が改善されるという作用効果が得られる。
【0026】
第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200は、同一の構成であり、電気音響変換器2の厚み方向の中央部を横断する基準面Aを基準として対称に配置されている。第1の電気音響変換ユニット100の構成要素には「100」番台の番号が付され、第2の電気音響変換ユニット200の構成要素には「200」番台の、第1の電気音響変換ユニット100の構成要素に対応する番号が付されている。以下では、第1の電気音響変換ユニット100について説明し、第2の電気音響変換ユニット200についての重複する説明は省略する。2つの電気音響変換ユニット100、200を特に区別することなく、単に「電気音響変換ユニット」と記載することもある。
【0027】
(筐体の構造)
電気音響変換ユニットの詳細な構成を説明する前に、まず、筐体20について説明する。
図3および
図4に示すように、筐体20は、ハウジング部材21と、第1のカバー部材25と、第2のカバー部材26とを有している。筐体20も基準面Aを基準として上下対称に形成されている。
【0028】
ハウジング部材21は、円筒状の部材である。ハウジング部材21の一方の端部である上端部、および他方の端部である下端部は開口している。ハウジング部材21は、筐体20の側面を構成している。ハウジング部材21は、例えば樹脂材料で形成される。ハウジング部材21の上端部には、第1のカバー部材25が取り付けられ、ハウジング部材21の下端部には、第2のカバー部材26が取り付けられる。ハウジング部材21には、音を外部に放出する音響出口2aが形成されている。
【0029】
第1のカバー部材25は、ハウジング部材21の上端部の開口を塞ぐ部材である。
図4に示すように、第1のカバー部材25は、円板状の平坦面25aと、平坦面25aの周縁部から平坦面25aに対して直交する方向に延び出した側面25bとを有している。第1のカバー部材25は、例えば樹脂材料で形成される。
【0030】
第2のカバー部材26は、ハウジング部材21の下端部の開口を塞ぐ部材である。第2のカバー部材26も、円板状の平坦面26aと、平坦面26aの周縁部から平坦面25aに対して直交する方向に延び出した側面26bとをしている。第2のカバー部材26は、例えば樹脂材料で形成される。
【0031】
ハウジング部材21に対して第1のカバー部材25および第2のカバー部材26が取り付けられることにより、密閉された内部空間が形成される。筐体20の外形は、直径よりも高さ寸法が短い、やや扁平な円筒形状である。
図2の斜視図から理解されるように、第1のカバー部材25の平坦面25aは、イヤホン1の使用時にユーザの側頭部に向かい合う面である。なお、本実施形態では、円筒形状の筐体20を例示するが、筐体20の形状は任意である。第1のカバー部材25及び第2のカバー部材26のいずれか又は両方に音響特性を調整するための孔が形成されていてもよい。
【0032】
再び
図3および
図4を参照する。仕切部材30は、筐体20の内部に配置されている。仕切部材30は、具体的には、筐体20の内部空間を、第1の空間S100と第2の空間S200とに分ける部材である。仕切部材30は、ハウジング部材21とは別の部材として設けられていてもよいが、本実施形態ではハウジング部材21と一体的に形成されている。仕切部材30は、円板状の部材であり、その中心軸が筐体20と中心軸CLと一致するように筐体20と同軸に配置されている。
【0033】
仕切部材30は、
図4および
図6に示すように、第1の空間S100の一部を規定する第1の面31aと、その反対側に位置し、第2の空間S200の一部を規定する第2の面31bとを有している。第1の面31aおよび第2の面31bは、基準面Aに対して傾斜した面であってもよいし、基準面Aと平行な面であってもよい。
【0034】
仕切部材30は、具体的には、円形の肉厚部30-1と、その外側に形成された環状部30-2とを有している。肉厚部30-1は、中心軸CLを中心として所定の半径の円形領域に形成されている。環状部30-2は、環状の平坦面を有している。後述するように、環状部30-2には導電性部材113等が配置される。
【0035】
仕切部材30は、第1の面31aに形成された第1の凹部である凹部33を有している。また、仕切部材30は、第2の面31bに形成された凹部33を有している(
図3参照)。各凹部33は支持部材107を受け入れて支持部材107を支持するための構造部である。凹部33は、平坦な底面を有し、かつ、支持部材107の横断面の形状のよりも一回り大きい円形の輪郭形状を有している。凹部33は、仕切部材30の中央部に形成されている。
【0036】
このように支持部材107を受け入れる凹部33が形成されている構成によれば、製品を組み立てる際に、支持部材107が所定の固定位置である凹部33に配置され、支持部材107の位置がばらつきにくい。したがって、支持部材107の位置がずれることに起因した、電気音響変換器2の音響特性のばらつきを低減させることができる。なお、仕切部材30は、第2の電気音響変換ユニット200の支持部材207を第2の面31bに形成された第2の凹部である凹部33において支持している。
【0037】
仕切部材30は、
図6に示すように、仕切部材30を厚み方向に貫通する貫通孔35を有している。貫通孔35の一方の開口部は第1の空間S100に露出し、貫通孔35の他方の開口部は第2の空間S200に露出している。これにより、第1の空間S100と第2の空間S200とが互いに連通している。第1の空間S100に露出する貫通孔35の一方の開口部は第1の電気音響変換ユニット100の放音部100aを形成し(
図3参照)、第2の空間S200に露出する他方の開口部は第2の電気音響変換ユニット200の放音部200aを形成する。
【0038】
なお、上記では仕切部材30が筐体20の内部空間を分けている構成について説明したが、仕切部材30は必ずしも筐体20の内部空間を分ける機能を有していなくてもよい。
【0039】
貫通孔35は、例えば仕切部材30の厚み方向に沿って真っ直ぐに延びる孔である。貫通孔35がこのような形状の場合、金型で当該貫通孔35を形成しやすいという利点がある。貫通孔35の輪郭形状は任意であるが、貫通孔35は例えば
図6に示すように円弧状にカーブした形状を有していてもよい。貫通孔35は複数個形成されていてもよいし、1つのみ形成されていてもよい。
【0040】
(電気音響変換ユニット)
次に、電気音響変換ユニットについて説明する。前述したように、第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200は同一の構成であり、基準面Aを挟んで対称に配置されている。したがって、以下では、2つの電気音響変換ユニットのうち、第1の電気音響変換ユニット100について説明する。
【0041】
第1の電気音響変換ユニット100は、
図3に示すように、固定極101と、固定極カバー103と、振動膜105と、支持部材107と、絶縁性部材111と、導電性部材113とを備えている。
【0042】
固定極101は、平板状の導電性部材により形成されている。固定極101の形状および大きさは任意であるが、固定極101は例えば円板状である。固定極101には、空気を通過させる複数の孔が形成されている。
【0043】
固定極101の振動膜105に対向する面には、エレクトレット層(不図示)が形成されている。エレクトレット層は、電荷を半永久的に保持する誘電体を含んでおり、固定極101の導電性部材にバイアス電圧を印加する。エレクトレット層が形成された固定極101を有する第1の電気音響変換ユニット100は、外部から固定極101に対してバイアス電圧を印加する必要がない。なお、固定極101にエレクトレット層が形成されていない場合、不図示の端子を介して固定極101にバイアス電圧が印加されてもよい。
【0044】
固定極101は、
図7に模式的に示すように、音源6のグランドと配線5aを介して接続されている。なお、第2の電気音響変換ユニット200に関しても、固定極201は、音源6のグランドと配線5aを介して接続されている。
【0045】
固定極カバー103は、固定極101を固定するための部材であり、固定極101と第1のカバー部材25との間に配置される。固定極カバー103は、複数の孔が形成された略円板状の部材であり、絶縁性部材により形成されている。固定極カバー103に形成された複数の孔は、空気を通過させるための孔である。固定極カバー103の背部側(すなわち、振動膜105に対向する面の反対側)には、筐体20等によって音響室が形成される。このような構成において、固定極カバー103に形成された複数の孔は、音響インピーダンスを決定する要素の1つであり、孔の形状やサイズは電気音響変換ユニット100の音響設計に用いられる。
【0046】
振動膜105は、導電性を有する薄膜であり、固定極101に対向して設けられている。振動膜105は、例えば金属箔又は金が蒸着された高分子フィルムにより形成されている。振動膜105は、例えば円形である。振動膜105の外周部の円環状の領域は、絶縁性部材111と導電性部材113とによって支持されている。
【0047】
振動膜105の一部の領域は、支持部材107によって、固定極101に押し付けられている。具体的には、円形の振動膜105の中央部の領域が固定極101に押し付けられており、固定極101の中央部に当接している。このような構成により、振動膜105は、固定極101の厚み方向における振動膜105と固定極101との間の距離が、振動膜105が固定極101に接触している一部の領域から外側(円形の振動膜105の径方向外側)に離れるにつれて徐々に長くなっている。振動膜105は、その外周部分が最も固定極101と離れている。具体的には、振動膜105と固定極101とは、絶縁性部材111の厚み分だけ離れている。
【0048】
なお、振動膜105の中央部は固定極101に物理的に接触しているが、振動膜105と固定極101とは導通していない。振動膜105と固定極101とを導通させない構造として、振動膜105は、絶縁性を有するフィルム材で形成され、固定極101に対向する面には金属膜が形成されず、固定極101に対向する面の反対側の面のみに金属膜が形成されていてもよい。このような構成によれば、振動膜105の中央部が固定極101に接触しても、振動膜105と固定極101は導通することはない。
【0049】
支持部材107は、例えばバネ、多孔体、ゴムなどの弾性部材で形成されている。支持部材107の形状は任意であるが、例えば円柱状である。支持部材107は、立方体であってもよい。支持部材107は、仕切部材30の凹部33に配置され、凹部33から所定の高さだけ突出している。支持部材107は、第1の電気音響変換ユニット100の音響空間内の圧力の変化に応じて振動膜105が変位する方向に変位する。音響空間内の圧力の変化は、例えば、イヤホン1が耳に装着された場合、又は、イヤホン1が耳から外された場合に生じる。
【0050】
絶縁性部材111は、振動膜105が固定極101に導通することを妨げる部材である。絶縁性部材111は、所定の厚みを有する円環状の部材であり、例えば樹脂により形成されている。絶縁性部材111は、振動膜105と固定極101との間に配置されている。
【0051】
導電性部材113は、振動膜105に電気信号を印加するための導電性部材である。導電性部材113は、例えば円環状であり、導電性シートにより形成されている。導電性部材113は、振動膜105の絶縁性部材111に接する側の面の反対側の面に配置され、振動膜105の外周部に接触している。換言すると、導電性部材113と絶縁性部材111とは、振動膜105の外周部を挟み込む。導電性部材113には、
図7に示すように配線5b経由で音源6からの電気信号が入力される。導電性部材113は、導電性シートではなく、金属製の部材であってもよい。材質は任意であるが、例えば真鍮が使用されてもよい。
【0052】
以上、第1の電気音響変換ユニット100について説明したが、第2の電気音響変換ユニット200も第1の電気音響変換ユニット100と同様に構成されている。第2の電気音響変換ユニット200は、
図3に示すように、固定極201と、固定極カバー203と、振動膜205と、支持部材207と、絶縁性部材211と、導電性部材213とを備えている。固定極201、固定極カバー203、振動膜205、支持部材207、絶縁性部材211、および導電性部材213は、それぞれ、第1の電気音響変換ユニット100の固定極101、固定極カバー103、振動膜105、支持部材107、絶縁性部材111、および導電性部材113に対応するため、重複する説明は省略する。
【0053】
第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200とは、
図3および
図5に示すように、第1の電気音響変換ユニット100の放音部100aと第2の電気音響変換ユニット200の放音部200aとが向かい合うように、互いに対向して配置される。具体的には、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200とは、固定極101と固定極201とが平行となるように、互いに平行に配置されている。
【0054】
上述のように構成された第1の電気音響変換ユニット100では、音源6から入力される電気信号に基づき、固定極101と振動膜105との間に生じた電位差に応じて第1の電気音響変換ユニット100の音響空間内で振動膜105が振動する。同様に、第2の電気音響変換ユニット200では、固定極201と振動膜205との間に生じた電位差に応じて第2の電気音響変換ユニット200の音響空間内で振動膜205が振動する。第1の電気音響変換ユニット100で発生した音、および、第2の電気音響変換ユニット200で発生した音は、それぞれ、放音部100a、200aから放出される。そして、第1の電気音響変換ユニット100で発生した音、および、第2の電気音響変換ユニット200で発生した音は、筐体20の側面の音響出口2aから筐体20の外部へと放出され、導管部4aおよびイヤピース3を経由してイヤホン1の外部へと放出される。
【0055】
(第1の実施形態の構成の作用効果)
以上説明したように、本実施形態の電気音響変換器2では、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200との一対の電気音響変換ユニットが筐体20内に配置されている。したがって、電気音響変換ユニットが1つのみ設けられた電気音響変換器と比較して、振動膜の有効面積が2倍になり電気音響変換器2の感度が向上する。電気音響変換器2が小型であり、1つの電気音響変換ユニットでは十分な感度を確保するのが難しい場合であっても、本実施形態の構成によれば、電気音響変換器2の感度を向上させることができる。
【0056】
特に、本実施形態の電気音響変換器2では、第1の電気音響変換ユニット100の振動膜105の一部が固定極101に押し当てられ、第2の電気音響変換ユニット200の振動膜205の一部は固定極201に押し当てられている。このような構成の場合、コンデンサ型のドライブユニットにおいて、固定極101と振動膜105とのギャップおよび固定極201と振動膜205とのギャップが小さくなり、電気音響変換器2の感度が向上する。
【0057】
振動膜の外周部のみにおいて振動膜が筐体に固定された構成の場合、電気音響変換器の内部が変化すると、振動膜が変位することにより振動膜の外周部に応力が集中する。一方、本実施形態の第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200では、振動膜105および振動膜205の変位が支持部材107によって抑制されるため、振動膜105および振動膜205の外周部における応力の集中が緩和される。そのため、振動膜105、205が破損する可能性が低減する。また、本実施形態のような構成は、固定極と振動膜とが平行に配置される構成と比べて振動膜の変位幅が小さくなるため、第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200のそれぞれのユニットの厚みを薄くすることができ、イヤホン1全体の小型化にも有利である。
【0058】
第1の電気音響変換ユニット100が配置される第1の空間S100と、第2の電気音響変換ユニット200が配置される第2の空間S200とは、互いに独立しておらず共通の空気室として形成されてもよい。しかし、本実施形態のように第1の空間S100と第2の空間S200とが互いに独立している場合、各音響電気音響変換ユニットの音響設計を行い易いという利点がある。
【0059】
本実施形態の電気音響変換器2は、固定極101および固定極201がエレクトレット層を有するものであることが好ましい。マグネットを使用するいわゆるダイナミック型のユニットを2つ対向させる構成の場合は、磁気による反発の影響が生じる。しかし、本実施の形態のような、エレクトレットコンデンサ型の電気音響変換ユニットを有する電気音響変換器2を対向させる構成では、反発など音質に影響する要素が少なくなる。
【0060】
図8は、比較例としてのプッシュプル方式の静電型電気音響変換器を模式的に示す断面図である。
図8のようなプッシュプル方式の電気音響変換器300においては、振動膜305の両側に一対の固定極301が配置される。プッシュプル方式の電気音響変換器300では、電気音響変換器300を動作させるためにバランス駆動のアンプ(不図示)が必要となる。本実施形態の構成の場合、シングルエンド駆動およびバランス駆動の両方を利用可能である。
【0061】
また、プッシュプル方式の電気音響変換器300は、それぞれの固定極301が音響インピーダンスを構成し電気音響変換器300の感度を向上させることが難しい場合がある。また、振動膜305が固定極301に張り付くのを防止するため、振動膜305と固定極301との間のギャップを比較的大きくする必要がある。このような構成は、電気音響変換器300の感度の向上および電気音響変換器300の小型化に不利である。これに対して、本実施形態の電気音響変換器2の構成は、電気音響変換器2の感度を向上させ、電気音響変換器2を小型化させるのに有利である。
【0062】
本実施形態の電気音響変換器2では、仕切部材30が第1の電気音響変換ユニット100の音響空間の一部を規定する第1の面31aと、第2の電気音響変換ユニット200の音響空間の一部を規定する第2の面31bとを有している。このような構成によれば、筐体20の内部を2つの空間に仕切る仕切部材30が、第1の電気音響変換ユニット100の音響空間および第2の電気音響変換ユニット200の音響空間を形成する部材を兼用する。したがって、仕切部材30とは別の部材によって各電気音響変換ユニット100、200の音響空間を形成する構成と比較して、部品点数が減少し、構造が簡素化する。加えて、仕切部材30が音響空間の一部を規定する本実施形態の構成によれば、音響抵抗を調整しやすいという利点がある。また、本実施形態の構成によれば、振動膜105の振動を制御する、音響質量、音響容量、および音響抵抗などのパラメータの変更も行いやすい。
【0063】
本実施形態の電気音響変換器2では、仕切部材30の第1の面31aと第2の面31bとのそれぞれに支持部材107を受け入れて支持するための凹部33が形成されている。このような構成によれば、支持部材107が凹部33に配置され、支持部材107の配置位置がずれにくい。したがって、支持部材107の位置がずれることに起因した音響特性のばらつきが低減する。
【0064】
本実施形態の電気音響変換器2では、仕切部材30は板状の部材であり、仕切部材30には、一方の開口部が第1の空間S100に露出し他方の開口部が第2の空間S200に露出する貫通孔35が形成されている。このような構成によれば、板状の部材である仕切部材30に貫通孔35が形成された簡単な構造によって、第1の電気音響変換ユニット100の音響空間と第2の電気音響変換ユニット200の音響空間とを連通させることができる。
【0065】
本実施形態の電気音響変換器2では、筐体20から音を外部に放出する音響出口2aが、筐体20の第1のカバー部材25および第2のカバー部材26ではなく、筐体20の側面に形成されている。このような構成によれば、音響出口が第1のカバー部材25および第2のカバー部材26に設けられる構成と比較して、イヤホン1の設計を、ユーザの耳およびその周辺の形状に合ったものとすることができる。したがって、イヤホン1がユーザによって使い勝手のよいものとなる。
【0066】
本実施形態の電気音響変換器2では、筐体20は筒状のハウジング部材21を有し、そのハウジング部材21の一方の端部に第1のカバー部材25が取り付けられ、ハウジング部材21の他方の端部に第2のカバー部材26が取り付けられる。このような構成によれば、製品の組立て時に、作業者は、第1の電気音響変換ユニット100を筐体20の一方の端部側から筐体20の内部に配置し、第1のカバー部材25を取り付ける。その後、作業者は、第2の電気音響変換ユニット200を筐体20の他方の端部側から筐体20の内部に配置し、第2のカバー部材26を取り付ける。このような手順で、作業者は、電気音響変換器2を容易に組み立てることができる。
【0067】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200が平行に配置された構成を例示したが、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200とは、
図9に示すように配置されてもよい。
図9は第2の実施形態の電気音響変換器の構成を示す断面図である。
図10は、第2の実施形態の電気音響変換器を有するイヤホンがユーザに装着された状態を示す斜視図である。
【0068】
図9の電気音響変換器2Aは、筐体20Aと、仕切部材30Aと、第1の電気音響変換ユニット100と、第2の電気音響変換ユニット200とを有している。筐体20Aは、第1の実施形態のハウジング部材21とは異なる形状のハウジング部材21Aと、ハウジング部材21Aの一方の端部に取り付けられる第1のカバー部材25とハウジング部材21Aの他方の端部に取り付けられる第2のカバー部材26とを有している。
【0069】
仕切部材30Aは、イヤピース3に近い側である筐体20Aの音響出口2aが位置する側の端部(
図9の図示左側の端部)から、音響出口2aとは反対側の端部(図示右側の端部)に向かって板厚が徐々に薄くなるような形状に形成されている。これに合わせて、筐体20Aは、音響出口2aとは反対側の端部における筐体20Aの厚みが音響出口2a側の端部における厚みよりも薄くなるように形成されている。
【0070】
第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200は、第1の実施形態と同様、基準面Aを挟んで対称の配置で互いに対向して設けられている。第1の電気音響変換ユニット100および第2の電気音響変換ユニット200は、具体的には、音響出口2aが位置する側の端部から反対側の端部に向かって互いの距離が徐々に近づくように、傾斜して配置されている。電気音響変換器2Aのその他の構成については、第1の実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0071】
第2の実施形態の構成によれば、第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200が平行に配置された構成と比較して、筐体20Aのうち特にユーザの耳介の耳輪7(
図10参照)に近い側の領域である、音響出口2aが位置する側とは反対側の領域において筐体20Aが薄く形成される。したがって、第2の実施形態の電気音響変換器2Aは、筐体20Aと耳との干渉を避けることが可能となり、イヤホン1の装着感も改善される。
【0072】
第2の実施形態の電気音響変換器2Aは、第1の実施形態と同様に、筐体20A内に第1の電気音響変換ユニット100と第2の電気音響変換ユニット200とが対向して配置されていることによって、電気音響変換器2Aの感度を向上させる効果を得ることができる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0074】
1 イヤホン
2 電気音響変換器
2a 音響出口
3 イヤピース
4 導管形成部材
4a 導管部
4b ケーブル接続部
4c 管路
5 ケーブル
5a 配線
5b 配線
6 音源
7 耳輪
20 筐体
21 ハウジング部材
25 第1のカバー部材
25a 平坦面
25b 側面
26 第2のカバー部材
26a 平坦面
26b 側面
30 仕切部材
30-1 肉厚部
30-2 環状部
31a 第1の面
31b 第2の面
33 凹部
35 貫通孔
100 第1の電気音響変換ユニット
100a 放音部
101 固定極
103 固定極カバー
105 振動膜
107 支持部材
111 絶縁性部材
113 導電性部材
200 第2の電気音響変換ユニット
200a 放音部
201 固定極
203 固定極カバー
205 振動膜
207 支持部材
211 絶縁性部材
213 導電性部材
A 基準面
CL 中心軸
S100 第1の空間
S200 第2の空間