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特開2023-84852導電性積層体、その製造方法、および導電性組成物
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  • 特開-導電性積層体、その製造方法、および導電性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084852
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】導電性積層体、その製造方法、および導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230613BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B32B27/00 A
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199209
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】久留島 康功
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆裕
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AH04A
4F100AH04J
4F100AH07A
4F100AK51B
4F100CA21A
4F100CA21J
4F100EH46A
4F100EJ422
4F100EJ42A
4F100GB61
4F100GB90
4F100JK06A
4F100JK17A
4F100JK17B
4F100JN01A
4F100JN01B
(57)【要約】
【課題】伸縮性と塗膜強度とを両立した導電性積層体を提供する。
【解決手段】(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物を含む導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材に複合化され、塗膜表面の摩擦係数が1.8以上である、導電性積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含む導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材に複合化され、
塗膜表面の摩擦係数が1.8以上である、導電性積層体。
【請求項2】
塗膜が断面TEM観察により規定される樹脂基材の基準面から5nm以上の深度まで複合化されている、請求項1に記載の導電性積層体。
【請求項3】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が、粒子径20nm以下の粒子を60重量%以上含んだPEDOT:PSS、またはスルホン基修飾PEDOTである、請求項1または2に記載の導電性積層体。
【請求項4】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が、導電率が400S/cm以上のPEDOT:PSSである、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項5】
樹脂基材の摩擦係数が1.8以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項6】
樹脂基材がショアA硬度90以下のポリウレタンからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項7】
塗膜が、導電性組成物を加圧積層することにより樹脂基材と複合化されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項8】
塗膜が、130℃以下かつ20分間以下で加熱乾燥されたものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項9】
塗膜の表面粗さRaが0.1μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項10】
表面抵抗率が200Ω/sq以下であり、1.5倍延伸後の表面抵抗率が500Ω/sq以下であり、2倍伸縮を50回繰り返した前後の表面抵抗率変化率が3倍以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項11】
2倍伸縮を50回繰り返した後の、碁盤目剥離試験による導電性組成物の密着性が8点以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項12】
ヘイズが20%以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項13】
導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材の両面に複合化された、請求項1~12のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の導電性積層体を含む静電容量センサー。
【請求項15】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含む、
請求項1~13のいずれか1項に記載の導電性積層体を製造するための導電性組成物。
【請求項16】
さらに界面活性剤、および導電性向上剤を含む、請求項15に記載の導電性組成物。
【請求項17】
導電性組成物からなる塗膜を、25~200μmの厚みを有する樹脂基材上に複合化する工程を含む導電性積層体の製造方法であって、
前記導電性組成物が
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含み、
得られる塗膜表面の摩擦係数が1.8以上である、
導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性積層体、その製造方法、および導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
IoTの実現へ向けた市場ニーズとして、ウェアラブルセンサーや3D形状のセンサーなど新しい形態のセンサーの開発が加速している。これらの新型センサーに適用する電極には、センサーと同様の伸縮性が求められるため、従来の金属や無機酸化物は、電極材料として用いることが困難である。そこで、金属や無機酸化物の代わりに導電性高分子を用いた新型センサーの開発が行われている。
【0003】
導電性高分子を用いた新型センサーの一形態として、導電性高分子に加えて、伸縮性を向上するための可塑剤等を含む塗料を、柔軟性のある基材に塗布した部材が検討されている(特許文献1、2)。これらの部材は高い伸縮性を有し、伸縮後も導電性を維持しやすいが、伸縮性は塗膜の強度とのトレードオフとなる。塗膜の強度は架橋剤の添加などにより補うことができるが、架橋させるためには、製造時に高温かつ長時間の加熱が必要となるため、生産性が低く、性能も不十分であった。電子デバイスの精密化にともない、新型センサーをデバイスに組み込んだときの、他の部材との微小な位置ずれも課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-042300号公報
【特許文献2】特開2018-094913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、伸縮性と塗膜強度とを両立した導電性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の組成の塗膜を樹脂基材に複合化させ、塗膜表面の摩擦係数を所定の範囲に設定したときに前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含む導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材に複合化され、
塗膜表面の摩擦係数が1.8以上である、導電性積層体に関する。
【0008】
塗膜が断面TEM観察により規定される樹脂基材の基準面から5nm以上の深度まで複合化されていることが好ましい。
【0009】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が、粒子径20nm以下の粒子を60重量%以上含んだPEDOT:PSS、またはスルホン基修飾PEDOTであることが好ましい。
【0010】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が、導電率が400S/cm以上のPEDOT:PSSであることが好ましい。
【0011】
樹脂基材の摩擦係数が1.8以上であることが好ましい。
【0012】
樹脂基材がショアA硬度90以下のポリウレタンからなることが好ましい。
【0013】
塗膜が、導電性組成物を加圧積層することにより樹脂基材と複合化されていることが好ましい。
【0014】
塗膜が、130℃以下かつ20分間以下で加熱乾燥されたものであることが好ましい。
【0015】
塗膜の表面粗さRaが0.1μm以下であることが好ましい。
【0016】
表面抵抗率が200Ω/sq以下であり、1.5倍延伸後の表面抵抗率が500Ω/sq以下であり、2倍伸縮を50回繰り返した前後の表面抵抗率変化率が3倍以下であることが好ましい。
【0017】
2倍伸縮を50回繰り返した後の、碁盤目剥離試験による導電性組成物の密着性が8点以上であることが好ましい。
【0018】
ヘイズが20%以下であることが好ましい。
【0019】
導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材の両面に複合化されたものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記導電性積層体を含む静電容量センサーに関する。
【0021】
また、本発明は、
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含む、
前記導電性積層体を製造するための導電性組成物に関する。
【0022】
前記導電性組成物は、さらに界面活性剤、および導電性向上剤を含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明は、導電性組成物からなる塗膜を、25~200μmの厚みを有する樹脂基材上に複合化する工程を含む導電性積層体の製造方法であって、
前記導電性組成物が
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物
を含み、
得られる塗膜表面の摩擦係数が1.8以上である、導電性積層体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の導電性積層体は、特定の組成の塗膜を樹脂基材に複合化させ、塗膜表面の摩擦係数を所定の範囲に設定することにより、伸縮性と塗膜強度とを両立している。また、本発明の導電性積層体は摩擦係数の大きな電極として使用することができ、他の部材との位置ずれの課題も解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例6の導電性積層体の断面TEM画像を示す。
図2】実施例6の導電性積層体の元素マッピングを示す。
図3】実施例6の導電性積層体のライン分析結果を示す。
図4】実施例6の導電性積層体の元素マッピングとライン分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<<導電性積層体>>
本発明の導電性積層体は、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物を含む導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材に複合化され、塗膜表面の摩擦係数が1.8以上であることを特徴とする。
【0027】
<導電性組成物>
導電性組成物は、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物を含む。(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体は塗膜に導電性を付与し、(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物は、塗膜の伸縮性及び導電性を向上する。
【0028】
<(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体>
ポリエチレンジオキシチオフェンは導電性高分子であり、具体的にはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が挙げられる。本発明におけるポリエチレンジオキシチオフェンの重量平均分子量は、特に限定されないが、500~100,000であることが好ましく、1,000~50,000であることがより好ましく、1,500~20,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が500未満であると、導電性組成物とした場合に要求される粘度を確保することができないことや、塗膜の導電性が低下することがある。
【0029】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体は、ドープされたポリエチレンジオキシチオフェンである。ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体は外部ドーパントとの複合体であってもよく、自己ドープされたものであってもよい。
【0030】
外部ドーパントとしてはポリ陰イオンが挙げられ、その具体例としてはスルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)等が挙げられる。これらのスルホン酸ポリマー類やカルボン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類及びビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。外部ドーパントを用いたポリエチレンジオキシチオフェン誘導体としては、外部ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用いたPEDOT:PSSが特に好ましい。
【0031】
外部ドーパントとしてポリ陰イオンを用いる場合、その重量平均分子量は、特に限定されないが、20,000~1,000,000であることが好ましく、50,000~500,000であることがより好ましい。分子量がこの範囲を外れると、ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の水に対する分散安定性が低下する場合がある。なお、重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0032】
ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が自己ドープされたものである場合、その例としてはポリエチレンジオキシチオフェンに酸性基が結合した誘導体が挙げられる。酸性基としては、例えばスルホン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。自己ドープされたポリエチレンジオキシチオフェン誘導体としてはスルホン基修飾PEDOTが好ましい。
【0033】
ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の導電率は、特に限定されないが、塗膜に十分な導電性を付与する観点から400S/cm以上であることが好ましく、600S/cm以上であることがより好ましい。特に、ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体は、導電率が400S/cm以上であるPEDOT:PSSであることが特に好ましい。
【0034】
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体が水系溶媒においてコロイド分散状態となる場合、その粒子径は特に限定されないが、粒子径20nm以下の粒子を60重量%以上含むことが好ましく、75重量%以上含むことがより好ましい。粒子径20nm以下の粒子を60重量%以上含むときには、塗膜が樹脂基材と複合化しやすく、また、薄膜を形成しやすい傾向がある。(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の粒子径は、粒子径が既知の(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体同士を混合することにより調整できる。(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の粒子径は動的光散乱法により測定できる。
【0035】
導電性組成物中のポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の含有量は、全固形分中1~40重量%であることが好ましく、5~20重量%であることがより好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の含有量が全固形分中1重量%未満であると、導電性の発現が不安定となることがあり、40重量%を超えると、導電性が基材の表面粗さに依存しやすくなることがある。なお、本明細書においてポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の含有量は、分散体である場合には固形分重量を意味し、液体である場合には液体重量を意味する。また、導電性組成物の全固形分とは、導電性組成物中の、溶媒等の揮発する物質以外の成分の合計量を意味する。
【0036】
<(B)有機化合物>
(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物は、塗膜の伸縮性と導電性を向上する。塗膜の伸縮性及び導電性を向上する理由は、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の分子間に介在する(B)成分が、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体との間に水素結合を形成するためと推測される。
【0037】
水素結合を形成可能な官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、アミド基、カルボキシル基、スルフィニル基、カルボニル基等が挙げられ、合成が容易であることから水酸基、アミノ基、チオール基、アミド基、カルボキシル基が好ましい。
【0038】
(B)有機化合物において、水素結合を形成可能な官能基の数は、4以上である限り特に限定されないが、5以上が好ましく、6以上であることがより好ましい。水素結合を形成可能な官能基の数が4未満であると、導電性組成物の延伸性が低下する場合がある。
【0039】
(B)有機化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(I)で表されるポリグリセリン、糖アルコール類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリグルタミン酸、プルラン、カラギーナン及びこれらの誘導体等が挙げられる。糖アルコール類の具体例としてはエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチロール等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0040】
【化1】
【0041】
一般式(I)中、nは3~500の整数を表す。nは3~50であることが好ましい。nが3未満であると、水酸基の数が5未満となり導電性組成物の延伸性が低下する場合がある。一方、nが500を超えると、導電性組成物の低温時の延伸性が低下する恐れがある。
【0042】
(B)有機化合物の融点またはガラス転移温度は、130℃以下である限り特に限定されないが、100℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。融点またはガラス転移温度が130℃を超えると、導電性組成物の延伸性が低下する場合がある。なお、有機化合物の融点またはガラス転移温度とは、有機化合物が結晶性であるときには融点のことであり、非晶性であるときにはガラス転移温度のことである。
【0043】
(B)有機化合物の沸点または分解温度は、特に限定されないが、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。沸点または分解温度が300℃未満であると、加工プロセスにおける加熱処理で(B)有機化合物が揮発又は分解してしまい、導電性組成物の延伸性が低下する場合がある。
【0044】
導電性組成物において、(B)有機化合物の含有量は特に限定されないが、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体100重量部に対して10~2,000重量部であることが好ましく、30~1,000重量部であることがより好ましい。(B)有機化合物の含有量が10重量部未満であると、導電性組成物の延伸性が低下する場合があり、2,000重量部を超えると、導電性組成物中の(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の割合が減るため、十分な導電性を確保することが出来なくなることがある。
【0045】
<導電性組成物中の任意成分>
導電性組成物は、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、(B)有機化合物以外に、任意に他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、導電性向上剤、酸化防止剤、水性樹脂、溶媒、界面活性剤及び/又はレベリング剤、中和剤、架橋剤、触媒、消泡剤、レオロジーコントロール剤等が挙げられる。
【0046】
<導電性向上剤>
導電性向上剤は、導電性組成物からなる塗膜の導電性を向上させる目的で添加される。導電性向上剤は、塗膜を形成する際の乾燥処理により蒸散するが、その際に(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の配向を制御することで塗膜の導電性を向上させるものと推定される。
【0047】
導電性向上剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点が100~280℃であって、分子内に、少なくとも1つのスルフィニル基を有する化合物、少なくとも1つのアミド基を有する化合物、少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物等が挙げられる。これらの導電性向上剤は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0048】
導電性向上剤の沸点が100℃以上であると、塗膜を形成する際の乾燥処理によって導電性向上剤が徐々に揮発していくことになるが、その過程で、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の配向を導電性にとって有利な配向に制御することになり、その結果、導電性が向上するものと考えられる。一方、導電性向上剤の沸点が100℃未満であると、急激に導電性向上剤が蒸発してしまうため、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体の配向が十分に制御されず塗膜の導電性の向上につながらないものと考えられる。沸点は、生産性やプロセスマージンの観点から、100~250℃であることが好ましい。
【0049】
沸点が100~280℃で分子内に少なくとも1つのスルフィニル基を有する化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0050】
沸点が100~280℃で分子内に少なくとも1つのアミド基を有する化合物としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-エチルアセトアミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0051】
沸点が100~280℃で分子内に2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、キシリトール等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0052】
導電性組成物が導電性向上剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体100重量部に対して0.01~10,000重量部が好ましく、0.1~1,000重量部がより好ましい。導電性向上剤の含有量が0.01重量部未満であると、十分な導電性向上効果が得られないことがあり、10,000重量部を超えると、導電性組成物の乾燥性が悪くなることがある。
【0053】
<酸化防止剤>
導電性組成物に酸化防止剤を配合することにより、塗膜の耐熱性、耐湿熱性を向上させることができる。酸化防止剤は、特に限定されず、還元性の酸化防止剤であってもよく、非還元性の酸化防止剤であってもよい。
【0054】
還元性の酸化防止剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カリウム、D(-)-イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム等の2個の水酸基で置換されたラクトン環を有する化合物;マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類又は二糖類(但し、スクロースを除く);カテキン、ルチン、ミリセチン、クエルセチン、ケンフェロール、サンメリン(登録商標)Y-AF等のフラボノイド;クルクミン、ロズマリン酸、クロロゲン酸、ヒドロキノン、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、タンニン酸等のフェノール性水酸基を2個以上有する化合物;システイン、グルタチオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等のチオール基を有する化合物等が挙げられる。
【0055】
非還元性の酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードアミン、フェニルイミダゾールスルホン酸、フェニルトリアゾールスルホン酸、2-ヒドロキシピリミジン、サリチル酸フェニル、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸ナトリウム等の酸化劣化の原因となる紫外線を吸収する化合物が挙げられる。
【0056】
以上に挙げた酸化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、紫外線への耐性の観点から、非還元性の酸化防止剤が好ましく、ヒンダードアミンがより好ましい。
【0057】
導電性組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、導電性組成物の固形分100重量部に対して0.01~100,000重量部が好ましく、0.1~10,000重量部がより好ましい。
【0058】
<水性樹脂>
水性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシル基含有樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0059】
ポリエステル系樹脂としては、2つ以上のカルボキシル基を分子内に有する化合物と2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物とを重縮合して得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0060】
ポリウレタン樹脂としては、イソシアネート基を有する化合物とヒドロキシル基を有する化合物とを共重合させて得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エステル・エーテル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0061】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、この場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は上記共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル系樹脂の中では、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体等)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル-スチレン共重合体(アクリル酸-メタクリル酸メチル-スチレン共重合体等)等が好ましい。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩素化ポリプロピレン、非塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、非塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0063】
ポリビニルアルコール系樹脂は、特に限定されず、ビニルエステル系重合体のケン化により得ることができる。ビニルエステル系重合体としては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のビニルエステル類の重合体が挙げられる。これらの中では、酢酸ビニルの重合体が好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0064】
カルボキシル基含有樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、エチレン、メチルビニルエーテル等のビニル系単量体と無水マレイン酸の共重合体の酸無水物を開環、又はハーフエステル化、あるいはハーフアミド化した樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0065】
導電性組成物が水性樹脂を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体100重量部に対して10~1,000重量部が好ましく、50~800重量部がより好ましく、100~600重量部が特に好ましい。水性樹脂の含有量が10重量部未満であると、塗膜の強度が不十分となることがあり、1,000重量部を超えると、塗膜の柔軟性が損なわれることがある。
【0066】
<溶媒>
溶媒としては、特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン;アセトン;アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0067】
溶媒は、水、又は、水と有機溶媒との混合物であることが好ましい。導電性組成物が溶媒として水を含有する場合、水の含有量は、導電性組成物中20~75重量%が好ましく、30~65重量%がより好ましい。水の含有量が20重量%未満であると、粘度が高くなりハンドリングが困難になることがあり、75重量%を超えると、導電性組成物の濃度が低くなりすぎて液使用量が増えることがある。
【0068】
溶媒が水と有機溶媒との混合物である場合、有機溶媒は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、エタノールがより好ましい。有機溶媒の含有量は特に限定されないが、導電性組成物中25~55重量%が好ましく、30~50重量%がより好ましい。また、水と有機溶媒との比率(水:有機溶媒)は、重量比で、100:0~5:95が好ましく、100:0~30:70がより好ましい。
【0069】
溶媒は、導電性組成物を用いて得られる塗膜中には残留しないことが好ましい。なお、本明細書においては、導電性組成物の全ての成分を完全に溶解させるもの(即ち、「溶媒」)と、不溶成分を分散させるもの(即ち、「分散媒」)とは特に区別せずに、いずれも「溶媒」と記載する。
【0070】
導電性組成物の固形分は、特に限定されないが、0.1~12重量%であることが好ましく、2~10重量%であることがより好ましい。導電性組成物の固形分が0.1重量%未満であると、十分な導電性を発現できないことがあり、12重量%を超えると、形成された塗膜の柔軟性が低下することがある。ここで、導電性組成物の固形分とは、導電性組成物中の、溶媒等の揮発する物質以外の成分の合計量を意味する。
【0071】
<界面活性剤及び/又はレベリング剤>
導電性組成物に界面活性剤及び/又はレベリング剤を配合することにより、導電性組成物のレベリング性を向上させることができる。なお、本発明においては、一の化合物が界面活性剤にもレベリング剤にも相当することがある。
【0072】
界面活性剤としては、レベリング性向上効果を有するものであれば特に限定されず、その具体例としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素含有有機化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体などのポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アクリル系化合物等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、レベリング性向上効果が顕著に得られることからはシロキサン系化合物及びフッ素含有有機化合物が好ましい。
【0073】
レベリング剤としては、特に限定されず、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素含有有機化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体等のポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アクリル系化合物等が挙げられる。これらのレベリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
導電性組成物が界面活性剤及び/又はレベリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体100重量部に対して10~500重量部が好ましく、40~300重量部がより好ましい。界面活性剤及び/又はレベリング剤の含有量が10重量部未満であると、導電性組成物のレベリング性が不十分となることがあり、500重量部を超えると、塗膜の強度が損なわれる傾向がある。
【0075】
<中和剤>
(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体は酸性であるため、導電性組成物は中和剤として塩基性化合物を含んでもよい。塩基性化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の水酸化物や炭酸塩等、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。導電性組成物のpHは1.5~10が好ましい。
【0076】
<導電性組成物中の調製方法>
導電性組成物の調製方法は特に限定されず、(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、(B)有機化合物、及びその他の任意成分を、一括で、または任意の順序で混合すればよい。
【0077】
<樹脂基材>
樹脂基材の構成材料は特に限定されず、例えば、天然繊維、合成繊維、鉱物繊維、炭素繊維、ハイドロゲル、ポリウレタンフィルム、ポリエチレンフィルム、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。天然繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、絹、麻、毛等が挙げられる。合成繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン等が挙げられる。ハイドロゲルとしては、特に限定されないが、シリコーンハイドロゲル、ポリビニルアルコール系ハイドロゲル、ポリアクリル酸(塩)系ハイドロゲル、天然高分子系ハイドロゲル等が挙げられる。これらの構成材料は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、伸縮性を有するポリウレタンフィルムが好ましい。
【0078】
樹脂基材の厚みは特に限定されないが、25~200μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。厚みが25μm未満であると導電性積層体の機械強度が不十分となることがあり、200μmを超えると導電性積層体の柔軟性が不十分となることがある。
【0079】
樹脂基材は、摩擦係数が1.8以上であることが好ましい。この範囲とすることにより、塗膜の樹脂基材への複合化の効果が増大され、導電性積層体の伸縮性と塗膜強度を向上できる。樹脂基材の摩擦係数は、JIS K7125に従い測定することができる。
【0080】
樹脂基材のショアA硬度は90以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。ショアA硬度をこの範囲とすることにより、伸縮に対して適度な強度を有する導電性積層体を得ることができる。特に、樹脂基材は、ショアA硬度が90以下のポリウレタンからなることが好ましい。ショアA硬度は、デュロメーター(新潟精機デュロメータ ADM-E)を用い、JIS K6253に準じた方法で押圧することにより測定できる。
【0081】
<塗膜>
塗膜は、導電性組成物からなり、樹脂基材に複合化されている。塗膜は、樹脂基材の片面に複合化されていてもよく、樹脂基材の片面に複合化されていてもよい。複合化とは、塗膜が樹脂基材の微細な凹凸に浸透することにより、塗膜と樹脂基材とが物理的に嵌合されている状態をいう。塗膜と樹脂基材との複合化により、水平方向の伸縮に対して高い強度を有しつつ、導電性も維持できる導電性積層体が得られる。
【0082】
塗膜と樹脂基材との複合化は、例えば、導電性積層体の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認できる。また、導電性積層体の元素分析(STEM-EDX)に基づき、導電性組成物に由来する硫黄元素の分布により確認することもできる。例えばポリウレタンからなる樹脂基材を用いた場合、樹脂基材単体では硫黄元素が検出されないが、塗膜と樹脂基材との複合化が生じている場合には、導電性組成物に由来する硫黄元素が、樹脂基材の基準面から樹脂基材方向に一定の深度まで検出される。塗膜は、樹脂基材の基準面から、積層体の垂直方向に、樹脂基材に向かって5nm以上の深度まで複合化されていることが好ましく、10nm以上の深度まで複合化されていることがより好ましい。樹脂基材の基準面は、塗膜断面のTEM画像上で塗膜と樹脂基材の境界面の、0.2μm幅での平均値により規定される。
【0083】
本発明の導電性積層体は、2倍伸縮を50回繰り返した後の、碁盤目剥離試験により評価される、樹脂基材と塗膜との密着性が8点以上であることが好ましく、10点以上であることがより好ましい。2倍伸縮を50回繰り返す試験は、幅50mm、長さ100mm、厚さ100μmの試験片を、引張試験機にて変形速度3000mm/minで50%の変化量で50回伸縮させることにより行う。碁盤目剥離試験による密着性は、JIS K5400に基づき評価できる。
【0084】
本発明の導電性積層体は、表面抵抗率が200Ω/sq以下であることが好ましく、150Ω/sq以下であることがより好ましい。さらに、本発明の導電性積層体は、塗膜と樹脂基材とが複合化していることにより、水平方向の伸縮後も導電性を維持しやすい傾向がある。1.5倍延伸後の表面抵抗率は、500Ω/sq以下であることが好ましく、375Ω/sq以下であることがより好ましい。また、2倍伸縮を50回繰り返した前後の表面抵抗率変化率((2倍伸縮を50回繰り返した後の表面抵抗率)/(伸縮前の表面抵抗率))が3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましい。導電性積層体の表面抵抗率は、積層体を構成する塗膜の表面をJIS K7194に準拠して測定することにより求められる。
【0085】
塗膜の表面粗さRaは0.1μm以下であることが好ましく、0.08μm以下であることがより好ましく、0.05μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さRaが0.1μmを超えると、電極用途に適さない傾向がある。なお、本発明において、Raは算術平均粗さを指し、JIS B0601等に基づき測定することができる。
【0086】
塗膜の厚みは、特に限定されないが、0.01~1μmであることが好ましく、0.02~0.5μmであることがより好ましい。塗膜の厚みが0.01μm未満であると、導電性が不十分となることがあり、1μmを超えると伸縮性が不十分となることがある。
【0087】
本発明の導電性積層体は、ヘイズが20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。この範囲とすることにより、意匠性が重視される、バックライトを透過させるウェアラブルセンサーなどの、透明性と導電性の両立が求められる用途にも用いることができる。
【0088】
導電性積層体は、導電性組成物からなる塗膜が樹脂基材に複合化されている限り、さらに保護層、粘着層などを有していてもよい。これらは、塗膜の、樹脂基材と複合化された面の反対側に積層されていてもよい。また、塗膜が樹脂基材の片面に複合化されている場合には、樹脂基材の、塗膜と複合化された面の反対側に積層されていてもよい。
【0089】
<静電容量センサー>
本発明の導電性積層体は、静電容量センサーに好適に用いることができ、特に、導電性と伸縮性が要求される、ウェアラブルセンサー、3D形状のセンサー、ひずみセンサーなどに用いることができる。ウェアラブルセンサーとしては、脳波、事象関連電位、誘発電位、筋電図、心電図等の生体電気信号の記録、及び生体に対する電気刺激のための体表面装着型センサーが挙げられる。
【0090】
<<導電性積層体の製造方法>>
本発明の導電性積層体の製造方法は、導電性組成物からなる塗膜を、25~200μmの厚みを有する樹脂基材上に複合化する工程を含み、前記導電性組成物が(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体、および(B)分子中に水素結合を形成可能な官能基を4つ以上有する、融点またはガラス転移温度が130℃以下の有機化合物を含み、得られる塗膜表面の摩擦係数が1.8以上であることを特徴とする。
【0091】
塗膜を樹脂基材に複合化する工程では、例えば、樹脂基材上に導電性組成物を塗布した後、乾燥させることにより複合化を行う。
【0092】
樹脂基材上に導電性組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレーコート法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、ロールコート法、バーコート法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、ドクターコート法、スリットコート法等が挙げられる。これらの中でも、導電性組成物を樹脂基材の微細な凹凸に浸透させて、樹脂基材への複合化を促進するために、導電性組成物を樹脂基材に加圧積層する方法が好ましく、スプレーコート法、スクリーン印刷法が好ましい。
【0093】
樹脂基材上に複合化された導電性組成物を乾燥させる方法としては、例えば、送風乾燥設備、減圧乾燥設備、IR乾燥設備、ホットプレート等を用いる方法が挙げられる。乾燥温度は130℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。乾燥時間は20分間以下が好ましく、15分間以下がより好ましい。これらの条件の中でも、乾燥は130℃以下、かつ20分間以下で行うことが好ましい。
【実施例0094】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0095】
(使用材料)
1.(A)ポリエチレンジオキシチオフェン誘導体
・PEDOT:PSS水分散液1(ヘレウス社製、(PH1000)、固形分率1.0重量%、粒子径20nm以下の粒子の比率62%、導電率824S/cm)
・PEDOT:PSS水分散液2(ヘレウス社製、PH500)、固形分率1.0重量%、粒子径20nm以下の粒子の比率86%、導電率457S/cm)
・PEDOT:PSS水分散液3(製造例1、固形分率2.2%、粒子径20nm以下の粒子の比率15%、導電率390S/cm)
・スルホン基修飾PEDOT(ヘレウス社製、ポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-アルキレンスルホン酸)、導電率523S/cm)
2.(B)有機化合物
・ポリグリセリン(水酸基数42、融点-52℃)
・エリスリトール(水酸基数4、融点121℃)
・グリセリン(水酸基数3、融点20℃)
・ポリビニルアルコール(水酸基数≧1500、ガラス転移温度>300℃)
3.界面活性剤
・ポリエーテル樹脂(クラリアント社製、Genapol X 060)
・フッ素樹脂(デュポン社製、CAPSTONE FS-3100)
・シロキサン樹脂(東レ・ダウコーニング社製、8029Additive)
4.水性樹脂
・ポリエステル樹脂水分散体(東亞合成社製、アロンメルトPES-2405A30、固形分率30重量%)
・ポリウレタン樹脂水分散体(ADEKA社製、アデカボンタイターHUX-895、固形分率48重量%)
・アクリル樹脂水分散体(日本カーバイド社製、ニカゾールRX-3020、固形分率45重量%)
5.酸化防止剤
・ヒンダードアミン(BASF社製、チヌビン292)Tinuvin(R)292
6.導電性向上剤
・エチレングリコール(東京化成社製)
・ジエチレングリコール(東京化成社製)
・N-メチルピロリドン(東京化成社製)
・プロピレングリコール(東京化成社製)
・ジメチルスルホキシド(東京化成社製)
7.中和剤
・アンモニア水
8.溶媒
・水
・エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
9.樹脂基材
・U073T(ポリウレタン、厚さ70μm、コベストロジャパン株式会社製)
・TG88-1(ポリウレタン、厚さ70μm、株式会社武田産業製)
【0096】
(製造例1)
スターラーおよび窒素入り口を装備した10Lの反応容器中に、5508gのイオン交換水、492gの12.8重量%ポリスチレンスルホン酸(PSS)(Mw=56000)水溶液を入れ、窒素を吹き込みながら25℃に保って1時間撹拌した。この時の溶液中の温度は25℃、酸素濃度は0.5mg/L、pHは0.8、撹拌速度は300rpmであった。酸素濃度はインプロ6000シリーズOセンサーを用いるニック・プロセス・ユニット73O(メトラー・トレド株式会社製)を用いて測定した。次に、25.4g(179ミリモル)の3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、0.45gのFe(SO・3HO、30gのNaを加え、重合反応を開始させた。25℃において12時間反応させた後、さらに30gのNaを加えた。12時間の追加反応時間後に、イオン交換樹脂LewatitS100H、LewatitMP62を用いて処理することにより、濃青色のPEDOT/PSS水分散液3を4200g得た。Malvern社製ゼータサイザー Nano-Sを用いて測定し、粒子径20nm以下の粒子の比率は15%であった。
【0097】
(実施例1~8、比較例1~3)
表1に記載の各成分を混合し、導電性組成物を得た。得られた導電性組成物を、表1に記載の条件により樹脂基材の両面に塗布した後、乾燥・加熱処理することにより、導電性積層体を得た。膜厚の調整は、複合化工程後の表面抵抗率(初期)が表1に記載の値になるようワイヤーバーの番手を調整することにより行った。
【0098】
(導電性積層体の評価)
実施例1~8、比較例1~3で得られた導電性積層体について、下記の評価を行った。
【0099】
1.導電性積層体の塗膜表面の摩擦係数
塗膜表面の摩擦係数を、JIS K7125の摩擦係数試験方法に基づき、自動横型サーボスタンド(日本計測システム株式会社製、JSH-H1000)にて測定した。このとき、滑り片の底面には、測定対象と同一の導電性積層体を厚さ1mmの両面テープを用いて貼り付け10mm/minの速度で引っ張った。結果を表1に示す。
【0100】
2.複合化
2-1.断面TEM
導電性積層体の断面が観察できるように、凍結切片法を用いて断面を切り出したサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(HT7820(日立製))を用いた断面TEM観察にて塗膜の深度を測定した。結果を表1に示す。実施例6の導電性積層体の断面TEM画像を図1に示す。
【0101】
2-2.STEM-EDXマッピング
実施例6の導電性積層体の断面が観察できるように、凍結切片法を用いて断面を切り出したサンプルを作製し、下記条件により元素マッピングを行った。その結果を図2に示す。
FE-TEM:JEOL、JEM-2800、加速電圧200kV
EDX:Termo Fisher Scientific、NORAN System7、エネルギー分散型、B以上の元素検出可能。入射電子プローブ径 約1nmφ
【0102】
2-3.ライン分析
図3に各元素のライン分析結果を示す。また、図4に、元素マッピング(STEM)とオーバーレイした硫黄元素(S)のライン分析結果を示す。
【0103】
3.表面抵抗率
成膜直後の導電性積層体の表面抵抗率SR1、および、一軸方向に1.5倍延伸した後の表面抵抗率SR2を、JIS K7194に従い、三菱化学社製ロレスタGP(MCP-T610、プローブESP、印加電圧10V)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0104】
4.繰り返しの伸縮による表面抵抗率の変化率
導電性積層体を一軸方向に延伸率2倍で50回伸縮した後の、塗膜の表面抵抗率SR3を測定し、下記式により、塗膜の繰り返しの伸縮による表面抵抗率の変化率を求めた。結果を表1に示す。
繰り返しの伸縮による表面抵抗率の変化率=SR3/SR1
【0105】
5.繰り返し伸縮後の密着性
一軸方向に延伸率2倍で50回伸縮した後の塗膜に対して、JIS K 5400に従って、碁盤目剥離試験を実施した。結果を表1に示す。
【0106】
6.表面粗さRa
原子間力顕微鏡装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、Nanocute)を使用し、DFMモード、スキャン速度0.5Hzにて測定した。結果を表1に示す。
【0107】
7.ヘイズ
スガ試験機株式会社製ヘイズコンピュータHGM-2Bを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例1~8では塗膜と樹脂基材とが複合化し、導電性積層体の伸縮性と塗膜強度が両立された結果、伸縮後も高い導電性が維持された。
【0110】
比較例1では実施例4と同じ導電性組成物を用いたものの、塗膜と樹脂基材との複合化が不十分であったために塗膜の水平方向の強度が低下したと考えられる。その結果、初期の表面抵抗率、1.5倍延伸後の表面抵抗率、および2倍伸縮を50回繰り返した後の表面抵抗率変化率が上昇し、碁盤目剥離試験の評価が低下した。
【0111】
比較例2~3では(B)成分が本発明の要件を充足しないため、塗膜の延伸性が低下したと考えられる。その結果、1.5倍延伸後の表面抵抗率、および2倍伸縮を50回繰り返した後の表面抵抗率変化率が上昇し、碁盤目剥離試験の評価が低下した。
【0112】
図4において、導電性組成物に由来する硫黄元素(S)の強度(ネットカウント)は、樹脂基材の基準面から樹脂基材方向に向かって急激に減弱することはなく、低減しながらも約35nmの深度までは一定の強度がみられた。これにより、導電性組成物からなる塗膜が約35nmの深度で樹脂基材に複合化されていることが確認された。
図1
図2
図3
図4