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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084890
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】粉体および粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20230613BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199263
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】521537885
【氏名又は名称】森下 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 洋
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC09
4B023LE07
4B023LE30
4B023LG01
4B023LG03
4B023LG10
4B023LQ01
4B023LT53
4B023LT60
(57)【要約】
【課題】米等の穀類を原料とする物質において、加熱処理や撹拌処理に起因する熱が加えられることにより栄養価が低下してしまうことを抑制し、また、流通性の低下を抑制する。
【解決手段】米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体は、粒子径として30μm以上300μm以下のモード径を有し、複数の孔が形成された多孔質粒子と、粒子径として多孔質粒子のモード径よりも小さなモード径を有する粒子と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体であって、
粒子径として30μm以上300μm以下のモード径を有し、複数の孔が形成された多孔質粒子と、
粒子径として前記多孔質粒子のモード径よりも小さなモード径を有する粒子と、
を含む、粉体。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体において、
前記多孔質粒子のモード径は、50μm以上100μm以下である、
粉体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粉体において、
前記粒子のモード径は、5μm以上20μm以下である、
粉体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の粉体において、
前記多孔質粒子の表層における前記孔の平均径は、1μm以上10μm以下である、
粉体。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の粉体において、
前記原料は、前記米である、
粉体。
【請求項6】
請求項5に記載の粉体において、
前記米は、玄米である、
粉体。
【請求項7】
米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体の製造方法であって、
前記原料を100気圧以上9000気圧以下で加圧する加圧工程と、
前記加圧工程の後に、前記原料を乾式粉砕によって粉砕する粉砕工程と、
を備える、粉体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の粉体の製造方法であって、
前記粉砕工程は、回転駆動されるブレードが設けられた粉砕室へと前記原料を熱風搬送して気流粉砕する乾燥粉砕装置を用いて実行される、
粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
米やキビ等の穀類は、グルテンフリー食材として、用途の拡大が要望されている。特許文献1には、米粒や米粉を加熱処理し、得られた糊化物を機械的撹拌処理することによって得られた米ゲルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-65934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の米ゲルは、水分量が多いため流通性に劣っている。また、米ゲルは、加熱処理や撹拌処理を経て製造されるため、熱によって栄養価が低下するおそれがある。このため、米等の穀類を原料とする物質として、更なる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体が提供される。この粉体は、粒子径として30μm以上300μm以下のモード径を有し、複数の孔が形成された多孔質粒子と、粒子径として前記多孔質粒子のモード径よりも小さなモード径を有する粒子と、を含む。この形態の粉体によれば、複数の孔が形成された多孔質粒子と、多孔質粒子よりも小さなモード径を有する粒子とを含むので、高い保液力を有する粉体を提供でき、また、米ゲルと比較して水分量が少ないので流通性の低下を抑制できる。
(2)上記形態の粉体において、前記多孔質粒子のモード径は、50μm以上100μm以下であってもよい。この形態の粉体によれば、多孔質粒子のモード径が50μm以上100μm以下であるので、粉体の保液力の低下を抑制できる。
(3)上記形態の粉体において、前記粒子のモード径は、5μm以上20μm以下であってもよい。この形態の粉体によれば、粒子のモード径が5μm以上20μm以下であるので、粉体の保液力の低下を抑制できる。
(4)上記形態の粉体において、前記多孔質粒子の表層における前記孔の平均径は、1μm以上10μm以下であってもよい。この形態の粉体によれば、多孔質粒子の表層における孔の平均径が1μm以上10μm以下であるので、粉体の保液力の低下を抑制できる。
(5)上記形態の粉体において、前記原料は、前記米であってもよい。この形態の粉体によれば、米を原料として製造されるので、グルテンフリーの粉体を提供でき、また、米の利用用途を拡大できる。
(6)上記形態の粉体において、前記米は、玄米であってもよい。この形態の粉体によれば、玄米を原料として製造されるので、ぬか層に含まれるミネラル等によって粉体の栄養価を高めることができ、また、玄米の利用用途を拡大できる。
(7)本開示の他の形態によれば、米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とする粉体の製造方法が提供される。この製造方法は、前記原料を100気圧以上9000気圧以下で加圧する加圧工程と、前記加圧工程の後に、前記原料を乾式粉砕によって粉砕する粉砕工程と、を備える。この形態の製造方法によれば、原料を100気圧以上9000気圧以下で加圧する加圧工程と、原料を乾式粉砕によって粉砕する粉砕工程とを備えるので、複数の孔が形成された多孔質粒子と、多孔質粒子よりも小さなモード径を有する粒子とを含む粉体を製造できる。また、製造時に粉体に加えられる熱を少なくできるので、粉体の栄養価の低下を抑制できる。
(8)上記形態の製造方法において、粉砕工程は、回転駆動されるブレードが設けられた粉砕室へと前記原料を熱風搬送して気流粉砕する乾燥粉砕装置を用いて実行されてもよい。この形態の製造方法によれば、粉砕工程が、回転駆動されるブレードが設けられた粉砕室へと原料を熱風搬送して気流粉砕する乾燥粉砕装置を用いて実行されるので、粉砕工程に要する時間を短くできる。このため、粉体の栄養価の低下を抑制でき、また、粉体の色素の悪化や風味の低下を抑制できる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、粉体を含むゲル化剤、粉体の製造方法を工程の一部に含むゲル化剤の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態としての粉体の顕微鏡写真である。
図2】粉体の構成を模式的に示す模式図である。
図3】粉体の製造方法を示す工程図である。
図4】加圧工程で用いられる加圧装置の一例を示す概略図である。
図5】粉砕工程で用いられる粉砕装置の一例を示す概略図である。
図6】粉砕装置の内部構成を示す説明図である。
図7】粗粉砕ブレードの一例を示す斜視図である。
図8】下部ブレードの一例を示す斜視図である。
図9】実施例1における粉体の粒子径分布の測定結果を示す説明図である。
図10】実施例2における粉体の粒子径分布の測定結果を示す説明図である。
図11】実施例3の粉体および比較例の粉体を水に溶解した試料の粘度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A-1.粉体の構成:
図1は、本開示の一実施形態としての粉体10の顕微鏡写真である。本実施形態の粉体10は、米を原料として製造される。粉体10の製造方法については、後述する。
【0009】
図2は、粉体10の構成を模式的に示す模式図である。粉体10は、多孔質粒子20と、粒子30とを含んでいる。粉体10は、このような構成を有することによって、後述するように高い保液力を有し、ゲル化剤として好適に用いることができる。
【0010】
多孔質粒子20は、粒子径として30μm以上300μm以下のモード径を有する。本実施形態において、モード径とは、粒子径分布において最も高い頻度の粒子径を意味している。多孔質粒子20の粒子径分布は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0011】
多孔質粒子20には、複数の孔25が形成されている。図2では、孔25にハッチングを付して示している。孔25の平均径は、顕微鏡写真を用いて測定することができる。本実施形態において、孔25の平均径は、電子顕微鏡によるデジタル画像と、デジタル画像におけるサイズを計測するソフトウェアとを用いて、コンピュータにて測定される。なお、孔25の平均径は、電子顕微鏡に限らず光学顕微鏡等の任意の顕微鏡を用いて測定されてもよく、ソフトウェアを用いることを省略して、画像とスケールとを用いて測定者により測定されてもよい。本実施形態において、孔25の平均径は、1つの多孔質粒子20の顕微鏡写真において、各孔25の径dhの平均値を求め、すべての孔25の径dhの平均値を平均した値として求められる。「各孔25の径dhの平均値」は、孔25を正面に見たときに、孔25の中心を通る複数の直径を計測した値の平均値として求められる。
【0012】
粒子30は、粒子径として多孔質粒子20のモード径よりも小さなモード径を有する。粒子30の粒子径分布は、多孔質粒子20の粒子径分布と同様に、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0013】
粉体10は、複数の孔25が形成された多孔質粒子20と、多孔質粒子20よりも粒子径の小さい粒子30とを含むことにより、高い保液力を有する。高い保液力を有することの推定メカニズムについて、以下に説明する。
【0014】
粉体10と液体とが混合されると、かかる液体は、多孔質粒子20の表層から孔25の内部へと入り込む。孔25の内部へと入り込んだ液体は、多孔質粒子20の表層に粒子30が付着することによって、孔25の内部に保持されると推定される。
【0015】
孔25の内部に保持された液体は、加熱や凍結によっても離液しにくく、長期間に亘って性質の変化が抑制される。液体としては、水道水やミネラルウォーター等の水を用いてもよく、牛乳やアルコール等の任意の水溶液を用いてもよく、水溶液に限らず油を用いてもよい。また、液体として、水系の液体と油系の液体とを混合して用いてもよい。一般に、水系の液体と油系の液体とは、互いに分離する傾向にある。しかしながら、本実施形態の粉体10によれば、水系の液体と油系の液体とを混合した液体についても、互いに分離せずに高い保液力を有する。
【0016】
多孔質粒子20のモード径は、粉体10の保液力を向上させる観点から、50μm以上であることが望ましく、200μm以下であることが望ましく、100μm以下であることがより望ましい。多孔質粒子20の表層における孔25の平均径は、特に限定されないが、粉体10の保液力を向上させる観点から、1μm以上10μm以下であることが望ましい。粒子30のモード径は、特に限定されないが、粉体10の保液力を向上させる観点から、5μm以上20μm以下であることが望ましい。
【0017】
本実施形態の粉体10は、ジャポニカ種のうるち米の玄米を原料として製造される。玄米を原料として用いることにより、ぬか層に含まれるミネラル等によって粉体10の栄養価を高めることができ、また、玄米の利用用途を拡大できる。なお、原料は、玄米に限らず、ぬか層の少なくとも一部が除去された精米であってもよく、うるち米に限らず、もち米等であってもよく、ジャポニカ種に限らずインディカ種等であってもよい。また、原料は、米に限らず、アワ、ヒエ、キビであってもよく、複数種類の原料が混合されて用いられてもよい。米、アワ、ヒエ、キビのうちの少なくとも一種を原料とすることにより、グルテンフリーの粉体10を得ることができる。
【0018】
また、本実施形態の粉体10は、パウダー状であり水分量が少ないため、粉体10の経時劣化を抑制でき、また、水分量が多い形態に比べて軽量化されるので、粉体10の流通性の低下を抑制できる。また、本実施形態の粉体10は、72℃等の比較的低温においてもゲル化する性質を有するため、ゲル化の加工時における粉体10の栄養価の低下を抑制でき、また、粉体10に他の材料を混合した場合に、かかる他の材料の栄養価の低下を抑制できる。また、本実施形態の粉体10は、ゲル化剤として好適に用いことができるので、天然素材由来のゲル化剤として、健康市場への需要が見込まれる。
【0019】
A-2.粉体の製造方法:
図3は、粉体10の製造方法を示す工程図である。まず、加圧工程により、原料を加圧する(工程P310)。加圧工程では、原料を100気圧以上9000気圧以下の圧力範囲で加圧する。
【0020】
図4は、加圧工程で用いられる加圧装置50の一例を示す概略図である。加圧装置50は、静水圧によって原料に圧力を加えることができる装置であり、受圧部60と、加圧部70とを備える。
【0021】
受圧部60は、耐圧性を備える容器として構成されており、収容部61と、開口部62とを有する。収容部61は、加圧対象となる原料B1を収容可能に構成されている。収容部61には、開口部62を介して原料B1が入れられる。本実施形態において、収容部61に入れられる原料B1は、予め耐圧性の袋の中に所定量の水W1とともに入れられている。原料B1が入れられた状態の袋の外側であって収容部61の内側は、水W2で満たされている。なお、原料B1は、袋を介さずに収容部61に直接的に入れられていてもよい。
【0022】
加圧部70は、受圧部60の収容部61に対して加圧可能に構成されており、ピストン部71と、支持部72と、圧力制御部73とを有する。ピストン部71は、受圧部60に対して鉛直方向に沿って相対移動可能に構成されている。ピストン部71の下端部74は、受圧部60の開口部62に密着状態で装着される。ピストン部71の上端部75は、開口部62の開口面積よりも広い加圧面積を有している。支持部72は、ピストン部71の上端部75と固定されてピストン部71を支持している。圧力制御部73は、受圧部60の鉛直下方に配置されている。圧力制御部73は、受圧部60を鉛直上方へ押し上げることによって、ピストン部71の下端部74を収容部61へと挿入させる。圧力制御部73は、例えば油圧シリンダを含んで構成されている。圧力制御部73は、加圧面76と、加圧用流体部77と、流体供給部78とを有する。加圧面76は、受圧部60の底面に接触して配置されて鉛直方向に沿って移動する。加圧用流体部77は、加圧面76と接触して配置されて、油等の加圧用流体を収容している。流体供給部78は、加圧用流体部77に収容されている加圧用流体の量を増減させることにより、加圧面76を鉛直方向に沿って移動させる。
【0023】
加圧工程では、例えば6000気圧等の目標水圧を予め設定し、収容部61における水圧が、大気圧である1気圧から目標水圧に到達するまで静水圧を加えてもよい。収容部61における水圧は、目標水圧到達後に加圧が解除されることにより、大気圧に戻る。大気圧から目標水圧に到達するまでの時間は、例えば、5分程度であってもよい。本実施形態において、加圧工程は、常温で実行される。なお、加圧装置50は、収容部61の温度を常温に維持するための図示しない恒温部をさらに備えていてもよい。なお、図4に示す加圧装置50の構成はあくまでも一例であり、原料を100気圧以上9000気圧以下の圧力範囲で加圧可能な、他の任意の構成を採用してもよい。
【0024】
図3に示すように、加圧工程の後に、粉砕工程により原料B2を粉砕する(工程P320)。粉砕工程では、加圧工程実行後の原料(以下、「原料B2」とも呼ぶ)を乾式粉砕によって粉砕する。
【0025】
図5は、粉砕工程で用いられる乾燥粉砕装置100の一例を示す概略図である。図6は、乾燥粉砕装置100の内部構成を示す説明図である。乾燥粉砕装置100は、図6に示すように、回転駆動される複数のブレード211~241が設けられた粉砕室120へと原料B2を熱風搬送して気流粉砕することができる装置である。図5および図6に示すように、乾燥粉砕装置100は、回転軸110と、粉砕室120と、投入部130と、排出部140と、吹込み部150とを備える。乾燥粉砕装置100は、図6における下方が鉛直下方となるように設置される。
【0026】
回転軸110は、粉砕室120の中心を貫通して配置され、図6に示すように、粉砕室120の鉛直上端および鉛直下端に設けられた一対の軸受け125により、回転自在に支持されている。回転軸110は、図示しない駆動部により回転駆動される。
【0027】
図5および図6に示す粉砕室120は、回転軸110を中心とする略円筒状の外観形状を有し、上部121と、テーパ部122と、下部123とを有する。上部121とテーパ部122と下部123とは、この順に、鉛直上方から鉛直下方に向かって連結されている。上部121と下部123とは、それぞれ内径が略一定に形成されている。上部121の内径は、下部123の内径よりも大きい。テーパ部122は、鉛直上方に向かうにつれて内径が次第に大きく形成された円錐台形状を有する。図6に示すように、粉砕室120の内部には、後述するように、複数のブレード211~241が設けられている。
【0028】
図5および図6に示す投入部130は、粉砕室120のテーパ部122の側面から略水平に突出して形成されている。図5に示すように、投入部130は、熱風の供給源と、ホッパ160およびフィーダ170とに接続されている。ホッパ160は、漏斗状の外観形状を有し、原料B2を受け入れる。フィーダ170は、ホッパ160に投入された原料B2を、投入部130に押し出す。このような構成により、原料B2は、回転軸110と交差する方向に沿って投入部130から粉砕室120へと熱風搬送される。
【0029】
排出部140は、粉砕室120の上部121の側面から略水平に突出して形成されている。投入部130から粉砕室120の内部へと導入された原料B2は、粉砕室120の内部において乾燥され、且つ、粉砕されて粉末状になると、排出部140を介して熱風と共に粉砕室120から外部に排出される。
【0030】
吹込み部150は、粉砕室120の下部123の側面から略水平に突出して形成されている。吹込み部150は、熱風の供給源と接続されており、粉砕室120の下部123の内面に沿って熱風を吹き込む。これにより、粉砕室120の下部123の内部には、熱風の旋回流が発生する。ここで、粉砕室120の下部123は、粉砕室120において内径が相対的に小さい。このため、吹込み部150から吹き込まれた熱風は、高速に旋回する。
【0031】
図6に示すように、粉砕室120の内部には、粗粉砕ブレードユニット210と、下部ブレードユニット220と、リフトアップブレードユニット230と、微粉砕ブレードユニット240とが設けられている。各ブレードユニット210~240は、それぞれ回転軸110に装着されており、回転軸110と一体となって回転する。なお、回転軸110および各ブレードユニット210~240の回転方向は、熱風の旋回流の方向と一致している。
【0032】
粗粉砕ブレードユニット210は、テーパ部122の略中央部であって、投入部130よりも鉛直上方に設けられている。粗粉砕ブレードユニット210は、スペーサSを挟んで鉛直方向に積層された複数の粗粉砕ブレード211を有する。
【0033】
図7は、粗粉砕ブレード211の一例を示す斜視図である。粗粉砕ブレード211は、複数のブレードフィン213と、ディスク部214とを有する。複数のブレードフィン213は、円板状のディスク部214の周囲に放射状に設けられている。ディスク部214の中心には、回転軸110が挿入される嵌合穴215が形成されている。図7に示す例において、ブレードフィン213の数は、12であるが、12に限らず、8や16等の任意の数であってもよい。なお、図7では、粉砕室120のテーパ部122を破線で示している。
【0034】
図6に示すように、下部ブレードユニット220は、粉砕室120の下部123の底部近傍であって、吹込み部150よりも鉛直下方に設けられている。下部ブレードユニット220は、スペーサSを挟んで鉛直方向に積層された複数の下部ブレード221を有する。
【0035】
図8は、下部ブレード221の一例を示す斜視図である。下部ブレード221は、複数のブレードフィン223と、ディスク部224とを有する。複数のブレードフィン223は、円板状のディスク部224の周囲に放射状に設けられている。ディスク部224の中心には、回転軸110が挿入される嵌合穴225が形成されている。図8に示す例において、ブレードフィン223の数は、8であるが、8に限らず、4や12等の任意の数であってもよい。下部ブレード221では、ディスク部224の径がブレードフィン223の径方向の大きさに比べて相対的に大きく形成されている。このため、下部ブレード221は、図8において破線で示す粉砕室120の下部123の水平断面における占有面積の割合が大きい。これにより、粉砕室120の内部に投入された原料B2が、図6に示す下部ブレードユニット220よりも鉛直下方に落下することが抑制され、収率の低下が抑制される。
【0036】
図6に示すように、リフトアップブレードユニット230は、粉砕室120の下部123の上端近傍であって、鉛直方向において投入部130と吹込み部150との間に設けられている。リフトアップブレードユニット230は、スペーサSを挟んで鉛直方向に積層された複数のリフトアップブレード231を有する。微粉砕ブレードユニット240は、粉砕室120の上部121の略中央部であって、排出部140よりも鉛直下方に設けられている。微粉砕ブレードユニット240は、スペーサSを挟んで鉛直方向に積層された複数の微粉砕ブレード241を有する。リフトアップブレード231および微粉砕ブレード241についても、粗粉砕ブレード211や微粉砕ブレード241と同様に、複数のブレードフィンとディスク部とを有する。かかるブレードフィンの長さ、幅、数等は、粗粉砕ブレード211や微粉砕ブレード241と異なっていてもよい。
【0037】
投入部130から粉砕室120の内部へと導入された原料B2のうち、乾燥が不十分で重いものについては、鉛直下方に落下して、回転するリフトアップブレードユニット230によって粉砕される。リフトアップブレードユニット230により粉砕された原料B2は、表面積が増加し、また、吹込み部150から吹き込まれた熱風により乾燥が促進されて軽量化するので、粉砕室120の内部を熱風と共に上昇する。
【0038】
投入部130から粉砕室120に導入された原料B2の大部分は、吹込み部150による熱風の旋回流に搬送されて粉砕室120内を上昇し、排出部140に向かって搬送される過程で、回転する粗粉砕ブレードユニット210により粉砕される。図7に示すブレードフィン213の間を通過する原料B2は、ブレードフィン213により切断されて表面積が大きくなる。これにより、原料B2は、乾燥が促進されて、効率的に粉砕される。粗粉砕ブレードユニット210により細粒化された原料B2は、熱風の旋回流により粉砕室120内を更に上昇して、やがて、回転する微粉砕ブレードユニット240によってさらに微粉化される。微粉化されて乾燥粉末となった原料B2は、粉体10として、熱風と共に、排出部140を介して粉砕室120の外部へと排出される。
【0039】
図3に示す粉砕工程では、例えば、回転軸110の回転数が6000rpm程度に設定されてもよく、熱風の温度が80℃~95℃に設定されてもよい。このような条件では、原料B2がホッパ160に投入されてから排出部140を介して粉砕室120の外部へと排出されるまでに要する時間は、例えば、1~1.5秒程度等の比較的短い時間であっても、十分に粉砕と乾燥をなし得る。また、本実施形態の粉砕工程において、原料B2が乾燥粉砕装置100に導入される回数は、1回であるが、1回に限らず複数回であってもよい。工程P320の完了により、粉体10の製造は終了する。なお、図5図8に示す乾燥粉砕装置100の構成は、あくまでも一例であり、加圧後の原料を粉砕可能な、他の任意の構成を採用してもよい。
【0040】
上記の製造方法によれば、加圧工程によって、原料B1に付着していた一般生菌や大腸菌類、芽胞菌等は、ほぼ死活する。このため、粉体10の品質保全期間を長くすることができる。また、加圧工程によって発芽阻害因子が死活するため、加圧工程実行後の原料B2を食した場合であっても、体温の低下等の影響が少ないと考えられる。また、加圧工程が常温で実行されるので、栄養価の低下を抑制できる。また、静水圧による加圧工程によって原料B2の芯まで水が通るため、加圧工程後に減圧して乾燥させた場合の吸液性を高めることができる。
【0041】
一般に、米のα化(糊化)は、95℃以上において進行する。これに対し、上記の製造方法によって製造された本実施形態の粉体10は、吸液性が高いため、水と混合した場合に、例えば72℃等の比較的低温においてもα化する。また、粉体10は、油分を含む牛乳等と混合した場合に、例えば82℃等の比較的低温においてもα化する。また、上記の粉砕工程によれば、原料B2の投入から粉砕が完了するまでの時間が非常に短いため、高温加熱を伴う粉砕工程に要する時間を短くできる。このように、粉体10を得る過程において、また、粉体10自体を加工する際において、加熱温度を低く抑えられ、加熱時間を短く抑えられるので、粉体10の栄養価の低下を抑制でき、また、粉体10の色素の悪化や風味の低下を抑制できる。
【0042】
本実施形態の粉体10とは異なり、米粒や米粉を加熱処理して得られた糊化物を機械的撹拌処理することによって得られる米ゲルは、炊飯や高速せん断撹拌時に熱が加えられるので、栄養価が低下する。また、米ゲルは、水分量が多いので流通性に劣る。また、米ゲルは、85℃以上等の比較的高温においてゲル化(糊化)する性質を有するため、ゲル化の加工時に米ゲルの栄養価が低下し、また、米ゲルに他の材料を混合した場合に、かかる他の材料の栄養価が低下する。また、米ゲルの原料は、高アミロース米に限定される。
【0043】
これに対し、本実施形態の粉体10によれば、常温で実行される加圧工程を含む製造方法により製造されるので、製造時に粉体10に加えられる熱を少なくでき、粉体10の栄養価の低下を抑制できる。
【0044】
また、粉体10は、パウダー状であり水分量が少ないために経時劣化を抑制でき、これにより流通性の低下を抑制できる。また、粉体10は、72℃等の比較的低温においてもゲル化する性質を有するため、ゲル化の加工時における粉体10の栄養価の低下を抑制でき、また、粉体10に他の材料を混合した場合に、かかる他の材料の栄養価の低下を抑制できる。また、粉体10の原料B1は、高アミロース米に限らず、もち米等や、これらの玄米であってもよく、また、米に限らず、アワ、ヒエ、キビであってもよいので、このような穀類の利用用途を拡大でき、農業の振興に寄与できる。
【0045】
また、上記の製造方法によって製造された粉体10に含まれる多孔質粒子20は、米等の穀類の微粒子を固めることにより形成される多孔質粒子と比較して、脆い部分が少なくて水や油に溶けにくい性質を有するので、保液力の低下を抑制できる。
【0046】
上記製造方法によって、上述のような特有の効果を有する粉体10を得ることができる推定メカニズムについて、以下に説明する。
【0047】
例えば、研究論文「米粒への水の吸収と移動に関する基礎的研究(第1報)」(農業機械学会誌67(5):61~71,2005)に示されるように、米等の穀類には、組織間(顆粒集合体等の間)の隙間等の物理的に脆い部分が存在する。上記の加圧工程により、かかる脆い部分が崩れて抜け落ちることによって、空洞化されて疏水することが推定される。このようにして、複数の孔25が形成された粒子が得られると推定される。また、粉砕工程によって、抜け落ちた部分がさらに細かくされることによって粒子30が形成され、また、複数の孔25が形成された多孔質粒子20の粒子径もさらに小さくなると推定される。すなわち、上記製造方法により、多孔質粒子20と粒子30とを同時に得ることにより粉体10を得ることができる。
【0048】
B.実施例:
以下、実施例を用いて粉体10の構成について詳述するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
B-1.実施例1および実施例2:
(1)使用原料
実施例1では、コシヒカリの玄米を用いた。実施例2では、きぬむすめの玄米を用いた。
【0050】
(2)製造方法
下記製造条件にて加圧工程を行った。
・加圧工程の圧力:6000気圧
・加圧工程の加圧時間:5分(1気圧から6000気圧に至るまでの時間)
・加圧工程の温度:常温
また、上記乾燥粉砕装置100と同様な構成を有する下記装置を用いて乾燥工程を行った。
・気流式微粉砕機CDM700(ミクロパウテック株式会社製)
【0051】
(3)粒子径分布
粉体10の粒子径分布を以下の条件で測定した。
・測定法:レーザ回折/散乱式粒子径分布測定
・測定装置:HORIBA LA-300(株式会社堀場製作所製)
・循環速度:15
・超音波:01:00
・透過率(レーザ):85±5%
・相対屈折率:1.20-0.00i
【0052】
図9は、実施例1における粉体10の粒子径分布の測定結果を示す説明図である。図10は、実施例2における粉体10の粒子径分布の測定結果を示す説明図である。図9および図10において、縦軸は、頻度(%)および通過分積算(%)を示しており、横軸は、粒子径(μm)を示している。
【0053】
図9および図10では、互いに類似した粒子径分布が示されており、いずれも、粒子径のピークが2つ存在している。かかるピークのうち、粒子径がより大きいものは、多孔質粒子20のモード径を示すピークであると推定され、粒子径がより小さいものは、粒子30のモード径を示すピークであると推定される。粒子30のピークにおける頻度は、多孔質粒子20のピークにおける頻度よりも大きい傾向にあった。なお、本願発明者らの実験によれば、食物繊維の含有量が多い原料を用いた場合ほど、得られる粉体10の粒子径が大きくなる傾向にあることがわかった。
【0054】
図9に示される実施例1における粉体10の粒子径分布によれば、多孔質粒子20のモード径は、約50μmであり、粒子30のモード径は、約8μmであった。なお、実施例1では、図9に示される粒子径分布の測定結果とともに、粉体10全体としての測定プロファイルとして、メジアン径12.8401μm、算術平均径25.2696μm、モード径8.2378μm、比表面積6158.0cm/cmが、当該測定装置により算出された。
【0055】
図10に示される実施例2おける粉体10の粒子径分布によれば、多孔質粒子20のモード径は、約80μmであり、粒子30のモード径は、約11μmであった。なお、実施例2では、図10に示される粒子径分布の測定結果とともに、粉体10全体としての測定プロファイルとして、メジアン径17.1679μm、算術平均径36.4186μm、モード径10.7704μm、比表面積4779.0cm/cmが、当該測定装置により算出された。
【0056】
B-2.実施例3:
図11は、実施例3の粉体10および比較例の粉体を水に溶解した試料の粘度を示す説明図である。実施例3の粉体10は、実施例1と同様に製造された粉体10である。図11には、実施例3の粉体10を互いに異なる条件(加熱温度、濃度)で水道水に溶解させた試料1~5と、比較例として以下の粉体を水道水に溶解した比較試料1~3とが示されている。なお、比較試料3に用いられた粉体は、気流粉砕処理はなされたものの実施例3のような加圧処理はなされていない。
・比較試料1:葛粉
・比較試料2:米粉
・比較試料3:α化気流粉砕米粉(たかい食品株式会社製)
【0057】
図11において、加熱温度(℃)とは、粉体10または比較例の粉体をゲル化させる際の加熱温度を示しており、濃度(%)とは、水に溶解させた粉体10または粉体の濃度(重量%)を示している。本実施例では、常温の水道水に各試料の濃度(重量%)にて粉体を添加し、攪拌しながら湯煎にて各加熱温度にて加温した(ゲル化する温度となるまで加温した)。粘度の測定は、英弘精機株式会社のB型粘度計(アナログ粘度計T)を用いて行った。図11において、ローターとは、粘度を測定する際のスピンドルの番号を示し、回転数(rpm)とは、粘度を測定する際の回転数を示し、粘度(mPa.s)は、ローター番号と回転数とから換算された粘度を示している。
【0058】
上記の試料をゲル化剤として用いる場合、粘度が高すぎても低すぎても望ましくない。より具体的には、粘度が高すぎると流動性が低いために撹拌が困難となり、粘度が低すぎると増粘安定性が悪化する。加熱温度と濃度との条件がいずれも同じである試料3と、比較試料2および比較試料3との比較により、実施例3は、良好な粘度を示し、ゲル化剤として良好な性質を示すことがわかった。
【0059】
C.他の実施形態:
上記実施形態における粉体10の製造方法は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、加圧工程は、加圧装置50に限らず他の任意の方式の加圧装置を用いて実行されてもよい。また、例えば、粉体10の製造方法は、加圧工程に代えて、または加圧工程に加えて、放電工程や振動工程等、原料B1にエネルギーを加えることが可能な任意の工程を含んでいてもよい。放電工程等によっても、米等の穀類中に存在する物理的に脆い部分を崩れさせることができ、複数の孔25を形成させることができる。また、例えば、粉砕工程で用いられていた乾燥粉砕装置100のブレード211~241の数が1つであってもよく、粉砕室120の形状が任意の形状であってもよい。また、例えば、粉砕工程は、乾燥粉砕装置100に限らず、原料B2を粉砕可能な任意の粉砕装置を用いて実行されてもよい。また、例えば、互いに別々に製造された多孔質粒子20と粒子30とを混合することにより、粉体10が製造されてもよい。
【0060】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行なうことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…粉体、20…多孔質粒子、25…孔、30…粒子、50…加圧装置、60…受圧部、61…収容部、62…開口部、70…加圧部、71…ピストン部、72…支持部、73…圧力制御部、74…下端部、75…上端部、76…加圧面、77…加圧用流体部、78…流体供給部、100…乾燥粉砕装置、110…回転軸、120…粉砕室、121…上部、122…テーパ部、123…下部、130…投入部、140…排出部、150…部、160…ホッパ、170…フィーダ、210…粗粉砕ブレードユニット、211…粗粉砕ブレード、213…ブレードフィン、214…ディスク部、215…嵌合穴、220…下部ブレードユニット、221…下部ブレード、223…ブレードフィン、224…ディスク部、225…嵌合穴、230…リフトアップブレードユニット、231…リフトアップブレード、240…微粉砕ブレードユニット、241…微粉砕ブレード、B1…原料、B2…原料、S…スペーサ、W1…水、W2…水
図1
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図11