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特開2023-84911焼結体、焼結体の製造方法、プラズマ装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法
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  • 特開-焼結体、焼結体の製造方法、プラズマ装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法 図1
  • 特開-焼結体、焼結体の製造方法、プラズマ装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023084911
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】焼結体、焼結体の製造方法、プラズマ装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230613BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230613BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20230613BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20230613BHJP
   C04B 35/553 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/205
C23C16/44 B
C23C16/50
C04B35/553
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199298
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】永山 健一
(72)【発明者】
【氏名】野口 恭史
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 敏洋
(72)【発明者】
【氏名】キム チャングァン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ユンソン
【テーマコード(参考)】
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K030FA01
4K030KA45
5F004AA13
5F004BB23
5F004BB29
5F045AA08
5F045BB15
5F045EC05
5F045EF11
(57)【要約】
【課題】高い耐食性を有する焼結体、焼結体の製造方法、半導体製造装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法の提供。
【解決手段】実施形態に係る焼結体は、イットリウムの酸弗化物を50[質量%]以上含み、相対密度が97.0[%]以上であり、ビッカース硬度が5.0[GPa]以上である。実施形態に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.3[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む成型体を成型するステップと、成型体を800℃以下で常圧焼結することにより焼結体を形成するステップと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウムの酸弗化物を50[質量%]以上含み、相対密度が97.0[%]以上であり、ビッカース硬度が5.0[GPa]以上である焼結体。
【請求項2】
さらにイットリウムの弗化物を含む、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
希土類の酸化物、希土類のフッ化物及び希土類の酸フッ化物のうち、少なくともいずれかを、10[質量%]以下含む、請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
相対密度が99.0[%]以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項5】
焼結体を構成する結晶粒の平均粒径が1.15[μm]以下である、請求項1、3、又は4に記載の焼結体。
【請求項6】
焼結体を構成する結晶粒の平均粒径が1.27[μm]以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項7】
1[MHz]で測定した誘電正接(tan δ)が、10×10-4以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の焼結体を用いた、プラズマ装置用部材。
【請求項9】
前記プラズマ装置用部材は、エッジリング、シャワーノズル、又はウインドウである、請求項8に記載のプラズマ装置用部材。
【請求項10】
請求項8、又は9に記載のプラズマ装置用部材を備えて構成される半導体製造装置。
【請求項11】
粒径が0.3[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む成型体を成型するステップと、前記成型体を800℃以下で常圧焼結することにより焼結体を形成するステップと、を備えた焼結体の製造方法。
【請求項12】
粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む成型体を成型するステップと、前記成型体を850℃以下で常圧焼結することにより焼結体を形成するステップと、を備えた焼結体の製造方法。
【請求項13】
粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む原料粉を用いて、SPS(放電プラズマ焼結)法により、850℃以下で焼結することにより焼結体を形成する焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記イットリウムの酸弗化物粉の粒径が0.3[μm]以下、かつ、前記SPS法により、800℃以下で焼結することにより焼結体を形成する、請求項13に記載の焼結体の製造方法。
【請求項15】
粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む原料粉を用いて、SPS(放電プラズマ焼結)法により、900℃以下で焼結することにより焼結体を形成する焼結体の製造方法。
【請求項16】
粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む原料粉を用いて、ホットプレス法により、850℃以下で焼結することにより焼結体を形成する焼結体の製造方法。
【請求項17】
前記イットリウムの酸弗化物粉の粒径が0.3[μm]以下、かつ、前記ホットプレス法により、800℃以下で焼結することにより焼結体を形成する、請求項16に記載の焼結体の製造方法。
【請求項18】
粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む原料粉を用いて、ホットプレス法により800℃以下で焼結することにより焼結体を形成する焼結体の製造方法。
【請求項19】
請求項11~18のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法を用いて焼結体を製造した後、前記焼結体をプラズマ装置用部材に適用するステップをさらに備えた半導体製造装置用部材の製造方法。
【請求項20】
前記プラズマ装置用部材が、エッジリング、シャワーノズル、又はウインドウである、請求項19に記載の半導体製造装置用部材の製造方法。
【請求項21】
請求項19、又は20に記載の半導体製造装置用部材の製造方法を用いて、半導体製造装置用部材を製造した後、前記半導体製造装置用部材を半導体製造装置に適用するステップをさらに備えた半導体製造装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体、焼結体の製造方法、プラズマ装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化に伴い低汚染(Contami)の製造プロセスが強く求められている。半導体製造装置、特に、プラズマ装置における発塵によるパーティクル(Particle)の影響は深刻な問題となっている。プラズマ装置は、例えば、ドライエッチング装置やプラズマ(Plasma)CVD装置等である。パーティクルは、ハロゲン系を中心としたエッチングガスや材料ガスがチャンバー(Chamber)の内壁や内部の部品を腐食することによって生じる場合がある。このため、プラズマ装置をはじめとする半導体製造装置に用いる部材には耐食性が要求される。これまで、耐食性材料としては、アルミナ(Alumina)が使用されてきた。最近、より耐食性に優れるY等の酸化イットリウムを用いる技術が実用化されつつある。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、耐食性の材料として、Y等の焼結体が記載されている。特許文献1及び非特許文献1には、99.0%以上の緻密な焼結体を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】”Fabrication of dense yttrium oxyfluoride ceramics by hot pressing and their mechanical, thermal, and electrical properties”, Japanese Journal of Applied Physics 57, 06JF04 (2018)
【非特許文献2】”Fluorine and oxygen plasma exposure behavior of yttrium oxyfluoride ceramics”, Japanese Journal of Applied Physics 58, SEEC01 (2019)
【非特許文献3】”耐プラズマ性に優れた低発塵部材の開発”, セラミックス 50 (2015) No.6 490-491
【非特許文献4】“CHARACTERISTICS OF KYOCERA FINE CERAMICS”、[online]、京セラ株式会社、[令和3年11月1日検索]、インターネット<https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/product/pdf/material.pdf>
【非特許文献5】“α-SiAlONセラミックスの透明性に及ぼす希土類添加物の影響”、第33回秋季シンポジウム講演予稿集(講演番号2F27)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-098143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラズマによる腐食は、主として2つの要因、つまり、化学的作用、及び物理的作用によって進行する。
【0007】
化学的作用による腐食は、主にエッチングガスとの化学反応によって進む。エッチングガスがプラズマによって活性化されて生じたラジカル(Radical)が、チャンバー内の部材と化学反応を起こし、腐食に至る。化学的腐食を抑えるためには、耐腐食材料として、エッチングガスとの化学反応しにくい材料を選択するとよい。その観点から、希土類化合物、例えば、Yが選択されている。希土類化合物は、一般にエッチングガスとして用いられるハロゲン化合物との反応性が低い。更に、希土類化合物とハロゲン化合物とが反応した場合、その反応物である希土類のハロゲン化物は、一般に沸点が高いため、そのままチャンバー内の部材の表面に残留しやすい。その結果、腐食がチャンバー内の部材の内部まで進行しにくい。
【0008】
一方、物理的作用による腐食は、主にエッチングガスによるスパッタ(Sputter)作用によって進む。エッチングガスがプラズマによってイオン化され、そのイオンが電位差により、チャンバー内の部材に衝突し、チャンバー内の部材をスパッタして、物理的作用による腐食が進行する。よって、優れた耐食性材料を開発するためには、化学的腐食、及び物理的腐食の観点から検討することが重要である。
【0009】
非特許文献1には、化学的腐食を防止する観点から、Yよりも優れた材料が開示されている。非特許文献1では、Yを含む部材は、弗素系ガスのプラズマに曝されると、その表面に弗化による変質層が形成されることが指摘されている。一方、イットリウム(Yttrium)の酸弗化物、例えば、YやYOFを含む部材はもともと弗素を含むため、このような変質層が形成されにくい。よって、イットリウムの酸弗化物は、Yに代わる次世代の耐食性材料として期待できる。さらに、非特許文献1では、Yを含む部材は、Yを含む部材に比べ、ハロゲン系ガスによるエッチング前後において表面粗さの変化が少ないことが報告されている。また、Yを含む部材が、Yを含む部材に比べ、パーティクルの発生量が少なく、その大きさも小さくなることが示唆されている。よって、イットリウムの酸弗化物を含む部材が、Yを含む部材と比較して優位であると言える。
【0010】
非特許文献3には、物理的腐食を防止する観点で、製造方法の異なるYについて、その耐プラズマ性を評価した結果が開示される。非特許文献3によれば、よりビッカース硬度が大きいAD法によるYが、他の製造方法と比較して、エッチング深さの変化と表面粗さの変化とが小さく、耐プラズマ性が高いことが報告されている。この結果は、同じ材料でも硬度が大きいと、物理的腐食を低減できることを示唆している。
【0011】
硬度が大きいことは、半導体製造装置用部材として、耐プラズマ性以外の観点についても優位である。硬度が小さいと、装置の組み立てやメンテナンスの際に、表面に傷が付きやすくなる。生じた傷がプラズマに曝されると、異常放電やパーティクルの発生等の不具合が生じ、好ましくない。
【0012】
非特許文献2には、Y、Y、YOFについて、ハロゲン系ガスによるエッチング前後のエッチング深さの測定結果も開示される。化学的腐食が小さいYのエッチング深さが小さくなると予想されるが、3つの材料に明確な差は確認されていない。非特許文献4には、Yのビッカース硬度は6.0 GPaであることが開示される。一方、非特許文献1には、Yのビッカース硬度は0.491 GPaであり、Yに比べて小さいことが開示されている。Yは、Yに比べて化学的腐食が小さく、物理的腐食が大きいことが示唆される。これが、YとYとについてエッチング深さが同等になった要因と思われる。
【0013】
また、半導体製造装置の部材に用いるセラミックスは、電気特性の一つである誘電正接、いわゆるtan δも重要である。tan δの値の大きい部材がプラズマ中に配置されると、プラズマの均一性が損なわれる、部材がジュール(Jule)熱によって発熱し温度分布に影響を与える、等の問題が生じる。例えば、非特許文献4には、「半導体装置部品用」とされるアルミナの1 MHzにおけるtan δの値は10×10-4と、非常に小さい値となっていることが開示されている。非特許文献1では、tan δの値が開示され、その値は1 MHzにおいて、Y焼結体では1.5×10-4、Y+YF焼結体では2.6×10-4と、十分に小さい値が得られているものの、そのビッカース硬度は各々、0.491 GPa、0.614 GPaと低い値に留まっている。
【0014】
よって、イットリウム酸弗化物の焼結体が高い硬度を有する場合、耐プラズマ性が高く、発塵量が少ない半導体製造装置用部材を得ることができる。更に、tan δの値を小さくできれば、プラズマの均一性を確保でき、更に好ましい。
【0015】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、上述した種々の欠点のうち、少なくともいずれかを解決することができる焼結体、焼結体の製造方法、半導体製造装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態の第1の態様に係る焼結体は、
イットリウムの酸弗化物を50[質量%]以上含み、相対密度が97.0[%]以上であり、ビッカース硬度が5.0[GPa]以上である。
【0017】
また、本発明の実施形態の第1の態様に係る焼結体は、さらにイットリウムの弗化物を含んでもよい。
【0018】
また、本発明の実施形態の第1の態様に係る焼結体は、希土類の酸化物、希土類のフッ化物及び希土類の酸フッ化物のうち、少なくともいずれかを、10[質量%]以下含んでもよい。
【0019】
また、本発明の実施形態の第1の態様に係る焼結体は、相対密度が99.0[%]以上であってもよい。
【0020】
また、焼結体を構成する結晶粒の平均粒径が1.15[μm]以下であってもよい。
【0021】
また、焼結体を構成する結晶粒の平均粒径が1.27[μm]以下であってもよい。
【0022】
1[MHz]で測定した誘電正接(tan δ)が、10×10-4以下であってもよい。
【0023】
本発明の実施形態の第2の態様に係るプラズマ装置用部材は、本発明の実施形態の第1の態様に係る焼結体を用いたものである。
【0024】
また、前記プラズマ装置用部材は、エッジリング、シャワーノズル、又はウインドウであるとよい。
【0025】
本発明の実施形態の第3の態様に係る半導体製造装置は、本発明の実施形態の第2の態様に係るプラズマ装置用部材を備えて構成される。
【0026】
本発明の実施形態の第4の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.3[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む成型体を成型するステップと、前記成型体を800℃以下で常圧焼結することにより焼結体を形成するステップと、を備える。
【0027】
本発明の実施形態の第5の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む成型体を成型するステップと、前記成型体を850℃以下で常圧焼結することにより焼結体を形成するステップと、を備える。
【0028】
本発明の実施形態の第6の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む原料粉を用いて、SPS法により、850℃以下で焼結することにより焼結体を形成する。
【0029】
また、前記イットリウムの酸弗化物粉の粒径が0.3[μm]以下、かつ、前記SPS法により、800℃以下で焼結することにより焼結体を形成してもよい。
【0030】
本発明の実施形態の第7の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む原料粉を用いて、SPS法により、900℃以下で焼結することにより焼結体を形成する。
【0031】
本発明の実施形態の第8の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉を含む原料粉を用いて、ホットプレス法により、850℃以下で焼結することにより焼結体を形成する。
【0032】
また、前記イットリウムの酸弗化物粉の粒径が0.3[μm]以下、かつ、前記ホットプレス法により、800℃以下で焼結することにより焼結体を形成してもよい。
【0033】
本発明の実施形態の第9の態様に係る焼結体の製造方法は、粒径が0.5[μm]以下のイットリウムの酸弗化物粉およびイットリウムの弗化物粉を含む原料粉を用いて、ホットプレス法により800℃以下で焼結することにより焼結体を形成する。
【0034】
本発明の実施形態の第10の態様に係る半導体製造装置用部材の製造方法は、本発明の実施形態の第4~9の態様に係る焼結体の製造方法を用いて焼結体を製造した後、前記焼結体をプラズマ装置用部材に適用するステップをさらに備える。
【0035】
また、前記プラズマ装置用部材が、エッジリング、シャワーノズル、又はウインドウであるとよい。
【0036】
本発明の実施形態の第11の態様に係る半導体製造装置の製造方法は、本発明の実施形態の第10の態様に係る半導体製造装置用部材の製造方法を用いて、半導体製造装置用部材を製造した後、前記半導体製造装置用部材を半導体製造装置に適用するステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高い耐食性を有する焼結体、焼結体の製造方法、半導体製造装置用部材、半導体製造装置用部材の製造方法、半導体製造装置、及び半導体製造装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施の形態1にかかる焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
図2】実施の形態2にかかる焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
図3】実施の形態2にかかる焼結体の製造方法の一工程における温度及び圧力のプロファイルの一例を示すグラフである。
図4】実施の形態3にかかる焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
図5】実施の形態3にかかる焼結体の製造方法の一工程における温度及び圧力のプロファイルの一例を示すグラフである。
図6】実施の形態1にかかる焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す図である。
図7】実施の形態2にかかる焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す図である。
図8】実施の形態3にかかる焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す図である。
図9】実施の形態1~3にかかる焼結体の製造方法の各例を用いた焼結体の耐プラズマ試験結果を示す図である。
図10】ICDD(International Centre for Diffraction Data)によるイットリウム酸弗化物粉末X線回折のピーク強度を示すグラフである。
図11】実施の形態4に係る半導体製造装置用部材の製造方法を示すフローチャートである。
図12】実施の形態5に係る半導体製造装置の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(実施の形態1)
以下、図1を参照して実施の形態1に係る焼結体及び焼結体の製造方法を説明する。
【0040】
<焼結体の概要>
実施の形態1に係る焼結体は、イットリウムの酸弗化物を50[質量%]以上含み、相対密度が97.0[%]以上であり、ビッカース硬度が5.0[GPa]以上である。イットリウムの酸弗化物は、Y(x≠y≠z)と表記でき、x、y、及びzは、任意に設定してもよい。yはxより小さく、z/yの値は、1.5以上1.75以下であるとよい。また、結晶系は、斜方晶であるとよい。また、イットリウムの酸弗化物は、例えば、Y、Y、Y、Y171423、及びY0.8261.348の少なくとも1種類を含む。当該焼結体は、イットリウムの酸弗化物を50[質量%]以上含むことから、Yを含む焼結体と比較して、化学的腐食が小さい。当該焼結体は、相対密度が97.0[%]以上で、空隙が少ないことから、良好な耐プラズマ性を有する。当該焼結体は、ビッカース硬度が5.0[GPa]以上であることから、良好な耐プラズマ性を有し、さらに、表面に傷が発生し難い。以上より、当該焼結体は、高い耐食性を有する。
【0041】
<常圧焼結による焼結体の製造方法>
原料粉を準備する(ステップST11)。原料粉は、例えばY粉、又はYとYFの混合粉である。粒径は、例えば、0.3μm~0.5μmである。YとYFの混合粉について重量比を所定の値に設定する。Y粉は、イットリウム酸弗化物粉末の一種である。Yと、イットリウム酸弗化物粉末との詳細については後述する。なお、原料粉の「粒径」とは、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置、例えば、MICROTRAC社製MT3300等を用いて測定した一次粒径の「メディアン径(D50)」である。
【0042】
続いて、原料粉を調整し、プレス用粉体を取得する(ステップST12)。原料粉、溶媒、分散剤、及びバインダ(Binder)を混合して、バインダ添加スラリを生成する。当該バインダ添加スラリを、例えば、凍結乾燥やスプレードライすることによって、溶媒を当該バインダ添加スラリから除去する。すると、プレス用粉体を取得する。
【0043】
続いて、プレス用粉体をプレス成形し、成型体を取得する(ステップST13)。具体的には、例えば、プレス用粉体を金型に入れる。油圧プレス機を用いて、プレス用粉体に圧力を加えて、成型体を形成する。そして、金型から外すことによって、成型体を取得する。
【0044】
続いて、成型体をCIP(冷間等方圧加圧)処理する(ステップST14)。CIP処理は、場合により、省略してもよい。
【0045】
続いて、CIP処理済み成型体もしくはプレス成型済みの成型体を、加熱等の方法で脱脂処理し、バインダー成分を除去する(ステップST15)。
【0046】
最後に、脱脂処理済み成型体を常圧焼結し、焼結体を製造する(ステップST16)。具体的には、脱脂処理済み成型体を、雰囲気所定のガス中(所定の流量)において、所定の温度で所定の時間、加熱する。脱脂処理済み成型体をアルミナるつぼに入れて、アルミナるつぼに蓋をして、電気炉を用いて種々の条件で焼結してもよい。焼結条件は、例えば、雰囲気は真空(約10-3 Pa台)、昇温速度は1000℃/h、保持温度は750~1000℃、保持時間は1~10時間、降温速度は炉冷として、各々設定してもよい。当該保持温度の範囲の上限は、850℃、825℃、又は800℃のいずれかから選択してもよい。
【0047】
(実施の形態2)
<放電プラズマ焼結による焼結体の製造方法>
次に、図2及び図3を参照して実施の形態2に係る焼結体の製造方法を説明する。
【0048】
原料粉を準備する(ステップST21)。ステップST21は、ステップST11と同じである。
【0049】
続いて、準備した原料粉を放電プラズマ焼結し、焼結体を製造する(ステップST22)。「SPS(Spark Plasma Sintering)法」とは、放電プラズマ焼結の略称である。機械的な加圧とパルス通電加熱とによって、被加工物の焼結を行う。一般にSPS法による焼結は、低温かつ短時間で緻密化することが可能であり、粒成長を抑えて高密度化できると言われている。具体的には、金型に、原料粉をそのまま入れ、SPS装置を用い、種々の条件で焼結する。焼結条件は、雰囲気圧力、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度、及び保持圧力等である。実施の形態2にかかる焼結体の製造方法の一工程における温度及び圧力のプロファイルの一例(後述する実施例4)を図3に示す。保持温度の範囲は、例えば、750~1000℃として設定してもよい。当該保持温度の範囲の上限は、0℃、850℃、又は800℃のいずれかから選択してもよい。
【0050】
(実施の形態3)
<ホットプレス成形による焼結体の製造方法>
次に、図4及び図5を参照して実施の形態3に係る焼結体の製造方法を説明する。
【0051】
原料粉を準備する(ステップST31)。ステップST31は、ステップST11、及びステップST21と同じである。
【0052】
続いて、原料粉を一次成形する(ステップST32)。具体的には、金型に、原料粉をそのまま入れる。油圧プレス機を用いて圧力を原料粉に加えて、一次成型体を形成する。一次成型体を金型から外して取得する。なお、一次成型体を金型から外さずに、同じ金型を用いて、次のホットプレス成型をしてもよい。
【0053】
最後に、一次成型体をホットプレス(HP:Hot Press)成形し、焼結体を形成する(ステップST33)。具体的には、まず、ステップST32で取得した一次成型体を、同じ大きさのホットプレス型に入れ、種々の条件で、成形装置を用いてホットプレス成形する。ホットプレス条件は、雰囲気ガス、圧力、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度、保持圧力等である。実施の形態3にかかる焼結体の製造方法の一工程における温度及び圧力のプロファイルの一例(後述する実施例13)を図5に示す。保持温度は、例えば、700~1000℃として設定してもよい。具体的に、当該保持温度の範囲の上限は、850℃、800℃、780℃、750℃、又は700℃のいずれかから選択してもよい。
【実施例0054】
次に、図6図9を参照して、焼結体の製造方法を用いて焼結体を製造し、評価を行った結果について説明する。<焼結体の製造条件>、<焼結体の評価方法>、<焼結体の評価結果>の順に説明する。
【0055】
<焼結体の製造条件>
<1.常圧焼結による焼結体の製造条件>
常圧焼結による焼結体の製造方法の製造条件について説明する。常圧焼結による焼結体の製造方法は、実施の形態1に係る焼結体の製造方法と同一の構成を備える。
【0056】
ステップST11では、原料粉として、Y粉を2種類、粒径0.3μm品(以降、原料粉Aとする)、粒径0.5μm品(以降、原料粉Bとする)を用いた。更に、YとYFの混合粉を1種、YとYFを重量比60:40で混合した粒径0.5μm品(以降、原料粉Cとする)を用いた。
【0057】
ステップST12では、まず、ガラス容器内に、原料粉Aを50g、溶媒として純水を25g、分散剤として東亜合成製A-30Lを0.3g、及び、バインダ(Binder)として東亜合成製AS-1100 3mLを純水12mLに溶解した溶液4.4mLを混合した。この溶液を凍結乾燥し、純水を除去、プレス用粉体を取得した。原料粉B、Cに関して、同様の方法で調整することによって、プレス用粉体を取得した。
【0058】
ステップST13では、まず、プレス用粉体8.0gを直径25mmの円筒形の金型に入れた。油圧プレス機を用いて25MPaの圧力をプレス用粉体に加えて、成型体を形成した。この成型体を金型から外すことによって、取得した。この取得した成型体は、例えば、直径およそ25mm、高さおよそ5.5mmの円柱体であった。
【0059】
ステップST14では、成型体を真空パック(Pack)した後、等方圧加圧装置KOBELCO製Dr CIPを用いて、圧力300 MPaで10分間加圧した。
【0060】
ステップST15では、CIP処理済み成型体をアルミナ(Alumina)皿上に置いて、脱脂を行った。当該成型体に含まれるバインダ成分と分散剤成分とを除去した。
【0061】
ステップST16では、脱脂処理済み成型体を、雰囲気N(窒素)ガス中(流量0.2L/min)において、温度500℃で50時間、それぞれ加熱した。脱脂処理済み成型体をアルミナるつぼに入れて、アルミナるつぼに蓋をして、電気炉を用いて焼結した。焼結条件は、例えば、雰囲気は真空(約1×10-3 Pa)、昇温速度は1000℃/h、保持温度は750~1000℃、保持時間は1~10時間、降温速度は炉冷として、各々設定した。
【0062】
<2.放電プラズマ焼結による焼結体の製造条件>
次に、放電プラズマ焼結による焼結体の製造方法の一例の製造条件について説明する。放電プラズマ焼結による焼結体の製造方法は、実施の形態2に係る焼結体の製造方法と同一の構成を備える。
【0063】
ステップST21では、上記した実施の形態1に係る焼結体の製造方法の一例のステップST11と同様に、原料粉として、原料粉A、原料粉B、及び原料粉Cを用いた。
【0064】
ステップST22では、直径20mmの円筒形の金型に、原料粉Aをそのまま6.4g入れ、SPS装置(富士電波工機製、SPS-515)を用い、種々の条件で焼結した。焼結条件は、真空(約3Pa)もしくはAr(アルゴン)ガス中(流量1L/min)、昇温速度は10~100℃/min、保持温度は750~1000℃、保持時間は0~1時間、降温速度は200℃まで2~50℃/minで200℃以下は炉冷、昇温開始と同時に昇圧を開始し1分間で保持圧力に到達、保持圧力は40MPa、温度保持終了と同時に減圧を開始し、温度200℃で減圧終了となるように、各々設定した。原料粉B、Cに関しても、同様にして、焼結体を得た。
【0065】
<3.ホットプレス成形による焼結体の製造条件>
次に、ホットプレス成形による焼結体の製造方法の一例の製造条件について説明する。ホットプレス成形による焼結体の製造方法は、実施の形態3に係る焼結体の製造方法と同一の構成を備える。
【0066】
ステップST31では、上記した実施の形態1に係る焼結体の製造方法の一例のステップST11と同様に、原料粉として、原料粉A、原料粉B、及び原料粉Cを用いた。
【0067】
ステップST32では、直径52mmの円筒形の金型に、原料粉Aをそのまま55g入れた。油圧プレス機を用いて18.4MPaの圧力を原料粉Aに加えて、一次成型体を形成した。一次成型体を金型から外して取得した。一次成型体は、直径およそ52mm、高さおよそ12mmの略円柱体である。原料粉B、Cに関しても、同様にして、一次成型体を得た。
【0068】
ステップST33では、ステップST32で取得した一次成型体を、同じ大きさのカーボン製ホットプレス型に入れ、種々の条件で、ネムス社製成形装置HP-10X10-CC-23を用いてホットプレス成形した。ホットプレス条件は、雰囲気は真空(約10-3 Pa)、又はArガス中(流量 1 L/min)、昇温速度は10℃/min、保持温度は700~1000℃、保持時間は1~5時間、降温速度は10℃/min、昇温開始と同時に昇圧を開始し1時間で保持圧力に到達、保持圧力は36.7MPa、減圧は1時間で0MPaとなりかつ減圧終了と降温終了が同時となるように、各々設定した。
【0069】
<焼結体の評価方法>
次に、焼結体の評価方法を説明する。まず、評価方法として、1.密度、2.硬度(ビッカース硬度)、3.白さ、4.組成分析、5.耐プラズマ性を説明する。
【0070】
<1.密度>
電子天秤を用いて、得られた焼結体の大気中重量と純水中の重量を秤量し、アルキメデス(Archimedes)法を用いて、密度を求める。求めた密度を、焼結体の理論密度(Yの理論密度5.140g/cm、YFの理論密度5.063g/cmとして算出)で除して、相対密度(%)を算出した。
【0071】
なお、半導体製造装置用部材に用いる材料に空隙があると、その部分が集中的に腐食され発塵源となる。よって、半導体製造装置用部材に用いる材料には、一般に相対密度97.0[%]以上、好ましくは99.0[%]以上の高い緻密度が求められる。
【0072】
<2.ビッカース硬度>
Mitutoyo製Micro Vickers硬度計 HM-220を用いて、試験力0.5gfで、ビッカース硬度を測定した。
【0073】
<3.電気特性(誘電正接、tan δ)>
作製した焼結体の上・下面を#1000の耐水ペーパーで研磨する。その後、Keysight社製インピーダンスアナライザー 4294AにKeysight社製テストフィクスチャ 16455Bを接続した測定系を用いて、静電容量法にてtan δを測定した。なお、この測定系では、1x10-4より小さい領域ではtan δの値の測定が不安定であったため、この領域のtan δの値は、「< 1x10-4」と表記した。
【0074】
<4.不純物>
作製した焼結体の不純物を、RIGAKU製XRD(X線解析装置)SmartLabを用いて確認した。
【0075】
<5.焼結体の粒径>
作製した焼結体をハンマーで割って、その割断面をSEM(日立製走査電子顕微鏡、SU8000)を用いて観察した。そのSEM像から切片法を用いて「粒度(平均切片長さLa)」を求め、粒度を1.62倍したものを「粒径(平均結晶粒径D)」とした。具体的には、XY平面に展開するSEM像において、XY方向等間隔に3本、計9本の全長Lの直線を引き、これらの直線がそれぞれ横切った結晶粒の個数nを求め、以下の関係式を用いて、平均切片長さLaと平均結晶粒径Dとを求めた。
La=L/n
D=1.62×La
【0076】
<6.耐プラズマ性試験>
まず、表面状態を平滑、かつサンプル間のばらつきを一定にするため、焼結体表面を#1000~4000の耐水ペーパーを用いて研磨し、算術表面粗さ(Ra)が、およそ0.1um以下になるまで、平滑化した。続いて、プラズマ処理に曝されない領域を確保するため、作製した焼結体表面のおよそ半分の領域をポリイミドテープ(Polyimide Tape)を貼付して覆った。ポリイミドテープを貼付した焼結体を、SELVAC社製ICP(誘導結合プラズマ)エッチング装置(ICP Etcher)を用いて、CF/O混合ガスによる耐プラズマ性試験を実施した。具体的には、電極サイズを直径300mm、圧力を1 Pa、ICPパワー(ICP Power)を1500 W、バイアスパワー(Bias Power)を170 W、CFのガス流量を180 mL/min、Oのガス流量を45 mL/minに設定し、50時間プラズマ処理を行った。プラズマ処理後、焼結体を取り出し、ポリイミドテープを剥がした。
【0077】
ポリイミドテープ端面付近の境界部分を、東京精密社製触針式表面形状測定器Surfcom1400Gを用いて、段差測定し、その段差をエッチング量とした。また、ポリイミドテープで覆わなかった部分について、表面形状測定器を用いて、耐プラズマ性試験前後で、焼結体表面の算術表面粗さ(Ra)を測定し、Raの悪化率を、下式によって求めた。
(Ra悪化率) = (耐Plasma性試験後のRa) / (耐Plasma性試験前のRa)
【0078】
半導体製造装置用の部材はプラズマに曝されると、その部材の表面からその部材の一部が脱落して、パーティクルが発生する。そのパーティクルの大きさは、部材表面の表面粗さが大きい程、大きくなる。つまり、部材の表面粗さが小さいと、発生するパーティクルの大きさを小さくすることができ、好適である。よって、エッチング量が変わらない場合でも、Ra悪化率が小さいほど、プラズマ暴露によるパーティクル発生の影響が少ないと言える。
【0079】
<焼結体の評価結果>
次に、焼結体の評価結果を説明する。評価結果として、1.常圧焼結による焼結体の評価結果、2.放電プラズマ焼結による焼結体の評価結果、3.ホットプレス成形による焼結体の評価結果、4.焼結体のプラズマ性試験の評価結果を説明する。
【0080】
<1.常圧焼結による焼結体の評価結果>
図6は、常圧焼結にかかる焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す。具体的には、図6は、実施例1~3、比較例1~4で作製した焼結体の作製条件と、評価結果を示す。
【0081】
粒径0.3μmの原料粉Aを用いて800℃で焼結した実施例1と、粒径0.5μmの原料粉Bを用いて900℃で焼結した比較例1を比べると、焼結温度が低いにも関わらず、実施例1の方が、密度と硬さが大きくなっている。これは、原料粉の粒径が小さいと、より低温で緻密化が進み、密度と硬さが大きくなったものと考えられる。
【0082】
原料粉Bと原料粉Cを、同じ条件で焼結した比較例1と比較例4を比べると、比較例4の方が密度と硬さが大きくなっている。これは、YFを添加したことにより、焼結温度が低温化され高密度化した結果、硬さが大きくなったものと考えられる。
【0083】
粒径0.3μmの原料粉Aを用い、800℃で焼結した実施例1において、相対密度99.0%以上、かつ硬さ6.0 GPa以上であるY焼結体が得られた。粒径を小さくすればより低温で緻密化が進むので、粒径を0.3μmよりも小さくすれば、焼結温度が800℃以下でも、相対密度99.0%以上、かつ硬さ6.0 GPa以上である焼結体が得られることは明らかである。更に、これら実施例による焼結体のtan δの値は、何れも1×10-4以下と小さく良好であった。焼結体の硬さが、いわゆるホール・ペッチ(Hall-Petch)則に従うとすれば、粒径が小さいほど硬さが大きくなると考えられ、硬さ6.0 GPa以上を実現するためには、少なくとも粒径を0.60μm以下にすればよいことがわかる。
【0084】
原料粉Bを用い900℃で焼結した比較例1では、tan δの値は小さいものの、相対密度と硬さは不十分であった。密度を高めるためには、焼結温度を高くする必要があるが、ホール・ペッチ則に従うとすれば、粒成長が進むことにより、硬さは低下する可能性が高い。そのため、原料粉Bを常圧焼結することによって、相対密度と硬さとが十分に高い焼結体が得られ難いものと思われる。
【0085】
YFを添加した原料粉Cを用い、825~850℃で焼結した実施例2と実施例3において、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上であるY焼結体が得られた。粒径を小さくすればより低温で緻密化が進むので、原料粉の粒径を0.5μmより小さくすれば、825~850℃より低い温度領域でも、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上である焼結体が得られるのは明らかである。更に、これら実施例による焼結体のtan δの値は、何れも1×10-4以下と小さく良好である。原料粉Cを用い900℃で焼結した比較例4では、密度とtan δの値は良好だが、硬さが5.0 GPa未満と不十分であった。比較例4の粒径は、実施例1及び実施例2のそれよりも大きくなっている。これは、焼結温度が高くなったことにより、粒成長が進んだ結果、硬さが低下したものと思われる。硬さ5.0 GPa以上を実現するためには、少なくとも粒径を1.27μm以下にすればよいことがわかる。
【0086】
実施例1~3及び比較例1~4のtan δに注目すると、密度が低い比較例2を除き、十分小さい値が得られた。tan δの値を10×10-4以下にするためには、少なくとも密度を96.3%以上にすればよいことがわかる。
【0087】
実施例1~3、比較例1~4による焼結体をXRD分析した結果、原料粉A及び原料粉Bを用いた焼結体からは斜方晶Yの相のみが、原料粉Cを用いた焼結体からは斜方晶Y及び斜方晶YFの相のみがそれぞれ検出され、不純物は観察されなかった。
【0088】
図6に示すように、実施例1~3、比較例1~4による焼結体は、密度が97.0%未満もしくは硬さが5.0GPa未満であるならば、「不良」(「×」)と判定し、密度が97.0%以上99.0%未満かつ硬さが5.0GPa以上もしくは、密度が99.0%以上かつ硬さが5.0GPa以上6.0GPa未満であるならば、「良好」(「〇」)と判定し、密度が99.0%以上、かつ硬さが6.0GPa以上であるならば、「優良」(「◎」)と判定した。
【0089】
<2.放電プラズマ焼結による焼結体の評価結果>
図7は、放電プラズマ焼結による焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す。具体的には、図7は、実施例4~11、比較例5~7で作製した焼結体の作製条件と、評価結果を示す。
【0090】
原料粉Aと原料粉Bを、同じ条件で焼結した組み合わせである、実施例6と比較例6、及び、実施例9と実施例10をそれぞれ比べると、原料粉Aを用いた実施例6及び実施例9の方が、密度と硬さが大きくなっている。これは、原料粉の粒径が小さいことにより、焼結温度が低温化された結果、密度が大きくなったためと考えられる。
【0091】
原料粉Bと原料粉Cを、同じ条件で焼結した比較例7と実施例11を比べると、原料粉Cの方が、密度と硬さが大きく、粒径は小さくなっている。これは、YFを添加したことにより、焼結温度が低温化された結果、粒成長を抑えながら緻密化され、密度と硬さが大きくなったものと考えられる。
【0092】
原料粉Aを用い、真空雰囲気下、800~850℃で焼結した、実施例4~7及び実施例9において相対密度99.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上であるY焼結体が得られた。また、原料粉Aを用い、Ar雰囲気下、800℃で焼結した、実施例8において相対密度99.0%以上かつ硬さ5.0 GPa以上の、Y焼結体が得られた。原料粉の粒径を0.3μmより小さくすれば、800~850℃より低い温度領域でも、相対密度99.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上の焼結体が得られるのは明らかである。更に、これら実施例による焼結体のtan δの値は、何れも1×10-4以下と小さく良好であった。硬さ6.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を1.05μm以下に、硬さ5.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を1.15μm以下に、それぞれすればよいことがわかる。実施例8の結果から、真空雰囲気下のみならず、Ar雰囲気下による焼結でも、相対密度と硬度とが十分に高く、誘電正接の小さい焼結体が得られることがわかる。
【0093】
原料粉Bを用い、850℃で焼結した、実施例10において、相対密度97.0%以上かつ硬さ5.0 GPa以上の本開示によるY焼結体が得られた。原料粉の粒径を0.5μmより小さくすれば、850℃より低い温度領域でも、相対密度97.0%以上かつ硬さ5.0 GPa以上の焼結体が得られるのは明らかである。更に、この実施例による焼結体のtan δの値は、1×10-4以下と小さく良好であった。硬さ5.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を0.86μm以下にすればよいことがわかる。実施例10より焼結温度が低い比較例6では、密度が低く、それに伴い硬さも低かった。実施例10より焼結温度が高い比較例7では、密度が少し高くなったものの、粒成長によるものと推測される硬さの低下が見られた。
【0094】
YFを添加した原料粉Cを用い、900℃で焼結した、実施例11において、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上の本開示によるY焼結体が得られた。原料粉の粒径を0.5μmより小さくすれば、900℃より低い温度領域でも、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上の焼結体が得られるのは明らかである。硬さ5.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を1.07μm以下にすればよいことがわかる。更に、この実施例による焼結体のtan δの値は、1×10-4以下と小さく良好であった。
【0095】
実施例4~11及び比較例5~7のtan δに注目すると、全ての焼結体で、十分小さい値が得られた。tan δの値を10×10-4以下にするためには少なくとも密度を95.8%以上に、1×10-4以下にするためには少なくとも密度を96.8%以上に、それぞれすればよいことがわかる。
【0096】
実施例4~11及び比較例5~7による焼結体をXRD分析した結果、原料粉A及び原料粉Bを用いた焼結体からは斜方晶Yの相のみが、原料粉Cを用いた焼結体からは斜方晶Y及び斜方晶YFの相のみがそれぞれ検出され、不純物は観察されなかった。
【0097】
<3.ホットプレス成形による焼結体の評価結果>
図8は、ホットプレス成形による焼結体の製造方法の例を用いた焼結体の製造条件、及び評価結果を示す。具体的には、図8は、実施例12~19及び比較例8~14で作製した焼結体の作製条件と、評価結果を示す。
【0098】
原料粉Aと原料粉Bを、同じ条件で焼結した組み合わせである、実施例13と比較例8、及び、実施例14と実施例16をそれぞれ比べると、原料粉Aを用いた実施例13及び実施例16の方が、密度と硬さが大きくなっている。これは、原料粉の粒径が小さいことにより、焼結温度が低温化された結果、密度が大きくなったためと考えられる。
【0099】
原料粉Bと原料粉Cを、同じ条件で焼結した組み合わせを比べると、全般的に原料粉Cの方が、密度が大きい傾向がある。これは、YFを添加したことにより、焼結温度が低温化されたためと考えられる。
【0100】
原料粉Aを用い、750~800℃で焼結した、実施例13及び実施例14において相対密度99.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上の焼結体を得た。また、原料粉Aを用い、700℃で焼結した、実施例12において相対密度97.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上のY焼結体が得られた。原料粉の粒径を0.3μmより小さくすれば、700~800℃より低い温度領域でも、相対密度97.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上の焼結体が得られるのは明らかである。更に、これら実施例による焼結体のtan δの値は、何れも10×10-4以下と小さく良好であった。硬さ5.0 GPaもしくは6.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を0.42μm以下にすればよいことがわかる。
【0101】
原料粉Bを用い、780℃で焼結した、実施例15において相対密度97.0%以上かつ硬さ6.0 GPa以上であるY焼結体が得られた。また、原料粉Bを用い、800~850℃で焼結した、実施例16及び17において相対密度99.0%以上かつ硬さ5.0 GPa以上のY焼結体がそれぞれ得られた。原料粉の粒径を0.5μmより小さくすれば、780~850℃より低い温度領域でも、相対密度と硬度とが十分に高い焼結体が得られるのは明らかである。硬さ5.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を0.89μm以下に、硬さ6.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を0.57μm以下にすればよいことがわかる。更に、これら実施例による焼結体のtan δの値は、1×10-4以下と小さく良好であった。実施例15より焼結温度が低い比較例8では、密度が低かった。実施例17より焼結温度が高い比較例9及び比較例10では、密度は高いものの、粒成長によるものとみられる硬さの低下が見られた。
【0102】
YFを添加した原料粉Cを用い、750~800℃で焼結した実施例18及び実施例19において、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上のY焼結体がそれぞれ得られた。原料粉の粒径を0.5μmより小さくすれば、750~800℃より低い温度領域でも、相対密度99.0%以上、かつ硬さ5.0 GPa以上の焼結体が得られるのは明らかである。硬さ5.0 GPa以上を実現するためには少なくとも粒径を0.49μm以下にすればよいことがわかる。更に、この実施例による焼結体のtan δの値は、1×10-4以下と小さく良好であった。
【0103】
実施例12~19及び比較例8~14のtan δに注目すると、密度の低い比較例8及び比較例11を除く全ての焼結体で、十分小さい値が得られた。tan δの値を10×10-4以下にするためには少なくとも密度を98.1%以上に、1×10-4以下にするためには少なくとも密度を98.4%以上に、それぞれすればよいことがわかる。
【0104】
実施例12~19及び比較例8~14による焼結体をXRD分析した結果、原料粉A及び原料粉Bを用いた焼結体からは斜方晶Yの相のみが、原料粉Cを用いた焼結体からは斜方晶Y及び斜方晶YFの相のみがそれぞれ検出され、不純物は観察されなかった。
【0105】
<4.物性値の考察>
<4-1.粒径が硬さに与える影響>
一般に、密度が高くなるほど、硬さも大きくなるが、本開示による焼結体と同様に相対密度が97.0%以上である場合、粒径が相対密度と比較して大きな影響を硬さに与える。
【0106】
粒径と硬さの関係としてホール・ペッチ則があり、多くの金属材料に適用できることが知られている。しかし、ホール・ペッチ則は本開示の焼結体のようなセラミックスには理論的に適用できないと言われている。本開示の実施例や比較例を見る限り、ホール・ペッチ則が適用できるか厳密に判断できないが、少なくともホール・ペッチ則と同様に、粒径が小さいほど、硬さが大きくなる傾向は明らかである。そこで、本開示による焼結体の粒径について考察する。一般に、焼結体の硬さは材料の組成による影響も大きいと考えられるため、原料粉毎に考察を行った。前述の通り、原料粉A及び原料粉BはYのみからなり、原料粉CはYとYFの混合物である。
【0107】
<4-1-1.硬さ5.0GPa以上を満たす粒径>
図6に示すように、原料粉Cを常圧焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも1.27μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。
【0108】
図7に示すように、原料粉Aを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも1.15μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。原料粉Bを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.86μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。原料粉Cを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも1.07μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。
【0109】
図8に示すように、原料粉Bをホットプレス成形して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.89μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。原料粉Cをホットプレス成形して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.49μm以下である場合、その焼結体の硬さは、5.0GPa以上であった。
【0110】
以上の結果から、主としてYからなる、本開示による焼結体において、硬さ5.0GPa以上となる粒径は、少なくとも1.15μm以下、好ましくは0.86μm以下と言える。また、YFを添加したYからなる、本開示による焼結体において、硬さ5.0GPa以上となる粒径は、少なくとも1.27μm以下、好ましくは0.49μm以下と言える。
【0111】
<4-1-2.硬さ6.0GPa以上を満たす粒径>
図6に示すように、原料粉Aを常圧焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.42μm以下である場合、その焼結体の硬さは、6.0GPa以上であった。
【0112】
図7に示すように、原料粉Aを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の粒径が少なくとも1.05μm以下である場合、その焼結体の硬さは、6.0GPa以上であった。
【0113】
図8に示すように、原料粉Aをホットプレス成形して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.42μm以下である場合、その焼結体の硬さは、6.0GPa以上であった。原料粉Bをホットプレス成形して製造した焼結体の粒径が少なくとも0.57μm以下である場合、その焼結体の硬さは、6.0GPa以上であった。
【0114】
以上の結果から、主としてYからなる、本開示による焼結体において、硬さ6.0GPa以上となる粒径は、少なくとも1.05μm以下、好ましくは0.42μm以下と言える。また、YFを添加したYからなる、本開示による焼結体において、硬さ6.0GPa以上となる粒径は、少なくとも1.27μm以下、好ましくは0.49μm以下と言える。
【0115】
<4-2.密度がtan δに与える影響>
誘電体材料では一般に、tan δは、粒界の状態、具体的には粒界に凝集する添加物や不純物の状態、焼結体の内部に存在する空隙の影響が大きいと言われている。そこで、本開示による焼結体のtan δについて、焼結方法と密度に着目して考察を行った。
【0116】
<4-2-1.tan δ、10×10-4以下を満たす密度>
図6に示すように、原料粉A、B、又はCを常圧焼結して製造した焼結体の密度が少なくとも96.3%以上である場合、そのtan δは、10×10-4以下であった。
【0117】
図7に示すように、原料粉A、B、又はCを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の密度が少なくとも95.8%以上である場合、そのtan δは、10×10-4以下であった。
【0118】
図8に示すように、原料粉A、B、又はCをホットプレス成形して製造した焼結体の密度が少なくとも98.1%以上である場合、そのtan δは、10×10-4以下であった。
【0119】
以上の結果から、本開示による焼結体において、tan δが10×10-4以下となる密度は、少なくとも95.8%以上、好ましくは98.1%以上と言える。
【0120】
<4-2-2. tan δ、1×10-4以下を満たす密度>
図6に示すように、原料粉A、B、又はCを常圧焼結して製造した焼結体の密度が少なくとも96.3%以上である場合、そのtan δは、1×10-4以下であった。
【0121】
図7に示すように、原料粉A、B、又はCを放電プラズマ焼結して製造した焼結体の密度が少なくとも96.8%以上である場合、そのtan δは、1×10-4以下であった。
【0122】
図8に示すように、原料粉A、B、又はCをホットプレス成形して製造した焼結体の密度が少なくとも98.4%以上である場合、そのtan δは、1×10-4以下であった。
【0123】
以上の結果から、本開示による焼結体において、tan δが1×10-4以下となる密度は、少なくとも96.3%以上、好ましくは98.4%以上と言える。前述の通り、発塵性からの観点からも、密度は高い方が好ましく、具体的には密度は少なくとも97.0%以上、好ましくは99.0%以上であることが望ましい。
【0124】
<5.焼結体の耐プラズマ性試験の評価結果>
図9は、焼結体の耐プラズマ性試験結果を示す。
【0125】
なお、比較例15は、市販の京セラ株式会社製、Y焼結体(型番、YO100A)である。比較のため、比較例15に係るY焼結体について、同様に耐プラズマ性試験を行った。比較例15の相対密度、及び硬さは、メーカーのカタログ値である。また、相対密度は、Yの理論密度で除した値である。
【0126】
図9に示すように、実施例に係る焼結体は、比較例15に係るY焼結体に比べ、エッチング量が同等又は小さく、表面粗さの変化も小さかった。よって、本開示によるY焼結体は、Y焼結体に比べて、総合的に考えて耐プラズマ性が高く、特に、最も重要である発塵量の低減の点で、優位であると言える。特に、原料粉A及び原料粉Bを用いた実施例による焼結体は、Y焼結体に比べ、表面粗さの変化が1/3以下と、発生するパーティクルのサイズを小さくする効果が大きいことが分かった。
【0127】
相対密度が97%未満である比較例11に係る焼結体は、実施例に係る焼結体に比べ、エッチング量もRa悪化率も大きかった。また、硬さが5.0GPa未満である比較例4、比較例10及び比較例12による焼結体も、実施例による焼結体に比べ、エッチング量もRa悪化率も大きかった。
【0128】
(発明の効果)
本開示によるY焼結体は、Y焼結体に比べ、ハロゲンガスに対する反応性が低いため、化学的な腐食が抑えられる。さらに、本開示によるY焼結体は、Y焼結体と同等の高い密度を有している点、及び、同等以上の硬さを有するため、物理的な腐食も抑えられる。本開示によるY焼結体は、Yに代わる次世代の耐食性材料として期待できる。また、本開示によるY焼結体は、tan δの値が小さいため、部材の発熱が少なく、プラズマ状態も安定する。そのため、本開示によるY焼結体は、電力損失(Power-loss)を低減することによる省電力化、エッチング速度(Etching Rate)の安定化、エッチングむら(Etching Mura)の低減、チューニング(Tuning)の省力化、プラズマの分散防止、等の利点がある。
【0129】
(Y及びイットリウム酸弗化物粉末)
次に、イットリウム酸弗化物粉末について説明する。図10は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)によるイットリウム酸弗化物粉末X線回折のピーク強度を示すグラフである。
【0130】
本開示において、「Y」と表記している物質は、XRD分析の結果、「Y」と同定された物質である。イットリウム酸弗化物は、様々な割合で、Y、O、Fが化合した物質が知られていて、それらの物質は、Yと元素の組成や結晶構造が類似しており、これらのイットリウム酸弗化物を用いた焼結体も、本開示によるYと同様の効果を発現するのは、自明である。
【0131】
例えば、ICDD(International Centre for Diffraction Data)による粉末X線回折パターンのデータベースによれば、本開示の実施例に記載されるYに類似する構造を持つ化合物として、Y、Y、Y171423、Y0.8261.348が挙げられる。当該データベースに記載される、これらイットリウム酸弗化物の粉末のX線回折ピークは、図10に示す。なお、図10では、各々の物質の中で最大ピークを100とした時、1未満となるピークはプロットしていない。図10に示すように、Yを含めたこれら5つのイットリウム酸弗化物のX線回折ピークは、そのピーク位置も、ピーク強度も非常に類似していることがわかる。例えば、最大ピークとなる2θの値は、Y、Y、Y、Y171423、Y0.8261.348の順に、28.11°、28.14°、28.14°、28.14°、28.13°と、近い値である。実際のX線回折測定では、測定したサンプルの状態や装置の測定誤差により、ピーク強度が変わったり、ピーク位置がシフトしたりするため、これら5つの物質を完全に特定することは事実上困難である。
【0132】
以上の理由から、本開示による「Y」と表記する物質は、これら類似するイットリウム酸弗化物を含む。
【0133】
また、一般に、セラミックスの作製では、母材の他に、添加物、いわゆる「助剤」を数wt%~数10wt%、添加して焼結し、焼結性を高めたり、焼結体の微細構造を制御したりすることが行われている。例えば、非特許文献5では、希土類を添加して、SiAlONセラミックスの微細構造を制御し、粒径を小さくすることで光学特性を改善する手法が開示されている。
【0134】
本開示の実施例ではYFを添加することによって、非特許文献5と同様の効果があることを記載しているが、非特許文献5で開示されるような助剤を使用しても、YFと同様な効果があることは自明である。このような助剤を含んだ場合も、「実質的にYからなる」と定義する。助剤を用いて、粒径を制御し、発塵を低減することもできる。粒径を小さくすれば、本開示による実施例と同様、硬さを大きくすることができ、物理的な耐腐食性を向上することができる。また、径を小さくすれば、発生するパーティクルの大きさを小さくすることができる。
【0135】
本開示において、助剤として用いる材料は、Y同様、耐プラズマ性が高いことが望ましい。一般に、希土類元素、(Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、SM、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)は、他の元素に比べ、比較的ハロゲンとの化合物の蒸気圧が低く、耐プラズマ性に優れる。これら元素の安定した化合物である、酸化物、フッ化物、酸フッ化物は、本発明において添加する助剤として好ましい。
【0136】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4に係る半導体製造装置用部材、及びその製造方法について説明する。図11は、実施の形態4に係る半導体製造装置用部材の製造方法を示すフローチャートである。
【0137】
実施の形態4に係る半導体製造装置用部材は、焼結体を用いたプラズマ装置用部材である。当該焼結体は、実施の形態1に係る焼結体、及び実施の形態1~3に係る焼結体の製造方法を用いて製造された焼結体である。当該プラズマ装置用部材は、例えば、エッジリング、シャワーノズル、又はウインドウである。当該ウインドウは、少なくとも電波を透過する部材である。
【0138】
まず、焼結体を製造する(ステップST101)。具体的には、実施の形態1~3に係る焼結体の製造方法を用いて焼結体を製造する。
【0139】
さらに、ステップST101で製造した焼結体をプラズマ装置用部材に適用する(ステップST102)。プラズマ装置用部材は、半導体製造装置用部材として利用することができる。以上より、半導体製造装置用部材を製造することができる。
【0140】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5に係る半導体製造装置、及びその製造方法について説明する。図12は、実施の形態5に係る半導体製造装置の製造方法を示すフローチャートである。
【0141】
実施の形態5に係る半導体製造装置は、上記した実施の形態4に係る半導体装置用部材を備えて構成される。
【0142】
まず、半導体製造装置用部材を製造する(ステップST201)。具体的には、実施の形態4に係る半導体製造装置用部材の製造方法を用いて半導体製造装置用部材を製造する。
【0143】
続いて、ステップST201で製造した半導体装置用部材を半導体製造装置に適用する(ステップST202)。以上より、半導体製造装置用部材を製造することができる。
【0144】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0145】
ST11、ST12、ST13、ST14、ST15、ST16、ST21、ST22、ST31、ST32、ST33、ST101、ST102、ST201、ST202 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12