(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085031
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】アノード極用ガス拡散層基材
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20230613BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230613BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20230613BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20230613BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230613BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/86 B
C01B32/158
C01B32/20
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199484
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(72)【発明者】
【氏名】村中 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千依
【テーマコード(参考)】
4G146
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA11
4G146AA19
4G146AB01
4G146AB06
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146BA02
4G146BA04
4G146CB19
4G146CB35
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB09
5H018BB12
5H018DD05
5H018DD06
5H018DD08
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】ガス拡散性及び導電性を両立し、高い発電性能を有する燃料電池を与えるアノード極用ガス拡散層基材を提供する。
【解決手段】本発明のアノード極用ガス拡散層基材(1)は、炭素繊維(3)と、黒鉛粒子とを含有する、燃料電池のアノード極用ガス拡散層の形成に用いられる素材であり、黒鉛粒子は、長径をd
Lとし、短径をd
Sとした場合に、長径と短径との比Dr(=d
L/d
S)が、5~100の黒鉛粒子(5)を含む。黒鉛粒子(5)のレーザー回折法による平均粒子径d50は、好ましくは20~80μmである。アノード極用ガス拡散層基材(1)の表面は、撥水処理されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素繊維と、
(B)黒鉛粒子と、
を含有する、燃料電池のアノード極用ガス拡散層基材であって、
前記黒鉛粒子(B)は、長径をdLとし、短径をdSとした場合に、前記長径dLと前記短径dSとの比Dr(=dL/dS)が5~100の黒鉛粒子(B1)を含むことを特徴とする、アノード極用ガス拡散層基材。
【請求項2】
前記黒鉛粒子(B1)のレーザー回折法による平均粒子径d50が20~80μmである請求項1に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
【請求項3】
前記黒鉛粒子(B)の含有割合が、前記炭素繊維(A)の含有量を100質量部とした場合に、70~90質量部である請求項1又は2に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
【請求項4】
目付が40~100g/m2である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
【請求項5】
表面が撥水処理されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池のアノード極用ガス拡散層の形成に用いられる素材であるアノード極用ガス拡散層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の動力源として広く使用されている固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」という)は、燃料電池セルがセパレーターを介して複数個積層して構成され、1つの単セルにおいては、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜の両面に、白金等の触媒を担持したカーボン等の導電材及びイオン交換樹脂からなる触媒層と、各触媒層の外側に配置する多孔質のガス拡散層とによって構成されるカソード(+)側電極及びアノード(-)側電極が配されて、膜/電極接合体を形成している。そして、この膜/電極接合体を構成するガス拡散層の外側に、燃料ガス(アノードガス)又は酸化ガス(カソードガス)を供給し、かつ、生成ガス及び過剰ガスを排出するガス流路を形成したセパレーターが配されて、膜/電極接合体がセパレーターで挟持されている。
【0003】
上記構成の燃料電池において、単セル電池の電極を構成するガス拡散層は、反応ガスの拡散性を高めるために配されるものである。そして、セパレーターのガス流路から供給された燃料ガス又は酸化ガスをガス拡散層に隣接する触媒層に拡散させる作用(ガス拡散性)を担うことから、ガス透過性が要求されるとともに、電気化学反応のための電子を効率的に移動させる集電機能としての導電性も要求される。また、ガス拡散層は、高分子電解質膜及び触媒層を常に最適な湿潤状態に保つ一方で、フラッディング現象(ガス拡散層の細孔が水で閉塞する現象)を抑制して、電池の安定した発電性能を維持するために、発電時の水素及び酸素の電気化学的反応によって生成した過剰な反応生成水や結露水を排出させる撥水性(排水性)も必要とされる。
【0004】
従来、燃料電池用のガス拡散層を形成するために、炭素繊維等の導電性繊維を用いてシート状とした基材が使用されている。
例えば、特許文献1には、炭素繊維と、粒子径(X)が平均粒径で0.5~5μmの炭素粒子I及び粒子径(Y)が平均粒径で7~20μmの炭素粒子IIを含み上記炭素繊維同士の交差部を接合する無定形炭素とからなり且つ粒子径(X)と粒子径(Y)との平均粒径比[(Y)/(X)]が1.5~20である固体高分子型燃料電池ガス拡散層用炭素繊維シートであって、無定形炭素含有量(B)と炭素粒子I含有量(C)と炭素粒子II含有量(D)との合計に対する炭素粒子I含有量(C)と炭素粒子II含有量(D)との合計の質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.65~0.95であり且つ炭素繊維含有量(A)に対する無定形炭素含有量(B)と炭素粒子I含有量(C)と炭素粒子II含有量(D)との合計の質量比[(B+C+D)/A]が1.50~5.00である固体高分子型燃料電池ガス拡散層用炭素繊維シートが開示されている。
特許文献2には、炭素繊維からなる導電性基材と、該導電性基材を結着する樹脂炭化物とを具備し、所定の空孔が形成されて多孔質なガス拡散層基材であって、目付量を30g/cm2としたガス拡散層基材に対して該ガス拡散層基材の厚み方向の片方の表面に乾燥窒素ガスを流量10L/minで通流させたときの当該ガス拡散層基材の表裏の差圧が0.01~0.3MPaの範囲内であるガス拡散層基材が開示されている。
また、特許文献3には、炭素繊維が互いに絡み合った炭素繊維集積体からなり、該炭素繊維集積体の炭素繊維を結着する炭化物と、炭素繊維集積体の炭素繊維間に保持された中位径が40μm~120μmの範囲内にある球状黒鉛及び/または人造黒鉛とを含み、多孔質であるガス拡散層基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-289552号公報
【特許文献2】特開2018-18665号公報
【特許文献3】特開2020-87826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、燃料電池のアノード極用ガス拡散層の形成に用いられる部材であって、ガス拡散性及び導電性を両立し、高い発電性能を有する燃料電池を与えるアノード極用ガス拡散層基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示される。
〔1〕(A)炭素繊維と、(B)黒鉛粒子とを含有する、燃料電池のアノード極用ガス拡散層基材であって、上記黒鉛粒子(B)は、長径をdLとし、短径をdSとした場合に、長径dLと短径dSとの比Dr(=dL/dS、以下、「アスペクト比Dr」という)が5~100の黒鉛粒子(B1)を含むことを特徴とする、アノード極用ガス拡散層基材。
〔2〕上記黒鉛粒子(B1)のレーザー回折法による平均粒子径d50が20~80μmである上記項〔1〕に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
〔3〕上記黒鉛粒子(B)の含有割合が、上記炭素繊維(A)の含有量を100質量部とした場合に、70~90質量部である上記項〔1〕又は〔2〕に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
〔4〕目付が40~100g/m2である上記項〔1〕乃至〔3〕のいずれか一項に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
〔5〕表面が撥水処理されている上記項〔1〕乃至〔4〕のいずれか一項に記載のアノード極用ガス拡散層基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材を、燃料電池用の膜/電極接合体を構成するアノード極用ガス拡散層の形成に用いると、高い発電性能を有する燃料電池を得ることができる。従って、本発明のアノード極用ガス拡散層基材を用いて得られた燃料電池は、車両等の輸送用燃料電池、定置用燃料電池等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のアノード極用ガス拡散層基材の概略断面図である。
【
図2】本発明のアノード極用ガス拡散層基材に含まれる黒鉛粒子(B1)のアスペクト比を得るための概略説明図である。
【
図3】本発明のアノード極用ガス拡散層基材を用いて得られる膜/電極接合体の概略断面図である。
【
図4】実施例1-1で得られたアノード極用ガス拡散層基材AS1の断面画像である。
【
図5】比較例1-1で得られたアノード極用ガス拡散層基材AS3の断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、例えば、
図3に示される、アノード極用ガス拡散層10、マイクロポーラス層15、触媒層40、電解質層30、触媒層50、マイクロポーラス層25及びカソード極用ガス拡散層20を、順次、備える膜/電極接合体100におけるアノード極用ガス拡散層10の形成に用いるシート状(薄肉板状)の素材である。
【0011】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、(A)炭素繊維(以下、「成分(A)」ともいう)と、(B)黒鉛粒子(以下、「成分(B)」ともいう)とを含有し、黒鉛粒子(B)は、長径(長軸長さ)をdLとし、短径(短軸長さ)をdSとした場合に、これらの長さの比dL/dS(アスペクト比Dr)が5~100の黒鉛粒子(B1)(以下、「成分(B1)」又は「棒状黒鉛粒子」ともいう)を含む。本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、必要に応じて、他の成分(バインダー、有機成分の炭化物、添加剤等)を含有することができる。また、本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、表面が撥水処理されていてもよい。
【0012】
図1は、本発明のアノード極用ガス拡散層基材1の概略断面図であり、複数の炭素繊維3と、複数の棒状黒鉛粒子5とを含むことを示す。この
図1における空白部は、例えば、炭素繊維どうし、黒鉛粒子どうし、又は炭素繊維及び黒鉛粒子を結着している、有機成分の炭化物を主とする相である。尚、空隙率は低く、通常、70%以下である。
【0013】
本発明に係る成分(A)は、特に限定されず、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(シングルウォール、ダブルウォール、マルチウォール、カップ積層型等)、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等が挙げられる。本発明のアノード極用ガス拡散層基材に含まれる成分(A)は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
成分(A)の平均繊維径は、形成されるアノード極用ガス拡散層のガス拡散性及び排水性の観点から、好ましくは5~15μm、より好ましくは6~8μmである。
成分(A)の繊維長について、上限は、通常、12mmであり、下限は、通常、2mmである。また、成分(A)の平均繊維長は、形成されるアノード極用ガス拡散層のガス拡散性及び排水性の観点から、好ましくは2~9mm、より好ましくは3~6mmである。
【0015】
本発明に係る成分(B)は、成分(B1)、即ち、アスペクト比Drが5~100である棒状黒鉛粒子(不定形状の場合がある)を含む。尚、本発明のアノード極用ガス拡散層基材に含まれる成分(B)は、成分(B1)のみからなるものであってよいし、成分(B1)と、他の黒鉛粒子(球状を有する等、アスペクト比Drが上記範囲外の黒鉛粒子)との組み合わせからなるものであってもよい。後者の場合、本発明のアノード極用ガス拡散層基材に含まれる成分(B)の全量に対する成分(B1)の含有割合の下限は、好ましくは50質量%、より好ましくは70質量%である。
【0016】
成分(B1)のアスペクト比Drは、高い発電性能を有する燃料電池を構成する膜/電極接合体が得られることから、好ましくは20~80、より好ましくは30~70である。
尚、アスペクト比Drの導出方法は、
図2により説明される。即ち、成分(B1)の長径(長軸長さ)d
Lと、この長径Lと直交する方向における成分(B1)の最大長さである短径(短軸長さ)d
Sとを計測し、これらの長さの比d
L/d
S(アスペクト比Dr)を求めることができる。アノード極用ガス拡散層基材に含まれる成分(B1)のアスペクト比Drは、アノード極用ガス拡散層基材から取り出した成分(B1)を計測する方法、アノード極用ガス拡散層基材の断面画像において計測する方法を適用することができる。
【0017】
成分(B1)のレーザー回折法による平均粒子径d50は、抄紙時の黒鉛定着性の観点から、好ましくは20~80μm、より好ましくは30~50μmである。
【0018】
成分(B)は、中実体及び中空体のいずれでもよく、黒鉛の膨張体であってもよい。尚、成分(B1)の形状は、アスペクト比Drを満たすものであれば、板状(鱗片状等)、楕円球状等のいずれでもよい。
【0019】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材に含まれる成分(B)の含有割合は、高い発電性能を有する燃料電池を構成する膜/電極接合体のアノード極用ガス拡散層が得られることから、成分(A)の含有量を100質量部とした場合に、好ましくは70~90質量部、より好ましくは75~88質量部である。
【0020】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、上記のように、更に、他の成分(バインダー、有機成分の炭化物、添加剤等)を含有することができる。
バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、キシレノール樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、澱粉、コーンスターチ等に由来するものとすることができる。
有機成分の炭化物としては、樹脂繊維、セルロース繊維等の繊維材料、これらの繊維同士を接着した接着剤、樹脂や添加剤等に由来するものとすることができる。
【0021】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、上記のように、その表面が撥水処理されていてもよい。撥水性材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)等が挙げられる。撥水処理されたアノード極用ガス拡散層基材において、上記撥水性材料は、皮膜化しているか、あるいは、点在している。
【0022】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材の目付は、ガスの拡散性及びたわみ性の観点から、好ましくは40~100g/m2、より好ましくは50~85g/m2である。
【0023】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、通常、シート状(薄肉板状)であり、その厚さは、形成されるアノード極用ガス拡散層の剛性、及び、得られる燃料電池の発電性能の観点から、好ましくは100~250μm、より好ましくは130~200μmである。
【0024】
本発明のアノード極用ガス拡散層基材を製造する方法は、特に限定されない。好ましい製造方法は、炭素繊維(以下、「原料(a)」ともいう)と、黒鉛粒子(B1)を含む黒鉛粒子(以下、「原料(b)」ともいう)と、後の炭化工程において炭化される有機繊維とを含む集積体を作製する集積体作製工程と、該集積体に、後の炭化工程において炭化される炭素前駆体樹脂を含浸させて樹脂含浸体を作製する樹脂含浸工程と、該樹脂含浸体を、非酸化性雰囲気で加熱焼成する炭化工程とを備える方法であり、以下に示される。
【0025】
上記集積体作製工程は、複数本の原料(a)と、複数個の原料(b)と、複数本の有機繊維とを含む集積体を作製する工程である。原料(a)及び原料(b)について、アノード極用ガス拡散層基材を製造前後における形状及び性状の変化はないことから、いずれも、上記の成分(A)及び成分(B)として記載の構成が適用される。
【0026】
上記原料(b)は、上記成分(B1)のみからなるものであってよいし、成分(B1)と他の黒鉛粒子とからなるものであってもよい。但し、後者の場合、他の黒鉛粒子の含有割合の上限は、好ましくは50質量%、より好ましくは70質量%である。上記原料(b)の使用量は、原料(a)の使用量を100質量部とした場合に、好ましくは70~90質量部、より好ましくは75~88質量部である。
【0027】
上記有機繊維は、後の炭化工程において炭化されるものであればよく、植物性繊維(木材、セルロース、綿、竹、麻等のパルプ)、動物性繊維(羊毛等)、樹脂繊維(ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン、アクリル、アラミド、ポリアセタール、フェノール樹脂等)等が例示される。これらの有機繊維が、後の炭化工程における加熱によって熱分解され焼失されると、その焼失跡がガスや水分を透過するための空孔(細孔、気孔)となる。更に、上記有機繊維は、例えば、抄紙法により集積体を作製する際に、炭素繊維を捕獲して炭素繊維どうしを結び付け、絡み合い性を向上させるバインダーとしての機能も有する。本発明においては、植物性繊維及び樹脂繊維を併用することが好ましい。
【0028】
上記有機繊維の平均繊維径は、形成される集積体の機械的強度の観点から、好ましくは5~20μm、より好ましくは6~8μmである。
上記有機繊維の繊維長について、上限は、通常、15mmであり、下限は、通常、1mmである。また、上記有機繊維の平均繊維長は、好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmである。
上記有機繊維の使用量は、原料(a)の使用量を100質量部とした場合に、好ましくは30~90質量部、より好ましくは50~70質量部である。
【0029】
上記集積体作製工程では、抄紙法を適用することが好ましい。例えば、複数本の原料(a)と、複数個の原料(b)と、複数本の有機繊維とを、分散媒(水、有機溶剤等)に分散させてなる原料分散液(スラリー)を用いて抄紙する湿式抄紙法、空気中に、これらの原料の混合物を降り積もらせる乾式抄紙法等が挙げられるが、集積体における原料の均一性、強度、生産性、厚さ、目付の制御性等の観点から、湿式抄紙法が好ましい。
【0030】
スラリーを用いる湿式抄紙法は、従来、公知の方法を利用することができ、例えば、スラリーを、網状部材等の分離部材を用いてすくことにより、又は、減圧吸引若しくは乾燥することにより、固形分と分散媒とを分離させて、集積体とすることができる。具体的には、原料分散液を、長網、短網、円網等のワイヤーを有する湿式抄紙機に供給し、脱水パートで脱水し、加圧して搾水することにより集積体を得ることができる。
上記スラリーは、抄紙性や、含有成分の結合性(強度)等を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース、ポリエチレンオキシド、スチレン-ブタジエンゴム、澱粉、コーンスターチ等のバインダー、凝集剤、粘度調整剤、界面活性剤等を含有してもよい。
尚、上記スラリーの調製方法は、特に限定されず、例えば、パルパー等の回転式の装置等を用いることができる。
【0031】
上記抄紙法において、機械交絡法(ニードルパンチング法等)、高圧液体噴射法(ウォータージェットパンチング法等)、高圧気体噴射法(スチームジェットパンチング法等)等の交絡処理を行ってもよい。
【0032】
上記集積体作製工程で得られる集積体について、目付は、好ましくは40~100g/m2であり、厚さは、好ましくは100~500μmである。
【0033】
上記樹脂含浸工程は、上記で得られた集積体に、後の炭化工程において炭化する炭素前駆体樹脂を含浸させて樹脂含浸体を作製する工程である。
上記炭素前駆体樹脂は特に限定されないが、原料(a)、原料(b)又は有機繊維との濡れ性に優れ、後の炭化工程において導電性の炭化物を形成しやすいことから、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。これらのうち、炭化率が高く、炭化後に優れた導電性物質になることから、フェノール樹脂が特に好ましい。
上記炭素前駆体樹脂は、その性状により、そのまま用いることができるが、上記炭素前駆体樹脂を、溶媒に溶解させてなる溶液(樹脂溶液)、又は、分散媒に分散させてなる分散液(樹脂分散液)を用いてもよい。上記樹脂含浸工程では、炭素前駆体樹脂を含む液(以下、「炭素前駆体樹脂含有液」という)を用いることが好ましい。
【0034】
上記炭素前駆体樹脂含有液を用いる場合、炭素前駆体樹脂含有液に集積体を浸漬する方法、炭素前駆体樹脂含有液を集積体に塗布する方法(キスコート法、スプレー法、カーテンコート法、ローラー接触法等)等を適用することができる。これらのうち、炭素前駆体樹脂含有液に集積体を浸漬する方法が好ましい。
上記炭素前駆体樹脂含有液を用いた場合、熱風を吹き付けたり、高温雰囲気内に載置したり、赤外線ヒーターを用いたり、マイクロ波を用いたりする非接触式乾燥法、又は、加熱されたロール、板等に接触させる接触式乾燥法を利用して、溶媒又は分散媒を含まない樹脂含浸体を得ることができる。
【0035】
上記炭素前駆体樹脂含有液を用いない他の方法としては、上記炭素前駆体樹脂を含む樹脂フィルムを用いて、集積体の表面の少なくとも一部を被覆し、加熱又は溶媒により炭素前駆体樹脂を溶解させて、集積体の全体に浸透させる方法等が挙げられる。
【0036】
上記樹脂含浸工程により得られる樹脂含浸体は、用いた炭素前駆体樹脂がそのまま含まれるものであってよいし、炭素前駆体樹脂が硬化性樹脂である場合には、例えば、上記のように溶媒又は分散媒を除去する操作(加熱等)により形成された硬化樹脂であってもよい。
上記集積体に含まれる原料(a)、原料(b)及び有機繊維が硬化樹脂により結着され、所望の厚さを有し、原料(a)、原料(b)又は有機繊維がなく構造安定性に優れた樹脂含浸体とするために、集積体に炭素前駆体樹脂が接触した状態で加熱プレス(油圧プレス、ホットプレス、ベルトプレス、ロールプレス等)を行うことができる。
【0037】
上記樹脂含浸工程において、集積体への炭素前駆体樹脂の添着量は特に限定されない。最後に得られるアノード極用ガス拡散層基材の導電性及び強度の観点から、樹脂含浸体における集積体及び炭素前駆体樹脂の質量割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50~90質量%及び10~50質量%、より好ましくは60~80質量%及び20~40質量%である。
【0038】
上記炭化工程は、樹脂含浸体を非酸化性雰囲気で加熱焼成する工程である。非酸化性雰囲気は、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、窒素ガス等を含む雰囲気とすることができる。
上記樹脂含浸体の加熱温度は、原料(a)の強度劣化を引き起こさず、樹脂繊維及び炭素前駆体樹脂の炭化を円滑にするために、好ましくは1800℃~2500℃、より好ましくは1900℃~2200℃である。尚、上記炭化工程は、上記好ましい炭化温度より低い温度で加熱処理してから行う多段階加熱法を適用することができる。
また、上記樹脂含浸体の加熱時間は、樹脂含浸体のサイズによるが、通常、1分間以上である。
【0039】
上記炭化工程により、集積体に由来する樹脂繊維と、樹脂含浸体に含まれた炭素前駆体樹脂とが炭化され、形成された炭化物により炭素繊維どうし、黒鉛粒子どうし、又は、炭素繊維及び黒鉛粒子が結着され、
図1に示される構造を有するアノード極用ガス拡散層基材を得ることができる。
得られるアノード極用ガス拡散層基材は、炭化物を主とする相により、強固な導電パスを有することとなり、また、炭化物が樹脂に由来するため、弾力性を有し、燃料電池の製造時に電解質層又は触媒層と接合させた際の寸法吸収性が高くなる。また、このアノード極用ガス拡散層基材を用いて製造された燃料電池を駆動させた場合、成分(B1)からなる黒鉛粒子が存在するアノード極用ガス拡散層において、水蒸気の拡散が遅く(水蒸気が抜けにくく)なり、乾燥が抑制され、保水性が維持されるため、高い発電性能を発揮するものと思われる。
【0040】
尚、表面が撥水処理されてなるアノード極用ガス拡散層基材(以下、「アノード極用撥水化ガス拡散層基材」という)を製造する場合には、炭化工程後のアノード極用ガス拡散層基材に撥水性材料を添着させる撥水化工程を、更に、備えることができる。この撥水化工程では、例えば、アノード極用ガス拡散層基材に撥水性材料の溶液又は分散液に接触させ、その後、必要に応じて、熱処理する方法を適用することができる。
撥水性材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂を主とすることが好ましい。
【0041】
燃料電池を製造する場合には、本発明のアノード極用ガス拡散層基材(上記アノード極用撥水化ガス拡散層基材を含む)を、そのまま、ガス拡散層用電極に適用してよいが、1面側にマイクロポーラス層が形成されてなる積層体(アノード極用ガス拡散層積層体)を用いることが好ましい。このマイクロポーラス層を備えるアノード極用ガス拡散層積層体を用いて得られた燃料電池を駆動させた場合には、水蒸気が凝縮して生じた大きな水滴に起因するフラッディングを抑制することができる。
【0042】
上記マイクロポーラス層は、好ましくは、導電材及び撥水性樹脂を含む、厚さの上限が100μm程度の微多孔層である。
導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛等が挙げられる。
撥水性樹脂としては、上記フッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0043】
1面側にマイクロポーラス層を備えるアノード極用ガス拡散層基材(上記アノード極用撥水化ガス拡散層基材を含む)と、1面側にマイクロポーラス層を備えるカソード極用ガス拡散層基材と、特定のイオンを選択的に透過する電解質膜(高分子電解質膜)の両面に触媒層を形成させてなる積層体とを用いて、
図3に示す膜/電極接合体100を製造することができ、この膜/電極接合体100と、セパレーター(アノード側及びカソード側)とを用いて燃料電池(単セル)を製造することができる。
【0044】
このような構成の燃料電池において、外部より酸化ガスがカソード側セパレーターの酸化ガス流路に供給されると、この酸化ガス流路に沿って流れる酸化ガスの一部がカソード極用ガス拡散層の内部へ侵入する。侵入しない他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路に沿って流れ、燃料電池の外部へ排出される。同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレーターの燃料ガス流路に供給されると、この燃料ガス流路に沿って流れる燃料ガスの一部がアノード極用ガス拡散層の内部へ侵入する。侵入しない他の未反応の燃料ガスは、燃料ガス流路に沿って流れ、燃料電池の外部へ排出される。
そして、酸化ガス及び燃料ガスが反応することにより、カソード側セパレーターと、アノード側セパレーターとの間で電力が取り出されることになる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0046】
1.アノード極用ガス拡散層基材の製造原料
実施例及び比較例で用いた製造原料は、以下の通りである。
【0047】
1-1.炭素繊維
帝人社製カーボンファイバー(繊維長:3mm、繊維径:7μm)を用いた。
【0048】
1-2.パルプ繊維
東洋紡社製パルプ繊維(繊維長:2mm、濾水度:550ml)を用いた。
【0049】
1-3.樹脂繊維
クラレ社製ビニロン繊維(繊維長:3mm、繊維径:11μm)を用いた。
【0050】
1-4.黒鉛粒子
(1)黒鉛粒子G1
日本黒鉛工業社製黒鉛粉末「CMX-40」(商品名)を用いた。粒子の短径(厚み)は0.9~1.2μm、レーザー回折法による平均粒子径d50は45.46μm、アスペクト比は45.9である。
(2)黒鉛粒子G2
日本黒鉛工業社製黒鉛粉末「CGB-50」(商品名)を用いた。球状であり、粒子の短径(厚み)は30~50μm、レーザー回折法による平均粒子径d50は59.94μm、アスペクト比は1.6である。
【0051】
2.アノード極用ガス拡散層基材の製造
上記の製造原料を用いてアノード極用ガス拡散層基材を製造した。
【0052】
実施例1-1
30質量部の炭素繊維と、13質量部のパルプ繊維と、3質量部の樹脂繊維と、25質量部の黒鉛粒子G1とを混合し、円網抄紙機により連続して抄きあげ、炭素繊維、パルプ繊維及び樹脂繊維が絡み合っており、且つ、黒鉛粒子G1が繊維同士の隙間に介在されたロール状原料シートを得た。
次いで、このロール状シートにバインダー溶液を含浸させ、乾燥させ、バインダーにより、炭素繊維、パルプ繊維、樹脂繊維及び黒鉛粒子G1が結着した黒鉛粒子付着シートを得た。バインダーの付着量は、黒鉛粒子付着シート100質量部に対して25質量部であった。
その後、この黒鉛粒子付着シートをダブルベルトプレス装置により加圧(圧力:1MPa、温度:250℃)し、厚さ200μmの圧縮シートを得た。
次に、この圧縮シートを、内部温度を2000℃とし、窒素ガス雰囲気とした黒鉛化炉の中で熱処理(時間:1分間)し、バインダー、パルプ繊維及び樹脂繊維を炭化させ、黒鉛粒子G1が内包され、且つ、樹脂炭化物が炭素繊維同士を結着する黒鉛粒子担持炭素繊維シートを得た。目付は70g/m
2、厚さは約170μmであった。以下、この黒鉛粒子担持炭素繊維シートを、「アノード極用ガス拡散層基材AS1」とした。
得られたアノード極用ガス拡散層基材AS1の断面を、電気顕微鏡により撮影したところ、
図4の画像を得た。
図4によれば、アスペクト比の大きな鱗片状の黒鉛が炭素繊維間を充填されていることが分かる。
【0053】
実施例1-2
炭素繊維、パルプ繊維、樹脂繊維及び黒鉛粒子G1の使用量を、それぞれ、36質量部、15質量部、3質量部及び31質量部に変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、目付が85g/m2、厚さが約190μmである「アノード極用ガス拡散層基材AS2」を得た。
【0054】
比較例1-1
黒鉛粒子G1に代えて、黒鉛粒子G2を用いた以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、目付が92g/m
2、厚さが約200μmである「アノード極用ガス拡散層基材AS3」を得た。
得られたアノード極用ガス拡散層基材AS3の断面を、電気顕微鏡により撮影したところ、
図5の画像を得た。
【0055】
3.燃料電池の製造及び評価
上記のアノード極用ガス拡散層基材AS1、AS2又はAS3の表面を撥水処理してアノード極用撥水化ガス拡散層基材とし、次いで、得られたアノード極用撥水化ガス拡散層基材の1面側に、マイクロポーラス層形成用ペーストを塗工してマイクロポーラス層(15)を備えるアノード極用ガス拡散層積層体を作製した。他方、カソード極用ガス拡散層基材CS1の表面を撥水処理し、次いで、その1面側にマイクロポーラス層形成用ペーストを塗工してマイクロポーラス層(25)を備えるカソード極用ガス拡散層積層体を作製した。その後、これらのガス拡散層積層体と、Nafion(登録商標)シリーズの電解質膜「NRE-212」(商品名)からなる電解質層(30)の両面に、50質量%Pt/Cからなり、Pt担持量が0.5mg/cm
2である触媒層(40,50)を備える燃料電池用電極膜とを用いて、
図3に示す膜/電極接合体(100)を製造した。この膜/電極接合体(100)は、撥水処理されたアノード極用撥水化ガス拡散層基材に由来するアノード極用ガス拡散層(10)と、マイクロポーラス層(15)と、触媒層(40)と、電解質層(30)と、触媒層(50)と、マイクロポーラス層(25)と、カソード極用ガス拡散層(20)とを、順次、備える。
次いで、この膜/電極接合体(100)を、セパレーター、集電板等と用いて、JARI標準セルを作製し、これを燃料電池評価用単セルに組み込み、発電性能を評価した。
【0056】
実施例2-1
(1)アノード極用ガス拡散層積層体の製造
アノード極用ガス拡散層基材AS1の両面側に厚さ40μmのポリエチレンフィルムを配置し、面圧1.5MPaで加圧することにより、炭素繊維の遊離毛羽を除去した。次いで、このフィルム積層体を、ダイキン社製PTFEディスパージョンに含浸させ、熱処理(温度:200℃、パス時間:5分間)を行うことにより、アノード極用ガス拡散層基材AS1の100質量部に対してPTFEが0.5質量部展着されてなるアノード極用撥水化ガス拡散層基材を得た。
その後、アノード極用撥水化ガス拡散層基材の1面側に、カーボンブラック、フッ素樹脂及び水を含有するマイクロポーラス層形成用ペーストを塗工し、熱処理(温度:320℃、パス時間:5分間)を行うことにより、アノード極用撥水化ガス拡散層基材の100質量部に対してマイクロポーラス層が3質量部展着されてなるアノード極用ガス拡散層積層体AB1を得た。
【0057】
(2)カソード極用ガス拡散層積層体の製造
28質量部の炭素繊維と、10質量部のパルプ繊維と、2質量部の樹脂繊維と、10質量部の黒鉛粒子G2とを混合し、円網抄紙機により連続して抄きあげ、炭素繊維、パルプ繊維及び樹脂繊維が絡み合っており、且つ、黒鉛粒子が繊維同士の隙間に介在されたロール状原料シートを得た。
次いで、このロール状シートにバインダー溶液を含浸させ、乾燥させ、バインダーにより、炭素繊維、パルプ繊維、樹脂繊維及び黒鉛粒子G2が結着した黒鉛粒子付着シートを得た。バインダーの付着量は、黒鉛粒子付着シート100質量部に対して25質量部であった。
その後、この黒鉛粒子付着シートをダブルベルトプレス装置により加圧(圧力:1MPa、温度:250℃)し、厚さ200μmの圧縮シートを得た。
次に、この圧縮シートを、内部温度を2000℃とし、窒素ガス雰囲気とした黒鉛化炉の中で熱処理(時間:1分間)し、バインダー、パルプ繊維及び樹脂繊維を炭化させ、黒鉛粒子G1が内包され、且つ、樹脂炭化物が炭素繊維同士を結着する黒鉛粒子担持炭素繊維シートを得た。目付は50g/m2、厚さは約150μmであった。以下、この黒鉛粒子担持炭素繊維シートを、「カソード極用ガス拡散層基材CS1」とした。
その後、アノード極用ガス拡散層基材AS1に対すると同様にして、カソード極用ガス拡散層基材CS1を撥水処理した後、その1面側にマイクロポーラス層を形成させ、カソード極用ガス拡散層積層体CB1を得た。
【0058】
(3)燃料電池の製造及び評価
燃料電池用電極膜の1面側に、アノード極用ガス拡散層基材AS1のマイクロポーラス層が面するようにアノード極用ガス拡散層基材AS1を当接させ、燃料電池用電極膜の他面側に、カソード極用ガス拡散層基材CS1のマイクロポーラス層が面するようにカソード極用ガス拡散層基材CS1を当接させ、これらを積載状態として、ダブルベルトプレス装置により加圧(圧力:1MPa、温度:100℃)し、厚さ360μmの膜/電極接合体(MEA)100を得た(
図3参照)。
次いで、この膜/電極接合体100と、流路幅1.0mm、リブ幅1.0mm、溝深さ1.0mmの1本流路のサーペンタイン型セパレーターと、集電板とを用いて、JARI標準セルを作製し、これを燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度1.0A/cm
2、セル温度80℃、アノード側露点温度77℃、カソード側露点温度60℃の条件で発電性能評価(セル電圧測定)を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
実施例2-2
アノード極用ガス拡散層基材AS1に代えて、アノード極用ガス拡散層基材AS2を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、アノード極用ガス拡散層積層体AB2を作製した。そして、このアノード極用ガス拡散層積層体AB2を、実施例2-1におけるカソード極用ガス拡散層基材CS1とともに用いて実施例2-1と同様にして、JARI標準セル及び燃料電池評価用単セルを、順次、作製し、発電性能を評価した(表1参照)。
【0060】
比較例2-1
アノード極用ガス拡散層基材AS1に代えて、アノード極用ガス拡散層基材AS3を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、アノード極用ガス拡散層積層体AB3を作製した。そして、このアノード極用ガス拡散層積層体AB3を、実施例2-1におけるカソード極用ガス拡散層基材CS1とともに用いて実施例2-1と同様にして、JARI標準セル及び燃料電池評価用単セルを、順次、作製し、発電性能を評価した(表1参照)。
【0061】
【0062】
実施例2-1及び2-2は、本発明に係る黒鉛粒子を含有するアノード極用ガス拡散層基材を用いた例であり、アスペクト比が2未満の黒鉛粒子を含むアノード極用ガス拡散層基材を用いた比較例2-1に比べて、高いセル電圧が得られ、厚み方向及び面方向の抵抗値を低減させることができた。この結果から、本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、ガス拡散性及び導電性を両立し、発電した際に生ずる水を効率よく系外へ排出し発電性能の低下が抑制される燃料電池の製造に好適であることが分かる。
【0063】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、燃料電池に含まれる膜/電極接合体を構成するアノード極用ガス拡散層を形成する素材として好適である。従って、このようなアノード極用ガス拡散層を備える燃料電池は、高い発電性能を備え、車両等の輸送用燃料電池、定置用燃料電池等に用いることができる。
また、本発明のアノード極用ガス拡散層基材は、電磁シールド材、導電性シート、炭素質クッション材、高温真空炉用炉壁断熱材等に利用することもできる。