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特開2023-8504土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008504
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230112BHJP
   E02B 3/04 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 102A
E02D17/20 106
E02B3/04 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112121
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000173681
【氏名又は名称】一般財団法人砂防・地すべり技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】浦 真
(72)【発明者】
【氏名】藤平 大
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【テーマコード(参考)】
2D044
2D118
【Fターム(参考)】
2D044DA01
2D044DB01
2D044DB32
2D044DB43
2D044EA03
2D118BA01
2D118BA02
2D118BA04
2D118GA32
2D118GA34
2D118GA42
(57)【要約】
【課題】土嚢を積み上げて形成された土嚢積層体の外表面を網体で覆った土砂流出防止構造において、土砂流出時に的確に土嚢積層体の崩壊を防止することが可能な土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法を提供すること。
【解決手段】斜面Sに土嚢22を上下方向に複数段積み上げた土嚢積層体20と、該土嚢積層体の外表面を覆った状態で前記斜面に固定された網体30と、を備え、前記土嚢積層体により前記斜面からの土砂流出を防止する土砂流出防止構造10において、前記網体は、前記斜面に敷設され、上面に前記土嚢積層体が載置された土嚢載置領域部34と、該土嚢載置領域の斜面山側に延設され、前記斜面に固定された山側領域部32と、前記土嚢載置領域の斜面谷側に延設され、前記載置された土嚢積層体の少なくとも上面を覆うように折り返されて前記山側領域部に固定された土嚢覆い領域部36と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に土嚢を上下方向に複数段積み上げた土嚢積層体と、該土嚢積層体の外表面を覆った状態で前記斜面に固定された網体と、を備え、前記土嚢積層体により前記斜面からの土砂流出を防止する土砂流出防止構造において、
前記網体は、
前記斜面に敷設され、上面に前記土嚢積層体が載置された土嚢載置領域部と、
該土嚢載置領域の斜面山側に延設され、前記斜面に固定された山側領域部と、
前記土嚢載置領域の斜面谷側に延設され、前記載置された土嚢積層体の少なくとも上面を覆うように折り返されて前記山側領域部に固定された土嚢覆い領域部と、
を有することを特徴とする土砂流出防止構造。
【請求項2】
前記網体が一体の網部材によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の土砂流出防止構造。
【請求項3】
前記網体が複数の網部材を連結することによって形成されていることを特徴とする請求項1の土砂流出防止構造。
【請求項4】
土嚢積層体に前記斜面山側から前記斜面谷側へ貫通する通水管を設けたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造。
【請求項5】
前記土嚢は、袋体と、該袋体の内部に封入された中詰材と、を備え、
前記袋体は、透水性を有し、
前記中詰材は、平均粒度が3mm~15mmの粒状体で構成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の土砂流出防止構造。
【請求項6】
前記土嚢は、袋体と、該袋体の内部に封入された中詰材と、を備え、
前記袋体は、透水性を有し、
前記中詰材は、水分と反応して硬化する硬化材を含むことを特徴とする請求項1~4に記載の土砂流出防止構造。
【請求項7】
前記網体は、上下方向に重なる前記土嚢の上下間に敷設され、前記土嚢の下面と上面を覆って前記網体の土嚢覆い領域部に連結された付加網体部を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造。
【請求項8】
前記土嚢積層体及び該土嚢積層体により堰き止められた堆積土砂の上方に複数の土嚢を壁状に積み上げた後付け土嚢積層体を備え、
前記網体は、前記土嚢覆い領域部から前記後付け土嚢積層体の外表面及び前記堆積土砂の上面を覆って前記山側領域部に固定された付加土嚢覆い領域部を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造を構成するための施工方法であって、
前記斜面に前記網体を敷設する工程と、
敷設された前記網体の前記斜面の下方側の領域の上面に複数の土嚢を積み上げて前記土嚢積層体を形成するとともに、前記網体の前記土嚢載置領域部及び前記山側領域部を形成する工程と、
前記土嚢載置領域部の前記斜面谷側の端部から前記土嚢積層体の外表面を覆って前記山側領域部に連なるように前記網体を延設し、前記網体の前記土嚢覆い領域部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法に関し、特に、土嚢を用いて傾斜地の土砂の流出を防止する土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳等の傾斜地において大雨が発生すると、周辺地盤よりも窪んだ領域に雨水が集中して流れる。このような状況が長期にわたって生じると、地盤斜面が浸食されて沢が形成されてしまい、降雨時に沢に沿って土砂が流出し、土砂災害が発生する懸念がある。
【0003】
このような土砂の流出を防止する方法として、斜面に土嚢を積み上げて、土嚢によって斜面上方からの土砂の流出を防止する方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、斜面下方領域に、土嚢を上下方向に複数段積み上げて壁状に形成した土嚢積層体を設置し、この土嚢積層体によって、斜面に発生した土砂崩れや雪崩等の斜面谷側への流出を防止する土砂流出防止構造が開示されている。この土嚢積層体は、斜面谷側に隣接して立設された支持柵によって支持されることで、土砂による衝撃力を受けた際に、土嚢が谷側へ移動して土嚢積層体が崩れることを抑止している。支持柵は、土嚢積層体に作用する衝撃力を十分に受け止めることができるように、支柱を地盤深くに埋め込んで堅固に立設されている。
【0005】
特許文献1に記載の土砂流出防止構造では、土砂が流出した際に、支持柵によって土嚢積層体が崩れることを抑止することができるが、支柱を地盤深くまで埋め込む必要があるため、施工期間や施工コストが掛かるという問題がある。
【0006】
施工期間や施工コストを低減する方法として、網体を用いて土嚢積層体を地盤に固定設置する方法が知られている。
【0007】
例えば、特許文献2には、土嚢積層体の外表面を網体で覆った状態で地盤に固定した土嚢積層体の設置構造が開示されている。土嚢積層体の前面、上面及び裏面は、一連の網体である中央ネット体で覆われており、土嚢積層体の左側面及び右側面は、それぞれ、中央ネット体に連結されたた網体である左ネット体及び右ネット体で覆われている。中央ネット体の下端部は、アンカーボルトによって地盤に固定されている。
【0008】
この構造では、網体によって土嚢積層体を覆って、積み上げられた複数の土嚢を一体化させた状態とすることができるとともに、網体によって土嚢積層体を地盤に押しつけて固定設置することができるので、土石流による衝撃力を受けた際に、土嚢積層体が崩れたり、斜面谷側へ押し流されたりすることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6024958号公報
【特許文献2】特許第6766307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の土砂流出防止構造では、土砂の流出量が多い場合に、アンカーボルトによる網体の押付け力のみでは、斜面谷側へ作用する衝撃力に十分に耐えることができず、土嚢が所定位置からずれてしまい、土嚢積層体の崩壊に繋がることがあった。
【0011】
それ故、網体を用いた簡易な固定構造でありながら、土嚢積層体をより強固に斜面に固定して、土嚢積層体の崩壊を防止することが可能な技術の開発が望まれていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、土嚢を積み上げて形成された土嚢積層体の外表面を網体で覆った土砂流出防止構造において、土砂流出時に的確に土嚢積層体の崩壊を防止することが可能な土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本願の請求項1に係る土砂流出防止構造は、
斜面に土嚢を上下方向に複数段積み上げた土嚢積層体と、該土嚢積層体の外表面を覆った状態で前記斜面に固定された網体と、を備え、前記土嚢積層体により前記斜面からの土砂流出を防止する土砂流出防止構造において、
前記網体は、
前記斜面に敷設され、上面に前記土嚢積層体が載置された土嚢載置領域部と、
該土嚢載置領域の斜面山側に延設され、前記斜面に固定された山側領域部と、
前記土嚢載置領域の斜面谷側に延設され、前記載置された土嚢積層体の少なくとも上面を覆うように折り返されて前記山側領域部に固定された土嚢覆い領域部と、
を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、斜面に土砂の流出が生じて、流出した土砂が土嚢積層体によって堰き止められると、土砂は、山側領域部の上部及び土嚢覆い領域部の山側部分に堆積する。この堆積した土砂の重さによって、斜面に固定されている山側領域部はさらに地盤斜面に強く押し付けられることにより、その斜面に対する固定力が高くなる。また、土嚢覆い領域部の山側部分も土嚢にしっかりと押しつけられた状態となる。
これにより、土砂流出時に網体による土嚢積層体の固定力を土砂流出前よりも高めることができ、土砂流出時の土嚢積層体の崩壊を効果的に防止することができる。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の土砂流出防止構造において、
前記網体が一体の網部材によって形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、斜面に対して網体の上方側の領域を斜面に敷設して山側領域部及び土嚢載置領域部を形成した後、網体の下方側の領域を斜面山側に折り返して土嚢覆い領域部を形成することができるので、網体の各領域部を簡易に形成することができる。
【0017】
また、請求項3に係る発明は、請求項1の土砂流出防止構造において、
前記網体が複数の網部材を連結することによって形成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、土嚢積層体の大きさや設置現場の状況に応じて、網部材を適宜連結して、網体の山側領域部、土嚢載置領域部及び土嚢覆い領域部を適切な大きさに形成することができる。
【0019】
また、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1~3の何れか1項に記載の土砂流出防止構造において、
土嚢積層体に前記斜面山側から前記斜面谷側へ貫通する通水管を設けたことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、土嚢積層体によって堰き止められた土砂の中に含まれる水分を、土嚢積層体を貫通する通水管内を通して斜面谷側へ逃がすことができる。これにより、土嚢積層体が堰き止めた土砂から受ける荷重を低減することができ、土嚢積層体の崩壊を防止しながら、より多くの土砂を堰き止めることが可能である。
【0021】
また、本発明の請求項5に係る発明は、請求項1~4の何れか1項に記載の土砂流出防止構造において、
前記土嚢は、袋体と、該袋体の内部に封入された中詰材と、を備え、
前記袋体は、透水性を有し、
前記中詰材は、平均粒度が3mm~15mmの粒状体で構成されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、中詰材を構成している粒状体の平均粒度が比較的大きく形成されており、この粒状体の間を水分が通過することができるので、土嚢積層体によって堰き止められた土砂の中に含まれる水分を、土嚢内を通過させて土嚢積層体の斜面谷側へ流すことができる。これにより、土嚢積層体が堰き止めた土砂から受ける荷重を低減することができ、土嚢積層体の崩壊を防止しながら、より多くの土砂を堰き止めることが可能である。
【0023】
また、本発明の請求項6に係る発明は、請求項1~4に記載の土砂流出防止構造において、
前記土嚢は、袋体と、該袋体の内部に封入された中詰材と、を備え、
前記袋体は、透水性を有し、
前記中詰材は、水分と反応して硬化する硬化材を含むことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、土嚢積層体の設置時には、中詰材を構成する硬化材が未硬化状態にあり、土嚢の形状が固定されていないため、複数の土嚢を隙間なく積み上げることができる。また、土嚢積層体を設置した後、土嚢積層体によって土砂を堰き止めると、土砂の中に含まれる水分によって、土嚢の中詰材を硬化する。中詰材の硬化により、土嚢の形状が固定されて土嚢間の位置ずれが生じ難くなり、これにより、土嚢積層体をより崩れ難くすることができる。
【0025】
また、本発明の請求項7に係る発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造において、
前記網体は、上下方向に重なる前記土嚢の上下間に敷設され、前記土嚢の下面と上面を覆って前記網体の土嚢覆い領域部に連結された付加網体部を有することを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、付加網体部によって多段に設置された土嚢積層体を別個に支えることができ、また、付加網体部が網体の土嚢覆い領域部に連結されることで、複数段の土嚢の一体化も図られ、各段の土嚢崩れが抑制される。
【0027】
また、本発明の請求項8に係る発明は、請求項1~7のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造において、
前記土嚢積層体及び該土嚢積層体により堰き止められた堆積土砂の上方に複数の土嚢を壁状に積み上げた後付け土嚢積層体を備え、
前記網体は、前記土嚢覆い領域部から前記後付け土嚢積層体の外表面及び前記堆積土砂の上面を覆って前記山側領域部に固定された付加土嚢覆い領域部を有することを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、斜面に発生した土砂流が土嚢積層体で堰き止められた後に、堰き止められた堆積土砂を利用して、この堆積土砂及び既設の土嚢積層体の上方に後付け土嚢積層体を設置することにより、より多くの土砂を堰き止めることが可能となる。後付け土嚢積層体は、堆積土砂とともに付加土嚢覆い領域部によって外表面が覆われた状態で既設の土嚢積層体と一体化されているため、斜面に対する固定力が高く、その後に発生する土砂流を適切に堰き止めることができる。
【0029】
また、本発明の請求項9に係る発明は、請求項1~8のいずれか1項に記載の土砂流出防止構造を構成するための施工方法であって、
前記斜面に前記網体を敷設する工程と、
敷設された前記網体の前記斜面の下方側の領域の上面に複数の土嚢を積み上げて前記土嚢積層体を形成するとともに、前記網体の前記土嚢載置領域部及び前記山側領域部を形成する工程と、
前記土嚢載置領域部の前記斜面谷側の端部から前記土嚢積層体の外表面を覆って前記山側領域部に連なるように前記網体を延設し、前記網体の前記土嚢覆い領域部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、上述した土嚢載置領域部、山側領域部及び土嚢覆い領域部を有する網体を備えた土砂流出防止構造を斜面に簡易に構築することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る土砂流出防止構造及びその構造を構成するための施工方法によれば、土嚢積層体によって土砂が堰き止められると、堰き止められた土砂の重さによって網体の山側領域部が地盤斜面に押し付けられることにより、斜面に対する固定力が高くなり、また、土嚢覆い領域部の山側部分も斜面に対する固定力が高くなる。これにより、土砂流出時に網体による土嚢積層体の固定力を土砂流出前よりも高めることができ、土砂流出時の土嚢積層体の崩壊を的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1の実施の形態である土砂流出防止構造を模式的に示す一部断面側面図である。
図2図1に示す土砂流出防止構造の斜視図である。
図3】土砂流出防止構造の施工方法の説明図である。
図4】本発明の第2の実施の形態である土砂流出防止構造を模式的に示す一部断面側面図である。
図5】本発明の第3の実施の形態である土砂流出防止構造を模式的に示す一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第1の実施の形態である土砂流出防止構造を模式的に示す一部断面斜視図であり、図2は、図1に示す土砂流出防止構造の斜視図である。土砂流出防止構造10は、土嚢22を用いて山岳等の傾斜地に発生する土砂や雪崩等の流出を防止するものである。
【0034】
本実施形態の土砂流出防止構造10は、地盤となる斜面Sに設置され、複数の土嚢22を積み上げた土嚢積層体20と、土嚢積層体20を覆う網体30と、網体30を地盤斜面Sに固定する固定具40と、支持ロープ52,54と、を備える。網体30は、斜面Sに敷設された土嚢載置領域部34及び山側領域部32と、土嚢積層体20を覆う土嚢覆い領域部36とを有する。本実施形態において斜面Sは、地山の斜面であるが、これに限られず、盛土斜面や法面であってもよい。なお、図1では、流出した土砂60が、土嚢積層体20によって堰き止められた状態を示しており、図2では、流出土砂60を仮想線で示している。
【0035】
土嚢積層体20は、複数の土嚢22を壁状に積み上げたものである。本実施形態の土嚢積層体20は、図2に示すように、斜面Sにおいて所定の幅を有するように、斜面Sの幅方向に土嚢22を複数並べた状態で縦方向に積み上げてられている。また、本実施形態では、図1に示すように、土嚢積層体20に通水管48を設けている。なお、図2では通水管28の記載を省略している。
【0036】
各土嚢22は、中空の袋体24と、袋体24の内部に封入された中詰材26と、を備える。袋体24は、不織布、織布、ビニールシート等を袋形状にして形成することができる。袋体24は、例えば織布等で形成することによって透水性を有することが好ましい。
【0037】
中詰材26としては、例えば、土砂や砂利等を用いることができる。透水性を有する袋体24を用いる場合、中詰材26は、土砂と比べて空隙率の高い硬質の粒状体を用いることが好ましい。空隙率の高い硬質粒状体としては、例えば、砂利、砕石、玉石、コンクリートガラなどを単品で又は組み合わせて用いることができる。所要の空隙率を得るために、中詰材26を構成する粒状体の平均粒度は、約3mm~約15mmの範囲に設定されることが好ましい。ここで、平均粒度とは、粒状体の粒子径を体積で重みを付けした体積平均径である。
【0038】
本実施形態では、中詰材26として、平均粒度が3mm~15mmの粒状体を用いている。このように、袋体24と、袋体24内の充填物が透水性を有することで、土嚢積層体20によって土砂を堰き止めた際に、堰き止められた土砂の内部の水分が、中詰材26内を通って斜面Sの谷側へ滲み出てくるようになる。これにより、土砂内の水分を、土嚢積層体20を通過させて斜面Sの谷側へ排出することができる。
【0039】
中詰材26は、これに限られず、例えば、水分と反応して硬化する硬化材を含む構成とすることができる。このような硬化材としては、例えば、セメント等を用いることができる。袋体24が透水性を有する場合に、中詰材26として、土砂と、硬化材であるセメントとの混合物を用いた場合、土嚢積層体20の設置時には、中詰材26を構成するセメントが未硬化状態にあり、各土嚢22の形状が固定されていないため、複数の土嚢22を隙間なく並べて積み上げることができる。また、未硬化で柔らかい中詰材26は、設置現場の地形に馴染むように変形することができる。土嚢積層体20を設置した後は、土嚢積層体20によって土砂を堰き止めると、土砂の中に含まれる水分が土嚢22の袋体24内に浸入してセメントと反応し、中詰材26が硬化する。中詰材26が硬化することにより、各土嚢22の形状が固定されて土嚢22間の位置ずれが生じ難くなり、これにより、土嚢積層体20をより崩れ難くすることができ、土嚢積層体20の土砂に対する受け止め力が向上する。
【0040】
通水管48は、土嚢積層体20を斜面山側から斜面谷側へ貫通する(すなわち、壁状の土嚢積層体20の厚さ方向を貫通する)管であり、例えば、樹脂製や金属製等のパイプで形成することができる。通水管48は、土嚢積層体20を形成する際に、隣接する土嚢22の間を通るように設置することができる。通水管48の数や管径は適宜設定することができ、例えば、通水管48の内径を例えば、2cm~3cmとすることができる。複数の通水管48を設ける場合、場所に応じて通水管48の管径を変えることも可能である。通水管48の内径を適宜設定して一定量の水を排出するようにすることで、堰き止められた土砂に含まれる水分を時間をかけて徐々に排出することが可能となる。また、このように土砂内の水分を排出することで、土嚢積層体20にかかる水圧を低減することができる。
【0041】
網体30は、金属製の線状材を編み込んで形成される。本実施形態において、網体30を形成している線状材は、硬鋼線材から製造されており、直径が2mm~5mmの大きさであって、800N/mm~2000N/mmの引張強度を有する。このような線状材としては、例えば、JIS G 3506に規定された硬鋼線材から製造された線状材、例えば、硬鋼線(JIS G 3521)や亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等を用いることができる。硬鋼線材から製造された線状材24は、JIS G 3505に規定された軟鋼線材から製造された線状材、すなわち、市販の軟鋼線からなる鉄線(一般に、引張強度が290~540N/mmである)からなる汎用金網と比較して塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を有する。
【0042】
本実施形態の網体30は、図2に示すように、ひし形の網目を有するひし形金網である。なお、網体30の網目形状は、ひし形に限られず、例えば円形等、適宜設定することができる。網体30は、表面に、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有していることが好ましい。
【0043】
なお、網体30を形成する線状材は、金属製のものに限られず、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維等によって形成された線材や、防食性の高い樹脂製線材を用いることができる。また、網体30として、樹脂製の高強度網目状織物(ジオグリッド)を用いてもよい。
【0044】
網体30は、一体の網部材によって形成することができる。網体30を一体の網部材30で形成する場合、網体30の山側領域部32、土嚢載置領域部34及び土嚢覆い領域部36を容易に形成することができる。また、網体30は、これに代えて、複数の網部材を連結することによって形成されていてもよい。複数の網部材は、ワイヤー等の線状材を用いて、簡易に連結することができる。網体30を複数の網部材で形成する場合、土嚢積層体20の大きさや設置現場の状況に応じて、網部材を適宜連結して、網体30の山側領域部32、土嚢載置領域部34及び土嚢覆い領域部46を適切な大きさに形成することができる。複数の網部材を連結して一連の網体30とする場合、連結する網部材ごとに材料を変えることができる。例えば、網体30のうち、一部の領域を硬鋼線材からなる網部材で形成し、残りの領域を高強度網目状織物からなる網部材で形成することが可能である。
【0045】
網体30は、土嚢積層体20が載置される土嚢載置領域部34と、土嚢載置領域部34の土嚢載置領域の斜面山側に延設され、斜面Sに固定された山側領域部32と、土嚢載置領域34の斜面谷側に延設され、土嚢積層体20の少なくとも上面を覆うように折り返されて山側領域部32に固定された土嚢覆い領域部36と、を有する。
【0046】
網体30の山側領域部32及び土嚢載置領域部34は、斜面S上に敷設された領域であり、山側領域部32は、土嚢22が載置されていない土嚢非載置領域である。山側領域部32は、土嚢載置領域部34の斜面山側の端部34bに連なって、土嚢載置領域部34から斜面Sの上方側へ広がっている。図1に示すように、本実施形態では、網体30の山側領域部32及び土嚢載置領域部34を固定具40によって、斜面Sに固定しているが、土嚢載置領域34は、固定具40を用いることなく、土嚢積層体20の重量で斜面Sに固定される構成であってもよい。
【0047】
網体30の土嚢覆い領域部36は、斜面谷側の端部36a(以下、「谷側端部36a」とも称する)が土嚢載置領域部34の斜面谷側の端部34aに連なって土嚢積層体20の外表面を覆って山側領域部32まで広がる領域である。本実施形態の土嚢覆い領域部36は、土嚢積層体20の斜面谷側の壁面、上面及び斜面山側の壁面を覆っている。土嚢覆い領域部36の斜面山側の端部36b(以下、「山側端部36b」とも称する)は、山側領域部32に重ねられた状態で斜面Sに固定されている。
【0048】
また、網体30は、上下方向に重なる土嚢22の上下間に敷設され、土嚢22の下面と上面を覆って網体30の土嚢覆い領域部36に連結された付加網体部60を有している。本実施形態では、土嚢積層体20において、上下に複数段重ねられた土嚢22の各段の間に、付加網体部60-1,60-2を設置しており、各付加網体部60-1,60-2の端部が、土嚢覆い領域部36に連結されている。付加網体部60はオプションであり、これを有していない構成であってもよいが、付加網体部60を設けることにより、多段に設置された土嚢積層体20の各段を別個に支えることができる。また、付加網体部60が網体30の土嚢覆い領域部36に連結されることで、複数段の土嚢22の一体化も図ることができ、各段の土嚢崩れが抑制される。これにより、土嚢積層体20に土砂による荷重が作用した際に、土嚢22の崩れをより効果的に防止することができる。
【0049】
図1に示す網体30は、第1の網部材30Aと、これに連結された第2の網部材30Bとによって形成されている。第1の網部材30Aは、略長方形に形成されており、長方形の長さ方向の一端部側が山側領域部32を形成し、他端部側が土嚢覆い領域部36の一部及び第1の付加網体部60を形成し、これらの間の領域が土嚢載置領域部34を形成している(図3(B)を参照)。第2の網部材30Bは、土嚢覆い領域部36の残りの部位を形成しており、第1の網部材30Aによって覆われていない土嚢積層体20の外表面を覆っている(図3(C)を参照)。本実施の形態では、第1及び第2の網部材30A,30Bを同一材料の網部材(すなわち、硬鋼線材からなる網部材)で形成している。
【0050】
網体30は、アンカー部材42を用いて斜面に固定される。アンカー部材42としては、例えば、アンカーピンやロックボルト等を用いることができる。本実施形態では、アンカー部材42と、プレート材44と、ナット部材46とを備えた固定具40によって、網体30を斜面Sに固定している。図2では、網体30の山側領域部32及び土嚢載置領域部34の周辺部と山側領域部32の中央部とが、固定具40を用いて固定された状態を示している。また、図1では、網体30の土嚢覆い領域部36の山側端部36bが、山側領域部32に重ねられた状態で、固定具40により固定された状態が示されている。
【0051】
網体30は、アンカー部材42の頭部にナット部材46を用いて固定されたプレート材44によって、斜面Sに押付けられて固定されている。本実施形態では、ナット部材46として、アンカー部材40の頭部を覆うキャップを備えたキャップナットを用いている。
【0052】
プレート材44は、中央部にアンカー部材42が挿通される貫通孔が形成された板材であり、例えば、鋼板や、補強材が埋め込まれた樹脂板等によって形成することができる。プレート材44は、平面視で、長径の長さ(長い方向の長さ)が網体30の網目よりも大径に形成されている。プレート材44は、平面視で、円形、楕円形、多角形等、様々な形状を採用することが可能であり、本実施形態では四角形状に形成されている。プレート材44の下面側には、下面から突出する一つ以上の突起部が形成されていることが好ましい。この突起部の長さは、網体30の厚さ以上に設定される。
【0053】
プレート材44は、貫通孔にアンカー部材42を通した状態で網体30の上から載置され、プレート材44の下面に設けられた突起部が網体30の網目を貫通するように配置される。プレート材44は、アンカー部材42の頂部に締結されたナット部材46によりアンカー部材40の頭部に固定される。このように、網体30の網目内にプレート材44の突起部が挿入された状態とすることにより、網体30に外力が加わって、プレート材44と網体30との相対位置がずれようとした際に、プレート材44の突起部と網体30を構成している線状材との係止構造により、網体30の位置ずれを防止することができる。
【0054】
なお、プレート材44と網体30との間には、耐摩耗性のための緩衝体(図示せず)を配置することができる。緩衝体は、例えば、ゴム材料や樹脂材料で形成することができ、プレート材44の表面に一体的に形成された被膜とすることができる。また、プレート材44と別体のシート状の緩衝体を、網体30とプレート材44との間に配置してもよく、かかる場合には、緩衝体が軟性を有することが好ましい。
【0055】
支持ロープ52,54は、地盤斜面Sに固設されたアンカー56から、網体30の土嚢覆い領域部36の斜面谷側の面の上部及び下部に張架されている。支持ロープ52,54は、土嚢覆い領域部36を斜面Sの幅方向及び斜面山側に引張して土嚢積層体20を一体化した網体30を支持している。図示例では、土嚢覆い領域部36の上部側を支持する上部支持ロープ52と、下部側を支持する下部支持ロープ54とを記載している。各支持ロープ52,54は、網体30の土嚢覆い領域部36を斜面山側に引張するように設置される。これらの支持ロープ52,54は、オプションであり、例えば、土嚢積層体20によって少量の土砂が堰き止められた後に、土嚢積層体20を補強するために支持ロープ52,54を網体30に後付けすることも可能である。
【0056】
次に、図3を用いて上述した土砂流出防止構造10の施工方法について説明する。
【0057】
まず、図3(A)に示すように、地盤斜面Sに網体30の山側領域部32及び土嚢載置領域部34が形成されるように網体30を敷設する(網体敷設工程)。敷設された網体30は、固定具40を用いて地盤斜面Sに固定される。本実施形態では、斜面Sの網体敷設領域に、間隔をおいて複数のアンカー部材42を打設し、その後、斜面S上に網体30を広げて、網体30の網目にアンカー部材42の頭部を通す。次に、網体30の上から、アンカー部材42の頭部にプレート材44を取り付け、ナット部材46を締結することにより、プレート材44をアンカー部材40の頭部に固定する。これにより、網体30が、アンカー部材42によって斜面Sに固定される。
【0058】
次に、図3(B)に示すように、敷設された網体30の斜面Sの下方側の領域の上面に複数の土嚢22を積み上げて土嚢積層体20を形成する(土嚢積層体形成工程)。これにより、敷設された網体30は、斜面Sの下方側に位置する土嚢積層体20が載置された領域が土嚢載置領域部34となり、これより斜面Sの上方側の領域が、土嚢22が載置されていない山側領域部32となる。本実施形態において、土嚢積層体20の形成工程は、まず、一段目の土嚢22を形成した後、一段目の土嚢22の上面に網体30の付加網体部60-1を敷設し、その上に二段目の土嚢22を載置する。その後、二段目の土嚢22の上面に付加網体部60-2を敷設し、その上に三段目の土嚢22を載置する。これにより、各段の土嚢22の間に付加網体部60が配置された状態となる。本実施形態では、各段の土嚢22の間に付加網体部60が敷設されるように、各段が形成される毎に網体30を斜面山側と斜面谷側とで折り返している。
【0059】
次に、図3(C)に示すように、網体30が、土嚢載置領域部34の谷側の端部34aから、土嚢積層体20の外表面を覆って山側領域部32に連なるように、網体30を延接して、網体30の土嚢覆い領域部36を形成する(網体30による土嚢被覆工程)。本実施形態では、第1の網体部30Aによって土嚢積層体20の外表面の一部が覆われているため、残りの非被覆部分を第2の網体部30Bによって覆うようにしている。図3(C)に示す例では、土嚢積層体20の斜面谷側の壁面の一部が第1の網体30Aで覆われていないため、この部分を第2の網体部30Bで覆っている。これにより、土嚢積層体20の斜面谷側の壁面、上面及び斜面山側の壁面が、網体30の土嚢覆い領域部36で覆われる。土嚢覆い領域部36の山側端部36bは、山側領域部32に重ねられた状態で固定具40を用いて斜面Sに固定される。
【0060】
なお、図3(B)に示す土嚢積層体20の形成工程において、各段の間の付加網体部60は、一連ではなく、別体の網部材で形成されていてもよい。かかる場合には、その後の土嚢被覆工程で、付加網体部60-1,60-2のそれぞれの周辺部が、ワイヤー等の線状材で、網体30の土嚢覆い領域部36に連結される。
【0061】
なお、土嚢積層体20に付加網体部60を設置しない場合、一連の第1の網体部30Aのみで、山側領域部32、土嚢載置領域部34及び土嚢覆い領域部36を形成することができる。具体的には、土嚢積層体20を形成した後に、第1の網体部30Aの長手方向の一端部側の領域(斜面谷側の領域)を土嚢積層体20の外表面を覆うように斜面山側に折り返すことで、各領域部32,34,36を形成することができる。
【0062】
土嚢覆い領域部36によって、土嚢積層体20を被覆した後、土嚢積層体20の谷側の壁面を覆う網体30の上部に上部支持ロープ52の一端を取付け、土嚢積層体20の谷側の壁面を覆う網体30の下部に下部支持ロープ54の一端を取付けるとともに、各支持ロープ52,54の他端を地盤斜面Sに固定されたアンカー56に取付けて、各支持ロープ52,54を張架する(支持ロープ設置工程)。これにより、図2に示す土砂流出防止構造10が斜面Sに設置される。
【0063】
上述した土砂流出防止構造10では、降雨等により地盤斜面が崩壊して斜面Sに土砂流が生じると、流出した土砂が斜面Sに設置された壁状の土嚢積層体20によって堰き止められる。堰き止められた堆積土砂70は、網体30の山側領域部32と土嚢覆い領域部36との上に堆積し、この堆積した土砂60の重さによって、山側領域部32はさらに地盤斜面Sに強く押し付けられ、斜面Sに対する固定力が高くなる。また、土嚢覆い領域部36の山側部分も土嚢22にしっかりと押しつけられた状態となる。これにより、網体30による土嚢積層体20の斜面Sに対する固定力が土砂流出前よりも高まる。このように、本実施形態の土砂流出防止構造10は、土嚢積層体20を覆う網体30を地盤斜面30にアンカーピン等によって簡易に固定する構造でありながら、流出した土砂60を利用して土嚢積層体20の設置強度を高めることができ、土砂流出時の土嚢積層体20の崩壊を効果的に防止することができる。
【0064】
また、本実施形態の土砂流出防止構造10では、土嚢積層体20を構成している土嚢22が透水性を有しているため、堰き止められた土砂に含まれる水分が土嚢積層体20を通過して土嚢積層体20の斜面谷側へ排出される。これにより、土嚢積層体20によってより多くの土砂を堰き止めることができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、土嚢積層体20に通水管48を設けているので、堰き止められた土砂の中に含まれる水分を、通水管48内を通して、土嚢積層体20の斜面谷側へ逃がすことができる。これにより、土嚢積層体20が堰き止めた土砂から受ける荷重を低減することができ、より多くの土砂を堰き止めることができる。
【0066】
次に、図4を用いて、土砂流出防止構造10の他の実施の形態について説明する。図4に示す土砂流出防止構造10において、上述した第1の実施の形態と対応する部位に同一の符号を付し、第1の実施の形態の同一の構成についての詳細を省略する。
【0067】
本実施形態では、土嚢積層体20によって堰き止められた堆積土砂70を土砂流出防止構造10の一部として利用している。網体30は、堆積土砂70の外表面を覆う土砂覆い領域部37を有している。土砂覆い領域部37は、網体30において、土嚢覆い領域部36から後付けで斜面山側に延設される領域である。土砂覆い領域部37の斜面谷側の端部は、網体30の土嚢覆い領域部36に連結されており、斜面山側の端部は、固定具40を用いて斜面Sに固定される。本実施形態では、土砂覆い領域部37の山側端部が、網体30の山側領域部32に重なった状態で斜面Sに固定されている。なお、網体30の山側領域部32は、堆積土砂70が形成された後に、適宜後付けして設置面積を広げることが可能である。
【0068】
このように、土嚢積層体20によって土砂が堰き止められた後に、堆積土砂70を網体30で覆って既存の土嚢積層体20と一体化することで、堆積土砂70を土砂流出防止構造10の一部として、その後に発生する土砂の流出防止に利用することができる。
【0069】
次に、図5を用いて、土砂流出防止構造10の第2の実施の形態について説明する。図4に示す土砂流出防止構造10において、第1の実施の形態と対応する部位に同一の符号を付し、第1の実施の形態の同一の構成についての詳細を省略する。なお、図5では、通水管48の記載を省略している。
【0070】
本実施形態の土砂流出防止構造10では、網体30の土嚢覆い領域部36によって覆われた土嚢積層体20の上に、さらに、網体30で覆われた別の土嚢積層体(すなわち、後付け土嚢積層体80)を設置している。
【0071】
また、本実施形態において、土嚢積層体20を構成している土嚢22は、袋体24が透水性を有しており、袋体24に充填される中詰材26は、土砂と硬化材であるセメントとを含んでいる。セメントを含有した土嚢22は、流出した土砂に含まれる水分が袋体24内に浸入することで硬化し、土嚢積層体20が崩れ難くなる。このように、土嚢22の中詰材26が硬化材を含む場合には、土嚢硬化後の通水性を確保するために、通水管48を設けることが好ましい。
【0072】
後付け土嚢積層体80は、土嚢積層体20によって流出土砂が堰き止められた後に、追加設置されるものであり、既設の土嚢積層体20の上方に、網体30の土嚢覆い領域部36を介して設置される。後付け土嚢積層体80は、複数の土嚢22を壁状に積上げて形成される。本実施形態の後付け土嚢積層体80は、土嚢積層体20及び該土嚢積層体20により堰き止められた堆積土砂70の上方に、複数の土嚢22を積み上げることにより形成されている。このように、堆積土砂70の上に、土嚢22を載置することで、堆積土砂70の崩れを防止して、土砂流出防止構造10全体の強度を高めることができる。
【0073】
後付け土嚢積層上部土嚢積層体80に用いられる土嚢22は、既存の土嚢積層体20に使用された土嚢22と同一のものであってもよいし、袋体24や中詰材26を異なるものに変えてもよい。
【0074】
なお、図示していないが、後付け土嚢積層体80に、斜面山側から斜面谷側へ貫通する通水管48を設けてもよい。これにより、後付け土嚢積層体80によって堰き止められた土砂に含まれる水分を後付け土嚢積層体80の斜面谷側へ排出することができる。
【0075】
本実施形態において、網体30は、後付け土嚢積層体80の外表面を覆う付加土嚢覆い領域部38を有する。付加土嚢覆い領域部38は、土嚢覆い領域部36から後付け土嚢積層体80の外表面及び堆積土砂70の外表面を覆って斜面Sの上方側へ延設された領域である。本実施形態において、付加土嚢覆い領域部38の山側端部38bは、山側領域部32に重ねられた状態で、固定具40を用いて斜面Sに固定されている。この付加土嚢覆い領域部38は、ワイヤー等の線状材を用いて網体30の土嚢覆い領域部36に後付けすることができる。なお、堆積土砂70が網体30の山側領域部32よりも斜面山側まで堆積している場合には、付加土嚢覆い領域部38を山側領域部32よりも斜面山側まで延設させた状態で、山側端部38bを山側領域部32に重ねずに斜面Sに固定してもよい。
【0076】
また、後付け土嚢積層体80を構成している各段の土嚢22の間には、付加網体部60-3,60-4が設置されており、これにより、各段の土嚢22が一体化されるとともに、各付加網体部60-3,60-4が付加土嚢覆い領域部38に連結されているので、複数段の土嚢22の一体化が図られている。
【0077】
上述した後付け土嚢積層体80、付加網体部60-3,60-4及び付加土嚢覆い領域部38は、先述した土嚢積層体20、付加網体部60-1,60-2及び土嚢覆い領域部36と同様の手順で施工することができる。
【0078】
本実施形態の土砂流出防止構造10では、斜面Sに発生した土砂流が土嚢積層体20で堰き止められた後に、堰き止められた堆積土砂70を利用して、この堆積土砂70と既設の土嚢積層体20との上部に、更に複数の土嚢22を積み上げて後付け土嚢積層体80を設けることで、より多くの土砂を堰き止めることができる。また、後付け土嚢積層体80は、網体30の付加土嚢覆い領域部38によって、外表面が覆われた状態で土嚢積層体20と一体化されているため、斜面Sに対する固定力が高く、壁状構造体の全体(すなわち、土嚢積層体20と、後付け土嚢積層体80と、これらと一体化された堆積土砂70と、これらを一体化している網体30との全体)が崩れ難い構造となっている。これにより、その後に発生する土砂流を適切に堰き止めることができる。
【0079】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0080】
例えば、上述した後付け土嚢積層体80において、下方の土嚢積層体20と同様に、斜面山側から斜面谷側へ貫通する通水管48を設けてもよい。また、流出した土砂が後付け土嚢積層体80で堰き止められた後に、堰き止められた土砂とともに網体30で覆われた更に別の後付け土嚢積層体(すなわち、第2の後付け土嚢積層体)を第1の後付け土嚢積層体80の上に設置してもよい。このように、網体30の土嚢載置領域部32上に載置される土嚢積層体は、土砂の流出量が増える度に土嚢22を付加的に積み上げて、網体30を用いて既存の土嚢積層体と一体化させることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 土砂流出防止構造
20 土嚢積層体
22 土嚢
24 袋体
26 中詰材
30 網体
32 山側領域部
34 土嚢載置領域部
36 土嚢覆い領域部
37 土砂覆い領域部
38 付加土嚢覆い領域部
60 付加網体部
80 後付け土嚢積層体
S 地盤斜面
図1
図2
図3
図4
図5