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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085053
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/14 20060101AFI20230613BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230613BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B60B35/14 V
F16C19/18
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199519
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】古川 達也
(72)【発明者】
【氏名】早田 史明
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊秋
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA55
3J701FA31
3J701FA38
3J701FA41
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】操縦安定性を向上可能なハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内輪部材と、各外輪軌道と各内輪軌道との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、を備える。複列の転動体の接触角同士の交点を通り径方向に延びる仮想平面と、ハブユニット軸受の回転軸と、の交点である軸受中心は、ハブユニット軸受に固定された際の車輪の中心であるホイールセンタよりも、アウトボード側に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内輪部材と、
前記各外輪軌道と前記各内輪軌道との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
複列の前記転動体の接触角同士の交点を通り径方向に延びる仮想平面と、前記ハブユニット軸受の回転軸と、の交点である軸受中心は、前記ハブユニット軸受に固定された際の車輪の中心であるホイールセンタよりも、アウトボード側に位置する、
ことを特徴とするハブユニット軸受。
【請求項2】
前記内輪部材は、
外周面に前記内輪軌道を有するハブ輪と、
外周面に前記内輪軌道を有し、前記ハブ輪とは別体である内輪と、
を含み、
前記ハブ輪のインボード側端部には、前記内輪が外嵌固定される小径段部が形成され、
前記小径段部と前記ホイールセンタとは、径方向に重畳する、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するハブユニット軸受が知られている。図8には、従来のハブユニット軸受100の断面図が示されている。
【0003】
ハブユニット軸受100は、内周面11bに複列の外輪軌道11a,11aが形成された外輪部材11と、外周面12b,13bに複列の内輪軌道12a,13aが形成された内輪部材(ハブ輪12及び内輪13)と、複列の外輪軌道11a,11aと複列の内輪軌道12a,13aとの間に各列毎に複数個ずつ配置される複数の転動体14と、を備える。
【0004】
外輪部材11の内周面11bに形成された複列の外輪軌道11a,11aは、互いに軸方向に離間している。外輪部材11の外周面には、懸架装置を構成する図示しないナックルに結合固定されるフランジ11cが形成される。
【0005】
内輪部材は、ハブ輪12と、ハブ輪12とは別体である内輪13と、を有する。ハブ輪12の外周面12b及び内輪13の外周面13bには、それぞれ内輪軌道12a,13aが形成されている。ハブ輪12及び内輪13の内輪軌道12a,13aはそれぞれ、外輪部材11の外輪軌道11a,11aと径方向に対向している。
【0006】
外輪軌道11a,11a及び内輪軌道12a,13aで構成される複列の軌道には、複数の転動体14が周方向に等間隔で配置されている。複数の転動体14は、保持器15によって転動可能に保持される。
【0007】
複数の転動体14は、互いに所定の接触角をなして外輪軌道11a,11a及び内輪軌道12a,13aに接触して、背面組み合わせ型(DB)軸受が構成される。これにより、ハブ輪12及び内輪13は、外輪部材11に対して回転可能となる。
【0008】
外輪部材11と内輪部材(ハブ輪12、内輪13)との間の軸受内部空間10aのアウトボード側及びインボード側にはそれぞれ、軸受内部空間10aを塞ぐシール16,17が設けられる。
【0009】
ハブ輪12のインボード側端部には、小径段部12cが形成されている。小径段部12cには、内輪13が外嵌固定される。
【0010】
なお、本実施形態のハブユニット軸受10は駆動輪用であるため、ハブ輪12は軸方向に貫通する貫通孔12d(セレーション孔又はスプライン孔)を有する略円筒形状である。
【0011】
ハブ輪12は、当該ハブ輪12のアウトボード側端部に設けられた、筒状のパイロット部20と、パイロット部20のインボード側に隣り合うように配置され、車輪を支持するためのフランジ部18と、を有する。フランジ部18は、ハブ輪12の外周面12bから径方向外側に延出する円盤状である。フランジ部18には、軸方向に貫通する複数の貫通孔18aが周方向に等間隔で設けられる。それぞれの貫通孔18aには、不図示のホイール及びブレーキロータなどを締結するための複数のハブボルト19が固定される。
【0012】
パイロット部20は、当該パイロット部20のアウトボード側端部に設けられ、外周面に車輪を取付可能なホイールパイロット部21と、ホイールパイロット部21のインボード側に隣り合うように設けられ、外周面にブレーキロータを取付可能なブレーキパイロット部23と、を有する。
【0013】
ここで、図8には、車輪がハブユニット軸受100に固定された際の中心であるホイールセンタHが示されている。さらに、図8には、複列の転動体14,14の接触角同士の交点Pを通り径方向に延びる仮想平面Sと、ハブユニット軸受100の回転軸Oと、の交点である軸受中心Bが示されている。そして、一般的に、軸受中心BはホイールセンタHよりもインボード側(図8中、右側)に位置する。このような軸受中心BとホイールセンタHとの位置関係は、特許文献1にも開示されている。
【0014】
このような場合、路面反力のラジアル分力fが、ホイールセンタHを通るように径方向における上方に向かって発生するので、図8に示すように、このラジアル分力fによって、軸受中心Bを中心として時計回りのモーメント荷重Faが発生する。
【0015】
一方、キャンバ角は、車両がジャッキアップされた状態(路面反力が掛からない状態)ではポジティブ(V字形)に調整されるが、使用時(乗車時、積載時)には、サスペンションの撓みによって、若干ネガティブ(ハの字形)となるため、復元しようとしてインボード向きのキャンバスラストが発生する。したがって、ハブユニット軸受100にはモーメント荷重Faとは逆向き、すなわち反時計回りの旋回加速度によるモーメント荷重Fbが発生する。
【0016】
そして、モーメント荷重Faとモーメント荷重Fbとの大きさが近い場合、直進走行に近い(路面反力の横方向荷重が少ない)運転条件の時に、ハブユニット軸受100に掛かるモーメント荷重の方向が変化することになる。
【0017】
ところで、玉軸受における点接触では、Hertzの式の通り、転動体の最大弾性変位量δmaxは、最大転動体荷重Qmaxの2/3乗に比例する。なお、Hertzの式は、以下の式で示される。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、δmaxは転動体の最大弾性変位量であり、Qmaxは最大転動体荷重であり、Dwは玉の直径であり、cはHertzの弾性定数である。
【0020】
したがって、予圧が低い(もともと転動体荷重が少ない)ハブユニット軸受では、走行条件(負荷状態)による負荷率の変化が大きく、負荷率が低下するに従い、ハブユニット軸受の剛性が低下する。よって、車両の旋回加速度(単位:G)と、内部傾き角(単位:deg)との関係を示すグラフが示された図9を参照すると明らかな通り、予圧が低いハブユニット軸受では、旋回加速度が0G付近(ほぼ直進走行であり、負荷率が最も低くなる領域)に変曲点が現れる。
【0021】
従って、予圧が低いハブユニット軸受の場合、旋回加速度0G付近の低剛性と、モーメント荷重の方向の変化が重なると、0G付近での走行が不安定になる可能性がある。この問題は、ハブユニット軸受の予圧を上げ、剛性を向上することでも解決することができる。しかしながら、予圧を上げるとトルクが増大し、燃費が悪化するので、燃費向上が求められる今の時代にはそぐわない対策となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2008-292298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、操縦安定性を向上可能なハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内輪部材と、
前記各外輪軌道と前記各内輪軌道との間に、各列毎に複数個ずつ設けられた転動体と、
を備えるハブユニット軸受であって、
複列の前記転動体の接触角同士の交点を通り径方向に延びる仮想平面と、前記ハブユニット軸受の回転軸と、の交点である軸受中心は、前記ハブユニット軸受に固定された際の車輪の中心であるホイールセンタよりも、アウトボード側に位置する、
ことを特徴とするハブユニット軸受。
(2) 前記内輪部材は、
外周面に前記内輪軌道を有するハブ輪と、
外周面に前記内輪軌道を有し、前記ハブ輪とは別体である内輪と、
を含み、
前記ハブ輪のインボード側端部には、前記内輪が外嵌固定される小径段部が形成され、
前記小径段部と前記ホイールセンタとは、径方向に重畳する、
(1)に記載のハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、操縦安定性を向上可能なハブユニット軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
図2図2は、図1の要部拡大図である
図3図3は、七箇所のホイールセンタそれぞれにおける、車両の旋回加速度と、内部傾き角との関係を示すグラフである。
図4図4は、図1のハブユニット軸受において、両列の転動体をアウトボード側に移動させた例を示す図である。
図5図5は、図1のハブユニット軸受において、インボード側列の転動体をアウトボード側に移動させた例を示す図である。
図6図6は、図1のハブユニット軸受において、アウトボード側列の転動体のピッチ円直径をインボード側列の転動体のピッチ円直径よりも大きくした例を示す図である。
図7図7は、本発明の第二実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。本実施形態のハブユニット軸受のうち、第一実施形態と同様の構成に関しては同様の符号を付すことでその説明を省略又は簡略化する。
図8図8は、従来のハブユニット軸受の断面図である。
図9図9は、車両の旋回加速度と、内部傾き角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るハブユニット軸受10の断面図である。
【0028】
なお、本明細書において、「インボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受10の車体側を表し、図1中の右側である。「アウトボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受10の車輪側を表し、図1中の左側である。「軸方向」とは、ハブユニット軸受10の回転軸Oが延びる方向を表し、図1中の左右方向である。「径方向外側」とは、回転軸Oから遠ざかる方向を表す。「径方向内側」とは、回転軸Oに近づく方向を表す。「周方向」とは、回転軸Oを中心に旋回する方向を表す。
【0029】
図1に示すように、ハブユニット軸受10は、内周面11bに複列の外輪軌道11a,11aが形成された外輪部材11と、外周面12b,13bに複列の内輪軌道12a,13aが形成された内輪部材(ハブ輪12及び内輪13)と、複列の外輪軌道11a,11aと複列の内輪軌道12a,13aとの間に各列毎に複数個ずつ配置される複数の転動体14と、を備える。
【0030】
外輪部材11の内周面11bに形成された複列の外輪軌道11a,11aは、互いに軸方向に離間している。外輪部材11の外周面には、懸架装置を構成する図示しないナックルに結合固定されるフランジ11cが形成される。
【0031】
内輪部材は、ハブ輪12と、ハブ輪12とは別体である内輪13と、を有する。ハブ輪12の外周面12b及び内輪13の外周面13bには、それぞれ内輪軌道12a,13aが形成されている。ハブ輪12及び内輪13の内輪軌道12a,13aはそれぞれ、外輪部材11の外輪軌道11a,11aと径方向に対向している。
【0032】
外輪軌道11a,11a及び内輪軌道12a,13aで構成される複列の軌道には、複数の転動体14が周方向に等間隔で配置されている。複数の転動体14は、保持器15によって転動可能に保持される。
【0033】
複数の転動体14は、互いに所定の接触角をなして外輪軌道11a,11a及び内輪軌道12a,13aに接触して、背面組み合わせ型(DB)軸受が構成される。これにより、ハブ輪12及び内輪13は、外輪部材11に対して回転可能となる。
【0034】
外輪部材11と内輪部材(ハブ輪12、内輪13)との間の軸受内部空間10aのアウトボード側及びインボード側にはそれぞれ、軸受内部空間10aを塞ぐシール16,17が設けられる。
【0035】
ハブ輪12のインボード側端部には、小径段部12cが形成されている。小径段部12cには、内輪13が外嵌固定される。
【0036】
なお、本実施形態のハブユニット軸受10は駆動輪用であるため、ハブ輪12は軸方向に貫通する貫通孔12d(セレーション孔又はスプライン孔)を有する略円筒形状である。
【0037】
ハブ輪12は、当該ハブ輪12のアウトボード側端部に設けられた、筒状のパイロット部20と、パイロット部20のインボード側に隣り合うように配置され、車輪を支持するためのフランジ部18が形成される。フランジ部18は、ハブ輪12の外周面12bから径方向外側に延出する円盤状である。フランジ部18には、軸方向に貫通する複数の貫通孔18aが周方向に等間隔で設けられる。それぞれの貫通孔18aには、不図示のホイール及びブレーキロータなどを締結するための複数のハブボルト19が固定される。
【0038】
パイロット部20は、当該パイロット部20のアウトボード側端部に設けられ、外周面に車輪を取付可能なホイールパイロット部21と、ホイールパイロット部21のインボード側に隣り合うように設けられ、外周面にブレーキロータを取付可能なブレーキパイロット部23と、を有する。
【0039】
ここで、図1には、車輪がハブユニット軸受10に固定された際の中心であるホイールセンタHが示されている。さらに、図1には、複列の転動体14,14の接触角同士の交点Pを通り径方向に延びる仮想平面Sと、ハブユニット軸受10の回転軸Oと、の交点である軸受中心Bが示されている。そして、本実施形態においては、軸受中心Bは、ホイールセンタHよりもアウトボード側に位置する。
【0040】
このように、軸受中心BをホイールセンタHよりもアウトボード側とすることで、図2を参照して後述するように、路面反力によるモーメント荷重Faと、旋回加速度によるモーメント荷重Fbとが、同様に反時計周りとなる。
【0041】
図2は、図1の要部拡大図である。図2には、軸受中心Bに対し、ホイールセンタHの位置を軸方向七箇所に変位させた場合の、モーメント荷重Faの向きが示されている。ここで、七箇所のホイールセンタHのうち、最もアウトボード側のものから順にHa,Hb,Hc,Hd,He,Hf,Hgと称する。アウトボード側から四箇所目までのホイールセンタHa,Hb,Hc,Hdは、軸受中心Bよりもアウトボード側に位置し、アウトボード側から五~七箇所目までのホイールセンタHe,Hf,Hgは、軸受中心Bよりもインボード側に位置する。すなわち、軸受中心Bがホイールセンタよりもアウトボード側となるホイールセンタHe,Hf,Hgが本実施形態の例であり、軸受中心Bがホイールセンタよりもインボード側となるホイールセンタHa,Hb,Hc,Hdが比較例である。
【0042】
本実施形態のように、軸受中心BがホイールセンタHe,Hf,Hgよりもアウトボード側に位置する場合、路面反力のラジアル分力fによるモーメント荷重Faは図2中右側に示したように反時計周りとなり、モーメント荷重Fbの向きと一致する。これに対し、軸受中心BがホイールセンタHa,Hb,Hc,Hdよりもインボード側に位置する場合、モーメント荷重Faは図2中左側に示したように時計周りとなり、モーメント荷重Fbの向きと反対方向となってしまう。
【0043】
図3は、七箇所のホイールセンタHa,Hb,Hc,Hd,He,Hf,Hgそれぞれにおける、車両の旋回加速度(単位:G)と、軸受の内部傾き角(単位:deg)との関係を示すグラフである。図3に示すように、ホイールセンタHがインボード側になるにしたがって、グラフが左側に相対的に変位する。特に、本実施形態のホイールセンタHe,Hf,Hgに関するグラフにおいては、変曲点が出現する旋回荷重が旋回内側加速度側(図3中、左側)に移動し、車両の挙動に影響が大きい旋回外側車輪に変曲点が現れなくなり、車両の操縦安定性が向上する。
【0044】
なお、軸受中心BをホイールセンタHのアウトボード側に位置させるために、軸受中心Bをアウトボード側に変位させる方法は、例えば以下のようなものが考えられる。
【0045】
(方法1)
図4は、図1のハブユニット軸受10において、両列の転動体14をアウトボード側に移動させた例を示す図である。図4に左向き矢印で示すように、両列の転動体14をアウトボード側に移動させることで、仮想平面Sはアウトボード側に移動し仮想平面S’となる。したがって、軸受中心Bは、アウトボード側、すなわち仮想平面S’と回転軸Oとの交点位置である軸受中心B’に移動する。
【0046】
(方法2)
図5は、図1のハブユニット軸受10において、インボード側列の転動体14をアウトボード側に移動させた例を示す図である。図5に左向き矢印で示すように、インボード列の転動体14をアウトボード側に移動させることで、仮想平面Sはアウトボード側に移動し仮想平面S’となる。したがって、軸受中心Bはアウトボード側、すなわち仮想平面S’と回転軸Oとの交点位置である軸受中心B’に移動する。
【0047】
(方法3)
図6は、図1のハブユニット軸受10において、アウトボード側列の転動体14のピッチ円直径(PCD)をインボード側列の転動体14のピッチ円直径よりも大きくした例を示す図である。図6に上向き矢印で示すように、アウトボード側列の転動体14のピッチ円直径(PCD)を拡大することで、仮想平面Sはアウトボード側に移動し仮想平面S’となる。したがって、軸受中心Bはアウトボード側、すなわち仮想平面S’と回転軸Oとの交点位置である軸受中心B’に移動する。
【0048】
(方法4)
その他の方法としては、アウトボード側列の転動体14の接触角をインボード側列の転動体の接触角よりも大きくすることで、軸受中心Bをアウトボード側に移動してもよい。
【0049】
なお、上記の方法1~4を任意に組み合わせることによって、軸受中心Bをアウトボード側に移動してもよい。例えば、方法3と方法4とを組み合わせ、アウトボード側列の転動体14のピッチ円直径(PCD)をインボード側列の転動体14のピッチ円直径よりも大きくし、且つ、アウトボード側列の転動体14の接触角をインボード側列の転動体の接触角よりも大きくすることで、軸受中心Bをアウトボード側に移動してもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態のハブユニット軸受10によれば、複列の転動体14の接触角同士の交点Pを通り径方向に延びる仮想平面Sと、ハブユニット軸受10の回転軸Oと、の交点である軸受中心Bは、ハブユニット軸受10に固定された際の車輪の中心であるホイールセンタHよりも、アウトボード側に位置する。したがって、路面反力によるモーメント荷重Faと、旋回加速度によるモーメント荷重Fbとが、同様に反時計周りとなるので、図3に示した通り、変曲点が出願する旋回荷重が旋回内側加速度側に移動し、車両の挙動に影響が大きい旋回外側車輪に変曲点が現れなくなり、車両の操縦安定性が向上する。
【0051】
なお、ホイールセンタHと、ハブ輪12及び内輪13の嵌合面(すなわちハブ輪12の小径段部12c)とは、径方向に重畳することが好ましい。仮に、ホイールセンタHとハブ輪12の小径段部12cとが径方向に重畳しない場合、小径段部12cの根元が弾性変形しやすく(曲がりやすく)なり、その分ハブユニット軸受10の剛性が低下し、操縦安定性の悪化につながる可能性がある。本実施形態では、ホイールセンタHの位置がハブ輪12の小径段部12cと径方向に重畳する位置とされているので、上記弾性変形が防止され、操縦安定性が高められている。
【0052】
[第二実施形態]
図7は、本発明の第二実施形態に係るハブユニット軸受10の断面図である。本実施形態のハブユニット軸受10のうち、第一実施形態と同様の構成に関しては同様の符号を付すことでその説明を省略又は簡略化する。
【0053】
本実施形態のハブユニット軸受10は従動輪用であるため、ハブ輪12は中心に貫通孔が無い中実である。また、内輪13がハブ輪12の小径段部12cに外嵌された後、小径段部12cの端部が径方向外側にかしめ加工されることにより、内輪13がハブ輪12に固定される。かしめ加工によって内輪13が押圧されることで、適正な予圧が付与される。
【0054】
外輪部材11のインボード側には、軸受内部空間10aを塞ぐセンサ付キャップ25が設けられる。センサ付キャップ25は、合成樹脂製で有底円筒状に構成され、センサエレメントがモールド固定されたキャップ本体25aと、キャップ本体25aにモールド固定された金属環25bと、を含む。キャップ本体25aには、センサケーブルのプラグを挿入するための穴25cが設けられている。金属環25bのアウトボード側が外輪部材11の内周面11bのインボード側端部に内嵌されることで、キャップ25は外輪部材11に固定される。
【0055】
内輪13の外周面13bのインボード側端部には、エンコーダ26が固定されている。エンコーダ26は、芯金27と、エンコーダ本体28と、を備える。
【0056】
芯金27は、冷間圧延鋼板などの磁性金属板にプレス加工を施してなるもので、全体が円環状に構成されている。芯金27は、嵌合筒部27aと、外向鍔部27bと、支持板部27cと、を有する。
【0057】
嵌合筒部27aは、円筒状に構成されており、アウトボード側部が、内輪13の外周面13bのインボード側端部に締り嵌めで外嵌されている。外向鍔部27bは、嵌合筒部27aのアウトボード側端部から径方向外側に向けて直角に折れ曲がる。支持板部27cは、嵌合筒部27aのインボード側端部から径方向内側に向けて直角に折れ曲がる。
【0058】
エンコーダ本体28は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム中に、フェライトなどの磁性粉末を分散させてなる磁性ゴム(ゴム磁石)により、円環状に構成されており、支持板部27cのインボード側に全周にわたり支持固定されている。エンコーダ本体28は、インボード側面に、N極とS極とを円周方向に関して交互に、かつ、等ピッチに配置してなる被検出部を有する。
【0059】
車輪とともにエンコーダ26が回転すると、センサ付キャップ25の検出部の近傍を、エンコーダ本体28の被検出部に配置されたS極とN極とが交互に通過する。この結果、被検出部から出入りして検出部を通過する磁束の密度変化が検出され、ひいては車輪の回転速度が検出される。
【0060】
本実施形態のハブユニット軸受10においても、複列の転動体14の接触角同士の交点Pを通り径方向に延びる仮想平面Sと、ハブユニット軸受10の回転軸Oと、の交点である軸受中心Bは、ハブユニット軸受10に固定された際の車輪の中心であるホイールセンタHよりも、アウトボード側に位置する。したがって、路面反力によるモーメント荷重Faと、旋回加速度によるモーメント荷重Fbとが、同様に反時計周りとなるので、図3に示した通り、変曲点が出願する旋回荷重が旋回内側加速度側に移動し、車両の挙動に影響が大きい旋回外側車輪に変曲点が現れなくなり、車両の操縦安定性が向上する。
【0061】
また、ホイールセンタHと、ハブ輪12及び内輪13の嵌合面(すなわちハブ輪12の小径段部12c)とは、径方向に重畳することが好ましい。仮に、ホイールセンタHとハブ輪12の小径段部12cとが径方向に重畳しない場合、小径段部12cの根元が弾性変形しやすく(曲がりやすく)なり、その分ハブユニット軸受10の剛性が低下し、操縦安定性の悪化につながる可能性がある。本実施形態では、ホイールセンタHの位置がハブ輪12の小径段部12cと径方向に重畳する位置とされているので、上記弾性変形が防止され、操縦安定性が高められている。
【符号の説明】
【0062】
10 ハブユニット軸受
11 外輪部材
11a 外輪軌道
11b 内周面
11c フランジ
12 ハブ輪(内輪部材)
12a 内輪軌道
12b 外周面
12c 小径段部
12d 貫通孔
13 内輪(内輪部材)
13a 内輪軌道
13b 外周面
14 転動体
15 保持器
16、17 シール
18 フランジ部
18a 貫通孔
19 ハブボルト
20 パイロット部
21 ホイールパイロット部
23 ブレーキパイロット部
25 センサ付キャップ
25a キャップ本体
25b 金属環
25c 穴
26 エンコーダ
27 芯金
27a 嵌合筒部
27b 外向鍔部
27c 支持板部
28 エンコーダ本体
B 軸受中心
H ホイールセンタ
O 回転軸
P 交点
S 仮想平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9