(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085056
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】繊維含有成形品、および樹脂含有成形品の製造方法、および成形金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20230613BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C45/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199526
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】呉 允煥
(72)【発明者】
【氏名】西野 彰馬
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA03
4F202AA18
4F202AA21
4F202AB11
4F202AB25
4F202AF01
4F202AF16
4F202AG26
4F202CA11
4F202CA30
4F202CB01
4F202CD23
4F202CK11
4F202CK32
4F202CK35
(57)【要約】
【課題】繊維を除去することなく露出させた繊維含有成形品を提供する。
【解決手段】繊維含有成形品は、樹脂を基材とし、繊維を5~90重量%含有する繊維含有成形品であって、繊維は、繊維含有成形品の表面よりも外側に露出しており、繊維含有成形品は、表面に繊維露出部分と非露出部分とがあり、繊維露出部分の樹脂表面の表面粗さが非露出部分の表面粗さよりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を基材とし、繊維を5~90重量%含有する繊維含有成形品であって、
前記繊維は、前記繊維含有成形品の表面より外側に露出しており、
前記繊維含有成形品は、表面に繊維露出部分と非露出部分とがあり、前記繊維露出部分の樹脂表面の表面粗さが前記非露出部分の表面粗さよりも大きい、繊維含有成形品。
【請求項2】
前記繊維含有成形品の前記繊維露出部分の樹脂面が樹脂破断面である、請求項1に記載の繊維含有成形品。
【請求項3】
前記繊維含有成形品の表面より外側に露出している前記繊維は、下記関係式、
前記樹脂破断面に沿って破断されるであろう繊維の断面積<露出している前記繊維の表面積、を満たしている、請求項2に記載の繊維含有成形品。
【請求項4】
前記繊維含有成形品の前記樹脂破断面以外の表面が、樹脂層の金型転写面を有する、請求項2又は3に記載の繊維含有成形品。
【請求項5】
前記繊維含有成形品の前記金型転写面が表面粗さRa0.20以上である、請求項4に記載の繊維含有成形品。
【請求項6】
固定金型と可動金型とを型締めする工程と、
前記固定金型と前記可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出する工程と、
前記樹脂が硬化した後、前記固定金型と前記可動金型とを型開きして、繊維含有成形品を取り出す工程と、
を含み、
前記固定金型と前記可動金型との少なくとも一方に、型開きの際に前記可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する、
繊維含有成形品の製造方法。
【請求項7】
固定金型と可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出して、繊維含有成形品を製造するための前記固定金型及び前記可動金型であって、
前記固定金型又は前記可動金型の少なくとも一方は、型開きの際に前記可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する、繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維が成形品の表面より外側に露出し、繊維が保有する香りが強調される樹脂含有成形品、及び、その製造方法、並びに、該製造方法に用いる成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のいわゆる「汎用プラスチック」は、比較的安価であり、金属、またはセラミックスに比べて重さが数分の一と軽量であり、成形などの加工が容易であるという特徴を有する。そのため、汎用プラスチックは、袋、各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品の材料として、また、自動車部品、電気部品等の工業部品、及び日用品、雑貨用品等に利用されている。
【0003】
しかしながら、汎用プラスチックは、機械的強度が不十分であること等の欠点を有している。そのため、汎用プラスチックは、自動車等の機械製品、及び電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられる材料に対して要求される十分な特性を有しておらず、その適用範囲が制限されてきた。
【0004】
一方、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、フッ素樹脂等のいわゆる「エンジニアリングプラスチック」は、機械的特性に優れており、自動車等の機械製品、及び電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられている。しかしながら、エンジニアプラスチックは、高価であり、モノマーリサイクルが難しく、環境負荷が大きいといった課題を有している。
【0005】
そこで、汎用プラスチックの材料特性(機械的強度等)を大幅に改善することが要望されている。汎用プラスチックの材料特性を改善する方法として、2種類以上の樹脂またはフィラーなどの添加剤を配合して複合樹脂を製造する技術が知られている。特に、機械的強度を向上させることを目的に、繊維状フィラーである天然繊維やガラス繊維、炭素繊維などが使用されている。中でもセルロースなどの有機繊維状フィラーは、安価であり、かつ廃棄時の環境性にも優れていることから、強化用繊維として近年注目されている。
【0006】
一方で、木を使用している製品群では、木の香りを追求しているものもある。例えば、酒桝はお酒の香りと木の香りとがマッチしていると好まれ、特に建材は木の香り成分に人を安定させる作用があることから、表面積を増やす加工方法が開発され、形状も工夫されている。このように木の製品においては、その香りが求められている例が多い。また、セルロースなどの有機繊維状フィラーは、植物から得たものであることから、本来植物が保有している香りを保持しているものが多く、樹脂成形品で植物の香りを強調することは、製品の価値を向上させることが期待されている。
【0007】
特許文献1には、
図5に示すように、セルロース系の微細骨材101を有する熱可塑性樹脂成型品において、樹脂成形品表面の樹脂素材102をショット、サンド、グリッド等の投射加工によって取り除き、セルロース系の微細骨材101を樹脂成形品表面に露出させ、接着特性や塗装特性の改良を目的に発明されたものが記載されている。
【0008】
特許文献2には、
図6に示すように、成形品に水溶性物質を含有させ、成形後に水溶性物質を溶出除去することで、成形品表面に、セルロース系材料103を露出又は毛羽立たせたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61-137728号公報
【特許文献2】特許第4296528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セルロース系繊維または香りを付与した繊維が保有する香り成分は、空気中に揮発することで香りとして感じられるため、空気に晒されている繊維の表面積が大きいほど香りが強調される。また、繊維がより多く香り成分を保有するほど、揮発される香り成分が多いため、香りが強調され、持続時間も長くなる。
【0011】
しかし、特許文献1に記載のように、ショット加工等の投射加工や切削加工等の2次加工で、成形品の表面の樹脂層の一部を除去し、セルロース系繊維を露出させた場合、2次加工時に一度露出されるセルロース系繊維も同時に除去される。このため、セルロース系繊維が保有する香り成分の露出が増加しない。
【0012】
また、特許文献2では、水性溶媒に漬け込むことで水溶性物質を溶出除去、その後乾燥している。この時に、溶出除去工程で、セルロース系材料が保有している香り成分も水性溶媒に溶け出し、次の乾燥工程においても、香り成分が飛んでいく。このため、セルロース系材料を成形品表面に露出させる各工程の中で、セルロース系材料が保有する香り成分をも除去してしまう。
【0013】
そこで、上記課題を解決するために、本開示の目的は、繊維を除去することなく露出させた繊維含有成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示に係る繊維含有成形品は、樹脂を基材とし、繊維を5~90重量%含有する繊維含有成形品であって、繊維は、繊維含有成形品の表面よりも外側に露出しており、繊維含有成形品は、表面に繊維露出部分と非露出部分とがあり、繊維露出部分の樹脂表面の表面粗さが非露出部分の表面粗さよりも大きい。
【0015】
また、本開示に係る繊維含有成形品の製造方法は、固定型金型と可動型金型とを型締めする工程と、固定金型と可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出する工程と、樹脂が硬化した後、固定金型と可動金型とを型開きして、繊維含有成形品を取り出す工程と、を含み、固定金型と可動金型との少なくとも一方に、型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する。
【0016】
さらに、本開示に係る繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型は、固定金型と可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出して、繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型であって、固定金型又は可動金型の少なくとも一方は、型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る繊維含有成形品によれば、樹脂に含有された繊維が除去されることなく、繊維含有成形品の表面より外側に露出させている。これにより、露出した繊維の面積が増加するため、例えば、繊維が保有する香り成分が際立ち、樹脂を含む繊維含有成形品であっても、セルロース系繊維の元となる植物系材料の香りを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は、実施の形態1に係る繊維含有成形品の断面構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の繊維含有成形品の表面の構造を示す部分拡大断面図である。
【
図2】(a)は、実施の形態2に係る繊維含有成形品の製造方法における、射出成形時の固定金型及び可動金型とその間のキャビティに射出された樹脂と繊維とを含む繊維含有成形品の前駆体の断面構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の繊維含有成形品の前駆体の表面のアンダーカット形状の断面構造を示す部分拡大断面図である。
【
図3】(a)は、
図2(a)の固定金型及び可動金型を型開きした後、繊維含有成形品の取り出し時の断面構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の繊維含有成形品の表面の構造を示す部分拡大断面図である。
【
図4】変形例に係る繊維含有成形品の製造方法における、射出成形時の固定金型及び可動金型とその間のキャビティに射出された樹脂と繊維とを含む繊維含有成形品の前駆体の断面構造を示す断面図である。
【
図5】特許文献1に記載された成形品の断面図である。
【
図6】特許文献2に記載された成形品表面の電子顕微鏡による写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様に係る繊維含有成形品は、樹脂を基材とし、繊維を5~90重量%含有する繊維含有成形品であって、繊維は、繊維含有成形品の表面より外側に露出しており、繊維含有成形品は、表面に繊維露出部分と非露出部分とがあり、繊維露出部分の樹脂表面の表面粗さが非露出部分の表面粗さよりも大きい。
【0020】
第2の態様に係る繊維含有成形品は、上記第1の態様において、繊維含有成形品の繊維露出部分の樹脂面が樹脂破断面であってもよい。
【0021】
第3の態様に係る繊維含有成形品は、上記第2の態様において、繊維含有成形品の表面より外側に露出している繊維は、下記関係式、樹脂破断面に沿って破断されるであろう繊維の断面積<露出している前記繊維の表面積、を満たしていてもよい。
【0022】
第4の態様に係る繊維含有成形品は、上記第1から第3のいずれかの態様において、繊維含有成形品の樹脂破断面以外の表面が、樹脂層の金型転写面を有してもよい。
【0023】
第5の態様に係る繊維含有成形品は、上記第4の態様において、繊維含有成形品の金型転写面が表面粗さRa0.20以上であってもよい。
【0024】
第6の態様に係る繊維含有成形品の製造方法は、固定金型と可動金型とを型締めする工程と、固定金型と可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出する工程と、樹脂が硬化した後、固定金型と可動金型とを型開きして、繊維含有成形品を取り出す工程と、を含み、固定金型と可動金型との少なくとも一方に、型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する。
【0025】
第7の態様に係る繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型は、固定金型と可動金型との間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出して、繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型であって、固定金型又は可動金型の少なくとも一方は、型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状を有する。
【0026】
以下、本開示の実施の形態に係る繊維含有成形品、及び、その製造方法、並びに、繊維含有成形品を製造するための固定金型及び可動金型について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。図面は理解し易くするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示す。また、図示された各構成要素の厚み、長さ等は図面作成の都合により実際とは異なる。なお、以下の実施の形態によって本開示が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
<繊維含有成形品>
図1(a)は、本開示の実施の形態1に係る繊維含有成形品10の一例の断面図である。
図1(b)は、
図1(a)の繊維含有成形品の表面の構造を示す部分拡大断面図である。
この繊維含有成形品10では、樹脂1の中に繊維2を含有している。また、繊維含有成形品10は、その表面から外側に繊維2が露出している。繊維含有成形品10は、表面に繊維露出部分と非露出部分とがあり、繊維露出部分の樹脂表面の表面粗さが非露出部分の表面粗さよりも大きい。そして、露出している繊維2の近傍の樹脂1は、その表面が金型転写面とは異なる樹脂破断面3を有していてもよい。または、繊維含有成形品10の表面が樹脂破断面3であってもよい。
【0028】
露出している繊維2の露出形態に特に制約はなく、露出している繊維2の表面積が大きくなるように、成形品表面の境界線より外側に露出していればよい。
また、繊維2の露出量としては、露出している繊維2の1本以上が、
樹脂破断面3に沿って破断されるであろう繊維2の断面積<露出している繊維2の表面積
であればよい。
露出している繊維2は毛羽立っていてもよい。また、繊維2は、成形品の外観面だけではなく、
図1に表すような凹部を有する繊維含有成形品の形状である場合、繊維含有成形品の凹部の内面側に露出していてもよい。
【0029】
実施の形態1に係る繊維含有成形品によれば、樹脂に含有された繊維が除去されることなく、成形品の表面より外側に露出する。これによって、露出した繊維の面積が増加するため、例えば、繊維が保有する香り成分が際立ち、樹脂を含む繊維含有成形品であっても、セルロース系繊維の元となる植物系材料の香りを提供できる。
【0030】
さらに、狙った箇所に繊維露出部分と非露出部分を設けることが可能なため、繊維露出部分と、非露出部分との面積を適宜調整することで香り放出度合や、露出位置を制御でき、繊維露出部分は樹脂面が破断面、非露出部分は金型転写面(樹脂層)となり、非露出部分はマット面調、光沢面調の設定ができ、樹脂破断面はマット面調にでき、樹脂断面形状を任意に設定できるため、意匠性も向上させることができる。
【0031】
以下に、この繊維含有成形品10を構成する部材について、説明する。
【0032】
<樹脂>
樹脂1の種類は、特に限定されるものではない。なお、良好な成形性を確保するために、樹脂1は、例えば、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂を含む)、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。上記の樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0033】
<繊維>
繊維2の種類においても、特に限定されるものではなく、例えば、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、綿、絹、羊毛あるいは麻等の繊維状フィラー、ジュート繊維、などが挙げられる。またさらにこれらの中で、入手性、熱伝導率の高さ、線膨張係数の低さの観点から、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、綿、麻、ジュート繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどのように、組成としてセルロースが含まれているセルロース類が特に好ましいが、セルロース類以外の繊維に、例えば、香りカプセルや含侵などで香付けした繊維でもよく、これらからなる繊維状フィラーが混在していてもよく、これら繊維2の含有率は、繊維含有成形品の全体を100重量%とした場合に、5重量%~90重量%が望ましい。
【0034】
(実施の形態2)
<繊維含有成形品の製造方法、>
図2(a)は、実施の形態2に係る繊維含有成形品の製造方法における、射出成形時の固定金型4a及び可動金型4bとその間のキャビティに射出された樹脂と繊維とを含む繊維含有成形品の前駆体9の断面構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の繊維含有成形品の前駆体9の表面のアンダーカット形状5の断面構造を示す部分拡大断面図である。
図3(a)は、
図2(a)の固定金型4a及び可動金型4bを型開きした後、繊維含有成形品10の取り出し時の断面構造を示す断面図であり、(b)は、(a)の繊維含有成形品10の表面の構造を示す部分拡大断面図である。
【0035】
実施の形態2に係る繊維含有成形品の製造方法は、以下の各工程を含む。
(1)まず、固定金型4aと可動金型4bとを型締めする。この固定金型4aと可動金型4bとの少なくとも一方には、型開きの際に可動金型4bを移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状5を有する。
(2)次に、固定金型4aと可動金型4bとの間のキャビティに、繊維を含有させた樹脂を射出する。
(3)次いで、樹脂が硬化した後、固定金型4aと可動金型4bとを型開きして、繊維含有成形品を取り出す。このときに、固定金型4a又は可動金型4bのアンダーカット形状5に対応してアンダーカット形状に形成された樹脂に負荷がかかり破断してしまう。アンダーカット形状5が破断することによって、樹脂1に含まれる繊維2が表面に露出する。
以上によって、繊維が露出した繊維含有成形品が得られる。
この繊維含有成形品の製造方法によれば、繊維の露出のための2次加工がないため、工数を短縮できる。
【0036】
一般的に、フィラー等を含有した成形品は、その成形品の表面側が樹脂で覆われる。そのため、含有させたフィラー等を露出させるためには、前述した特許文献1の様に、ショット、サンド、グリッド等の投射加工等の2次加工によって成形品の表面側の樹脂を取り除かなければならない。
【0037】
本開示の実施の形態2に係る繊維含有成形品の製造方法では、実施の形態1に係る繊維含有成形品を、固定金型及び可動金型を用いた射出成形で得ている。このために、
図2に表すように、射出成形する際に、繊維含有成形品の前駆体9として、繊維2を露出させる箇所に、予め型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状5のような突起を設けておく。これによって、
図3に表す様に、繊維含有成形品の前駆体9を固定金型4a及び可動金型4bから取り出す時に、アンダーカット形状5に負荷をかけて破断させることで除去し、表面に繊維2が露出している繊維含有成形品10を得ることができる。
【0038】
この際に、アンダーカット形状5は破断するが、樹脂1と繊維2とは結合していないので、アンダーカット形状5の中に流動した繊維2は破断せず、繊維含有成形品10の表面より外側に露出する。
【0039】
アンダーカット形状5のような突起の形状は、円錐形状、円柱形状、半球形状、断面が多角形の形状等の突起それぞれが距離を保ち独立した形状や、直線、螺旋等の連続した形状でもよい。また、突起の大きさは、例えば突起の形状を円錐形状とした場合、下記の関係式、
突起と成形品とが接触している断面の直径<突起の高さ
を満たすようにすることで、突起が破断し易くなる。
【0040】
また、アンダーカット形状5と繊維含有成形品の表面との境界の箇所をラウンド形状ではなく、
図2に示す様にエッジ形状6にすることで、より破断し易くなる。
【0041】
(変形例)
図4は、変形例に係る繊維含有成形品の製造方法における、射出成形時の固定金型4a及び可動金型4bとその間のキャビティに射出された樹脂と繊維とを含む繊維含有成形品の前駆体9aの断面構造を示す断面図である。
アンダーカット形状5は、
図2に図示する様に、凹形状金型(固定金型)4aに設けることができる。また
図4に図示する様に、凸形状金型(可動金型)4bに設けることもできる。つまり、アンダーカット形状5は、凹形状金型(固定金型)4a、及び/又は、凸形状金型(可動金型)4bに設けてもよい。
【0042】
一般的には、成形品にアンダーカット形状を付与する場合は、アンダーカット形状を残すように工夫するか、あるいは、樹脂に負荷がかかっても樹脂が変形して破断を回避できる柔らかい素材や、アンダーカット形状が多少崩れても問題ない製品に付与するものである。つまり、通常、アンダーカット形状に負荷をかけて破断させる目的で、アンダーカット形状を付与することはない。
しかし、本開示の実施の形態2に係る繊維含有成形品の製造方法においては、繊維含有成形品の前駆体に敢えて型開きの際に可動金型を移動させた場合に硬化した樹脂に負荷がかかるアンダーカット形状5を付与している。そして、繊維含有成形品を取り出す過程でアンダーカット形状5に負荷をかけて破断させることで、繊維2を露出させている。これにより、露出している繊維2の表面積を増やすことで、繊維2が保有する香り成分が際立ち、樹脂成形品であっても、繊維2の元となる植物系材料の香りや繊維に付与させた香りを提供できる。
【0043】
なお、破断されたアンダーカット形状5は、繊維含有成形品の取り出し時にある程度、金型内部に残留するが、繊維含有成形品の自動取り出し機にエアー等で金型内部の残留物を除去する工夫を施せばよく、繊維含有成形品の成形サイクルの中で実施できるため、工数を短縮できる。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る繊維含有成形品では、図示はしないが、デザインのために、樹脂破断面3以外の箇所に、凹凸形状をつけてもよい。例えば、繊維含有成形品として木の製品をモチーフに成形する場合、この凹凸形状は、木の表面のようなザラザラした凹凸、あるいは木の年輪を表現する凹凸を表面粗さRa0.20以上で施すことで、繊維含有成形品の見た目を本物の木の外観に近づけることが可能である。
また、上記の凹凸形状により、樹脂破断面3を目立ちにくくし、外観が見た目上違和感のない繊維含有成形品を提供できる。
【0045】
また、実施の形態2に記載のアンダーカット形状5を破断させた樹脂破断面3を木の年輪等のデザインとして用いてもよい。
上記の凹凸形状は、
図3における、凹形状金型(固定金型)4aに設けることができ、及び/又は、凸形状金型(可動金型)4bに設けることもできる。
【0046】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示に係る繊維含有成形品によれば、樹脂に含有された繊維が除去されることなく繊維含有成形品の表面より外側に露出する。これによって、露出した繊維の面積が大きいため、繊維が保有する香り成分が際立ち、樹脂を含む繊維含有成形品であっても、セルロース系繊維の元となる植物系材料の香りや繊維に付与させた香りを提供できる。そのため、木の削出し加工で適用されていた商品の置換えに適用でき、しかも汎用の射出成形機で生産している製品の量産にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 樹脂
2 繊維
3 樹脂破断面
4a 凹形状金型(固定金型)
4b 凸形状金型(可動金型)
5 アンダーカット形状
6 エッジ形状
9、9a 前駆体
10 繊維含有成形品
101 微細骨材
102 樹脂素材
103 セルロース系材料