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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085067
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】クラッチピストン
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
F16D25/0638
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199544
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】姫野 修宏
(72)【発明者】
【氏名】坂口 吉克
(72)【発明者】
【氏名】天野 慎
【テーマコード(参考)】
3J057
【Fターム(参考)】
3J057AA04
3J057BB04
3J057CA03
3J057CA09
3J057DA20
3J057DC05
3J057DC07
3J057HH01
(57)【要約】
【課題】製造コストの上昇を抑えつつクラッチ板の圧接時に生じる応力を分散して応力の集中を回避することができるクラッチピストンを提供する。
【解決手段】クラッチ板5及びリターンスプリング6を有するクラッチに取り付けられ、軸方向に変位することにより車両の駆動力を伝達又は当該駆動力の伝達を遮断可能なクラッチピストン1において、クラッチ板5を圧接して動力を伝達するとともにクラッチ板5の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部2と、リターンスプリング6の一端部6aを保持する保持部3と、保持部3における所定部位に形成されるとともに、縁面4aと底面4bとを結ぶ壁面4cが勾配して成る凹部4とを備えたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ板及びリターンスプリングを有するクラッチに取り付けられ、軸方向に変位することにより車両の駆動力を伝達又は当該駆動力の伝達を遮断可能なクラッチピストンにおいて、
前記クラッチ板を圧接して動力を伝達するとともに前記クラッチ板の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部と、
前記リターンスプリングの一端部を保持する保持部と、
前記保持部における所定部位に形成されるとともに、縁面と底面とを結ぶ壁面が勾配して成る凹部と、
を備えたことを特徴とするクラッチピストン。
【請求項2】
前記凹部は、前記縁面と壁面との境界がR形状、及び/又は、前記底面と壁面との境界がR形状とされたことを特徴とする請求項1記載のクラッチピストン。
【請求項3】
前記保持部は、前記リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、前記凹部は、当該座面の内側位置に形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のクラッチピストン。
【請求項4】
前記保持部は、周方向に亘って等間隔に複数形成され、隣接する前記保持部が連結領域にて連結されるとともに、前記凹部は、前記保持部及び連結領域に亘って円環状に連続して形成されたことを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載のクラッチピストン。
【請求項5】
前記連結領域は、前記保持部より幅寸法が小さく設定され、当該連結領域及び前記保持部が平面視で波形状を成して円環状に連続して形成されるとともに、当該波形状に沿って前記凹部が形成されたことを特徴とする請求項4記載のクラッチピストン。
【請求項6】
前記保持部は、前記リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、前記凹部は、当該座面の裏面側位置に形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のクラッチピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ板及びリターンスプリングを有するクラッチに取り付けられ、軸方向に変位することにより車両の駆動力を伝達又は当該駆動力の伝達を遮断可能なクラッチピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両が具備するクラッチは、通常、積層して配設された複数のクラッチ板(摩擦係合要素)と、油圧により軸方向に変位可能なクラッチピストンと、クラッチスプリングに一端部が当接して配設されたリターンスプリングとを具備しており、クラッチピストンをリターンスプリングの付勢力に抗して変位させてクラッチ板を圧接させることにより、車両の駆動力を車輪側に伝達可能とされていた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-110738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、以下の如き課題があった。
クラッチピストンは、近時において、応答性向上などの観点から高い圧力条件下での使用が求められるとともに、小型化及び軽量化などの観点から部品の薄肉化が求められている。このような要求に応じて、クラッチピストンの材質や形状の大幅変更により対応することが考えられるが、その場合、製造コストが嵩んでしまう虞がある。
【0005】
また、従来のクラッチピストンにおいては、クラッチ板の圧接時に所定部位(特に、リターンスプリングの保持位置近傍の角部)に応力が集中してしまい、破損又は変形の虞があることから、製造コストの抑制に加えて、クラッチ板の圧接時に生じる応力を分散して応力の集中を回避する必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、製造コストの上昇を抑えつつクラッチ板の圧接時に生じる応力を分散して応力の集中を回避することができるクラッチピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、クラッチ板及びリターンスプリングを有するクラッチに取り付けられ、軸方向に変位することにより車両の駆動力を伝達又は当該駆動力の伝達を遮断可能なクラッチピストンにおいて、前記クラッチ板を圧接して動力を伝達するとともに前記クラッチ板の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部と、前記リターンスプリングの一端部を保持する保持部と、前記保持部における所定部位に形成されるとともに、縁面と底面とを結ぶ壁面が勾配して成る凹部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のクラッチピストンにおいて、前記凹部は、前記縁面と壁面との境界がR形状、及び/又は、前記底面と壁面との境界がR形状とされたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のクラッチピストンにおいて、前記保持部は、前記リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、前記凹部は、当該座面の内側位置に形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載のクラッチピストンにおいて、前記保持部は、周方向に亘って等間隔に複数形成され、隣接する前記保持部が連結領域にて連結されるとともに、前記凹部は、前記保持部及び連結領域に亘って円環状に連続して形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のクラッチピストンにおいて、前記連結領域は、前記保持部より幅寸法が小さく設定され、当該連結領域及び前記保持部が平面視で波形状を成して円環状に連続して形成されるとともに、当該波形状に沿って前記凹部が形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のクラッチピストンにおいて、前記保持部は、前記リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、前記凹部は、当該座面の裏面側位置に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、クラッチ板を圧接して動力を伝達するとともにクラッチ板の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部と、リターンスプリングの一端部を保持する保持部と、保持部における所定部位に形成されるとともに、縁面と底面とを結ぶ壁面が勾配して成る凹部とを備えたので、凹部によって保持部の薄肉化を図ることができ、簡易な構成にて保持部における応力集中を回避することができる。したがって、製造コストの上昇を抑えつつクラッチ板の圧接時に生じる応力を分散して応力の集中を回避することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、凹部は、縁面と壁面との境界がR形状、及び/又は、底面と壁面との境界がR形状とされたので、クラッチ板の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、保持部は、リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、凹部は、当該座面の内側位置に形成されたので、座面の内側位置のスペースを有効活用して凹部を形成することができ、クラッチ板の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、保持部は、周方向に亘って等間隔に複数形成され、隣接する保持部が連結領域にて連結されるとともに、凹部は、保持部及び連結領域に亘って円環状に連続して形成されたので、凹部を保持部及び連結領域に亘って周方向に形成することができ、クラッチ板の圧接時に生じる応力をより一層確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、連結領域は、保持部より幅寸法が小さく設定され、当該連結領域及び保持部が平面視で波形状を成して円環状に連続して形成されるとともに、当該波形状に沿って凹部が形成されたので、凹部を必要以上に大きく設定して強度が過度に低下してしまうのを防止することができるとともに、幅寸法が小さい連結領域における応力の集中を回避することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、保持部は、リターンスプリングの一端部が当接する座面を有するとともに、凹部は、当該座面の裏面側位置に形成されたので、クラッチピストンの裏面側のスペースを有効活用して凹部を形成することができ、クラッチ板の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係るクラッチピストンが適用されるクラッチを示す断面模式図
図2】同クラッチピストンの表面側外観を示す斜視図
図3】同クラッチピストンの裏面側外観を示す斜視図
図4】同クラッチピストンを示す平面図
図5図4におけるV-V線断面図
図6】同クラッチピストンの凹部を示す模式図
図7】他の実施形態の凹部を示す模式図
図8】他の実施形態の凹部を示す模式図
図9】本発明の第2の実施形態に係るクラッチピストンの表面側外観を示す斜視図
図10】同クラッチピストンの裏面側外観を示す斜視図
図11】同クラッチピストンを示す平面図及び裏面図
図12図11におけるXII-XII線断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1の本実施形態に係るクラッチピストン1は、例えば自動車の自動変速機に取り付けられたクラッチピストン機構に適用されたもので、図1に示すように、クラッチ板5及びリターンスプリング6を有するクラッチに取り付けられ、軸方向(図1中左右方向)に変位することにより車両の駆動力を伝達又は当該駆動力の伝達を遮断可能なものである。
【0021】
適用されるクラッチは、同図に示すように、クラッチピストン1と、クラッチドラムDに配設された複数のクラッチ板5と、クラッチピストン1を初期位置(同図中右側)に向かって付勢するリターンスプリング6と、オイル流通孔S1が形成されたクラッチシャフトSとを有して構成されており、クラッチピストン1に形成された溝形状1a及びクラッチシャフトSに形成された溝形状Saには、それぞれシール部材r1、r2が嵌入されている。
【0022】
なお、クラッチドラムDは、その内周面に溝形状Daが形成されており、当該溝形状Daにサークリップ8が取り付けられているとともに、クラッチシャフトSは、その外周面に溝形状Sbが形成されており、当該溝形状Sbにサークリップ9が取り付けられている。また、サークリップ9には、リターンスプリング6の他端部6bを受けるためのばね受け7が取り付けられている。
【0023】
クラッチ板5は、複数積層して配設されており、クラッチピストン1の作動部2で押圧されて互いに圧接されることにより車両の駆動力を伝達可能な状態とされるとともに、クラッチピストン1の作動部2が離間して互いの圧接力が開放されることにより車両の駆動力の伝達を遮断可能な状態とされる。そして、複数のクラッチ板5がクラッチピストン1で押圧されると、当該クラッチ板5がサークリップ8まで移動して押圧力を受け得るようになっている。
【0024】
クラッチピストン1は、図2~5に示すように、円筒状金属製部材から成るもので、その側面に形成された溝形状1aにシール部材r1(Oリング等)が嵌入されるとともに、中心位置にはクラッチシャフトSを挿通する中央孔1bが形成されている。これにより、クラッチピストン1は、外周面をシール部材r1でシールしつつ内周面をシール部材r2でシールした状態でクラッチシャフトSに沿って軸方向に変位可能とされている。
【0025】
また、クラッチシャフトSに形成されたオイル流通孔S1は、オイルポンプPから延びるオイル流路Lと接続されており、クラッチドラムD内におけるクラッチピストン1の裏面側にオイルが任意のタイミングで供給されるよう構成されている。さらに、制御部Nは、任意のタイミングで作動し、オイルポンプPから供給されるオイルをオイル流路Lに流動させるよう制御可能とされている。
【0026】
リターンスプリング6は、一端部6a及び他端部6bを有するコイルスプリングから成り、一端部6aがクラッチピストン1の保持部3に保持されるとともに、他端部6bがばね受け7に保持されている。これにより、オイルポンプPを作動してオイル流通孔S1からオイルが導入されると、クラッチピストン1がリターンスプリング6の付勢力に抗して図1中左側に変位し、クラッチ板5を押圧するとともに、オイルポンプPを停止してオイル流通孔S1からのオイルの導入を停止すると、リターンスプリング6の付勢力によってクラッチピストン1が図1中右側に変位し、クラッチ板5から離間するようになっている。
【0027】
ここで、本実施形態に係るクラッチピストン1は、クラッチ板5を圧接して動力を伝達するとともにクラッチ板5の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部2と、リターンスプリング6の一端部6aを保持する保持部3と、保持部3における所定部位に形成されるとともに、縁面4aと底面4bとを結ぶ壁面4c(図6参照)が勾配して成る凹部4とを具備している。なお、壁面4cは、図6~8に示すように、クラッチピストン1の内径側及び外径側のそれぞれに形成されている。
【0028】
作動部2は、クラッチピストン1の周縁部に形成されるとともに、その突端にクラッチ板5と当接可能な押圧面2aを有しており、クラッチピストン1の変位(図1中左側への変位)に伴って押圧面2aがクラッチ板5を押圧可能とされている。なお、本実施形態においては、作動部2がクラッチピストン1の全周に亘って形成されているが、等間隔に複数形成されていてもよい。
【0029】
保持部3は、クラッチピストン1の中央部に形成されるとともに、リターンスプリング6の一端部6aが当接する座面M(図5参照)を有している。かかる保持部3は、図4に示すように、クラッチピストン1の周方向に亘って等間隔に複数形成されており、それぞれの保持部3にリターンスプリング6が保持されるようになっている。保持部3の底面縁部には、リターンスプリング6の一端部6aが当接可能な座面Mが形成されている。
【0030】
また、隣接する保持部3は、連結領域Rにより連結されており、保持部3及び連結領域Rが周方向に亘って交互に形成されている。さらに、各連結領域Rは、図4に示すように、平面視で各保持部3より幅寸法が小さく設定されており、当該連結領域R及び保持部3が平面視で波形状(幅広部と幅狭部とが交互に連続した形状)を成して円環状に連続して形成されている。なお、連結領域Rには、リターンスプリング6が保持されないことから、その底面縁部に一端部6aと当接する座面Mは形成されない。
【0031】
このように、連結領域Rが保持部3より幅寸法が小さく設定され、当該連結領域Rと保持部3とが波形状を成して円環状に形成されることにより、リターンスプリング6の一端部6aの側面に倣って保持部3の側壁を形成することができ、リターンスプリング6を安定して保持することができる。
【0032】
凹部4は、保持部3における座面Mの内側位置に形成された部位から成り、本実施形態においては、図4に示すように、保持部3及び連結領域Rに亘って円環状に連続して形成されている。また、本実施形態に係る凹部4は、連結領域R及び保持部3が成す波形状に沿って形成されており、保持部3では幅広、且つ、連結領域Rでは幅狭とされて平面視で波形状を成し、円環状に連続して形成されている。
【0033】
かかる凹部4により、保持部3の薄肉化を図ることができ、クラッチピストン1が変位してクラッチ板5を押圧する際、図1中の符号Hで示す荷重領域(内側角部)に応力が集中してしまうのを抑制することができる。すなわち、保持部3の厚さ寸法が均一である場合、クラッチピストン1が変位してクラッチ板5を押圧する際に荷重領域Hに応力が集中して変形や破損の虞があるのに対し、凹部4を形成して保持部3の薄肉化を図ることにより、荷重領域Hに生じる応力を分散させることができるのである。
【0034】
さらに、本実施形態に係る凹部4は、図6に示すように、縁面4a(すなわち、座面M)と底面4bとを結ぶ壁面4cが勾配して成るものとされている。具体的には、凹部4の壁面4cは、底面4bの垂直方向(図6中上下方向)に対して所定角度傾斜して勾配面を成しており、応力を分散させ易い形状とされている。また、本実施形態に係る凹部4は、縁面4aと壁面4cとの境界A1、及び底面4bと壁面4cとの境界A2が所定の曲率を有してR形状とされている。
【0035】
しかるに、本実施形態においては、境界A1及び境界A2がR形状とされているが、図7に示すように、境界A1がR形状とされつつ境界A2がR形状とされない凹部4、或いは図8に示すように、境界A2がR形状とされつつ境界A1がR形状とされない凹部4であってもよい。また、R形状の境界A1とR形状の境界A2とが連続して壁面4cを成すようにしてもよい。
【0036】
本実施形態によれば、クラッチ板5を圧接して動力を伝達するとともにクラッチ板5の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部2と、リターンスプリング6の一端部6aを保持する保持部3と、保持部3における所定部位に形成されるとともに、縁面4aと底面4bとを結ぶ壁面4cが勾配して成る凹部4とを備えたので、凹部4によって保持部3の薄肉化を図ることができ、簡易な構成にて保持部3における応力集中を回避することができる。したがって、製造コストの上昇を抑えつつクラッチ板5の圧接時に生じる応力を分散して応力の集中を回避することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る凹部4は、縁面4aと壁面4cとの境界A1がR形状、及び/又は、底面4bと壁面4cとの境界A2がR形状とされたので、クラッチ板5の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。さらに、本実施形態に係る保持部3は、リターンスプリング6の一端部6aが当接する座面Mを有するとともに、凹部4は、当該座面Mの内側位置に形成されたので、座面Mの内側位置のスペースを有効活用して凹部4を形成することができ、クラッチ板5の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0038】
またさらに、本実施形態に係る保持部3は、周方向に亘って等間隔に複数形成され、隣接する保持部3が連結領域Rにて連結されるとともに、凹部4は、保持部3及び連結領域Rに亘って円環状に連続して形成されたので、凹部4を保持部3及び連結領域Rに亘って周方向に形成することができ、クラッチ板5の圧接時に生じる応力をより一層確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0039】
加えて、本実施形態に係る連結領域Rは、保持部3より幅寸法が小さく設定され、当該連結領域R及び保持部3が平面視で波形状を成して円環状に連続して形成されるとともに、当該波形状に沿って凹部4が形成されたので、凹部4を必要以上に大きく設定して強度が過度に低下してしまうのを防止することができるとともに、幅寸法が小さい連結領域Rにおける応力の集中を回避することができる。
【0040】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば図9~12に示すように、凹部4が保持部3に形成された座面Mの裏面側位置に形成されたものであってもよい。この場合、上記実施形態と同様、図9~11に示すように、クラッチピストン1の表面側に保持部3及び連結領域Rを有し、保持部3の底面がリターンスプリング6の一端部6aと当接する座面M(図12参照)を成すとともに、凹部4が座面Mの裏面側位置(すなわち、クラッチピストン1の裏面側であって座面Mに対応する位置)に形成されている。
【0041】
このように、保持部3は、リターンスプリング6の一端部6aが当接する座面Mを有するとともに、凹部4は、当該座面Mの裏面側位置に形成されたので、クラッチピストン1の裏面側のスペースを有効活用して凹部4を形成することができ、クラッチ板5の圧接時に生じる応力をより確実に分散して応力の集中を回避することができる。
【0042】
なお、保持部3が連結領域Rで連結されず、周方向に等間隔に複数形成されたもの、凹部4が波形状に延設されず、単に円環状に延びて形成されたもの等であってもよい。また、本実施形態においては自動車に適用されているが、自動車の他、他の車両におけるクラッチに適用されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
クラッチ板を圧接して動力を伝達するとともにクラッチ板の圧接力を解放して駆動力の伝達を遮断する作動部と、リターンスプリングの一端部を保持する保持部と、保持部における所定部位に形成されるとともに、縁面と底面とを結ぶ壁面が勾配して成る凹部とを備えたクラッチピストンであれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 クラッチピストン
1a 溝形状
1b 中央孔
2 作動部
2a 押圧面
3 保持部
4 凹部
4a 縁面
4b 底面
4c 壁面
5 クラッチ板
6 リターンスプリング
6a 一端部
6b 他端部
7 バネ受け
8、9 サークリップ
S クラッチシャフト
Sa、Sb 溝形状
D クラッチドラム
Da 溝形状
M 座面
P オイルポンプ
N 制御部
S1 オイル流通孔
R 連結領域
H 荷重領域
A1 縁面と勾配面との境界
A2 底面と勾配面との境界
r1、r2 シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12