(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085069
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】防災用車両
(51)【国際特許分類】
B62D 33/067 20060101AFI20230613BHJP
B62D 21/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B62D33/067 K
B62D33/067 Y
B62D21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199546
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000215822
【氏名又は名称】帝国繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】多田 洋一
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA14
3D203BA03
3D203BC34
3D203CB19
3D203CB34
3D203CB40
3D203DA02
(57)【要約】
【課題】既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブの重量やサイズが大きくても対応可能なチルト機構を備えた防災用車両を提供する。
【解決手段】シャシフレーム2およびキャブ3に接続されてキャブ3を回動させるチルト機構5を備える。チルト機構5は、シャシフレーム2から左右方向外側に突出するようにシャシフレーム2に取り付けられるシリンダブラケット51と、上下方向に延びるとともにシリンダブラケット51に回動軸52cにて前後回動自在に取り付けられるチルトシリンダ52とを有し、チルトシリンダ52は、回動軸52cが上下方向の中間部に設けられたシリンダチューブ52aと、シリンダチューブ52aに対し伸縮自在であるとともに先端がキャブ3の後端部に取り付けられるシリンダロッド52bとを有し、シリンダチューブ52aの下端は、シャシフレーム2よりも下方に位置するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるシャシフレームと、前記シャシフレームの前端部にチルトヒンジによって連結されるキャブメインフレームを有するとともに前記チルトヒンジを中心に回動自在なキャブと、前記シャシフレームおよび前記キャブに接続されて前記キャブを回動させるチルト機構と、を備えた防災用車両であって、
前記チルト機構は、前記シャシフレームから左右方向外側に突出するように前記シャシフレームに取り付けられるシリンダブラケットと、上下方向に延びるとともに前記シリンダブラケットに回動軸にて前後回動自在に取り付けられるチルトシリンダとを有し、
前記チルトシリンダは、前記回動軸が上下方向の中間部に設けられたシリンダチューブと、前記シリンダチューブに対し伸縮自在であるとともに先端が前記キャブの後端部に取り付けられるシリンダロッドとを有し、
前記シリンダチューブの下端は、前記シャシフレームよりも下方に位置するように構成されている
ことを特徴とする防災用車両。
【請求項2】
前記チルトシリンダの前記シリンダロッドは、前記シリンダロッドの先端に対して前記キャブが車両前後方向軸心まわりおよび左右方向軸心まわりに回動自在となるような自在継手部を介して前記キャブに取り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の防災用車両。
【請求項3】
前記シリンダブラケットは、前記チルトシリンダの前記シリンダチューブが上下方向に挿通される挿通枠部と、前記挿通枠部から上方に延びるシリンダ支持部とを有し、
前記シリンダ支持部は、前記シリンダチューブの前記回動軸を支持する上方開口の凹溝部を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の防災用車両。
【請求項4】
前記キャブの後面には、前記チルトシリンダを収容する凹部が形成され、前記キャブの走行時姿勢において前記チルトシリンダが前記キャブの左右方向外側から隠れた状態になるように構成されている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の防災用車両。
【請求項5】
左右一対の前記シャシフレーム同士を連結するとともに前記シャシフレームと前記キャブメインフレームとの間に機器配置空間部を形成する前後一対のアーチ型部材を備え、
前記アーチ型部材には、前記キャブメインフレームの後部を支持するフレーム支持部が設けられ、
前記機器配置空間部には、前記チルトシリンダを伸縮させるための作動油を供給するパワーユニットが配置されている
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の防災用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救助活動や消火活動に必要な機材を搭載した防災用車両に関し、特に、運転席および後部座席を有するキャブを回動させるためのチルト機構を備えた防災用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災や事故、地震等の自然災害が発生した際、救助活動や消火活動を行うために必要な機材を搭載した防災用車両が使用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の防災用車両では、運転席と後部座席とを有するキャブが車両前部に設けられ、各種機材を収納する格納庫がキャブの後方に設けられている。
【0003】
上記特許文献1のような防災用車両は、トラックシャシメーカーからキャブ付きシャシの提供を受けた架装メーカーによって完成される。架装メーカーは、トラックシャシメーカーが製造した既設のキャブに対し、特に後部座席およびその周辺に、隊員が活動しやすくなるような改造を行う。また、架装メーカーは、各種機材を収納する格納庫やクレーンを架装する。
【0004】
ところで、トラックシャシメーカーが製造するキャブ付きシャシには、エンジンおよびエンジン周辺の点検あるいは補修のために、キャブ全体を回動させるチルト機構が設けられている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、シャシフレームの前端部にチルトヒンジが設けられ、キャブがチルトヒンジを枢軸として回動可能になっている。また、キャブの下部にはキャブメインメンバ(キャブメインフレーム)が設けられ、このキャブメインメンバとシャシフレームとの間に、キャブを回動させるためのチルトシリンダが設けられている。チルトシリンダの上部は、キャブメインメンバの前部に取り付けられ、チルトシリンダの下部は、シャシフレームに取り付けられており、キャブを上方回動させる際には、チルトシリンダは、キャブメインメンバの前部を上方に押し上げるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-111095号公報
【特許文献2】特開2009-18707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のような従来の防災用車両では、トラックシャシメーカーから提供されるキャブ付きシャシとして、運転席と後部座席とを有するダブルキャブを使用するのが一般的であった。このようなダブルキャブを備えた従来のキャブ付きシャシでは、上記特許文献2のようなチルト機構が設けられているのが一般的であった。架装メーカーは、このような既設のキャブに対し、ハイルーフ化や後部座席周辺にユーティリティスペースを設ける等の改造を行っていた。近年では、隊員の利便性向上のため、キャブの改造箇所が増大し、既設のキャブに対して、改造後のキャブの重量やサイズが大きくなってきた。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のような従来のチルト機構では、チルトシリンダがキャブメインメンバの前部を上方に押し上げる構造になっていたため、キャブの改造によるキャブの重量増加に対応してチルトシリンダの推力を単純に上昇させようとした場合、キャブメインメンバの前部に局所的により大きな力が加わるようになっていた。そして、キャブの改造箇所を多くしすぎてキャブの重量が大きくなりすぎた場合には、キャブを上方回動させようとするとキャブメインメンバの前部が折れ曲がってしまうおそれがあった。これにより、従来では、チルト機構の動作によってキャブメインメンバが折れ曲がらないようにするため、キャブの改造箇所の量に制限が生じていた。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブの重量やサイズが大きくても対応可能なチルト機構を備えた防災用車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、第1の発明は、車両前後方向に延びるシャシフレームと、前記シャシフレームの前端部にチルトヒンジによって連結されるキャブメインフレームを有するとともに前記チルトヒンジを中心に回動自在なキャブと、前記シャシフレームおよび前記キャブに接続されて前記キャブを回動させるチルト機構と、を備えた防災用車両であって、前記チルト機構は、前記シャシフレームから左右方向外側に突出するように前記シャシフレームに取り付けられるシリンダブラケットと、上下方向に延びるとともに前記シリンダブラケットに回動軸にて前後回動自在に取り付けられるチルトシリンダとを有し、前記チルトシリンダは、前記回動軸が上下方向の中間部に設けられたシリンダチューブと、前記シリンダチューブに対し伸縮自在であるとともに先端が前記キャブの後端部に取り付けられるシリンダロッドとを有し、前記シリンダチューブの下端は、前記シャシフレームよりも下方に位置するように構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
第1の発明によれば、チルトシリンダの回動軸がシリンダブラケットを介してシャシフレームに取り付けられるとともにチルトシリンダのシリンダロッドがキャブの後端部に取り付けられるようにしたことにより、キャブを上方回動させる際に、チルトシリンダがキャブメインフレームに局所的に大きな力を加えることがないようにできる。すなわち、キャブを上方回動させるために必要なトルクを発生させる場合、キャブの前部を押し上げるよりもキャブの後端部を押し上げる方が、チルトシリンダの上端がキャブメインフレームに加える力を小さくすることができるため、キャブメインフレームの前部にチルトシリンダの上端を取り付けた従来のチルト機構と比較して、キャブメインフレームに局所的に大きな力が加わることがないようにできる。これにより、キャブメインフレームの折れ曲がりの発生を抑制することができる。
【0011】
また、第1の発明の防災用車両のチルト機構では、チルトシリンダは、回動軸がシリンダチューブの上下方向の中間部に設けられるとともに、シリンダチューブの下端がシャシフレームよりも下方に位置するように構成されているので、チルトシリンダのシャシフレームから上側の高さを抑制しつつ、チルトシリンダのストローク量を大きくすることができる。これにより、シャシフレーム上のキャブ内スペースがチルトシリンダの配設スペースによって減少することを抑制することができる。また、チルトヒンジからキャブ後端までの長さがキャブ改造によって長くなった場合にも、キャブを所定角度まで上方回動させるのに十分なチルトシリンダのストローク量を確保することができる。また、シリンダブラケットが、シャシフレームから左右方向外側に突出するようにシャシフレームに取り付けられていることにより、チルトシリンダをキャブの左右方向の端部近くに配置することができ、シャシフレーム上のキャブ内スペースに対してチルトシリンダの配設スペースが干渉することを抑制することができる。その結果、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブの重量やサイズが大きくなったとしても十分に対応可能なチルト機構を備えた防災用車両にすることができる。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、前記チルトシリンダの前記シリンダロッドは、前記シリンダロッドの先端に対して前記キャブが車両前後方向軸心まわりおよび左右方向軸心まわりに回動自在となるような自在継手部を介して前記キャブに取り付けられている、ことを特徴とする。
【0013】
第2の発明によれば、乗り心地向上のためにキャブとシャシフレームとの間にキャブサスペンション装置が設けられている等の要因によってシャシフレームに対してキャブが相対的に変位した場合であっても、自在継手部がその変位を吸収することができる。これにより、チルトシリンダに過度なねじれが生じないようにすることができ、チルト機構の故障を抑制することができる。
【0014】
第3の発明では、第1または第2の発明において、前記シリンダブラケットは、前記チルトシリンダの前記シリンダチューブが上下方向に挿通される挿通枠部と、前記挿通枠部から上方に延びるシリンダ支持部とを有し、前記シリンダ支持部は、前記シリンダチューブの前記回動軸を支持する上方開口の凹溝部を有している、ことを特徴とする。
【0015】
第3の発明によれば、チルトシリンダを挿通枠部の上方から挿通枠部の下方へ挿通させて回動軸をシリンダ支持部の凹溝部に嵌め込むだけで、チルトシリンダのシリンダブラケットに対する取り付けを完了させることができる。これにより、防災用車両の製造時のチルトシリンダの取り付け作業やメンテナンスの際のチルトシリンダの取り外し作業を容易に行うことができる。また、チルトシリンダがシリンダブラケットに取り付けられている状態では、キャブの重量やチルトシリンダの自重によってチルトシリンダの回動軸が凹溝部から外れることが抑制されるとともに、チルトシリンダの水平方向への位置ずれが挿通枠部によって抑制されるので、安全である。
【0016】
第4の発明では、第1~第3のいずれか1つの発明において、前記キャブの後面には、前記チルトシリンダを収容する凹部が形成され、前記キャブの走行時姿勢において前記チルトシリンダが前記キャブの左右方向外側から隠れた状態になるように構成されている、ことを特徴とする。
【0017】
第4の発明によれば、メンテナンスによりキャブを上方回動させない限り、チルトシリンダがキャブの左右方向外側から隠れた状態になるようにできる。これにより、防災用車両の走行時にチルトシリンダに物が当たったり、メンテナンス作業を行う作業者以外の人がチルトシリンダに触れたりすることによってチルトシリンダが傷つくことを防ぐことができる。その結果、チルト機構の故障を抑制することができる。
【0018】
第5の発明では、第1~第4のいずれか1つの発明において、左右一対の前記シャシフレーム同士を連結するとともに前記シャシフレームと前記キャブメインフレームとの間に機器配置空間部を形成する前後一対のアーチ型部材を備え、前記アーチ型部材には、前記キャブメインフレームの後部を支持するフレーム支持部が設けられ、前記機器配置空間部には、前記チルトシリンダを伸縮させるための作動油を供給するパワーユニットが配置されている、ことを特徴とする。
【0019】
第5の発明によれば、パワーユニットをチルトシリンダの近く、かつ、左右方向と上下方向の車両重量バランスの良い位置に設けることができる。また、既設のキャブに対して改造部分となるキャブ後部の下方にパワーユニットを配置することができるので、パワーユニットのレイアウトやキャブ内スペースのレイアウトを容易に設定することができる。これにより、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブの重量やサイズが大きくなったとしても十分に対応可能なチルト機構を備えた防災用車両にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る防災用車両によれば、キャブメインフレームの前部にチルトシリンダの上端を取り付けた従来のチルト機構と比較して、キャブメインフレームに局所的に大きな力が加わることがないようにでき、キャブメインフレームの折れ曲がりの発生を抑制することができる。また、チルトシリンダのシャシフレームから上側の高さを抑制しつつ、チルトシリンダのストローク量を大きくすることができるので、シャシフレーム上のキャブ内スペースがチルトシリンダの配設スペースによって減少することを抑制することができ、チルトヒンジからキャブ後端までの長さが長くてもチルトシリンダのストローク量を十分に確保することができる。その結果、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブの重量やサイズが大きくなったとしても十分に対応可能なチルト機構を備えた防災用車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る防災用車両の側面図である。
【
図2】本実施形態の防災用車両において、キャブ改造部分を主に説明するための側面図である。
【
図4】シリンダブラケットを示す図であって、(a)は側面図、(b)は背面図、(c)は平面図である。
【
図5】チルトシリンダおよびその先端に取り付けられる自在継手部を示す図であって、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【
図6】本実施形態に係る防災用車両のチルト機構の油圧回路図である。
【
図7】
図2の状態からキャブを上方回動させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る防災用車両について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1には、本発明の一実施形態に係る防災用車両1が示されている。本実施形態の防災用車両1は、例えば、火災現場や事故現場等において救助活動を行うに際して必要とされる様々な機材や工具を搭載した救助工作車として使用されるものである。防災用車両1は、図示省略の運転席と後部座席とを有するキャブ3が車両前部に設けられ、各種機材を収納する格納庫6がキャブ3の後方に設けられている。また、格納庫6の後方には、クレーン部7が設けられている。
【0024】
防災用車両1は、トラックシャシメーカーからキャブ付きシャシの提供を受け、架装メーカーによって完成される。架装メーカーは、トラックシャシメーカーが製造した既設キャブ部32に対し、特に後部座席およびその周辺に、隊員が活動しやすくなるような改造を行った増設キャブ部33を設ける。また、架装メーカーは、格納庫6やクレーン部7を架装する。増設キャブ部33の左側面には、後部座席の隊員が乗降するための後部出入口33aが設けられている。
【0025】
図2は、本実施形態の防災用車両1において、キャブ改造部分を主に説明するための側面図である。防災用車両1は、ダブルキャブのキャブ付きシャシを利用して改造される。キャブ3は、シャシメーカーが製造した既設キャブ部32(
図2において2点鎖線で示す)に対し、既設キャブ部32のルーフ部分と後面部分が切り取られ、そこに、ハイルーフ化とユーティリティスペースの追加等を行った増設キャブ部33(
図2において実線で示す)が設けられる。
図2のBで示された太い2点鎖線部分は、既設キャブ部32から切り取られる部分を示している。増設キャブ部33は、複数のキャブ形成フレーム部材33cを使用して立体的な形状が形成される。
【0026】
防災用車両1は、車両前後方向に延びる左右一対のシャシフレーム2,2と、シャシフレーム2の前端部にチルトヒンジ4によって連結されるキャブメインフレーム31を有するとともにチルトヒンジ4を中心に回動自在なキャブ3と、シャシフレーム2およびキャブ3に接続されてキャブ3を回動させるチルト機構5と、を備えている。
【0027】
図3は、
図1のA-A線矢視図である。
図2および
図3において、本実施形態のキャブ3のキャブメインフレーム31は左右一対あり、トラックシャシメーカーが製造した既設部分の後端部に架装メーカーによって延長部分が設けられることによって、全体が形成されている。この延長部分は、
図2においてハッチングで示している。キャブメインフレーム31は、キャブ3の底部に設けられており、増設キャブ部33の床部材33dは、キャブメインフレーム31に直接取り付けられたり、連結部材33eを介してキャブメインフレーム31に取り付けられたりすることによって、固定されている。防災用車両1の走行時姿勢では、左右一対のキャブメインフレーム31,31の前端部は、チルトヒンジ4によって支持され、左右一対のキャブメインフレーム31,31の後端部は、それぞれフレーム支持部54dによって支持されるようになっている。
【0028】
フレーム支持部54dは、左右一対のシャシフレーム2,2同士を連結するアーチ型部材54に、支持ブラケット54cを介して取り付けられている。アーチ型部材54は、前後一対あり、そのうち前側の前側アーチ型部材54aは、トラックシャシメーカーがキャブ付きシャシを製造する際に取り付けるものであり、後側の後側アーチ型部材54bは、架装メーカーが取り付けるものである。前側アーチ型部材54aと後側アーチ型部材54bは同じ構造をしている。なお、後側アーチ型部材54bの後方のシャシフレーム2上には、シャシフレーム2に沿ってサブフレーム61が取り付けられている。このサブフレーム61の上には、格納庫6が設けられるようになっている。
【0029】
キャブ3のキャブメインフレーム31は、チルトヒンジ4に近い方は断面矩形状であるが、フレーム支持部54dによって支持される部分は断面逆三角形状となっている。フレーム支持部54dは、断面逆三角形状に合わせて、キャブメインフレーム31の2つの面を支持する形状になっている。なお、キャブメインフレーム31とフレーム支持部54dとの接触部分は、弾性体で形成することが好ましい。
【0030】
本実施形態のチルト機構5は、架装メーカーが既設のチルト機構を外して新たに取り付けるものである。チルト機構5は、シャシフレーム2から左右方向外側に突出するようにシャシフレーム2に取り付けられる左右一対のシリンダブラケット51,51と、上下方向に延びるとともに各シリンダブラケット51に回動軸52cにて前後回動自在に取り付けられるチルトシリンダ52とを有している。
【0031】
チルトシリンダ52は、回動軸52cが上下方向の中間部に設けられたシリンダチューブ52aと、シリンダチューブ52aに対し伸縮自在であるとともに先端がキャブ3(増設キャブ部33)の後端部に取り付けられるシリンダロッド52bとを有している。シリンダチューブ52aの下端は、シャシフレーム2よりも下方に位置している。
【0032】
シリンダブラケット51は、前側アーチ型部材54aと後側アーチ型部材54bとの間の前後位置において、シャシフレーム2に取り付けられている。シリンダブラケット51は、
図4に示すように、水平部分と垂直部分とを有して逆L字型の1個の第1板部材51aと、略三角形の2個の第2板部材51bとを組み合わせて溶接することによって形成されている。さらに、シリンダブラケット51は、1個の挿通枠部51dと2個のシリンダ支持部51eにより形成された部材を第1板部材51aの水平部分に取り付けることによって、形成されている。より詳細には、第1板部材51aの水平部分には、矩形孔51g(
図4(c)参照)が設けられており、その矩形孔51gを囲むように、挿通枠部51dおよびシリンダ支持部51eが取り付けられている。
【0033】
矩形孔51gおよび挿通枠部51dには、チルトシリンダ52のシリンダチューブ52aが上下方向に挿通されるようになっている。シリンダ支持部51eは、挿通枠部51dから上方に延びるように設けられており、チルトシリンダ52の回動軸52cを支持する上方開口の凹溝部51fを有している。また、第2板部材51bには、チルトシリンダ52を回動軸52cを中心に前後回動させる際に干渉を防ぐためのシリンダ干渉回避切欠部51cが形成されている。
【0034】
図2および
図3に示すように、キャブ3の後面には、チルトシリンダ52を収容する凹部33gが形成され、キャブ3の走行時姿勢においてチルトシリンダ52がキャブ3の左右方向外側から隠れた状態になるように構成されている。凹部33gを形成する壁面のうち上端部には、左右一対のロッド先端取付ブラケット33f,33fが設けられている。チルトシリンダ52のシリンダロッド52bは、自在継手部53を介してロッド先端取付ブラケット33fに取り付けられている。
【0035】
自在継手部53は、
図5に示すように、シリンダロッド52bの先端に対してキャブ3が車両前後方向軸C1の軸心まわりおよび左右方向軸C2の軸心まわりに回動自在となるように形成されている。具体的には、自在継手部53は、シリンダロッド52bの先端に取り付けられるベース部材53aと、ベース部材53aの先端に設けられた雌ねじ部に取り付けられる保持リング付雄ねじ部材53bと、保持リング付雄ねじ部材53bの保持リング部分に嵌め込まれる嵌合曲面部が長手方向中間部に設けられた嵌合曲面部付棒部材53cと、嵌合曲面部付棒部材53cの端部に取り付けられるとともにロッド先端取付ブラケット33fに固定される接続部材53fとを有している。接続部材53fは、嵌合曲面部付棒部材53cの端部に嵌め込まれる長孔部を有する2個の長孔付平板部53dと、2個の長孔付平板部53dを連結する接続平板部53eとを有している。
【0036】
チルトシリンダ52には、
図2および
図3に示すように、パワーユニット55によってチルトシリンダ52を伸縮させるための作動油が供給されるようになっている。パワーユニット55は、前後一対のアーチ型部材54,54の前後間、かつ、シャシフレーム2とアーチ型部材54との上下間に形成された機器配置空間部Sに配置されている。この機器配置空間部Sには、パワーユニット55とチルトシリンダ52とを繋ぐ配管等も配置されている。また、機器配置空間部Sには、図示省略の車両エンジンから動力を取り出して車載の水ポンプ等へ動力を伝達するためのプロペラシャフト71が通っている。
【0037】
図6は、本実施形態に係る防災用車両1のチルト機構5の油圧回路図を示している。この
図6に示すように、パワーユニット55は、油圧ポンプ55aと、油圧ポンプ55aを回転駆動させる電動モータ55bと、作動油を貯留する作動油タンク55eと、油圧ポンプ55aから送り出した作動油が逆流するのを防ぐ逆止弁55cと、油圧ポンプ55aから送り出した作動油の圧力が過度に高まった場合に作動油を作動油タンク55eに戻すリリーフ弁55dとを備えている。電動モータ55bは、図示省略の車両補器用バッテリの電力により駆動される。
【0038】
パワーユニット55と一対のチルトシリンダ52とを接続する流路L1には、油圧ポンプ55aからの作動油を均等に各チルトシリンダ52に分配するための分集流弁56が介設されている。また、流路L1における分集流弁56とパワーユニット55との間から、流路L2が分岐されている。流路L2の下流端は、作動油タンク55eに接続されている。流路L2には、ストップバルブ59と方向制御弁57と圧力スイッチ58が介設されている。ストップバルブ59および方向制御弁57は、
図2に示すように、増設キャブ部33の左側面に設けられたチルト機構操作部33bにおいて操作されるようになっている。
【0039】
本実施形態のチルト機構5は、
図2および
図3に示すように、チルト機構操作部33bにおいてストップバルブ59や方向制御弁57が操作されることにより、キャブ3の上方回動または下方回動を行うようになっている。
図2の走行時姿勢からキャブ3を上方回動させると、
図7の状態になる。この状態では、キャブ3の底部に設けられたキャブメインフレーム31の後部は、フレーム支持部54dから離脱し、チルトシリンダ52によって持ち上げられるようになる。そして、図示省略の車両エンジンとその周辺機器だけでなく、パワーユニット55も大きく露出することになって、メンテナンス作業を容易に行うことができる。なお、詳しい構造は図示省略するが、本実施形態において、キャブ3の後面には、
図3に示すように、キャブロック装置34が設けられている。キャブ3の走行時姿勢では、キャブロック装置34によってキャブ3の上方回動が規制される。メンテナンスのためにチルト機構5によってキャブ3を上方回動させるときには、キャブロック装置34のロックを解除してからキャブ3を上方回動させるようになっている。
【0040】
以上のとおり、本実施形態に係る防災用車両1によれば、車両前後方向に延びるシャシフレーム2と、シャシフレーム2の前端部にチルトヒンジ4によって連結されるキャブメインフレーム31を有するとともにチルトヒンジ4を中心に回動自在なキャブ3と、シャシフレーム2およびキャブ3に接続されてキャブ3を回動させるチルト機構5と、を備え、チルト機構5は、シャシフレーム2から左右方向外側に突出するようにシャシフレーム2に取り付けられるシリンダブラケット51と、上下方向に延びるとともにシリンダブラケット51に回動軸52cにて前後回動自在に取り付けられるチルトシリンダ52とを有し、チルトシリンダ52は、回動軸52cが上下方向の中間部に設けられたシリンダチューブ52aと、シリンダチューブ52aに対し伸縮自在であるとともに先端がキャブ3の後端部に取り付けられるシリンダロッド52bとを有し、シリンダチューブ52aの下端は、シャシフレーム2よりも下方に位置するように構成されているので、従来のチルト機構と比較して、キャブメインフレーム31に局所的に大きな力が加わることがないようにでき、キャブメインフレーム31の折れ曲がりの発生を抑制することができる。
【0041】
また、チルトシリンダ52は、回動軸52cがシリンダチューブ52aの上下方向の中間部に設けられるとともに、シリンダチューブ52aの下端がシャシフレーム2よりも下方に位置するように構成されているので、チルトシリンダ52のシャシフレーム2から上側の高さを抑制しつつ、チルトシリンダ52のストローク量を大きくすることができる。これにより、シャシフレーム2上のキャブ内スペースがチルトシリンダ52の配設スペースによって減少することを抑制することができる。また、チルトヒンジ4からキャブ3の後端までの長さがキャブ改造によって長くなった場合にも、キャブ3を所定角度まで上方回動させるのに十分なチルトシリンダ52のストローク量を確保することができる。
【0042】
また、シリンダブラケット51が、シャシフレーム2から左右方向外側に突出するようにシャシフレーム2に取り付けられていることにより、チルトシリンダ52をキャブ3の左右方向の端部近くに配置することができ、シャシフレーム2上のキャブ内スペースに対してチルトシリンダ52の配設スペースが干渉することを抑制することができる。その結果、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブ3の重量やサイズが大きくなったとしても十分に対応可能なチルト機構5を備えた防災用車両1にすることができる。
【0043】
また、本実施形態では、チルトシリンダ52のシリンダロッド52bは、シリンダロッド52bの先端に対してキャブ3が車両前後方向軸C1の軸心まわりおよび左右方向軸C2の軸心まわりに回動自在となるような自在継手部53を介してキャブ3に取り付けられているので、乗り心地向上のためにキャブ3とシャシフレーム2との間にキャブサスペンション装置が設けられている等の要因によってシャシフレーム2に対してキャブ3が相対的に変位した場合であっても、自在継手部53がその変位を吸収することができる。これにより、チルトシリンダ52に過度なねじれが生じないようにすることができ、チルト機構5の故障を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、シリンダブラケット51は、チルトシリンダ52のシリンダチューブ52aが上下方向に挿通される挿通枠部51dと、挿通枠部51dから上方に延びるシリンダ支持部51eとを有し、シリンダ支持部51eは、シリンダチューブ52aの回動軸52cを支持する上方開口の凹溝部51fを有しているので、チルトシリンダ52を挿通枠部51dの上方から挿通枠部51dの下方へ挿通させて回動軸52cをシリンダ支持部51eの凹溝部51fに嵌め込むだけで、チルトシリンダ52のシリンダブラケット51に対する取り付けを完了させることができる。これにより、防災用車両1の製造時のチルトシリンダ52の取り付け作業やメンテナンスの際のチルトシリンダ52の取り外し作業を容易に行うことができる。また、チルトシリンダ52がシリンダブラケット51に取り付けられている状態では、キャブ3の重量やチルトシリンダ52の自重、およびキャブロック装置34によってチルトシリンダ52の回動軸52cが凹溝部51fから外れることが抑制されるとともに、チルトシリンダ52の水平方向への位置ずれが挿通枠部51dによって抑制されるので、安全である。
【0045】
また、本実施形態において、キャブ3の後面には、チルトシリンダ52を収容する凹部33gが形成され、キャブ3の走行時姿勢においてチルトシリンダ52がキャブ3の左右方向外側から隠れた状態になるように構成されているので、メンテナンスによりキャブ3を上方回動させない限り、チルトシリンダ52がキャブ3の左右方向外側から隠れた状態になるようにできる。これにより、防災用車両1の走行時にチルトシリンダ52に物が当たったり、メンテナンス作業を行う作業者以外の人がチルトシリンダ52に触れたりすることによってチルトシリンダ52が傷つくことを防ぐことができる。その結果、チルト機構5の故障を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、左右一対のシャシフレーム2,2同士を連結するとともにシャシフレーム2とキャブメインフレーム31との間に機器配置空間部Sを形成する前後一対のアーチ型部材54,54を備え、アーチ型部材54には、キャブメインフレーム31の後部を支持するフレーム支持部54dが設けられ、機器配置空間部Sには、チルトシリンダ52を伸縮させるための作動油を供給するパワーユニット55が配置されているので、パワーユニット55をチルトシリンダ52の近く、かつ、左右方向と上下方向の車両重量バランスの良い位置に設けることができる。また、既設のキャブに対して改造部分となるキャブ3の後部の下方にパワーユニット55を配置することができるので、パワーユニット55のレイアウトやキャブ内スペースのレイアウトを容易に設定することができる。これにより、既設のキャブの改造箇所が多くなって改造後のキャブ3の重量やサイズが大きくなったとしても十分に対応可能なチルト機構5を備えた防災用車両1にすることができる。
【0047】
今回、開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、前記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 防災用車両
2 シャシフレーム
3 キャブ
4 チルトヒンジ
5 チルト機構
31 キャブメインフレーム
33 増設キャブ部
33g 凹部
51 シリンダブラケット
52 チルトシリンダ
52a シリンダチューブ
52b シリンダロッド
52c 回動軸
53 自在継手部
54 アーチ型部材
54d フレーム支持部
55 パワーユニット
C1 前後方向軸
C2 左右方向軸
S 機器配置空間部