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特開2023-8509誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置
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  • 特開-誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008509
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112129
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 祐之
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】宇井 明生
(72)【発明者】
【氏名】秋田 征人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡 将太郎
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084BB11
2G084BB23
2G084CC03
2G084CC08
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD14
2G084DD22
2G084DD63
(57)【要約】
【課題】低電圧での駆動を実現した上で、耐久性や信頼性を高めることを可能にした誘電体バリア放電電極を提供する。
【解決手段】実施形態の誘電体バリア放電電極2は、第1表面4aを有する誘電体4と、誘電体4の第1表面4a上に露出するように設けられた第1電極5と、誘電体4を介して第1電極5と対向するように配置された第2電極6とを具備する。誘電体4は、第1表面4aの少なくとも一部を構成するように配置された第1誘電体層8と、第1誘電体層8と積層され、第1誘電体層8とは異なる材料からなる第2誘電体層9とを備える。第1誘電体層8は無機誘電体材料を含み、第2誘電体層9は無機誘電体材料より絶縁破壊電圧及び比誘電率の少なくとも一方が大きい誘電体材料を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面を有する誘電体と、
前記誘電体の前記第1表面上に露出するように設けられた第1電極と、
前記誘電体を介して前記第1電極と対向するように配置された第2電極とを具備し、
前記誘電体は、前記第1表面の少なくとも一部を構成するように配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層の前記第1表面を構成する面とは反対側の面に積層され、前記第1誘電体層とは異なる材料からなる第2誘電体層とを備え、
前記第1誘電体層は無機誘電体材料を含み、前記第2誘電体層は前記無機誘電体材料より絶縁破壊電圧及び比誘電率の少なくとも一方が大きい誘電体材料を含む、誘起体バリア放電電極。
【請求項2】
前記無機誘電体材料は、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、及び窒化ケイ素セラミックスからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項3】
前記第2誘電体層は、前記無機誘電体材料より絶縁破壊電圧が大きい有機誘電体材料を含む、請求項1又は請求項2に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項4】
前記有機誘電体材料は100kV/mm以上の絶縁破壊電圧を有する、請求項3に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項5】
前記有機誘電体材料は、ポリイミド樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項3又は請求項4に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項6】
前記第2誘電体層は、前記無機誘電体材料より比誘電率が大きい有機又は無機誘電体材料を含む、請求項1又は請求項2に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項7】
前記有機又は無機誘電体材料は3以上の比誘電率を有する、請求項6に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項8】
前記有機又は無機誘電体材料は、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ソーダ石灰ガラス、及びチタン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項6又は請求項7に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項9】
前記第1誘電体層は、前記第1表面上の気体を電離して形成される放電領域に少なくとも晒されるように配置され、
前記第2誘電体層は、前記放電領域に晒されないように配置される、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の誘起体バリア放電電極。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の誘起体バリア放電電極と、
前記誘起体バリア放電電極の少なくとも前記第1電極に電気的に接続された交流電源と
を具備する誘起体バリア放電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧下での安定したプラズマの生成方法として、誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Dischage:DBD)方式が用いられている。DBD方式を適用した放電装置(以下、DBD装置とも記す。)は、一対の電極(放電電極と対向電極)とそれらの間に介在させた誘電体とを有するDBD電極を備え、両電極間に交流の放電用電源から高電圧を印加して放電を発生させるものである。
【0003】
一対の電極間に電圧を印加すると、放電電極のエッジの1ヶ所に微小な放電(ストリーマ放電)が生成される。誘電体はコンデンサと同様の働きをするため、誘電体の表面に電荷が蓄積されるとその場所での放電は停止し、別の場所で放電が生成される。1ヶ所の放電はすぐに終了(数ns~数10ns)するため、電流密度の高いアーク放電(いわゆる熱プラズマ)に移行することはない。これを高速に繰り返すことで、一様で安定した放電を広い領域で生成することができる。そして、誘電体の表面の全体に電荷が蓄積される前に印加電圧の極性を反転させることで、連続的にプラズマを維持することができる。誘電体バリア放電で生成されるプラズマは、多くの微小な放電(ストリーマ放電)の集まりで、各微小な放電の電流密度は小さい。このため、電子温度のみが高く(数eV~数10eV)、イオン温度や気体粒子は室温と同程度のエネルギー(~0.1eV)を有する低温プラズマに分類され、通常、温度上昇は室温より数度ほど高いだけである。
【0004】
従来のDBD電極においては、誘電体の厚みはミリスケールのものが多く、一対の電極間に印加される電圧は通常5kV以上であり、高電圧で駆動される構成を有する。このため、高電圧に対する絶縁対策やノイズ対策のために、DBD電極を収納する放電部や放電用電源が大型化したり、高価になるため、DBDの低電圧駆動が望まれている。そこで、高電界を発生させるために誘電体に比誘電率の高い物質(強誘電体)を使用したり、誘電体の厚みをマイクロスケールに薄膜化したりすることが提案されている。
【0005】
例えば、強誘電体の樹脂フィルム(比誘電率3~110)で構成される可撓性の誘電体を用いることによって、電極間に印加する正弦波電圧として低電圧な0.2~2kVで駆動するDBDが提案されている。また、誘電体として、薄く平滑な形状を有し、不導体でかつ可撓性を有する薄膜ガラスを用いることが提案されている。薄膜ガラスには放電発生時の絶縁破壊に耐える程度の誘電体厚みが必要であることから、厚みが4μm~500μm程度のものを使用することで、1kV級の電圧で駆動することが可能になる。
【0006】
しかしながら、実用化の観点において、比誘電率の高い強誘電体の樹脂フィルムは、その表面が放電に曝されると放電で生成される反応活性種(ラジカル)により分解し、表面が掘れることで樹脂フィルムが減肉化し、誘電体自体の耐絶縁性能が低下して、DBD電極としての耐久性が低下するという課題がある。また、低電圧化するために、単一の薄膜ガラス等を誘電体として用いて厚みを薄膜化した場合には、誘電体表面の放電暴露、振動、飛来物の衝突等による欠陥の発生、潜在的な欠陥等による誘電体自体の耐絶縁性能の劣化が起きやすく、DBD電極としての信頼性が低下しやすいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6488088号公報
【特許文献2】特開2018-181452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低電圧での駆動を実現した上で、耐久性や信頼性を高めることを可能にした誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の誘電体バリア放電電極は、第1表面を有する誘電体と、前記誘電体の前記第1表面上に露出するように設けられた第1電極と、前記誘電体を介して前記第1電極と対向するように配置された第2電極とを具備し、前記誘電体は、前記第1表面の少なくとも一部を構成するように配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層の前記第1表面を構成する面とは反対側の面に積層され、前記第1誘電体層とは異なる材料からなる第2誘電体層とを備え、前記第1誘電体層は無機誘電体材料を含み、前記第2誘電体層は前記無機誘電体材料より絶縁破壊電圧及び比誘電率の少なくとも一方が大きい誘電体材料を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態の誘電体バリア放電装置を示す断面図である。
図2図1に示す誘電体バリア放電装置の第1変形例を示す断面図である。
図3】実施形態で誘電体に用いられる代表的な材料の時間積算の放電エネルギーと掘れ量との関係を示すグラフである。
図4図1に示す誘電体バリア放電装置の第2変形例を示す断面図である。
図5】第2の実施形態の誘電体バリア放電装置を示す断面図である。
図6図5に示す誘電体バリア放電装置の第1変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の誘電体バリア放電電極及び誘電体バリア放電装置について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の誘電体バリア放電電極(DBD電極)及びそれを用いた誘電体バリア放電装置(DBD装置)を示す断面図である。図1に示すDBD装置1は、DBD電極2とそれに電圧を印加する電源3とを具備している。DBD電極2は、平板形状を有する誘電体4と第1電極5と第2電極6とを備えている。電源3は第1電極5及び第2電極6に電気的に接続されている。電源3は図2に示すように、第1電極5に電気的に接続され、第2電極6は接地(0V)されていてもよい。電源3から第1電極5及び第2電極6に電圧を印加することによって、放電を発生させてプラズマPが生成される。
【0013】
DBD電極2において、第1電極5は誘電体4の第1表面4a上に露出するように、すなわち第1表面4a上の気体中に露出するように設けられており、例えば板状や箔状等の形状を有している。第2電極6は、誘電体4を介して第1電極5と対向するように配置されている。第1電極5と第2電極6は、誘電体4で絶縁されている。第2電極6は、誘電体4と接する面とは反対側の面が気体中に露出しないように、樹脂材や電極の設置土台等の絶縁材料からなるベース材7で覆われていてもよい。誘電体4の第1表面4aに露出された第1電極5は放電電極として機能するものであり、誘電体4を介して第1電極5と対向するように配置された第2電極6は対向電極として機能するものである。
【0014】
第1電極5と第2電極6との間に電圧を印加すると、第1電極5側の第1表面4a上の気体を電離させ、バリア放電が生じる。このようなバリア放電によって、第1電極5から誘電体4の第1表面4aに沿ってプラズマPが発生する。第1電極5及び第2電極6に印加する電圧の波形としては、交流波形又はパルス波形が使用される。交流の周波数としては、数Hzから数GHzまで使用することができる。交流の周波数は数kHzから数MHzが典型的であり、GHzオーダーのマイクロ波を使用することも可能である。さらに、商用電源周波数(50又は60Hz)も使用可能である。パルス波形としては、数ナノ秒から数100マイクロ秒の立ち上がり時間をもつ波形を使用ことができる。
【0015】
第1電極5が配置された誘電体4の第1表面4aは、上記したバリア放電及びプラズマPに晒されることになる。そこで、第1の実施形態のDBD電極2において、誘電体4はその第1表面4aを構成するように配置された第1誘電体層8と、第1誘電体層8の第1表面4aを構成する面とは反対側の面に積層された第2誘電体層9(9A)とを少なくとも有する積層体を備えている。バリア放電及びプラズマPに晒される第1誘電体層8には、耐放電性に優れる無機誘電体材料が用いられる。第1誘電体層8を構成する無機誘電体材料としては、例えば、熱膨張率が低く、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れる、無アルカリガラスやホウケイ酸ガラス等のガラス材料、アルミナセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、窒化ケイ素セラミックス等のセラミックス材料が好ましい。
【0016】
ここで、典型的なバリア放電電極に広く使用される有機誘電体材料であるポリイミド樹脂を誘電体として使用した場合と、無機誘電体材料であるホウケイ酸ガラスを誘電体として使用した場合とにおいて、放電に曝される誘電体表面の損傷の比較実験の結果を図3に示す。図3は発明者等による誘電体表面の放電による損傷の比較実験の結果の一例であり、時間積算の放電エネルギー(放電積算エネルギー)と掘れ量との関係を示している。図3に示すように、放電に曝された誘電体表面の損傷は、有機誘電体材料のポリイミド樹脂に比べて、無機誘電体材料のホウケイ酸ガラスの方がはるかに小さい。同じ放電暴露の放電積算エネルギーに対する誘電体表面の掘れ量は、ホウケイ酸ガラスの方がポリイミド樹脂より1/8000以下であり、ホウケイ酸ガラスは放電暴露に対して耐久性に優れる誘電体であることが確認されている。
【0017】
ポリイミド樹脂のような有機物の場合、放電で生成された反応性に富むラジカル(酸素(O)ラジカル等)により有機物表面のC原子の結合が切断され、そのC原子がOラジカル等と結合してCOやCOとなってガス化し、有機物表面から離脱していくことが考えられる。これによって、放電に曝される領域では有機物表面が時間と共に掘れ、誘電体厚み自体が減肉化していく。そして、最終的には、誘電体が電極間の印加電圧に耐えられなくなり、誘電体の固体絶縁破壊に至ってしまう。一方、上記したガラス材料やセラミックス材料等の無機物の表面は、Oラジカル等に晒された際の変質が少ないため、放電に曝される領域に配置しても無機物表面の掘れを抑制することができる。
【0018】
実施形態のDBD電極2においては、放電に晒される誘電体4の第1表面4aを無機誘電体材料を含む第1誘電体層8で構成している。これによって、放電に曝されることによる誘電体4の表面の掘れやそれによる減肉化、さらには減肉化等による誘電体4自体の耐絶縁性能の低下、及びDBD電極2の耐久性の低下を抑制することができる。第1誘電体層8の厚さは、誘電体4の厚さが1mm以下の範囲となる厚さであればよく、例えば5μm以上500μm以下であることが好ましい。第1誘電体層8の厚さが500μmを超えると、誘電体4の全体厚が厚くなりすぎて、DBD電極2の低電圧駆動を妨げる。一方、第1誘電体層8の厚さが5μm未満であると、無機誘電体材料を用いても十分な耐放電性や耐久性が得られないおそれがある。
【0019】
実施形態のDBD電極2において、放電に晒されない第2誘電体層9Aに関しては、放電暴露による誘電体自体の損傷が発生しないため、耐放電性等は求められない。このため、耐放電性等に劣っていたとしても、耐絶縁性能に優れる誘電体材料を用いることができる。第2誘電体層9Aには、第1誘電体層8に用いる誘電体材料とは異なる材料であって、耐絶縁性能に優れる誘電体材料を用いることが好ましい。これによって、誘電体4の薄膜化構造を実現することができる。第2誘電体層9Aに用いる誘電体材料は、少なくとも絶縁破壊電圧が第1誘電体層8に用いる誘電体材料のそれより大きければよく、さらに100kV/mm以上の絶縁破壊電圧を有することが好ましい。
【0020】
第2誘電体層9Aに用いる誘電体材料には、例えば厚さ12.5μmでの絶縁破壊電圧が400kV/mmのポリイミド樹脂や厚さ100μmでの絶縁破壊電圧が130kV/mmのフッ素樹脂等の有機誘電体材料を用いることが好ましい。第2誘電体層9Aの厚さは、誘電体4の厚さが1mm以下の範囲となる厚さであればよく、例えば5μm以上500μm以下であることが好ましい。第2誘電体層9Aの厚さが500μmを超えると、誘電体4の全体厚が厚くなりすぎて、DBD電極2の低電圧駆動を妨げることになる。一方、第2誘電体層9Aの厚さが5μm未満であると、十分な耐絶縁性能を得られないおそれがある。
【0021】
上記したように、放電に晒される誘電体4の第1表面4aを無機誘電体材料を含む第1誘電体層8で構成し、放電に晒されない部分を耐絶縁性能に優れる有機誘電体材料を含む第2誘電体層9Aで構成することによって、放電による誘電体4の表面の掘れやそれによる減肉化、さらには誘電体4自体の耐絶縁性能の低下や耐久性の低下を抑制した上で、誘電体4の薄膜化構造を実現し、DBD電極2の低電圧での駆動を実現することができる。DBD電極2の駆動電圧は、例えば1kV以下とすることが好ましい。従って、耐久性や信頼性に優れると共に、例えば1kV以下というような低電圧での駆動を実現したDBD電極2及びDBD装置1を提供することが可能になる。
【0022】
図1に示すDBD電極2においては、放電に晒される誘電体4の第1表面4a全体に第1誘電体層8を配置した構成を示したが、第1誘電体層8の配置はこれに限られるものではない。例えば、図4に示すように、第1誘電体層8は誘電体4の第1電極5側の第1層のうち、誘電体4の第1表面4a上における放電の形成領域(プラズマの形成領域P)のみに配置してもよい。言い換えると、第1誘電体層8は放電に晒されるような領域のみに配置してもよい。このように、第1誘電体層8は誘電体4の第1表面4aの少なくとも一部を構成するように配置することができる。
【0023】
誘電体4の第1層(図1における第1誘電体層8が全体的に配置される領域)のうち、第1誘電体層8を除く領域には第3誘電体層10を配置することができる。すなわち、誘電体4の第1層は第1誘電体層8と第3誘電体層10との複合材料により構成することができる。この際、第3誘電体層10の構成材料は無機誘電体材料に限られるものでなく、各種の誘電体材料を適用することができ、その材料は特に限定されるものではない。第3誘電体層10は無機誘電体材料及び有機誘電体材料のいずれであってもよく、誘電体として機能すればその具体的な材料も特に限定されるものではない。
【0024】
(第2の実施形態)
図5は第2の実施形態の誘電体バリア放電電極(DBD電極)及びそれを用いた誘電体バリア放電装置(DBD装置)を示す断面図である。図5に示すDBD装置1は、図1に示すDBD装置1と同様に、DBD電極2とそれに電圧を印加する電源3とを具備している。DBD電極2は、誘電体4と第1電極5と第2電極6とを備えており、図1に示すDBD電極2と同様に、誘電体4の第1表面4aに第1電極5が配置され、誘電体4を介して第1電極5と対向するように第2電極6が配置されている。図5に示す第2の実施形態のDBD装置1は、誘電体4の構成が第1の実施形態のDBD装置1と相違している。第2の実施形態のDBD装置1の第1の実施形態との相違点について、以下に詳述する。
【0025】
図5に示すDBD電極2における誘電体4は、その第1表面4aを構成するように配置された第1誘電体層8と、第1誘電体層8の第1表面4aを構成する面とは反対側の面に積層された第2誘電体層9(9B)とを少なくとも備える積層体を備えている。バリア放電及びプラズマPに晒される第1誘電体層8には、第1の実施形態と同様に、耐放電性に優れる無機誘電体材料が用いられる。第1誘電体層8を構成する無機誘電体材料としては、例えば、熱膨張率が低く、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れる、無アルカリガラスやホウケイ酸ガラス等のガラス材料、アルミナセラミックス、窒化アルミニウムセラミックス、窒化ケイ素セラミックス等のセラミックス材料が好ましい。
【0026】
第2の実施形態のDBD電極2において、放電に晒されない第2誘電体層9Bに関しては、放電暴露による誘電体自体の損傷が発生しないため、耐放電性等は求められない。このため、第2誘電体層9Bは第1誘電体層8に用いる誘電体材料とは異なる材料であって、高い比誘電率を有する誘電体材料により構成される。これによって、比誘電率が高い第2誘電体層9Bを適用することによって、DBD電極2の低電圧駆動が可能になる。第2誘電体層9Bに用いる誘電体材料は、少なくとも比誘電率が第1誘電体層8に用いる誘電体材料のそれより大きければよく、さらに3以上の比誘電率を有することが好ましい。
【0027】
第2誘電体層9Bに用いる誘電体材料には、例えば比誘電率が2.8~8.1のポリエステル樹脂、比誘電率が3~4のポリイミド樹脂等の有機誘電体材料、比誘電率が6~8のソーダ石灰ガラス、比誘電率が1200のチタン酸バリウム等の無機誘電体材料を用いることが好ましい。第2誘電体層9Bの厚さは、誘電体4の厚さが1mm以下の範囲となる厚さであればよく、例えば5μm以上500μm以下であることが好ましい。第2誘電体層9Bの厚さが500μmを超えると、誘電体4の全体厚が厚くなりすぎて、DBD電極2の低電圧駆動を妨げることになる。第2誘電体層9Bの厚さが5μm未満であると、十分な誘電特性が得られず、DBD電極2の低電圧駆動が妨げられるおそれがある。
【0028】
上記したように、放電に晒される誘電体4の第1表面4aを無機誘電体材料を含む第1誘電体層8で構成し、放電に晒されない部分を比誘電率に優れる有機又は無機誘電体材料を含む第2誘電体層9Bで構成することによって、放電による誘電体4の表面の掘れやそれによる減肉化、さらには誘電体4自体の耐絶縁性能の低下や耐久性の低下を抑制した上で、DBD電極2の低電圧での駆動を実現することができる。DBD電極2の駆動電圧は、例えば1kV以下とすることが好ましい。従って、耐久性や信頼性に優れると共に、例えば1kV以下というような低電圧での駆動を実現したDBD電極2及びDBD装置1を提供することが可能になる。
【0029】
図5に示すDBD電極2においては、放電に晒される誘電体4の第1表面4a全体に第1誘電体層8を配置した構成を示したが、第1誘電体層8の配置はこれに限られるものではない。第1の実施形態と同様に、第1誘電体層8は図6に示すように、誘電体4の第1表面4a上における放電の形成領域(プラズマの形成領域P)のみに配置してもよい。言い換えると、第1誘電体層8は放電に晒されるような領域のみに配置してもよい。第1誘電体層8を除く領域には、第1の実施形態と同様に、第3誘電体層10を配置することができる。誘電体4は、耐放電性能に優れる第1誘電体層8と第3誘電体層10との複合材料からなる第1層と、比誘電率に優れる有機又は無機誘電体材料を備える第2誘電体層9Bからなる第2層の積層体で形成してもよい。
【0030】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1…誘電体バリア放電装置、2…誘電体バリア放電電極、3…電源、4…誘電体、5…第1電極、6…第2電極、8…第1誘電体層、9(9A,9B)…第2誘電体層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6